前頁 | 目次 | 次頁

動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(プルトニウム燃料第2開発室の変更)に係る安全性について(答申)


53原委第357号
昭和53年6月27日

科学技術庁長官 殿
原子力委員会委員長

 昭和53年2月20付け53安(核規)第41号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 当該変更に係る安全性については、別添の核燃料安全専門審査会による審査結果報告書のとおり十分確保されるものと認める。

(別添)
昭和53年6月15日
原子力委員会
  委員長 熊谷 太三郎 殿
核燃料安全専門審査会
会長 山本 寛

動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(プルトニウム燃料第2開発室の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和53年2月21日付け53原委第93号をもって審査を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査の結果

 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(プルトニウム燃料第2開発室の変更)に関し、同事業団が提出した「核燃料物質使用経更許可申請書」(昭和53年2月9日付け申請)について審査した結果、「Ⅲ審査の内容」に示すとおり、本使用の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本核燃料物質の使用の変更は、高速実験炉用燃料製造系列の湿式工程室において、共沈澱法によるプルトニウム、ウラン混合転換技術開発試験を行うため、以下のとおり設備の追加等を行うものである。

 同試験では、事業所内再処理工場において精製された硝酸プルトニウム溶液及び硝酸ウラン溶液を用いてプルトニウム、ウラン混合酸化物粉末を生成することとしており、試験1回当りの取扱量は、プルトニウム、ウランそれぞれ約5,600gであり、年間約20回試験を行う。

1 使用施設

(1)グローブボックスの新設

 溶液の受入れ、溶液の調整、プルトニウム、ウラン混合沈澱物の生成等に用いる機器を収納するためのグローブボックスW-1、焙焼還元に用いる機器を収納するためのグローブボックスW-3及び粉末混合に用いる機器を収納するためのグローブボックスW-11を新設する。

(2)機器の新設

 グローブボックスW-1内に、溶液の受入れ及び計量を行うための溶液受入れ計量装置、プルトニウム及びブランの濃度の調整、混合沈澱物の生成及び濾過を行うための沈澱濾過装置、濾過分離したケーク(沈澱物)を規定量ずつトランスファカートに移し換えるためのケーク秤量移送装置並びに濾液中のプルトニウム及びウランの回収を行い廃液中の濃度を低くするための仕上げ濾過装置を設置する。

 グローブボックスW-3内に、プルトニウム、ウラン混合酸化物粉末を得るための焙焼還元装置を設置する。

 グローブボックスW-11内に、焙焼還元処理したプルトニウム、ウラン混合酸化粉末を均一にするための粉末混合装置を設置する。

(3)物質移送トンネル及び搬送装置の新設

 グローブボックスW-1の沈澱濾過工程から、グローブボックスW-7の乾燥工程へのプルトニウム、ウラン混合沈澱物の移送及びグローブボックスW-3の焙焼還元工程からグローブボックスW-11の粉末混合工程へのプルトニウム、ウラン混合酸化物粉末の移送を行うため、それぞれグローブボックス間を物質移送トンネルで連結し、トンネル内にトランスファカート及び電動ホイストを設置する。

 また、これに伴い、グローブボックスW-7を物質移送トンネルと連結するよう改造する。

Ⅲ 審査の内容

 本変更にあたっては、以下のとおり適切な配慮がなされているので、変更に伴う安全性は確保されるものと判断する。

1 施設の安全性

(1)グローブボックス

 新設するグローブボックスは、既設のものと同様、構造部材の主体をステンレス鋼で構成し、アンカーボルトを用いて床に固定することにより水平震度0.3により得られる地震荷重に耐えられる構造とすることとしている。また、ステンレス鋼のほか、アクリル樹脂板、ネオプレンゴム等の不燃材又は難燃材を用いることとしている。

 グローブボックスは、いずれも各部材の接合部をガスケット等を用いて気密構造とするとともに、内部は給排気設備により換気し、常時負圧に維持することとしている。また、給排気口にそれぞれ高性能フィルタを設置し、放射性物質の漏出を防止することとしている。

 さらに消火設備として窒素消火系設備を設けることとしている。

(2)試験用機器

 試験用機器は、スタットボルト等を用いてグローブボックス床面に固定することとしている。また、振動の発生する機器については防振ゴムを装着し、グローブボックスへの振動による影響を防止することとしている。

 沈澱槽、熟成槽等の槽類については、その耐食性及び水密性を考慮し、ステンレス鋼を用いた溶接構造とすることとしている。

 また、焙焼還元装置については、焙焼還元炉をグローブボックス外に設置し、炉心へのプルトニウム、ウラン混合沈澱物の出し入れ口のみをグローブボックスと接続することとしている。

(3)物質移送トンネル及び搬送装置

 物質移送トンネルは、グローブボックスと同様、ステンレス鋼を主体とした水平震度0.3により得られる地震荷重に耐えられる構造とすることとしており、グローブオックスとの接続部についてもそれぞれの相互変位を吸収し得るよう構造上の安全性を確保することとしている。また、ステンレス鋼のほかアクリル樹脂板及びネオプレンゴムの不燃材又は難燃材を用いることとしている。

 トンネルは溶接構造とし、またトンネルとグローブボックスとの接続部はガスケットを用いて気密構造とするとともに、グローブボックスと同様、内部を常時負圧に維持することとしている。

2 放射線管理

(1)内部被ばく管理

 プルトニウム及びウランを含む溶液及び粉末は、気密構造で、かつ、内部を負圧に維持されたグローブボックス及び物質移送トンネルの中でのみ取り扱われるため、室内空気の汚染におそれはきわめて少ない。また、エアスニッファにより、室内の空気中の放射性物質濃度を常時監視するとともに、グローブボックス作業時には、そのつど衣服、手袋、床等の汚染の検査を行うこととしている。

 さらに、個人被ばく管理のため、定期的に排泄物の分析測定を行うこととしている。

(2)外部被ばく管理

 本変更により取り扱われるプルトニウムは、従来に比べ核燃料物質の組成及び同位体組成が異なるものであり、また微量の核分裂生成物が混入している可能性があるものであるため、従事者等の外部被ばく線量の増加をもたらす因子となる。この対策として多くの工程において機器の自動化及び操作の遠隔化の措置を講じることとしている。

 以上の観点から、核燃料物質の取扱量とその形状及び作業位置等について最も厳しい条件を用い、かつ、試験機器の遠隔操作の態様及び作業内容から推定した作業時間を考慮して従業者等の外部被ばく線量を評価した結果、許容視ばく線量より十分低く管理できるものとなっている。

 個人被ばく線量の測定は、熱蛍光線量計、ポケット線量計等を用いて行うこととしている。

3 臨界管理

(1)グローブボックスW-1

 グローブボックスW-1における臨界管理は、形状、寸法を制限することにより行うこととしている。すなわち、溶液受入計量装置における受入容器、沈澱濾過装置における沈澱槽及び熱成槽並びにケーク秤量移送装置における移送用容器についてはそれぞれの円筒の内径を、沈澱濾過装置における調整槽、ドラム型濾過機及び遠心濾過機についてはそれぞれの溶液の厚さを臨界安全管理基準値以下とすることにより行うこととしている。また、仕上げ濾過装置については、高濃度のプルトニウム溶液が取り扱われることはないが、他の装置と同様に槽類の内径又は溶液の厚さを制限することとしている。

 これらの各槽類は、水没条件に対しては面間距離を30㎝以上とすることにより、また非水没条件に対しては面間距離を立体角法により求めた制限距離以上とすることにより、中性子相互干渉による臨界を防止することとしている。

(2)グローブボックスW-3及びW-11

 グローブボックスW-3及びW-11における臨界管理は取り扱う質量を制限することにより行うこととしている。すなわち、それぞれのグローブボックスにプルトニウム及びウランを搬入する際に、そのつど重量を測定し、ボックス内の既存重量との合計が臨界安全管理基準値以下であることを確認することとしている。

 それぞれのグローブボックス内に設置されるプルトニウム及びウランを取り扱う機器は、水没条件に対しては面間距離を30㎝以上とすることにより、また非水没条件に対しては面間距離を立体角法により求めた制限距離以上とすることにより、中性子相互干渉を防止することとしている。

(3)物質移送トンネル

 物質移送トンネル内を移動する搬送装置では、質量制限された受入側のグローブボックスW-7及びW-11に適合する量までしか取り扱わないこととしている。

 なお、以上の臨界安全管理基準値の設定にあたっては、それぞれの工程における核的条件をもとに、英国原子力公社の臨界管理ハンドブックを参照して最小臨界値を求め、これに安全係数を乗じて得た値を採用することとしている。

4 周辺環境への影響評価

(1)気体廃棄物

 グローブボックス内における粉末又は液体状のプルトニウム及びウランの取扱いに伴い発生する放射性気体廃棄物は、高性能フィルタ2段を経て、既設の排気筒から放出される。

 現有施設での取扱いによる、排気筒出口での放射性物質濃度の連続測定結果では、ほとんど検出されておらず3ヶ月平均濃度では周辺監視区域外における許容濃度の1000分の1以下であることを確認している。本変更により追加使用されるプルトニウム及びウランは、現有施設における取扱量に比べ少量であり、その取扱いの形態も同様であるため、変更後においても許容濃度を十分下まわるものと判断される。

(2)液体廃棄物

 本試験により発生する放射性液体廃棄物は、既設の廃棄処理工程に送り、濾過、稀釈等の処理を行い、許容濃度以下であることを確認した後、環境に放出することとしている。

(3)固体廃棄物

 本施設で発生する放射性固体廃棄物は、可燃性、不燃性及び難燃性に区分し、密封した状態でドラム缶詰にし、敷地内に保管することとしている。

5 事故時における周辺環境への影響評価

 本施設では、十分な安全対策が講じられているので、放射性物質の環境への放出を伴う事故が起こるとは現実には考えられないが、仮に起こったとして既設施設における臨界事故及び爆発事故について既に評価している。

 本変更に関しては、爆発を生ずるおそれのある試料は取り扱わないので、既に評価している事故と同じ規模の臨界事故を想定して評価を行った。評価にあたっては、

(イ)放出される放射性物質は、臨界事故により発生する核分裂生成物及びプルトニウム中に微量含まれている核分裂生成物並びにグローブボックス内にあるプルトニウムの未反応分とする。

(ロ)放射性物質は、排風機室の高性能フィルタ2段を経て排気筒から大気中へ放出されるものとする。

(ハ)大気中における拡散は、英国気象庁方式を用い、大気安定度はB型、風速を2m/sec、また、放出高さは排気筒からの吹上げ高さを考慮せず評価するため地上21mとする。

 以上により評価した結果、周辺公衆の被ばく線量は、全身に対し内部被ばく及び外部阪ばくを合せて2.0×10-1rem、ベータ線による外部被ばく(実質は皮膚)4.6×10-2rem、甲状腺(成人)に対し6.8×10-1rem、骨に対し2.7×10-1remとなる。

 以上のとおりいずれの場合も周辺公衆の受ける被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」に示されている目安線量並びに「プロトニウムに関する目安線量」に示されている骨及び肺に対する目安線量を準用し比べてみても十分低い。

Ⅳ 審査の経過

 本審査会は、昭和53年3月6日第9回審査会において審査を行い、引き続き加工・使用部会において、昭和53年4月11日、同4月24日、同5月9日及び同6月15日に審査を行い、本報告書を決定した。

 なお、同部会の委員は、次のとおりである。

部会委員
(部会長) 三島 良績 東京大学

 今井 和彦 日本原子力研究所

 岡島 暢夫 中部工業大学

 清瀬 量平 東京大学

 筒井 天尊 京都大学

 松岡 理 放射線医学総合研究所

 山本 寛 東京大学名誉教授

 吉沢 康雄 東京大学

前頁 | 目次 | 次頁