4-3 核軍縮・核不拡散体制の維持・強化
我が国は、核兵器のない平和で安全な世界の実現のために、核軍縮外交を進めるとともに、国際的な核不拡散体制の維持・強化に取り組んでいくとしており、具体的には、以下の取組を進めることが重要です。
①核軍縮外交を進めると同時に、国際核不拡散体制を維持・強化する新たな提案に関する議論に積極的に参加する。
②核不拡散への取組のための基盤強化のため、これに従事する有能な人材の育成に努める。
③「核不拡散と原子力の平和利用の両立を目指す趣旨で制定された国際約束・規範の遵守が、原子力利用による利益を享受するための大前提」とする国際的な共通認識の醸成に国際社会と協力して取り組む。
(1)国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石としての核兵器不拡散条約(NPT 16 )
NPTは、米国、ロシア、英国、フランス及び中国を核兵器国と定め、これらの核兵器国には核不拡散と核軍縮交渉の義務を課す一方、非核兵器国には原子力の平和利用の権利を認めて、IAEA保障措置の下に置く義務を課すもので、国際的な核軍縮・核不拡散を実現し、国際安全保障を確保するための最も重要な基礎となる普遍性の高い条約として位置付けられています。我が国は同条約を1976年6月に批准し、2018年2月末時点の締約国数は191か国です(国連加盟国では、インド、パキスタン及びイスラエルが未加入) [24] 。
条約の目的の実現及び条約の規定の遵守を確保するため5年に一度開催されるNPT運用検討会議では、条約が発効した1970年以来、その時々の国際情勢を反映した議論が展開されてきました。2010年NPT運用検討会議ではNPTを基礎とする軍縮・不拡散体制の強化のための行動計画が採択され、中東非大量破壊兵器地帯の設置に関する国際会議を開催することで合意されました。しかし、2015年のNPT運用検討会議では、中東非大量破壊兵器地帯の設置を巡る締約国間の意見は収斂せず、同検討会議は最終的な合意を得ることなく終了しました [25] 。こうした状況に加え、核軍縮の進め方を巡り核兵器国と非核兵器国の間でアプローチの違いが鮮明となり 17 、さらに、北朝鮮の核・ミサイル問題ともあいまって、NPT体制は深刻な課題に直面しています。また、目下、条約発効50周年となる2020年NPT運用検討会議の成功に向けた取組がますます重要となっています。このような状況の中、岸田外務大臣(当時)は2017年5月に、我が国の外務大臣として初めて2020年NPT運用検討会議第一回準備委員会に出席しました。岸田外務大臣(当時)は、核兵器国と非核兵器国の信頼関係を再構築するための方策や我が国の核廃絶に向けた道筋を表明することにより、「核兵器のない世界」実現のためのNPTの重要性と2020年NPT運用検討プロセスの成功に向けた我が国のコミットメントを強調しました。また、北朝鮮の核・ミサイル開発について、厳しく非難し国連安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)決議等の遵守を求めました [26] 。
(2)核軍縮に向けた取組
① 核軍縮の推進に向けた我が国の取組
我が国は、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」を実現するため、軍縮・不拡散外交を積極的に行っています。特に1999年以降、毎年国連総会に「核兵器廃絶決議」を提出し、圧倒的多数で採択され、現実的な核軍縮の推進のためリーダーシップを発揮してきました。また、国際社会の叡智を動員して、「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」(1998-1999)やオーストラリア政府とともに「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND 18 )」(2009-2011)を立ち上げ、現実的な報告書を国際社会に示してきました。また、2017年11月には「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」を立ち上げ、国際社会の専門家による提言をまとめることとしています。更に2010年9月には、我が国とオーストラリアが中心となって「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI 19 )」を立ち上げ、核兵器国と非核兵器国の橋渡し役となることを目指した活動を行ってきました。最近では、2017年9月にニューヨークのドイツ国連代表部において、第9回NPDI外相会合が日独共同で開催され、河野外務大臣が共同議長を務めました。同会合ではNPDI外相共同声明が発出され、2020年NPT運用検討会議の成功に向けて、NPDIとして核兵器国と非核兵器国の橋渡しを果たすべく、核戦力の透明性の向上、包括的核実験禁止条約(CTBT 20 )の発効促進や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT 21 )の早期交渉開始に向けた取組の継続の決意が改めて表明されました。また、北朝鮮に関する独立した共同声明が発出され、北朝鮮の度重なる挑発行為が非難され、国際社会に対して関連する安保理決議の厳格かつ完全な履行が促されています [27] 。
なお、米国防省は2018年2月2日に「核態勢の見直し(NPR 22 )」を公表しました。我が国は、北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等、安全保障環境が急速に悪化している状況に鑑みて、今回のNPRで、米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントが明確化されたことを高く評価しています。また今回のNPRでは、NPT体制の強化及び核兵器の更なる削減を可能とする安全保障環境の追求が表明されています。我が国としては、現実的かつ具体的な核軍縮の推進のため、米国と緊密に協力していく方針です [28] 。② 包括的核実験禁止条約(CTBT 23 )
CTBTは、全ての核兵器の実験的爆発又は他の核爆発を禁止する核軍縮・不拡散上極めて重要な条約で、我が国は、1997年に批准しました。2018年2月末時点で、署名国は183か国、批准国は166か国ですが、CTBTの発効に必要な特定の44か国のうち、批准は36か国にとどまっており、条約は発効していません [29] 。未批准の発効要件国は、インド、パキスタン、北朝鮮、中国、エジプト、イラン、イスラエル及び米国です。
北朝鮮が2006年以来、核実験を繰り返していますが、NPT上の5核兵器国の全てが、また1998年に核実験を行ったインド・パキスタン両国もその後、核実験モラトリアム(一時停止)を宣言し、今日まで遵守されています。
我が国は、残り8か国の発効要件国の批准を含むCTBTの早期発効を重視しています。我が国は、発効促進会議、CTBTフレンズ外相会合、賢人グループ(GEM 24 )による取組への積極的な関与及び支援に加え、二国間協議を通じて未批准国への早期批准の働きかけに積極的に取り組んでいます。2017年9月にニューヨークの国連本部で開催された第10回CTBT発効促進会議には河野外務大臣が出席し、アジアにおけるCTBT普遍化に向けた地域会合の東京開催等の我が国の取組について述べ、引き続き、CTBT早期発効に向けた国際社会の努力を主導していく決意を表明しました [30] 。
また、検証体制については、我が国は、国内に国際監視制度(IMS 25 )の10か所の監視施設及び実験施設を維持・運営しているほか(図4-7)、世界各国の将来のIMSステーションオペレーター(観測点の運営者)の能力開発支援や包括的核実験禁止条約機関(CTBTO 26 )への検証体制関連分野への任意拠出の提供を通じて、その強化に貢献しています [31] 。
図 4-7 日本国内の国際監視施設設置ポイント
(出典)外務省「CTBT国内運用体制の概要 日本国内の国際監視施設設置ポイント」 27
③ 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(「カットオフ条約」(FMCT))
1993年9月にクリントン米大統領(当時)が提案したFMCTは、兵器用の核分裂性物質(兵器用高濃縮ウラン及びプルトニウム等)の生産を禁止することで、新たな核兵器保有国の出現を防ぎ、かつ核兵器国における核兵器の生産を制限するもので、核軍縮・不拡散の双方の観点から大きな意義を有します。
これまで、条約交渉を開始するための議論がジュネーブ軍縮会議(CD 28 )においてなされてきているものの、現在に至るまで実質的な交渉は開始されていません。このため2016年国連総会決議(A/RES/71/259)によって、国連事務総長の下にFMCTに関するハイレベル専門家準備グループを設置することが決定されました。同準備グループは、2017年から2年間かけて将来のFMCTの交渉に資するよう、条約の実質的な要素について議論し、勧告を作成する予定です。2018年には実質的な議論が終了することとなっており、取りまとめられる報告書がFMCT交渉開始に向けたモメンタムを生み出すことが期待されています。2017年7月31日~8月11日には、ジュネーブにおいて第1回目となるハイレベル専門家準備グループ会合が開催されました [32] 。④ 核兵器禁止条約
1970年3月に発効したNPTにおいては、各締約国による誠実な核軍縮交渉を行う義務を規定しているものの、2010年に米国とロシアの間で新たな戦略兵器削減条約が結ばれて以降、更なる削減に向けた動きがなく、核軍縮に向けた動きが停滞していました。このような状況にあって、2013年3月にノルウェー・オスロにて第1回「核兵器の人道的影響に関する会議」が開催されました。この会議は、核兵器の使用がもたらす様々な影響について、専門家のプレゼンテーションとともに事実に基づく議論を行うことを趣旨とする国際会議で、第2回会議はメキシコ・ナジャリット(2014年2月)、第3回はオーストリア・ウィーン(2014年12月)で開催されました。第3回会議では、非同盟運動(NAM 29 )諸国を中心に、核兵器の禁止に向けたプロセスの開始を求める意見が出された一方、核兵器国である米英及び北大西洋条約機構(NATO 30 )諸国、オーストラリア、韓国等からは、現実的かつ実践的アプローチに基づく、ステップバイステップによる核軍縮を支持する立場が示されました。このような中で、2016年10月の国連総会において、多国間の核武装撤廃交渉を2017年から開始する決議案が賛成多数で可決され、2017年7月に122か国・地域の賛成多数により「核兵器禁止条約」が採択されました。なお、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN 31 )は核兵器禁止条約の採択の実現に貢献したとして、2017年のノーベル平和賞が授与されました。河野外務大臣はICANのノーベル平和賞受賞について、ICANが推進した核兵器禁止条約は日本政府のアプローチとは異なるものの、核廃絶というゴールは共有しており、今回の受賞を契機に、国際社会で核軍縮・不拡散に向けた認識や機運が高まることは喜ばしいとコメントしています。また、北朝鮮の核・ミサイル開発を始めとした我が国が直面する安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的な核軍縮を地道に前進させる道筋を追求していく必要性を指摘しました。また、核軍縮の進め方を巡る国際社会の立場の違いにも言及し、核兵器国と非核兵器国、安全保障環境の異なる非核兵器国の間の信頼関係を再構築し、核兵器国も巻き込む形で現実的かつ実践的な取組を粘り強く進めていく考えを表明しました [33] 。
(3)核不拡散に向けた取組
国際的な核軍縮や核不拡散に関する取組は、NPT等の国家間の条約を中心に、それを担保するためのIAEAとの協定及び、二国間原子力協定並びに原子力関係の資機材・技術の輸出管理体制等の国際的枠組みの下で実施されています。
① 原子力供給国グループ(NSG)
1974年のインドの核実験を契機として、原子力関連の資機材を輸出する際には核拡散の危険性をできる限り排除するために条件を付すことが必要との認識が高まったことから、原子力関連の資機材を供給する能力のある国の間で原子力供給国グループ(NSG 32 )が設立されました。NSG参加国は、1978年に核物質や原子力活動に使用するために設計又は製造された品目及び関連技術の輸出条件を定めた「NSGガイドライン・パート1」 33 を策定し、それに基づいた輸出管理を行っています。さらに、その後策定された「NSGガイドライン・パート2」 34 は、通常の産業等に用いられる一方で、原子力活動にも使用し得る資機材(汎用品)及び関連技術も輸出管理の対象としています。
2017年6月22、23の両日には、スイス・ベルンにおいてNSG第27回総会が開催されました。総会では、世界的な安全保障環境の変化や原子力関連産業の急速な進展にペースを合わせてNSGガイドラインを改訂することの重要性が再確認されています [34] 。なお、2018年2月末時点で我が国を含む48か国がNSGに参加しています [35] 。② 保障措置
1)国際保障措置の体制
NPT締約国である非核兵器国は、IAEAとの間で保障措置協定を締結して、国内の平和的な原子力活動に係る全ての核物質を申告して保障措置の下に置くことが義務付けられており、このような保障措置を「包括的保障措置」といいます。2017年12月時点で、NPT締約国191か国のうち、我が国も含め非核兵器国173か国がIAEAとの協定に基づき包括的保障措置を受け入れています。また同時点で、非核兵器国のうち包括的保障措置を受け入れていない国は13か国、包括的保障措置は実施されているが追加議定書を受け入れていない国は46か国です [36] 。
また、IAEAが、その国では「申告された核物質の平和的活動からの転用の兆候が認められないこと」、また、「未申告の核物質及び原子力活動が存在する兆候が認められないこと」を根拠として、全ての核物質が平和的活動にとどまっているとの「拡大結論」を導き出した場合には、「統合保障措置」を適用することができます。統合保障措置の適用により、従来の計量管理を基本としつつ短期通告査察又は無通告査察を強化することで、IAEAの検認能力を維持したまま査察回数の削減が期待されます。我が国においては、2004年6月のIAEA理事会において、上記の拡大結論が導き出され、以降、毎年同様の拡大結論を得ています [37] 。2)保障措置に関する国際協力の取組
IAEA保障措置の強化・効率化を進める上で重要な手法として採用されている保障措置環境試料分析については、我が国はIAEAネットワーク分析所として認定されている原子力機構安全研究センターの高度環境分析研究棟(CLEAR 35 )において、IAEAが査察等の際に採取した環境試料の分析への協力を行う等、引き続きIAEAの保障措置活動へ貢献するとともに、我が国としての核燃料物質の分析技術の維持・高度化を図っています。
また、我が国はIAEA保障措置技術支援計画(JASPAS 36 )を通じ、我が国の保障措置技術を活用して、IAEA保障措置を強化・効率化するための技術開発への支援を行う等、保障措置に関する国際協力を実施しています。例えば、同機構のISCNでは、IAEA職員等を対象とした「再処理施設での保障措置に係るトレーニング」を2012年以降、毎年実施しています。③ 北朝鮮の核開発問題
北朝鮮は、累次にわたる国際社会の強い抗議と非難を無視して、2017年8月及び9月には、2回連続で我が国上空を通過する形での弾道ミサイルの発射を強行し、さらに、過去の核実験に比べ指定出力がはるかに大きく、水爆実験であった可能性も否定できない6回目の核実験を同年9月3日に強行しました [38] 。原子力委員会は、翌4日に声明を発表し、国際平和と安全保障に対する明白な脅威であると同時に、国際的な核軍縮・核不拡散体制に対する重大な挑戦であるとして、強く非難しています [39] 。更に国連安保理は、9月12日に、北朝鮮に対して格段に厳しい制裁措置を課す強力な国連安保理決議第2375号を採択しました。
しかし、北朝鮮は11月29日に、新型とみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM 37 )級の弾道ミサイルの発射を強行しました。安倍首相は米国のトランプ大統領と電話会談を行い、北朝鮮の弾道ミサイル発射について意見交換を行い、日米で主導して国際社会と連携しながら北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくという方針を確認しました。一方、河野外務大臣が議長を務めた、北朝鮮問題に関する12月15日の国連安保理閣僚級会合においては、核武装した北朝鮮を決して受け入れず、全ての国連加盟国による安保理決議の完全な履行が不可欠であるとの一致したメッセージが発信されました。さらに、国連安保理は12月22日に我が国が議長を務める会合を開き、このミサイル発射を受けて、北朝鮮に対する制裁措置を前例のないレベルにまで一層高める強力な国連安保理決議第2397号を全会一致で採択しました [40] 。北朝鮮はこのような我が国を含めた国際社会の対応に反発しており、朝鮮半島における緊張感が高まっています。引き続き、国際社会で連携した対応が必要です。④ イランの核開発問題
イランの核開発問題は、中東地域のみならず、国際的な安全保障を揺るがしかねない、国際核不拡散体制への重大な挑戦となっていましたが、2013年8月に発足したローハニ政権が国際社会との対話路線を取ったことにより、イランの核開発問題は解決に向かって動き始めました。2015年7月には、EU3+3(英国、フランス、ドイツ、米国、中国、ロシア及びEU)とイランとの間で合意された「包括的共同作業計画(JCPOA 38 )」及び、IAEAとイランが署名した「イランの核計画に関する過去及び現在の未解決の問題の解明のためのロードマップ」に基づく対応がなされることとなりました。
同ロードマップに基づき、イランとIAEAとの間で作業を行った結果、2015年12月に取りまとめられたIAEA事務局長による最終評価報告では、2010年以降に核爆発装置の開発に関連する活動が行われたとする信頼性のある根拠を有していないとの結論が示されました。
さらに、2016年1月には、イランがJCPOAで約束した一部の措置を履行したことがIAEAにより検認され、新たに採択された安保理決議第2231号に基づき、過去の関連する安保理決議によって課された制裁の一部が終了しました。ただし、イランの核活動やミサイル等に関連する移転活動には引き続き制約が課されています。今後は、イランを含め関係国による合意の着実な履行とIAEAによる監視・検証が重要です。
米国のトランプ大統領は2017年10月13日に議会において、イランがJCPOAを遵守しているとは言えないとして、制裁措置を再発動するべきであるとの見解を表明しました [41] 。その後2018年1月12日に同大統領は、制裁を再発動しない方針を発表したものの、EU3+3とイランとの間の合意を見直すよう強く求め、見直されなければ、同合意から離脱する可能性にも言及しています [42] 。⑤ インドを巡る国際的な原子力協力の動き
NPTに未加入であるインドは、1974年と1998年に核実験を実施した後は、核実験モラトリアム(一時停止)を継続するとともに、核不拡散上の輸出管理の厳格化等を表明しました。
2008年8月、IAEA特別理事会において、インドとIAEAとの保障措置協定案が承認され、更に同年8月及び9月のNSG臨時総会において、インドによる「コミットメントと行動」を踏まえ、包括的保障措置協定の未締結国に対する原子力関連資機材の輸出を行わないと定めたNSGガイドラインをインドには適用しないことが決定されました。
このようなNSGによるインド例外化決定以降、米国だけでなく、フランス、ロシア、カナダ、韓国、オーストラリア等の原子力利用先進国がインドとの原子力協定を締結、又は交渉を開始し、積極的な対インド協力を進めています。我が国は、インドが今後も「コミットメントと行動」を着実に実施することを前提にして原子力協力を行うことは、戦略的に最も重要なパートナーであるインドとの関係を深化・拡大させるとの観点及び、原子力の平和利用についてインドが責任ある行動をとることを確保するとの観点から有意義と考え、2017年7月に、日印原子力協定を締結しました。⑥ 核不拡散の強化に向けた新たな動き
2006年9月のIAEA第50回記念総会の際に、核燃料供給保証 39 に関する特別イベントが開催され、我が国の「IAEA燃料供給登録システム」を含め、様々な提案がなされました。
その後、ロシアが主導するアンガルスクの国際ウラン濃縮センター(IUEC 40 )については、ロシアの国営企業ロスアトムが2010年3月にIAEAと備蓄の構築に関する協定を交わして、2011年2月より燃料供給保証として120tのLEU備蓄の利用が可能となりました。
また、米国のNGOである核脅威イニシアティブ(NTI 41 )によるLEU 42 備蓄に関する提案については、2015年6月のIAEA理事会において、カザフスタンにLEUの核燃料バンクを設置し操業することに関する同国とのホスト国協定が承認され、同年8月にカザフスタンで署名されました。同バンクは2017年8月29日に開所しました [43] 。(4)核テロリズムに対する取組
① 核物質及び原子力施設の防護に関する条約(改正核物質防護条約)
1987年2月に発効した核物質防護条約は、核物質の不法な取得及び使用の防止を主目的とした条約であり、2018年1月時点の締約国は155か国と1機関(ユーラトム)です [44] 。2005年の改正で、適用の対象が国内で使用、貯蔵、輸送されている核物質又は原子力施設へと拡大されるとともに、処罰対象の犯罪が拡大され、題名が「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」(以下「改正核物質防護条約」という。)へと改められました。改正核物質防護条約の発効には、締約国の3分の2による締結が必要であり、2016年の第4回核セキュリティ・サミット(米国ワシントンDCにて同年3月31日、4月1日開催)後、102か国の締結をもって同年5月8日に改正が発効しました [45] 。② 核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(核テロリズム防止条約)
2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を契機として、原子力施設自体に対するテロ攻撃や、核物質やその他の放射性物質を用いたテロの脅威等に対処するための対策強化が求められるようになったことを受け、2005年に「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」(以下「核テロリズム防止条約」という。)が国連総会で採択され、2007年7月に22か国の締結により発効しました。同条約は、核によるテロリズムの行為の防止並びに、同行為の容疑者の訴追及び処罰のための効果的かつ実行可能な措置をとるための国際協力を強化することを目的としています。我が国は2007年に締約国となり、2018年2月末時点の締約国数は、113か国です [46] [47] 。③ 核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)
2001年の米国同時多発テロ事件以降、核テロ対策の重要性が強く認識されるようになり、国際的に様々な措置がとられ、2006年のサンクト・ペテルブルクG8サミットの際、米露両首脳は、核テロリズムの脅威に国際的に対抗していくことを目的として、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」を提唱しました。GICNTでは、有志国家間での訓練やワークショップの実施に力を入れるとともに、作業グループでは核セキュリティに関する実用的な指針も作成しています。2017年6月、核テロ対策国際会議(GICNT全体会合)が我が国の主催により東京で開催され、共同議長国である米国及びロシアを始め、74か国、4国際機関(IAEA、EU、INTERPOL、国連薬物犯罪事務所(UNODC 43 ))から、約220人の政府高官らが参加しました。会議の終わりに共同議長声明が発出され、GICNTのこれまでの2年間の活動を踏まえつつ、引き続き能力構築に関する協力を戦略的に実施することや、核セキュリティへの地域的アプローチを促進する等の今後の活動方針が確認されました [48] 。
2017年6月末時点で、GICNT参加国は88か国及び5機関(オブザーバー:EU、IAEA、INTERPOL、UNODC、国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI 44 ))にまで増加しています [49] 。④ 大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ(GP)
2002年G8カナナスキス・サミットにおいて、大量破壊兵器(核、生物兵器、化学兵器)及びその他関連物質等の拡散防止を主な目的として「G8グローバル・パートナーシップ(GP)」の設置が合意されました。GPは、核セキュリティに係るパートナーシップ、協調、協力を構築するための基盤提供を通じて核・放射線セキュリティを強化し、また非国家主体によるこれらの物質の入手を防ぐことを目的としています。当初GPは10年間の活動予定でしたが、2011年G8ドーヴィル・サミットで活動延長が決定され、現在はG8の枠を越えて、30か国及び国際機関等 [50] が参加しています。2016年の第4回米国核セキュリティ・サミットでは、我が国が議長国となってGP共同声明及びGP行動計画を取りまとめ、発表しました。また、同年1月及び9月には、G7議長国としてGP作業部会全体会合を東京にて開催しました。⑤ 世界核セキュリティ協会(WINS)
世界核セキュリティ協会(WINS 45 )は、核物質及び放射性物質がテロ目的に使用されないように、これらの物質の管理を徹底することを目的として、2008年の第52回IAEA年次総会の際に設立されました。
WINSは2016年の第4回核セキュリティ・サミットに貢献したほか、2016年12月のIAEA核セキュリティ国際会議にも参加しました。WINSは核セキュリティ管理に関するWINSアカデミーをオンラインで提供しており、2018年2月末時点で87か国から1,000名以上が参加し、291名がコースを終了して核セキュリティ専門家としての検定書を授与されています [51]。また、世界各地で核セキュリティに関わるワークショップを開催しています。これまでの開催国は23か国、のべ3,300名以上が参加しています。2018年1月には、原子力機構のISCNとの共催で、ワークショップ「核セキュリティ事案の初期判断:安全とセキュリティのインターフェース」が東京で開催されました[52]。⑥ 国連の行動計画
国連総会と国連安保理は、グローバルな核セキュリティを強化する上で重要な役割を果たしています。2016年の第4回核セキュリティ・サミットで発表された国連の行動計画では、2021年までに国連安保理決議第1540号46の核セキュリティ責務を完全に履行するための取組及び、同決議の2016年包括レビューの機会を利用して同決議の履行と1540委員会 47 及びその専門家グループへの支援の強化に加えて、核テロリズム防止条約の発効10周年を期に、同条約の履行状況を評価する締約国会合を2017年に開催することを目指すことが含まれています。核テロリズム防止条約発効10周年を記念する締約国会合は、2017年12月5日にウィーンで開催され、112の締約国のうち47か国から代表者が参加しました。同会合では、締約国が経験を共有するとともに、同条約の重要性と同条約に基づく責務を確認し、改正核物質防護条約を始めとする他の核セキュリティ関連の国際枠組みとの相乗効果や相違点の確認が行われました。また、同条約の有効性を高めるため、締約国を今後更に拡大していく方向性が確認されました [53] 。⑦ IAEAにおける取組
IAEAは、核テロ対策を支援するために2002年3月、核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野で構成される第1次活動計画を策定し、核物質等テロ行為防止特別基金を設立しました。現在は、2013年に策定された第4次行動計画が遂行されています。
これまでに2013年と2016年の2度にわたり、IAEAが主催する閣僚級会議「核セキュリティに関する国際会議」が開催されています。2016年12月5~9日に開催された2回目の会議「核セキュリティに関する国際会議:誓約と行動」では、130か国及び17の国際機関が参加、我が国を含む50か国以上から閣僚レベルが出席し、核セキュリティ・サミットの精神を承継し、今後IAEAが中心となって核セキュリティ強化に向けて各国が努力していくことが確認され、閣僚宣言が発出されました。⑧ 近年の主要国首脳会議における取組
日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、7か国の首脳並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して開催される首脳会議であるG7サミット(2014年まではロシアを含むG8)では、国際社会が直面する様々な地球規模の課題について自由闊達な意見交換を通じて首脳がコンセンサスを形成し、その成果が宣言としてまとめられてきました。また、サミットに先立ってG7各国外相及びEU外相・安全保障上級代表が出席して開催されるG7外相会合においては、不拡散及び軍縮に関するG7声明が発出されています。
2016年5月に開催された伊勢志摩サミットにおける首脳宣言では、北朝鮮に対して2016年1月の核実験及び弾道ミサイル技術を用いた発射を強く非難し、国連安保理決議及び六者会合共同声明を遵守し、こうした挑発行動をしないよう求めました。また、同年4月11日に広島で開催されたG7外相会合で発出された「不拡散及び軍縮に関するG7声明」及び「核軍縮及び不拡散に関するG7外相広島宣言」が承認されています。なお、2017年のイタリア・タオルミナサミットに先立ち同年4月10日と11日にイタリアのルッカで開催されたG7外相会合でも「不拡散及び軍縮に関するG7声明」が発出されています [54] 。
- NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons
- 例えば、2016年の国連総会においては、核兵器禁止条約交渉開始決議案が採択され、オーストリア、メキシコ、スウェーデン他113か国の賛成で採択されました。中国、インド、パキスタン、オランダ他13か国が棄権、米国、英国、フランス、ロシア、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダ他35か国は反対しました。
- International Commission on Nuclear Non-proliferation and Disarmament
- Non-proliferation and Disarmament Initiative
- Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty
- Fissile Material Cut-off Treaty
- Nuclear Posture Review
- CTBT: Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty
- Group of Eminent Persons
- International Monitoring System
- Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty Organization
- http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/ctbt/pdfs/kanshi_point.pdf
- Conference on Disarmament
- Non-Aligned Movement
- North Atlantic Treaty Organization
- International Campaign to Abolish Nuclear Weapons
- Nuclear Suppliers Group
- NSGガイドライン・パート1の主な対象品目は、①核物質、②原子炉とその付属装置、③重水、原子炉級黒鉛等、④ウラン濃縮、再処理、燃料加工、重水製造、転換等に係るプラントとその関連資機材です。
- NSGガイドライン・パート2の主な対象品目は、①産業用機械(数値制御装置、測定装置等)、②材料(アルミニウム合金、ベリリウム等)、③ウラン同位元素分離装置及び部品、④重水製造プラント関連装置、⑤核爆発装置開発のための試験及び計測装置、⑥核爆発装置用部品です。
- Clean Laboratory for Environmental Analysis and Research
- Japan Support Programme for Agency Safeguards
- Intercontinental Ballistic Missile
- Joint Comprehensive Plan of Action
- 供給保証は、政治的な理由による核燃料の供給途絶を回避するものであり、そのメカニズムとしては、契約等に基づいて仮想的な備蓄や加工サービスを提供すること、又は核燃料の現物(天然ウランから燃料集合体まで)を備蓄すること等が考えられます。
- International Uranium Enrichment Center
- Nuclear Threat Initiative
- Low Enriched Uranium(低濃縮ウラン燃料)
- United Nations Office on Drugs and Crime
- United Nations Interregional Crime and Justice Research Institute
- World Institute for Nuclear Security
- 大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散が国際の平和と安全に対する脅威を構成することが明記された、初の国連憲章第7章下の国連安保理決議であり、全ての加盟国が本件決議の実施について安保理の下に置かれる1540委員会へ報告することが定められました。
- 国連安保理決議第1540号の履行状況を把握・検討する目的で、国連安保理下に設置された委員会です。
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