付 録





第3期原子力基盤クロスオーバー研究で推進する研究テーマの概要



本資料は、「原子力基盤クロスオーバー研究の展開について」の第3章3.に提示された第3期 原子力基盤クロスオーバー研究の研究テーマの理解を助けるため、その考え方を整理したものである。

研究テーマ名:放射線障害修復機構の解析による生体機能解明研究(放射線生物影響分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期のクロスオーバー研究では突然変異のミクロ/ナノレベルでの検出及びその解析技術の開発を積極的に進めてきた。
 第3期では、傷害修復・回復機構において重要な役割を担う生体機能因子の解明を試み、放射線突然変異の検出・解析やその変異誘発機構解明を行うための先端技術の開発に役立てる。 このような視点に立ち、損傷部位のナノレベルでの検出からその修復及び突然変異を誘発する一連の過程の可視化を達成する。
(研究内容)
 平成13年度まで放射線損傷機構の解析研究を進めることにより検出・解析技術を開発し、可視化を達成する。平成14年度〜15年度で修復機構の解明による回復促進解析系への利用を図る。

(想定される研究課題例)
 ○ 放射線損傷修復機構の解析
 ○ DNA損傷修復に働く分子複合体の構造と機能の解明
 ○ 放射線感受性部位の高次構造の解析
 ○ 放射線によるDNA2本鎖切断と突然変異誘発・抑制機構の研究
 ○ 放射線損傷部位のナノレベルでのビジュアル化システムの開発

@ 生物はある程度まで放射線に対する抵抗性を持つとの報告もある。本研究は、現在困難とされている障害回復を促進させる方策の開発へ繋ぐことが期待される。
A 細胞の損傷は放射線以外の環境変異原によっても誘発される。修復機構は放射線以外の環境因子にも共通するものと考えられ、生物、基礎医学分野の研究課題の1つである。

研究テーマ名:放射性核種の土壌生態圏における動的解析モデルの開発(放射線生物影響分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第1・2期において、環境中での核種挙動の解明、移行予測モデルの確立、そのパラメータ設定などの研究を推進してきた。放射性核種の大気拡散モデル、大気−土壌−植物系における水を介しての核種移行のメカニズム等で成果が得られた。
 第3期では、第1・2期で得られた環境中の核種挙動に関する知識・技術をもとに、動的解析モデルの開発及びその検証研究を推進する。
(研究内容)
 土壌生態系における放射性核種の移行・蓄積のメカニズムを究明し、動的モデルを開発する。さらに、後半の期間においては、大型人工気象実験施設を用いて、開発されたモデルを検証する。

(想定される研究課題例)
 ○ 複合系における核種移行および動的解析モデルに関する研究
 ○ 複合系における核種移行の検証

@ 事故時における放射線被曝線量を正確に推定すること、およびリスクの低減化に関する研究は、社会的にも非常にニーズの高いものである。
A 得られた知識は、有害化学物質の環境移行に関わる有機物や微生物の役割等の解明に貢献できる。

研究テーマ名:高品位陽電子ビームの高度化及び応用研究(ビーム利用分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期で開発された低速(単色)陽電子ビームの強度は最大で毎秒1億個以下である。今後、さらにビーム強度増強による問題解決方策の検討と、高強度ビーム利用に伴って必要となる基盤技術の開発を行う。
 第3期では、ビーム利用技術の開発及び利用そのもの(物性研究への応用)に取り組む。利用研究においては、先端材料開発等において従来手法では解決がついていない問題を対象とするが、研究を進める中で、実験室レベルのビームで解決可能なこと不可能なことを明確にした上で、次世代陽電子ビーム利用に繋がる具体的方策の検討と基盤技術の開発を行う。
(研究内容)
 平成11年度〜13年度は、高品質陽電子ビームを用いた新しい陽電子分光技術の確立を目指す。装置の開発・整備とビーム応用技術の開発を行い、高品質ビーム応用の具体的方策を明らかにする。
 平成14年度〜15年度は、材料の物理に新しい知見を与えることを目指す。このため、ハード面では対象となる材料作製・処理装置の整備やイオン注入装置等との結合を進めるとともに、ソフト面では原子空孔・表面状態可視化技術を総合的に開発し、原子炉材料機能劣化の初期過程を明らかにするとともに、機能材料における機能発現機構の解明を目指す。

(想定される研究課題例)
○ 高速短パルス及び高輝度陽電子ビームによる材料極限物性の研究
 ○ 偏極陽電子ビームによる材料の電子スピン構造の研究
 ○ 超低速短パルス陽電子ビームによる物質最表層物性の研究
 ○ 陽電子ビーム掃引法による分析・評価技術の開発

@ 陽電子は、材料中の欠陥に非常に敏感であり、極めて鋭敏な感度で、半導体中の欠陥、あるいは最表面の構造不整を検出することができるようになる。また、原子力材料においても、照射損傷等の研究において、従来検出が困難であったボイド等が生成する以前の段階の損傷を検出できるようになる。
A 近年、材料中の欠陥や表面の構造・状態についての第一原理からの計算が行われており、これと比較すべき実験的なデータが得る手段として陽電子は極めて有望である。

研究テーマ名:マルチトレーサーの製造技術の高度化及び利用研究(ビーム利用分野)
第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 今まで、マルチトレーサーの製造及び利用研究は、理化学研究所がリングサイクロトロンを利用し進めてきた。
 第3期では、マルチトレーサーの製造技術を高度化することを第一目標とし、多元素同時解析を非破壊的に生きた状態で経時的測定が可能となるMT-GEIの開発は、すでに可視像、X線像、ガンマ線像を重ね合わせて撮影する装置とソフトウェアの基礎開発を終えている。今後検出器部分の開発と改良を行う。
(研究内容)
 マルチトレーサーを安定的かつ迅速に生産する手段として、マルチトレーサー自動化学分離装置の開発を行うとともに、さらに広範囲の核種を含むマルチトレーサー多様化技術を確立する。
 マルチトレーサーを計測・分析装置へ適用した場合の基礎的知見を集積し、かつ装置の有効性を実証するために、マルチトレーサーの優位性を生かした複数核種同時ガンマ線イメージング装置(MT-GEI)を製作し、新規の計測・分析手法 を創出する。

(想定される研究課題例)
 ○ 自動化学分離装置の開発
 ○ マルチトレーサーの製造技術の高度化
 ○ 加速器を用いた高エネルギー重イオン核反応生成物に関する基盤研究
 ○ モジュール型連続化学分離装置の設計、開発に関する研究
 ○ 複数核種同時イメージング装置の開発と応用のための基礎的研究

@ MT-GEIは、単にガンマ線像のみの撮影装置ではなく、同時に可視像とX線像を撮影し、コンピューター上で画像処理することで、像の重ね合わせが可能であり、診断や治療に有用な装置である。また、臨床診断、代謝生理学、さらには環境科学分野における環境汚染物質の毒性研究や代謝の研究、材料物性研究分野で革新的装置となり得る。

研究テーマ名:アト秒パルスレーザー技術の開発及び利用研究(ビーム利用分野)
第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 放射線照射による表面反応は、フェムト秒からアト秒の過渡的励起状態を経て開始される。また、原子炉の冷却水の放射線化学反応はフェムト秒の時間領域で開始されるため、放射線との相互作用による様々な量子現象の素過程の計測には、フェムト秒からアト秒の時間分解を必要とする。
 本研究は、原子力分野のみならず他分野への波及効果も大きいアト秒領域のパルス発生技術、計測技術、ならびに利用技術を確立することを目的とする。
(研究内容)
 平成11年度〜13年度は、数10アト秒から100アト秒台のパルスの発生を実証を目指す。特に計測技術を確立するため、観測系を構成する高精度干渉計及び受光部の開発と並行してスーパーミラー等の高性能光学素子の開発を進める。
 平成14年度〜15年度は、アト秒パルスの波長域の拡張研究を展開し、可視・紫外域レーザーの単一サイクル化によるパルス発生を狙うとともに、分子、クラスターの構造解析を通じてアト秒パルスの利用技術を確立する。

(想定される研究課題例)
 ○ 高強度フェムト秒レーザーの高出力化
 ○ 高精度干渉計及び受光部の開発等のアト秒パルス計測法の確立
 ○ スーパーミラーの開発等の特性評価法の確立
 ○ 可視域レーザーパルスの単一サイクル化
 ○ 分子・クラスターの構造、生成過程の解析

@ アト秒レベルのパルスを用いて放射線照射の劣化過程を解明することにより、耐放射線構造物設計への展開が期待される。
A アト秒パルスを用いた分子、クラスター等の構造解析法の確立により新素材生成のメカニズムの解明に資する。
B アト秒パルスの発生そのものが画期的であり学術的意義は大きい。これにより、アト秒という未踏領域において新たな科学・技術の基礎となる様々な現象の探索・解明が進展すると考えられる。

研究テーマ名:原子力用複合環境用材料の評価に関する研究(原子力用材料技術分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期研究では、原子力システム特有の放射線作用と物理的化学的な侵食・腐食作用を受ける極限的複合環境間のバリアーとして長期供用する圧力バウンダリー材料を念頭にして「複合環境用マルチコンポジットマテリアル(MCM)の開発」を実施した。
 第3期研究では、当該研究成果の集大成として、第2期研究で開発した材料の複合化技術と諸特性のモニタリング技術について、模擬環境下の諸特性評価試験を実施して、実用化を念頭にした諸技術の最適化を図る。また、高分解能の表面解析や状態分析等の実験的手法と計算機シミュレーション手法を用いて、開発手法の評価と原理的解明を行い、複合環境用材料創製手法及び環境適応性評価手法として整備する。
(研究内容)
 平成11年度〜13年度は、複合環境用MCMの最適化と環境適応性評価手法の高性能化を行う。
 平成13年度〜15年度は、開発したMCM及びその場解析等のモニタリング手法について、放射線、侵食、腐食作用等が重畳した模擬環境下で長時間試験を実施して諸特性を調査し、実用環境適応性を共同で評価する。併せて、計算機シミュレーションにより、開発手法の環境適応性や経年変化のモデル化を図り、次世代材料技術開発に反映出来る基盤知見として整備する。

(想定される研究課題例)
 ○ 複合環境における表面反応&欠陥成長過程の高分解能解析
 ○ セラミックス系MCMの最適化と複合環境適応性評価
 ○ 高分子系MCMの最適化と複合環境適応性の評価
 ○ 金属系MCMの最適化と複合環境適応性の評価
 ○ MCM等の実環境適応性の評価と研究成果の集約

@ 高い複合環境材料技術の開発をホットの実環境試験を含めて実施するので、原子力エネルギーシステムからのニーズが高い。

研究テーマ名:人間共存型プラントのための知能化技術の開発(知能システム科学技術分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期までは、プラントの安全性の向上に必要となる知的情報処理技術及びロボット技術の要素技術を開発してきた。
 第3期では、これまでの成果の具体的な原子力プラントの保守、運転等へ適用を試みるとともに、具体的適用を前提とした際に新たに必要となる技術の開発や、既存の原子力プラントのさらなる安全性の向上、高寿命化するための設計変更、新規プラント設計へのフィードバックに関する議論なども行う予定である。さらには人的負担の大幅な軽減、総合的な原子力プラントの安全性の確保を図る。
(研究内容)
 平成11年度〜15年度に適用指向の基盤技術開発を行う。総合的適用性までも議論し、人間と共存可能な原子力プラントへの道標を明らかにする。

(想定される研究課題例)
 ○ ロボット群による情報収集、保全作業のプラントへ適用
 ○ 信頼性の高い自律点検・保全情報提示システムの研究開発
 ○ 学習機能を伴う分散協調制御技術開発
 ○ 保守性、異常時の制御性や安全性を評価できる情報処理技術の開発
 ○ 人間共存型プラントにおける人間の認識と理解に適合した運転支援システムの開発

@ 安全な人間共存型プラントの実現によって、原子力電力生産技術に非常に大きな波及効果が期待できる。また、社会的にも原子力プラントの安全性の向上は、パブリックアクセプタンスを獲得する上で大きな効果を期待できる。
A 人工知能研究、ロボッティクス及びメカトロニクスに関連する工学研究において、人工システムの適応機能を実現する新しいアプローチとして大きなインパクトを与えることが予想される。

研究テーマ名:計算科学手法による原子力施設における物質挙動に関する研究(計算科学技術分野)
第2期との関係及び第3期での目標研究内容及び想定される研究課題例波及効果等
 第2期では、大規模な理学的、工学的な乱流計算、分子動力学等のミクロ手法による物性予測、流体計算等及び並列計算、ネットワークコンピューティング手法の開発を行うとともに、マクロからメソレベルでの構造解析、オブジェクト分散環境下で計算する手法の開発を行なってきた。
  第3期では、計算科学の手法による原子力材料・構造・熱流動の基本的問題の研究にフォーカスして、ミクロからメソ、マクロの各レベルにおける手法を駆使した大規模並列数値シミュレーションを実施するとともに、ミクロ、メソ、マクロを統合したモデリング手法の開発を目指す。
(研究内容)
 ミクロスケールの物質挙動及びメソスケールの材料挙動の解析を行うとともに、これらを統合して材料・熱・構造複合問題を解析する。
 また、原子力用計算科学における高性能化並列計算技術の確立を目指す。

(想定される研究課題例)
 ○ 粒子法による結晶の熱的・機械的性質の物性予測
 ○ 材料学的因子を考慮した高温破壊特性計算解析手法の構築
 ○ 分散オブジェクト手法によるミクロ、メソ、マクロモデルの統合
 ○ 構造材と熱流動の相互作用の数値シミュレーション
 ○ 分子動力学法のための並列計算手法開発
 ○ 基本数値ライブラリの適応的高速化及び並列計算のためのプログラムインターフェース開発

@ 原子力用高温機器材料の寿命の高精度の予測により、原子力機器の信頼性、安全評価技術の高度化、機器の長寿命化による経済性の向上等の社会的ニーズに応える。
A 材料科学の分野でも、ミクロからメソ、マクロの広い範囲のスケールの手法を統合。これを現在進展しつつある並列計算技術との結合させて数値材料シミュレーションのソフトウェア体系を整備することにより、基礎から実用レベルでの材料科学研究の進展に寄与する。