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原子燃料工業株式会社熊取製造所における核燃料物質加工事業の変更について(答申)


53原委第373号
昭和53年6月27日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和53年3月27日付け53安(核規)第72号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 原子燃料工業株式会社の昭和53年3月18日付け熊原第53-8号による核燃料物質の加工の事業に関する変更の許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第14条第1項各号に規定する許可の基準に適合していると認める。

 なお、各号の基準の適用に関する意見は別紙のとおりである。

(別紙)

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第14条第1項各号に規定する許可の基準の適用に関する意見

1 加工の能力

 今回の変更により、我が国の軽水炉用燃料の加工の能力は、約45トン-U/年増加することになるが、我が国における軽水炉用燃料の需要見通しからみて、申請のとおり許可をしても、これにより国内加工事業者の加工の能力が著るしく過大になることはないと認める。

2 技術的能力

 当該事業者は、核燃料加工に関しては、20年に近い経験を有し、製造、技術部門の他に環境管理、品質保障部門があり、臨界管理、放射線管理、核燃料工学等の専門知識を有する技術者約100名(核燃料取扱主任者の免状を有する者24名を含む)を擁しており、今回の申請に係る軽水炉用燃料に関してもすでに国内原子力発電所に納入の実績もあるので、当該事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

3 経理的基礎

 今回の変更に必要とされる資金は、自己資金及び出資会社からの借入れにより調達する計画であり、その確保に見通しはあり、当該事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎があるものと認める。

4 災害の防止

 別添の核燃料安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告のとおり当該加工施設の位置、構造及び設備は、核燃料物質による災害の防止上支障のないものと認める。

(別添)

昭和53年6月19日
原子力委員会
  委員長 熊谷 太三郎 殿
核燃料安全専門審査会
会長 山本 寛

原子力燃料工業株式会社熊取製造所における核燃料物質加工事業の変更に係る安全性について

 当審査会は、昭和53年3月28日付け53原委第179号をもって審査を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査の結果

 原子燃料工業株式会社熊取製造所の加工事業の変更に関し、同社が提出した「核燃料物質の加工の事業に関する変更許可申請書」(昭和53年3月18日付け申請)について「加工施設の安全審査指針」に基づき審査した結果「Ⅲ審査の内容」に示す通り、本加工事業の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

1 建物の変更

(1)主建屋の増設

 輸送容器の保管及び燃料集合体を収納した輸送容器を一時的に保管するために主建屋に付属して輸送容器保管室を増設する。

(2)第3貯蔵室の設置

 二酸化ウラン粉末等の貯蔵能力を増強するために第1貯蔵室の東側に独立の建家として第3貯蔵室を設置する。

(3)資材倉庫の設置

 燃料集合体の構成部品(被覆管、端栓等)の保管能力を増強するために主建屋の南側に資材倉庫を設置する。

2 施設の変更

(1)成型施設

イ 成型工程における製造能力を増強するためプレス及び連続焼結炉をそれぞれ1台新設するとともに、ペレット運搬設備3台を新設する。また、それらの能力に見合うように粉末混合設備、プレスの給粉部を改造するとともに予備焼結炉及びペレットの乾燥機を改造する。

ロ 大型センタレス研麿機から出るスラッジの乾燥機及びペレットスクラップの焙焼炉で処理した粉末をフード外に取り出すことなく粉末取出機へ移送するために、それぞれを連結する改造を行う。

ハ 連続焼結炉1台の新設に伴い、その周辺設備の配置を変更する。

ニ 以上の変更に伴い、既設のプレス及び連続焼結炉それぞれ1台を撤去する。

(2)被覆施設

 被覆工程の処理能力を増強するため、脱ガス炉及び大型端栓溶接機の改造をするとともに、ペレット編成挿入台についてスタックの長さ及び重量の測定器の自動化並びに燃料棒トレイの受け部の改造を行う。

(3)組立施設

 燃料集合体の組立機2式の処理能力を増強するため、スケルトン組立機構を組み込む改造を行う。

(4)貯蔵施設

 二酸化ウラン粉末等の貯蔵能力を増強するため第3貯蔵室に原料保管設備1式及び粉末容器運搬設備1台を設置する。また、燃料集合体の貯蔵能力を増強するため集合体保管室に燃料集合体保管ラック8台を増設する。

(5)廃棄施設

 ペレット室内のスラッジ回収装置を配置変更し、貯槽、配管等を改造する。

(6)その他の加工施設

 第3貯蔵室、輸送容器保管室及び資材倉庫に火災警報設備及び消火器を設置する。

 集合体保管室の集合体検査装置及び組立室の竪型定盤の検査能力を増強するため、その測定部を改造し、組立室の石定盤に燃料棒取扱治具を取り付ける。

Ⅲ 審査の内容

 本変更にあたっては、以下のとおり適切な配慮がなされているので、変更にともなう安全性は確保されていると判断する。

1 耐震、耐火性

(1)輸送容器保管室

 輸送容器保管室は水平震度0.25により得られる地震荷重に耐える構造とし、かつ不燃材料で作られた簡易耐火建築物とすることとしている。

(2)第3貯蔵室

 第3貯蔵室は水平震度0.25により得られる地震荷重に耐える構造とし、かつ不燃材料で作られた耐火建築物とすることとしている。

(3)資材倉庫

 資材倉庫は水平震度0.2により得られる地震荷重に耐える構造とし、かつ不燃材料で作られた簡易耐火建築物とすることとしている。

(4)設備

 成型施設、被覆施設、組立施設、貯蔵施設及びその他の加工施設等の設備は、床にボルト等で固定する等により、水平震度0.3により得られる地震荷重に耐えられる構造とし、かつ材質は不燃材料を主体とすることとしている。

2 放射線管理

(1)輸送容器保管室

 輸送容器保管室においては、燃料集合体を輸送容器に収納した状態で保管するため、ウランによる空気汚染の恐れはない。このため放射線管理は第2種管理区域(密封状態のウランのみを取り扱う区域)として行い、従事者に外部被ばく測定用具を着用させるとともに、空間線量率を定期的に測定することにより行うこととしている。

(2)第3貯蔵室

 第3貯蔵室においては、二酸化ウラン粉末等を粉末容器に収納した状態で保管するため、ウランによる空気汚染の恐れはない。このため放射線管理は、第2種管理区域として輸送容器保管室と同様に行うこととしている。

(3)資材倉庫

 資材倉庫においては核燃料物質を取り扱わないので放射線管理上問題はない。

(4)成型施設

 ペレット室における設備の新設、改造等を行うにあたっては、ウランの飛散の恐れのある部分には、従来どおり、グローブボックス、フード等を設置し、局所排気を行い、その内部を負圧に維持することとしているのでウランによる空気汚染の恐れは少ない。

 なお、ペレット室は、従来どおり第1種管理区域(非密封状態のウランを取り扱う区域)として放射線管理を行うこととしている。内部被ばくについては、エアスニッファにより室内空気中のウラン濃度を測定し、その測定値と作業時間を考慮して算出することとしている。外部被ばく線量については従事者に外部被ばく測定用具を着用させるとともに、空間線量率を定期的に測定することにより管理することとしている。

(5)被覆施設

 脱ガス炉及び大型端栓溶接機の改造を行ってもこれらの設備の局所排気の方法に変更はなくウランによる空気汚染の恐れは少ない。

 なおペレット編成室及び棒加工室は従来どおり第1種管理区域として放射線管理を行うこととしている。

(6)組立施設

 組立室においては、燃料集合体の組立機の改造によっても、ウランは密封された状態で取り扱われるのでウランによる空気汚染の恐れはない。このため放射線管理は輸送容器保管室と同様に第2種管理区域として行うこととしている。

(7)貯蔵施設

 集合体保管室においては燃料集合体保管ラックに燃料集合体で保管されるので、ウランによる空気汚染の恐れはない。このため放射線管理は輸送容器保管室と同様に第2種管理区域として行うこととしている。

(8)その他の加工施設

 石定盤及び竪型定盤は燃料棒及び燃料集合体の状態で取り扱っており、今回の変更においても変わりはないのでウランによる空気汚染の恐れはない。

3 臨界管理

(1)輸送容器保管室

 輸送容器保管室では燃料集合体2体を輸送容器1基に収納して一時的に保管することがある。

 臨界管理は、燃料集合体入りのその輸送容器を水没条件下で無限個配列した時の中性子実効増倍係数を求め核的に安全であることを確認するとともに、他の設備との核的相互作用については立体角法により核的に安全であることを確認している。

(2)第3貯蔵室

 第3貯蔵室では、二酸化ウラン粉末等を収納した粉末容器を保管する原料保管設備が設置される。

 その臨界管理は粉末容器に収納する二酸化ウラン粉末等の量を制限し、かつ原料保管設備において粉末容器4個を一単位とした単位間の面間距離を21㎝以上及び中心間距離を76㎝以上保持できる構造とすることとしている。

 この臨界管理上の核的制限値で保管された場合において、ウランの濃縮度、物理的化学的状態、粉末容器の大きさ等を厳しい条件に仮定し水没条件で中性子実効増倍係数を核計算コードにより求め核的に安全であることを確認している。

(3)資材倉庫

 資材倉庫は核燃料物質を取り扱わないので臨界管理の必要はない。

(4)成型施設

 成型施設の設備の一部の新設、改造等が行われるがこれらの設備に関する臨界管理の変更はない。

(5)被覆施設

(イ)ペレット編成挿入台の改造が行われるが、臨界管理の変更はない。

(ロ)脱ガス炉の改造が行われるが、臨界管理は燃料棒を装荷する部分の寸法及び装荷する燃料棒の本数を制限することにより行うこととしている。

 なお、この臨界管理上の核的制限値で装荷された場合において、ウランの濃縮度、核燃料物質の状態及び配列等を厳しい条件に仮定し、水没条件で中性子実効増倍係数を核計算コードにより求め核的に安全であることを確認している。

(ハ)大型端栓溶接機の改造が行われるが、その臨界管理は燃料棒を装荷する部分の寸法及び装荷する燃料棒の本数を制限することにより行うこととしている。なお、臨界管理上の核的制限値で装荷された場合においてウランの濃縮度、燃料棒の寸法及び配列等を厳しい条件に仮定し、水没条件で中性子実効増倍係数を核計算コードにより求め、核的に安全であることを確認している。

 なお、変更後における設備間の核的相互作用についても従来どおり、立体角法により核的に安全であることを確認している。

(6)組立施設

 組立機の改造が行われるが、その臨界管理の変更はなく、従来どおり燃料集合体の体数の制限により行うこととしている。

 なお、変更後における設備間の核的相互作用については、従来どおり立体角法により核的に安全であることを確認している。

(7)貯蔵施設

 集合体保管室において、燃料集合体保管ラックが増設されるが、その臨界管理は、既設の燃料集合体保管ラックと同様に、保管する燃料集合体の体数を制限し、かつ燃料集合体の面間距離を31㎝以上とすることにより行うこととしている。

(8)その他の加工施設

 竪型定盤及び石定盤の改造が行われるが、これら設備に関する臨界管理の変更はなく従来どおり竪型定盤については、燃料集合体の体数制限並びに石定盤については燃料棒の本数制限により行うこととしている。

 なお、変更後の設備間の核的相互作用についても従来どおり立体角法により核的に安全であることを確認している。

4 廃棄物処理

 放射性気体廃棄物の処理は、変更後においても従来どおり高性能フィルタによりウランを除去した後、放射性物質濃度をダストモニタにより、連続的に測定しながら既設の排気口から放出することとしている。

 なお、本変更によりウランの取り扱い量が、約2倍に増加するが、現在の排気口における排気中の放射性物質濃度の実情よりみて周辺監視区域外での法定許容濃度の1/20以下に管理できると評価される。

 放射性液体廃棄物の処理は、変更後においても従来どおりスラッジ回収装置によりウランの除去をした後、排水槽に一時貯水し、放射性物質濃度を測定してその濃度が周辺監視区域外の法定許容濃度以下であることを確認したのち、既設の排水口から排水することとしている。

 なお、本変更によりウランの取り扱い量が約2倍に増加するが、スラッジ回収装置で処理される廃液中のウラン濃度に変化がなく、その処理能力には裕度があるため排水口における排水中の放射性物質濃度は変らない。

 放射性固体廃棄物は変更後においても既設の固体廃棄物倉庫において保管することとしている。なお、その保管能力は、変更後の固体廃棄物発生量から評価して十分裕度がある。

5 事故の評価

 本加工施設における想定最大事故は板状燃料関係施設における臨界事故であるが、軽水炉燃料関係施設の取扱い量が倍増してもこれに変更はない。

Ⅳ 審査の経過

 本審査会は、昭和53年6月19日の第10回審査会において前記変更について審査を行い、同日本報告書を決定した。

 この変更については、昭和53年4月11日、同4月24日、同5月9日及び同6月15日の加工・使用部会における審議を経ている。

 なお同部会の委員は、次のとおりである。

部会委員
(部会長) 三島 良績 東京大学

 今井 和彦 日本原子力研究所

 岡島 暢夫 中部工業大学

 清瀬 量平 東京大学

 筒井 天尊 京都大学

 松岡 理 放射線医学総合研究所

 山本 寛 東京大学名誉教授

 吉沢 康雄 東京大学


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