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中部電力株式会社浜岡原子力発電所の原子炉の設置変更(1号及び2号原子炉施設の変更)について(答申)



51原委第110号
昭和51年2月3日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和50年3月18日付け50原第2051号(昭和51年1月22日付け51安第7号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。


① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号及び第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。


(別添)

昭和51年1月23日
原子力委員会
   委員長 佐々木義武 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

中部電力株式会社浜岡原子力発電所の原子炉の設置変更(1号及び2号原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和50年3月18日付け50原委第113号(昭和51年1月22日付け51原委第105号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。

Ⅰ 審査結果

 中部電力株式会社浜岡原子力発電所の原子炉の設置変更(1号及び2号原子炉施設の変更)の関し、同社が提出した「浜岡原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和50年3月11日付け申請及び昭和51年1月16日付け一部補正)」に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係わる安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更内容

1. 1号原子炉施設

(1) 取替燃料集合体

 従来、本原子炉において初装荷燃料及び取替燃料として、7×7型燃料集合体を用いたが、今後取替燃料については、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。

(2) 熱的制限値等

 8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料の健全性を確保するための燃的制限値等のうち、最小限界熱流束比(以下MCHFRという)には変更ないが、燃料最高線出力密度、燃料集合体の平均濃縮度に関して、8×8型燃料集合体の値を次のように追加する。

燃料最高線出密度
約0.61kW/㎝(7×7)
約0.44kW/㎝(8×8)
平均濃縮度
 初装荷燃料集合体
タイプⅠ 約1.1wt%(7×7)
タイプⅡ 約2.5wt%(7×7)
 取替燃料集合体約2.5wt%(7×7)
約2.8wt%(8×8)

 また、主要な核的制限値のひとつである最大過剰増倍率を第1回燃料取替以降の炉心について約0.13Δk(変更前約0.15Δk以下)に変更する。

(3) 制御棒の自由落下速度等

 制御棒の自由落下速度を0.95m/s(変更前約1.5m/s)以下に変更する。また、スクラム時の制御棒の90%挿入までに必要な平均時間を3.5秒以下(変更前約5.0秒)に変更する。

(4) 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒最大価値を0.013Δk(変更前0.025Δk)以下に変更する。

(5) 気体廃棄物の廃棄施設
 低圧タービン衛帯蒸気として復水タンク水を加熱して得られる蒸気を使用することに変更する。(変更前、低圧タービンの衛帯蒸気として第3抽気を使用)

(6) 冷却材再循環系及び主蒸気係

 逃がし安全弁にさらに即応逃がし機能をもたせる。

2. 2号原子炉施設

(1) 燃料集合体

 従来、本原子炉において初装荷燃料及び取替燃料として、7×7型燃料集合体を用いるとしていたが、初装荷燃料及び取替燃料について、8×8型燃料集合体を使用することに変更する。

(2) 熱的制限値等

 8×8型燃料集合体の導入に伴い、燃料の健全性を確保するための熱的制限値等のうち、最小限界熱流束比(以下MCHFRという)には変更ないが、燃料最高線出力密度、燃料集合体の平均濃縮度に関して、次のように変更する。

燃料最高線出力密度
約0.44kW/㎝
(変更前約0.61kW/㎝)
平均濃縮度
 初装荷燃料集合体
約2.3wt%
(変更前約2.2wt%)
 取替燃料集合体
約2.7wt%

 また主要な核的制限値のひとつである最大過剰増倍率を第1炉心及び第1回燃料取替以降の炉心について約0.13Δk(変更前約0.12Δk)に変更する。

(3) 制御棒の自由落下速度等

 制御棒の自由落下速度を0.95m/s(変更前約1.5m/s)以下に変更する。また、スクラム時の制御棒の90%挿入までに必要な平均時間を3.5秒以下(変更前約5.0秒)に変更する。

(4) 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値

 制御棒価値ミニマイザによって抑制される制御棒最大価値を0.015Δk(変更前0.025Δk)以下に変更する。

(5) 可燃性ガス濃度制御系

 格納容器内ガス濃度制御系の一部として、従来から設けることになっている不活性ガス系に加えて、可能性ガス濃度制御系を新設する。

 可燃性ガス濃度制御系は、ブロア、熱反応式水素・酸素再結合器、冷却器等から構成され、格納容器内雰囲気を約170Nm3/h処理できる容量を有している。

 本系統は動的機器に関して独立した100%容量のもの2系統から構成され、常用電源のほか非常用電源にも接続される。

(6) 非常用ガス処理系

 非常用ガス処理系のチャコールフィルタ厚さを20㎝の深層チャコールベッドにし、設計よう素除去効率を相対湿度70%以下において99%以上に変更する(変更前設計よう素除去効率、湿度80%以下において約97%以上)。

(7) 冷却材再循環系及び主蒸気系

 イ 逃がし安全弁

 逃がし安全弁は13個からなり、そのうち逃がし弁(アクチュエータ付、以下同じ)としての機能を兼ねるものを従来は9個としていたが、今回13個全数に逃がし弁としての機能を兼ねさせる。さらに逃がし安全弁の機能として従来のREVAB機能等に加えて即応逃がし機能を持たせる。

 また、安全弁及び逃がし弁としての設定圧力をそれぞれ下げる。

 ロ 主蒸気隔離弁漏えい抑制系

 主蒸気隔離弁漏えい抑制系(以下MSIV-LCSという)は、主蒸気系の一部として新設する。

 この系は格納容器外側の主蒸気隔離弁(以下MSIVという)の下流側に設置される主蒸気隔離弁漏えい抑制系止め弁(以下LCS止め弁という)と各MSIV間及びMSIVとLCS止め弁間からサプレッション・プールへ導く配管系並びに非常用ガス処理系へ導く配管系とから構成される。なお、本系統は、所要の能力を備えたもの2系統からなると共にそれぞれが常用電源のほか非常用電源にも接続される。

(8) 中央制御室外原子炉停止装置

 中央制御室外原子炉停装置を新設する。

 本装置は、中央制御室が使用不能となる事態が発生した場合、スクラム後の原子炉を高温・高圧状態から冷温状態に安全かつ容易に導くために設置するものである。


Ⅲ 審査内容

1. 1号原子炉施設

(1) 8×8型燃料集合体の構造

 本燃料集合体は、従来から用いられている7×7型燃料集合体と混用できるように構造設計がなされているものである。その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」(以下8×8型燃料検討報告書という)に記載のものとほぼ同様である。

 本原子炉に用いる8×8型燃料集合体の構造設計については、すでに8×8型燃料検討報告書において評価が行われているとおりであり、新たに問題はない。

(2) 核特性

 7×7型燃料集合体で構成される炉心に通常の装荷方式に従って8×8型燃料集合体を装荷して行く過程で生ずる混在炉心及び8×8型燃料集合体のみから構成される平衡炉心において、局所ピーキング系数等に相違はあるが燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体の場合の特性と有意な差が生じないことを確認した。

 また、最大過剰増倍率の変更は、十分な反応度制御能力があることを確認しており、妥当なものと判断する。

(3) 熱水力特性

 核特性の場合と同様に混在炉心及び平衡炉心の熱水力特性について検討を行った。

 熱水力特性上の重要な特性値であるMCHFRは、通常運転時に1.9以上が確保されることを確認した。また、当該炉心の圧力損失は若干増大するが炉心定格流量は十分確保でき、特に問題はないものと判断する。

(4) 制御棒の自由落下速度等

 本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来から用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型炉の制御棒装置を模擬した実験装置による結果に基づくもので、より実際に即し、かつ安全余裕をもった値であるので妥当である。

 スクラム時の90%挿入に必要な平均時間3.5秒以下は、従来より詳細な評価にもとづいたものである。

 したがって、これらの値を採用することは妥当である。

(5) 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値

 本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に炉心に与える影響を低減させるため、落下制御棒反応度価値の制限値を0.013Δk以下にしようとするものである。本原子炉の制御棒価値ミニマイザに内蔵される引抜手順に基づき、実際に想定される炉心状態において、最大制御棒価値は、0.010Δkを下まわることを確認した。

 また、制御棒価値ミニマイザで抑制する制御棒の最大反応度価値0.013Δkは、後述の過度現象及び事故解析の制御棒落下事故で述べるように妥当である。

(6) 安定性

 炉心の安定性に影響を及ぼす因子としての核特性及び熱水力特性は、7×7型及び8×8型いずれの燃料集合体を使用した場合でも大差がなく、熱水力特性のうち炉心圧力損失及び燃料伝熱時定数は多少異なるが、8×8型燃料集合体の諸特性値は、燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動幅のなかに入っているか、あるいは有意な差がない。また混在炉心及び平衡炉心について、チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性の解析を行った結果、いずれの場合においても特に問題となることはなく、さらにプラント安定性についても外乱を与えて解析した結果は、十分な安定性を有している。したがって、これらの安定性は、混在炉心、平衡炉心のいずれにおいても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉が有する出力係数は、十分負の値であり、空間振動を抑制することが可能であるものと判断する。

 なお、混在炉心については、前述の検討結果から安定性が損なわれる恐れはないと判断されるが、念のため最初に8×8型燃料集合体を装荷した炉心において、安定性と密接な関係がある炉心動特性試験を実施し、7×7型燃料集合体炉心で得られる測定結果との比較において、炉心の安定性に影響を与えるような顕著な変化が生じないことを確認することになっている。

(7) 気体廃棄物の廃棄施設

 本変更は、原子炉の通常運転時において、タービン衛帯蒸気排ガス中の放射性物質を低減させることを目的として、衛帯蒸気発生器を設けこの一次側熱源は第3抽気(原子炉蒸気)の蒸気を使用し、二次側水源は、復水タンク水を使用する。

 二次側で発生した蒸気は、タービン衛帯部を経て、衛帯蒸気復水器により熱交換された後、タービン復水器へ導かれる。

 タービン衛帯蒸気発生器の作動状態の確認は、衛帯蒸気圧力及び衛帯蒸気復水器出口モニタ等で行われるが、万一衛帯蒸気発生器が故障した場合には、所内ボイラからの清浄蒸気に切替えて、タービンを継続して運転できるようになっている。また、放射性物質濃度の低い水源を使用することによる大気中への放射性物質の放出寄与分は、従来に比較して大きく低減することができることを確認した。

(8) 冷却材再循環系及び主蒸気系

 逃がし安全弁は、格納容器内の主蒸気管に取付けられ、原子炉圧力が異常に上昇した場合にサプレッションプールに蒸気を吹出すようになっている。今回の逃がし安全弁に対する機能の変更は、①スクラム反応度曲線の変更及び②8×8型燃料導入による定数変更などに伴ってなされたものであり、従来の逃がし安全弁を原子炉運転中にタービントリップまたは発電機全負荷しゃ断が発生した場合に、これらのトリップ信号を検出して逃がし安全弁を一定時間または変動圧力範囲内に開かせ、蒸気をサプレッションプールへ放出して、原子炉内の過度の圧力上昇とそれに伴う熱出力上昇を抑制させるためのものである。

 本変更に伴った運転時における異常な過渡変化の解析結果は、いずれも原子炉の安全性に影響を及ぼすことはないものと判断する。

(9) 平常運転時の被ばく線量評価

 平常運転時のタービン衛帯蒸気排気中の放射性物質を低減させる目的で、低圧タービン衛帯蒸気に復水タンク水から発生した蒸気を使用することに伴い、平常運転時に放出される放射性気体廃棄物及び液体廃棄物に起因する被ばく評価を行った。

 本変更によりタービン衛帯蒸気復水器排気中の放射性希ガス及びよう素は、高圧タービン衛帯蒸気に含まれるものだけが対象となるので、この系からの希ガス及びよう素の放出率は、前記衛帯蒸気使用前の約4分の1に低減される。

 この低減効果を考慮し、かつ最近の評価方法をもとに敷地境界外の全身被ばく線量及び甲状腺被ばく線量の評価を行った。

 この結果、敷地境界外で放射性希ガスによる全身被ばく線量が最大となるのは、排気筒から東方約850mの地点である。放射性希ガス及び液体廃棄物に起因する年間の全身被ばく線量は約13m remとなる。

 また、敷地境界外での放射性よう素による甲状腺被ばく線量は、呼吸摂取、葉菜摂取および牛乳摂取による被ばく経路を考慮して評価すると、最大となるのは幼児の場合であって、その年間被ばく線量は約0.9m remとなる。

 さらに2号炉の寄与を含めた場合においても、これらの地点における年間被ばく線量は、全身に対し約1.8m rem、甲状腺(幼児)に対し約1.6m remとなる。

 これらの評価結果は、原子力委員会の定める「発電用軽水型原子炉施設の線量目標値に関する指針」に示される線量目標値を十分達成しているものと判断する。

(10) 過渡現象及び事故解析

 イ 過渡現象解析

 本解析では、種々の異常な過度状態を想定して、燃料被覆管の損傷限界(MCHFR=1.0及び円周方向平均1%塑性歪み)に至らないこと及び原子炉冷却材圧力バウンダリの圧力が設計圧力の1.1倍(96.7㎏/cm2g)を超えないことを確認した。

 8×8型燃料集合体の導入による定数変更は、7×7型燃料集合体の場合と比較してピーキング係数を除き核・熱・水力特性に大きな相違を与えない。

 また、解析方法、前提条件は現時点における適切な知見に基づき、従来にくらべて若干変更しているが、いかなる場合でも前述の2つの条件を十分満足している。すなわち、燃料被覆管の損傷限界に対して最も厳しくなる過渡変化は、再循環ポンプ1台の軸固着であり、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心の場合について解析した結果、MCHFRはそれぞれ約1.05及び約1.08以上を維持し、燃料被覆管の損傷は生じない。

 また、原子炉圧力に対して最も厳しくなる過渡変化は主蒸気隔離弁の閉鎖であり、7×7型と8×8型燃料集合体炉心の場合、原子炉圧力の最高値はいずれも約80.2㎏/cm2gである。

 なお、混在炉心の場合も核・熱・水力特性の差が小さいことから問題はないものと判断する。

 ロ 事故解析

 今回、取替燃料の変更と共に解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合について、原子炉施設の安全性を確認するために再解析を行った。

  (イ) 制御棒落下事故

 本析解を行うに際しての主要な入力値は、制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。本解析では、従来と相違した次の値を採用している。

 制御棒落下速度は前述した制御棒の自由落下速度0.95m/sである。落下制御棒の印加反応度については、実際に予想されるよりも保守的な落下制御棒価値曲線と制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.013Δkに反応度価値を用いる。その他にもスクラム制御棒の全反応度価値及び炉心挿入速度、局所ピーキング係数等に変更はあるが、これらは、いずれも従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたものであり妥当である。

 これらの条件に基づき、最大反応度価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は十分維持されることを確認した。

  (ロ) 燃料取扱い事故

 ここでは、燃料集合体が炉心上で最も高い位置から落下し、炉心内燃料集合体と非弾性衝突をすると想定した場合について解析している。この場合、水の抵抗によるエネルギ吸収を無視して、落下エネルギ全量が衝突体及び被衝突体に吸収されるという苛酷な条件を仮定しても環境に放出される放射能は少なく問題とならない。

  (ハ) 冷却材喪失事故

 冷却材喪失事故時の炉心冷却については、昭和50年5月13日に原子力委員会が決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて評価を行った。前述した通り、8×8型燃料集合体における燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体の場合より大巾に低下していることから、8×8型燃料集合体は、7×7型燃料集合体と比較して熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する安全余裕は7×7型燃料集合体の場合よりも大きいことを確認した。

 すなわち、燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合について解析した結果によれば、燃料破覆管最高温度は、7×7型燃料集合体炉心で約1121℃及び8×8型燃料集合体炉心で約1038℃であり、また燃料被覆管の局所的に酸化される部分の最大値は、それぞれ被覆管厚さの約6%と約1%である。

 したがって、これらの解析結果は制限値である被覆管最高温度1200℃以下及び局所的酸化量15%以下を満足すると共に、燃料の大破損を防止でき、かつ長期的な炉心冷却を確保することができると判断する。

 なお、混在炉心の場合でも、核・燃・水力特性上、有意な差がないことから事故後の炉心冷却に支障をきたすような事態は起こらないと判断する。

  (ニ) 主蒸気管破断事故

 冷却材喪失事故の場合と同様、主蒸気管破断事故時にも8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体の場合と比較して、熱的余裕が増加している。

 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果によれば、7×7型燃料集合体炉心と8×8型燃料集合体炉心のいずれについても、MCHFRは事故期間を通じて1.0以下となることはなく、燃料破覆管に損傷が生じる恐れがないことを確認した。

 なお、混在炉心の場合でも、核・熱・水力特性上有意な差がないことから問題はないと判断する。


2. 2号原子炉施設

(1) 8×8型燃料集合体の構造

 本燃料集合体は、従来から用いられている7×7型燃料集合体と同様な形状の設計がなされているものである。その詳細は、原子炉安全専門審査会が昭和49年12月25日に採択した「沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について」に記載のとおりである。

 本原子炉に用いる8×8型燃料集合体の構造設計については、すでに8×8型燃料検討報告書において評価が行われており、プレナム体積比等について若干の相違点があるが、その結果がそのまま適用できるものであり、新たに問題はない。

(2) 核特性

 8×8型燃料集合体のみで構成される第1炉心から平衡炉心までにおいて、局所ピーキング係数等に相違はあるが燃料集合体の無限増倍率、反応度係数等は従来の7×7型燃料集合体炉心の場合と有意な差は生じないことを確認した。

 また、最大過剰増倍率の変更は、十分な反応度制御能力があることを確認しており、妥当なものと判断する。

(3) 熱水力特性

 核特性の場合と同様に第1炉心から平衡炉心までについて熱水力特性について検討を行った。

 熱水力特性上の重要な特性値であるMCHFRは、通常運転時に1.9以上が確保されることを確認した。また、水力特性については当核炉心では圧力損失が若干増大するが、炉心定格流量は十分確保でき、特に問題はないものと判断する。

(4) 制御棒の自由落下速度等

 本変更は、制御棒の自由落下速度として、従来から用いられていた値1.5m/s以下を0.95m/s以下に変更しようとするものである。この値は、沸騰水型炉の制御棒装置を模擬した実験装置による結果に基づくもので、より実際に即し、かつ安全余裕をもった値であるので妥当である。

 スクラム時の90%挿入に必要な平均時間3.5秒以下は従来より詳細な評価に基づいたものである。

 したがってこれらの値を採用することは妥当である。

(5) 制御棒価値ミニマイザによる制御棒価値制限値

 本変更は、制御棒落下事故を想定した場合に炉心に与える影響を低減させるため、落下制御棒反応度価値の制限値を0.015Δk以下にしようとするものである。本原子炉の制御棒価値ミニマイザに内蔵される引抜手順に基づき、実際に想定される炉心状態において、最大制御棒価値は、0.011Δkを下まわることを確認した。

 また、制御棒価値ミニマイザで抑制する制御棒の最大反応度価値0.015Δkは、後述の過渡現象及び事故解析の制御棒落下事故で述べるように妥当である。

(6) 安定性

 炉心の安定性に影響を及ぼす因子としての核特性及び熱水力特性は、8×8型燃料集合体を使用した場合でも大差がなく、燃水力特性のうち炉心圧力損失及び燃料伝熱時定数は多少異なるが、8×8型燃料集合体の諸特性値は、燃焼等に基づく7×7型燃料集合体の諸特性値の変動巾のなかに入っているか、あるいは有意な差がない。また第1炉心から平衡炉心までについて、チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性の解析を行った結果、いかなる炉心においても特に問題となることはなく、さらにプラント安定性についても外乱を与えて解析した結果は十分な安定性を有している。したがって、これらの安定性は第1炉心から平衡炉心までのいかなる炉心においても問題となることはなく、かつ、キセノン空間振動についても本原子炉が有する出力係数は十分負の値であり、空間振動を抑制することが可能であるものと判断する。

(7) 可燃性ガス濃度制御系

 本変更は、可燃性ガスの発生源として冷却材喪失事故後非常用冷却水の放射線分解をも考慮し、これらの可燃性ガスの格納容器内における濃度を、余裕をもって制御するために可燃性ガス濃度制御系を設けるものである。

 本系統は、想定した冷却材喪失事故が発生したのちも、格納容器内雰囲気中の水素濃度を4vol%以下に維持するか、又は酸素濃度を5vol%以下に維持するように設計される。水素と酸素の燃焼限界に関する各種の実験結果によれば、水素又は酸素ガス濃度のいずれか一方が前述の制限値以下に維持されるなら、燃焼反応は生じない。

 本系統の可燃性ガス制御容量を定めるにあたっては、十分な安全余裕をもった前提条件が用いられている。水の放射線吸収量に対する水素ガス及び酸素ガスの発生割合としてはG(H2)=0.5(分子/100eV)及びG(O2)=0.25(分子/100eV)が用いられているが、この値は水の放射線分解に関する各種の実験結果からみて十分な安全余裕をもったものである。

 これらの条件をもとに、冷却材喪失事故後における格納容器内可燃性ガス濃度の時間変化を解析した結果によれば、本系統は、既設の不活性ガス系と相まって格納容器内の可燃性ガス濃度を制限値以下に抑制できる。

 なお、本系統は工学的安全施設と同等の設計条件を満たしており、また、機器構成および再結合器の耐熱性について検討した結果、特に支障をきたすおそれはないものと判断する。

 したがって、本系統の設計は、妥当なものと判断する。

(8) 非常用ガス処理系

 非常用ガス処理系の設計よう素除去効率を99%以上に変更することは、冷却材喪失事故のように原子炉建家内の放射性物質濃度が高くなる事故時に原子炉建家から放射性よう素の外部に放出される量を低減することを目的としてなされるものである。

 上記よう素除去効率の変更は、湿分除去装置、電気加熱器、粒子用高効率フィルタ、よう素用チャコールフィルタ及び排風機等より構成される従来の非常用ガス処理系のよう素用チャコールフィルタを溶接シール式の厚さ約20㎝(変更前約5㎝)の深層チャコールベッドにすること、及びチャコールフィルタ入口において流入空気の相対湿度を70%以下(変更前80%以下)に低下させることによって行われる。

 チャコールフィルタのよう素除去効率がベッド厚さを増加させることにより向上することは、無機よう素及び有機よう素を用いて行われた種々の実験結果より証明されている。また、温度及び湿度を種々に変化させた実験結果等からみて、チャコールフィルタのベッド厚さを20㎝とした場合、設計条件においてよう素除去効率99%を採用することは妥当である。

 また、厚さが5㎝以上の場合、連続使用によるよう素除去効率の低下は極く僅かであり、本装置の使用条件からよう素除去効率の経年変化は無視できる。

 次に、湿分除去装置及び電気加熱器によってチャコールフィルタへの流入空気の相対湿度を70%以下にすることは、非常用ガス処理系に流入する空気条件と電気加熱器設計温度との熱的関係から、十分可能であると判断する。電気加熱器入口温度、チャコールフィルタ出口温度及びチャコールフィルタ入口湿度を測定して、この系の作動状況を確認することになっている。さらに、よう素用チャコールフィルタを溶接シール式とすることによって流入空気がチャコールベッドをバイパスせず、漏洩することを確実に防止することができる。

 したがって、非常用ガス処理系のこのような変更によって前述した目的を確実に達成できるものと判断する。

 また、災害評価で使用する非常用ガス処理系のよう素除去効率95%は、余裕があるものと判断する。

(9) 冷却材再循環系及び主蒸気系

 イ 逃がし安全弁

 逃がし安全弁は、格納容器内の主蒸気管に取付けられ、原子炉圧力が異常に上昇した場合にサプレッション・プールに蒸気を吹き出すようになっている。

 今回の逃がし安全弁に対する機能及び設定圧力の変更は、①スクラム反応度曲線の変更及び②8×8型燃料導入による定数変更に伴ってなされたものである。逃がし安全弁に対する機能の変更は、従来の逃がし安全弁を原子炉運転中にタービントリップまたは、発電機全負荷しゃ断が発生した場合にこれらのトリップ信号を検出して逃がし安全弁を一定時間または変動圧力範囲に開かせ蒸気をサプレッション・プールに放出して、原子炉内の過度の圧力上昇とそれに伴う熱出力上昇を抑制させるためのものである。

 本変更に伴った運転時における異常な過渡変化の解析結果は、いずれも原子炉系の安全性に影響を及ぼすことはないものと判断する。

 ロ 主蒸気隔離弁漏えい抑制系

 本系統設置の目的は、主蒸気管破断事故があった場合に、破断口から周辺環境に放散される放射性物質の量をできるだけ低く抑えようとするものである。

 事故時においては、サプレッション・プールへの配管系を手動で作動させ、MSIVからの漏えい蒸気をサプレッション・プール水中へ導き、プール水中で凝縮させることによって、破断口から漏れ出る蒸気量を低減することができる。また、非常用ガス処理系への配管系は、原子炉圧力が低い場合で、漏えい蒸気をサプレッション・プールへ十分に導けないような場合の後備設備として設置され、漏えい蒸気を非常用ガス処理系に導くことによって周辺環境に放出される放射性物質の量を低減することができる。

 本系統の設計目標は、LCS止め弁の下流において、主蒸気管1本の破断を想定した場合において、MSIV又はMSIV-LCSに対して動的機器の単一故障を仮定し、かつ各弁の個々の漏えい率を原子炉圧力容器蒸気相の体積に対して約40%/d(逃がし安全弁最低設定圧力において)とした場合でも全LCS止め弁からの漏えい率を合計で10%/d以下にすることである。計算結果によると、主蒸気系からの漏えい率は8.4%/dを超えることはなく、設計目標を満たしている。

 なお、非常用ガス処理系に漏えい蒸気を導いた場合でも、非常用ガス処理系の性能は阻害されない。

 本系統は、工学的安全施設として設計される。格納容器外側のMSIVからLCS止め弁を含むところまで(但し、分岐配管については第1弁までを含む)の設備は、耐震設計上基盤における最大加速度450galの地震動に対してもその機能を保持するよう設計される。

 以上によって、MSIV-LCSの性能は、確保されるものと判断する。

(10)中央制御室外原子炉停止装置

 本装置は、中央制御室の火災等の緊急時にあたって原子炉冷却操作の容易さを増すものであり、本装置盤上に設けられた切換スイッチを切換えることにより、中央制御室内での制御回路の短絡、断線あるいは地絡等とは無関係に、①一部の逃がし安全弁の制御、②原子炉隔離時冷却系の制御並びに③余熱除去系の1系統の制御が可能である。

 なお、本装置は誤操作防止等のため常時は施錠等の防護策を講ずることとしている。

 本装置を設置することは安全上妥当なものと判断する。

(11) 過渡現象及び事故解析

 イ 過渡現象解析

 本解析では、種々の異常な過渡状態を想定して、燃料被覆管の損傷限界(MCHFR=1.0及び円周方向平均1%塑性歪み)に至らないこと及び原子炉冷却材圧力バウンダリの圧力が設計圧力の1.1倍(96.7㎏/㎝2g)を超えないことを確認した。

 8×8型燃料集合体の導入による定数変更は、7×7型燃料集合体の場合と比較してピーキング係数を除き核・熱・水力特性に大きな相違を与えない。また、解析方法、前提条件は現時点における適切な知見に基づき、従来にくらべて若干変更しているが、いかなる場合でも前述した2つの条件を十分満足している。すなわち、燃料被覆管の損傷限界に対して最も厳しくなる過渡変化は再循環ポンプ1台の軸固着であって、MCHFRは約1.13であり、燃料被覆管の損傷は生じない。また、原子炉圧力に対して最も 厳しくなる過渡変化は主蒸気隔離弁の閉鎖であり、原子炉圧力の最高値は79.2㎏/㎝2gである。

ロ 事故解析

 今回、燃料の変更と共に解析方法及び前提条件にも各種の変更があったので、これらも含めて万一の事故を想定した場合について、原子炉施設の安全性を確認するために再解析を行った。

  (イ) 制御棒落下事故

 本解析を行うに際しての主要な入力値は、制御棒の落下速度及び落下制御棒の印加反応度である。本解析においては、従来と異った次の値を採用している。

 制御棒落下速度は、前述した制御棒の自由落下速度0.95m/sである。落下制御棒の印加反応度については、厳しい結果を与える条件として、炉心の寿命初期冷温状態及び寿命末期高温待機状態について解析した反応度曲線、並びに制御棒価値ミニマイザによる制限値である0.015Δkの反応度価値を用いる。反応度曲線については、特に余裕を持たせていないが、落下制御棒の反応度価値は、かなり保守的なものであるので、印加反応度として、上述の反応度曲線及び落下制御棒の反応度価値を用いることは妥当である。

 その他にも、スクラム制御棒の全反応度価値及び炉心挿入速度、局所ピーキング係数等に変更があるが、これらは、いずれも従来より詳細な解析及び評価の結果に基づいて変更されたもので、妥当である。

 これらの条件を基に、最大反応度価値を有する制御棒1本が炉心から落下する事故を想定して解析した結果、一次冷却材圧力バウンダリの健全性は、十分維持されることを確認した。

  (ロ) 燃料取扱い事故

 ここでは、燃料集合体が炉心上で最も高い位置から落下し、炉心内燃料集合体と非弾性衝突をすると想定した場合について解析している。この場合、水の抵抗によるエネルギ吸収は無視して落下エネルギ全量が衝突体及び被衝突体に吸収されるという苛酷な条件を仮定しても環境に放出される放射能は少なく問題とならない。

  (ハ) 冷却材喪失事故

 冷却材喪失事故時の炉心冷却については、昭和50年5月13日に原子力委員会が決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針」に基づいて評価を行った。前述した通り、8×8型燃料集合体における燃料棒の最高線出力密度が7×7型燃料集合体の場合より大幅に低下していることから、8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体と比較して熱的余裕が大きく、冷却材喪失事故時の炉心冷却に関する安全余裕は7×7型燃料集合体の場合よりも大きいことを確認した。

 すなわち、燃料に対して最も厳しい結果を与える再循環系の最大口径配管1本の完全両端破断を想定した場合について解析した結果によれば、燃料破覆管最高温度は約1082℃であり、また燃料被覆管の局所的に酸化される部分の最大値は被覆管厚さの約2%である。

 したがって、これらの解析結果は制限値である被覆管最高温度1200℃以下及び局所的酸化量15%以下を満足すると共に、燃料の大破損を防止でき、かつ長期的な炉心冷却を確保することができるものと判断する。

 なお、大破断を想定した場合の非常用冷却水の放射線分解等に伴う格納容器内の可燃性ガス濃度の変化について解析している。この結果によれば、放射線分解等による水素、酸素ガスの発生量を十分大きく見積って評価しても、可燃性ガス濃度制御系等により、格納容器内の水素、酸素ガス濃度は、制限値に達しない。

  (ニ) 主蒸気管破断事故

 冷却材喪失事故の場合と同様、主蒸気管破断事故時にも8×8型燃料集合体は7×7型燃料集合体の場合と比較して、熱的余裕が増加している。

 主蒸気管1本の瞬時完全破断を想定して解析を行った結果によれば、MCHFRは事故期間を通じて1.0以下となることはなく、燃料被覆管に損傷が生じる恐れはないことを確認した。

(12) 災害評価

 非常用ガス処理系の変更に伴い、各種安全防護施設との関連において立地条件の適否を判断するために、「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故及び仮想事故を想定し、これらの場合の冷却材喪失事故について災害評価を行った。

 解析条件として非常用ガス処理系のよう素除去効率を余裕をとって95%とし、それ以外の解析条件は従来と同様とする。

 解析の結果、大気中に放出される核分裂生成物の量は、重大事故においてよう素約1.8×102Ci(Ⅰ-131等価量、以下同じ)、希ガス約1.1×104Ci(γ線実効エネルギ0.5MeV換算値、以下同じ)、仮想事故においてよう素約9.0×103Ci、希ガス約5.3×105Ciとなり、敷地境界の外側において被ばく線量が最大となるのは原子炉設置位置の西北西側約450mの地点であって、その被ばく線量は、重大事故の場合、甲状腺(小児)に対し約1.6rem、全身に対しγ線約0.0078rem(β線約0.025rem)、仮想事故の場合、甲状腺(成人)に対し約20rem、全身に対しγ線約0.39rem(β線1.4rem)となる。

 これらの被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」に示される目やすとしての線量を十分下まわるものである。

 また、主蒸気管破断事故については、主蒸気隔離弁漏えい抑制系が、この事故のさいに主蒸気中の放射性物質が環境へ放出されることを低減するために新設されており、その効果も期待できるが、今回災害評価を行うに当っては、保守的にその効果を無視した。したがって、放射性物質の放出量及び被ばく線量は従来と変らない。

 さらに、本変更に伴って国民遺伝線量を評価するため、仮想事故のさいの全身被ばく線量について検討した。この結果、全身被ばく線量の積算値が最大となるのは、冷却材喪失事故の場合であって、その値は、1975年の人口に対して約14万man-remであり、将来の人口増加を見込んでも約24万man-remであって、これらの値は、「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量の見地からめやすとして示されている参考値を十分下まわるものである。


Ⅳ 審査経過

 当審査会は、昭和50年3月24日第135回審査会において、次の委員からなる第116部会を設置した。

(審査委員)
竹越尹(部会長)電力中央研究所
武谷清昭
日本原子力研究所
都甲泰正
東京大学
西脇一郎
宇都宮大学
渡辺博信
放射線医学総合研究所

(調査委員)
斯波正誼 日本原子力研究所
宮園昭八郎 日本原子力研究所
吉田芳和 日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行うこととし、昭和50年4月14日に第1回部会を開催した。

 以後、部会および審査会は審査を行ってきたが、昭和50年12月12日第143回審査会において中間報告を審議して、昭和51年1月16日の部会において、部会報告書を決定し、同年1月23日第144回審査会において本報告書を決定した。


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