第4章 国際協力の下での原子力の平和利用と核不拡散・核セキュリティの確保
4-1 平和利用の担保
1957年に、原子力の平和的利用の促進を目的に、国際連合傘下の自治機関として国際原子力機関(IAEA)が設立されました。さらに、1970年には、国際的な核軍縮・不拡散を実現する基礎となる「核兵器不拡散条約」(NPT)が発効しました。NPTは核兵器国を含む全締約国に対して誠実な核軍縮交渉の義務を課すとともに、平和的利用の権利を認め、我が国を含む非核兵器国に対しては、原子力活動をIAEAの保障措置の下に置く義務を課しています。
我が国は、原子力基本法で原子力の研究、開発及び利用を厳に平和の目的に限るとともに、原子炉等規制法に基づき、IAEA保障措置の厳格な適用等により、原子力の平和利用を担保しています。加えて、「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を堅持し、プルトニウムの管理状況の公表や利用目的の確認等を通じて、プルトニウム利用の透明性を向上し国内外の理解を得る取組を継続しています。これらの取組を通じて、国際社会における原子力の平和利用への信用の堅持に努めています。
(1)我が国における原子力の平和利用
核セキュリティ・核不拡散に向けた我が国の取組は、国際的に確立された枠組みに基づいています(図 4-1)。我が国では、1955年に原子力基本法が制定され、原子力の研究、開発及び利用を厳に平和目的に限ることが定められました。同法の下で、平和利用を担保する体制を整えています(図 4-2)。
図4-1 核セキュリティ・核不拡散の担保
(出典)IAEA「使用済核燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」第5回検討会合資料を基に内閣府作成
図4-2 原子力の平和利用を担保する体制
(出典)第27回原子力委員会資料第3-1号 原子力委員会「我が国のプルトニウム利用について」(2018年)
原子力規制委員会では、IAEA保障措置の厳格な適用、核物質防護、原子炉等施設の設置許可審査等を通じ平和利用を担保しています(「原子炉等規制法に基づく平和利用」の担保)。
また、我が国はエネルギー資源に乏しいことから、使用済燃料を再処理してプルトニウムを利用する核燃料サイクル政策を採用しています。国内外に対する透明性向上の観点から、「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を堅持し、原子力委員会において、プルトニウム管理状況の公表、プルトニウム利用計画の妥当性の確認、プルトニウム需給バランスの確保等の取組を行っています(「政策上の平和利用」の担保)。
(2)原子炉等規制法に基づく平和利用
① IAEAによる保障措置
NPT締約国である非核兵器国は、IAEAとの間で保障措置協定を締結して、国内の平和的な原子力活動に係る全ての核物質を対象とする保障措置を受諾することが義務付けられています。これを踏まえて各国がIAEAと締結した保障措置協定を「包括的保障措置協定」といいます。
IAEAは、包括的保障措置協定の締結国が申告する核物質の計量情報や原子力関連活動に関する情報について、申告された核物質の平和利用からの転用や未申告の活動がないかを査察等により確認し、その評価結果を毎年取りまとめています。IAEAは、当該国で「申告された核物質の平和的活動からの転用の兆候が認められないこと」及び「未申告の核物質及び原子力活動が存在する兆候が認められないこと」が確認された場合、全ての核物質が平和的活動にとどまっているとの「拡大結論」を下すことができます。「拡大結論」を下した場合、IAEAは当該国に対して「統合保障措置」と呼ばれる制度を適用することができます。統合保障措置の適用により、IAEAの検認能力を維持しつつ、査察回数を削減することによる効率化が期待されます。② 我が国における保障措置活動の実施
我が国では、1976年にNPTを批准し、1977年にIAEAと包括的保障措置協定を締結してIAEA保障措置を受け入れ、原子炉等規制法等に基づく国内保障措置制度を整備しています(図 4-3)。さらに、1999年には、保障措置を強化するための「追加議定書」をIAEAと締結しました。
我が国は、IAEAから2003年以降連続して「拡大結論」を得ており、2004年9月から統合保障措置が適用されています。原子力規制委員会は、この適用が今後も継続されるよう努めており、原子力施設等が保有する全ての核物質の在庫量等をIAEAに報告し、その報告内容が正確かつ完全であることをIAEAが現場で確認する査察等への対応を行っています。
図4-3 我が国における保障措置実施体制
(出典)原子力規制委員会「令和3年度年次報告」(2022年)
2022年には、原子炉等規制法に基づき、2,153事業者から4,836件の計量管理に関する報告が原子力規制委員会に提出され、IAEAに提供されました。IAEAは我が国からの報告を基に原子力規制委員会等の立会いの下に査察等を行いました。また、原子力規制委員会等は1,911人・日の保障措置検査等を実施しました。
東電福島第一原発の1~3号機については、カメラと放射線モニターによる常時監視や、同発電所のサイト内のみに適用される特別な追加的検認活動により、未申告の核物質の移動がないことが確認されました。使用済燃料共用プールから使用済燃料乾式キャスク仮保管設備への燃料集合体の移送に伴う査察が実施されました。1~3号機以外にある全ての核物質については、通常の軽水炉と同等の検認活動が行われました。
2022年中に原子力規制委員会が実施した保障措置検査等により、国際規制物資使用者等による国際規制物資の計量及び管理が適切に行われていることが確認されました。
2022年の我が国における主要な核燃料物質の移動量及び施設別在庫量は、図 4-4に示すとおりです。
なお、我が国は、IAEAネットワーク分析所として認定されている原子力機構安全研究センターの高度環境分析研究棟において、IAEAが査察等の際に採取した環境試料の分析への協力を行うなど、IAEAの保障措置活動へ貢献するとともに、我が国としての核燃料物質の分析技術の維持・高度化を図っています。また、「IAEA保障措置技術支援計画」(JASPAS1)を通じ、我が国の保障措置技術を活用して、IAEA保障措置を強化・効率化するための技術開発への支援を行うなど、保障措置に関する国際協力を実施しています。
図4-4 我が国における主要な核燃料物質の移動量及び施設別在庫量(2022年)
(出典)第13回原子力規制委員会資料4 原子力規制庁「我が国における2022年の保障措置活動の実施結果」(2023年)に基づき作成
また、利用実態がなく保管だけされている放射性物質が、全国の多くの民間又は公的な事業所に分散して存在しており、法令上の管理下にない放射性物質が発見される例も多数あります(図 4-5)。安全上及び核物質防護上のリスクを低減させるため、このような放射性物質の集約管理を実現するための具体的な方策について、関係行政機関、原子力機構等が連携・協力して必要な検討をする必要があります。
図4-5 利用実態のない放射性物質
(出典)文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会 原子力研究開発・基盤・人材作業部会(第6回)資料3 原子力規制庁「JAEA次期中長期目標の策定に当たって」(2021年2月)
③ 原子炉等施設の設置許可等の審査における利用目的の確認
原子炉等規制法に基づき、原子力規制委員会は、原子炉施設等の設置(変更)の許可の段階で原子炉施設等が平和の目的以外に利用されるおそれがないことに関し、原子力委員会の意見を聴かなければならないと定められています。2022年度には2023年3月末までに、関西電力高浜発電所1~4号機の設置変更許可、日本原燃再処理事業所における再処理の事業の変更許可等11件について、原子力規制委員会より意見を求められた原子力委員会は、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認められるとする原子力規制委員会の判断は妥当であるとの答申を行いました2。
④ 核物質防護
原子炉等規制法に基づく核物質防護の取組については、第4章4-2(2)①「核物質及び原子力施設の防護」に記載しています。
(3)政策上の平和利用
① 我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方
プルトニウム利用を進めるに当たり、国際社会と連携し、核不拡散に貢献し、平和利用に係る透明性を高めることが重要です。原子力委員会は、2018年7月に我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方の和文及び英文を公表しました(図 4-6)。
図4-6 「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」
(出典)原子力委員会「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」(2018年)に基づき作成
② プルトニウム管理状況の公表及びIAEAへのプルトニウム保有量の報告
我が国は、プルトニウム国際管理指針3に基づき、我が国のプルトニウム管理状況をIAEAに対して報告しています。2023年7月、我が国は、2022年末における我が国のプルトニウム管理状況を公表しました。また、IAEAに管理状況を報告する予定です。
2022年末時点で、国内外において管理されている我が国の分離プルトニウム総量は約45.1tで、その内訳は国内保管分が約9.3t、海外保管分が約35.9t(うち、英国保管分が約21.8t、フランス保管分が約14.1t)となっています(表 4-1)。我が国の分離プルトニウムの保管等の内訳等は資料編に示します。また、IAEAから公表されている、各国が2021年末において自国内に保有するプルトニウムの量は、表 4-2のとおりです。
表4-1 分離プルトニウムの管理状況 2022年末時点 総量(国内+海外) 約45.1t 内訳 国内 約9.3t 海外 (総量) 約35.9t 内訳 英国 約21.8t フランス 約14.1t (注)四捨五入の関係で合計が合わない場合がある。
(出典)第25回原子力委員会資料第2号 内閣府「令和4年における我が国のプルトニウム管理状況」(2023年)
表4-2 プルトニウム国際管理指針に基づきIAEA から公表されている
2021年末における各国の自国内のプルトニウム保有量を合計した値(単位:tPu)未照射プルトニウム注1 使用済燃料中のプルトニウム注2 米国 49.4 783 ロシア 63.5 192 英国 140.6 27 フランス 99.9 302 中国 未報告 未報告 日本 9.3 179 ドイツ 0.0 129.3 ベルギー (50kg未満注3) 45 スイス 2kg未満 22 (注1)100kg単位で四捨五入した値。ただし、50kg未満の報告がなされている項目は合計しない。
(注2)1,000kg単位で四捨五入した値。ただし、500kg未満の報告がなされている項目は合計しない。
(注3)燃料加工中、MOX燃料等製品及びその他の場所のプルトニウム保管量(各項目50kg未満)。
(出典) IAEA、INFCIRC/549「Communication Received from Certain Member States Concerning Their Policies Regarding the Management of Plutonium」、第25回原子力委員会資料第2号 内閣府「令和4年における我が国のプルトニウム管理状況」(2023年)に基づき作成
③ プルトニウム利用目的の確認
使用済燃料再処理工場及びMOX燃料加工工場が操業を開始すれば、プルトニウムが分離、回収され、MOX燃料へと加工されることになります。
我が国初の商業用再処理工場である日本原燃六ヶ所再処理施設4は2024年度上期のできるだけ早期に、我が国初の商業用MOX燃料加工工場である日本原燃六ヶ所MOX燃料加工施設5は2024年度上期に竣工する予定です。日本原燃は2023年2月に暫定的な操業計画を公表しました(表 4-3)。
表4-3 日本原燃による再処理施設及びMOX燃料加工施設の暫定操業計画(2023年2月) 2023年度 2024年度 2025年度 2026年度 2027年度 再処理可能量(tUPr) - 0 70 170 70 プルトニウム回収見込量(tPut) - 0 0.6 1.4 0.6 MOX燃料加工可能量(tPut) - 0 0 0.1 1.4 (出典)日本原燃「六ヶ所再処理施設およびMOX燃料加工施設 暫定操業計画」(2023年)に基づき作成
電気事業者と原子力機構は、プルトニウム利用の一層の透明性向上を図る観点から、我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方に基づき、その利用目的等を記載した利用計画を毎年策定して公表し、原子力委員会がその妥当性を確認しています。
電気事業連合会は2020年12月に新たなプルサーマル計画6を公表し、2030年度までに少なくとも12基の原子炉でプルサーマルの実施を目指すことを明らかにしました。また、2022年12月には、「プルサーマル計画の推進に係る取組の強化について」として、電力11社がこれまでの各社におけるプルサーマルの取組に加えて、新たにアクションプランを策定し、プルサーマルを着実に推進していくための取組を一層強化することを発表しました。このアクションプランに基づき、電力各社は、「プルサーマル推進連絡協議会」(電力各社の社長により構成)を毎年度開催し、プルサーマル実施に向けた進捗状況について情報共有・各社間の連携を図るとともに、再稼働加速タスクフォース(2021年2月設置)により、審査課題の情報共有と業界全体での機動的支援を実施しています。
2021年以降、電気事業連合会及び原子力機構は毎年、プルトニウム利用計画を策定し、プルトニウムの所有者、利用目的、利用場所、利用量等を明示しています。
2023年2月に電気事業連合会が公表した利用計画では、軽水炉燃料として利用するという目的の下、関西電力株式会社高浜発電所3、4号機における利用計画等が示されています(表 4-4)。
表4-4 電気事業連合会によるプルトニウム利用計画(2023年2月)
(出典)電気事業連合会「プルトニウム利用計画について」(2023年)
また、原子力機構による利用計画では、高速炉を活用した研究開発を目的とし、「常陽」における利用計画を示していますが、「常陽」の新規制基準への適合性確認の終了時期が未定のため、年度ごとの利用量は未定としています(表 4-5)。
これらの利用計画の公表を受けて、原子力委員会は2023年2月28日に見解を公表しました。同見解では、2023年度の我が国全体のプルトニウム保有量が約44.5t7となる見込みであること等を踏まえ、2023年度のプルトニウム利用計画について「現時点においては妥当である」としました。また、今後、様々な取組の進捗に応じて状況が大きく変わり得ることから、2024年度及び2025年度のプルトニウム利用計画については、見解公表時点での情報を基に暫定的なコメントを行いました。
なお、2021年12月末時点の電力各社のプルトニウム所有量は、表 4-6のとおりです。
表4-5 原子力機構による研究開発用プルトニウム利用計画(2023年2月)
(出典)原子力機構「令和4年度研究開発用プルトニウム利用計画の公表について」(2023年)
表4-6 電力各社のプルトニウム所有量(2021年12月末時点)
(出典)電気事業連合会「各社のプルトニウム所有量(2021年12月末時点)」
④ プルトニウム・バランスに関する取組
2016年5月に成立した再処理等拠出金法に対する附帯決議において、再処理機構8が策定する使用済燃料再処理等実施中期計画(以下「実施中期計画」という。)を経済産業大臣が認可する際には、原子力の平和利用やプルトニウムの需給バランス確保の観点から、原子力委員会の意見を聴取することとされています。また、我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方においても、再処理等の計画の認可に当たっては、六ヶ所再処理工場、MOX燃料加工工場及びプルサーマルの稼働状況に応じて、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行い、生産されたMOX燃料が、事業者によって時宜を失わずに確実に消費されるよう指導・確認するとしています。
2023年3月末時点における再処理機構の実施中期計画の最新版(2022年度版)は、2023年2月に公表された日本原燃による六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設の暫定操業計画、電気事業者によるプルトニウム利用計画を踏まえて策定されたものです。再処理機構は同年3月に、具体的な再処理量等を実施中期計画に記載し、経済産業大臣に対して変更の認可申請を行いました(表 4-7)。
当該申請の認可に当たり経済産業大臣から意見を求められた原子力委員会は、同年3月22日に見解を取りまとめ、同計画9について、現時点での状況を踏まえれば、理解できるものであるとした上で、2026年度以降のMOX燃料加工施設の稼働状況やプルサーマル炉での消費状況は不確定要素を含むものであり、今後の進捗状況によっては変わり得るものとの認識を示しました。そのため、原子力委員会は、国内施設で回収するプルトニウムの確実な利用の実現と、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけの再処理の実施等プルトニウムの需給バランスを踏まえた再処理施設等の適切な運転の実現に向けて最大限の努力を行うこと、具体的な取組の進捗に応じて実施中期計画の見直しが必要になった場合には適宜・適切に行うこと等について、経済産業大臣が関係事業者に対して必要かつ適切な指導を行うよう求めました。この原子力委員会の意見を踏まえ、同年3月28日に経済産業大臣は実施中期計画の変更を認可しました。
表4-7 再処理機構による実施中期計画(2023年3月)において示された再処理量等 計画 (参考)見通し 2023年度 2024年度 2025年度 2026年度 2027年度 再処理を行う
使用済燃料の量(tU)0 0 70 170 70 (参考)プルトニウム
回収見込量(tPut)0 0 0.6 1.4 0.6 再処理関連加工注を行う
プルトニウムの量(tPut)0 0 0 0.1 1.4 (注)ウラン及びプルトニウムの混合酸化物燃料加工(MOX燃料加工)
(出典)再処理機構「使用済燃料再処理等実施中期計画」(2023年)に基づき作成
- Japan Support Programme for Agency Safeguards
- 資料編3(2)「原子炉等規制法等に係る諮問・答申(2022年4月~2023年3月)」を参照。
- 米国、ロシア、英国、フランス、中国、我が国、ドイツ、ベルギー、スイスの9か国が参加し、プルトニウム管理に係る基本的な原則を示すとともに、その透明性の向上のため、保有するプルトニウム量を毎年公表することとした指針。1998年3月にIAEAが発表。
- 第2章2-2(3)⑦「使用済燃料の再処理に関する取組」を参照。
- 第2章2-2(3)⑧「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造に関する取組」を参照。
- 第2章2-2(3)⑨「軽水炉におけるMOX 燃料利用(プルサーマル)に関する取組」を参照。
- 2022年度末の我が国全体の保有見込量約45.2t から、2023年度に関西電力株式会社高浜発電所3号機で消費見込みの約0.7tを差し引いた保有見込量。
- 第2章2-2(2)⑦1)「使用済燃料再処理機構の設立」を参照。
- 2023年度から2025年度までの3年間における再処理及び再処理関連加工の実施場所、実施時期及び量を記載。
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