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2-2 原子力のエネルギー利用を進めていくための取組

 エネルギーの安定供給、経済効率性、環境適合性等の課題に対し、原子力エネルギーは、地球温暖化対策に貢献しつつ、安価で安定的に電気を供給できる電源の役割を果たすことが期待されます。また、電力小売全面自由化により、原子力発電も電力市場の競争原理の下に置かれています。このような状況を踏まえ、安全性の確保を大前提に適切に原子力のエネルギー利用を進めていくことが必要です。
 特に電力の安定供給及び2050年カーボンニュートラルの実現の観点からも、安全規制・原子力エネルギー利用の両面から原子力発電所を安全に長期利用するために必要な規制の在り方を整理するとともに、産業界全体での連携による経年劣化評価に必要な知見の拡充や保守管理の高度化及びその科学的データを国民に分かりやすく示していくこと等が重要です。

 また、世界市場への展開も見据え、民間の活力を生かしながら、原子力先進諸国との共同研究等の協力を通じ、革新炉の国際的な開発・建設の動きに戦略的に関与を深めていくことが重要となります。我が国で革新炉の導入を進めていく際には、革新軽水炉や小型軽水炉、高温ガス炉、高速炉等に関して、それぞれの特徴、目的、実現までの時間軸の違い等を踏まえつつ、新たに組み込まれる安全技術の実証や投資に向けた事業環境整備、事業者からの炉型等の提案を踏まえた早い適切な段階での規制整備・国際的な規制調和、負荷追従運転など再生可能エネルギーとの共存に向けた検討、開発からバックエンドまでを含めた革新炉特有の課題への対応などについて、国際的な動きも踏まえた検討が必要です。
 さらに、原子力規制委員会による厳格な審査の下で、使用済燃料の貯蔵・管理を含め、使用済燃料を資源として有効利用する核燃料サイクルの確立に向けて着実に取り組んでいくことも重要です。使用済MOX20燃料の再処理技術の早期実現化や革新炉を導入する場合の対応を含め、中長期の核燃料サイクル全体の運用の安定化に向けて、官民が柔軟性をもって取り組む必要があります。

(1)着実な軽水炉利用

 2016年の電力小売全面自由化により、従来の地域独占21や総括原価方式22による投資回収の保証制度が撤廃され、原子力発電も電力自由競争の枠組みの中に置かれています。一方で、原子力発電には、事故炉廃炉の資金確保や原子力損害賠償のように、市場原理のみに基づく解決が困難な課題があります(図 2-20)。このような課題に対応するため、事故炉の廃炉を行う原子力事業者に対して、廃炉に必要な資金をNDFに積み立てることが義務付けられています。


自由化の下での財務・会計上の課題への対応の基本的な考え方

図2-20 自由化の下での財務・会計上の課題への対応の基本的な考え方

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」(2017年)に基づき作成


 電力を安定供給でき、火力電源に比べ燃料費が低いといった特性を持つ原子力発電所を長期的に利用するため、原子力事業者等を含む産業界は、安全性向上に係る自律的・継続的な取組を進めています23
 また、2022年8月の第2回GX実行会議において岸田内閣総理大臣よりエネルギー安定供給確保に向けた具体的な検討指示が示されたことも受けて、経済産業省の総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会での検討が進められ、同年12月の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、原子力規制委員会による安全性確認を大前提とし、地域の理解・受容性確保や革新技術による安全性向上等の要素にも配慮しつつ、原子力利用政策の観点から運転期間に関する制度を改正する方針が示されました(図 2-21)。2023年2月28日には、原子力発電の運転期間は40年とした上で、安定供給確保、GXへの貢献などの観点から経済産業大臣の認可を受けた場合に限り、運転期間の延長を認めることとし、「運転期間は最長で60年に制限する」という現行の枠組みは維持した上で、原子力事業者が予見し難い事由による停止期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外するための「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。
 なお、原子力規制委員会は、「発電用原子炉施設の利用をどのくらいの期間認めることとするかは、原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない」との見解を2020年7月に示しており、上記のとおり利用政策側において原子力利用政策の観点から運転期間に関する制度を改正する方針が示されたことを受け、高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討を行い、2023年2月13日には、運転開始後30年を超えて運転する場合は10年以内の期間ごとに長期施設管理計画を策定し、原子力規制委員会の認可を受けることなどを求める「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要」を決定しました(図 2-22)。また、同年2月15日には、高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の詳細について検討するため、「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」の設置が決定されました。


安全性の確保を大前提とした運転期間の延長

図2-21 安全性の確保を大前提とした運転期間の延長

(出典)第35回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 資料5「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)のポイント」(2022年)



高経年化した原子炉に係る安全規制制度(現行と今後の制度案)

図2-22 高経年化した原子炉に係る安全規制制度(現行と今後の制度案)

(出典)第55回原子力規制委員会 資料1「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討(第3回)」(2022年)


(2)革新炉の開発・利用

 カーボンニュートラルやエネルギー安全保障等の観点から、新たな安全メカニズムを組み込んだ革新炉の開発・建設が世界中で加速しています。新しい概念を持つ革新炉の開発は、我が国の原子力サプライチェーンの維持・強化、将来を担う人材の参入意欲向上にもつながることも期待されます。我が国においても、原子力先進諸国との共同研究等の協力を通じて、官民の連携により国際的な開発・建設の動きにも戦略的に関与を深めていくことが重要です24
 革新炉には、多くの国で稼働している大型の軽水炉をベースに新たな安全メカニズムを組み込んだ革新軽水炉、小型モジュール炉(SMR)や、水素製造や熱供給、電力系統の柔軟性向上への貢献など原子力の多目的利用が可能な高温ガス炉、放射性廃棄物の減容と有害度低減、資源の有効利用に加えて医療用ラジオアイソトープ製造で注目される高速炉など、様々なものが存在します(図 2-23、図 2-24)。

革新炉の定義

図2-23 革新炉の定義

(出典)総合資源エネルギー調査会原子力小委員会革新炉ワーキンググループ(第1回)資料6資源エネルギー庁「エネルギーを巡る社会動向を踏まえた革新炉開発の価値」(2022年)



熱利用について

図2-24 熱利用について

(出典)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 事業紹介パンフレット「省エネルギーへのフロンティア 未利用エネルギーの革新的活用技術研究開発」(2023年)に基づき作成


 革新炉の多目的利用についても大いに期待されますが、例えば、水素製造については、再生可能エネルギーを利用した水の電気分解など様々な水素製造・調達手法との競合関係や役割分担などの整理が必要になり、また、熱供給については、熱が電気と異なり遠隔地への供給や蓄熱の経済性成立が難しいなどの背景から、未利用熱の活用は原子力以外の産業でも長年の課題となっていることを踏まえ、検討することも重要です。その際、革新炉の需要地近接立地や需要施設との安全かつ柔軟な接続、需要量と供給量のバランス、多目的施設の担い手の確保の必要性など、革新炉の多目的利用を進めるが故に必要となる対策や事業化の実現可能性について検討していく必要があります。
 2022年8月の第2回GX実行会議では、岸田内閣総理大臣は次世代革新炉の開発・建設等を進めていく方針も明らかにしました。これを受けて、同年12月の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、原子力の価値実現、技術・人材維持・強化に向けて、地域理解を前提に、次世代革新炉の開発・建設を推進するという方針が示されました。まずは廃止決定炉の建替えを対象に、バックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていくこととしています(図 2-25)。また、2023年2月に策定された「GX 実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~」では、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組むこととし、その上で地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建替えを対象に、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていくこととしています。

次世代革新炉の開発・建設

図2-25 次世代革新炉の開発・建設

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(第52回会合)資料1 資源エネルギー庁「エネルギーの安定供給の確保」(2022年)



(3)核燃料サイクルに関する取組

① 核燃料サイクルの概念

 「核燃料サイクル」とは、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を再び燃料として有効利用することです。核燃料サイクルは、ウラン燃料の生産から発電までの上流側プロセスと、使用済燃料の再利用や放射性廃棄物の適切な処理・処分等からなる下流側プロセスに大別されます(図 2-26)。
 上流側のプロセスは、天然ウランの確保・採掘・製錬、六フッ化ウランへの転換、核分裂しやすいウラン235の割合を高めるウラン濃縮、二酸化ウランへの再転換、ウラン燃料の成型加工、ウラン燃料を用いた発電からなります。
 下流側のプロセスは、使用済燃料の中間貯蔵、使用済燃料からウラン及びプルトニウムを分離・回収するとともに残りの核分裂生成物等をガラス固化する再処理、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の成型加工、MOX燃料を軽水炉で利用するプルサーマル、放射性廃棄物の適切な処理・処分等からなります。なお、再処理を行わない政策を採っている国では、原子炉から取り出した使用済燃料については、冷却後、直接、高レベル放射性廃棄物として処分(直接処分)される方針です。


核燃料サイクルの概念

図2-26 核燃料サイクルの概念

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」(2016年)


② 核燃料サイクルに関する我が国の基本方針

 エネルギー資源の大部分を輸入に依存している我が国では、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本方針としています。この基本方針に基づき、核燃料サイクル施設や原子力発電所の立地地域を始めとする国民の理解と協力を得つつ、安全性の確保を大前提に、国や原子力事業者等による中長期的な取組が進められています(図 2-27)。


我が国の核燃料サイクル施設立地地点

図2-27 我が国の核燃料サイクル施設立地地点

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」(2017年)


 このうちウラン濃縮施設や使用済燃料の再処理施設は、核兵器の材料となる高濃縮ウランやプルトニウムを製造するための施設に転用されないことを保障する必要があります。我が国は、原子力基本法において原子力利用を厳に平和の目的に限るとともに、IAEA保障措置の厳格な適用を受け、原子力の平和利用を担保しています。また、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持し、プルトニウムの適切な管理と利用に係る取組を実施しています25

③ 天然ウランの確保に関する取組

 天然ウランの生産国は、政治情勢が比較的安定している複数の地域に分散しています(図 2-28)。我が国においても、カナダやオーストラリアを中心に様々な国から天然ウランを輸入しています。また、ウランは国内での燃料備蓄効果が高く、資源の供給安定性に優れています。冷戦構造の崩壊後、高濃縮ウランの希釈による発電用燃料への転用が開始されたことにより生産量は一時落ち込みましたが、需要はほぼ横ばいで推移しており、2011年の東電福島第一原発事故以降も一定量の生産が維持されています(図 2-29)。


ウラン生産国の内訳(2018年)

図2-28 ウラン生産国の内訳(2018年)

(注)インドと南アフリカは、OECD/NEA及びIAEAによる推定値。
(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium 2020: Resources, Production and Demand」(2020年)に基づき作成


ウラン需給の変遷

図2-29 ウラン需給の変遷

(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium 2020: Resources, Production and Demand」(2020年)に基づき作成


 国際的なウラン価格は、2005年以降、大きく変動しています。スポット契約価格26は、2007年から2008年までにかけて急上昇した後、2009年には急落しました。一方で、長期契約価格は2012年頃まで上昇を続けましたが、その後は下降傾向にあります。近年では、スポット契約価格が75米ドル/kgU程度、長期契約価格が100米ドル/kgU程度で推移しています(図 2-30)。


ウラン価格の推移

図2-30 ウラン価格の推移

(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium 2020: Resources, Production and Demand」(2020年)に基づき作成


 ウラン資源量について、OECD/NEAとIAEAが共同で公表した報告書「Uranium 2020: Resources, Production and Demand」では、2019年末における既知資源量は1997年に比べて増加しており、中長期的に見るとウラン資源量は増加してきたといえます。なお、2017年から2019年にかけて増加した既知資源量の大部分は、既知のウラン鉱床で新たに特定された資源と、既に特定されていたウラン資源の再評価に起因するものであるとされています。
 一方で、今後の見通しについては、中国やインド等、世界的に原子力発電が拡大してウラン需要が高くなるケースでは、中長期的にウラン需給ひっ迫の可能性が高まると予測されています(図 2-31)。天然ウランの全量を海外から輸入している我が国にとって、安定的に天然ウランを調達することは重要な課題です。資源エネルギー庁は、資源国との関係強化に資する探鉱等について、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC27)への支援を実施し、ウラン調達の多角化や安定供給の確保を図っています。


ウラン需給の見通し

図2-31 ウラン需給の見通し

(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium 2020: Resources, Production and Demand」(2020年)に基づき作成


④ ウラン濃縮に関する取組

 原子力発電所で利用されるウラン235は、天然ウラン中には0.7%程度しか含まれていないため、3〜5%まで濃縮した上で燃料として使用されています(図 2-32)。初期にはガス拡散法というウラン濃縮手法が用いられていましたが、現在は、遠心分離法が主流になっています。我が国では、日本原燃株式会社(以下「日本原燃」という。)の六ヶ所ウラン濃縮工場(濃縮能力は年間450tSWU28)において、1992年から濃縮ウランが生産されています。2012年からは、日本原燃が開発した、より高性能で経済性に優れた新型遠心分離機が段階的に導入されています。
 世界のウラン濃縮能力は表 2-2のとおりです。なお、ロシアは世界最大のウラン濃縮能力を有しますが、ロシアによるウクライナ侵略後の脱ロシアを巡る世界的な動きが、今後ウラン濃縮を含めた世界的な原子力のサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があります。地政学リスクが高まる中、価値を共有する同志国政府や産業界の間で、信頼性の高い原子力サプライチェーンの共同構築に向けた戦略的なパートナーシップ構築を進めていくべきである旨を、「基本的考え方」の中で重点的取組として盛り込んでいます。


ウラン濃縮のイメージ

図2-32 ウラン濃縮のイメージ

(出典)内閣府作成



表2-2 世界のウラン濃縮能力(2020年)
事業者 施設所在地 濃縮能力
(tSWU/年)
フランス オラノ社 ピエールラット 7,500
ドイツ ウレンコ社 グロナウ 13,700
オランダ アルメロ
英国 カーペンハースト
日本 日本原燃 青森県六ヶ所村 450
米国 ウレンコ社 ニューメキシコ 4,900
ロシア テネックス社 アンガルスク、ノヴォウラリスク、ジェレノゴルスク、セベルスク 27,770
中国 核工業集団公司(CNNC29 陝西省漢中、甘粛省蘭州 6,300
その他 アルゼンチン、ブラジル、インド、パキスタン、イランの施設 66

(出典)日本原燃「濃縮事業の概要」、世界原子力協会(WNA)「Uranium Enrichment」(2022 年)等に基づき作成


⑤ 濃縮ウランの再転換・ウラン燃料の成型加工に関する取組

 濃縮ウランから軽水炉用のウラン燃料を製造するためには、六フッ化ウランから粉末状の二酸化ウランにする再転換工程と、粉末状の二酸化ウランをペレット状に成型、焼結し、被覆管の中に収納して燃料集合体に組み立てる成型加工工程の二つの工程が必要となります。再転換工程については、国内では三菱原子燃料株式会社のみが実施しています。なお、東電福島第一原発事故前は、海外で濃縮し再転換されたものの輸入も行われていました。成型加工工程については、国内では三菱原子燃料株式会社、株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン及び原子燃料工業株式会社の3社が実施しています。

⑥ 使用済燃料の貯蔵に関する取組

 軽水炉でウラン燃料を使用することにより発生した使用済燃料は、再処理されるまでの間、各原子力発電所の貯蔵プールや中間貯蔵施設等で貯蔵・管理されています。
 各原子力発電所では、2021年3月末時点で、合計約16,240tU30の使用済燃料が貯蔵・管理されています(表 2-3)。


表2-3 各原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料の貯蔵量及び管理容量(2021年3月末時点)

各原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料の貯蔵量及び管理容量(2021年3月末時点)

(出典)電気事業連合会「使用済燃料貯蔵対策の取組強化について(「使用済燃料対策推進計画」)」(2021年)


 一部の原子力発電所では貯蔵容量がひっ迫しており、原子力発電所の再稼働による使用済燃料の発生等が見込まれる中、貯蔵能力の拡大が重要な課題です。このような状況を踏まえ、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」(2015年10月最終処分関係閣僚会議)に基づき電気事業者が策定する「使用済燃料対策推進計画」は、2021年5月に改定されました。同計画では、発電所敷地内の使用済燃料貯蔵施設の増容量化(リラッキング31、乾式貯蔵施設32の設置等)、中間貯蔵施設の建設・活用等により、2020年代半ばに4,000tU程度、2030年頃に2,000tU程度、合わせて6,000tU程度の使用済燃料貯蔵対策を行う方針を示しました。また、約4,600tU相当の貯蔵容量拡大について具体的な進捗が得られている一方で、まだ運用開始に至っておらず、全体計画の実現に向けて更なる取組を進める必要があるとしています。
 2022年末時点で、原子力規制委員会は四国電力伊方発電所及び九州電力玄海原子力発電所における使用済燃料乾式貯蔵施設の設置に係る原子炉設置変更をそれぞれ許可しています(図 2-33)。


玄海原子力発電所に設置予定の乾式貯蔵施設のイメージ

図2-33 玄海原子力発電所に設置予定の乾式貯蔵施設のイメージ

(出典)第65回原子力規制委員会資料4 原子力規制委員会「九州電力株式会社玄海原子力発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査の結果の案の取りまとめについて(案)―使用済燃料乾式貯蔵施設の設置―」(2021年)に基づき作成


 東京電力と日本原子力発電の両社が設立したリサイクル燃料貯蔵株式会社のリサイクル燃料備蓄センター(むつ中間貯蔵施設)は、最終的に5,000tの貯蔵容量拡大を計画している中間貯蔵施設です。原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査の結果、同施設は2020年11月に使用済燃料の貯蔵事業の変更許可を受けました。安全審査の進捗を踏まえ、追加工事の工程見直しが行われ、事業開始時期は2023年度に延期されています。
 また、使用済燃料対策に関するアクションプランに基づいて設置された使用済燃料対策推進協議会では、使用済燃料対策推進計画を踏まえた電気事業者の取組状況について確認を行っています。2021年5月に開催された第6回協議会では、使用済燃料対策計画の実現に向け、業界全体で最大限の努力を行う必要性等が確認されました。

⑦ 使用済燃料の再処理に関する取組

1) 使用済燃料再処理機構の設立

 再処理等が将来にわたって着実に実施されるよう、再処理等拠出金法に基づき、2016年10月に使用済燃料再処理機構(以下「再処理機構」という。)33が設立されました(図 2-34)。原子力事業者は、再処理等に必要な資金を、拠出金として再処理機構に納付しています。

2) 使用済燃料の再処理の推進

 使用済燃料は、中間貯蔵施設等において貯蔵された後、再処理によりウラン及びプルトニウムが分離・回収されます。


原子力発電における使用済燃料の再処理等のための拠出金制度の概要

図2-34 原子力発電における使用済燃料の再処理等のための拠出金制度の概要

(出典)第20回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料2 資源エネルギー庁「使用済燃料の再処理等に係る制度の見直しについて」(2016年)に基づき作成


 日本原燃再処理事業所の六ヶ所再処理工場(再処理能力は年間800tU)では、2000年12月から使用済燃料の受入れ・貯蔵が開始され、2023年3月末時点で約3,393tが搬入され、そのうち約425tがアクティブ試験34において再処理されています。原子力規制委員会は2020年7月、新規制基準への適合性審査の結果、同事業所における再処理の事業変更許可を行いました。これを受け、安全性向上対策工事の工程見直しが行われ、施設の竣工時期は2022年度上期とされました。2022年12月には、更なる竣工時期の見直しが行われ、2024年度上期のできるだけ早期に延期されています。
 我が国では、原子力機構の東海再処理施設を中心として再処理及び再処理技術に関する研究開発を行い、1977年から2007年まで累積で約1,140tの使用済燃料の再処理を実施しました。この過程を通じて得られた技術は、日本原燃への移転がほぼ完了しています。2018年6月には東海再処理施設の廃止措置計画が原子力規制委員会により認可され、放射性物質に伴うリスクを速やかに低減させるため、高レベル放射性廃液のガラス固化等を最優先で進めることとしています。
 また、我が国の使用済燃料の一部は、英国及びフランスの再処理施設で再処理されてきました。世界の再処理能力は表 2-4のとおりです。


表2-4 世界の主な再処理施設(2022年)
国名 運転者 所在地(施設名) 再処理能力(tU/年) 営業開始時期
フランス オラノ社 ラ・アーグ 1,700 1966年
英国 セラフィールド社 カンブリア・シースケール (ソープ) 900 1994年(2018年閉鎖)
(マグノックス) 1,000 1964年(2022年閉鎖)
ロシア 生産公社マヤーク チェリャビンスク 400 1977年
日本 原子力機構 茨城県東海村 120 1981年(廃止措置中)
日本原燃 青森県六ヶ所村 800 2024年度上期のできるだけ早期

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」(2022年)、日本原燃株式会社「再処理施設および廃棄物管理施設のしゅん工時期見直しに伴う工事計画の変更届出について」(2022年)等に基づき作成


⑧ ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造に関する取組

 再処理施設で回収されたウラン及びプルトニウムは、MOX燃料へと成型加工されます。我が国では、日本原燃が商用の軽水炉用MOX燃料加工施設(最大加工能力は年間130tHM35)の建設を進めています。原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査の結果、同施設は2020年12月に加工事業の変更許可を受けました。これに伴い、安全性向上対策のために必要な工事工程の精査が行われ、同施設の竣工時期は2024年度上期に延期されています。
 また、原子力機構を中心として、高速増殖原型炉もんじゅ(以下「もんじゅ」という。)、高速実験炉原子炉施設(以下「常陽」という。)等の高速増殖炉、新型転換炉等に使用するためのMOX燃料製造(成型加工)に関する研究開発の実績があり、2010年までに累積で約173tHMのMOX燃料が製造されました。
 海外の再処理施設で回収された我が国のプルトニウムは、MOX燃料に加工された上で我が国に輸送されています。2022年度は、9月から11月にかけてフランスから関西電力高浜発電所に16体のMOX燃料が輸送されました。なお、1999年に関西電力が英国核燃料会社へ委託加工したMOX燃料で、データの改ざん問題が発覚しました。これを受けて、関西電力は2004年7月にフランスのMOX燃料加工施設等に対する品質保証システム監査において、品質保証システムがMOX燃料調達を進めるに当たって適切であることを確認しています。世界のMOX燃料加工能力は表 2-5のとおりです。


表2-5 世界の主なMOX燃料加工施設(2022年)
国名 運転者 所在地 MOX燃料製造能力(tHM/年) 営業開始時期
フランス オラノ社 バニョルーシュルーセズ 195 1974年
日本 原子力機構 茨城県東海村 4.5 1988年
日本原燃 青森県六ヶ所村 130(最大) 2024年度上期竣工予定
ベルギー FBFCインターナショナル社 デッセル 200 1960年(2015年閉鎖)

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」(2022年)等に基づき作成


⑨ 軽水炉によるMOX燃料利用(プルサーマル)に関する取組

 MOX燃料を原子力発電所の軽水炉で利用することを、「プルサーマル」といいます。我が国では、第6次エネルギー基本計画において、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、プルサーマルを着実に推進することとしています。
 2018年7月に改定された原子力委員会の「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」では、プルトニウムの需給バランスを確保し、プルトニウム保有量を必要最小限とする方針が明示されています36。これを踏まえ、電気事業連合会は2020年12月に、新たなプルサーマル計画を公表しました。同計画では、プルトニウム保有量の適切な管理のため、自社で保有するプルトニウムを自社の責任で消費することを前提として、2030年度までに少なくとも12基の原子炉でプルサーマルの実施を目指し、引き続きプルサーマルの推進を図るとしています。加えて、電気事業連合会は、2023年2月に新たなプルトニウム利用計画を公表しました37
 また、第6次エネルギー基本計画、「基本的考え方」(パブリックコメント案)に則り、GX実行会議における議論等を踏まえて、2022年12月に原子力関係閣僚会議が公表した「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」では、プルサーマルの推進等に当たって、以下の取組をすることが示されました。

 ●事業者による、プルサーマルに係る地元理解の確保等に向けた取組の強化
 ●国による、プルサーマルを推進する自治体向けの交付金制度の創設
 ●国・関係者による、使用済MOX燃料の再処理技術の早期確立に向けた研究開発の加速、官民連携による国際協力の推進、これも踏まえた処理・処分の方策の検討 (※2030年代後半の技術確立を目途に取り組む)

 使用済MOX燃料の再処理技術の確立に向けた研究開発については、2021年度から、再処理プロセス全体の成立性の検討、及び要素技術の開発を目的とした研究開発を開始しています(図 2-35)。

使用済MOX燃料の再処理に係る研究開発の現状

図2-35 使用済MOX燃料の再処理に係る研究開発の現状

(出典)第34回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 資料3 「原子力政策に関する今後の検討事項について」に基づき作成


 海外では、1970年代からプルサーマルの導入が開始され、2022年1月時点で、約7,200体以上のMOX燃料の利用実績があります。我が国では、表 2-6に示す5基においてプルサーマルを実施した実績があります。このうち東電福島第一原発3号機を除く4基は、新規制基準への適合審査に係る設置変更許可を受けて再稼働しています。また、プルサーマルを行う計画で、中国電力島根原子力発電所2号機が2021年9月に設置変更許可を受けており、建設中の電源開発株式会社大間原子力発電所を含む3基が原子力規制委員会による審査中です。大間原子力発電所では、運転開始時には全燃料の約3分の1をMOX燃料とし、その後5年から10年をかけてMOX燃料の割合を段階的に増加させ、最終的には全てMOX燃料による発電を行う予定です。


表2-6 我が国の軽水炉におけるMOX燃料利用実績
電力会社名 発電所名 装荷開始 MOX燃料の累積装荷数 状況
九州電力(株) 玄海3 2009年 36体 再稼働
四国電力(株) 伊方3 2010年 21体 再稼働
関西電力(株) 高浜3 2010年 28体 再稼働
高浜4 2016年 20体 再稼働
東京電力 福島第一3 2010年 32体 2012年4月廃止

(注)原子炉の炉心に燃料集合体を入れること。
(出典)内閣府公表資料に基づき内閣府作成

一方、上述のように、使用済MOX燃料の再処理技術の確立にはまだ課題が残っており、MOX燃料の使用を重ねるたびにプルトニウム240などの発電に適さないプルトニウムの同位体が増えるといった課題もあり、将来的に、対応に向けた検討も必要となります。


コラム ~諸外国におけるMOX燃料利用実績~

 持続可能な社会に向けて、環境保全と経済活動の両立が世界中で強く求められています。資源を再利用、リサイクルし有効活用することで、「ごみ」として廃棄されるものの量を最小限にする循環型経済への移行も、持続可能な社会の実現に不可欠な取組の一つです。
 MOX燃料を利用する核燃料サイクルは、原子力発電所で発生した使用済燃料をリサイクルすることで、資源を有効活用し、放射性廃棄物の量や有害度を最小化する手段です。世界では、欧州を中心に、1960年代からMOX燃料利用に向けた取組が行われてきました。
 MOX燃料の利用実績が世界で最も多いのは原子力大国のフランスで、それに次ぐのは脱原子力国のドイツです。ドイツでは、2005年まで行っていた国外の再処理によって回収したプルトニウムを、MOX燃料として国内の原子炉で消費するよう法的に義務付けられており、2016年までに全てMOX燃料として国内の軽水炉に装荷済みです。


世界のMOX利用の現状(2023年1月1日時点)

世界のMOX利用の現状(2023年1月1日時点)

(出典)一般財団法人日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」(2023年)を一部内閣府修正


⑩ 高速炉によるMOX燃料利用に関する方向性

 我が国では、高速炉開発の推進を含めた核燃料サイクルの推進を基本方針としています。「もんじゅ」は、MOX燃料を高速炉で利用する「高速炉サイクル」の研究開発の中核として位置付けられていました。しかし、様々な状況変化を経て、2016年12月に開催された第6回原子力関係閣僚会議において「『もんじゅ』の取扱いに関する政府方針」及び「高速炉開発の方針」が決定され、「もんじゅ」は廃止措置に移行し、併せて将来の高速炉開発における新たな役割を担うよう位置付けられました。2018年12月には、第9回原子力関係閣僚会議において高速炉開発に関する「戦略ロードマップ」が決定され、高速炉の本格利用が期待される時期は21世紀後半のいずれかのタイミングとなる可能性があるとされています。
 原子力委員会は、戦略ロードマップの決定に先立ち、高速炉開発に関する見解を発表しました(図 2-36)。同見解では、原子力技術の可能性の一つとして高速炉開発を支持しつつ、軽水炉の長期利用も念頭に置き、市場で使われてこそ意味のあるものとの意識で常に取り組むことが必要不可欠であるとしています。
 2023年2月に公表された「基本的考え方」(改定版)では、将来の高速炉を中心とした核燃料サイクルの実現に向けては、「もんじゅ」に係る今までの取組の経緯とその反省とともに、これまで得られた様々な技術的成果及び知見を活かし、国として、戦略的柔軟性を持たせつつ、商用炉建設に向けた実証炉の開発・建設の在り方や商業化ビジネスとしての成立条件や目標を含めた方向性を検討するとともに、必要な研究開発や基盤インフラの整備等の取組を進めるとしています。また、従前の放射性廃棄物の減容と有害度低減やウラン資源の有効利用のメリットのほか、高速炉におけるラジオアイソトープ(RI38)製造などの原子力イノベーション及び社会への貢献などの多様な役割が期待されていることも踏まえる必要があると言及しています。


「高速炉開発について(見解)」の概要

図2-36 「高速炉開発について(見解)」の概要

(出典)原子力委員会「高速炉開発について(見解)」(2018年)に基づき作成

 第6次エネルギー基本計画では、高速炉開発の方針及び戦略ロードマップの下で、米国やフランス等と国際協力を進めつつ、高速炉等の研究開発に取り組むとしています。
 これまで戦略ロードマップに基づき、高速炉開発のステップ1として2018年から当面5年間程度を目途に民間のイノベーションによる多様な技術間競争が実施されてきました。一方で、2023年度末にはステップ1の多様な技術間競争の結果を評価し、2024年度以降の技術の絞り込みを実施するステップ2に向けて高速炉開発の道筋を検討する必要があります。そのため、高速炉開発の方針の具体化を目的とする「高速炉開発会議の戦略ワーキンググループ」の下に、2022年7月、「高速炉技術評価委員会」が設置され、事業横断的に多様な高速炉技術の評価を行いました。これらの評価結果に基づき、今後の支援方針の明確化等に向けて支援対象・進め方のイメージを具体化するため、2022年12月に開催された原子力関係閣僚会議において「戦略ロードマップ」が改訂されました。
 改訂された「戦略ロードマップ」においては、高速炉の技術を評価した結果、常陽・もんじゅ等を経て民間企業による研究開発が進展し、国際的にも導入が進んでいるナトリウム冷却高速炉が、今後開発を進めるに当たって最有望と評価し、2024年度以降に実証炉の概念設計や必要な研究開発を進めていくこととしています(図 2-37)。
 高速炉の研究開発に関しては、第8章8-2(4)「高速炉に関する研究開発」に記載しています。

「戦略ロードマップ」改訂案の主なポイント

図2-37 「戦略ロードマップ」改訂案の主なポイント

(出典)第10回原子力関係閣僚会議資料1-1 原子力関係閣僚会議「戦略ロードマップ改訂案の概要」(2022年)



  1. Mixed Oxide(ウラン・プルトニウム混合酸化物)
  2. 特定地域の電力販売をその地域の電力会社1 社が独占できる枠組み。
  3. 総原価を算定し、これを基に販売料金単価を定める枠組み。
  4. 第1 章1-2(4)「原子力事業者等による自主的安全性向上」を参照。
  5. 革新炉開発の詳細な動向は、第8 章8-2「研究開発・イノベーションの推進」を参照。
  6. 第4 章4-1(3)「政策上の平和利用」を参照。
  7. 長期契約等で定めた価格ではなく、一回の取引ごとに交渉で取り決めた価格。
  8. Japan Organization for Metals and Energy Security。2022 年5 月に法改正に伴う業務の追加を踏ま え、2023 年4 月の改正法施行に合わせ、正式名称の変更がなされたが、英語略称は産資源国で認知され、 浸透していることから、引き続きJOGMEC としている。
  9. Separative Work Unit : 天然ウランから濃縮ウランを製造する際に必要な作業量を表す単位。
  10. China National Nuclear Corporation
  11. ウランが金属の状態であるときの質量を示す単位。
  12. 貯蔵用プール内の使用済燃料の貯蔵ラックの間隔を狭めることにより、貯蔵能力を増やすこと。
  13. 貯蔵用プールで水を循環させ冷却する湿式貯蔵によって十分冷却された使用済燃料を、金属製の頑丈な容器(乾式キャスク)に収納し、空気の自然対流によって冷却する貯蔵方法。
  14. 再処理機構の使用済燃料再処理等実施中期計画の認可に係る原子力委員会の意見聴取については、第4章4-1(3)④「プルトニウム・バランスに関する取組」を参照。
  15. 再処理工場の操業開始に向けて実施される試験運転のうち、最終段階の試験運転として、実際の使用済燃料を用いてプルトニウムを抽出する試験。
  16. MOX 燃料中のプルトニウムとウラン金属成分の質量。
  17. 第4 章4-1(3)①「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」を参照。
  18. 第4 章4-1(3)③「プルトニウム利用目的の確認」を参照。
  19. Radioisotope

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