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第5章 原子力利用の前提となる国民からの信頼回復

 東電福島第一原発事故の政府事故調報告書では、事故の状況や放射線の人体への影響等についての政府や東京電力から国民に対する情報提供の方法や内容に多くの課題があったことが指摘されました。また、事故が発生した際の緊急時だけでなく、平時の情報提供の在り方についても課題が指摘されています。これらの課題は、国民の原子力に対する不信・不安を招く主原因の一つとなったと考えられ、情報提供等の取組に関する政府や事業者による試行錯誤が続けられています。
 今般、原子力委員会が改定した「原子力利用に関する基本的考え方」では、基本目標として、「全ての原子力関係者は、国民からの信頼回復が原子力利用の大前提であることを肝に銘じて、具体的な取組を進めていく。その際、国民の声に謙虚に耳を傾けるとともに、原子力利用に関する透明性を確保し、国民一人一人ができる限り理解を深め、『じぶんごと』としての意見を形成していくことのできる環境を整えていくことが必要である。そのため、原子力関連機関は、科学の不確実性やリスクにも十分留意しながら、情報を発信する側と情報を受け取る側の双方向の対話等をより一層進めるとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報を提供する取組を推進する。」としています。
 このような目標の下で、国や事業者を始めとする原子力関係機関は、情報提供やコミュニケーション活動等の取組を進めています。


5-1 理解の深化に向けた方向性と信頼回復

 東電福島第一原発事故は、福島県民を始め多くの国民に多大な被害を及ぼしました。事故から既に12年が経過した現在でも、依然として国民の原子力への不信・不安が根強く残っています。さらに、事故を契機に、我が国における原子力利用は、原子力発電施設等立地地域に限らず、電力供給の恩恵を受けてきた国民全体の問題として捉えられるようになった面があるとも言われています。
 事故により失われた原子力利用に対する信頼は未だ回復するには至っていません。原子力に携わる関係者は、引き続き立地地域を始めとする国民の声に謙虚に耳を傾けるとともに、原子力利用に関する透明性を確保し、国民の不信・不安に対して真摯に向き合うことが不可欠です。そのためにまず、東電福島第一原発事故以降行われてきた取組事例の評価、検証による教訓等を活かしつつ、科学の不確実性やリスクにも十分留意しながら、双方向の対話や広聴等のコミュニケーション活動をより一層進め、国民の関心に応え、取組や活動を強化していくことが必要です。情報源、情報内容とも多様化する中、また、国民が自らの関心に応じて情報を自ら取捨選択できるよう、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報体系を整えることに努め、このような情報に基づいて国民一人一人が理解を深めた上で自らの意見を形成していけるような環境の整備を進めることが求められます。特に、国や事業者が新たな政策や取組を実施する際には、それらのメリットを紹介するだけでなく、新たに生じる可能性のある課題にも目を向けた包括的な情報発信や国民とのコミュニケーションを図っていく必要があります。
 また、IT 技術の進化に伴いコミュニケーション方法が多様化している中、インターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS1)を始めとした情報入手手段の急速な変化に柔軟に対応し、各種媒体を活用した情報整備について常に改善を図っていくことも必要です。


  1. Social Networking Service

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