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高速増殖炉燃料リサイクル技術開発の現況
-モックアップ試験装置の完成-


動力炉・核燃料開発事業団

1. はじめに

 動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉の開発と合わせて高速増殖炉使用済燃料からプルトニウムとウランを回収して燃料に再び加工し、原子炉ヘリサイクルするための「高速(増殖)炉燃料リサイクル技術開発」を昭和50年より進めて来ている。高速増殖炉は、燃料をリサイクルしてこそ、ウラン資源を何十倍にも有効利用できる増殖炉の特徴が発揮されるわけであるが、なかでも高速炉燃料再処理技術はその要となる技術である。

 当面は、高速原型炉「もんじゅ」燃料等を対象とした、「高速増殖炉燃料リサイクル試験施設(以下リサイクル試験施設)」(当面、処理能力120kg燃料/日)を昭和70年頃に本格運転することを目ざして、基礎研究段階から自主技術を中心に技術開発を蓄積してきている。実験室規模では、東海事業所高レベル放射性物質研究施設(CPF)において、高速実験炉「常陽」使用済燃料ピンを用いたホット試験が進められおり、「リサイクル試験施設」へ向けたプロセス機器開発では、工学規模装置の試験を経て、実規模の装置試験の段階に進んでいる。本年3月には、東海事業所第二応用試験棟内に、「リサイクル試験施設」を模擬したモックアップ試験装置が完成した。

 一方、原子力委員会において、先頃、高速増殖炉開発懇談会の下で「高速炉燃料再処理小委員会」が設けられ、約半年間の討議を経て高速炉燃料再処理技術開発を進める上での基本的考え方と当面必要力な施設の規模・開発手順について基本方針が検討された(本年2月)。

 以下に高速炉燃料リサイクル技術の特徴、開発経緯と現状、そしてモックアッブ試験の概要を紹介する。

2. 高速炉燃料リサイクル技術の特徴

 高速増殖炉の使用済燃料からプルトニウムとウランを回収し、燃料に再加工して、原子炉ヘリサイクルする技術を総称して高速炉燃料リサイクル技術と呼ぶが、これには、高速炉燃料再処理、転換、燃料加工、そして関連する廃棄物処理技術が含まれる。

 高速炉燃料再処理技術は、基本的に軽水炉燃料の再処理技術として確立されているピューレックス法(湿式再処理)技術を採用しているが、以下のような高速炉燃料特有の課題がある。

イ) 燃料ピンを覆っている厚さ3mmのステンレス製ラッパ管を集合体のせん断に先立ち、解体しなければならない。

ロ) 被覆管が細いステンレス製でスペーサワイヤが付随するため、燃料ピンのせん断や溶解槽に工夫が必要である。

ハ) 燃焼度が高くなるため、核分裂生成物〔FP〕の含有率が高く、放射能量が多い。そのため不溶解残渣(白金属元素など)が多くなり、燃料の溶解液の清澄に工夫が必要となる。また抽出溶媒の放射線による劣化の度合が大きくなる。

ニ) 燃料中のプルトニウム含有量が軽水炉燃料に比べて数十倍となるため、臨界設計、燃料溶解及びプルトニウム、ウランの分離工程に工夫が必要である。

 燃料溶液を燃料粉末に転換する技術は、軽水炉燃料から回収されたプルトニウムとウランを混合したまま転換する、我が国独自で開発したマイクロ波加熱直接脱硝技術をスケールアップする必要がある。また、燃料加工、廃棄物処理においては、基本的には軽水炉燃料に対して確立された技術を採用するが、リサイクルに件い超プルトニウム元素が多くなることや、プルトニウムの高次化(Pu-241、Pu-242などの同位体組成が高くなる)などに対する配慮が必要である。

3. 高速炉燃料リサイクル技術開発の経緯と現状

 日本における高速炉燃料リサイクル技術開発は、高速増殖炉開発の一環として「動燃事業団の動力炉開発業務に関する第2次基本計画」に高速炉燃料再処理の技術開発を行うことが昭和50年に付加されたのを契機として、動燃事業団が積極的に推進して来ている。技術開発は、メーカー各社や大学・研究機関の協力を得ながら、以下の点を基本方針として進めている。

① 自主技術の確立を目標に、高速炉燃料リサイクル技術に特有の工程および機器システムを開発する。

② 更に、軽水炉燃料の再処理経験により、施設稼動率の向上等再処理技術に共通な基盤的課題に対処するための技術開発を進める。

③ これらの開発成果を基にして、実際の使用済燃料を処理しつつ高速炉燃料リサイクル技術を取得・確立することを目的とした「リサイクル試験施設」を建設する。

 昭和50年度に開発項目の洗い出しと「リサイクル試験施設」の設計研究を行って以降、東海再処理工場の運転経験を踏まえ、自主技術を基本に基礎研究段階から技術を蓄積してきている。

 東海事業所高レベル放射性物質研究施設(CPF)は昭和53年~56年に建設され、昭和57年9月よりホット試験を開始している。本年3月時点で、約2.6kgの高速実験炉「常陽」使用済燃料が処理され、約110gのプルトニウムを回収しており、実験室規模ながら、高速炉燃料リサイクル技術が日本においても実証されている。約60gのプルトニウムがすでに燃料として加工され、近く原子炉へ再装荷される予定である。

 「リサイクル試験施設」建設へ向けたプロセス機器開発は、東海事業所第一応用試験棟におけるウランや放射性同位元素を用いた工学規模装置試験や実規模装置試験、メーカーへの委託試験などを通じ、現在はほぼ実規模装置の開発段階に達している。特に前処理工程を一連に模擬したモックアップ試験装置が先頃(3月)完成し、総合的な運転性能試験が開始された。下に高速炉燃料リサイクルプロセスの概要と主要プロセス技術開発項目を示す。

 「リサイクル試験施設」の施設設計は、52~53年度予備設計の後、概念設計を進めているが、現在の設計は施設稼動率の向上を目ざして遠隔保守思想を積極的に採り入れた内容となっている。

 国際協力では、米国エネルギー省と高速炉燃料リサイクルワーキンググループを設置し、情報交換並びに米国施設を利用した共同臨界実験と遠隔技術の共同研究を現在進めている。また、英国原子力公社や西独・カールスルーエ原子力研究所とは積極的な情報交換を進めている。

4. モックアップ試験装置の概要

 東海事業所第二応用試験棟内に完成したモックアップ試験装置は、「リサイクル試験施設」のうち特に保守頻度が高いと予想される前半の工程すなわち燃料集合体の解体から硝酸による燃料の溶解及び燃料溶液の清澄化の一連のプロセスを連続して模擬している。

 主な装置の構成は、
① レーザビーム燃料集合体解体装置

 レーザビームを切断具として燃料ピンをできるだけ傷つけずにステンレス製ラッパ管を切断する機能を有し、レーザの焦点距離はラッパ管の起伏に沿って自動制御される。

・レーザ出力 最大3kW
・レーザ形式 炭酸ガスレーザ
・レーザ切断速度 1~2m/分(最大3m/分)
・解体処理能力 燃料集合体1体 約30分

第二応用試験棟3階全景

レーザービームによるラッパー管の切断

② 燃料ピンせん断装置

 燃料ピンを3~5cmの長さに、集合体単位で一括に切断する。方式は東海再処理工場と同様。

・せん断力 最大100ton
・せん断速度 最大50mm/sec
・せん断処理能力 燃料集合体1体分約30分
③ 分配器
 せん断された燃料ピンをシュートを介して溶解槽に振り分ける装置
・分配能力 8方向
④ 燃料溶解装置

 せん断された燃料ピン中の燃料成分を硝酸にて溶かし出し、残った燃料被覆管(ハルと呼ばれる)を引き上げ廃棄物缶に収納する。東海再処理工場と同様な形式であるが、臨界設計上の制約からバレルの内径は約半分。溶解槽ごとの遠隔交換が可能である。

・型式 2バレル-1スラブ型
・バレルの内径 約140mmφ
・スラブの内幅 約60mm
・処理能力 約60kg1回
⑤ 遠隔保守機器
(ⅰ) インセルクレーン
(ⅱ) パワーマニピュレータ(バイラテラル制御)
(ⅲ) マスタースレーブマニピュレータ
(ⅳ) TVシステム等

 現在完成している主な装置は以上であるが、来年初めに清澄装置が据付けられる予定である。

 このモックアップ試験装置は、個々の装置の性能試験、一連の総合性能試験を行った後、装置の遠隔保守性や装置のセル内におけるレイアウトを検討するための遠隔保守試験を実施する。また将来、プラントの運転員の訓練にも使用される。

5. 今後の計画

 今後も、東海再処理工場の運転経験にに基づきながら、東海事業所第一・第二応用試験棟を中心にしたプロセス機器開発、CPFにおけるホット試験の成果を相互に反映させながら、「リサイクル試験施設」の施設設計を進めていくが、同施設は昭和70年頃本格運転を目ざして、昭和60年度に基本設計に入り、詳細設計を経て、建設へ入る予定である。「リサイクル試験施設」は、高速炉「常陽」「もんじゅ」の燃料のみならず、高速実証炉の燃料にも対処し得るよう、将来の施設稼動率の向上と処理能力の増強についても設計上配慮される計画である。


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