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原子力委員会ウラン濃縮懇談会報告書(2)



添付1

新素材高性能遠心機の開発について

昭和61年10月6日

1.はじめに

 遠心分離法によるウラン濃縮技術は、これまでの動燃事業団を中心とする研究開発の結果、我が国の濃縮事業に導入されるまでに開発が進展した。

 しかし、濃縮事業の今後の展開を見通した時、国際的なウラン濃縮役務供給能力過剰からくる役務価格低下のすう勢や、為替レートの円高傾向により国際競争力低下の懸念があることなど厳しい環境に置かれることが予想され、次世代技術として大幅なコストダウンにつながる革新的な濃縮技術が切望されているところである。

 新素材高性能遠心機は遠心機単機性能において大きな性能向上が図れるだけでなく、既存の遠心分離技術あるいは設備と整合性がよく、濃縮事業への導入にリスクが小さいなどの特長を持っている。したがって、画期的なウラン濃縮技術として期待がかけられているレーザー法技術と共に適切な時期に評価検討し、実用化への見通しが得られるよう、その開発を確実に進めておく必要がある。

 以下に、新素材高性能遠心機開発の現状と、この開発を円滑に進めるための方策を取りまとめる。

2.遠心法技術の現状評価と今後の課題

 動燃事業団を中心とする研究開発の結果、在来材料を用いた集合体型遠心機については、数百台規模の信頼性試験も順調に進んでおり、量産技術、周辺プラント技術の開発成果も含めて、原型プラント及び商業プラントに採用できる段階に至っている。

 しかし、在来材料を用いた遠心機では、回転胴周速の増大に伴う材料強度の制約により、これ以上の飛躍的な性能向上が期待できない状況にあるため、動燃事業団は回転胴メーカーの協力も得ながら新素材高性能遠心機の開発に鋭意取り組み、すでに単機レベルでは当面の目標性能をほぼ満足する成果を得、今後にブロック試験規模(約50台のカスケード)及びパイロットプラント試験規模における実証を必要とするものの、技術的には実用化の見通しが得られつつある。今後、これらの開発実証に加えて新素材高性能遠心機量産製造技術の確立等によりコストダウンが図られれば、商業プラントの濃縮役務コストの低減に大きく貢献し得るものと期待されるに至っている。

(1)新素材高性能遠心機開発の現状は以下の通りである。
○単機分離性能は、当面の目標をほぼ達成。
○機械的安定性は、在来型遠心機と大差ないことを確認。
○回転胴破壊時において、対応策の有効性を確認。
○寿命の確認については長期試験中。
(2)実用化への見通しを得る段階に至らしめるためには、新素材高性能遠心機の最小規模カスケード及びブロック試験等による次の開発項目について実証を終える必要がある。
○回転性能及び分離性能の連続安定化
○カスケードの基本特性の確認
○耐故障性の確認
○低コスト化、量産化に適した遠心機設計の確立
○集合機化
 また、これと並行して実施されるべきコストダウンを目指した量産製造技術の主な開発項目は以下の通りである。

○遠心機各部の製造技術の開発
○遠心機の品質保証のための検査技術開発

3.新素材高性能遠心機開発の推進方策

(1)官民の有機的連携の下に、関係者の人的交流も含めた積極的な対応により、新素材高性能遠心機についてできるだけすみやかに実用化への見通しを得るよう開発を進めることとし、昭和65年度頃を目途に遠心機に関するブロック試験規模の実証及びそれに対応する量産製造技術開発を完了するよう計画を加速推進する。

(2)最小規模カスケード試験、ブロック試験を中心とする新素材高性能遠心機の開発については、動燃事業団が、ウラン濃縮事業主体である日本原燃産業(株)及び電気事業者との共同研究により、メーカーの協力も得て加速実施する。

(3)新素材高性能遠心機のコストダウンを目指した量産製造技術の開発については、日本原燃産業(株)、電気事業者及びメーカーが、動燃事業団の技術的協力を受けつつ加速実施する。民間におけるこれらの技術開発を促進するため、国は適切な支援措置を講ずることとする。

(4)動燃事業団、日本原燃産業(株)、電気事業者及びウラン濃縮機器(株)は、全体実施計画の策定、調整を行いつつ開発を推進する。

(5)上記(1)~(4)によりブロック試験までの開発を当面推進し、開発の進展状況等を踏まえ開発成果につきチェック・アンド・レビューを行うとともに、すみやかな実用化を目指し、ブロック試験及び量産製造技術開発の進捗状況を見つつ、適切な時期にパイロット試験以降の開発計画の検討を行う。

添付2

ウラン濃縮懇談会レーザー法技術ワーキング・グループ報告書

昭和61年4月21日

1.はじめに

 原子力委員会ウラン濃縮懇談会の下に設けられた当ワーキング・グループでは、原子レーザー法ウラン濃縮技術(以下「原子法」という。)及び分子レーザー法ウラン濃縮技術(以下「分子法」という。)について、関係者からのヒアリング等も行いその現状の把握に努めると共に、開発課題の摘出、開発の推進方策等について、鋭意調査審議を進めてきた。

 本技術開発は我が国では基礎的段階にあり、十分な見通しを得るには発後の開発の成果に待たねばならないが、当ワーキング・グループでは現段階の知見を基に検討した結果を以下の通りとりまとめた。

2.レーザー法ウラン濃縮技術開発の意義

(1)レーザー法ウラン濃縮技術については、潜在的に大幅なコスト低下が可能と期待されるものとして既に米国及びフランスで開発が進められているところである。我が国としてもウラン濃縮事業が長期的にみて国際競争力を保有し続けるためには、諸外国の先進ウラン濃縮技術に匹敵する低コスト技術を保有する必要があり、このため技術開発を推進することが重要である。

(2)ウラン濃縮技術のような原子力開発にとって枢要かつ機微な技術については、その次世代技術として国際的に有力視されているレーザー法を積極的に開発していくことは主要原子力開発国である我が国としては当然のことであり、またナショナル・セキュリティ上からも重要である。

(3)レーザー法ウラン濃縮におけるレーザー技術、とりわけ大出力で波長可変のレーザーは単に原子力技術のみならず他の科学技術分野におけるブレーク・スルーを生む大きな可能性を秘めている。また、溶融金属技術、電子ビーム技術、希薄流体技術なども発展性のある技術分野として注目されている。これらの先端技術の開発促進にも、レーザー法ウラン濃縮技術は重要な役割を果たすものである。

3.レーザー法ウラン濃縮技術開発の現状と課題

(1)原子法の現状と見通し
 我が国においては、大阪大学、日本原子力研究所等において約10年ほど前から基礎的な研究が進められ、高い分離係数が観測されている。昭和59年度からは日本原子力研究所において工学基礎試験が、昭和64年度までの6か年計画で進められている。他方、メーカーも日本原子力研究所における研究に対する機器製作を通じ、あるいは自社研究として、銅蒸気レーザー、エキシマレーザー等の開発を進めつつある。また、分離セルについては、材料、構造等を含め日本原子力研究所が基礎的試験を実施しているほか、メーカーにおいても実用化のための基礎的な研究及び構造概念についての検討を進めているところである。

 それらの開発ポテンシャルについてみれば、多くのメーカーは銅蒸気レーザー等レーザー開発については既存の技術をベースに相当の努力を払うことで対応可能としている。他方、分離セルについては、材料面、構造面でオプションが多く、基本的なところからの技術的検討が必要とされている。従って、コストを含めて技術の見通しを明らかにするためには、基礎データの収集等データベース整備を行い基礎からの積み上げを行うとともに、個々のコンポーネントの大型化、長寿命化等の開発が相互に連携をとりながら、システムとしての整合性を保ちつつ開発が進められることが必要であると考えられる。

 また、将来の実用化を念頭に置いた場合、今後のレーザー技術の進歩によっては銅蒸気レーザーと色素レーザーの組み合わせ以外のレーザーが有力になる可能性もあるとの見方もあり、他の方法も幅広く検討するなどレーザー技術全体を見通した開発も必要である。

(2)分子法の現状と見通し
 米国とフランスでは数年前から原子法に的を絞って研究しているのに対し、西ドイツでは分子法をとりあげ研究を進めている。我が国の民間企業はこれまで分子法についてはほとんど自社研究を行っておらず、主として理化学研究所が中心となって昭和60年度から3か年計画で原理的な実証研究を進めている。理化学研究所では最近諸外国に先んじて高効率高出力ラマンレーザーの実験的および理論的研究に成功し、今後超音速分子流の基礎研究と併せることにより、経済的なウラン濃縮が可能になると考えている。

 その開発ポテンシャルについてみれば、炭酸ガスレーザー技術や六フッ化ウラン取扱技術など、これまでに比較的経験のある技術をペースに対応し得る部分もある反面、大出力高くり返し選択励起用レーザー技術、大型超音速ノズル型反応装置などは今後ポテンシャルを高めることが必要である。

 分子法は原子法に比べて原理的には分離係数が小さいといわれているが、高温のウラン金属を取り扱わないこと及び遠心分離法などの在来技術と同じ六フッ化ウランを取り扱うことから材料面での困難さが少ないと考えられる。今後は多光子過程やそれに伴う反応と生成物処理に関する課題を解決していく必要がある。

(3)レーザー法ウラン濃縮技術開発の課題
 レーザー也ウラン濃縮技術は、レーザー技術、材料技術等広範囲の技術分野に支えられ、かつ、物理的、化学的な基礎研究分野における蓄積が極めて重要な技術と位置付けられる。原子法と分子法とでは、取扱う温度範囲、製品の回収方法等の面で異なっており、それぞれの特性に応じた開発アプローチが必要とされる。

 原子法、分子法は、それぞれ現在の技術段階は異なっているが、実用化に向けて解決しなければならない主な技術課題は以下の通りである。
① 原子法
・銅蒸気レーザーの高出力化、長寿命化
・色素レーザーの波長制御、高出力化
・分離セル
 電子ビーム加熱システム等蒸気発生の最適化
 製品及び劣化ウランの連続回収技術
 高温耐食性材料の開発
・転換、再転換技術
・保障措置技術
・プラント設計技術
② 分子法
・炭酸ガスレーザーの高くり返し化、長寿命化
・ラマンレーザーの高くり返し化
・複数レーザーの光結合技術、光学素子の開発
・超音速ノズル型反応装置、粉体捕集技術
・プラント設計技術
 なお、原子法、分子法に共通的な事項として、基礎的なデータの蓄積、先端レーザー技術の開発、更には新しい分離スキームの開発等も重要な課題である。

4.レーザー法ウラン濃縮技術開発の目標

 レーザー法ウラン濃縮は、米国のように既にプラント規模での実証に着手しつつある国もあるが、我が国としては実用プラントに至るには内外のレーザー技術の進歩等も考慮するなど多面的な研究開発が必要とされる。また、米国と我が国とでは、再処理回収ウランの再利用の必要性や濃縮ウランの需要規模等においても、置かれている状況に差がある。

 従って我が国の技術開発においては、関連する技術の進歩や諸外国の技術水準を十分見極めつつ独自の立場から適時チェック・アンド・レビューを行い、段階的かつ効率的に研究開発を進めていくことが望ましい。

 原子法、分子法について、当面それぞれ次の技術水準を達成することを目標とすることが妥当と考えられる。

① 原子法
i)工学基礎試験を引き続き推進するとともにデータベースの整備を行い、できるだけ早期に年間kgSWU相当の約5%の濃縮の技術的実証を行う。

 なお、資源の乏しい我が国としては再処理からの回収ウランの再濃縮への応用の可能性を見極めることが重要であり、そのための検討に着手する。

ii)先行する米、仏の技術水準にできるだけ速やかに近づくことの緊要性から、技術開発努力を結集し、機器の大型化、長寿命化等を図り、年間tSWU相当の約5%の濃縮のシステム試験を昭和65年度頃までを目途に実施し、実用化に至るまでの工学的問題点の摘出検討を行う。
② 分子法
 原理実証試験を引き続き推進し、昭和62年度頃までに原理的に約5%の濃縮が可能であることを確認する。

 更にその成果を踏まえて、昭和65年度頃に原子法との比較評価を行いうるよう努める。

5.レーザー法ウラン濃縮技術開発の推進方策

(1)レーザー法ウラン濃縮技術開発に当たっては、広範囲の技術力を結集することが不可欠であること及び米国エネルギー省の発表にあるように遠心分離法よりも格段に技術集約的であるとみられ従来にも増して長期にわたる効率的な研究開発努力が必要であることから、産・学・官の協力の下に加速的に推進することが必要である。

 研究開発の実施に当たっては、官民が有機的連携を図りつつ効率的に進められるよう、原子力委員会の下に、関係者の考え方を十分踏まえて研究の推進調整を行うとともにチェック・アンド・レビューを実施する場を設けることが望ましい。

(2)国はレーザー法ウラン濃縮技術について主として次の役割を果たすことが適切であると考えられる。

① 長期的見地から極めて重要なウランの吸収波長に関する詳細なデータ、ウラン原子及び六フッ化ウラン分子の物性等、データベースの整備を行うとともに工学基礎試験及び原理実証試験を引き続き推進すること

② 安全性の確保、機微な情報の管理に万全を期すため所要の措置を講ずるほか、産・学・官協力による効率的開発体制を組織し、併せて民間における技術開発に対する支援措置を講ずること

 なお、レーザー法による再処理回収ウランの再濃縮技術について、我が国全体の原子力開発計画との関連において検討し、基礎的な研究を行うこと。

③ ウラン濃縮においても実用化時期においてオプションとなり得る先端レーザー研究を推進すると共に、ウラン濃縮分野のみならず他の分野にも広く貢献するレーザー研究等関係科学技術の研究開発を推進すること。

(3)原子法については、国は、日本原子力研究所における工学基礎試験を引き続き進めるとともに、同研究所においてレーザー光とウラン蒸気の相互作用に関する基礎データ等データベースの整備に努める。また、動力炉・核燃料開発事業団において、これまでの経験を基に、金属ウランの物性に関する研究を進める。

 また、民間とりわけ電気事業者等は、米国とフランスが積極的に開発を進めていることもあり、技術開発の最終的な受益者として多大の関心を有しており、相当程度自らの負担とリスクにおいて意欲的に取り組みたいとしている。このように、ウラン濃縮の事業化をめざして電気事業者等がメーカーを活用して、数年程度をかけて、年間tSWU程度の濃縮に対応するシステム試験を実施するため機器開発をしようとすることは、民間の活力を生かすとの見地からは望ましいものであると考えられる。

 この計画は、内容及び目標を限定し、かつ明確化して当面の技術開発を行うこととしているが、実施に当たっては、技術管理体制の整備、外部研究機関との協力関係の円滑化等の観点から法人格を有する組織を設置することが有効であり、研究組合方式の活用が考えられる。

 研究組合による技術開発の推進を図るに際しては、競争原理の導入に努める一方、日本原子力研究所における研究と密接な連携を保ちつつ進めるとともに、動力炉・核燃料開発事業団、大学等の機関から基礎データの提供等技術的支援を受けることにより効率的な開発となるよう留意することが適切と考えられる。

 他方、再処理からの回収ウランの再濃縮への応用については、プラント規模や選択励起スペクトルなどの面で通常のレーザー法ウラン濃縮技術とは異なる可能性があり、基本的なところからの検討を要し、当面は国が主体となって研究を進めていくことが望ましい。

 また、工業規模でのウラン濃縮の保障措置についてみれば、遠心分離法の場合において核兵器国と非核兵器国との平等性の確保、商業的価値を有する情報の保護等をめぐり厳しい交渉が行われたことに鑑み、我が国が経済性あるレーザー法商業プラントを実現していくためには、国際的な保障措置への対応についても十分配慮していくことが必要である。

 以上をとりまとめれば、当面数年間は、民間を中心としたターゲットを絞った集中的開発と、国の長期的・基盤的でかつ核不拡散等国際的側面にも十分留意した研究開発とが、補完し合いつつ進められることが適当であるが、将来的には、成果をみた上で改めて官民の協力体制を含め推進方策について必要に応じ見直すものとする。

(4)分子法については、当面理化学研究所において六フッ化ウラン取扱経験の豊富な動力炉・核燃料開発事業団の協力を得て原理実証研究を進めるとともに、データベースの整備を図ることとし、その成果をみた上で原子法との関係も踏まえ、推進体制等を検討する必要がある。

レーザー法技術ワーキング・グループの構成員
(◎は主査)
氏名 現職
青地 哲男  日本原子力研究所理事東海研究所長
石榑 顕吉  東京大学教授
大島 惠一  東京大学名誉教授
大瀬 賢也  (社)日本電機工業会原子力部長
黒田 寛人  東京大学助教授
斎藤 信一  動力炉・核燃料開発事業団
 東海事業所ウラン濃縮開発部長
佐々木史郎  東京電力(株)取締役
佐藤 卓蔵  電子技術総合研究所
 電波電子部レーザー研究室長
霜田 光一  慶応大学教授
鈴木 篤之  東京大学助教授
高岡 敬展  日本原燃産業(株)常務取締役
高島 洋一  埼玉大学教授
豊田 浩一  理化学研究所主任研究員
藤岡 知夫  (財)工業開発研究所主任研究員
前田 肇  関西電力(株)原子燃料部長
山中千代衛  大阪大学教授

      審議経過
  第1回 昭和61年 1月27日
  第2回 昭和61年 2月10日
  第3回 昭和61年 3月 3日
  第4回 昭和61年 3月28日
  第5回 昭和61年 4月14日


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