第3章 国際潮流を踏まえた国内外での取組
3-1 国際的な原子力の利用と産業の動向
世界では、東電福島第一原発事故後、脱原発に転じる国々が現れた一方で、電力需要増大への対応と地球温暖化対策の両立がグローバルな課題として認識されるようになってきました。こうした中、英国やフランスは、原子力を継続的に発電に利用する方針を示しており、米国では既存の軽水炉の長期運転を進める政策が実施されています。また、これらの国々やカナダ等では、革新炉の導入に向けた開発が加速しています。また、ロシアのウクライナ侵略に端を発するエネルギー危機を受けて、原子力発電の重要性が再認識されるようになっています。こうした動きを背景として、アジア、中近東、アフリカ等では、新たに原子力開発を進めている国もあります。さらに、ロシアや中国に加えて米国、フランス、韓国などを中心に、これらの新興国に対して積極的に自国の原子力発電技術を輸出する動きも見られます。
このように社会・経済全体がグローバル化している中、世界の状況を踏まえた我が国の原子力利用の在り方が問われています。我が国の原子力関係機関は、国際機関の活動、海外諸国の原子力発電所の導入及び研究開発等の動向を的確に把握し、国際的な知見や経験を収集・共有・活用し、様々な仕組みを我が国の原子力利用に適用していく必要があります。
(1)国際機関等の動向
① 国際原子力機関(IAEA)
IAEAは、原子力の平和的利用を促進すること、原子力の軍事利用への転用を防止すること、を目的として1957年に設置されました。IAEAには2023年3月末時点で176か国が加盟しており、約40名の日本人職員がIAEA事務局で勤務しています。IAEAは発電のほか、がん治療や食糧生産性の向上等、非発電分野も含めた様々な目的のために原子力技術を活用する取組を行っています。
原子力安全分野において、IAEAは、健康を守るため及び人命や財産に対する危険を最小限に抑えるために安全基準を策定又は採用する権限を与えられており、各種の国際的な安全基準・指針の作成及び普及を行っています。IAEAが策定する安全基準には、安全原則(Safety Fundamentals)、安全要件(Safety Requirements)及び安全指針(Safety Guides)の3種類があります。このうち、安全原則は、防護と安全に関する基本安全目標や原則を定めており、安全要件は現在及び将来にわたっても人及び環境を防護するために遵守すべき要件を定めています。安全指針は、こうした要件をどのように遵守すべきかに関する勧告や指針を示しています。
2023年には、原子力施設の立地評価における、人間が原因となって発生する外的事象に関連する危険性への対応に関する勧告を示した安全指針1を公表しています。また、IAEAは、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵略以降、ウクライナにおける原子力施設の安全や核セキュリティの確保等のための取組を進めています。IAEAの取組については、本章のコラム「IAEAによるロシアのウクライナ侵略に対する対応」にまとめています。
最近の我が国との関連では、IAEAは東電福島第一原発におけるALPS処理水の安全性に関するレビューを行っており、2022年4月に公表した報告書では、東京電力が実施した放射線環境影響評価について、包括的で詳細な分析を行った結果として、人への放射線影響は我が国の規制当局が定める水準より大幅に小さいことが確認されたとしています。また、2022年11月には、2回目となるALPS処理水の安全性に関するレビューが行われました2。
コラム ~IAEAの報告書:気候変動対策における原子力の役割~
IAEAは、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)を目前に控えた2021年10月に、報告書「ネットゼロ世界に向けた原子力(Nuclear Energy for a Net Zero World)」を発表しました。この報告書では、原子力が化石燃料に代替し、再生可能エネルギーの拡大に貢献し、クリーンな水素を大量に製造するための経済的な電源となることにより、パリ協定の目標や国連の持続可能な開発目標(SDGs3)の達成に向けて重要な役割を果たすとしています。このような役割を踏まえ、IAEAは同報告書において、原子力の拡大を加速するために以下を含む一連の行動を取ることを勧告しています。
② 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
OECD/NEAは、加盟国間の協力を促進することにより、安全かつ環境的にも受け入れられる経済的なエネルギー資源としての原子力エネルギーの発展に貢献することを目的として、原子力政策、技術に関する情報・意見交換、行政上・規制上の問題の検討、各国法の調査及び経済的側面の研究等を実施しています。OECD/NEAには2023年3月末時点で34か国4が加盟しており、加盟各国代表により構成される運営委員会が政策的な決定を行い、具体的な活動は8つの常設技術委員会等で実施しています(図 3-1)。また、1名の日本人幹部職員が勤務しています。
OECD/NEAは、原子力安全や放射性廃棄物管理分野を中心に原子力科学や放射線防護、原子力法分野の共同プロジェクトやデータベースプロジェクトを実施・運用しており、加盟各国で知見や経験を共有するとともに、専門家による議論や検討等を行い多くの成果を報告書として公表しています。
我が国に関係する主な活動として、東電福島第一原発事故に関し、事故後の各国の対応状況や原子力安全の観点から今後国際的に実施していく事項等に関するレポートの作成5や高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する取組についてのピアレビューの実施などがあります。
図3-1 OECD/NEAの委員会組織図
(出典)外務省「経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)」及びOECD/NEA「NEA Mandates and Structures」に基づき作成
③ 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
UNSCEARは、1950年代に大気圏核実験が頻繁に行われ、大量に放出された放射性物質による環境や健康への影響についての懸念が増大する中、1955年の国連総会決議により設立されました。UNSCEARには2023年3月末時点で31か国が加盟しており、科学的・中立的な立場から、放射線の人・環境等への影響等について調査・評価等を行い、毎年国連総会へ結果の概要を報告するとともに、数年ごとに詳細な報告書を出版しています。
2021年3月には、「2011年東日本大震災後の福島第一原子力発電所における事故による放射線被ばくのレベルと影響:UNSCEAR2013年報告書刊行後に発表された知見の影響」(UNSCEAR2020年/2021年報告書)を公表しました。④ 世界原子力協会(WNA)
世界原子力協会(WNA6)は、原子力発電を推進し原子力産業を支援する世界的な業界団体であり、情報の提供を通じて原子力発電に対する理解を広めるとともに、原子力産業界として共通の立場を示し、エネルギーをめぐる議論に貢献していくことを使命としています。WNAには、世界の原子炉ベンダー、原子力発電事業者に加え、エンジニアリングや建設、研究開発を行う企業・組織等、産業全体をカバーするメンバーが参加しており、「原子力産業界の相互協力」、「一般向けの原子力基本情報やニュースの提供」、「国際機関やメディア等、エネルギーに関する意思決定や情報伝播に影響を持つステークホルダーとのコミュニケーション」の三つの分野での活動を行っています。
コラム ~UNSCEARの報告書:東電福島第一原発事故による放射線被ばくの影響~
UNSCEARは、2021年3月に表題「福島第一原子力発電所における事故による放射線被ばくのレベルと影響:UNSCEAR2013年報告書刊行後に発表された情報の影響」のUNSCEAR2020年/2021年報告書を取りまとめました。また、2022年3月には同報告書の日本語版も公表されました。同報告書では、下記のように、被ばく線量の推計、健康リスクの評価を行い、放射線被ばくによる住民への健康影響が観察される可能性は低い旨が記載されています。
⑤ 世界原子力発電事業者協会(WANO)
世界原子力発電事業者協会(WANO7)は、チョルノービリ原子力発電所事故を契機に、自社・自国内のみでの取組には限界があると認識した世界の原子力発電事業者によって1989年に設立されました。
WANOは、世界の原子力発電所の運転上の安全性と信頼性を最高レベルに高めるために、共同でアセスメントやベンチマーキングを行い、更に相互支援、情報交換や良好事例の学習を通じて原子力発電所の運転性能(パフォーマンス)の向上を図ることを使命としています。この使命の下で、原子力発電所に対する他国事業者の専門家チームによるピアレビュー、原子力発電所の運転経験・知見の収集分析・共有、各種ガイドライン等の作成、ワークショップやトレーニングプログラムの提供等を実施しています。なお、2023年1月1日には、千種直樹氏が日本人で初めてCEOに着任しました。
(2)海外の原子力発電主要国の動向
① 米国
米国は、2023年3月末時点で92基の実用発電用原子炉が稼働する、世界第1位の原子力発電利用国です。2023年3月には、新たにボーグル原子力発電所3号機が初臨界を達成し、4号機も温態機能試験が開始されています。
原子力発電に対しては、共和・民主両党の超党派的な支持が得られています。民主党のバイデン現政権も、気候変動対策の一環として、先進的な原子力技術等、クリーンエネルギー技術の商用化を速やかに進める方針を示しています。エネルギー省(DOE8)が2020年に開始した「先進的原子炉実証プログラム(ARDP9)」等では、民間企業を対象として先進炉の開発支援を行っています。また、2021年に成立したインフラ投資・雇用法では、経済的な困難によって運転中の原子力プラントが早期閉鎖するのを防ぐための運転継続支援プログラムが導入されています。さらに、2022年8月に成立したインフレ抑制法には、運転中のプラントを対象とした税制優遇措置が盛り込まれています。
また、2021年に連邦政府は国際支援プログラム「小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST10)」を始動させ、2022年内には米国政府がガーナやルーマニア、ウクライナにおいてSMRの導入を支援する取組を進めることが公表されています。このうちガーナに対する支援には我が国も参画することになっています。
米国における原子力安全規制は、原子力規制委員会(NRC)が担っています。NRCは、稼働実績とリスク情報に基づく原子炉監視プロセス等を導入することで、合理的な規制の施行に努めています。また、産業界の自主規制機関である原子力発電運転協会(INPO11)や、原子力産業界の代表組織である原子力エネルギー協会(NEI12)も、安全性の向上に向けた取組を進めています。
また、原子力発電所の80年運転に向けて、2度目となる20年間の運転認可更新が進められています。2023年3月末時点で、NRCから2度目の運転認可更新の承認を受けて80年運転が可能となった原子炉が6基13、NRCが2度目の運転認可更新を審査中の原子炉が10基となっています。そのほか、SMRの導入に向けて、2023年1月、NRCは米国ニュースケール社のSMRの設計認証を行いました。
民生・軍事起源の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物については、同一の処分場で地層処分する方針に基づき、ネバダ州ユッカマウンテンでの処分場建設が計画されています。2009年に発足したオバマ民主党政権は、同計画を中止する方針でした。2017年に誕生したトランプ共和党政権は一転して計画継続を表明しましたが、2018から2021会計年度にかけて連邦議会は同計画への予算配分を認めませんでした。2021年1月発足のバイデン民主党政権下での2022及び2023会計年度予算要求では同計画の予算は要求されていません。コラム ~IAEAによるロシアのウクライナ侵略に対する対応~
IAEA は、2022 年2 月のロシアのウクライナ侵略以降、ウクライナにおける原子力施設の安全や核セキュリティの確保等のために、以下のような取組を進めています。
我が国は、こうしたIAEAの取組を評価するとともに、同取組を支援するために2023年3月末時点で計約1200万ユーロを拠出することを表明しました。
② フランス
フランスは米国に次ぐ世界第2位の原子力発電設備容量を擁し、2023年3月末時点で56基の原子炉が稼働中です。我が国と同様に化石燃料資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約7割を原子力で賄う原子力立国です。現在10年ぶりの新規原子炉となるフラマンビル3号機の建設が進められています。
2020年4月に政府が公表した改定版多年度エネルギー計画(PPE14)では、2035年までに原子力発電比率を50%に削減するため、最大14基の90万kW級原子炉を閉鎖する一方で、2035年以降の低炭素電源確保のため原子炉新設の要否を検討する方針が示されました。この方針に基づき送電系統運用会社が検討を行い、2050年までに欧州加圧水型原子炉(EPR15)14基を建設し、既設炉との合計で40GW以上の原子力発電容量を確保するシナリオの経済性が最も高いとする分析結果を2021年10月に公表しました。
この分析結果を受け、マクロン大統領は、同年11月に原子炉を新設する方針を示しました。2022年2月には、6基の新設と更に8基の新設検討を行うとともに、前述の2035年までの90万kW級原子炉の閉鎖方針を撤回し、全て50年超運転することを発表しました。
政府は、前述の政策を推進すべく、2022年11月に、新設の円滑化に向けて体制を強化し、手続を簡略化する法案を発表しました。また、新設に向けた公聴会手続や、建設が予定される改良型EPR(EPR2)の安全審査も進められています。2023年にはPPEも改定される見込みです。
また、原子炉新設に向けた体制強化の一環として、政府は2022年7月に、国内の全原子力発電所を所有運転するフランス電力(EDF16)を完全国有化する方針を発表しました。
フランス政府は原子炉等の輸出を支持しており、燃料サイクル事業はオラノ社、原子炉製造事業はフラマトム社が、それぞれ担っています。フラマトム社が開発したEPRは、既に中国で2基の運転が開始されているほか、フランスで1基、英国で2基が建設中であるのに加えて、英国では更に2基の建設計画が進められています。
高レベル放射性廃棄物処分に関しては、2006年に制定された「放射性廃棄物等管理計画法」に基づき、「可逆性のある地層処分」を基本方針として、放射性廃棄物管理機関(ANDRA17)がフランス東部ビュール近傍で高レベル放射性廃棄物等の地層処分場の設置に向けた準備を進めています。ANDRAは2023年1月に設置許可申請を行っており、処分場の操業開始は2030年頃を予定しています。③ ロシア
ロシアでは、2023年3月末時点で37基の原子炉が稼働中です。この中には、SMRかつ世界初の浮揚式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフの2基、ナトリウム冷却型高速炉の原型炉1基と実証炉1基も含まれています。また、3基の原子炉が建設中ですが、そのうちの1基は、鉛冷却高速炉のパイロット実証炉BREST-300で、2021年6月に建設が開始されました。
プーチン大統領は、2021年10月の演説において、ロシアが2060年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しています。また、ロシアは2045年までに発電に占める原子力比率を25%に高める方針です(2021年の原子力比率は約20%)。原子力行政では、国営企業ロスアトムが民生・軍事両方の原子力利用を担当し、連邦環境・技術・原子力監督局が民生利用に係る安全規制・検査を実施しています。原子力事業の海外展開も積極的に進めており、ロスアトムは旧ソ連圏以外のイラン、中国、インドにおいてロシア型加圧水型軽水炉(VVER18)を運転開始させているほか、エジプト、トルコ、バングラデシュ等にも進出しています。原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストの融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も行っており、初期投資費用の確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。ただし、従来VVER導入国に対する核燃料供給は、ロシア企業が中心でしたが、特にロシアのウクライナ侵略後、ウクライナを始め複数の国で、米国ウェスチングハウス社やフランスのフラマトム社といった、ロシア以外の国からVVERの燃料を調達する動きが広がっています。
なお、ロシアのシベリア南東部・アンガルスクには、核燃料供給保証19)を目的として、国際ウラン濃縮センター(IUEC20)が設立され、IAEAの監視の下、約120tの低濃縮ウランが備蓄されています。④ 中国
中国では、2023年3月末時点で55基の原子炉が稼働中で、設備容量は合計5,000万kWを超えています。原子力発電の利用拡大が進められており、21基の原子炉が建設中です。
中国では2030年までに二酸化炭素の排出をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現するとの気候目標が掲げられており、その達成の手段の一つとして、原子力開発が進められています。2021年3月には、2021年から2025年までを対象とした「第14次五か年計画」が策定され、2025年までに原子力発電の設備容量を7,000万kWとする目標が示されています。
中国は軽水炉の国産化及び海外展開にも力を入れており、中国核工業集団公司(CNNC)と中国広核集団(CGN21)が双方の第3世代炉設計を統合して開発した華龍1号は、中国国内では福清5、6号機が営業運転を開始し、更に10基が建設中です。海外でも、華龍1号を採用したパキスタンのカラチ原子力発電所において、2021年5月に2号機が営業運転を開始し、2022年3月に3号機が送電網に接続されました。また、英国でも華龍1号の建設等が検討されている(表 3-1)ほか、中東やアジア、南米においても協力覚書の作成等を進めています。
さらに、高速炉、高温ガス炉、SMR等の開発も進められています。SMRについては玲龍1号(多目的モジュール化小型加圧水原子炉)と命名されたプラントの建設が2021年7月に開始されました。また、高温ガス炉では、実証炉の石島湾発電所が2021年12月に送電を開始しています。⑤ 英国
英国では、2023年3月末時点で9基の原子炉が稼働中です。北海の油田・ガス田の枯渇や気候変動が問題となる中、英国政府は原子炉新設を推進していく政策方針を掲げており、2023年3月末時点で2基の建設と、2基の計画が進められています(表 3-1)。
英国政府は、ロシアによるウクライナ侵略に伴うエネルギー危機を受けて、2022年4月に「英国エネルギー安全保障戦略」を公表しました。この文書では、英国は原子力利用で世界のパイオニアであったにもかかわらず、その後はこれまでの政府が原子力分野に必要な投資を行ってこなかったため、他国から遅れを取るようになったとの認識が示されています。その上で、後述するようにSMRを含めた原子炉の建設プロジェクトを推進する方針を示しています。
気候変動対策技術への投資計画を示す「10-Point Plan」(2020年11月公表)及び2050年温室効果ガス排出量実質ゼロに向けた主要政策を示す「ネットゼロ戦略」(2021年10月公表)では、大型炉の新設に向けた支援措置を講じることや、SMR等の先進原子力技術を選択肢として維持するための新たなファンドを創設することが示されました。さらに、上述した「英国エネルギー安全保障戦略」では、原子力導入の加速化がうたわれています。具体的な目標として、長期的には2050年までに原子力発電設備容量を最大2,400万kWに増強し、原子力発電比率を25%に引き上げるとしています。また、短・中期的には現在建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所に加えて、2024年までに1件の建設プロジェクトを確定させ、2030年までには最大8基の原子炉建設を承認するとしています。
ヒンクリーポイントC原子力発電所は、フランスのEDFとCGNの出資によって建設が進められており、1号機は2027年の運転開始が見込まれています。計画中のサイズウェルCについては2022年11月に、経済支援策の適用と、EDFと英国政府が50%ずつ出資して建設することが決定しました。ブラッドウェルBについては、EDFとCGNが出資して計画が進められています。2022年2月には建設される華龍1号の一般設計評価22が完了し、設計が基準に適合していることが認証されました。
またSMRについては、ロールス・ロイスSMR社が中心となり、2030年頃の発電開始を目指して開発が進められています。2021年11月には革新原子力ファンド等から資金拠出が行われ、2022年3月には同社製SMRの一般設計評価が開始されました。また、同年11月に同社は、有望な建設候補地として4か所のサイトを特定する評価報告書を発表しました。
図3-2 建設中のヒンクリーポイントC原子力発電所
(出典)EDF エナジー社ウェブサイト「Latest images from Hinkley Point C」
表3-1 英国での大型原子炉新設プロジェクト(2023年3月末時点) 電力会社・コンソーシアム サイト 炉型 基数 状況 EDFとCGN ヒンクリーポイントC EPR 2 建設中 EDFと英国政府 サイズウェルC EPR 2 計画中 EDFとCGN ブラッドウェルB 華龍1号 2 提案中 (注)各プロジェクトへのEDFとCGNの出資比率はサイトによって異なる。
(出典)WNA「Nuclear Power in the United Kingdom」に基づき作成
高レベル放射性廃棄物処分に関しては、英国政府は2006年、国内起源の使用済燃料の再処理で生じるガラス固化体について、再処理施設内で貯蔵した後、地層処分する方針を決定しました。2018年に公開した白書「地層処分の実施-地域との協働:放射性廃棄物の長期管理」に基づき、地域との協働に基づくサイト選定プロセスを開始しています。2021年11月には、カンブリア州コープランド市中部において、自治体組織の参加を得ながら地層処分施設の立地可能性を検討するコミュニティパートナーシップが英国内で初めて設立されました。2023年3月末時点では、同州コープランド市南部、同州アラデール市、リンカシャー州イーストリンジー市においてもコミュニティパートナーシップが設立されています。
⑥ 韓国
韓国では、2023年3月末時点で25基の原子炉が稼働中です。また、3基が建設中です。
2022年5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権の脱原子力政策を撤回し、原子力開発を推進する政策を打ち出しています。2022年7月の閣議では「新政権のエネルギー政策の方向性」が採択されました。その中では2050年のカーボンニュートラル実現に向けた「エネルギーミックスの再構築」がうたわれ、原子力については、原子力発電比率を現在の28%から2030年には30%以上に引き上げることとされました。
また、その目標を実現するため、既設炉の運転期間延長、建設中の4基(そのうちの1基は既に運転を開始しています)の竣工、中断された2基の建設計画の早期再開を実施することが掲げられました。これらの施策は、2023年1月に策定された「第10次電力需給基本計画」に盛り込まれています。
図3-3 バラカ原子力発電所
(出典)Emirates Nuclear Energy Corporation「Barakah Nuclear Energy Plant」
韓国では、前政権において国内では脱原子力政策が進められていたものの海外への進出は進められており、これまでに韓国電力公社(KEPCO23)は、アラブ首長国連邦(UAEF)のバラカ原子力発電所において4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めており(図 3-3)、1号機が2021年4月、2号機が2022年3月、3号機が2023年2月に、それぞれ営業運転を開始しています。尹政権も、海外への原子力展開も積極的に進める方針です。「新政府のエネルギー政策の方向性」では、「新エネルギー産業の輸出産業化」が打ち出され、原子力産業を輸出産業化するとし、2030年までに10基の原子炉を海外から受注する目標を示しています。韓国政府は、サウジアラビア、チェコ、ポーランド、トルコ等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしています。
⑦ カナダ
カナダでは、2023年3月末時点で19基の原子炉が稼働中です。カナダは世界有数のウラン生産国の一つであり、世界全体の生産量の約22%を占めています。原子炉は全てカナダ型重水炉(CANDU24炉)で、国内で生産される天然ウランを濃縮せずに燃料として使用しています。
カナダは2050年カーボンニュートラルの達成に加えて、電力需要に対応するため、原子力発電を今後とも継続する方針です。ただし、原子力発電所が立地する州政府や原子力事業者は、新増設よりも既設炉の改修・寿命延長計画を優先的に進めています。オンタリオ州では10基の既設炉を段階的に改修する計画で、2020年6月にはダーリントン2号機が改修工事を終了したのに続いて、同年9月に同3号機、2022年2月には同1号機の改修工事が開始されています。
一方で、SMRの研究開発に力を入れており、2020年12月には連邦政府が「SMR行動計画」を公表しました。同計画では、2020年代後半にカナダでSMR初号機を運転開始することを想定し、政府に加え産学官、自治体、先住民や市民組織等が参加する「チームカナダ」体制で、SMRを通じた低炭素化や国際的なリーダーシップ獲得、原子力産業における能力やダイバーシティ拡大に向けた取組を行う方針です。
具体的なSMRの建設計画としては、オンタリオ・パワー・ジェネレーション社が2021年12月に、またサスクパワー社は2022年6月に米国GE日立ニュークリア・エナジー社のBWRX-300を選定しました。さらに、カナダ原子力研究所(CNL25)がSMRの実証施設建設・運転プロジェクトを進めているほか、安全規制機関であるカナダ原子力安全委員会(CNSC26)が、小型炉や先進炉を対象とした許認可前ベンダー設計審査を進めています。
放射性廃棄物の管理・処分については、使用済燃料の再処理は行わず、高レベル放射性廃棄物として処分する方針をとっており、使用済燃料は現在原子力発電所サイト内の施設で保管されています。処分の実施主体として設立された核燃料廃棄物管理機関(NWMO27)による処分サイト選定プロセスが進められており、2か所の自治体を対象として現地調査が実施されています。2024年秋には1か所の好ましいとされるサイトが選定される予定です。⑧ その他
ドイツは当初、2022年末に3基の原子炉を閉鎖して脱原子力を完了させる予定でした。しかしながら、ロシアのウクライナ侵略などを背景に、電力やエネルギー供給の状況が厳しいことを踏まえ、2022年10月に、これら3基の運転を2023年4月15日まで延長し、脱原子力完了を後倒しすることを決定しました28。
また、EUでは、持続可能な経済活動を明示し、その活動が満たすべき条件をEU共通の規則として定める「EUタクソノミー」が策定されています。欧州委員会(EC29)は2022年2月に、原子力を持続可能な経済活動としてEUタクソノミーに含め、その条件を定める規則を採択しました。この規則は、欧州議会・理事会の審査を経て確定し、2023年1月1日に発効しています。規則では、原子力を持続可能な経済活動と認定するに当たって、2050年までの高レベル放射性廃棄物処分場操業に向けて詳細に文書化された計画があること、全ての極低レベル、低レベル、中レベル放射性廃棄物について最終処分施設が稼働していること等の条件が設けられています(図 3-4)。
上記以外の原子力発電を行っている諸外国の動向については資料編「6. 世界の原子力に係る基本政策」に、低レベル放射性廃棄物の扱いについては第6章コラム「~海外事例:諸外国における低レベル放射性廃棄物の分類と処分方法~」にまとめています。
図3-4 EUタクソノミー
(出典)第37回原子力委員会 資料1-2号 又吉由香「脱炭素社会への移行に向けた資本市場の取組み~EUタクソノミー適用開始等を受けた「原子力」を巡る国内外動向~」(2022年)に基づき作成
(3)我が国の原子力産業の国際的動向
我が国では、2006年の株式会社東芝による米国ウェスチングハウス社買収を皮切りに、株式会社日立製作所と米国ゼネラル・エレクトリック社がそれぞれの原子力部門に相互に出資する新会社(米国のGE日立ニュークリア・エナジー社、日本法人である日立GEニュークリア・エナジー株式会社)の設立、三菱重工業株式会社とフランスAREVA NP社30による合弁会社ATMEAの設立など、各社とも海外企業との関係を強化してきました。
しかし、近年、一部では海外プロジェクトから撤退する動きも見られます。株式会社東芝は、2017年3月のウェスチングハウス社による米国連邦倒産法第11章に基づく再生手続の申立てにより、2018年8月に、カナダに本拠を置く投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズへのウェスチングハウス社の全株式の譲渡を完了しました。また、株式会社日立製作所は、2020年9月に、英国における原子力発電所建設プロジェクトからの撤退を公表しています。
一方で、新たに海外事業に参画する事例も見られます。2021年4月には日揮ホールディングス株式会社が、同年5月には株式会社IHIが、2022年4月には株式会社国際協力銀行(JBIC31)が米国ニュースケール社に出資し、同社のSMR事業に参画することを公表しました。また、フランスではフラマトム社の株式の19.5%を三菱重工株式会社が、またオラノ社の株式の5%ずつを三菱重工株式会社と日本原燃がそれぞれ出資しているのに加えて、三菱重工業株式会社及び三菱FBRシステムズ株式会社は、日仏間及び日米間の高速炉開発に参画しています32。
- Hazards Associated with Human Induced External Events in Site Evaluation for Nuclear Installations,IAEA Safety Standards Series No.SSG-79
- ALPS 処理水対策については、第6 章6-1 (2) ①「汚染水・処理水対策」を参照。
- Sustainable Development Goals
- 34 か国のうち、ロシアは2022 年6 月11 日から参加停止。
- 第1章 1-1 (1) の表 1-1 を参照。
- World Nuclear Association
- World Association of Nuclear Operators
- Department of Energy
- Advanced Reactor Demonstration Program
- Foundational Infrastructure for Responsible Use of Small Modular Reactor Technology
- Institute of Nuclear Power Operations
- Nuclear Energy Institute
- ただし、このうち4 基の原子炉では、環境影響評価手続上の問題が解消されるまでの間は、運転認可の有効期間を1 度目の運転認可の更新で認められた期間までに変更するとの決定をNRC が行っています。
- Programmations pluriannuelles de l’énergie
- European Pressurised Water Reactor
- Électricité de France
- Agence nationale pour la gestion des déchets radioactifs
- Voda Voda Energo Reactor
- 第4 章4-3(3)⑤「核燃料供給保証に関する取組」を参照
- International Uranium Enrichment Centre
- China General Nuclear Power Corporation
- 英国内で初めて建設される原子炉設計に対して、建設サイトとは無関係に安全性や環境保護の観点から評価し、規制基準への適合を認証する制度。建設には別途許認可の取得が必要。
- Korea Electric Power Corporation
- Canadian Deuterium Uranium
- Canadian Nuclear Laboratories
- Canadian Nuclear Safety Commission
- Nuclear Waste Management Organization
- 2023 年4 月15 日に、3 基の原子炉の運転が停止され、脱原子力が完了した。
- European Commission
- 現在は機能の一部をフラマトム社に移管。
- Japan Bank for International Cooperation
- 第8章8-2(4)②「高速炉開発に関する国際協力」を参照。
< 前の項目に戻る | 目次に戻る | 次の項目に進む > |