原子力委員会長期計画策定会議 第六分科会報告書

新しい視点に立った国際的展開

 

 

 

平成12年6月5日
原子力委員会
長期計画策定会議第六分科会


原子力委員会長期計画策定会議 第六分科会報告書
新しい視点に立った国際的展開
目  次

はじめに

第1章 新しい視点に立った国際的展開
 1.最近の国際情勢に対する認識
 2.国際的課題への主体的な取組

第2章 我が国の核燃料サイクル政策の推進に関する取組
 1.我が国の原子力平和利用堅持の理念と体制の世界への発信
 2.我が国のプルトニウム利用政策に対する国際的理解促進活動の積極的推進
 3.国際輸送の円滑な実施
 4.使用済燃料の国際的管理の構想への対応

第3章 核不拡散の国際的課題に関する取組
 1.余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力
 2.IAEA保障措置の強化・効率化
 3.核物質防護への取組
 4.原子力資機材・技術の輸出管理
 5.CTBT早期発効及びFMCT交渉開始に向けた努力
 6.核不拡散への取り組みに対する我が国のイニシアティブ強化

第4章 原子力安全と研究開発等に関する国際協力
 1.原子力安全に関する協力の推進
 2.研究開発協力の推進
 3.放射線利用・放射線防護・緊急被ばくに係る国際協力

第5章 地域別課題への取組
 1.アジア諸国との国際的取組
 2.欧米諸国との国際的取組
 3.旧ソ連、中・東欧諸国との国際的取組
 4.国際機関の積極的活用

おわりに

参考資料

参  考


はじめに

 第六分科会に与えられた命題は、長計策定全体のなかで、「新しい視点に立った国際展開」を担当し、具体的には「多様な政策手段を活用した包括的国際協力のあり方および国際的な核不拡散の強化に向けた原子力平和利用の展開に関する事項」を検討することとなっている。いうまでもなく、長期計画は、我が国の国内計画であり、国際問題それ自体としては存在しない。従って本分科会の使命は、他の分科会が提示した課題の遂行にあたって、如何なる国際問題があるかを検討し、それらを解決するための具体的施策を明らかにする事にある。その際われわれは従来のような対外援助的な国際協力や国際貢献という視点ではなく、国際的課題への主体的取組と積極的な対応という基本姿勢をとることとした。
 われわれの論議の出発点乃至は基礎となった問題意識は、前回長計から今回に至るまでの数年間における原子力を巡る世界情勢の変化の大きさである。それは次の点において顕著である。即ち世界経済におけるグローバリゼーションの進展、規制緩和、自由化、市場化、冷戦の終結が世界の人々の期待をうらぎってもたらした核拡散の危険の増大、そして地球温暖化問題意識の一層の高まりである。
 原子力は、すぐれて国際的主題であるといわれる。それは他の産業技術との対比において原子力技術の有する2つの特質に由来する。その1は原子力が軍事技術として開発され、その平和目的への転換が現在われわれの利用している技術の起源なのであり、技術そのものには平和も軍事もない。核物質も同様である。その2は原子力の内包する潜在的リスクの大きさである。チェルノブイリ事故の例をあげるまでもなく、万一の場合の影響は国境を超えて広がる恐れがある。われわれ人類が原子力のもたらすエネルギーとしての恩恵を享受するために、常に真剣に取り組むべき課題が、核拡散の防止と安全の確保であることの理由はここにある。この報告においてわれわれはこれに如何に取組、如何なる施策をとるかを示そうと試みた。
 そこでまず、我が国のエネルギー安全保障の観点から原子力が将来とも重要な選択肢の一つであることを踏まえて、世界の現状認識から出発し、非核保有国にして原子力発電大国である我が国が、核燃料サイクル政策を推進するために取り組むべき課題と施策を提示し、そのために核不拡散に係る個別の問題に如何に対応するかを論議した。そして原子力の安全確保と研究開発にとって重要な国際協力の項目に対する積極的取組をしめし、最後にアジア、欧米をはじめ各地域別の課題、特にアジア地域における我が国の協力のあり方について言及している。
 その中で、とくにわれわれが重要と考えたのは、我が国の核燃料サイクル政策と核不拡散問題との関連である。現状の国際政治の下における核兵器の不拡散に関する条約(NPT)体制については、様々の視点からの論議がある。例えば不平等条約論、核保有の現状固定化論などがそれである。しかし、ここでわれわれがこの問題をとりあげた視点は、我が国が非核保有国の中で再処理工場の運転と建設を進め、核燃料サイクルの確立を目指している世界で唯一の国であること及び使用済燃料の再処理から抽出されるプルトニウムを国内外に相当量保有していることからくる世界の注目にどう対応するかということである。原子力基本法と非核3原則遵守の決意とその下における平和利用開発への信頼は、核燃料サイクル政策全体の透明性と、核軍縮、核拡散防止への積極的行動があってこそ得られるのである。

 この分科会に付託された「新しい視点に立った国際的展開」という命題に応えることは容易なことではない。しかしこの報告書において資源小国、経済大国の我が国が核不拡散と安全の確保を大前提としてエネルギー安全保障と環境保全を目途に、国際的課題に主体的、積極的に取り組むかたちを示しておきたい。

第1章 新しい視点に立った国際的展開

1. 最近の国際情勢に対する認識

(1) 世界各国の情勢

 我が国の原子力平和利用の展開に関する国際的取組を検討するにあたっては、まず海外の諸情勢に対する正確な理解と把握が重要であることはいうまでもない。
 欧米においては、新規の原子力発電開発が停滞している。米国の初期の原子力発電所のいくつかは閉鎖され、全体として欧米に関しては原子炉の基数は減少している。欧州ではスウェーデンのバーセベック軽水炉発電所の閉鎖が決定された。また、フランスのスーパーフェニックス高速増殖炉の閉鎖が決定された。これらの背景としては、エネルギー、電力の分野における規制緩和、市場化の進行、特に欧州においては脱原子力、反原子力を掲げる政党の政権参加、広域的エネルギー供給網の整備等さまざまの状況がある。
 しかし、米国においては、電力供給の約20%、欧州においては約30%が原子力であり、稼働率の良い既存の発電所からの発電コストは化石燃料のそれと十分に競争可能とされている。また米国においては過去10年以上も新規の原子力発電所の運転開始がなかったのは、相次ぐ規制強化や変更に伴い建設費が大幅に上昇する一方、電力自由化の進展と共に優位な経済性を持つ天然ガスによるコンバインドサイクル発電1が選択されたためであり、必ずしも脱原発、反原発ということではない。また欧州ではEU統合を背景に、近年、電力、天然ガスの供給網の発達が著しく、エネルギー問題は各国別の事情よりも地域全体で把握する必要があり、例えばフランスの原子力発電所からの電力は、周辺各国に輸出されている。しかし欧州では、チェルノブイリ事故の後遺症を拭い去ることは難しい。
 現在、世界全体では約2割の電力が原子力によって供給されているが、その内の約17%は日本を含むアジア地域であり、北米、欧州はそれぞれ約35%、である。経済協力開発機構/国際エネルギー機関(OECD/IEA)2の予測では、北米と欧州においては減少するものの、その分をアジアがカバーするので2020年における原子力発電容量は変わらないとしている。この地域ではさまざまな不確定要因はあるが、中長期的には、依然として高い経済成長とそれに伴うエネルギー需要が予想される中で発電計画を含む原子力研究開発利用の拡大の機運が存在している。しかし、アジア地域の各国の国情はさまざまであり、原子力利用の段階も多様である。既に相当規模の原子力発電所を運転中で今後も積極的に進めていこうとする国では、国民合意の形成、使用済燃料、放射性廃棄物の処理処分に課題があり、今後導入しようとしている国においては産業技術レベル、資金調達等の問題に加え、人材養成や技術、制度面のインフラ整備等課題も多い。また、北東アジアでは北朝鮮の核兵器開発疑惑、南アジア地域ではインド、パキスタンの核保有、核実験などによる核拡散の懸念の現実化が憂慮されている。
 旧ソ連・中東欧地域においては、原子力発電は電力供給力に占める役割は大きいが、ロシア製原子炉の安全性確保の問題に加えて、旧ソ連崩壊後に生じている核物質管理の不備による核拡散の懸念が増大している。特に、解体核兵器からのプルトニウムと高濃縮ウランの適切な管理、処分について、その緊急性が高まっている。
 このような状況の中で、原子力産業は、国際競争の激化を背景にグローバル化が進展しており、欧米においては、少数のグループへと国際的再編が進んでいる。これらのグループに共通する特徴は加圧水型軽水炉(PWR)3、沸騰水型軽水炉(BWR)4双方の技術及び核燃料の成型加工、特に混合酸化物(MOX)燃料5製造の技術を保有していることであり、将来のアジア市場での国際競争において、極めて有利な立場をもつことが予想される。
 また、原子力研究開発利用を進める各国に共通する問題として、放射性廃棄物の取扱いがある。例えば韓国や台湾の使用済燃料や、フランス、スウェーデン等で進められている高レベル放射性廃棄物の処分等各国共に真剣に取り組んでいるが、その対応には苦慮している。この問題は、今後も原子力研究開発利用を進めていく上で避けて通れない問題であり、国際的に協力しながら解決を図る必要がある。

 1 コンバインドサイクル発電
石油や天然ガスなどの燃料を燃やして得た熱を、ガスタービン等を用いて電力に変換し、その排熱を利用して、更に発電をするシステム。
 2 国際エネルギー機関(IEA)
OECDの内部組織。1974年OECD理事会決定により、国際エネルギー計画の実施機関として設立され、加盟国における石油を中心としたエネルギー安全保障を確立するとともに、中長期的にエネルギーの需給構造を改善することを目的としている。
 3 加圧水型軽水炉(PWR)
減速材及び冷却材に軽水(重水に対していう普通の水のこと)を用い、高い圧力を加えて沸騰を抑える方式の原子炉。そのため、炉心で発生した熱を取り出す系とタービンへ送るための蒸気を発生する系が熱交換器で分離されているのが特徴。
 4 沸騰水型軽水炉(BWR)
原子炉の水を直接沸騰させて蒸気をつくり、蒸気を直接タービンに送って発電機をまわし発電する炉型。我が国で約30基稼動。
 5 混合酸化物(MOX)燃料
二種類以上の酸化物である核分裂性核種を含む核燃料であり、普通、酸化ウランと酸化プルトニウムの混合物を主体とした核燃料をさす。

(2) 核不拡散と核軍縮を巡る動向
 原子力の平和利用開発を円滑に実施していく上で、核不拡散体制の維持と、安全確保がその大前提である。したがって、開発の当初から、核物資や関係技術が転用されないために種々の国際的制度が設定されてきたところである。
 しかしながら、1990年代初頭からのイラクの秘密裏の核開発計画の露呈や、北朝鮮の核開発疑惑など、「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」6体制の内側からの挑戦に続き、NPT体制の外側からの挑戦として、1998年のインド及びパキスタンによる核実験が実施されるなど、核拡散の現実化という核不拡散体制に対する重大な挑戦が行われてきている。また、冷戦終焉後の旧ソ連における、不備な管理による核物質の不法流出の懸念も増大しているほか、昨今、利用目的の明確でない民生用プルトニウムの保有量の増加を核拡散の懸念の高まりとして指摘する声が強まってきている。
 一方、核軍縮の分野においては、戦略兵器削減条約(START)7交渉の進捗停滞、米国上院の包括的核実験禁止条約(CTBT)8批准否決など、1995年のNPT運用検討・延長会議において採択された「原則と目標」の具体的進展がはかばかしくない状況が続いている。このような状況の下で、核軍縮の進展の歩みも遅く、核不拡散体制の安定性・有効性に好ましくない影響を与えている。
 このような状況の下で、米露の解体核兵器からのプルトニウムと高濃縮ウランの適切な管理・処分問題について、緊急性が高まっており、当事国の責任は言うまでもないが、関係各国の国際的協力も求められる大きな課題となっている。
 2000年4月24日から5月20日まで開催されたNPT運用検討会議では、①CTBT早期発効及び発効までの核実験モラトリアム、②軍縮会議に対し兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)9交渉の即時開始及び5年以内の妥結を含む作業計画に合意することの奨励、③STARTプロセスの継続及び一方的核軍縮の推進、④核廃絶を「究極的」目標としてではなく、「明確な約束」とすること等、核軍縮・不拡散における将来に向けた前向きな措置を含む最終文書をコンセンサスで採択したが、我が国は豪州とともに8項目の提案を行い、全会一致による合意形成のための基盤を提供し、会議の成功に大きく貢献した。今次会議の合意に基づき、核兵器のない世界を一日も早く実現すべく、更なる努力を行っていく。

 6 核兵器の不拡散に関する条約(NPT)
1970年3月発効。核兵器保有国(米旧ソ英仏中)をこれ以上増やさないために、非核兵器国の核兵器保有への道を永久に閉ざす事によって核の拡散を防止する事を狙って設けられた国際的枠組みである。非核兵器国にとって不利な不平等条約であるので、国家安全保障上の理由から加盟しない国(インド等)もある。条約の期限である1995年に無期限延長が決定された(参考参照)。
 7 戦略兵器削減条約(START)
1982年から米ソ間で交渉が開始された戦略核兵器を主体とした軍備管理条約であり、START-1(第1次戦略兵器削減条約)およびSTART-2(第2次戦略兵器削減条約)の2つの条約からなる。START-1については、1991年に米ソ間で署名されたが、その後のソ連崩壊を受け、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンを協定当事国として、1994年に発効した。本条約においては、7年間で、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの戦略核兵器はすべてロシアに移送され、米ロは戦略核弾頭の総数をそれぞれ6,000発以下に削減することになっている。START-2については、1993年に米ロ間で署名され、米国は1996年に批准し、ロシアは2000年に批准のための国内法を整備した。この条約が発効すれば、米ロの戦略核弾頭は2003年までにそれぞれ3,000~3,500発まで削減されることになる。
 8 包括的核実験禁止条約(CTBT)
締約国の義務として、核兵器の全ての実験的爆発および他の核爆発を禁止しており、仮に、これらの実験的爆発および他の核爆発が行われた場合には、国際監視制度による監視活動と現地査察による査察により、核爆発の事実を確認する仕組みを規定している。CTBTは、1996年9月10日の国連総会で圧倒的多数の賛成で採択され、9月24日には条約が署名開放された。日本は、核兵器を保有する5か国に続き、同日、署名を行った。また、日本は、1997年7月8日に条約の批准書を国連に寄託し、4番目の批准国となった(参考参照)。
 9 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)
兵器用核分裂性物質生産禁止条約とは、核兵器その他の核爆発装置用のプルトニウム及び高濃縮ウランの生産を禁止する条約のことで、CTBTに続く多数国間の核軍縮・核不拡散措置の一つ(参考参照)。

(3) 原子力安全への取組
 我が国は、原子力の開発利用を開始して以来、一貫して安全確保を最優先に取り組んできたと認められる。この間、国際協力を通じて得られた知見や経験を国内の安全確保対策に役立てるとともに、我が国で培われた安全確保対策のノウハウを積極的に関係諸国、機関に提供することにより、世界の原子力安全の向上に努めてきた。具体的には、国際原子力機関(IAEA)10、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)11等の国際機関を通じた多数国間協力、二国間の原子力協力協定等に基づく二国間協力等の枠組みの中で、規制情報、技術情報の交換、人材交流等を行うとともに、事業者においても、世界原子力発電事業者協会(WANO)12等の枠組みを通じ、他国の事業者との意見交換や交換訪問等を行っている。
 このような中、1999年9月に茨城県東海村において発生したウラン加工工場臨界事故(以下、「JCO事故」という)は、2名の死亡を含む3名の作業者の重大な被ばく、周辺住民への避難要請、屋内退避要請が行われるなど、我が国原子力開発利用の歴史上最悪の事故となった。40年以上にわたり安全確保を大前提に原子力の開発利用を進めてきた我が国において、このような事故が発生したことは、我が国はもとより、諸外国にも大きな衝撃を与え、原子力に対する信頼を大きく損ねたことは極めて遺憾である。
 今回の事故では、国際的にも高い安全水準の達成を目指してきた我が国にあって、事故時における情報発信のあり方、更なる原子力安全文化13の醸成など、原子力安全分野全般にわたる多くの課題が指摘され、これまでに事業者における安全確保の徹底にとどまらず、国における安全規制の強化、原子力防災体制の見直し・強化の対策が講じられてきている。
 この事故により損なわれた原子力利用に対する信頼を回復するためには、これらの対策について、着実にその実効をあげるとともに、海外に対してもこれらの取組について適切に情報発信していくことが不可欠である。勿論、その取組の結果は今後の安全の積み重ねという「実績」で示していかなければならないことは言うまでもない。

 10 国際原子力機関(IAEA)
米国の提唱を契機に、1957年、国際原子力機関憲章に基づき設立され、世界の平和、保健及び繁栄に対する原子力の貢献を促進し、増大すること、また、その管理下で提供された援助が軍事的目的を助長するような方法で利用されないよう確保することを目的としている(参考参照)。
 11 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
1958年、原子力平和利用における協力の発展を目的とし、原子力政策、技術に関する意見交換、行政上・規制上の問題の検討、各国法の調査及び経済的側面の研究を実施するために欧州原子力機関(ENEA)として設立。1972年、我が国が正式加盟したことに伴いNEAに改組(参考参照)。
 12 世界原子力発電事業者協会(WANO)
World Association of Nuclear Operatorsの略。1986年のチェルノブイル事故を契機として提案され、1989年に発足した原子力発電事業者の国際的協力機関。会員相互の交流により原子力発電所の運転に関する安全性と信頼性を高めることを目的としている。運転情報の交換、運転データの収集、事故情報の交換、国際機関との協力などの活動を行っている。
 13 原子力安全文化(セーフティカルチャー)
IAEA/INSAGの定義では、「すべてに優先して原子力プラントの安全の問題が、その重要性にふさわしい注意を集めることを確保する組織及び個人の特性と姿勢を集約したもの」とされている。

(4) 地球温暖化問題を巡る状況
 地球温暖化問題は、自然の生態系の生存基盤に深刻な影響を与える地球規模の環境問題であり、その解決が急務となっている。その対策としては、省エネルギーの実施と共にエネルギー供給面の対応として、温室効果ガスの排出を極力抑制できるエネルギー源の開発、普及が求められている。
 このため、我が国においては、再生可能エネルギーの開発・導入促進に向けた努力とともに、発電過程において二酸化炭素を発生しないエネルギー源として、原子力の果たす役割に対する期待が高い。目下のところ、西欧諸国や米国においては、地球温暖化防止との関係において原子力発電の活用に積極的な考えを有する国もあるものの、実際に原子力を進める動きは見られていない。こうした中、各国は、原子力が京都メカニズム14の一つであるクリーン開発メカニズム(CDM)15の対象として、原子力を含めるか否かについて様々な立場をとっている。

 14 京都メカニズム
気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都会議)で採択された「京都議定書」(先進国の温室効果ガス排出量削減目標を設定)で規定する各国の排出量削減対策に柔軟性を与えるメカニズム。「排出権取引(ET)」、「共同実施(JI)」、「クリーン開発メカニズム(CDM)」がある。
 15 クリーン開発メカニズム(CDM)
京都メカニズムの一つ。途上国が排出削減などの事業を先進国の協力のもとに行い、持続可能な開発に役立てると同時に、この事業によって生じる排出削減量を国際的にチェックした上で、先進国(投資国など)に譲り渡し、その国の温室効果ガス削減量に加える制度。

 

2. 国際的課題への主体的な取組

(1) 基本認識

 原子力はその裾野の広さ、人類社会全般への影響の大きさから、本来国際的な視野に立って取り組むべき技術であり、原子力を将来とも重要なエネルギーの選択肢とするために、その国際的課題に対する正しい取組が極めて重要である。したがって、21世紀に向かってこの分野における我が国の果たすべき役割について、その理念と具体的政策を、国が行うべき項目を中心に内外に明確に提示するべきである。
 資源小国の経済大国日本のエネルギー安全保障にとって、原子力は極めて重要であり、プルトニウムを自前のエネルギー資源として利用していく核燃料サイクル16の意義を国の政策として確認するとともに、官民協力のもとこれを世界に対してタイムリーに発信していかなければならない。また原子力開発利用を平和目的に限って行うことが、軍事利用の世界の現状に目を閉ざすことであってはならず、今後更に世界的な核軍縮と核不拡散体制の強化を目指して、解体核兵器に由来する核物質の管理処分計画に対しても、主体的に取り組んでいく。
 今後、原子力開発を適切に進めていくにあたっては、これまでの対外援助、貿易輸出的国際協力、国際貢献といった視点より、国際的課題への主体的取組と積極的対応という視点が重要である。

 16 核燃料サイクル
天然に存在するウラン資源等の製錬、核燃料への加工等を経て、核燃料として原子炉で利用されるまで、及び使用済燃料の再処理により再び核燃料として利用するという核燃料の過程の一連の流れ、さらには、放射性廃棄物が処理処分されるまでの全ての過程を総合した、ウラン資源等を有効利用するための体系。

(2) 主体的取組のあり方
 今後、我が国は、相手国のニーズあるいは国際機関等からの要請に応じて受動的に対応するだけでなく、より主体的に、また能動的に取り組む中で戦略を構築していかなければならない。
 それにはまず、原子力を巡る現在及び将来における国際的課題が何であるかを明らかにし、その上でいかに対処すべきかを考えることが大切である。また現時点での国際的課題を選択するにあたっては、将来の動向をも念頭においた長期的な視点が不可欠である。
 同時に忘れてはならないのは、「国益」という観点である。しかも目指すべきは自国の利益の一方的追求ではなく、国際社会にも寄与する、いわば「開かれた国益」である。このことは、原子力政策については、一層重要な意味を持つ。
 これまで、我が国の原子力技術は先進諸国との国際協力を通じて進展してきたが、今後は科学技術先進国の一員として、欧米やロシア等、原子力に携わる他の主要な国々と密接に連携しながら、世界の原子力研究開発利用に積極的に貢献していくことが求められており、そのための主体的な取組が必要である。その際、アジア地域に位置する先進国として、この地域の社会経済のために各国の原子力開発を支援していくことも国際的責務の一つであり、国際的動向を適切に把握しつつ、各国のニーズに対して、官民それぞれの立場で積極的に対応していく必要がある。

 

第2章  我が国の核燃料サイクル政策の推進に関する取組

1. 我が国の原子力平和利用堅持の理念と体制の世界への発信

(1) 現状認識

 平和利用の原子力開発を推進するに当たっては、核不拡散の担保と安全の確保は必須の要件である。冷戦終了後の現在、5つの核兵器国に加えて、NPTに加盟していないインド、パキスタンが核実験を行っている。ロシアにおける核兵器解体後の核物質管理の脆弱さから、核物質の不法流出の懸念があり、また、イラク、北朝鮮のように、NPTに加盟している国においても、核兵器開発の疑いが生じた例がある。
 核軍縮は、米露二ヶ国を中心に進んではいるが、必ずしも期待された程の進捗を見せていない。一方、核兵器の政治的・軍事的価値は、これ迄の核兵器国においては減少傾向を示しているものの、紛争地域にある諸国、地域における覇権を狙う国にとっての政治的意味は、今後むしろ増大していく可能性がある。
 このような国際情勢の中で、原子力の開発利用、特にプルトニウム利用政策をとっている我が国の原子力平和利用路線に対する疑念が存在することは否定できない。
 原子力平和利用路線に対する理解を求めていくためには、国内の原子力開発利用政策、開発状況についての一層の透明性を向上させ、内外へ情報を積極的に発信すること、国際的な核不拡散政策の推進に主体的に取り組むことを国の基本的政策として実行しなければならない。。

(2) 今後の取組
 我が国は原子力開発の第一歩から一貫して、人道的見地はもちろんのこと、原子力基本法に則り、民主・自主・公開の原則の下、原子力研究開発利用を平和利用目的に限って推進してきた。また、核兵器については、「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を国是とし、また、NPTに加盟し、IAEAによる包括的保障措置17を受け入れ、厳重な核物質の計量管理、適切な核物質防護18措置を実施してきている。さらに、CTBTについては、1997年に批准し、またIAEA保障措置の強化のための追加議定書19も、1999年に他の原子力先進国に先駆けて締結したところである。
 にもかかわらず、依然我が国が核兵器を開発するのではないかとの疑念が海外の論調等において表明されることがあるのは極めて遺憾である。しかしながら、海外にはこのような見方が存在することを事実として十分認識して、地道にかつ決然とした態度をもって、誤解を解く努力を続けていかなければならない。
 そのため、自ら率先して原子力平和利用に専心している姿を世界に明らかにし、我が国として非核兵器国であることの堅持が国益にかなうことを、より強力に発信することが肝要である。また、世界の核不拡散努力に協力しつつ、原子力を真に人類社会の福利に役立つものにしていくことが重要である。そのためには、自らが培ってきた科学技術力により、地球規模の問題として継続的に積極的に対応すべきエネルギー問題の解決に貢献していくことが重要である。
 今後、我が国が原子力平和利用に専心する国であることへの国際的理解を促進するためには、原子力基本法、非核三原則、NPTに基づく義務の完全履行について説明を尽くすのみならず、非核兵器国であるということが国益にかなうことを明確に示すことが重要である。日本の原子力平和利用の理念と体制を堅持することは原子力委員会の最も重要な責務であり、絶えず世界へ発信し理解を促進するよう努力していく。以下にこの点について、我が国のいくつかの主張を試みる。

 17 保障措置
原子力の平和利用を確保するため、核物質(IAEA憲章第20条で定義された原料物質、特殊核分裂性物質)が核兵器その他の核爆発装置に転用されていないことを検認すること。なお、「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)を締結している非核兵器国は、同条約に基づきIAEAとの間で保障措置協定を締結し、全ての平和的な原子力活動に係る全ての核物質について保障措置を適用することが義務づけられており、このような保障措置を包括的保障措置という(参考参照)。
 18 核物質防護
核物質の盗取等による不法な移転を防止するとともに、原子力施設及び輸送中の核物質に対する妨害破壊行為を未然に防ぐことを目的とした措置であり、平和利用に徹し安全に原子力活動を進める上で必要不可欠な措置(参考参照)。
 19 追加議定書
イラクによる核開発疑惑を契機として、IAEA保障措置の実効性を強化し及びその効率を改善することによる核兵器の不拡散体制を強化するための協定。IAEAに提供する情報の拡充、IAEAに対する補完的なアクセスの提供等について規定している。我が国は、1999年12月16日に発効(参考参照)。

① 原子力平和利用を堅持する我が国の国益

 i) 非核兵器保有の国益

 エネルギーや食料等の多くを海外に依存している我が国が、国際社会において平和裏に生存していくためには、世界が政治的、経済的に安定していることが極めて重要である。
 このため、我が国は、国際社会から信頼される国として、世界の自由貿易体制の中で、国際協調を基調として繁栄を享受していく道を選択している。核兵器開発によりもたらされるものは、日米同盟関係の崩壊、アジアを中心にした国際的緊張と反発、総合安全保障の喪失、国際的孤立とそれに伴う国内経済の破綻に過ぎず、得るものはなく失うもののみである。

 ii) 日本国民の原爆体験
 核兵器使用の悲惨さを身をもって体験した我が国は、自らが核兵器による加害者となるような政策は国民感情として受け入れられない。そもそも原子力平和利用は、このような国民感情の合意の下で始まったものであり、それは現在も受け継がれ、原子力平和利用の厳守と核兵器廃絶への願いの原動力となっている。
このように国民は核兵器に対して、特別な感情を有しており、原子力平和利用活動には高い透明性と緊張感が求められ、何らかの秘密活動を行うことは官民いずれにおいても考えられない。

② 国際的な管理システムによる透明性確保

 i) IAEA包括的保障措置

 NPT締結国の義務として、我が国はIAEAと保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質についてIAEA包括的保障措置を受け入れている(IAEA査察業務の約20~30%が我が国の査察に当てられていると推定される)。これまでIAEA包括的保障措置は十分有効に機能しており、平和利用核物質が核兵器に転用された事実がないことが常に確認されている。

 ii) IAEA追加議定書
 未申告の核物質や原子力活動の探知を目的として、1997年5月にIAEA理事会で合意された追加議定書の作成に積極的に協力するとともに、追加議定書に基づく拡大申告及び補完的なアクセスの試行を行い、1999年12月、この追加議定書を世界で8番目に締結した。
 本来追加議定書は未申告の核物質の軍事利用が懸念される国々を念頭に作成されたものであるが、原子力平和利用に専心している我が国が、大規模な原子力活動を行っている国としては最初に追加議定書を発効させた意義は大きい。

 iii) 二国間協定に基づく国際的監視
 我が国の保有している主な核物質の7割強(濃縮ウラン:73%、プルトニウム:75%。1998年末現在)は日米原子力協定の対象であることから、これらの核物質の取扱い及び管理状況についての適切な情報が米国に提供されており、原子力活動の主要部分に係る情報は米国の監視下にある。
 さらに、英国、フランス、カナダ、オーストラリア等の核燃料物質供給国との協定により、我が国に存在する核物質の殆ど全ては関係各国の監視下にある。

③ 国際的な核不拡散政策へのイニシアティブ
 プルトニウム利用の透明性向上を図るため、1992年から97年にかけて日本・米国・ロシア・イギリス・フランス等が協議の上策定した「国際プルトニウム指針」20については、我が国は極めて積極的にその策定に参画した。これは、我が国がプルトニウムの民生利用に何ら他意を有していないことの証でもある。
 また、ロシアの余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力について、我が国が培った原子力平和利用技術を基に主体的な貢献を果たしている。
 このような我が国の核不拡散政策へのイニシアティブについては、核拡散リスク低減のための国際的技術開発協力、プルトニウム透明性の一層の向上施策、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)21プロジェクトへの積極的協力、「核不拡散研究センター(仮称)」の設置構想の検討、などに向けて、今後一層の努力をする方針である。

 我が国の原子力政策は、世界の中でも強い反核感情と、特に原子力エネルギーを必要とする国情、という相反する2つの事情を背景に特有なものにならざるを得ない。これに対する国際的理解を得るため、厳に平和利用目的に限った原子力研究開発利用を前提としたエネルギー政策についての理解を促進するよう努力を強化していくべきである。


 20 国際プルトニウム指針
プルトニウム管理に係る基本的な原則を示すとともに、その透明性の向上のため、参加国が保有するプルトニウム(平和利用のプルトニウム及び軍事目的にとって不要となったプルトニウム)の量を毎年公表すること等を内容として、関係国が協議の上、策定した指針(参考参照)。
 21 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)
北朝鮮に対する軽水炉の供与、軽水炉建設までの間の代替エネルギー(重油)供給等を実施するために設立された国際機関。

 

2. 我が国のプルトニウム利用政策に対する国際的理解促進活動の積極的推進

(1) 現状認識

 現下の国際情勢は、ソ連崩壊による核拡散の懸念の増大、余剰兵器プルトニウムの管理・処分問題の緊急性の高まり、インド、パキスタンの核実験実施、民生用プルトニウムのストックの増加等を背景として、国際的に核不拡散に関する関心が高まっている。こうした中、これまでも述べたごとく、我が国が今後プルサーマル22等の本格的なプルトニウム利用を円滑に進めていくためには、世界の国々から理解と信頼を得ることが極めて重要である。
 我が国は、核燃料サイクルを国内外の信頼を維持しつつ実施していくため、国際的な核不拡散体制から要求される義務に加えて、利用目的のない余剰プルトニウムを持たないとの原則の下、毎年分離プルトニウムの管理状況を公表するとともに、適時にプルトニウムの需給見通しの試算を明らかにし、さらに国際プルトニウム指針の策定に積極的に貢献するなど、プルトニウム利用計画の透明性の向上に努めている。1998年末現在、核分裂性及び非核分裂性プルトニウム同位体の合計として、我が国は国内に約5トン、海外に約24トンのプルトニウムを保有している。

 22 プルサーマル
使用済燃料の再処理により回収されるプルトニウムを、一般の原子力発電所(軽水炉)で燃料として利用すること。海外では1980年代から利用が本格化しており、我が国では2010年までに累計16~18基において順次実施していくことが計画されている。

(2) 今後の取組

① プルトニウム利用の意義についての発信
 世界で例のない非核保有の原子力発電大国である我が国のプルトニウム利用政策、すなわち、プルトニウムをエネルギー資源として利用していくという核燃料リサイクルを前提とした原子力平和利用政策の意義・根拠、必要性、安全性、経済的側面等について、環境保全の観点も含め、海外からの問題意識に明確な回答を発信していく必要がある。
 各項目について詳述することはこの報告書の役割ではないが、例えば必要性については、資源小国の我が国にとって使用済燃料中のプルトニウムは数少ない準国産エネルギー資源であること、循環型社会の形成に向けて原子力は資源リサイクルの視点からも重要であること等、安全性については、国内の安全規制当局により、常に適切に安全性の事前確認が行われていること、また特に軽水炉におけるMOX燃料の利用の安全性については、既に欧州等で長期にわたる実績があること等、また、経済的側面については、それを判断するに当たって様々な要素があるが、海外に十分に理解できる形で正確な根拠を示して説明すること等、である。

② プルトニウム需給見通しの説明等、プルトニウム利用の透明性の向上
 プルトニウム利用に関しては、平和利用の堅持について海外に無用の懸念を抱かしめないよう、計画的にすすめていくことが必要である。しかしながら1995年8月にプルトニウムの需給見通しの試算を公表して以降、関連計画の進捗状況は以下のとおり徐々に変化している。
 すなわち、まず、供給側の計画に関しては、六ヶ所再処理23工場の建設が遅れ、竣工が2003年から2005年へ変更され、また東海再処理工場は、1997年より停止中という状況にある。次に需要側の計画に関しては、BNFL社のMOXデータ不正問題の影響で、軽水炉によるプルサーマル計画の開始の遅れが生じるとともに、青森県の大間における改良型沸騰水型原子炉24のフルMOX炉心化によるプルサーマル計画は、当初より2年遅れて2007年運転開始予定となっている。また、高速増殖原型炉「もんじゅ」は、1995年より停止中である。なお、高速増殖実証炉計画については、今後の高速増殖炉研究開発の状況等を踏まえ柔軟に対応することになっている。
 このようにプルトニウムの利用に関しては、需要と供給双方の側に不確定要素が常に存在するが、その場合においても、全体のプルトニウム需給に適切に配慮した、柔軟なプルトニウム利用をはかることとし、その利用の透明性を向上させる努力を続け、国際的理解を促進すべきである。
 我が国のプルトニウム利用の見通しについては、「利用目的のない余剰プルトニウムは持たない」原則を踏まえて、状況に対応した説明を適時に行うことが肝要であり、上述した状況について積極的に海外に説明をしていく。その上で、プルトニウムはプルサーマルによる発電と高速増殖炉などの研究開発に利用する方針に変更はなく、適切にプルトニウム利用を図っていくことを、明確に発信していく必要がある。

 23 再処理
使用済燃料から化学的プロセス等により、再び核燃料として利用できるウランとプルトニウムを分離し、それ以外の核分裂生成物等を放射性廃棄物として分離するための作業。
 24 改良型沸騰水型原子炉
日本における軽水炉技術の定着化をはかるために実施してきた第3次改良標準化の一環として、一層の信頼性、安全性の向上、稼働率・設備利用率の向上、廃棄物量の低減、運転性・保守性の向上及び経済性の向上を目指して開発された炉型であり、電気出力を135.6万kWにするとともに、従来型の沸騰水型炉(BWR)に比して種々の改良設計を採用している。改良型BWRの柏崎刈羽6号及び7号は、それぞれ1996年、97年に営業運転開始。

 

3. 国際輸送の円滑な実施

(1) 現状認識

 我が国のみならず、原子力利用を行う各国が円滑に原子力発電を行っていくには、核燃料物質、放射性廃棄物の国際輸送が円滑かつ着実に実施されることが不可欠である。なかでも、近年、輸送ルート沿岸諸国をはじめ国際的に注目を集めている英仏から我が国への高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)及びMOX燃料の返還輸送については、我が国としても国際的な理解促進のため関係各国に働きかけを行ってきた。
 これまで、我が国から英仏への使用済燃料の輸送が1969年以来、160回以上実施され、我が国の電気事業者と英仏の再処理事業者との現在の契約分の輸送については既にほとんど終了しており、今後は国内で再処理することを原則としている。高レベル放射性廃棄物の返還輸送については、1995年以来5回実施済みであり、今後十数年間にわたり、輸送が行われる見込みである。また、MOX燃料については、1999年に第1回輸送を実施したところであり、今後約10年にわたって輸送が行われる見込みである。
 これらの輸送については、国内の諸法令や、国際的な安全基準等はもとより、特にMOX燃料輸送については、日米原子力協力協定等の二国間協定上の関連する規定や核物質防護条約25等に沿って実施している。

 25 核物質防護条約
平和的目的のために使用される核物質を不法な取得及び使用から守ることを目的とする条約。国際輸送中および国内で使用、貯蔵又は輸送される平和目的のための核物質に対して適切な防護の措置を取ること、核物質に関する犯罪を規定し、容疑者が刑事手続きを免れることのないように効果的な措置を取ることなどについて規定している。本条約は、1987年に発効し、我が国は1988年にこの条約に加入した(参考参照)。

(2) 今後の取組
 こうした中、国際輸送の回数を重ねるに従い、カリブ諸国や南太平洋諸国等の沿岸諸国を中心として、輸送の安全性に対する懸念や万一の事故時の補償についての関心が示されている状況となっている。大部分が原子力利用国でないこれらの諸国の理解を得ることの困難性に加え、近年の原子力を巡る不祥事の悪影響も相俟って、これらの諸国との関係悪化が懸念されるようになってきている。このような現状において、我が国の事情、輸送の安全性等の情報発信による理解の増進、万一の事故に対する沿岸国の不安を減少するための方策の検討、多様な輸送ルートの確保、輸送回数の減少方策の検討など、取り組むべき課題が多い。
 このため、政府及び事業者においては、関係する英仏の政府及び事業者とも緊密に連携しつつ、輸送の必要性と今後の見通し、また安全性や万一の場合の補償についての説明を行うことにより、理解を促進する努力を重ねてきているが、今後、我が国の核燃料サイクル諸政策を進めるに当たっては、こうした動向をも十分考慮することが必要である。
 言うまでもなく、機微な核物質の国際輸送においては、政府間の調整手続が不可欠である。したがって、今後とも外交努力による理解活動はもちろん、政府及び事業者が密接に連携し、この問題に対応していくことが肝要である。
 また、これまでは主として我が国と欧州の間での核物質の国際輸送が問題となっているが、今後は解体核の処分を巡って、欧州と米国との間に行われることも考えられる。従って関係各国が共同して、核物質輸送の必要性の理解向上に努力しなければならないグローバルな課題となろう。 。

 

4. 使用済燃料の国際的管理の構想への対応

(1) 現状認識

 昨今、韓国、台湾等の原子力発電所の使用済燃料貯蔵量の増大と貯蔵容量の逼迫の見通し等を背景として、使用済燃料の貯蔵について、国際会議等の場においても国際共同貯蔵構想が論じられるようになってきている。韓国、台湾は、これまでのところ再処理政策はとっていない。
 我が国においては、使用済燃料は再処理するまでの間、国内において適切に貯蔵管理することを基本方針としており、原子力発電所敷地内での貯蔵に加え、発電所敷地外での中間貯蔵について、昨年必要な法整備を行い、その具体化が進められているところである。すなわち、我が国としては、自国の使用済燃料を国外の国際共同貯蔵施設に貯蔵する政策はとっていない。
 使用済燃料の国際共同貯蔵構想の歴史は古く、米国の核不拡散法の実施に関連して、国際核燃料サイクル評価(INFCE)26の場においても、制度的核不拡散の具体的施策のひとつとして提唱された。中規模原子力発電国にとっては、各国別に貯蔵施設の設備投資を行うより、関係国が共同して大型の施設を建設、運営することの経済的な理由がある。

 26 国際核燃料サイクル評価(INFCE)
核拡散防止の観点から核燃料サイクルを国際的に評価し直そうというカーター米大統領の呼びかけにより、昭和52年 10月INFCE設立総会が開催。最終総会は昭和55年2月末に開催され、下記内容を含む最終コミュニケを採択した。
・原子力に対しては、世界のエネルギー需要を満たすための役割を高めることが予測されており、原子力はこの目的のために広く利用されることが可能でありまた広く利用されるべきである。
・保障措置は核不拡散と原子力平和利用の両立のための重要な手段であり、この保障措置をさらに効果的なものとするため、保障措置の方法及び技術の改良を進めるとともに、原子力平和利用と核不拡散の調和を図るための、新たな国際制度の構築や核不拡散に有効な技術的代替手段の確立を図ることによって、核不拡散と原子力の平和利用は両立し得る  し、またこれらの措置がとられるべきである。
・原子力の平和利用に関する開発途上国の特別のニーズを満たすため、効果的な措置がとられることが可能であり、また、とられるべきである。

(2) 今後の取組
 使用済燃料国際共同貯蔵構想の実現可能性については、まず、使用済燃料の受入れを希望する適切な国があるかどうかが問題である。受入国ではなく、送り出し国や第三国のみがイニシアティブをとって議論を進めても、構想の円滑な実現は困難である。また、受入国は、国際社会が安心して核物質の長期間貯蔵を委託出来るよう政治的に安定していることはもとより、核物質管理と核不拡散努力において評価すべき実績を持つ国でなければならない。
 そもそも、使用済燃料あるいは放射性廃棄物の処分は、発生国が対応するというのが国際的な基本認識である。使用済燃料あるいは放射性廃棄物の安全な貯蔵・処分のための国際協力と国際共同貯蔵・処分計画への我が国の参画とは別問題であり、前者については前向きに対応していくべきであろう。我が国としては、使用済燃料の貯蔵技術や高レベル放射性廃棄物の地層処分についての科学的知見を共有することによって、国際社会に積極的に貢献していくべきである。

 

第3章 核不拡散の国際的課題に関する取組

1. 余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力

(1) 現状認識

 原子力平和利用の円滑な推進のための次世紀における課題としては、核拡散の懸念への対応や、余剰兵器プルトニウムの管理・処分、環境修復等の核の負の遺産の後始末がある。
 1996年4月の原子力安全モスクワ・サミットにおいて、米露の核軍縮に伴う余剰兵器プルトニウムの管理・処分が核不拡散上重要な問題として取り上げられ、そこでの合意も踏まえ、国際的にこの問題に関する技術的検討が実施されている。米国は、自国の余剰兵器プルトニウムについて、MOX燃料として燃焼する選択肢と廃棄物として地層処分する選択肢の双方を追求していくことを決定し、関連施設の建設計画を進めている。一方、ロシアでは、米露の二国間協力による取組をはじめ、仏独露等の協力によるMOX燃料製造施設建設プロジェクト、後述する我が国のアイデア等国際協力による複数の構想が進みつつある。
 1999年6月に開催されたケルン・サミットでは、我が国から軍縮・核不拡散に関する2億ドル相当の旧ソ連諸国に対するプロジェクト支援を表明しており、このうち一部を余剰兵器プルトニウムの管理・処分プロジェクトに充てていくこととしている。
 このような中で、我が国は、これまで研究開発を行ってきたMOX利用技術等の経験を用いて、ロシアの高速炉27BN-600による余剰兵器プルトニウムの処分構想を提案した。これに基づき、1999年より核燃料サイクル開発機構とロシアの研究機関との間で、共同研究を開始した。

 27 高速炉
主に高速中性子を使って核分裂連鎖反応を起こさせるように設計された原子炉。中性子の減速材を使わない。

(2) 今後の取組
 余剰兵器プルトニウムの管理・処分問題については、第一義的には米露の責任において取り組むべき問題であり、他のG828諸国等の役割は補完的なものである。 これは核軍縮の促進と核不拡散の観点から極めて重要な問題であるが、今後、国際的な支援のあり方についての検討が具体化していく中で、我が国としては、米露当事国の責任と当事国以外の協力意義のバランスを考慮しつつ、外交上の主体的な協力を行っていくことが必要である。

 28G8
西側先進諸国7ヶ国(米、英、仏、独、加、伊、日)とロシアを指す。

 

2. IAEA保障措置の強化・効率化

(1) 現状認識

 言うまでもなく、IAEA保障措置は、国際的な核不拡散体制の維持及び安定に極めて重要な役割を果たしてきている。このIAEA保障措置については、昨今、NPTに加盟し、IAEA保障措置を受け入れていたイラクの核兵器開発計画の発覚等を契機として、未申告の核物質や原子力活動の探知能力の向上を図るため保障措置協定の追加議定書が取りまとめられ、順次実施されるなどその強化に向けた取組が、国際的に進められている。
 このようなIAEA保障措置の強化への国際的取組に対して、我が国は、自らの原子力活動の透明性の一層の向上を図ることにより国際的な信頼を醸成するとともに、世界の核不拡散体制の強化に貢献するとの観点から、早期に追加議定書を発効(1999年12月)させるなど、積極的に取り組んでいる。しかし、世界的には、未だ追加議定書の締結国が一部に限られているのが現状であり、本年4月から5月にかけて開催されたNPT運用検討会議の最終文書においても、追加議定書の早期締結の重要性が指摘されるとともに、その推進のための具体的取組として、我が国の提案を踏まえ、締結促進のためのIAEAにおける行動計画の策定の検討等が盛り込まれたところである。

(2) 今後の取組

① 追加議定書の締結国拡大の努力
 追加議定書については、IAEA保障措置の強化を実効性のあるものとするためには、すべての国が追加議定書を締結することによりその普遍化を図ることが必要不可欠であり、我が国としても、NPT運用検討会議最終文書を踏まえ、IAEAはもとより関係各国との緊密な連携の下、締結促進のための様々な方途を検討しつつIAEAにおける締結促進のための行動計画の策定への積極的関与、未締結国への働きかけ等そのための努力を継続する。

② 「統合保障措置」29の検討への積極的な参画
 追加議定書のIAEAによる実施には、人的・予算的に追加的な負担が想定されるが、IAEAの資源には限界があるのも現実であり、今後の保障措置の有効な実施のための資源の確保について、IAEAはもとより関係各国による真剣な議論が行われることが求められる。
 しかしながら、追加議定書の実施に必要な人的・予算的な追加的負担をどこまで確保できるかは正確に予測できないことも事実である。したがって、そうした状況を踏まえて、今後もIAEA保障措置を効果的に実施するため、核不拡散を確保するための優先課題の再検討と明確化を進め、現実の脅威に対応したIAEA保障措置の実施のあり方について検討していくことが重要である。
 今後のIAEA保障措置の効果的な実施に関しては、現在、保障措置協定に基づく包括的保障措置と追加議定書に基づく保障措置との統合を検討する「統合保障措置」の検討がIAEAを中心として進められているところであり、その重要性については、前述のNPT運用検討会議最終文書においても指摘されている。「統合保障措置」の検討を通じて、核不拡散を確保するための優先課題に対して重点化が図られるなど、IAEAの限られた資源が効率的に用いられる仕組みが構築されるよう我が国としても引き続き積極的に参画していく。 。

 29 統合保障措置
包括的保障措置協定に基づく保障措置と、追加議定書に基づく保障措置を最適な形で組み合わせ、最大限の有効性と効率性を目指す保障措置(参考参照)。

③ 保障措置技術の研究開発への貢献
 保障措置システムの基礎のひとつは、個々の計量管理・検証等の技術である。各国の原子力の研究開発利用が進展し、多様化して行く中で、そのような様々な条件に対して保障措置を適切に実施できるよう新たな技術の研究開発を実施していく必要がある。このような技術の研究開発は、保障措置の効果を高めるとともに、その効率化にも資するものである。
 保障措置技術の研究開発については、我が国はじめIAEA加盟国は、それぞれ保障措置技術開発援助プログラムを設定し、IAEAの研究開発活動を支援してきているところである。今後とも、このようなIAEA保障措置に対する技術的支援を実施するとともに、関係各国による協力の下、保障措置技術の研究開発に積極的に取り組んでいく。

④ 国内保障措置制度の一層の充実
 我が国は、IAEA保障措置を受け入れるとともに、自ら、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)に基づき、国内保障措置制度を確立している。国内保障措置制度については、当面は、1999年12月の原子炉等規制法の改正により導入された保障措置に係る検査業務等に関する指定機関(指定保障措置検査等実施機関)制度を着実かつ効果的に運用し、今後の追加議定書の実施等による保障措置関連業務の増大に適切に対応していく。

 

3. 核物質防護への取組

(1) 現状認識

 冷戦終結後の旧ソ連・東欧諸国における核物質管理の状況を踏まえ、核物質の不法移転、海賊行為等、核拡散の懸念が国際的に指摘されている。このため、核テロリズム防止に向けた国際条約の検討が進められているほか、国内外における核物質防護のあり方について、関心が高まっている。
 核物質の国際輸送に関して、その防護措置を規定する核物質防護条約は、1987年に発効し、以来5年ごとに見直しを行うも特段改訂されることはなかった。しかし、1998年、米国が国際情勢を踏まえ、核物質防護活動の強化を認識し、IAEAにおいて本条約の改正のための専門家会合を開くことを支持する旨を表明した。その結果、1999年11月、IAEAにおいて、非公式の専門家会合が開かれた。同会合では、改正の要否を検討する前に、まずは各国の核物質防護の状況を調査することとされ、本条約の技術及び運用面の検討を行うワーキング・グループが設立されることとなった。
(2) 今後の取組
 これらの国際動向に対し、日本においては、原子力関係者の間でさえ、本問題についての関心が高いとは必ずしも言えない状況である。核物質防護のあり方をどうするかの問題については、国のみならず直接関係する産業界等の民間も一層関心を持って議論に加わる等、積極的に対応していくことが望まれる。
 国際間及び国内を問わず、全ての核物質利用全般における防護措置の国際的な共通の指針としてIAEAが定めているガイドラインは、1975年に公表されて以来実情にあわせ、1977年、1989年、1993年にそれぞれ改訂が行われてきたところであるが、1999年6月には、新たな改訂が加えられたガイドラインが公表されている。今回の改訂では、原子力施設の脅威の策定などを行い、これに応じた防護措置を採ることが明記されており、これを受け、我が国においても今後積極的に対応措置を検討していくことが望まれる。
 また、核物質防護に関する技術開発については、これまで公開することが適当でない性格のものが多かったこともあり、具体的な国際協力、国際共同プロジェクトは多くなかった。しかし、核物質防護に対する要請が強まっている現在、破壊活動に対する原子力施設や輸送容器の安全性に関する関連技術の向上は望ましいものであり、制約はあるが、我が国としても世界的な技術開発を継続し情報交換を促進していく。

 

4. 原子力資機材・技術の輸出管理

(1) 現状認識

 1974年のインドによる核実験を契機として、核兵器の水平拡散を防止するため、我が国、米国、フランス等の原子力関連技術保有国がロンドンにおいて協議を行い、1978年、原子力資機材・技術の輸出に係るガイドライン(ロンドン・ガイドライン)が合意された。このガイドラインの合意に伴い、原子力資機材・技術の保有国により構成される原子力供給国グループ(NSG)が発足した。NSG参加国(2000年6月5日現在で38カ国)は、同ガイドラインに基づいた国内法令を整備し、原子力資機材・技術について輸出管理を実施している。
 また、湾岸戦争後1990年に入り、国連が実施したイラク特別査察により、汎用機材が核兵器開発目的に広く使用されていたことが発覚したことを契機に、汎用機材に係る輸出管理強化の必要性が強く認識されたため、1992年には、原子力専用機材を対象とする既存のガイドラインに加えて、原子力開発に利用可能な汎用機材・技術を対象とするガイドラインが新設された。

(2) 今後の取組
 ロンドン・ガイドライン等に基づく輸出管理の着実な実施は、核兵器の水平拡散防止及び原子力の平和利用の促進のために重大な意義を有するものであり、我が国としては、他のNSG参加国等とも協調しつつ、原子力資機材・技術について、今後とも引き続き厳格な輸出管理を実施していくことが必要である。

 

5.CTBT早期発効及びFMCT交渉開始に向けた努力

(1) 現状認識

① CTBT(包括的核実験禁止条約)
 1996年9月に国連で採択され、我が国は1997年7月に世界で4番目に締結したCTBTは、核不拡散・核軍縮を着実に進めるうえで重要なステップの一つである。本条約は、2000年3月末現在、署名国155ヶ国に上るが、その批准が本条約の発効要件となっている発効要件国44ヶ国中批准国は未だ 28ヶ国であり、その早期発効が待たれている。
 ところが1999年10月、米国上院がCTBTの批准を否決した。CTBT成立に向け指導的役割を担っていた米国において、このような事態が発生したことは大変残念なことであり、これが今後、世界の核軍縮・不拡散へ及ぼしうる影響ははかりしれない。他方、ロシアでは、2000年4月、議会において批准法案が可決された。もう一つの未批准の核兵器国である中国については、批准につき前向きな発言を繰り返しており、早期批准が望まれる。
 我が国としては、条約の早期発効に向けた取組として、1999年10月に行われたCTBT発効促進会議において議長を務めた他、未批准の発効要件国に対し批准促進を働きかける外務大臣メッセージを発出したり、ミッションを派遣する等CTBT批准促進キャンペーンを実施している。今後もこうした努力が、特に米国及び中国に対して継続されるべきである。

② FMCT(兵器用核分裂性物質生産禁止条約、通称カットオフ条約)
 1993年、条約交渉開始を勧告する国連総会決議がコンセンサスで採択されて以来、ジュネーブ軍縮会議30において条約交渉開始の準備作業が行われ、1995年3月、カットオフ特別委員会の設置が決定された。しかし、核軍縮に関する特別委員会の設置問題めぐり交渉国間の意見が対立し、その後3年以上にわたり条約交渉は開始されなかった。1998年5月の核実験の後、インド、パキスタンはFMCT交渉に積極的に参加する旨表明し、右を機に交渉開始への機運が再び生まれ、同年8月11日、同条約交渉のための特別委員会の設置が改めて決定されたが、1999年会期においては、再び交渉国間の意見の対立から同委員会は設置されず、2000年会期においても同委員会の再設置に至っていない。2000年4月に開催されたNPT運用検討会議の最終文書において、ジュネーブの軍縮会議に対し、カットオフ条約の即時交渉開始と5年以内の妥結を含む作業計画に合意することが奨励された。

 30 ジュネーブ軍縮会議
66カ国の加盟国で構成される唯一の多数国間軍縮交渉機関。年会期はそれぞれ10週間、7週間、7週間の3会期に分割される。ジュネーブ軍縮会議は直接国連の配下機関ではないが、毎年1回または適当な場合には、より頻繁に国連総会に対し、報告を提出する。

(2) 今後の取組
 CTBTに関しては、引き続き、我が国として関係各国に対し、主体的な働きかけを行うとともに、一方で、CTBTがいつ発効しても対応可能なように、我が国国内の体制も早急に整備していく。特に、主として米国の批准促進に資する観点から、新たな動きとして、2000年3月に、CTBTに限らず、広く軍備管理・軍縮・不拡散分野において日米が協力するための枠組み(日米軍備管理・軍縮・不拡散・検証委員会)が設立された。こうした枠組みを通じ、CTBT発効促進に向け、日米が共同の取組を行ったり、あるいはCTBT検証技術の向上に向けた研究開発協力を展開するなど、具体的な協力活動を進めていく必要がある。
 他方、FMCTに関しては、我が国は、ジュネーブ軍縮会議において、核軍縮に関する特別調整者の任命を提案した。また、FMCTの技術的問題について検討を開始することを提案した結果、1998年5月、FMCTに関する技術的問題検討会合を開催するなど、FMCT交渉開始に向けた努力をしてきたところである。今後とも外交ルートを通じた努力を傾注するとともに、ありうべき同条約の検証手段についても技術的検討をすすめていく。

 

6. 核不拡散への取り組みに対する我が国のイニシアティブ強化

(1) 現状認識

  核不拡散上の国際的義務は誠実に遵守し、IAEAとの追加議定書もいち早く発効させたことは特筆すべきことであり、保障措置技術開発の国際協力においても積極的に参加するなど、核不拡散体制の維持・強化に貢献しているところである。
 今後とも、原子力発電や核燃料サイクルの分野において、日本が世界において重要な役割を果たすことを考えれば、我が国の平和利用への姿勢を一層明確にし、国際的課題への主体的な取組をさらに充実させていく必要がある。21世紀における冷戦終結後の新しい国際秩序作りの過程において、世界の核不拡散体制の強化と普遍化によって国際社会の安定に貢献するという日本の役割は大きい。

(2) 今後の取組

① 核拡散リスク低減のための国際的技術開発協力
  核拡散を防止するためには、保障措置を中心とする国際的制度の強化に加えて、核拡散抵抗性を向上させる技術、すなわち、核拡散抵抗性の高い原子炉・燃料サイクル技術、核物質防護・管理・計量関連の技術の役割は重要であり、その開発を主体的に推進するとともに、こうした技術開発の国際協力に積極的に取り組んでいく。
 技術のみでは、核不拡散の危険を排除することは不可能であるが、将来の原子力システムはより高い核拡散抵抗性を有する核の転用の可能性を減じた技術に基づくことが要求される。これには核物質を、より転用し難い形あるいは転用の魅力に乏しい形に変えること、核物質を処理する際の損失を最小にすること、また高度な核物質防護・管理・計量関連技術を開発、使用し、転用、盗用などを防止すること、なども含まれる。またNPTや軍縮条約に係わる検認を強化する新しい技術の価値も考慮すべきである。国際的な核不拡散体制の強化を増進するための、我が国としても効果的な多国間の技術協力を目指すことが必要である。

② プルトニウム利用の透明性の一層の向上施策
 現在、世界全体の民生用プルトニウムの在庫量は増加しつつあり、核不拡散・核物質防護の観点から、国際的な懸念の高まりがみられる。既にプルトニウムを所有する関連9カ国(米国、ロシア、フランス、英国、中国、ドイツ、日本、ベルギー、スイス)が合意した「国際プルトニウム指針」では、プルトニウム利用に係わる基本的な原則を示すとともに、その透明性向上を目的として、各国のプルトニウム在庫量(使用済燃料に含まれるプルトニウムも含む)を、核燃料サイクル政策とともに自主的に公表することとしている。今後は、この指針に基づく透明性向上など情報公開をさらに徹底し、対象国も拡大していくことが望ましく、また、需給バランスの重要性の認識を深めつつ、在庫の安全かつ確実な管理のあり方について、十分検討していくことが重要である。このための我が国の積極的な貢献、具体的な施策が期待される。
 また、NPT運用検討会議では、「国際プルトニウム指針」の作成に続き、高濃縮ウランについて同様の検討への期待が表明された。この指針の作成と、その枠組みへの関係国の参加は、国際的な核不拡散体制の強化に資すると思われるので、我が国としても、その枠組みづくりに貢献すべく検討を進めることが望まれる。

③ 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)プロジェクトへの積極的協力
 KEDOは、1994年の米朝間の合意に基づき、核兵器開発疑惑の対象となった北朝鮮の黒鉛減速炉31及び関連施設を凍結・解体するとともに、北朝鮮がIAEAとの保障措置協定の完全履行を受け入れることと引き換えに、北朝鮮に対し軽水炉を供与するための枠組みであり、1995年、日、米、韓の協力により設立された。
 KEDOは北朝鮮の核兵器開発を封ずる上で、最も現実的かつ効果的な枠組みであるとの認識のもと、我が国としてもこれを支持し、軽水炉建設のための10億ドル相当円の資金協力やKEDO事務局への人材の派遣等を通じて積極的に協力してきている。
 米朝間の上記合意に基づき、北朝鮮はNPTの締約国の地位に留まっており(従って、北朝鮮はNPT下のIAEAとの保障措置協定の実施を受け入れる責任を負っている。)、また、当該核関連施設の凍結を維持しているものの、IAEAが過去の核兵器開発疑惑解明のために必要と考える措置及び保障措置協定の履行に関し、これまでのところ、必ずしも協力的な態度を示していない。米朝間の合意においては、北朝鮮に対する重要な原子力部品の供与にあたり、それまでに北朝鮮がIAEAとの保障措置協定を完全履行していること及び今後とも完全履行することを改めて確認することが前提となっている。KEDO軽水炉プロジェクトは本格工事の段階に移行する等大きな進展を見せており、北朝鮮がこれら状況を真摯に受け止め、IAEAに対する協力を開始するとともに、IAEAとの保障措置協定の完全履行を通じて北朝鮮の核兵器開発疑惑が解明されることを期待する。

 31 黒鉛減速炉
黒鉛を中性子の減速材として用いる種類の原子炉。北朝鮮は燃料に天然ウラン、冷却剤に炭酸ガスを用いる実験用の黒鉛減速炉を持っているが、1994年の米朝合意に基づき、その運転は凍結されている。この形式の原子炉はプルトニウムの生産を容易にするものとして知られている。

④ 「核不拡散研究センター(仮称)」の設置構想の検討
 核軍縮の促進や核不拡散体制整備といった国際平和秩序構築への貢献をより一層強化するため、国際的な専門家、特にアジア諸国からの専門家の参加を得て、我が国において「核不拡散研究センター(仮称)」を設立する構想を検討する。このセンターに期待される機能としては、核不拡散に関する情報の積極的な発信に加え、欧米に現存する同様のセンターと連携しつつ、政策研究とともに、必要とされる技術開発も実施することにより、総合的な視野から国際社会に対して勧告、助言を発信することである。

 

第4章 原力安全と研究開発に関する国際協力

1. 原子力安全に関する協力の推進

(1) 現状認識

 原子力研究開発利用に当たっては、安全の確保が大前提であること、また、ある国の原子力施設の事故等が他国の国民の不安を招き、その開発計画に重大な支障をもたらすこととなることから、原子力の安全確保の問題は、各国が協力して取り組むべき最も重要な国際的な共通課題である。
 原子力の安全確保は、原子力活動を行う事業者と国が責任を持つべきものであることは言うまでもない。我が国は、放射線利用に関する安全管理の世界的水準の実績はもちろん、原子力発電所等の建設・運転に関して豊富な経験がある。世界における原子力安全に係わる諸問題を敏感に受け止め、その解決に積極的に協力し、世界の原子力の安全性の向上に貢献していくことが重要である。
 原子力安全の確保に関しては、基本的考え方において広い国際的合意の下、国際基準等の形で具体化していくことが重要である。我が国は、これまでも技術的知見により、国際機関の行う原子力安全の基本思想、考え方の構築、国際安全規格基準の整備等の活動に協力してきたところである。今後とも、国際基準の基盤となる技術やデータの蓄積を含め、この分野でもより積極的な役割を担うことが必要である。特に、原子力安全に関するデータベースの構築に関しては、近年、研究開発予算の伸び悩みあるいは低減を背景として、欧米の牽引力が低下しており、我が国の果たす役割への期待が従来にも増して大きくなってきている。
 原子力安全のための国際的支援に関しては、安全性が懸念されている旧ソ連、中・東欧諸国の原子力発電所について、我が国は、二国間や多国間の枠組みを通じて協力を行ってきている。さらに、近年は、原子力研究開発利用が急速に拡大しつつある近隣アジア地域等との協力に当たっても、原子力安全規制体制の整備や安全確保のために必要な研究基盤、技術基盤の整備など安全確保に関する協力が重要となってきている。
 原子力防災については、「原子力事故の早期通報に関する条約」32、「原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約」33の締約国として、国際的な原子力防災訓練へ参加する等の多国間の枠組みを通じての国際協力、並びに防災技術の情報交換等の二国間での国際協力を実施している。

 32 原子力事故の早期通報に関する条約
締約国の義務として、原子力事故が発生し、放射性物質の影響が他国に及んだ場合、あるいは及ぶ恐れがある場合に、IAEA及び被害を受ける可能性のある国に事故の発生事実、種類、時刻及び場所を直ちに通報し、さらに、IAEAが締約国に受領した情報を提供することを定める条約。1987年7月に我が国において効力が発生した。
 33 原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約
締約国が援助を必要とするときは、他の締約国、IAEA等の国際機関に援助を要請し、要請された国は、援助を提供できるかどうかを直ちに決定し、援助を行うことを定める条約。1987年7月に我が国において効力が発生した。

(2) 今後の取組
 世界の原子力研究開発利用におけるフロントランナーの一員として、グローバルな視点で、原子力安全研究を積極的に進めるとともに、原子力安全技術の継承・発展を図り、国際機関を通じた協力や二国間協力に参加して世界の原子力の安全性向上に向けて一層の努力を続けていく。
 特に、近年欧米では、原子力安全に関する技術的知見を提供する大型研究施設の維持が困難になっている状況に鑑み、我が国の研究施設を維持・活用するとともに、これらの施設に欧米及びアジア地域の研究者を受け入れ、研究の一層の活性化を図る。研究で得られる知見やデータは、IAEA、OECD/NEA等の国際機関とも連携しつつ、国際公共財として積極的に国際社会に提供していく。
 原子力安全分野の国際協力において、国毎に異なる条件に配慮しつつも、国際基準の整備に向けて、我が国は積極的にリーダーシップを発揮すべきである。特に、原子力施設の安全確保に関連した国際的教育プログラムを我が国は積極的に推進すべきである。また、高レベル放射性廃棄物の処理処分の安全確保に係わる理解促進に資する観点から、関係基準類の整備や関連技術のデータベース化について、先進国間に止まらず途上国も対象に含め、国際機関を積極的に活用した協力の枠組み作りを推進していくべきである。
 また、アジア諸国との協力においては、相手国の国情や計画に合わせて安全規制に従事する人材の育成、規制関係情報の提供等の協力を二国間で行っていくほか、アジア原子力協力フォーラム34、IAEA特別拠出アジアプロジェクト35等、我が国が大きな役割を果たしている従来からの協力枠組みを効果的に活用し、アジア地域での原子力の安全性の向上を図る。
 このように、原子力安全に関しては、安全規制に係る様々な取組が国を中心に行われているが、世界原子力発電事業者協会(WANO」)の活動を中心に、民間でも海外事業者との情報交換等を通じて原子力安全文化の醸成支援を推進している。
 JCO事故時の反省から、電力会社をはじめ原子燃料加工に係わる企業やプラントメーカー、研究機関等30を越える企業、機関は原子力関連産業全体の安全確保と安全意識の共有化を図るため、原子力安全に関する情報交換や各事業者の相互評価を図る「ニュークリアセーフティネットワーク」を設立した。また、事故トラブルの時には、特に海外へも情報をタイムリーかつわかりやすく情報発信することの重要性が認識された。今後は、諸外国との連絡体制の整備、外国報道機関への情報提供体制の整備など、諸外国との迅速かつ正確な情報連絡体制の構築・強化を行っていく。

 34 アジア原子力協力フォーラム
我が国の原子力委員会が主催する地域協力のための枠組み。1)各分野における具体的な地域協力活動、2)活動の全体調整及び議論の場となるコーディネーター会合及び3)大臣級会合により最終決定を行うフォーラム本会合からなる(参考参照)。
 35IAEA特別拠出アジアプロジェクト
近隣アジア諸国(中国、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン)を対象に、同地域における原子力安全性支援のためのマルチプログラム。アジア諸国における原子力施設(原子力発電、研究炉)の安全の向上、特に規制当局及び技術的支援組織の能力の向上を図ることを目的としている。

 

2. 研究開発協力の推進

(1) 現状認識

 原子力の研究開発を推進するに当たっては、国際的ニーズと国内的ニーズに対応した相互協力により相乗効果を図るため、我が国としても国際協力を積極的に展開してきたところである。これにより、協力相手同士の持つ知識の集約と資源の節約が可能であり、従って開発リスクも分散できた。また、欧米の技術のキャッチアップ的な要素が強かったこれまでの協力においては、人材養成的な要素や、研究開発の国際的評価の効果も期待されていたと言える。
 昨今の世界の原子力の研究開発を取り巻く状況においては、人材、施設、資金といった研究開発資源について大幅な伸びが期待できないことに加え、産業のグローバル化と自由化が進展している中で、国際協力の有効性がますます増しているといえる。
 原子力研究開発分野における欧米の牽引力の低下や、アジア地域における今後の原子力研究開発利用の拡大の見通しを踏まえ、我が国には、研究開発分野においても、これまでのキャッチアップ重視の態度から、フロントランナーにふさわしい主体性のある国際協力が求められている。

(2) 今後の取組

① 国際共同研究開発への挑戦
  新しい挑戦に対する心性的、文化的抵抗を打破して、全く新しい技術概念の開発や既存の原子力技術の突破口を指向する革新的な技術開発等、国際共同研究開発に積極的に挑戦していく。その際、他国の主導するプロジェクトに部分的に貢献するのではなく、総体としての技術システムのマネージメントについて挑戦していくという考え方に立って、先進諸国と協調しつつ推進していく。
 一方、研究開発資源を最大限に活用する観点から、我が国が保有する優れた各種研究開発施設について、積極的に海外研究者に開放し、世界の研究開発の中核的拠点としての役割を果たす。特に、我が国の地政的な特徴を考えた場合、アフリカに対する欧州、南米に対する米国と同様の位置づけとして、北東アジア、東南アジアにおける原子力研究開発の拠点としての我が国の役割が、今後一層重要性を増していくと考えられる。このため、北東アジアに対しては、主にエネルギー利用や原子力安全といった分野、東南アジアに対しては、主に放射線利用、放射線安全や人材養成といった分野を中心として、研究開発等の場と機会を提供する役割を担っていく。 。

② 高速増殖炉関連技術、先端的研究開発に関する国際協力の推進
 高速増殖炉と関連する核燃料サイクルに係わる研究開発を効率的に推進し、得られる成果及び知識を世界的に共有する必要があり、今後も一層共同研究の実施、情報交換、研究者の交流といった国際協力を積極的に推進していくべきである。特に、我が国が保有する高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉「もんじゅ」を始めとする各種試験施設を海外の研究者に開放するとともに、海外の各種試験施設を積極的に活用していくことが重要である。
 さらに、例えば、高温ガス炉36を用いた水素エネルギーシステムの研究開発といった先端的な研究開発についても、積極的に国際協力を進める。

 36 高温ガス炉
冷却材としてヘリウムガスを使用し、高温の冷却材を得る原子炉をいう。燃焼度が高く、プルトニウム燃焼炉としても使用可能。

③ 放射性廃棄物の処分研究開発に関する国際協力の推進
 高レベル放射性廃棄物に係る地層処分研究開発は、各国共通の技術的課題が多いことから、評価手法や評価結果の妥当性について相互に比較・検討するなど、国際的な協力を推進することは重要である。また、我が国を始め各国が推進している深地層研究施設計画において、各国が専門的知見や技術を持ち寄り、協力して研究開発を行うことにより、研究開発資源として共有し、有効に活用することが可能となる。こうした考え方の下、高レベル放射性廃棄物処分に係わる研究開発を効率的に推進し、得られる成果及び知識を共有する必要があり、今後も一層共同研究の実施、情報交換、研究者の交流といった国際協力を積極的に推進していくべきである。このため、2国間の協力のみならず、OECD/NEAやIAEAといった国際機関を活用することも重要である。
 放射性廃棄物全般について、評価手法や処分の安全性に係る判断基準、放射性物質として扱う必要がないものと区分するクリアランスレベル37の設定等に関し、国際協調を推進する。

 37 クリアランスレベル
当該物質に起因する線量が「自然界の放射線レベルと比較して十分小さく、また、人の健康に対するリスクが無視でき」、「放射性物質として扱う必要がない物」を区分するレベルをいう。

④ 核融合炉研究開発への積極的な協力
 我が国の核融合研究開発については、国際競争の中で世界をリードする潜在能力を有するにいたっている。一方、原子力に特徴的な大型施設の必要性は、国際協力の必要性を益々高めている。このような状況の変化に対応し、各国との競争と協力の調和を図りつつ、これまでの共同研究の実施、情報交換、研究者の交流といった国際協力の基盤に立って、さらに新たな国際協力のあり方を構築していくことが必要である。
 国際熱核融合実験炉(ITER)計画38については、我が国の核融合研究開発の中核的役割を担っているとともに、EU及びロシアにおいても次世代の核融合研究の中核とされており、国際共同プロジェクトとして進められている。国際共同でITERを建設・運転するための新しいシステムの総合的なマネージメントを担うべく、今後ともITER計画に積極的かつ主体的に取り組んでいくことが重要である。

 38 国際熱核融合実験炉(ITER)計画
国際熱核融合実験炉(ITER)計画(International Thermonuclear Experimental Reactor)。人類の恒久的なエネルギー源の一つとして期待されうる核融合エネルギーの科学的、技術的な実現可能性を実証することを目標として進められている国際共同プロジェクト。1988年より開始され、現在は日本、EU、ロシアの3極が参加(参考参照)。

 

3. 放射線利用・放射線防護39・緊急被ばくに係る国際協力

(1) 現状認識>

① 放射線利用
  放射線は、医学、農業、工業等、様々な分野で利用が進んでおり、既に生活に無くてはならないものとなりつつある。この分野で、我が国は、アジア地域において幅広い協力活動を実施しており、相手国の安全基盤の確立、研究、技術レベルの向上に貢献してきている。

② 放射線防護・緊急被ばく医療
 アジア地域における放射線利用の普及に伴い、この地域における被ばく事故の増加をまねいている。また、放射線装置を用いている医療従事者の被ばく線量が増加してきている。
 放射線の健康影響に関する調査研究については、原爆被爆国である我が国が世界において最も広く深い知識を持つ分野であり、このことは、国際機関の放射線の防護・安全基準が基本的に我が国の被爆者の調査結果に基づいていることにも示されている。JCO事故においても、重度の被ばく者3名の治療において、我が国の医療レベルが評価されたところである。しかしながら、国内において、本分野の我が国の世界への貢献は必ずしも正当に評価されていないきらいがあり、緊急被ばく医療の分野での国際協力は未だ進んでいない。

 39 放射線防護
放射線によって引き起こされる人体障害を防ぐこと。従事者の職業被ばく及び一般公衆の被ばくを考慮した防護を行う。

(2) 今後の取組

① 放射線利用
  放射線利用分野の協力は、原子力発電を行っていない開発途上国等においても強いニーズがあり、また実施可能であるため、原子力研究開発利用への理解を促進する観点からも効果的であることから、引き続きアジア地域において積極的な協力活動を推進していく。

② 放射線防護・緊急被ばく医療
 放射線の健康影響については、我が国の広島・長崎における被爆調査結果が世界基準を策定する上で活用されているように、世界に卓越した知見であることを改めて充分認識する必要がある。したがって、我が国が高く評価されているこの被ばく医療分野において、国際的な課題に対しリーダーシップを取って取り組んでいくという国際社会への貢献について真剣に考えるべきである。
 具体的に言えば、①今後とも広島・長崎における放射線の健康影響に関する知見の国際的基準への貢献など国際的活用がなされるよう一層配慮していくこと、②緊急被ばく医療に関して、アジア版緊急被ばく医療準備支援協力といった国際協力体制を整備すること、③アジア向けの放射線防護・緊急被ばく医療の教育訓練プログラムを充実ないし開始すること、④そのために関係各省庁が円滑な連絡の上で対応できるような国内体制を整備すること、などが考えられる。

 

第5章 地域別課題への取組

1. アジア諸国との国際的取組

(1) 現状認識

 アジア地域での経済事情には、一時、悪化、混乱があったものの現在は回復基調にあり、エネルギー需要も増大傾向にある。中長期的には、原子力研究開発利用拡大の必要性、可能性の大きい地域であることに変わりはない。また、この地域の多くの国は開発途上国であり、医学、農業等の分野における放射線や放射性同位元素の利用といった非発電利用がもたらす社会経済的な恩恵にも大きくあずかる地域である。また、将来的にはこの地域での原子力発電開発は進展するであろう。
① アジア域内各国の原子力事情の多様性
 我が国は、この地域にあって、最も先進的に原子力研究開発利用を推進している国であり、アジア地域での国際協力に果たすべき我が国の役割は大きい。また、アジア地域での原子力研究開発利用の普及のみならず、我が国の原子力研究開発利用への理解と支援を得、更にアジア地域との信頼感の醸成の観点からも、良好な協力関係を維持、発展させることが重要である。
 しかしながら、アジア地域の国々は、宗教、文化、政治、社会、産業、経済においてそれぞれ固有の歴史的発展を遂げた国々であり、世界の他の地域との比較において極めて多種多様である。したがって、この地域の原子力分野における協力を考える際には、これを十分考慮する必要がある。

② 多様で広範な協力分野
 原子力研究開発利用を推進する上で、安全規制などの制度面や原子力技術を担う人材面でのインフラ整備は不可欠であり、我が国として積極的に協力できる重要な分野である。技術面でも、原子力発電技術の他、農業分野、医学分野などでの放射線の利用技術、高度な放射線利用や放射性同位元素製造のための研究炉利用技術、研究炉自身の運転・管理技術、放射線防護や緊急被ばく医療など、多様な技術協力が可能である。また、原子力安全文化の醸成は原子力安全の確保の上で極めて重要であり、技術、制度、人材養成全てにわたる協力分野となり得るものである。このように、協力の分野もまた多様で広範である。

③ 原子力協力の枠組み
 このような協力を行う枠組みとしては、各国の国情、特徴に配慮した二国間協力もしくは地域協力として実施しているほか、国際機関の枠組みも活用している。また、原子力発電に関する運転経験などの情報交換やピアレビュー(同業者による評価)では民間の協力が進展している。
 二国間協力は、1980年代半ばから本格的に始まり、これまで、原子力に携わる人材の養成、原子力の研究・技術基盤の整備、原子力安全規制体制の整備、原子力安全文化の醸成など、長期的な展望に立ち、技術向上等に係る自助努力を支援する協力を制度、技術の両面から進めてきている。例えば、具体的な人材養成の面では、関係省庁の所管する各種の制度により、アジアの技術者、研究者を受け入れ、また、我が国の経験者をアジア諸国へ派遣することで、人材交流を図り、人的基盤整備への協力を図っているところである。
 こうした二国間協力の進展と平行して、地域協力としては、原子力委員会の主催する アジア原子力協力フォーラムにおいて、情報・意見交換、技術交流の場を提供しており、地域での関連技術レベルの向上などに寄与しつつある。このほか、アジア地域において「安全最優先」の理念を確認し、実現していくための意見交換の場として、1996年及び1997年にはアジア原子力安全会議も開催された。
 また、IAEAを通じた原子力平和利用に関する技術協力や原子力施設の安全性向上に資するプロジェクトを支援しているほか、多国間協力として、1970年代に締結されたアジア・太平洋地域の地域協力である「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の下、工業、医学、生物学における放射線利用、放射線防護等の分野で域内開発途上国に対する協力を進めている。

④ 原子力発電の現状
  原子力発電の分野では、アジア各国はいくつかのグループに区分される。 既に相当規模の原子力発電所の建設、運転を行っている韓国、台湾では、使用済燃料と低レベル放射性廃棄物の処理・処分の問題が深刻化しつつある。中国は10年ほど前から急速にいくつかの建設計画を進めたが、電力の供給不足の緩和傾向や資金制約のため、現在、そのテンポが鈍ってきている。
 アセアン諸国は比較的豊富な化石燃料の利用により、原子力発電への指向はそれほど強くないが、ベトナムなどが導入に意欲を示している。
 南アジアでは、インドは20万kW前後の小型の原子力発電所を10基程度運転しているところに特徴があり、パキスタンは、13万kWのカナダ製原子炉が稼働中である他、中国から導入した30万kWの軽水炉を建設中である。

(2) 今後の取組

① 相手国の国情と開発段階に応じた協力
 アジア各国との協力は、原子力分野に限らず、特に今世紀における過去の歴史的事実を背景に様々の困難がある。したがって、原子力開発利用の協力にあたっては、まず、我が国のアジア全体との関わりを十分踏まえて進めていくことが肝要である。
 その上で今後も引き続き、各国の原子力科学技術のレベル、原子力研究開発利用の段階等に応じ、適切な計画の下、技術、制度等の面から国情にあった長期的な協力を進めていく。その際、核不拡散の遵守と安全の確保は最大の条件であり、長期的にこの方針を進めるために政治的、経済的な安定が不可欠である。前述の如く、この地域の特色である各国毎の国情の違いを踏まえつつ、安全確保と核不拡散等とが適切になされるよう、きめ細かい協力を行っていく。

② 原子力利用の基盤整備支援
 各国が自立的に原子力研究開発利用での実績を積んでいくことができるようになるためには、その国の技術向上に係る自助努力を支援し、中長期的に研究開発能力の向上を図ることが重要である。
 具体的には、アジア原子力協力フォーラム、RCAを通じた地域協力・交流を引き続き推進していく。その際、我が国からの一方的な協力あるいは支援に止まらず、地域内各国の自立を促し、各国の人的、物的、財政的資源を可能な限り活用し、相互理解に基づく相互協力活動での協力の確立を図っていく。原子力委員会が主催するアジア原子力協力フォーラムにおいては、1)研究炉の利用、2)放射性同位元素、放射線の農業分野での利用、3)放射性同位元素、放射線の医学分野での利用、4)原子力の広報活動、5)放射性廃棄物管理、6)原子力安全文化(セーフティーカルチャー)、7)人材養成の7分野で協力に関する各国のニーズの吸い上げに努め、共同研究などの具体的協力活動への展開、各種資源の有効活用が可能となるよう強化を図る。例えば、原子力損害賠償制度、放射性廃棄物管理、緊急事対応などの共通関心事項について、我が国が積極的に働きかけるということも検討する。
 また、協力活動をより具体的に強化する施策として、現役を離れた研究者及び行政官などを中心として、人材登録データベースを作成し、国内における人的協力体制の層を厚くする。この人材登録データベースを活用し、例えば、事故等緊急時に積極的な情報発信ができるような専門家の登録などが考えられる。また、従来に比べ欧米諸国における原子力開発への取組が低下傾向にあるなかで、アジアの技術先進国として日本に期待される役割から考えても、我が国は原子力平和利用の面でアジア各国に対して積極的な対応を行う必要がある。

③ 原子力発電所建設計画への対応
 将来のアジア諸国の原子力発電所建設計画への対応については、既に原子力発電を導入している中国に対する対応と同様、今後も国際競争の下、民間主体でビジネスベースにより協力していくのが適当である。民間企業に蓄積された商業発電プラントの設計、製作、保守等のハード、ソフトを十分に活用しつつ、国は、相手国との協力関係の進捗に応じ、具体的なニーズを踏まえ、二国間協力協定などによって資機材移転を可能とする平和利用等の保証取付けの枠組み作りを行い、また、原子力発電プラント建設に係る制度、人材等のソフト面での相手国の基盤整備への協力や、研究機関を中心とした基礎技術に関する技術協力などの環境の整備への協力を中心に行っていく。
 原子力発電分野において特に重要となる制度、システムのうち原子力損害賠償制度や、放射性廃棄物管理、緊急事態対応等の共通関心事項についても、我が国は地域内先進国として、国際機関等をも活用しつつ各国に積極的に働きかけ、イニシアティブを発揮していく。さらに、各国に対し、原子力平和利用の遵守と、核拡散防止への協力を前提とするよう、NPTの批准、追加議定書を含めたIAEA保障措置の受け入れ、CTBTの批准を呼びかける努力を継続するとともに、核不拡散政策の技術的基盤である核物質計量管理、保障措置及び核物質防護に関する技術について、これまで我が国の実施していた地域協力、研修等のより効果的、効率的な実施を継続することとする。
 また、WANOへの支援と協力を強め、発電所の建設と運転をワンセットとした安全性確保に最大限の努力をかたむける。

 

2. 欧米諸国との国際的取組

 欧米諸国においては、原子力は厳しい状況にあるが、依然として高い技術力を有している。我が国は、依然として原子力研究開発利用に主体性をもって進めていく計画であるが、このためには、国際的な規模で原子力研究開発に取り組んでいく必要がある。こうした視点から、我が国はこれらの諸国を引き続きパートナーとした共同研究や人材交流等、協力を率先して進めていく。

(1) 米国

① 現状認識
 我が国は原子力研究開発利用の初期段階から米国からの支援協力を受けてきたところであり、その協力関係は、我が国の原子力研究開発利用の進展とともに、一層重要なものとなってきた。その米国においては、過去10年以上も新規の原子力発電所の建設はなく、また、商業用再処理は行っておらず、高速増殖炉開発は中止して、全体的には原子力の意義が低下傾向にあるように見える。しかし、依然として100基以上の原子力発電所が稼働している世界最大の原子力発電大国であり、いくつもの有能な国立研究所と100隻を越す原子力艦船の保有を含めて、原子力技術の開発について極めて高い能力を有している。
 原子力発電に関する米国の最近の動向としては、厳しい電力の自由化が進められる中で、経済性の低い中・小型炉が閉鎖される一方、運転実績の良い原子力発電所は石炭火力より発電コストは安く、最近では原子力発電所の買収や合併等が盛んに進められている。その背景は、1990年代初期に始まった電気事業再編計画の下で、複数の原子力発電所を保有することによる運転保守コストを低下させ、更なる原子力発電の経済性の向上を目指すものである。そして、このことが結果的に安全性と稼働率の向上をもたらすとして、原子力規制委員会(NRC)やエネルギー省(DOE)も支持している。その例が、発電所許可の期間の延長であり、売却発電所についての料金上、税法上の優遇策である。
 こうした傾向から、今後5~10年の間に原子力発電所の数は現在の約100基から90~95基に、原子力発電事業者の数は現在の44社から5~10社になると予測されている。
 他方、最近の新たな動きとしては以下の2つがあげられる。
 まず、原子力の研究開発の分野では、DOEが、「原子力エネルギー・研究イニシアティブ(NERI)」40を1999年度より予算化しており、世界の科学技術のリーダーとして先端的な原子力技術を追求していこうとする米国の意気込みも伺える取組を進めている。この中には、新しい原子炉の設計コンセプトが含まれており、中小型炉、核拡散抵抗性の高い原子炉、放射性廃棄物管理技術等、我が国としても関心を有するものが含まれている。
 次に、核不拡散の面では、世界的な民生用プルトニウムの在庫量の増加による核不拡散の観点からの懸念の増大を理由として、バックエンド政策を決定していない国々に対し、使用済燃料を直接処分する政策を改めて強く奨励する方針を打ち出してきている。しかし、我が国及び西欧のプルトニウム利用政策に対する既存のコミットメントは変更しないとしている。
 特に、1999年9月のIAEA総会におけるリチャードソンDOE長官の「民生用使用済燃料とプルトニウムの在庫量の増加懸念」などの表明を受けるかたちで、その後、米国主導で、同年11月には、米国デンバーで「放射性廃棄物国際会議」、2000年3月には米国ラスベガスで使用済燃料・高レベル廃棄物の貯蔵・処分に関する「東アジア原子力協力会議」、同年3月には米国ワシントンで民生分離プルトニウムの取扱いをテーマとした科学・国際安全保障研究所の会合が開催されるなど、一連の活発な核不拡散政策に係る動きが注目される。

 40 原子力エネルギー・研究イニシアティブ(NERI)
1999年に創設された米国エネルギー省(DOE)の研究プログラムで、大学、国立研究所、民間からの提案公募型の研究推進事業(99年度46件採択)。将来の原子力利用に重要な役割を果たすための革新的研究を支援する目的で、研究対象分野は、①核拡散抵抗性のある原子炉と燃料サイクル②新型炉設計③新型燃料④放射性廃棄物管理の新技術⑤基礎的な原子力科学の5分野である。

② 今後の取組
 我が国において、再処理によるプルトニウム利用政策を推進する重要性は変わっておらず、米国のこの点についてのコミットメントも何ら変わっていないが、一方で米国は、バックエンド政策を決定していない国々に対する民生プルトニウム利用を推奨しない方針を打ち出している。これについては、原子力分野に係る我が国と米国との緊密な友好関係を維持・拡充するとともに、積極的な情報発信と直接的対話を通じて、国際的、地域的な核不拡散政策を支持・推進しつつ、核燃料サイクル政策を推進している我が国の立場への理解を深めるよう努めていく。
 緊密な友好関係の維持・拡充の観点から、21世紀の原子力産業を牽引していく新型炉の開発や核融合開発、高レベル放射性廃棄物の処理処分技術の開発、医療等への放射線利用といった幅広い原子力科学技術分野における米国との協力を一層強化していくと共に、こうした研究の多国間にまたがる国際共同プロジェクト化を促していく必要がある。
 新型炉の研究開発分野では、米国における高速中性子束試験装置(FFTF)41の運転再開検討やNERI計画の立ち上げ、第4世代原子力発電システム42開発計画の立ち上げ等の動向を注視しつつ、安全性、経済性、環境負荷の低減、核拡散抵抗性等に優れた炉と関連する燃料サイクルシステム概念に関する共同研究について、段階を踏んで米国内の国立研究所、大学等と協力を強化していくと共に、こうした研究の多国間にまたがる国際共同プロジェクト化を促していく必要がある。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発分野では、WIPP43やユッカマウンテン44高レベル放射性廃棄物処分場計画の実施に向けて知見を蓄積した米国内の国立研究所等との協力を強化していくことを通じて、地層処分に係わる性能評価モデル45の検証、安全基準類の整備や安全設計・評価に係わる品質保証システムの開発を推進していくことも重要である。
 米国との協力関係を再活性化し、人材交流、研究炉等の各種試験施設の相互活用、地下研究施設の国際共同利用等を通じ、幅広い原子力科学技術について協力を促進する。
 いずれにしても、これまで以上に、国、民間、それぞれのレベルでの対話を怠ってはならない。核拡散抵抗性の向上技術に関する研究開発に対しては、米国とも協力しつつ多国間にまたがる国際共同プロジェクト化を図るなど、積極的に取り組むこととする。解体核兵器に由来するプルトニウムや高濃縮ウランの処分についての協力は、友好関係の保持に資することはいうまでもない。
 また、2000年3月に設立された日米軍備管理・軍縮・不拡散・検証委員会は、広く軍縮、不拡散分野において技術開発も含めて、日米間の協力を促進する枠組みであり、CTBTに限らず、幅広い分野で協力を進めるためにこの枠組みを有効に活用すべきである。

 41 高速中性子束試験装置(FFTF)
FFTF(ハンフォード施設、ワシントン州)は、高速中性子を発生させる各種試験用の炉で、熱出力は40万kW,ナトリウム冷却で、1982年運転開始、1994年1月運転停止。施設は維持されており、現在、今後の活用方法等についてDOEで検討されている。
 42 第4世代原子力発電システム
DOE主唱の概念、研究プログラムで、核拡散抵抗性、環境負荷低減、安全性の向上、天然ガス発電と匹敵する経済性を有する原子炉及び燃料サイクルシステムの研究開発。原型炉、実用軽水炉、改良型軽水炉に次ぐ第4世代を指す。
 43 WIPP
廃棄物隔離プラント。軍事活動に伴い発生する超ウラン核種を含む放射性廃棄物のための最終処分場。米国ニューメキシコ州カールスバッド近郊に位置する。1999年3月より、廃棄物の搬入が開始された。
 44 ユッカマウンテン
高レベル放射性廃棄物の処分候補地。米国ネバダ州ラスベガスの北西に位置する。1987年に改訂された放射性廃棄物政策修正法により選ばれた。2010年に処理場の操業を開始する予定で、1991年よりサイト特性調査が行われている。
 45 性能評価モデル
地層処分システム全体,あるいはその要素である個別システムが有する機能について解析した結果を適切な基準と比較し,その性能について判断を行うことを性能評価といい,その解析において,考慮すべき現象を定量化するために作成される数学モデルのこと。

(2) 欧州

① 現状認識
 欧州全体に共通する動向として、電力需要の低迷、電力の自由化と規制緩和の進展、国際的送電網の整備に伴い、欧州全体が電力の単一市場になりつつあり、西欧における天然ガスパイプライン網の整備と相俟って、新規の原子力発電所建設の必要性が減少している。これに加えて近年、フランス、ドイツにおいて「脱原子力」「反原発」を掲げる政党の政権参加が相次ぎ、チェルノブイリ事故の影響も相俟って、既存の原子力発電所の閉鎖を求める運動もある。また、地球温暖化防止対策の面では、原子力発電の建設の推進ではなく、石炭から天然ガスへの転換といった方向を指向している。
 我が国との原子力分野における協力の観点から欧州で最も重要な国の1つであるフランスは、欧州で最大の原子力発電国であり、原子力先進国である。我が国は同国と、再処理、高速増殖炉開発等多様な分野で今後とも良好な協力関係を維持し、友好関係を深めていく。エネルギー資源の少ない原子力先進国であるフランスは我が国と状況が似ており、軽水炉、ウラン濃縮、高速増殖炉、先進リサイクル分野、高レベル放射性廃棄物処分研究等様々な分野で協力を進めてきている。他方、最近ではスーパーフェニックスの閉鎖の決定や高レベル放射性廃棄物の処理処分方策での多様な選択肢の検討を進めるなどの動きがある。
 ドイツについては、現政権は脱原子力政策をとっているが、政府と電力産業界の脱原子力に関する話し合いにも不透明感が強い。欧州における脱原発の政治的雰囲気は深刻な状況にあるが、例えば代替エネルギーについての具体的な議論もなされていない。また、供給網の連繋強化によりEUが単一の電力市場になりつつあり、各国個別には原子力発電所を持たなくても、結果的にフランスの周辺の国々は同国の原子力発電に頼るという状況がある。
 我が国としては、この欧州の「脱原発」に関する動向について、注意深く見守る必要がある。

④ 今後の取組
 欧州も原子力分野においては高い技術レベルを保持しており、高速増殖炉と関連する燃料サイルク、核融合等の巨大プロジェクトについて国際共同研究を進めるとともに、相互に先端的な研究施設を開放する等、フランスをはじめとする欧州原子力先進国との協力を引き続き進めていく。
 高速増殖炉開発、核燃料サイクル分野において、フランスは、ロシアとともに重要な我が国のパートナーであり、これらの協力関係をより強化することは意義がある。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分に係わる研究開発に関しても、地下研究施設を利用した地層処分システムの長期安定性評価や安全評価に係わる共同研究の推進、情報交換が重要であり、フランス、スウェーデン、スイス、EU等との協力を進めていく。
 さらに欧州とは、原子力安全、核不拡散等の規制の面についても、2国間及びEUとの対話、共同研究開発等の協力を進めることとする。
 特に、フランスは、現状においても我が国にとって重要なパートナーであり、例えば高速増殖炉開発など、関連技術の研究開発の先頭に立っている両国が協力し効率的に研究開発を推進し、牽引車としての役割を果たしていくことが期待される。したがって、高速増殖炉関連技術協力などあらゆる分野において、今後ともフランスとの協力関係の強化、緊密化が重要である。

 

3. 旧ソ連、中・東欧諸国との国際的取組

(1) 現状認識

① 旧ソ連型原子力発電施設の安全性確保等
 1986年4月のチェルノブイリ原子力発電所の事故以来、旧ソ連型の原子力施設の安全性に関する懸念が国際的に高まり、1991年12月のソ連崩壊後のミュンヘン・サミット(1992年7月)において、この問題が大きく取り上げられ、西側先進国による様々な安全支援事業が実施されている。
 旧ソ連内及び中・東欧諸国では、旧ソ連で開発された圧力管型黒鉛炉(RBMK)46及び加圧水型軽水炉(VVER)の2種類の原子炉が建設された。その後、東西ドイツの統一、旧ソ連崩壊後、旧東ドイツを中心としていくつかの原子炉発電所が閉鎖されたが、現在も多くの旧ソ連、中・東欧諸国でこれらの原子炉が運転されており、特にRBMK及び第1世代のVVERについて安全性への懸念が高い。
 また、旧ソ連においては、チェルノブイリ原子力発電所の事故で環境中に多量に放出された放射性物質による人体及び環境に対する汚染の修復や、極東の液体放射性廃棄物処理施設の建設等について、これまで我が国は2国間協力による様々な国際協力を実施している。
 原子力安全に関する責任は、基本的に当該原子力施設を所轄する国が負うという国際的に認められている原則を定着させることが重要である一方で、原子力事故は国境を越えた影響を及ぼす可能性があることから、原子力安全確保が国際社会共通の重要課題とされてきた。
 これまで、我が国は、原子力安全の分野における技術支援等を中心に、多国間協力及び2国間協力による様々な国際協力を実施してきている。

 46 圧力管型黒鉛炉(RBMK)
 圧力管型炉で減速材に黒鉛を用いた旧ソ連独特の形式の原子炉で、原子炉の事故等の際に放射性物質が外部に放出されるのを防ぐための原子炉格納容器はない。1986年にチェルノブイリで事故を起こしたものがこの形式。
 圧力管型炉は、圧力管という耐圧性の管の中に燃料集合体を納めこの管の中を冷却材が流れる形式の原子炉をいう。これに対し、我が国の主な発電用の原子炉は炉心を一つの原子炉圧力容器の中に収納し冷却材を流す圧力容器型炉であり、その外側に原子炉格納容器が備えられている。

② 旧ソ連諸国との研究協力等の推進
  我が国は、今後とも高速増殖炉及び関連する核燃料サイクルの技術の確立を目指した研究開発を行っているが、ロシアにおいても、高速増殖炉を中心とした核燃料サイクルの確立を目指した研究開発が進められ、現在運転中の高速炉BN-600に関する豊富な研究開発実績、運転経験等が、我が国の研究開発に資する可能性を有している。
 また、日本、米国、EU、ロシアが、国際科学技術センター(ISTC)を設立し、原子力研究開発分野を含む旧ソ連諸国における研究者との研究協力のための基盤整備が行われている。現在、ISTC加盟国においては、民間企業を中心とした協力者拡大を模索している。

③ 余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力
  ロシアの核兵器解体に伴い生じる余剰兵器プルトニウムの管理・処分への協力の重要性の高まりを受け、国際的に複数の取組が進められており、我が国も核燃料サイクル開発機構を通じた協力を実施している。詳細は第3章1.で記述したところである。。

(2) 今後の取組

① 旧ソ連型原子力発電施設の安全性確保
 旧ソ連、中・東欧諸国への原子力安全支援に関しては、欧州をはじめとする各国が様々な二国間協力を実施している他、IAEA、OECD/NEA等の国際機関による協力、欧州復興開発銀行の原子力安全基金及びチェルノブイリ石棺基金を通じた協力、G7やG24支援調整グループ47の活動等の多国間協力など、多様な協力の枠組み及び協力を調整するシステムがある。
 我が国が協力を行うに当たっては、これらの枠組みを活用しつつ、既存の協力活動、関係国との調整を十分に行い、協力活動の効率化を図っていく。なお、旧ソ連型炉に関しては、原子力発電所の寿命延長を計画している国が多いものの、今後寿命を迎える原子炉については、廃炉されるケースが増えると考えられ、こうした分野における技術協力の可能性について、今後、必要に応じ、検討していく。

 47 G24支援調整グループ
旧ソ連、中・東欧諸国の原子力安全確保に関する各国支援を効率的に実施するため、支援国と被支援国間の支援の実態等に関する情報交換を実施。

② 旧ソ連諸国との研究協力等の推進
 ロシアは高い科学技術の潜在能力を有しており、今後我が国がロシアと緊密な協力関係を強化していくことは、効率的な研究開発を推進する上で重要でもある。我が国の高速増殖炉分野の研究開発については、現在、ロシアとの専門家会合等を通じた共同研究等具体的な協力について協議を行っている。
 また、カザフスタンとの高速増殖炉の炉心安全研究分野での研究協力も積極的に推進していくことが重要である。この他の原子力研究開発分野に関しては、今後もISTC設立の主旨にのっとり、協力可能な分野の検討を行う。

③ 余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力
 今後、ロシアの余剰兵器プルトニウム管理・処分への協力について、国際的な支援のあり方に対する検討が具体化する中で、我が国として、核軍縮の観点、核不拡散上の観点、米露当事国の責任と当事国以外の協力意義のバランスを考慮しつつ、外交上の主体的な協力を行っていくことが必要である。具体的には第3章1.で既述した通りである。

 

4. 国際機関の積極的活用

(1) 現状認識

 IAEA、OECD/NEA等の原子力に関する国際機関の活動に対しては、国際的な共通課題の解決、合意の形成、効率的な国際協力計画の推進等を進める観点から、財政的支援ばかりでなく、これまで以上の人的貢献も含め、積極的に参画していくことが重要である。
 しかしながら、国際機関への人的貢献については、原子力関係国際機関への資金分担率に比し邦人職員数の割合が極めて低いのが現状である。例えば、IAEAの場合、我が国は米国に次ぐ世界第2位(約18%)の資金分担をしているにも拘わらず、従事する邦人職員の割合は4%にも満たない状況である。特に、課長職以上の主要なポストについては、国際機関での勤務経験が採用の重要な要件となる場合が多いことから、こうした要件を満たす邦人職員は数が極めて少なく、状況の改善は容易ではない。

(2) 今後の取組
 我が国としては、原子力に係る理解増進、各国共通の課題であるバックエンド対策、保障措置の強化・効率化、解体核から生じる余剰兵器プルトニウムの検認体制の確立、安全確保や原子力損害賠償制度整備を促進するために国際機関の活用を図るとともに、自らの技術と経験を活かして積極的に協力していくことが重要である。
 人的貢献に関しては、今後は国際機関への邦人職員の増加、主要ポストへの計画的派遣に努めていくため、国内の関係各機関において国際機関への派遣を考慮した人材養成を行い、積極的に人材派遣を行うこと等を通じて国際機関における経験の蓄積等を図っていくことが必要である。具体的には、例えば、①国際機関における経歴及び評価を国内の原子力関係組織における人事政策上のキャリアパスとして位置付けること、②応募・帰国時の積極的バックアップを実施していくこと、③中高年齢層の人材を積極的に活用すること、④国際機関の空席情報について、情報提供を積極的に行えるような会員制の登録システムを活用し、広く官民関係者の応募予定者に対して応募支援を行うこと、などにより、より多くの人材を適所へのタイムリーな派遣に努める。
 また、国際機関の中立性、普遍性を活かした国際的な基準、条約の策定や、バックエンド対策等各国共通の課題に関する国際的な合意の形成に資する、国際機関の活動に引き続き協力する。さらに、核データバンク事業等国際機関を通じた共同プロジェクトの実施により国際協力の効率的な推進を促す。
 近年、国際機関が役割を果たすべき課題の増加等により各機関とも財政事情が厳しい状況にある。国際機関への財政的支援に関しては、加盟国分担金による国際機関本来の活動とバランスを取りながら、一層効率的な運営に努めることを前提に、重要テーマに係わる活動への重点化等を促しつつ、適切な拠出を行う。また、専門家派遣等の支援は、より積極的に行う。

 

おわりに

 「何事も問題点の指摘は容易だが、解決策の提示は難かしい」といわれる。この報告書の策定においてもこのことを実感した。しかし、“はじめに”での問題意識を踏まえて、われわれは今日、可能な限りの挑戦を試みたつもりである。簡にして要を得た報告書の作成を目指したが、結果は50頁を越すものとなってしまった。それら全てが大切な成果であるが、そのうち特に強く訴えたい課題を以下にまとめて、結びとする。
 この報告書の冒頭部分で『原子力はその裾野の広さ、人類社会全般への影響の大きさから、本来国際的な視野に立って取り組むべき技術であり、原子力を将来とも重要なエネルギーの選択肢とするために、その国際的課題に対する正しい取組が極めて重要である。したがって、21世紀に向かってこの分野における我が国の果たすべき役割について、その理念と具体的政策を、国が行うべき項目を中心に内外に明確に提示するべきである。』という基本認識を述べた。その上で幾つかの重要なテーマを選んで、問題点の指摘と解決策の一端を提示している。

 1.わが国の核燃料サイクル政策への国際的理解を求めて
 この報告書の“はじめに”に始まっていくつかの箇所で「資源小国の経済大国」と並び登場するのは、「非核保有の原子力発電大国」という言葉である。その様な国が原子力の利用を平和目的に限定しつつ、再処理・プルトニウム利用を中核とする核燃料サイクル政策を進める理由と根拠を、核拡散のリスクが高まる世界の現状を懸念する海外の問題意識に、明確に応える形で示すことは必ずしも簡単なことではない。
 そのためには、こうした政策の正当性、妥当性の主張が核不拡散体制の堅持を担保する具体的措置を伴うものでなくてはならない。その中心的考え方は「利用目的のないプルトニウムは持たない」という原則である。しかし、実際には、需要と供給双方の側に不確定要素が常に存在することは避けられないし、中・短期的に計画の期待される進捗との間に時にギャップも生まれる。したがって、使用済燃料、プルトニウムをはじめとする全ての核物質を厳格に管理された状態に置くと共に、透明性をより一層向上させる具体的施策を進んで講じていかなくてはならない。
 我が国は原子力発電所で発生する使用済燃料は、中間貯蔵による計画の柔軟性を図りつつ、国内で再処理することを原則としている。これまで海外事業者に委託したものについては、核燃料物質、放射性廃棄物の国際輸送が行なわれているが、近年、輸送ルートにあたる沿岸国を中心に輸送の安全性に対する懸念が高まっている。こうした懸念は真摯に受け止め、これらの国々と外交努力による理解活動は勿論、政府及び事業者が密接に連携してこの問題に対応していくことが求められる。今後核燃料サイクルの確立に向けた諸施策を進めていくに当たっては、こうした国際輸送を巡る動向をも十分に考慮することが重要である。

 2.核不拡散体制の強化へのイニシアティヴ
 現在、核不拡散条約(NPT)を中心とする核不拡散体制は、体制の内側にあるイラク、北朝鮮、外側のインド、パキスタン双方から挑戦を受けている。このような状況の下で、我が国が世界の核不拡散体制の強化に果たす役割は極めて大きなものがある。
 我が国は、最近、未申告の核物質や原子力活動の探知能力の向上を図るための保障措置協定の追加議定書を率先して締結したが、更に未締約国の参加を積極的に働きかけると共に、従来の包括的保障措置と併せた「統合保障措置」の検討作業に積極的に参画していく必要がある。
 また、核テロ防止に向けた国際条約の検討や核物質防護のあり方をめぐって内外の関心が高まっている現在、国も産業界も、こうした議論に加わり、この問題に自ら進んで取り組んでいくことが望まれる。
 包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効及び兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の早期開始へ向けての努力については、先般のNPT運用検討会議における我が国の対応が国際的に評価されてよい。今後とも核兵器のない世界の1日も早い実現に向けて、努力を重ねていかなくてはならない。
 以上の諸施策に加えて、核拡散リスク低減のための国際的な技術開発及び朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)プロジェクトへの協力を進める。また核不拡散分野での情報発信、技術開発等を進めるため、国際的な専門家の参加を得た「核不拡散研究センター(仮称)」を設立する構想を検討する。
 米露間の核軍縮の進展に伴い、解体核兵器から生ずる大量のプルトニウムの不適切な管理から生ずる核拡散の危険防止も緊急を要する。余剰兵器プルトニウムの管理・処分は、第一義的には米露が取り組むべき問題である。しかし、我が国としてもG8諸国等と協力して、国際的な枠組みを検討し具体化していく中で、核軍縮の促進と核拡散の防止の観点から問題の重要性を強く認識するとともに、核拡散防止のための国際的活動への我が国の熱意を具体的に示す機会ととらえ、他の主要国と歩調を揃え協力していくことが必要である。

 3.安全の確保と研究開発
 核不拡散と並んで原子力利用の基本的な重要課題は安全の確保である。チェルノブイリ事故が世界の原子力開発に与えた負の影響は計り知れないものがある。我が国としては国、民間が共同して安全文化の浸透をはかるとともに、国際基準の整備に向けて、積極的にリーダーシップを発揮すべきであり、安全条約の下のピアレビューを行うとともに、WANOの備えている民間組織としての有利性と役割は充分に考慮に値する。
 一国の事故は世界の原子力利用に大きな影響を与える。昨年、我が国で起きたJCO問題はまさに痛恨の極みである。この事件が引き起こした原子力の安全性に対する内外の信頼の喪失は計り知れない。これまでの我が国の安全への努力を無にしないためにも、今後実績の積み重ねに一層努力していかなくてはならない。再発防止と防災のためのあらゆる措置を講ずると共に、国際的にも緊急時における情報の発信と入手のための具体的対応の強化と各国間の協力体制を確立する必要がある。
 国際的な研究開発の協力については多くの紙数をさくことは出来なかったが、欧米の牽引力の低下と、アジア地域における原子力利用の拡大の見通しを踏まえ、特に基盤技術の研究開発分野ではフロントランナーにふさわしい主体性をもった国際協力を行っていく。
 アジア各国の強いニーズがある放射線利用分野は、実績をもつ我が国が具体的に活動出来る中心的領域の1つであり、積極的に対応すべきである。 また、放射線の健康影響については、世界的に評価されている被ばく医療の分野でのリーダーシップを発揮していくためには国内体制の一体化を強く求めたい。

 4.地域別協力
 国際的課題への取組は、夫々の地域における事情と状況を踏まえて進められるべきであることはいうまでもない。
 今後我が国にとって多くのニーズと課題提起が予想されるアジア地域諸国との協力は、この地域が宗教、文化、政治、社会、産業、経済において夫々固有の歴史的発展を遂げている極めて多種多様の国々であるとの認識の上にたって取組が行われなければならない。まさに「アジアは1つ1つ」である。
 核不拡散と安全確保の基盤の上に、研究開発分野においては、各国の技術向上の自助努力を積極的に支援するきめ細かい取組が必要である。今年秋からスタートするアジア原子力協力フォーラムへの期待は大きい。
 アジア諸国の原子力発電所建設計画への対応については、今後とも民間主体でビジネスベースにより協力していくこととし、国は必要に応じ、二国間協定などによる資機材移転のための枠組み作りや相手国の法制度の整備、基礎技術レベル向上等のための協力によって環境の整備を行う。
 欧米諸国では、原子力開発が停滞しているが、これら諸国が永年にわたって蓄積した技術とその価値は依然として大きい。特に米国においては、原子炉技術の分野で新しい研究開発計画もたてられつつあり、あらゆる機会を捉えて人材交流、情報の交換、施設の共同利用を図りたい。核燃料サイクル技術を有する欧州についても同様である。今後ともこれら先進国との間には主体性を持った技術交流の取組を進めていく。

 最後に、この報告書は原子力の視点から国際問題を検討しているが、当然のことながら、これらは、我が国の21世紀における国際政治と外交戦略全体にもかかわっている。とくに核不拡散の国際的課題への取組を通して痛感することは、この問題と我が国の総合的安全保障との関連であり、今後、この観点からの幅広い論議を進めて欲しいと願うものである。

 約1年にわたる原子力分野における国際的課題についての真剣な論議を振り返って思うことは、混迷と複雑を増す国際社会における取組の難しさである。われわれは、「変えることの出来ないものを受け入れる冷静さと、変えることが出来るものを変える勇気と、そしてその両者を識別する智慧」(R.ニーバー)をもって21世紀の原子力政策に取り組まなくてはならない。