資料第25−3号 |
は じ め に | 1 |
第1章 クロスオーバー研究の位置付けについて | 2 |
第2章 クロスオーバー研究の実施状況について | 3 |
1.各技術領域における研究進捗状況 | 3 |
(1) 原子力用材料 | 3 |
(2) 原子力用人工知能 | 3 |
(3) 知的活動支援 | 4 |
(4) 原子力用レーザー | 4 |
(5) 放射線リスク評価・低減化 | 5 |
(6) 放射線ビーム利用先端計測・分析 | 6 |
(7) 原子力用計算科学 | 7 |
2.研究推進体制の現状 | 7 |
(1) 大学等及び民間研究機関との間のクロスオーバー | 7 |
(2) 評価の実施 | 8 |
(3) 交流の推進 | 8 |
第3章 クロスオーバー研究の新たな展開について | 9 |
1.第3期クロスオーバー研究の基本的考え方 | 9 |
2.クロスオーバー研究の効率化・活性化・高度化に係る推進方策 | 9 |
(1) 公募によるクロスオーバー研究の効率化・活性化 | 9 |
(2) 評価の充実によるクロスオーバー研究の効率化・活性化 | 10 |
(3) 研究交流の促進によるクロスオーバー研究の高度化・活性化 | 10 |
3.推進すべき研究テーマ | 11 |
(1) 放射線生物影響分野 | 11 |
(2) ビーム利用分野 | 12 |
(3) 原子力用材料技術分野 | 12 |
(4) 知能システム科学技術(ソフト系科学技術分野) | 13 |
(5) 計算科学技術分野 | 13 |
(参考1) 第3期原子力基盤クロスオーバー研究検討ワーキング・グループ検討経過及び構成員 | 15 |
(参考2) 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(平成6年6月24日原子力委員会)抜粋 | 16 |
付 録 |
我が国における原子力開発利用は、従来のキャッチアップ的技術開発から脱皮し、原子力開発利用における技術先進国の一員として、従来の技術体系に飛躍を与える創造的・革新的技術開発に積極的に取り組む必要があった。また、次世代に向けた原子力の在り方を模索し、提言としていくことが今日の日本の原子力界に問われている課題であった。
このような認識の下、長期計画において創造的科学技術の育成が基本目標の一つとして掲げられ、その中で基礎研究の充実、先導的プロジェクト等の効率的推進とともに、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発を結びつける基盤技術開発の重点的推進を図ることとされ、基盤部会が設置された。
基盤部会は昭和63年7月に「原子力基盤技術の推進について」を取りまとめ、長期計画に示された原子力用材料技術、原子力用人工知能技術、原子力用レーザー技術及び放射線リスク評価・低減化技術の4技術領域において、推進すべき研究開発課題と技術開発の効率的な推進方策を具体的に示した。
この基盤部会報告に沿って、原子力基盤技術の中で、各研究機関のポテンシャルの結集が必要であり、個々の研究機関単独では速やかに成果を得ることが困難な多岐に亙る技術開発要素からなる研究をクロスオーバー研究として、平成元年度から国立試験研究機関及び特殊法人(日本原子力研究所、理化学研究所及び動力炉・核燃料開発事業団)等の研究ポテンシャルを有機的に連携して開始した。いわば、クロスオーバー研究は、国立試験研究機関、特殊法人等が連携・協力することによる相乗効果により研究開発を効率的に推進し、原子力の分野で開発された基盤技術研究成果を産業や社会を含めた他分野に波及することを目的とした研究制度であり、自己技術分野に埋没しがちであった原子力技術にブレークスルーを引き起こし、ひいては我が国の科学技術全体を先導していくような原子力技術を研究開発するシステムであった。
さらにクロスオーバー研究は、平成5年4月の基盤部会報告「原子力基盤技術開発の新たな展開について」を踏まえ、知的活動支援、放射線ビーム利用先端計測・分析及び原子力用計算科学を新たに技術領域に追加し、拡張・発展させた第2期クロスオーバー研究を平成6年度から開始した。
クロスオーバー研究は、平成元年度に開始され、約9年を経過した。その間、クロスオーバー研究は、平成5年度に第1期を終了し、平成6年度から平成10年度の間、第2期を推進している。第2期は、国立試験研究機関及び特殊法人等において、@原子力用材料、A原子力用人工知能、B知的活動支援、C原子力用レーザー、D放射線リスク評価・低減化、E放射線ビーム先端計測・分析及びF原子力用計算科学の7技術領域に関する研究開発が進められており、平成9年度現在、のべ45研究機関により10研究テーマの研究開発が行われている。平成9年度の予算総額は、約13億円となっている。
7技術領域における研究開発の進捗状況及び研究推進体制の現状は、以下の通りである。
1.各技術領域における研究進捗状況
(1) 原子力用材料
@ 複合環境用マルチコンポジットマテリアル(MCM)の開発
本研究テーマは、第1期の「原子力極限環境材料の開発に関する研究」を引き継いで推進しているもので、原子力施設において最も重要な異種の複合環境間のバリアーとして長期供用する圧力バウンダリー材料を念頭にしてMCMの創製及び環境や材料の諸特性の解析技術の開発を目指すものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
本研究テーマでは、材料という一見漠たる課題を対象としながら、統一課題としてのMCM創製に向けて着実に進展があり、新しい複合環境材料創製に向けての的確な学術的挑戦方法が明確になっていることが高く評価される。今後は、当初目標の研究成果、波及効果を得るために、クロスオーバー性の向上を図るとともに、実用化を念頭においたMCMの実環境又は模擬環境における評価を中心とした研究を推進する必要がある。
(2) 原子力用人工知能
@ 自律型プラントのための分散協調知能化システムの開発
本研究テーマは、第1期の「原子力用人工知能を具備した原子力施設のシステム評価研究」を引き継いで推進しているもので、原子力施設のプラント異常・故障時においても、人間の対応も含め高度な対応が可能となる運転制御システム技術、保全システム技術及びロボット技術の研究開発を行うものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
本研究テーマでは、要素技術を中心に成果が得られつつあり、エージェントシステム的な機能配分、運転制御システム、保全システム技術とロボット技術を共存させる視点など、興味深く有望と思われる点も多い。一方、工場等でのプラント運転におけるヒューマンエラーの研究、原子力産業におけるロボット研究等も進んでいる。今後は、このような、外部の研究の進捗状況を勘案するとともに、知的活動支援の技術領域の研究成果を有効に活用し、研究を推進する必要がある。
(3) 知的活動支援
@ 原子力施設における知的活動支援の方策に関する研究
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、設計で想定した状況を超える事象(想定外事象)が発生した場合に、運転員に要求される知的活動を支援するとともに、その知的活動を的確に遂行するうえで要求される知的対処能力の獲得/維持を支援する方法を確立するための基礎・基盤を構成するものであった。また、平成9年度現在3研究機関が参加している。
本研究テーマでは、ソフト科学的な側面を強く持っており、原子力分野では新しいアプローチといえ、個々の研究課題の設定及びそのアプローチの選択は大枠では適切なものと評価される。一方、原子力産業における運転支援システム研究も相当のレベルにあること、本テーマによる研究成果の多くは原子力用人工知能の技術領域に展開できること等から、原子力用人工知能の技術領域と密接に協力して研究を進める必要がある。
(4) 原子力用レーザー
@ 原子力用レーザー(自由電子レーザー:FEL)実用化の研究開発
本研究テーマは、第1期「原子力用新レーザー(自由電子レーザー)の研究開発」を引き継いで推進しているもので、物理、化学、生物等の基礎研究分野に新しい研究手段を与えるとともに、ウラン濃縮、廃棄物群分離等の広範な応用が期待されるFELの高品位化、高出力化等の実用化のための技術開発を行うものであった。また、平成9年度現在、4研究機関が参加している。
本研究テーマでは、FELの基盤技術を創るとともに、要素技術間の融合により、新しい世代のFEL研究を進めるという研究が期待通り進展しているとともに、我が国のFEL研究の呼び水となったことは評価される。しかし、現状ではFELのウラン濃縮等の原子力への利用に対し経済性等の観点から疑問が呈されており、本研究テーマのクロスオーバー研究としての役割は終了したものと考えられる。
(5) 放射線リスク評価・低減化
@ 新たなDNA解析手法を応用した放射線突然変異の検出・解析技術の開発
本研究テーマは、第1期「放射線による染色体異常の高速自動解析システムに関する研究」を引き継いで推進したもので、DNA解析技術等を用いて放射線による突然変異がもたらすDNAのミクロ/ナノレベルの異常を検出し、さらにそれに基づく構造変化を解析するものであり、最終的に、線量評価及び突然変異の可視化を目指すものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
本研究テーマでは、突然変異検出法の確立、検出の自動化への寄与等の成果は得られつつある。しかし、放射線の生物効果の分子機構についての視覚化等今後解明が期待されるものも多く、今後の更なる研究を必要とする。
A 放射性核種の環境中移行の局地規模総合的モデルに関する研究
本研究テーマは、第1期の途中(平成3年度)から開始された課題で平成7年度に終了した。また、平成7年度まで、5研究機関が参加していた。
本研究テーマでは、放射性核種の大気拡散、水循環機構等の局地規模のモデルの構築や大気・土壌から植物への移行のモデル化の手がかりを得るなど成果を挙げている。
B 陸域環境における放射性核種の移行に関する動的モデルの開発
本研究テーマは、第1期「放射性核種の環境中移行の局地規模総合的モデルに関する研究」を引き継いで推進するもので、平成8年度から開始され、大気、土壌から農作物への核種移行を水循環と関連付けながら、様々な実験によりデータ・パラメータを整備し、その時間経過を追う動的解析モデルの開発を目指すものであった。また、平成9年度現在、6研究機関が参加している。
本研究テーマは、開始されたばかりであり、成果達成の途上にあるが、今後の研究推進に当たっては、農林水産系、環境系の国立試験研究機関の参加を得るなどクロスオーバー性を向上させるとともに、必要なデータを取得し、動的解析モデルの開発を更に重点的に推進する必要がある。
(6) 放射線ビーム利用先端計測・分析
@ 陽電子ビームの発生・制御技術の高度化に関する研究
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、高強度の陽電子ビーム発生及びその高品位化のための基盤技術を開発するものであった。また、平成9年度現在、5研究機関が参加している。
本研究テーマでは、世界の陽電子ビーム研究が高強度化に重点が置かれているのに対し高品位化のための制御技術に重点を置いたこと、また、実験室レベルで実用に耐えうる陽電子ビームの発生・制御技術は概ね得られたことは、十分評価される。このため、今後はクロスオーバー性の向上を図りつつ、陽電子ビームの高度化とともに材料、基礎物理・化学、バイオ技術等への応用技術の研究を行う必要がある。
A 高輝度放射光の先端利用のための基盤技術の研究開発
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、放射光ビーム形成技術及び放射光利用技術を研究開発し、放射光利用に必要なビームライン要素の基盤技術を確立することを目標としたものであった。また、平成9年度現在、5機関が参加している。
本研究テーマでは、高分解能モノクロメーター、多層膜ミラー等、第3世代放射光施設のビームラインの要素技術開発等に成果が得られつつあるとともに、これら成果を利用した大型放射光施設SPring-8ビームラインが設置され、同施設の供用が開始されている等評価される。しかし、現在ではSPring-8の運営主体である(財)高輝度光科学研究センターにおいてSPring-8のビームラインの高度化の研究が進められているとともに、日本原子力研究所、理化学研究所、無機材質研究所、放射線医学総合研究所等でSPring-8のビームライン設置に関する研究が進められており、本研究テーマの役割は終了したものと考える。
(7) 原子力用計算科学
@ 原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算科学的解析法の開発とその応用
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、ミクロ/マクロ双方の観点から、原子力用機器等の劣化・損傷機構を解明し、与えられた使用条件において起こり得る劣化・損傷影響を予測することで、劣化・損傷を未然に防ぐ効率的、経済的、合理的な材料設計、及び機械・構造設計を可能とする高度な計算手法を開発するものであった。また、平成9年度現在、4研究機関が参加している。
本研究においては、ミクロ組織(1μm〜1mm)、構造要素(マクロ組織;1mm〜1m)、構造物(0.1〜10m)の各階層について成果が挙げられつつある。一方、計算科学の分野は、ハード、ソフトとも進歩がめざましい分野であり、今後の研究推進に当たっては、内外の研究レベルを十分に勘案するとともに、「A計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明」と密接に協力して研究を進める必要がある。
A 計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明
本研究テーマは、第2期から開始されたもので、原子力システムの高性能化を図るために、並列・分散処理システムを用い、原子力特有の物理現象が相互作用した複合事象を解明するものである。また、平成9年度現在、3研究機関が参加している。
本研究においては、工学的技術(流体−構造形状の流体解析)、基礎的技術(熱伝導−対流遷移解析、等)及び計算機利用技術(高性能数値解析等)等の分野で成果は得られつつある。しかし、今後の研究推進には、並列・分散処理を行う超高速計算システムの存在が不可欠であり、科学技術庁が推進している超並列コンピュータの開発プロジェクトと十分調整する必要があること、この研究成果は、原子力用構造材の構造解析等に応用可能であること等から、「@原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算科学的解析法の開発とその応用」と密接に協力して研究を進める必要がある。
2.研究推進体制の現状
(1) 大学等及び民間研究機関との間のクロスオーバー
第2期におけるクロスオーバー研究は、国立試験研究機関及び特殊法人等の相互間の研究交流による研究開発が基本であった。大学等及び民間研究機関との関係は、クロスオーバー研究に参加した個々の研究機関の判断で、個々の研究機関と大学等又は民間研究機関との間で共同研究・受委託研究を実施したり、客員研究員等として研究機関に招聘したりする等、全体としてのクロスオーバー研究を展開した。
この方式は、限られた資金の中で、国立試験研究機関及び特殊法人等以外の大学等及び民間研究機関といった優れた研究ポテンシャルを活用するといった意味で有効なシステムである。一方、大学等及び民間研究機関へ国から直接の資金支援がなく、大学等及び民間研究機関のクロスオーバー研究への参加が促進されなかった点は今後の課題として残る。
(2) 評価の実施
第2期クロスオーバー研究は、「原子力基盤技術開発の研究評価について」(平成3年10月原子力委員会基盤技術推進部会)に基づいて研究評価を実施した。具体的には、各研究テーマの実施に当たっては事前評価を実施するとともに、平成8年度から開始された1研究テーマを除き、既に中間評価を実施した。また、平成7年度に終了した1研究テーマについては、事後評価を実施した。
(3) 交流の推進
クロスオーバー研究では、第2期から参加研究者の海外研究機関等への派遣及び海外の研究者の招聘による国際交流を開始した。
また、国内にあっては、大学等、民間研究機関等の研究者を客員研究官制度等既存の制度を活用して研究機関に招聘するとともに、研究推進に当たって各技術領域毎に産学官の研究者から構成される研究交流委員会(20人程度)を設置する等、研究交流に努めている。
さらに、各研究テーマでは、適宜、国際シンポジウムやワークショップを開催し、意見の交換、成果の普及、研究交流に努めている。
1.第3期クロスオーバー研究の基本的考え方
平成元年にスタートしたクロスオーバー研究は、第2期も終期を迎えつつあり所期の目標を達成しつつある。平成9年夏に外部有識者を加えて行われた第2期研究中間評価において、概ね優れた研究成果を挙げつつあり、十分な寄与をしているとの評価を受けている。このような背景をもとに、今後もクロスオーバー研究を積極的に推進することが適当である。
第1期及び第2期クロスオーバー研究は、国立試験研究機関、特殊法人等が協力することによる相乗効果によって原子力基盤技術に関する研究開発を効率的に推進することと、原子力の分野で開発された基盤技術研究成果を産業や社会を含めた他分野に波及することを目的に推進されてきた。
平成11年度から開始する第3期は第2期の研究成果をも踏まえて、相乗効果を目指すことはもちろんであるが、研究テーマによる違いはあるものの、相当程度長期間にわたって研究が継続される場合があることも考慮し、波及効果にも重点を置いて研究開発を推進することが適当である。従って、第3期の研究期間は5年間とするものの、中間評価が行われる3年程度である程度明確な目標が立てられる研究内容に絞り込む必要がある。
2.クロスオーバー研究の効率化・活性化・高度化に係る推進方策
(1) 公募によるクロスオーバー研究の効率化・活性化
クロスオーバー研究は、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発とを結びつける基盤技術開発を効率かつ円滑に進めるために国立試験研究機関及び特殊法人等のもつポテンシャルを最大限に活用して研究開発を推進する制度である。また、個々の研究課題の中には、大学等乃至は民間研究機関との間で共同研究等を行い、研究開発の効率化、高度化に努めており、クロスオーバー研究は産学官が有機的に連携した研究開発制度となっている。
今後は、研究テーマに参画する研究機関(研究課題)を国立試験研究機関、特殊法人等のみならず、これら研究機関を通じ大学等、民間研究機関からも公募することにし、研究機関間の競争性を高め、クロスオーバー研究を更に活性化し、研究成果を上げるよう努めることが重要である。
なお、国は、研究を推進するための機器、設備等及び研究交流を必要とする国立試験研究機関及び特殊法人等にそのための研究資金等を配分するとともに、大学等がクロスオーバーに参加し易いよう支援方策について検討することとする。
(2) 評価の充実によるクロスオーバー研究の効率化・活性化
クロスオーバー研究は、今まで「原子力基盤技術開発の研究評価について」(平成3年10月基盤部会)に基づいて研究評価を実施し、評価結果を研究推進に反映してきた。一方、昨年「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月内閣総理大臣決定)が策定され、国、研究機関等において研究評価の考え方等の策定、見直し等が行われており、基盤部会においては「原子力基盤技術開発の研究評価について」の見直しを進めていると聞いている。
クロスオーバー研究の推進に当たっては、「原子力基盤技術開発の研究評価について」の見直し結果に基づき、厳正な評価を実施し、その適切さを判断するとともに、評価の結果を適切に研究資金等の研究開発資源の配分に反映することなどにより、研究活動の効率化・活性化を図り、より優れた成果を上げていくことが重要と考える。
具体的には、クロスオーバー研究に参加する研究テーマの下の個々の研究課題について、事前評価、中間評価及び事後評価を厳正に実施し、その結果をクロスオーバー研究の推進に反映させることが重要であると考える。
なお、上記1.に示したとおり第3期後半は、中間評価結果に基づき推進する必要がある。
(3) 研究交流の促進によるクロスオーバー研究の高度化・活性化
クロスオーバー研究の特色は、研究に参加した研究者間の交流、シンポジウムの開催等の研究交流による研究の活性化・高度化が挙げられる。特に、参加研究者の海外研究機関等への派遣及び海外の研究者の招聘による国際交流は、クロスオーバー研究の活性化、高度化に大きく寄与するとともに、クロスオーバー研究の研究成果の国際的な展開に資している。また、国内においても大学等、民間研究機関の研究者等との交流も研究の推進に効果がある。 このため、海外派遣の充実、客員研究員等の充実等を中心に研究交流が更に加速にされるよう努力する必要がある。
3.推進すべき研究テーマ
上記1.の基本的考え方に基づき、本WGでは、第3期クロスオーバー研究として推進すべき研究テーマを以下のとおり選定する。
また、技術領域については、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(平成6年6月24日原子力委員会)を踏まえ、現在の7技術領域(原子力用材料、原子力用人工知能、知的活動支援、原子力用レーザー、放射線リスク評価・低減化、放射線ビーム利用先端計測・分析及び原子力用計算科学)を5技術領域(放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野)に組み替える。なお、ソフト系科学技術分野に関しては、技術分野領域が広範となるため、特に原子力施設の安全性等に波及効果がある知能システム科学技術分野を中心に据えて行う。
(1) 放射線生物影響分野
原子力開発利用の進展及び宇宙等への人類の活動領域の拡大を支える基盤技術開発として放射線の生物影響を体系的に明確化することは、安全確保の観点から極めて重要である。
@ 放射線障害修復機構の解析による生体機能解明研究
ヒトを含めて生物は放射線に対して防御機構を備えていると言われている。また、低レベルの放射線量による刺激はこの防御機能を活性化するという報告もある。そこで、防御機構の活性促進法が解明されれば、放射線作業従事者、放射線治療患者などの放射線による障害の予防・低減化、宇宙空間の長期滞在等への途が拓けることとなる。
このため、遺伝子損傷即ち突然変異の誘発から修復するまでの一連の過程をナノレベルで可視化する技術を完成し、防御機能の活性促進法を解明する。
A 放射性核種の土壌生態圏における動的解析モデルの開発
原子力施設等の事故による放射線の生物影響に関する研究開発を進めるためには、事故直後はもちろんのこと、中・長期に亙った被ばく線量評価、放射線リスク評価が必要である。
このため、環境中に放出された放射性核種の土壌生態系における蓄積のメカニズムを究明し、動的モデルを開発するとともにモデルの検証を行う。
(2) ビーム利用分野
粒子線、レーザー等各種ビームの先端的利用は新たな原子力利用の途を拓くものであり、応用の幅が広い基盤技術としてこれを推進する。
@ 高品位陽電子ビームの高度化及び応用研究
陽電子ビームは、物質表面の微細構造等を分析するのに適しており、次世代半導体、表面機能材料等の開発等のため世界各国で陽電子ビームの発生・利用に関する研究が進められている。
このため、高品位な陽電子ビームの高度化を図るとともに、物質最表層の構造等の物性解析への応用技術を開発する。
A マルチトレーサーの製造技術の高度化及び利用研究
マルチトレーサーは、多数のRIを含んでおり、生物学、基礎医学、臨床、環境科学、材料物性研究等への様々な応用が可能である。
このため、マルチトレーサーの製造技術の高度化のための研究開発を行うとともにマルチトレーサーの各種γ線を同時計測する手法の開発等を行う。
B アト秒パルスレーザー技術の開発及び利用研究
アト(10−18)秒オーダーのパルスレーザーの利用により放射線照射による材料・構造物等の劣化現象の解析等の原子力分野のみならず新素材生成のメカニズムの解明等他分野への波及効果も大きい。
このため、アト秒オーダーのパルスレーザーの発生の実証及び高度化を行うとともに、そのための計測技術の開発等を行う。
(3) 原子力用材料技術分野
材料技術については、21世紀の新しい原子力技術の発展の鍵となる基幹的要素技術であり、他の分野への波及効果も大きいものと期待されることから基盤技術としてその研究開発を進める。
@ 原子力用複合環境用材料の評価に関する研究
劣悪な環境の下で構造材としての機能を喪失しないマルチコンポジットマテリアルは、原子力エネルギーシステムにおいてニーズの高い複合環境用材料の一つである。
このため、マルチコンポジットマテリアルの複合化技術と諸特性のモニタリング技術について、放射線作用と物理的化学的な侵食・腐食作用が重畳した実機条件に近い模擬環境下の諸特性評価試験を実施して、実用化を念頭にした諸技術の最適化を図る。また、開発手法の整備を行うとともに総合的な材料設計評価等を行う。
(4) 知能システム科学技術分野
人間の知的活動の解明とそのコンピュータ等による代替技術の開発を含むソフト系科学技術の応用は、巨大かつ複雑な原子力施設の運転・保守等をより確実で扱い易いものにし、安全性の一層の向上等を図るために重要である。
@ 人間共存型プラントのための知能化技術の開発
原子力プラントの安全性/信頼性の向上のための方策の一つとして、知的情報処理技術、ロボット技術等のプラントへの導入による運転員・作業員の肉体的/精神的負担の軽減があげられる。
このため、原子力プラントの適応性を実現するための知能化技術および人間との協調技術の開発を行い、運転員/保守員の負担の大幅な軽減,さらには総合的な原子力プラントの安全性の確保を図る。
(5) 計算科学技術分野
原子力分野でも計算科学は進展しているものの、一般科学の分野ではスーパーコンピュータの導入や並列処理化の進展等、近年の情報処理技術の高速化・高度化はめざましく、これを基盤技術として積極的に原子力技術分野に応用することにより、新たな技術展開が可能となる。さらに、その研究成果は広く一般科学技術への波及効果が期待される。
@ 計算科学的手法による原子力施設における物質挙動に関する研究
原子力機器の信頼性、安全評価技術の高度化、機器の長寿命化による経済性の向上等が要求されており、原子力用高温機器材料の寿命の高精度の予測等の技術開発が必要とされている。
このため、現在急速に発展しつつある並列計算機を用い、計算科学による手法を適用することにより,これら原子力材料科学及び構造、流体工学の基本的問題の解決を探ることを目標とするとともに、広く材料科学、流体工学一般に共通するミクロからマクロのマルチスケールの観点から材料の熱的・機械的性質の研究、構造工学における高精度大規模計算等を行ない、数値シミュレーションによる科学研究手法の確立を目指す。