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東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置変更(2号炉増設)について(答申)


53原委第297号
昭和53年6月16日

内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和52年1月25日付け51安(原規)第201号(昭和53年4月13日付け53安(原規)第120号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。

 標記に係る変更の許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項で準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準に係る適合性に関する意見は次のとおりであり、各基準に適合しているものと認める。

(別紙)

核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に掲げる許可の基準の適合に関する意見

(平和利用)

1 この原子炉は、商業発電のために用いるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的遂行)

2 この原子炉の設置は、「原子力開発利用長期計画」に定める方針にのっとっており、将来のエネルギー供給の安定を図るうえで十分な意義を有するものであると考えられるので、この原子炉の設置が我が国の原子力開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 この原子炉の設置に要する資金は、自己資金、社債、日本開発銀行を含む国内金融機関からの借入れ等により調達する計画になっており、申請者の総合的経理能力及び原子炉設置のための資金計画からみて、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

(技術的能力)

4 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉を設置し、かつ、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5 原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、この原子炉の位置、構造及び設備は、核原料物質、核燃料物質によって汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。(別添参照)

(別添)

昭和53年5月23日
原子力委員会
  委員長 熊谷 太三郎 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田秀雄

東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置変更(2号炉増設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和52年1月25日付け51原委第38号(昭和53年4月14日付け53原委第220号をもって一部補正)をもって審査を求められた標記の件について結論を得たので報告する。

Ⅰ 審査の結果

東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「福島第二原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)」(昭和51年12月21日付け申請、昭和53年4月10日付け一部補正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉設置変更許可の申請に関し、同社が提出した原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)及び同添付書類によれば、この原子炉設置変更の概要は次のとおりである。

1 概要

 この変更は、福島県双葉郡に所在する福島第二原子力発電所に既に建設を行っている1号炉に隣接して、同型同出力の濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却型(沸騰水型)、熱出力約3,300MW(電気出力1,100MW)の原子炉1基が2号炉として設置されるものである。また、本原子炉設置は、商業発電用として使用され、基底負荷用として運用される計画となっている。

 福島第二原子力発電所は、福島県双葉郡のほぼ中央に位置し、東は太平洋に面し双葉郡楢葉町及び富岡町にまたがり、敷地面積は約150万㎡で、このうち約20万㎡は海面埋立による造成敷地である。

 2号炉の原子炉本体は、1号炉の北側約150mの所に設置され、2号炉の原子炉本体の中心から発電所の敷地境界までの最短距離は、ほぼ南方向で、約630mである。

 本原子炉施設は、原子炉本体、原子炉冷却系統施設、原子炉格納施設、核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設、計測制御系統施設、放射性廃棄物廃棄施設、放射線管理施設等から構成される。

2 原子炉施設の構造及び設備の概要

2.1 原子炉施設の耐震構造

 原子炉施設は、原則として剛構造とされ、安全上の重要度に応じてA、B、Cの3クラスに区分され、それぞれの重要度に応じた耐震設計が行われる。

 耐震設計法としては、建築基準法に基づく震度法による静的解析が全施設に対して用いられ、Aクラスの施設については、建築基準法に定める振度の3倍の震度による静的解析、更に最大加速度振幅が180Galの地震動に対する動的解析が併用される。

 なおAクラスの施設のうち、原子炉格納容器、原子炉停止系のうち緊急停止機能を有する部分及びほう酸水注入系は最大加速度振幅が270Galの地震動に対し、その機能の保持されることが確認される。

2.2 原子炉本体

 原子炉本体は、燃料体、原子炉圧力容器、原子炉内部構造物等から構成されている。

(1)炉心
燃料集合体の個体 764体
燃料集合体の燃料棒配列 8×8
炉心等価値径 約4.8m
炉心有効高さ 約3.7m
炉心全ウラン装荷量 約140t
主要な核的制限値
 最大過剰増倍率 約0.14Δk
 停止余裕 最大価値を有する制御棒が1本未挿入状態であっても常に炉心を臨界未満にできる能力をもっていること。
主要な熱的制限値
 最小限界出力比 第1サイクルより第3サイクル末期までの期間及び第4サイクル以降の各サイクルについて、サイクル初期からサイクル末期よりさかのぼって炉心平均燃焼度で1,000MWd/t
 手前までの期間 1.19
 上記以外の期間 1.26
 燃料棒最大線出力密度 44.0kW/m
(2)燃料体
燃料材の種類 二酸化ウラン焼結研磨ペレット
被覆材の種類 ジルカロイ-2
ウラン235濃縮度
 初装荷燃料集合体平均 約2.2wt%
 取替燃料集合体平均 約2.7wt%
ペレットの初期密度 理論密度の約95%
燃料集合体最高燃焼度 約40,000MWd/t
(3)原子炉圧力容器
型式 たて形円筒型
胴部内径 約6.4m
全高(内のり) 約22m
最高使用圧力 87.9㎏/㎝2g
最高使用温度 302℃

2.3 原子炉冷却系統施設
(1)一次冷却設備

 一次冷却設備は復水・給水系、冷却材再循環系、主蒸気系、蒸気タービン、復水器等で構成される。

冷却材再循環系
 冷却材再循環ループ数 2
 冷却材再循環ポンプ
  型式 たて型うず巻式電動機駆動
  容量 約7,300t/h/台
  台数 1/ループ
 蒸気タービン
  型式 くし型6流排気式
  台数 1
  出力 1,100MW
(2)非常用炉心冷却設備

 非常用炉心冷却設備は、工学的安全施設の1設備であって低圧炉心スプレイ系、低圧注水系、高圧炉心スプレイ系、及び自動減圧系から構成される。これらの各系統は非常用電源に接続される。

低圧炉心スプレイ系
 ポンプ台数 1
 ポンプ容量 約1,440t/h
低圧注水系(残留熱除去系を使用)
 ポンプ台数 3
 ポンプ容量 約1,690t/h/台
高圧炉心スプレイ系
 ポンプ台数 1
 ポンプ容量 約350t/h~約1,580t/h
自動減圧系
 弁個数 7
 弁容量 約375t/h/個(約79.4㎏/㎝2gにおいて)
(3)その他の主要な設備
残留熱除去系
 ポンプ台数 3
 ポンプ容量 約1,690t/h/台
原子炉隔離時冷却系
 ポンプ台数 1
 ポンプ容量 約140t/h

2.4 原子炉格納施設
 原子炉格納施設は、原子炉格納容器、原子炉建屋原子炉棟等で構成される
(1)原子炉格納容器
型式 圧力抑制形(円錐台形)
円筒部直径 約29m
全高 約48m
設計圧力 2.85㎏/㎝2g(内圧)
設計温度 171℃(ドライウェル)
 104℃(サプレッション・チェンバ)
 漏洩率 0.5%/d以下(常温、空気、設計圧力において)
(2)その他の主要な設備
(i)可燃性ガス濃度制御系

 本系統は、冷却材喪失事故時に格納容器内で発生する水素の燃焼反応を防止するため、水素濃度を抑制するもので100%処理容量をもつ完全独立な2系統が設けられ、ブロア、加熱器、熱反応式再結合器等で構成される。

(ii)格納容器スプレイ冷却系

 本系統は、冷却材喪失事故後、格納容器内の温度、圧力を低減し格納容器内の放射性物質が漏洩するのを抑えるため、100%容量をもつ完全独立な2系統が設けられている。

(iii)原子炉建屋原子炉棟

 原子炉棟は、格納容器を完全に取り囲む気密の建物であり、格納容器(一次格納施設)に対して、二次格納施設を構成している。

形 式 床面長方形直方体
寸 法 約50m×52m×58m
気密度 建物容量の100%/d以下
 (建物が水柱約6㎜の負圧状態にある時の内部への漏洩率)
(iv)非常用ガス処理系

 本系統は、冷却材喪失事故時に格納容器から放射性物質の漏洩があっても、漏洩してきた物質をフィルタで浄化することにより放射性物質の環境への放出を十分低い量に抑えるため100%容量2系統から構成される。

系統よう素除去効率 99%以上(相対湿度70%以下において)
高性能粒子フィルタ 99.9%以上(0.3μmのDOP粒子に対して)

2.5 核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設
(1)核燃料物質取扱設備

 核燃料物質取扱設備は、燃料取扱装置、クレーン及び除染装置から構成される。

(2)核燃料物質貯蔵設備
新燃料貯蔵設備
 貯蔵能力 約1/3炉心相当分
使用済燃料貯蔵設備
 貯蔵能力 全炉心燃料の約270%相当分

2.6 計測制御系統施設
(1)原子炉核計装

 原子炉核計装は中性子源領域モニタ、中間領域モニタ、出力領域モニタ、制御棒引抜監視装置、中性子源から構成される。

(2)安全保護系

 安全保護系は原子炉緊急停止系、その他の主要な安全保護系(主蒸気隔離弁の閉鎖、原子炉隔離時冷却系の起動、非常用ガス処理系の起動、非常用炉心冷却系の起動等)からなっている。

(3)原子炉制御系

 原子炉制御系は、原子炉出力制御系、原子炉圧力制御系、原子炉水位制御系から構成される。

(4)その他
(i)原子炉プラント・プロセス計装

 原子炉プラント・プロセス計装は、原子炉圧力容器計装、冷却材再循環系計装、原子炉給水系及び主蒸気系計装、制御棒駆動系計装等で構成される。

(ii)中央制歳室

 原子炉施設の通常運転、事故処理等に必要な計装及び制御機器は中央制御室に設置される。

2.7 放射性廃棄物廃棄施設
(1)気体廃棄物処理系

 気体廃棄物処理系は、排ガス予熱器、再結合器、排ガス復水器、減衰管、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置、排気筒から構成される。

活性炭式希ガス・ホールドアップ装置
形 式 活性炭充てん式
基 数 1(活性炭量約70t)
容 量 約40Nm3/h
(2)液体廃棄物処理系(廃棄物処理建屋内設備は1号炉と共用)

 液体廃棄物処理系は、クラッド除去装置、ろ過装置、脱塩器、濃縮装置、タンク類等から構成され、原子炉施設で発生する放射性廃液及び潜在的に放射能汚染の可能性のある廃液をその性状により低電導度廃液系、高電導度廃液系、洗濯廃液系等に分離収集し、処理する。

(3)固体廃棄物処理系

 固体廃棄物処理系は、濃縮廃液系、使用済樹脂系、雑固体系、固体廃棄物貯蔵庫等から構成される。

使用済樹脂貯蔵タンク(1号炉と共用、既設)
 基 数 4
 容 量 約300m3/基
 貯蔵保管能力 約5年分
原子炉冷却材浄化系沈降分離槽(1号炉と共用、既設)
 基 数 4
 容 量 約200m3/基
 貯蔵保管能力 約10年分
復水浄化系沈降分離槽(1号炉と共用、既設)
 基 数 6
 容 量 約800m3/基
 貯蔵保管能力 約5年分
固体廃棄物貯蔵庫(1号炉と共用、既設及び新設)
 構 造 鉄筋コンクリート造
 面 積 約4,000㎡×2棟
 貯蔵保管能力 ドラム缶、約15,000本/棟

2.8放射線管理施設
(1)放射線防護施設

 放射線防護施設は、遮蔽設備、換気設備等から構成される。また放射線防護に必要な防護具類が備えられる。

(2)放射線管理施設

 放射線管理施設は、出入管理設備、試料分析関係設備、放射線監視設備から構成される。

放射線監視設備
 プロセス放射線モニタリング設備
 エリア放射線モニタリング設備
 環境モニタリング設備

2.9 その他原子炉の付属施設
(1)電源設備

 電源設備は送受電系統、非常用ディーゼル発電機、高圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機及び蓄電池から構成される。

送受電系統
 500kV 2回線
 66kV 2回線
非常用ディーゼル発電機
 台数 2
 出力 約5,000kW/台
 起動時間 約10秒
高圧炉心スプレイ系ディーゼル発電機
 台数 1
 出力 約2,850kW
 起動時間 約10秒
蓄電池

型式
 鉛蓄電池
組数
 6
容量 125V 約3,000AH/組×1組


 約1,200AH/組×1組


 約900AH/組×1組

 250V 約2,200AH/組×1組

 ±24V 約130AH/組×2組
(2)その他の主要な設備

 その他の主要な設備として、原子炉建屋原子炉棟換気空調系、タービン建屋換気空調系、主排気筒等がある。

(i)原子炉建屋原子炉棟換気空調系
給気ファン
 台数 2(うち1台は予備)
 容量 約28万m3/h/台
排気ファン
 台数 2(うち1台は予備)
 容量 約28万m3/h/台
(ii)タービン建屋換気空調系
a 運転床換気空調系
給気ファン
 台数 2(うち1台は予備)
 容量 約15万m3/h/台
排気ファン
 台数 2(うち1台は予備)
 容量 約15万m3/h/台
b 運転床外換気空調系
給気ファン
 台数 3(うち1台は予備)
 容量 約25万m3/h/台
排気ファン
 台数 3(うち1台は予備)
 容量 約25万m3/h/台
(iii)主排気筒
主排気筒位置 原子炉炉心からほぼ西約170m
排気口地上高さ 約120m(O.P+約150m)

Ⅲ 審査方針

1 審査の基本方針

 本審査会は、東京電力株式会社が、福島第二原子力発電所2号炉として、福島県双葉郡楢葉町及び富岡町にまたがる敷地に設置する商業用原子力発電所の原子炉施設について、通常運転時はもとより万一の事故を想定した場合にも、一般公衆及び従事者等の安全が確保されるように、所要の安全設計等がなされることを確認するため、次の事項を基本方針として審査することとした。

(1)原子炉施設が設置される場所の地震、気象、水理等の自然事象及び交通等の人為事象によって、原子炉施設の安全性が損われないような安全設計がなされること。

(2)平常運転時に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が許容被曝線量以下に抑えられることはもちろんのこと、更に、それをできるだけ少なくするような安全設計がなされること。

(3)平常運転時において、従事者等が許容被曝線量を超える線量を受けないように放射線の防護及び管理ができるような安全設計がなされること。

(4)原子炉の運転に際し、異常の発生を早期に発見し、その拡大を未然に防止するような安全設計がなされること。

(5)原子炉の運転に際し、機器の故障、誤操作等が発生しても、燃料の健全性、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性等が損われないような安全設計がなされること。

(6)冷却材を包含している原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損われ、冷却材が喪失するような事故、炉心の反応度を制御している制御棒及び制御棒駆動系(以下「制御棒系」という。)の健全性が損われ反応度が異常に上昇するような事故等の発生を仮定しても、事故の拡大を防止し、放射性物質の放出を抑制できるような安全設計がなされること。

(7)重大事故及び仮想事故を仮定しても、その安全防護施設との関連において、一般公衆の安全が確保されるような立地条件を有していること。

2 審査方法

(1)審査は、申請者が提出した「福島第二原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(2号炉増設)及び同添付書類」に基づき行うこととした。

 また必要に応じて申請内容の補足資料及び参考文献の提出を求め審査を行うこととした。

 本申請内容の基本的設計方針は、今後の詳細設計、施工、検査及び運転の段階においても、堅持されることが法令上前提となっているものである。

(2)立地条件の評価に際し、敷地の地質、地盤等の自然環境及び社会環境については、書類による審査のほか、書類上の内容と照合するため、必要な事項について現地調査を実施することとした。

(3)審査に当たっては、原子力委員会が審査を行うに際し、これによるべきであると指示した指針を用いて行うこととした。

 これらの指針は、次のとおりである。

① 「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」 (昭和39年5月)
② 「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」 (昭和50年5月)
③ 「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」 (昭和50年5月)
④ 「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」 (昭和51年9月)
⑤ 「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」 (昭和52年6月)
⑥ 「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」 (昭和52年6月)

(4)また、当審査会が原子炉施設の安全審査に当たり、解析条件、判断基準等を内規として運用するために作成した報告書を活用することとした。

 これらの報告書は、次のとおりである。

① 「沸騰水型原子炉に用いる8行8列型の燃料集合体について」 (昭和49年12月)
② 「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」 (昭和50年11月)
③ 「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法について」 (昭和51年2月)
④ 「沸騰水型原子炉の炉心熱設計手法及び熱的運転制限値決定手法の適用について」 (昭和52年2月)
⑤ 「発電用軽水型原子炉の反応事故に対する評価方法について (昭和52年5月)
⑥ 「取替炉心検討会報告書」 (昭和52年5月)
⑦ 「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被ばく線量評価について」 (昭和52年6月)

(5)そのほか、先行炉の審査経験及び諸外国の審査基準をも参考として行うこととした。

Ⅳ 審査内容

 本原子炉施設の設置に関する立地条件、安全設計の基本方針、平常運転時における被曝管理、原子炉施設の運転時の異常な過渡変化時、事故時の安全解析等について検討した結果は、次のとおりである。

1 立地条件

 本発電所敷地周辺の環境条件は、1号炉審査時点と格別の変更はないが、以下にその概要及び本原子炉施設の審査の過程において実施した調査、検討結果について述べる。

1.1 敷地

 福島第二原子力発電所の敷地は、楢葉町及び富岡町にまたがる位置にあり、その面積は、海面埋立面積を含めて約150万㎡とされている。敷地の形状は、海岸線方向約1.5㎞、奥行約1.3㎞であり、台地状の平坦面と浸食による小さい谷とからなっている。

 本原子炉の炉心位置から敷地境界までの距離は、北方向で約820m、南方向で約630m、西方向で約980mであり、最短距離は、ほぼ南方向で約630mとされている。

 なお、平常運転時及び想定事故時における被曝線量評価には、放射性物質の放出源である主排気筒等からの距離が用いられている。

 本敷地の広さについては、後述するように法令で規制される周辺監視区域の設定に十分な条件を有しており、また、「原子炉立地審査指針」に示される非居住区域及び低人口地帯をも包含する結果になっているので妥当であると判断する。

1.2 地盤
1.2.1 敷地周辺の地質

 敷地周辺の地質については、既存文献の検討、空中写真判読及び地表踏査等の結果をもとに考察がなされており、それらの調査方法及び内容は妥当なものである。それによると、敷地西方の阿武隈山地には、中生代の花崗岩類、花崗閃緑岩類等の深成岩類及び古期の変成岩類が分布し、敷地の属する海岸平野には、主として第三紀の堆積岩及び第四紀の段丘堆積物、沖積層等が分布するとされている。また、敷地付近の地下1,300mには阿武隈山地を構成する先第三紀の基盤岩類が存在すると推定されている。

1.2.2 敷地周辺の地質構造

 敷地周辺の地質構造は、阿武隈山地と海岸平野と、それを境する双葉断層によって特徴づけられ、空中写真判読によれば同断層に沿って部分的には地形的にリニアメントも認められている。1号炉の審査において、すでにこの断層は活動的でないとの結論を得ているが、今回、特に敷地周辺について、空中写真判読、地表地質・地形調査、断層露頭の観察等の調査によって検討が行われている。

 敷地南西の広野町周辺には、空中写真から1~2本のリニアメントが判読され、地表踏査によってこの付近に3本の平行する断層が認められている。断層はいずれも西側が衝上した逆断層であり、西側ほど高角度となっている。リニアメントはこの西側の断層付近において明瞭であり、これは木戸川以北に連続しているが、断層とは一致しておらず、岩相に支配されて生じたものと推定している。これらの断層について調査した結果、断層露頭ではいずれも破砕帯に固結化が認められ、かつ、河岸段丘面に変位を与えていないことが認められている。

 木戸川以北で太田川までの地域には、かなり連続性のあるリニアメントが判読され、ほぼこれに沿って西側衝上の高角逆断層が認められている。この断層の浪江町高倉付近、高瀬川右岸の露頭では、破砕状角閃岩が多賀層群富岡層砂岩の上に西側から衝上し、この破砕状角閃岩は西方約200mにわたって認められ、かなり固結しているとしている。この断層の上を高瀬川の河岸段丘が横断しているが、段丘面及び段丘堆積物基底面には、断層運動を示唆する変位は認められないとしている。この段丘は、従来の研究により、関東地方の下末吉段丘に対比できるとしている。

 以上の調査結果は、当部会の検地調査によってその主要部分が確認され、その結果この調査内容は妥当なものと判断する。

 これらのことから、敷地周辺における双葉断層の第四紀後期の活動性は無視できるものと判断する。

 敷地前面海域の地質構造については、既存の各種物理探査資料などを用いて考察されている。これらの資料から、この海域には緩やかな褶曲構造は推定できるものの、大規模な断層の存在を示唆する結果は認め難いと判断する。

1.2.3 敷地内の地質構造

 敷地内の地質構造を把握するために、地表踏査、弾性波探査、ボーリング調査、試掘坑調査等が実施されている。それらの結果に基づき、詳細な地質図(縮尺5千分の1)及び建屋基礎岩盤の地質水平・鉛直断面図(縮尺2百分の1)が作成されている。その地質図によると、敷地の地質は、第三紀鮮新世の多賀層群富岡層に属する泥岩によって構成されている。

 敷地付近の多賀層群の層厚は約400mで、その下には第三紀の白水層群、湯長谷層群の堆積岩が、更に地表面下1,300m以深には、先第三紀の基盤岩類が存在するものと推定されている。

 敷地内の富岡層は、固結した泥岩からなり、まれに砂岩の薄層を挾在しており、全体として北北西-南南東の走行を示し、東北東方向に3°~5°緩く傾いているとされている。この富岡層をおおって、一部には海岸段丘が、また低地には粘度、シルト、砂からなる沖積堆積層が存在するとしている。

 敷地内の弾性波探査及び試掘坑内弾性波試験によると、基礎岩盤の弾性波(P波)速度は、それぞれ1.6~1.9㎞/s、1.4~1.8㎞/sとなっている。またボーリング調査の結果、ボーリング・コア採取率は93~100%、RQDは52~68%、良好度0.8以上、キレツ係数0.2以下となっている。

 原子炉施設の基礎岩盤となる富岡層は、塊状均質な泥岩で構成され、広範囲にわたってほぼ水平を保ち、節理は認められるものの、断層、破砕帯は規模の小さなものさえほとんど認められないことから、安定した地層であると判断する。

1.2.4 岩盤、岩石物性

 岩盤、岩石物性の試験としては、本原子力発電所1号炉の設置に当たって、試掘坑における載荷試験(変形及び支持力試験)、ボーリング・コアによる一軸圧縮試験、三軸圧縮試験、単位体積重量試験、含水比試験が実施されていた。

 本変更申請にかかる原子炉施設の設置に伴い、更に本原子炉施設の設置位置付近の岩盤の支持力、すべり、沈下等に対する安全性を把握するために、試掘坑内において岩盤せん断試験、岩盤クリープ試験が、また、一軸圧縮試験、ポアソン比の測定、三軸クリープ試験、圧密試験、加速クリープ強度試験等が、ボーリング・コア、試掘坑側壁から採取した供試体により実施された。

 これらと並行して、試掘坑側壁でシュミット・ロック・ハンマの反発度試験を、また、試掘坑側壁から採取した供試体の一軸圧縮試験を実施して、岩盤物性の場所的変化についても検討がなされた。

 岩盤、岩石物性を調査するために実施されたこれらの試験項目及び方法は妥当なものである。

 試験の結果、岩石の供試体による一軸圧縮強度は平均29㎏/㎝2、ポアソン比は平均0.22、単位体積重量は平均1.66g/㎝3、含水比は平均48.6%などとしている。

(1)岩盤の支持力に対する安全性

 支持力試験による極限支持力は50~60㎏/㎝2であるが、その極限支持力の最低値50㎏/㎝2をもって基礎岩盤の強度としている。

 基礎岩盤の長期支持力は加速クリープ強度試験の結果、圧縮強度の60%と評価されるので30㎏/㎝2となり、これは常時の接地圧5㎏/㎝2に対して6.0の安全率を持つとしている。

 なお、地震時の最大接地圧10㎏/㎝2に対しては、短期荷重であるためにクリープによる強度低下を考えず、50㎏/㎝2の極限支持力に対して5.0の安全率を持つとしている。

 岩盤の支持力に対する安全性の考察に用いられた試験の結果及びその評価は妥当なものであり、この基礎岩盤は原子炉建屋を支持するうえに十分な支持力を有していると判断する。

(2)すべりに対する安全性

 岩盤せん断試験の結果、破壊包絡線をクーロン式で表わすと、せん断強度は5.1㎏/㎝2、内部摩擦角は30°となり、地震時の基礎底面のすべり抵抗力は、鉛直地震力も考慮して4,440t/mとなるとしている。

 地震時基礎底面に作用する水平力は、水平震度を「建築基準法」に定められた値の3倍とすると2,180t/mとなり、すべりに対して2.0の安全率をもち、十分安全であるとしている。

 すべりに対する安全性の考察に用いられた試験結果及びその評価は妥当なものであり、この基礎岩盤は地震力に対して十分な安全性を有していると判断する。

(3)沈下に対する安全性

 原子炉建屋が設置される岩盤は均質な泥岩であり、載荷試験の結果、割線弾性係数は設計応力レベルで平均4,350㎏/㎝2、クリープ係数αは0.56とし岩盤物性値のバラツキの程度も小さいとしている。

 原子炉建屋築造後の沈下については、ブーシネスクの式を用いて計算しているが、岩盤の粘弾性的性質に関しては、圧密試験結果に基づき圧密降伏応力をも求めて考察している。すなわち、圧密試験の結果、キャサグランデの方法を適用し、圧密降伏応力を41~50㎏/㎝2と計算し、この値は建屋基礎に加わる常時の接地圧5㎏/㎝2を十分上まわっているので圧密現象は特に考慮する必要はなく、一般的なクリープ現象として取扱い得るものとしている。そしてクリープ沈下に対しては、そのほとんどは発電所建設工程の時間スケールと比較して短時間で収束することから、弾性変位の割増しとして評価する方針をとっている。

 これら圧密及びクリープ沈下の考察に用いられた試験の結果及びその評価は妥当なものであり、この地盤の粘弾性的挙動は原子炉設置上支障となるものではないと判断する。

 以上の検討の結果、この岩盤は、原子炉建屋等主要構造物の基礎として、十分安全性の高いものであると判断する。

1.3 地震

 敷地周辺の地震活動性については、「日本被害地震震総覧」等をもとに調査され、更に、個々の被害地震について、それぞれの地震に関する文献に基づき調査されている。これらの調査によると、被害地震は敷地から約60㎞以上離れた場所で発生しており、敷地から半径60㎞から100㎞の地域では、マグニチュード6ないし7クラスの地震が記録上9件発生している。これらの地震のうち、福島県東方沖地震(1938年11月5日、M=7.7)が敷地に最も大きな影響を与えたと考えられる地震である。

 上記のいずれの地震についても、敷地付近に大きな被害を与えた記録は見当たらないとしている。敷地付近での最高の震度は、敷地周辺の被害状況から推定して、強震(震度Ⅴ)であったとしている。

 敷地基盤に加わる最大加速度は、金井式--シード図の組合せ等を用いて算出している。その結果、敷地の基盤における最大加速度は、複島県東方沖の地震については金井式--シード図の組合せによれば約120Gal、また、その他の計算式による最大値は165Galとなるとしている。

 以上の歴史的地震に関する調査は「日本被害地総覧」及びその他の文献、既存の報告書等を参考としており、敷地周辺の地震活動性の調査内容は妥当なものと判断する。

 また、基盤における最大加速度は従来より用いられている金井式--シード図の組合せ等により算出されており、上記の最大加速度は妥当なものと判断する。

 この発電所の基盤に生じると想定される最大加速度は、約120~165Galとなり、これに基づいて設計用地震加速度を180Galとしている。これは安全余裕を見込んだ評価であり、妥当なものと判断する。

1.4 気象

 原子力発電所敷地の気象については、主として1号炉の審査当時に原子炉施設を設計するに当たって考慮すべき気象条件及び原子炉施設の安全解析に用いる気象条件がそれぞれ調査されている。

 すなわち、本原子炉施設を設計するに当たって考慮する気象条件については、最寄りの気象官署である小名浜測候所(主として1940~1970年)の長期間の記録が調査されていて、それらの記録によると、最低気温、日最大降水量、最大瞬間風速及び最大積雪深さは、小名浜測候所でそれぞれ-10.7℃、227.2㎜、29.4m/s及び28㎝となっている。

 原子炉施設の安全解析のために、風向、風速、日射量、雲量等について、昭和46年4月から1年間にわたり敷地において観測されている。これらの気象観測に使用された気象測器は、風向風速計、日射計等については気象庁の検定を受けた測器が用いられている。

 風向風速の観測は、放出高さを代表する高さ及び地上風を代表する地上高約10mにおいて実施されている。

 これらの観測によって得られた気象資料は、大気拡散の解析に適用されるように統計処理されており、欠測率も年間2%以下の結果が得られている。

 また、敷地において観測した1年間の気象資料が長期間の気象条件を代表しているかどうかを検討するため、最寄りの気象官署における当該観測年の資料と、過去10年の資料とを用いての検定が行われている。これによると、当該観測年は異常な年ではなかったことが示されており、安全解析に使用した敷地における1年間の気象資料は、長期間の平均的な気象条件を代表するものと判断する。

 平常運転時の大気拡散の解析に使用する気象資料としては、放射性物質の連続放出及び間けつ放出を考慮して統計処理された風向別大気安定度別風速逆数の総和及び平均がそれぞれ用いられている。

 想定事故時の大気拡散の解析に使用する気象資料は、想定事故が任意の時刻に起こること及び実効的な放出継続時間が短いことを考慮して、1年間の気象観測資料をもとに出現確率的観点から想定事故期間中の相対濃度(以下「χ/Q」という。)及び相対線量(以下「D/Q」という。)が計算されている。χ/Q及びD/Qの計算は、実効放出継続時間の長短、放射性物質の放出高さ等に応じて行われており、また周辺監視区域境界を着目地点として、陸側の各方位ごとに累積出現頻度が97%に当たるχ/Q及びD/Qの値を算出し、それらの中の最大の値が求められている。

 この結果、冷却材喪失事故時の場合のχ/Qは1.8×10-6s/m3、D/Qは3.3×10-7R/Ci、主蒸気破断事故時の場合のχ/Qは5.0×10-5s/m3、D/Qは1.8×10-6R/Ciと算出されている。

 前述の計算に当たっては、敷地周辺の地形の影響を考慮するため、縮尺11,500の敷地の地形模型を使用して風洞実験が実施されている。この実験結果によると、地表空気中濃度は平担な地形の場合より高い値が示されており、この濃度差を補正するために拡散式に適用される放出源の有効高さは、実際の放出源高さ(排気筒高さ+吹上げ高さ)より低い値が採用されている。

 以上、本原子炉施設の安全解析に使用された気象観測方法、統計処理方法、大気拡散の解析方法等は、「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」の趣旨に適合しており、妥当であると判断する。

1.5 水理

 原子力発電所敷地は、標高40~50mの台地状の平担面と小さな谷からなっており、本原子炉施設は標高約12mのところに設置されることになっている。

 敷地付近の河川としては、敷地の南側境界に才連川、北側境界付近に二級河川の紅葉川があるが、敷地周辺の地形からみて、これらの河川により敷地が洪水の被害を受けることはないと判断する。

 海域の潮位及び波高については、それぞれ昭和26年から昭和49年まで、及び昭和40年から昭和50年までの間、観測が実施されているが、それによると、最高潮位はO.P+3.12m(昭和35年5月24日、チリ地震津波O.Pは小名浜港工事基準面),最大有義波高は6.51m、最大波高は8.10mとなっている。敷地前面に設けられる防波堤は、これらに対して十分耐えられるように設計されているので、海象によって原子炉施設の安全性が損われることないと判断する。

 発電所の所要淡水量は、通常運転時約2,000m3/d(1号炉分約1,000m3/d、2号炉分約1,000m3/d)と見込まれており、その取水は、木戸川からの取水を利用することとしている。なおこの取水量は木戸川の濁水期の流量のほぼ0.8%に相当する。

 これらの淡水は、タンクに貯留され、純水装置で電導度1μ/㎝以下に精製された後、原子炉施設に供給されるので、原子炉施設の安全上支障はないと判断する。

 本原子炉施設の運転に必要な冷却用海水は、水深8mの防波堤先端開口部から防波堤内側の静穏海域に設ける取水口に導いた海水を用いることとしているので、冷却に必要な海水量は、十分確保されるものと判断する。

1.6 社会環境

 原子力発電所敷地付近の社会環境については、原子炉を中心とする半径100㎞以内の人口分布、原子炉を中心とする半径5㎞以内の集落及び公共施設、楢葉町、富岡町等における産業活動、交通の状況及び開発計画等が、行政機関の作成した統計資料等により調査されている。

1.6.1 人口分布

 人口分布については、昭和50年10月に実施された国勢調査結果をもとに敷地を中心とした人口分布が調査されている。

 これによれば、原子炉を中心とする半径100㎞以内の人口は約259万人(人口密度約190人/㎞2)、半径30㎞以内では約14万人(人口密度約100人1㎞2)、半径10㎞以内では約2万4千人(人口密度約150人/㎞2)、半径5㎞以内では約1万1千人(人口密度約270人/㎞2)となっている。これらの人口分布及び厚生省人口問題研究所が推計した資料をもとに西暦2,020年における人口を推定し、災害評価時の全身被曝線量の積算値について検討した結果、この線量の増加は将来においてもわずかである。

1.6.2 敷地周辺の産業活動

 原子力発電所敷地は、楢葉町及び富岡町にまたがっており、両町を中心として産業活動が調査されている。両町における産業別従事者は、総就業者数約10,000人のうち農林水産業が約28%、製造業、建設業が約33%、残り39%が卸・小売業、その他のサービス業などとなっている。

 両町における主な産業は、食料品製造業、木材、窯業、家具製造等であり、原子炉施設の安全が敷地周辺の産業活動によって影響を受けることはないと判断する。

 なお、「双葉地方広域市町村圏計画」(昭和47年)によれば、本原子炉施設の安全に支障を及ぼすような産業活動が将来においても、敷地周辺で行われることはないと考えられる。

1.6.3 敷地周辺の交通

 本原子力発電所敷地付近の陸上交通は、鉄道路線として国鉄常盤線があり、また、最寄りの道路としては一級国道6号線があるが、これらはいずれもその最短距離が原子炉から1㎞以上ある。海上交通については、大型船舶の接岸が可能な最寄りの港湾として小名浜港があるが、敷地から約40㎞離れている。

 以上のことから、陸上及び海上交通による本原子炉施設への影響については支障がないと判断する。

 航空関係については、敷地周辺に飛行場はなく、最寄りの空港は、仙台空港で敷地から約100㎞離れている。敷地の南東約10㎞離れた位置の上空に航空路があるが、敷地上空は保護空域とはなっていない。したがって、航空機の墜落による原子炉施設への影響については考慮する必要はないと判断する。

2 原子炉施設の安全評価

2.1 原子炉施設全般
2.1.1 原子炉施設全般に対する設計上の考慮

 本原子炉施設の安全上重要な構築物、系統及び機器(以下「重要な構築物等」という。)は、安全上適切と認められる規格及び基準に準拠することが必要である。

 本原子炉施設は、国内法規に基づく規格及び基準に基づいて、設計、材料選定、製作、建設並びに検査が行われるほか、必要に応じて国内の民間規格、基準及び諸外国の規格、基準をも参考とすることとしているので妥当であると判断する。

 重要な構築物等は、人為事象、飛来物、火災等により、それらの安全機能が喪失しないよう設計上の考慮が必要である。また、原子炉施設には、避難通路及び通信連絡設備が必要である。

 重要な構築物等を含む区域は、それを取り囲む物的障壁を持つ防護された区域とし、これらの区域への接近管理、出入管理の徹底を図るとともに、不法侵入を防止するための探知設備、外部との通信連絡設備等が設けられるので、第三者による不法な接近等を未然に防止できるものと判断する。

 タービン発電機等に対しては、その損壊によりプラントの安全を損うおそれのないよう設計、材料選定、製作、品質管理、運転管理に十分な考慮が払われることとされている。更に、万一タービンの破損を想定した場合でも、タービン羽根、T-Gカップリング、タービン・ディスク等の飛散物によって、重要な構築物等の機能が損われる可能性は無視できることを確認した。

 冷却材再循環ループ主配管、主蒸気管、給水管については、設計、材料選定、製作、品質管理に十分な配慮を払うこととなっている。また、それらの配管の瞬時破断を想定し、その結果生じる可能性が考えられる配管のむち打ち等に対し、それらの影響を低減させるため、配置上の考慮を払うとともに、配管のむちうち防止レストレイント等を設けることとなっているので、重要な構築物等の機能が損われる可能性はないものと判断する。

 重要な構築物等は、火災の発生防止、火災の早期検知及び早期消火の対策を講ずることとされ、また、可能な限り不燃性、難燃性材料を用いた設計がなされる。更に、中央制御室、安全保護系、原子炉停止系、残留熱除去系、工学的安全施設等の安全上重要な系統及びこれらのケーブル、配管は、相互に物理的分離を図り、適切な離隔距離をとるか又は必要に応じて隔壁が設けられる。また、ケーブル・トレイ等が隔壁を貫通する場合は、隔壁効果を減少させないような構造とする等の対策が講じられるので、火災により重要な構築物等が安全機能を損うことはないと判断する。

 更に、原子炉施設の建屋内には、必要な避難通路が設けられる。避難通路には標識並びに非常灯及び誘導灯が設けられ、通常の照明用電源喪失時にその機能を失うことがない設計とされるので、容易に避難できると判断する。

 事故時に発電所内の従事者等に対し、中央制御室から指示できるように有線通信設備が設けられるとともに、発電所外の必要箇所と連絡するため、加入電話の他に電力保安通信設備が設けられるので、通信連絡設備の設計は妥当であると判断する。

2.1.2 耐震設計

 本原子炉施設のうち、原子炉建屋等の重要な建物、構築物は原則として剛構造に設計され、岩盤で直接支持されることとなっている。

(1)重要度による分類

 原子炉施設は、安全上の重要度に基づき、A、B、Cの3クラスに分類され、各分類に応じた耐震設計方法により適切な設計が実施される。

 Aクラスに分類される施設は、その機能喪失が原子炉事故を引き起こすおそれのある施設及び周辺公衆の災害を防止するために緊要なものとし、原子炉建屋、原子炉格納容器、非常用炉心冷却系等を同分類に含めている。

 Bクラスに分類される施設は、高放射性物質に関連するAクラス以外の施設とし、タービン建屋、原子炉補助設備等を同分類に含めている。

 Cクラスの施設は、Aクラス及びBクラス以外の施設としている。設計に当たっては、上位の分類に属するものが下位の分類に属するものの破損によって、波及的事故が起きないことを確かめることとしている。

 上述の施設の各分類は、原子力発電所の安全性を保持する上に適切なものであり、波及的事故に対する設計上の考慮方針と合わせ、原子炉施設の安全設計上妥当なものと判断する。

(2)耐震設計法

 各施設は、重要度に応じ適切な設計方法によって耐震設計されるが、基本的には、建築基準法に定められた震度に基づく静的解析により得られる地震力、又は、基盤に設計用地震動を与え各施設の固有の動特性を考慮する動的解析によって求められる地震力に対して安全であるように設計される。

 静的解析によって算定する水平地震力は、建築基準法に基づき、建物・構築物の基礎底面における基準震度を0.2とし、高さ方向に所定の割増しを行い、地盤種別及び構造種別による係数を乗じた水平震度(以下「水平震度」という。)から求まるものである。また、鉛直地震力は、上記の「水平震度」の1/2が、鉛直方向にかかるもの(以下「鉛直震度」という。)とし、高さ方向には一定としている。

 静的解析に用いる静的震度は、建物・構築物と機器・配管系により、また、A、B、Cのクラスごとに異なる値を用いている。Aクラスの建物・構築物は、「水平震度」、「鉛直震度」の3倍を静的震度として用い、機器・配管系では、建物、構築物に対する静的震度の1.2倍を用いていた。Bクラス及びCクラスに対する静的震度については、建物・構築物と機器・配管系の関係はAクラスの場合と同一であるが、「水平震度」については、BクラスをAクラスの1/2、CクラスをAクラスの1/3としている。なお、B、Cクラスについては「鉛直震度」は考慮していない。

 動的解析に用いる設計用地震動は、地動加速度を180Galとし、エルセントロ、タフト及び福島第二地点の敷地で記録された地震波形が用いられる。

 動的解析は、Aクラスの施設に対し実施され、Bクラスの機器・配管系のうち、支持構造物の振動と共振するおそれのあるものに対しても検討が行われる。

 Aクラスの施設は、静的解析又は動的解析により得られる水平地震力のうちいずれか大きい方の水平地震力と、静的解析により求まる鉛直地震力とが同時に不利な組合せで作用するものとし、これに耐えるよう設計されることとしている。ただし、Aクラスのうち排気筒については、動的解析から得られる地震力に耐え得るように設計される。

 B、Cクラスの施設は、静的解析により得られる水平地震力に耐えられるように設計される。

 なお、Aクラスの施設のうち、特に一般公衆の安全を確保するために、安全対策上緊急な施設である原子炉格納容器、原子炉停止系のうち緊急停止機能を有する部分及びほう酸水注入系に対しては、設計用地動加速度の1.5倍の加速度(270Gal)が基盤に生じた場合でも、それらの機能が保持できることとしている。

 また、地震に対する考慮として、ある程度以上の地震が起こった場合に原子炉を自動的に停止させるため、地震感知器が設置される。

 以上の耐震設計によって、原子炉施設の耐震安全性は十分確保し得るものであり、この耐震設計法は、原子炉施設の安全設計上妥当なものと判断する。

2.2 原子炉及び計測制御系
2.2.1 炉心設計
(1)核設計

 炉心の核設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

① 運転に伴う反応度の変化を安定に制御できるとともに、最大の反応度価値を有する制御棒1本が完全に引抜かれた状態であっても、常に原子炉を臨界未満にできること。

② 通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時においても、プラントの各系統の機能とあいまって、燃料の許容設計限界に至らないだけの十分な負の反応度効果を有すること。

③ すべての運転範囲で急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること。

 このため審査に当たっては、設計手法の妥当性、出力分布制御等について検討を行った。

 本原子炉の過剰増倍率は、燃焼に伴う核分裂性物質の変化、減速材の温度上昇及びボイド変化、燃料棒の温度上昇、キセノン、サマリウム等の中性子吸収物質の蓄積及び中性子の漏洩による反応度変化を補償するように設計されており、反応度の制御は、制御棒と燃料中に含入する可燃性中性子吸収物質であるガドリニアで行われる。

 低温状態では、炉心の過剰増倍率が最大となるのに対して、制御棒による反応度制御能力は最小となる。すなわち、低温状態では制御棒を全挿入した場合の実効増倍率が、1に最も近くなる。このような状態において、最大反応度価値を有する制御棒1本が完全に引抜かれた場合でも、原子炉を臨界未満に維持できることが示されれば、すべての運転モードを包含して、常に臨床未満の条件が満足されることになる。

 第1サイクルにおいて最大反応度価値を有する制御棒1本が完全に引抜かれた場合の実効増倍率の解析結果から、サイクル期間中を通じて実効増倍率の計算値は0.99未満であり、上述の条件が満足されることを確認した。第2サイクル以降については、ガドリニア入り燃料棒の本数、又はガドリニアの濃度及び取替燃料集合体の本数や装荷位置を調整することによって、原子炉の停止余裕が確保できるものと判断する。

スクラム反応度曲線については、燃焼によるスクラム反応度曲線の劣化を考慮して、2種類のスクラム反応度曲線(早期炉心用スクラム曲線及び平衡炉心末期用スクラム曲線)を使用した解析を行っているが、これらは各サイクルにおけるスクラム反応度曲線の変化を包含するように決められており、これらを用いた解析結果は妥当であると判断する。なお、これらの適用については「取替炉心検討会報告書」でも、その妥当性が確認されている。

 また、急速な固有の負の反応度フィードバック特性としては、ドップラ効果があり、ドップラ反応度係数は、各サイクルを通じて負の値になるように設計される。

 これらの炉心特性は、Ⅳ.4に示すように、燃料の許容設計限界に至らないだけの十分な負の反応度効果を有している。

 更に、Ⅳ.5においても、制御棒落下事故時の急激な出力上昇を軽減し、核的逸走を抑制し得ることが示されている。

 以上のことから、本原子炉の核設計は、妥当なものと判断する。

(2)熱水力設計

 炉心の熱水力設計は、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時においても、燃料が損傷しないよう、以下に示す許容設計限界を満足することが必要である。

① 最小限界出力比(以下「MCPR」という。)は1.07を下回らないこと。

② 被覆管の円周方向平均塑性歪は、1%以下であること。

 MCPRの限界値1.07の計算については、既に「炉心熱設計検討会報告書」において、炉心熱設計手法の妥当性が確認されているが、更に、過渡現象解析、熱水力設計の検討を行って、MCPR算出の根拠の妥当性を確認し、通常運転時におけるMCPRの制限値が確保できること及び運転制限値を遵守することによって、Ⅳ.4に示すように、運転時の異常な過渡変化時においても、MCPRの限界値1.07を下回らないことを確認した。

 また、燃料被覆管の円周方向平均塑性歪1%については、燃料材料の性質及び寸法、設計燃焼度等を考慮して検討を行い、1%に対応する線出力密度を燃焼初期の燃料に対して約83kW/mとしている。この値は、燃焼により多少低下するが、通常運転時の線出力密度を44.0kW/m以下に制限することによって、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時にも、1%の限界には達しないことを確認した。

 以上のことから、本原子炉の熱水力設計は、妥当なものと判断する。

(3)動特性

 原子炉を安定に運転するためには、運転中の外乱に対して、燃料の許容設計限界を超える状態となる出力振動が生じないように、自己制御性を持たせるとともに、十分な減衰特性を持たせる設計であるか、又は、たとえ出力振動が生じても、それを検出して抑制できる設計であることが要求される。

 このため、本原子炉では、ボイド変化に伴う不安定な出力振動が生じないよう設計されるとともに、反応度外乱に対しては、ドップラ効果等に基づく負の出力反応度係数による自己制御性を有するようになっている。また、強制循環方式によって水力学的な乱れを抑え、系統の圧力を高くして負荷変動や外乱に対する安定性、及び沸騰ノイズ特性の向上が図られる。

 このような原子炉の安定性に対する設計の妥当性については、動特性解析の結果に基づいて、運転中の圧力設定値の変更、制御棒の操作又は再循環流量の変化等運転中に予想される外乱に対して安定に応答し、許容設計限界内で十分満足な制御が可能であることを確認した。すなわち、これらの安定性を評価するパラメータとして系の減幅比に着目し、あらゆる運転状態において減幅比が1未満となること、更に、通常の出力運転範囲においては、減幅比が0.25以下(チャンネル水力学的安定性については0.5以下)となることを確認した。

 チャンネル水力学的安定性及び炉心安定性については、安定性が最も悪くなると予想されるサイクル末期について解析が行われており、その結果は十分な減衰特性を有している。

 また、プラント安定性については、外乱を与えて解析が行われており、プラントの各系統の機能とあいまって十分な減衰特性を有していること、キセノンの空間振動の安定性についても、空間振動を抑制できるような十分な負の出力反応度係数を有していることを確認した。

 以上のことから、本原子炉は、十分な安定性を有しているものと判断する。

(4)機械設計

 燃料の機械設計においては、使用材料、使用温度、圧力条件、照射効果等を考慮し、原子炉内における使用期間中を通じ、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時にも、プラントの各系統の機能とあいまって、燃料の許容設計限界を超えないことが要求される。

 本原子炉で使用される8行8列型の燃料集合体の構造設計については、「沸騰水型原子炉に用いる8行8列型の燃料集合体について」に示すとおり、その妥当性が確認されているが、Ⅳ.4に示すように運転時の異常な過渡変化時にも、許容設計限界を超えることはない。また、通常の輸送及び取扱中においても、燃料棒の変形等による過度の寸法変化を生じることのない設計になっている。

 炉内構造物は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時の荷重に対し、原子炉圧力容器内の温度、圧力等を考慮して必要な強度及び機能を保持するように設計される。

 以上のことから、本原子炉の炉心に関する機械設計は、妥当であると判断する。

2.2.2 計測制御系
(1)中央制御室

 中央制御室には、通常運転時の操作はもちろん、事故時にも従事者が制御室に接近し、又はとどまり、事故対策操作が可能であるように換気設計、遮蔽設計及び不燃設計等の適切な防護がなされた設計が必要である。

 このため審査に当たっては、事故時の居住性、主要ケーブル、制御盤等の火災対策、及び中央制御室外原子炉停止装置の機能について検討を加えた。

 中央制御室には、通常運転、事故処置等に必要な原子炉制御系、安全保護系、タービン設備、電気設備、放射線監視設備、プロセス計装設備等の計測制御装置が設置され、集中的に監視及び制御を行えるように設計される。

 中央制御室の換気系は、他の換気系とは独立して設けられており、事故時には外気との連絡口を遮断し、チャコール・フィルタを備えた閉回路循環方式が取られるため、従事者は内部放射線被曝から防護される。また、中央制御室は、事故時においても従事者が過度な外部放射線被曝を受けないような遮蔽設計がなされる。したがって、事故時にも従事者が中央制御室内にとどまることができ、さらに外部から中央制御室に接近できるように設計されるので、事故対策に必要な操作を行うことができるものと判断する。

 中央制御室は、火災が発生する可能性を極力少なくするように配慮されるとともに、早期火災検知及び早期消火が行えるように設計される。具体的には、中央制御室内のケーブル、制御盤等は原則として不燃性、難燃性材料を用い、独立性を考慮した配置がなされるほか、消火設備が設けられる。

 なお、中央制御室において、何らかの原因で操作が困難な場合にも、スクラム後の高温状態から低温状態に安全に導くことが可能なように中央制御室から十分離れた場所に中央制御室外原子炉停止装置が設けられる。

 以上のことから、中央制御室は所定の機能を果たす能力を有していると判断する。

(2)計測制御設備

 計測制御設備は、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、原子炉の炉心、原子炉冷却材圧力バウンダリ及び格納容器バウンダリ並びにそれらに関連する系統の健全性を確保するために必要なパラメータは、適切な予想範囲に維持、制御されること。及びそれらのパラメータについては、予想変動範囲内での監視が可能であることが必要である。更に計測制御設備は、事故時において、事故の状態を知り対策を講じるのに必要なパラメータを監視できる設計であることが必要である。

 本原子炉施設における計測制御設備は、通常運転時に起こり得る運転条件の変化、負荷の変化及び外乱に対して監視及び制御を行えるよう設計される。

 核分裂過程、原子炉の炉心、原子炉冷却材圧力バウンダリ、格納容器バウンダリ及びその関連する系統の健全性を確保するため、中性子東、中性子東分布、原子炉水位、一次冷却系の圧力、温度、流量、冷却材の水質及び格納容器内の圧力、温度の監視あるいは制御を行えるよう設計される。出力制御系、圧力制御系及び水位制御系の制御設備等により、これらパラメータは適切な運転範囲内に維持し制御するよう設計される。

 冷却材喪失のような事故時においても、格納容器内の圧力、温度及び非常用ガス処理系を通じて環境へ放出される放射性物質の濃度は、事故の状態及び環境への影響を把握するために監視できるよう設計される。

 以上のことから、本原子炉の計測制御設備の設計は妥当であると判断する。

(3)電源設備

 電源設備は外部電源系及び非常用電源系から構成されている。

 外部電源系は、2回線以上の送電線により電力系統に接続されていることが必要である。

 本発電所に連繋する送電線としては、500kV送電線2回線及び66kV送電線2回線が設置されるので、外部電源の多重性は、確保されるものと判断する。

 非常用電源設備としては、外部電源喪失時に、1系統が動作しないと仮定しても、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を冷却でき、あるいは冷却材喪失事故が同時に起こったと仮定しても、原子炉の冷却とともに、原子炉格納容器並びに安全上重要な系統及び機器の機能を確保できる容量と機能を有することが必要である。

 このため、審査に当たっては、ディーゼル発電機及び直流電源の容量及び信頼性、並びにケーブル等の火災対策について検討を加えた。

 非常用電源設備として、ディーゼル発電機3台と蓄電池6組が設けられるが、これらディーゼル発電機及び蓄電池は、非常用炉心冷却系の区分Ⅰ、区分Ⅱ及び区分Ⅲに応じて各々独立分離した部屋に収納されるほか、独立分離した非常用母線に接続される。

 ディーゼル発電機は、発電所の通常運転時にも定期的に起動試験が行われ、その信頼性が確保されるとともに、蓄電池も定期的にその健全性及び浮動充電状態にあること等が確認される。

 また、所内ケーブル、電源盤等の材料は、可能な限り、不燃性又は難燃性の材料が使用される。

 更に、本発電所の全動力電源が短時間喪失する可能性についても検討し、高度の信頼性が期待できる蓄電池を除く、他の全電源喪失(全交流動力電源喪失)を仮定した場合にも原子炉を安全に停止できることを確認した。この場合、原子炉は自動的にスクラムし、蓄電池を電源とする非常用照明、原子炉核計装及びプロセス計装等により、必要な運転監視を行うことができる。原子炉の冷却については、逃がし安全弁と原子炉蒸気で駆動する原子炉隔離時冷却系により、約30分程度の全交流動力電源喪失に対しても、十分な冷却を行うことができ、この間に交流電源の回復が期待できるので、他に特別な電源を必要としない。

 以上のことから、非常用電源設備は、外部電源喪失と機器の単一故障を仮定しても、安全上重要な系統及び機器が所定の機能を果たすのに十分な電力を供給できる能力を有するものと判断する。

2.3 原子炉停止系、反応度制御系及び安全保護系
2.3.1 原子炉停止系

 原子炉停止系は、2つの独立した系統を有し、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、炉心を臨床未満にできることが必要である。

 このため審査に当たっては、制御棒挿入時間、反応度停止余裕等について検討を加えた。

 本原子炉では、緊急原子炉停止能力を持つ制御棒系と、制御棒の挿入不能によって原子炉の低温停止ができない場合に、原子炉に中性子吸収材を注入して、負の反応度を与え、原子炉を低温停止させるほう酸水注入系のそれぞれ原理の異なる2つの独立した系統が設けられる。

 これらの系統は、いずれも原子炉の高温待機状態又は出力運転状態から燃料の許容設計限界を超えることなく、炉心を臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できるような機能及び性能を有するように設計される。

 制御棒の反応度価値は、炉心の反応度を制御できるように設計される。すなわち、本原子炉は、低温状態において反応度が最も高くなり、その状態における原子炉の過剰増倍率は、約0.14Δkであるが、これに対して、制御棒による反応度制御能力は、約0.18Δkであるので、低温状態において原子炉を十分臨界未満に維持できる。

 また、スクラム時の制御棒挿入時間(全炉心平均)は、全ストロークの90%挿入までを約3.5秒としているが、この値は先行炉の実績によって十分満足することが確認されている。

 運転時の異常な過渡変化時に対しては、Ⅳ.4に示すように、炉心特性とあいまって燃料の許容設計限界を超えることなく、原子炉を臨界未満にし、かつ、維持し得るようなスクラム特性を有しているので妥当であると判断する。

 ほう酸水注入系は、原子炉を定格出力運転状態から0.05Δk以上の余裕を持って低温停止し、この状態に維持することができるよう五ほう酸ナトリウム溶液の濃度が定められており、中性子吸収材を炉心底部から注入して、毎分0.001Δk以上の負の反応度を与え、原子炉を徐々に低温停止する能力を有している。五ほう酸ナトリウム溶液は、析出防止のため、15℃以上の温度で貯臓するとともに、この系は、運転中でも定期的に作動試験ができることになっているので、ほう酸水注入系は、常に停止能力が確保されるものと判断する。

 以上のことから、原子炉停止系は、いかなる場合にも原子炉を安全に停止させる能力を有していると判断する。

2.3.2 反応度制御系

 反応度制御系は、負荷変動、キセノン濃度変化等の反応度変化を調整し、原子炉を所要の運転状態に維持できるとともに、その最大反応度価値及び反応度添加率から想定される反応度事故により原子炉冷却材圧力バウンダリの破損が生じないような設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、制御棒系の制御能力及び再循環流量制御能力等について検討を行った。

 本原子炉の反応度制御系としては、制御棒系及び再循環流量制御系によって十分な反応度制御能力を有するよう設計される。

 制御棒系は、起動・停止時における零出力から全出力までの反応度変化及び燃料の燃焼度変化に伴う反応度変化の調整を行い、再循環流量制御系は、負荷変動及び通常の出力変化に伴う反応度変化の調整を行う設計となっており、両者の組合せによって所要の運転状態を維持できることを確認した。

 急激な反応度変化は、制御棒の落下によって起こり得るが、制御棒に落下速度リミッタを設けることにより、制御棒の落下速度を制限しているので、過大な反応度が添加されないことを確認した。また、急激な反応度変化は制御棒の連続引抜きによっても起こり得るが、制御棒の引抜き最大速度を制限することにより、過度の反応度添加率とならないことを確認した。

 Ⅳ.5 に示す反応度事故(制御棒落下事故)に対しては、運転員の制御棒の引抜き操作を規制する運転補助機能として制御棒価値ミニマイザを設け、これによって制御棒の最大反応度価値が0.015Δk以下となるように制限される。

 更に、落下時の制御棒速度を0.95m/s以下に抑えるため、制御棒に落下速度リミッタを設けることとしているので、これらにより制御棒落下事故時の燃料保有エンタルピは圧力波発生限界評価基準値以下に抑えられ、原子炉冷却材圧力バウンダリを破損することなく、かつ、炉心は、冷却機能等を失うような破壊を生じるおそれがないことを確認した。なお、制御棒の落下速度については、実規模の試験により上記の値を満足することが示されている。

 以上のことから、反応度制御系の設計は妥当なものと判断する。

2.3.3 安全保護系

 安全保護系は、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1)運転時の異常な過渡変化時又は事故時にその異常状態を検知し、抑制するために原子炉停止系を含む適切な系の安全保護動作を自動的に開始させる機能を有すること。

(2)通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時において、その保護機能を喪失しないように、チャンネル相互を分離し、多重性を持たせたチャンネル間の独立性を確保できること。

(3)原子炉運転中における定期的試験により、その健全性を確認できること。

 このため審査に当たっては、多重性、独立性、計測制御系との分離等について検討を加えた。

 安全保護系の多重性については、安全保護機能を失う結果をもたらさないように、十分に信頼性のある少なくとも2チャンネルの保護系が設けられる。更に、原子炉緊急停止系及び工学的安全施設を起動するための検出器は、多重性を有する設計としているので、この系を構成する機器又はチャンネルの単一故障あるいは使用状態からの単一の取り外しを行っても安全保護機能が損われることはない。

 独立性の要求に対しては、その系を構成するチャンネルは、相互干渉が起こらないように、格納容器を貫通する計装用配管については、物理的に分離した貫通部を有する2系統を設けること及び検出器からのケーブル、電源ケーブルは、独立に中央制御室の各盤に導かれ、更に、各トリップ系の論理回路は、盤内で独立して設けられる等可能な限り構造的、電気的に独立性を持たせるように設計される。

 安全保護系全体としては、駆動源の喪失、系の遮断等不利な状態になっても、最終的に安全な状態に落着くように設計される。すなわち、本系統によって動作される弁等は、フェイル・セイフとするか、又は、故障と同時に現状維持(フェイル・アズ・イズ)になり、速やかに、この現状維持を補って他の系統による保護動作が行えるように設計される。

 主蒸気隔離弁以外の工学的安全施設を動作させる安全保護系の場合、駆動源である電源の喪失は、この現状維持をもたらす設計となっている。また、工学的安全施設は、検出器、伝達系及び工学的安全施設自体が多重性及び独立性を持つことで、最終的にプラントを安全に導くように設計されるので、妥当であると判断する。

 安全保護系と計測制御系の電源、検出器、ケーブル・ルート及び格納容器貫通計装用配管は、原則として分離するように設計される。

 安全保護系のうち、原子炉水位及び原子炉圧力を検出する計装配管ヘッダの一部は、計測制御系と共用され、また、原子炉核計装の検出部は、指示、記録計用検出部と共用されるが、計測制御系の短絡、地絡又は断線によって安全保護系に影響を与えないように設計される。

 安全保護系は、各チャンネルが独立に試験できるとともに、原子炉運転中における定期的試験により、その健全性を確認できるように設計される。原子炉停止系及び工学的安全施設を動作させる検出器及びチャンネルは、それぞれ最低4組に分けられ、原則として運転中でも試験ができるように設計される。なお、論理回路を含む全系統の試験については、定期検査時に行うことができる。

 以上のことから、安全保護系は、十分な信頼性を有していると判断する。

2.4 原子炉冷却系
2.4.1 原子炉冷却材圧力バウンダリ

 原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器及び配管は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、その健全性が確保できるとともに、原子炉冷却材圧力バウンダリの漏洩検出、破壊の防止及び定期的な試験・検査を行って健全性の維持を図ることが要求される。

 このため審査に当たっては、通常運転時における原子炉運転圧力、運転温度及び加熱、冷却等の妥当性、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に予想される過圧に対する健全性、漏洩検知対策、脆性破壊防止対策、更に、運転開始後における定期的な試験可能性について検討を加えた。

 原子炉冷却材圧力バウンダリは、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時に発生する応力に対して、脆性的挙動及び急速な伝播型破断の防止は元より延性破壊、疲労損傷防止の観点から、応力解析、疲労解析等を行うとともに、使用材料の管理、使用圧力、温度の制限及び使用期間中の監視等を考慮した設計がなされる。

 また、原子炉圧力容器の母材、溶着部及び熱影響部については、試験片を原子炉圧力容器内に挿入して、原子炉圧力容器とほぼ同様な条件で加速照射し、定期的に取り出し、試験を行うこととしている。

 原子炉の運転開始後、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確認するため、定期的に供用期間中検査が行えるよう、機器、配管等の設計に当たっては、検査箇所へ検査機器等が接近できるように機器、配管等の配置が考慮される。

 以上のような設計上の考慮のほか、通常運転時においては、出力運転中原子炉圧力を一定に維持できるように原子炉圧力制御系が設けられる。更に、原子炉圧力容器については、原子炉起動・停止時の加熱・冷却率を55℃/h以下に抑え、また、運転上の誤起動による熱衝撃を抑える等の措置が講じられる。

 発電機負荷遮断、タービン・トリップ、主蒸気隔離弁閉鎖等の運転時の異常な過渡変化時においては、タービン蒸気加減弁急閉、タービン主蒸気止め弁閉、主蒸気隔離弁閉等の信号により、原子炉をスクラムさせる安全保護回路が設けられるほか、逃がし安全弁を設けて原子炉冷却材圧力バウンダリの過度の圧力上昇を防止するように設計される。

 これらにより原子炉冷却材圧力バウンダリの運転時の異常な過液変化時の最大圧力は、Ⅳ.4に示すように、原子炉冷却材圧力バウンダリの最高使用圧力(87.9㎏/㎝2g)の1.1倍の圧力(96.7㎏/㎝2g)を超えないことを確認した。

 事故時において、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を評価するものとして、制御棒落下事故に伴う圧力波の発生が考えられるが、これについては、中性子束高によって原子炉をスクラムさせる安全保護回路が設けられ、また、制御棒落下速度リミッタ、制御棒価値ミニマイザ等の対策が講じられる。

 これらによりⅣ.5に示すように事故時の燃料ペレットの最大エンタルピが圧力波発生限界評価基準値以下に抑えられ、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が確保されることを確認した。

 また、通常運転時の原子炉冷却材圧力バウンダリからの冷却材の漏洩に対しては、その漏洩の早期検出と漏洩量を確実に監視するため、ドライウェル内ガス冷却装置の凝縮水量、ドライウェル内サンプ水量等の測定により約3.8l/minの漏洩を1時間以内に検出できるように設計される。

 冷却材の漏洩が生じた場合、その漏洩量が10㎜(3/8インチ)径の配管破断に相当する量以下の場合は、制御棒駆動水ポンプで補給でき、また25㎜(1インチ)径の配管破断に相当する漏洩量以下の場合は、原子炉隔離時冷却系を起動させ、燃料の許容設計限界を超えることなく原子炉の冷却ができるように設計される。

 また、原子炉停止時に燃料の許容設計限界と原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えないことを満足するため、炉心の崩壊熱及び残留熱を除去し、原子炉停止後20時間以内に、冷却材温度を52℃以下にすることができるように残留熱除去系が設けられる。

 以上のことから、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は十分に確保されると判断する。

2.4.2 非常用炉心冷却系

 非常用炉心冷却系は、冷却材喪失事故を想定した場合に燃料被覆の重大な損傷を防止し、水-ジルコニウム反応を無視し得る程度に抑え、崩壊熱を長期にわたって除去できる能力が必要である。したがって、非常用炉心冷却系については、電源系を含めて、多重性、独立性及び試験・検査の可能性が確保され、また、「軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の安全評価指針について」(以下「ECCS安全評価指針」という。)で要求されている機能及び性能を有しているかについて検討を加えた。

 非常用炉心冷却系は、高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系、低圧注水系(3ループ)及び自動減圧系から構成される。

 これらは、外部電源のほか、低圧炉心スプレイ系、低圧注水系は独立2系統の非常用母線及び非常用ディーゼル発電機に接続され、高圧炉心スプレイ系は、専用のディーゼル発電機に、また、自動減圧系は蓄電池にそれぞれ接続される。更に、これらの非常用炉心冷却系は、その起動信号、電源及び機器冷却系とも含めて区分Ⅰ、区分Ⅱ及び区分Ⅲに分離しており、各区分ごとに独立の電源及び冷却系を確保するよう設計されるので、非常用所内電源のみの運転下で単一故障を仮定しても、系統の安全機能が達成できるものと判断する。

 また、高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系及び低圧注水系には、テストラインが設けられるのでこれらを用いた動作試験により非常用炉心冷却系の健全性が保たれていることを原子炉運転中にも確認することができる。

 非常用炉心冷却系の性能評価については、Ⅳ.5に示すように中小破断時はもちろんのこと、最大口径配管(再循環回路配管)の瞬時破断を仮定しても、最高燃料被覆管温度の計算値が1,200℃を下回ること及び水-ジルコニウム反応割合も十分低いことを確認した。

 更に、炉心が非常用炉心冷却系によって再冠水された後の残留熱は残留熱除去系及び残留熱除去機器冷却系によって海水に伝達できるように伝熱径路が確保される。

 以上のことから、非常用炉心冷却系の機能及び性能は確保され、「ECCS安全評価指針」を満足しているので、妥当であると判断する。

2.4.3 残留熱除去系

 残留熱除去系は、原子炉停止時に燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えないように、炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱を除去できることが必要である。

 このため審査に当たっては、残留熱除去系の熱除去能力及び原子炉隔離時の熱除去能力について検討を行った。

 炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱は、原子炉停止後の初期段階においては、復水器により処理される。その後、原子炉の圧力、温度が所定の値以下に低下した段階においては、残留熱除去系により熱除去が行われ、冷却材温度を約20時間で52℃以下に下げ、かつ維持することができる。

 冷却材は、残留熱除去系のポンプ及び熱交換器を経て冷却材再循環ポンプ出口に戻すとともに一部は原子炉圧力容器頂部へスプレイし、原子炉圧力容器内部を冷却する設計となっている。

 また、原子炉隔離時については、残留熱除去系の蒸気凝縮モードによって原子炉蒸気を残留熱除去系の熱交換器により冷却凝縮し、原子炉隔離時冷却系により圧力容器頂部へスプレイする。

 残留熱除去系は3ループからなり、2基の熱交換器、3台のポンプより構成される。またポンプは区分された非常用母線に接続されている。

 以上のことから残留熱除去系の設計は妥当なものと判断する。

2.4.4 冷却水系

 冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、重要な構築物等の全熱負荷を最終的な熱の逃がし場に確実に伝達できることが必要である。

 このため審査に当たっては、冷却水系の熱除去能力について検討を行った。

 通常運転時において、炉心の発生熱は、タービン系の仕事に用する熱のほかは、復水器を通して海水に放出される。運転時の異常な過渡変化時及び事故時においては、炉心の発生熱は、復水器又は残留熱除去機器冷却系により海水に放出される。

 その他の重要な構築物等の冷却水系としては、原子炉補機冷却系が設けられる。

 原子炉補機冷却系は、燃料プール冷却浄化系熱交換器等の除熱を行い、非常用機器冷却系は、残留熱除去系熱交換器、非常用ディーゼル発電機等の除熱を行う設計となっている。また、これらの冷却系は、2系統設けられ、多重性を持つとともに非常用電源にも接続される。

 したがって、冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において十分その機能を果たし得るものと考える。

 以上のことから、冷却水系の設計は妥当なものと判断する。

2.5 原子炉格納施設
2.5.1 原子炉格納容器及び付属設備

 原子炉格納容器の設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1)冷却材喪失事故時に想定される最大エネルギ放出によって生じる圧力、温度に耐え、かつ、その場合にも所定の漏洩率を超えないこと。

(2)定期的に原子炉格納容器全体及びその貫通部等の重要な部分の漏洩率試験及び検査ができること。

(3)格納容器バウンダリは、事故時において、脆性的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じない設計であること。

(4)原子炉格納容器を貫通する配管系は隔離機能を有し、動力源の単一故障によって自動隔離機能を喪失しないこと。これらの事項を考慮して検討を行った結果は次のとおりである。

 原子炉格納容器の設計圧力は、2.85㎏/㎝2g、設計温度は、171℃、サプレッション・チェンパ部水温104℃となっているが、最も苛酷と考えられる再循環回路の最大口径の配管破断による冷却材喪失事故を仮定した場合でも、Ⅳ.5に示すように、圧力は最高で2.5㎏/㎝2gであり、ドライウェル温度、サプレッション・チェンバ・プール水の温度はそれぞれ最高で約139℃、84℃であるので、事故時に想定される最大エネルギ放出によって生じる圧力、温度に耐え得ることを確認した。

 原子炉格納容器の漏洩率は、常温、空気、設計圧力において0.5%/d以下となるように設計されるが、この値はⅣ.6に示すように災害評価に用いられている0.5%/d一定と仮定している漏洩率を事故期間中上まわることがないので妥当なものと判断する。

 また、原子炉格納容器は、定期的な漏洩率試験が行われ、設計漏洩率を下回ることが確認される。

 更に、原子炉格納容器漏洩率試験以外にも、電線貫通部、ベローズを用いてシールする配管貫通部及び出入口の重要な部分は、個々に試験ができるように、2重シールにし、試験用タップが設けられる。

 また、原子炉格納容器の貫通する配管系(計装配管を除く)には、原則として原子炉格納容器の内外にそれぞれ1個の自動隔離弁が設けられるとともに、必要な隔離機能の維持を確認するため、定期的な弁漏洩試験ができるように試験用タップが設けられる。

 格納容器バウンダリの材料は、その脆性遷移温度が最低使用温度より少なくとも17℃低いものであることを確認した上で使用される。

 以上のことから、原子炉格納容器は、事故時に放射性物質の外部への放出を抑制する機能を有するものと判断する。

 また、冷却材喪失事故時にドライウェル内に放出された蒸気と水の混合物は、ベント管を通してサブレッション・チェンバ内のプール水中に導かれ、蒸気をこのプール内で冷却し、凝縮することによって、ドライウェル内圧の上昇が抑制される。更に、原子炉格納容器の内圧を抑制する系として、格納容器スプレイ冷却系があるが、この系は独立した2系統からなり、それぞれ外部電源のほか、非常用電源にも接続される。したがって、機器の単一故障及び外部電源喪失を仮定しても、原子炉格納容器内の圧力及び温度を長期間にわたって抑制でき、Ⅳ.6に示すように、原子炉格納容器内の圧力は、事故後約33日で大気圧まで低下できることを確認した。なお、格納容器スプレイ・ポンプは、通常運転中にも定期的に作動試験が行えるようテスト・ラインが設けられる。

 以上のことから、サプレッション・チェンバ及び原子炉格納容器スプレイ冷却系は、原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるに十部な機能を有するものと判断する。

2.5.2 二次格納施設(原子炉建屋原子炉棟及び非常用ガス処理系)

 原子炉建屋原子炉棟及び非常用ガス処理系は、冷却材喪失事故時、原子炉格納容器から漏洩してくる放射性物質の放散防止及び漏洩気体中に含まれるよう素を除去し、環境に放出される放射性物質の濃度を減少させる機能が必要である。

 このため審査に当たっては、負圧達成能力及びよう素用フィルタによる除去効率等について検討を行った。

 原子炉建屋原子炉棟は、原子炉格納容器を完全に取り囲む気密性の高い格納施設であり、非常用ガス処理系の1系統で原子炉棟内を水柱約6㎜以下の負圧に保てるので原子炉格納容器から漏洩してくる放射性物質が非常用ガス処理系のフィルタを通らずに直接外部に放出されることはない。

 また、原子炉棟の気密性は非常用ガス処理系の運転により、原子炉棟内を負圧に保って行う漏洩試験により定期的に確認できるようになっている。

 非常用ガス処理系は2系統からなり、1系統で原子炉建屋原子炉棟を水柱約6㎜の負圧に保ち、原子炉建屋原子炉棟内空気の100%を1日で処理する能力を有しており、フィルタを通った気体は、主排気筒内に沿わせて設けられる排気管を通して主排気筒排気口から放出される。

 この系のよう素用チャコール・フィルタのベッド厚さは、約20㎝あり、よう素除去効率は99%以上になっている。また、高性能粒子フィルタは、0.3μmの粒子に対して99.9%以上を除去できるように設計される。

 上述の非常用ガス処理系のよう素用チャコール・フィルタのよう素除去効率は、99%以上であることが実験により確認されている。

 更に、チャコール・フィルタのよう素除去効率の経年変化等についても、実験により問題のないことが示されており、定期検査時には、フィルタの性能が確認されることになっている。

 以上のことから、原子炉建屋原子炉棟及び非常用ガス処理系は、事故時に原子炉格納容器から漏洩してくる放射性物質の濃度を低減させる機能を有するものと判断する。

2.5.3 可燃性ガス濃度制御系

 可燃性ガス濃度制御系は、原子炉格納容器の健全性を維持するため、冷却材喪失事故後の原子炉格納容器内に存在する水素又は酸素の濃度を可燃限界以下に制御できることが必要である。

 本原子炉格納容器内雰囲気は空気であるが、本系統は、冷却材喪失事故が発生した場合でも原子炉格納容器内雰囲気中の水素ガス濃度を4vol%以下に維持できるように設計される。なお、水素又は酸素ガスの可燃限界に関する各種の実験結果から、水素又は酸素ガス濃度のいずれか一方の制限値以下に維持されるなら、燃焼反応は生じないことが確認されている。

 本系統の可燃性ガス濃度制御系の容量を定めるに当たっては、原子炉格納容器内の可燃性ガスの発生源として、冷却材喪失事故後における非常用冷却水の放射線分解をも考慮し、十分な安全余裕を持った前提条件が用いられている。すなわち、水の放射線吸収に対する水素ガス及び酸素ガスの発生割合としては、G(H2)=0.5(分子/100eV)及びG(O2)=0.25(分子/100eV)が用いられているが、この値は、水の放射線分解に関する各種実験結果からみて、十分な安全余裕を持ったものである。

 なお、可燃性ガス濃度制御系は、1系統で100%処理容量を持つ独立した2系統が設けられ、外部電源のほか、非常用電源にも接続されるので冷却材喪失事故時に機器の単一故障を仮定しても、機能が失われることはない。

 また、容量の妥当性は、Ⅳ.5に示す冷却材喪失事故解析において確認した。

 以上のことから、可燃性ガス濃度制御系は、冷却材喪失事故時に原子炉格納容器内に発生する水素ガスの急激な燃焼反応を防止する機能を有するものと判断する。

2.6 燃料取扱い及び廃棄物処理系
2.6.1 核燃料取扱い及び貯蔵設備

 核燃料取扱い及び貯蔵設備の設計においては、以下に示す事項を満足することが必要である。

(1)燃料貯蔵設備は、適切な格納機能、貯蔵容量及び未臨界性を有すること。

(2)核燃料取扱機器は、試験・検査機能を有し、かつ、燃料落下防止対策が講じられていること。

(3)使用済燃料貯蔵設備は、放射線遮蔽、プール水の冷却、浄化並びに漏洩防止及び検知機能を有し、想定される燃料落下時にも損傷しないこと。

(4)核燃料の取扱場所は、崩壊熱の除去能力の喪失に至る状態及び過度の放射線レベルが検出できるとともに、その事態を適切に従事者に伝えるか、又は、自動的に対処できること。

 これらの事項を考慮して検討を行った結果は次のとおりである。

 新燃料貯蔵の貯蔵ラックは、所定の位置以外には燃料集合体を挿入できない構造とされ、各ラックに一体づつ適切に収納される。

 また、新燃料貯蔵庫内に水が充満するのを防止するために排水口が設けられる。

 新燃料貯蔵庫は全炉心燃料の約30%を収納でき、通常状態では実効増倍率を0.90以下に、また、容量いっぱいの新燃料を貯蔵した状態で貯蔵庫内が水で満たされるという厳しい異常状態を仮定しても実効増倍率は0.95以下に保たれるよう設計される。更に、新燃料貯蔵庫には、水の消失栓を設けない設計となっているが、実効増倍率が最も高くなるような密度の水分雰囲気で満たされると仮定した場合でも、臨界未満になることを計算により確認していることから、予想されるいかなる状態においても臨界に達することはないものと判断する。

 使用済燃料プールの貯蔵容量は、全炉心燃料の約270%に設計され、通常運転中は全炉心の燃料を貯蔵できる容量が常に確保される。

 使用済燃料貯蔵ラックは、貯蔵燃料の臨界を防止するために、適切な燃料間距離をとることになっており、計算上、通常状態で容量いっぱいの新燃料を貯蔵した場合を仮定しても、実効増倍率は0.90以下に、また、燃料間距離がラック内で最小となるような状態を仮定しても、0.95以下に保たれることを確認した。

 したがって、使用済燃料プールは予想されるいかなる状態においても臨界に達することはないものと判断する。

 使用済燃料から発生する崩壊熱は、燃料プール冷却浄化系によって除去され、通常状態での装荷量が最大の場合(170%炉心分)でも、燃料プール水温が52℃を超えないように設計される。更に、これを超える可能性がある場合には、残留熱除去系が併用され、270%炉心分を貯蔵した場合でも十分な冷却能力が確保される。また、最終的な熱の逃がし場までの伝熱径路は、機器の単一故障を仮定しても、確保されるようになっている。万一、プール水の温度が異常に上昇した場合には、中央制御室に警報を発し、従事者が対処できるようになっている。また、プール水の漏洩防止及び漏洩検出に対する設計上の考慮がなされている。

 使用済燃料輸送容器は、インターロックにより使用済燃料プール上を通過しないようになっており、燃料取替機は、ワイヤの二重化や各種のインターロックにより取扱中の燃料集合体の落下を防止する対策がとられる。

 なお、万一、燃料集合体が落下することを仮定しても、使用済燃料プールは、その機能を失うような損傷が生じないように設計される。

 燃料取替機、燃料プール冷却浄化設備等の安全上重要な機器は、定期的な試験・検査が可能な設計となっている。

 使用済燃料プール水面上の空気は、フィルタ・ユニットを内蔵する原子炉建屋換気空調系によって浄化され、主排気筒排気口から排気される。

 また、使用済燃料プール・エリアには、放射線監視のためのエリア・モニタが設置され、万一、放射線レベルが異常に上昇した場合には、中央制御室に警報を発し、従事者が対処できるようになっている。

 以上のことから、本施設の信頼性及び貯蔵能力は妥当なものと判断する。

2.6.2 気体廃棄物処理設備

 気体廃棄物処理設備は、適切なろ過、貯留、減衰及び管理を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び量を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため、審査に当たっては、放射線気体廃棄物の発生量と貯留能力、放射線気体廃棄物の放出管理等について検討を加えた。

 気体廃棄物処理設備は、タービン復水器の排ガスを処理するためのもので、排ガス再結合器、排ガス減衰管、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置等からなる。

 復水器空気抽出器排ガス中に含まれる水素、酸素ガスは、復水器空気抽出器駆動蒸気で希釈され、非爆発生となっているが、排ガス再結合器は触媒反応によって、水素ガスと酸素ガスを再結合させ、駆動蒸気が復水された後も、水素ガス濃度を可燃限界以下に抑えるものである。

 これらの機器は、それぞれ予備器が設けられるので、万一、不具合が生じた場合にも所定の性能は維持されるものと判断する。

 活性炭式希ガス・ホールドアップ装置等の性能については、活性炭量、流量、温度、湿分等を検討した結果、排ガス中のキセノンを約27日間、クリプトンを約40時間保持するのに十分な能力を有するものと判断する。

 また、タービンが停止した場合、復水器に残留するガスを活性炭式希ガス・ホールドアップ装置で処理できるように起動停止用空気抽出器が設けられるが、これは排ガス中の放射性物質をより少なくすることから妥当であると判断する。

 なお、タービンの軸封には、タービン軸封蒸気発生器の蒸気を使用し、かつ、タービン軸封蒸気発生器への給水には、復水貯蔵タンク水が使用されるのでタービン軸封系排ガス中の放射性物質は極めて少ない。

 以上のことから、気体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断する。

2.6.3 液体廃棄物処理設備

 液体廃棄物処理設備は適切なろ過、蒸留、脱塩、貯留、減衰及び管理を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び量を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、放射性液体廃棄物の発生量と処理能力、放出管理等について検討を加えた。

 液体廃棄物処理設備は、発生する放射線廃液を分離収集し、処理するためのもので、低電導度廃液系、高電導度廃液系、洗濯廃液系等で構成される。

 これらの系には、処理する放射性廃液の性状に応じて収集タンク、クラッド除去装置、ろ過装置、脱塩装置、蒸発濃縮装置、油除去装置、貯蔵タンク等が設けられるが、これらの設備の性能については、処理容量からみて、発生廃液量を十分処理する能力を有するものと判断する。

 また、これらの機器は、独立した区画内に設けるか又は周辺に堰を設けて、万一、機器から液体廃棄物が漏出した場合にも管理区域外に漏出することがないように設計されるので、妥当であると判断する。

 なお、処理済液は放射能レベルのごく低いものを除き、原則として環境には放出せず、できる限り原子炉補給水として再使用することになっている。

 液体廃棄物処理設備のうち1号炉と共用設備があるが、処理能力については、妥当であると判断する。

 以上のことから、液体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断する。

2.6.4 固体廃棄物処理及び貯蔵設備

 固体廃棄物処理設備は遮蔽遠、隔操作等によって、従事者の被曝線量を実用可能な限り低減できる設計であることが要求される。また固体廃棄物貯蔵設備は、発生する放射性固体廃棄物を貯蔵する容量が十分であるとともに、放射性固体廃棄物の貯蔵による敷地周辺の空間線量率を実用可能な限り低減できる設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、従事者の被曝低減対策、放射性固体廃棄物の発生量、固体廃棄物貯蔵及び遮蔽能力等について検討を加えた。

 固体廃棄物処理設備は、液体廃棄物処理設備で発生した濃縮廃液、使用済樹脂、雑固体廃棄物等を処理するもので、濃縮廃液系、使用済樹脂系及び雑固体系で構成される。

 これらの系には、固体廃棄物の性状及び放射性物質濃度に応じてドラム缶詰するか又は貯蔵槽に貯蔵ができるようになっている。

 濃縮廃液固化体、雑固体廃棄物等はドラム缶詰され、固体廃棄物貯蔵庫に貯蔵保管される。固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵保管能力は、1号棟及び2号棟共に1号炉と共用となっており約3年分の貯蔵能力があり、必要に応じて増設される。

 使用済樹脂は、タンク内で約5~10年間貯蔵保管し、放射能の減衰が図られる。その後必要に応じてドラム缶内に固化される。使用済制御棒等は、その放射能を減衰させるため、使用済燃料プール内に貯蔵保管される。

 固体廃棄物の処理及び貯蔵保管に当たっては、従事者の放射線被曝を少なくするため、十分な遮蔽を設けるとともに、遠隔操作が可能なように配慮される。

 また、固体廃棄物の貯蔵による敷地周辺の直接放射線及びスカイシャインによる空間線量は1、2号棟を合計して、人の居住の可能性のある敷地境界外において年間5mR以下となることを目標に遮蔽等が行われ、管理することとなっている。

 なお、固体廃棄物を最終的に処分する場合には関係官庁の承認を受けることになっている。

 以上のことから、固体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は、妥当であると判断する。

2.6.5 放射線管理施設
(1)放射線防護設備

 放射線防護設備は、従事者等が立入場所において不必要な放射線被曝を受けないように、作業性等を考慮して所要の措置を講じた設計であることが必要である。

 このため審査に当たっては、遮蔽能力、機器の配置、放射性物質の漏洩防止対策及び換気能力について検討を加えた。

 遮蔽については、原子炉一次遮蔽、原子炉二次遮蔽、原子炉補助遮蔽、燃料取扱遮蔽等が設けられるので、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において従事者の被曝線量は低く抑えられると考えられる。

 機器の配置に当たっては、高放射性物質を内蔵するタンク、ポンプ、熱変換器等は、原則として区分された区域に配置され、制御盤及び電磁弁等の保修頻度の高い設備は低放射線区域に配置される。

 また、放射線レベルが高い機器の操作は、原則として、遠隔自動操作となっている。

 したがって、機器の配置は、放射線レベル、保修頻度、操作等が考慮されており、妥当なものと判断する。

 漏洩防止対策については、冷却材等の放射性物質濃度の高い流体が漏洩しないような弁等が可能な限り採用され、万一、漏洩を生じた場合でも、汚染が拡大しないように機器が独立した区画内に配置され、また、これらの機器周辺には堰が設けられる。更に、主要な床ドレンには、漏洩検出器を設置することにより、漏洩の早期発見が可能な設計となっているので妥当なものと判断する。

 換気設備は、原子炉建屋、中央制御室、タービン建屋、廃棄物処理建屋等の各区域に必要な容量を有し、作業環境の空気を清浄に保つことができる設計となっている。

 また、各換気施設のフィルタは点検及び交換ができる設計となっている。

 以上のことから、放射線防護設備の設計は妥当であると判断する。

(2)放射線監視及び管理設備

 放射線監視及び管理設備は従事者等を放射線被曝から防護するため、放射線被曝を十分に監視及び管理できるとともに、必要な情報を中央制御室又は適当な管理場所に通報できる設計であることが必要である。

 また、敷地周辺の放射線を監視するため、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、原子炉格納容器、放射性物質の放出径路、敷地周辺等を適切にモリタリングできることが必要である。

 従事者等の放射線被曝の監視及び管理については、外部放射線量及び空気中若しくは水中の放射性物質の濃度等が「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で定める線量及び濃度を超えるおそれのある場所を管理区域とし、人の出入管理を行うとともに、これらの区域内においては、外部放射線量及び空気中若しくは水中の放射性物質の濃度等を測定監視し、その結果を管理区域内の諸管理に反映することとしている。

 管理区域内への立入り及び物品の搬出入を管理するための出入管理設備が設けられるほか、エリア放射線モニタリング設備、プロセス放射線モニタリング設備、放射線サーベイ機器及び個人管理関係設備が設けられる。

 エリア放射線モニタリング設備は、中央制御室及び管理区域内の主要箇所の空間線量率を、また、プロセス放射線モニタリング設備は、主要系統の放射線レベルを中央制御室に指示記録し、異常時には中央制御室及びその他必要な箇所に警報を発する設計となっているので妥当であると判断する。

 敷地周辺の放射線監視については、放出源の監視用として、原子炉施設内にプロセス放射線モニタリング設備、また、野外監視用として環境モニタリング設備及び環境試料測定設備が設けられる。

 すなわち、原子炉格納容器内雰囲気のモニタリングは、格納容器内ガス中の核分裂生成物の放射能の測定によって行い、また、原子炉格納容器内の空気をサンプリングすることにより、放射性物質の濃度等を測定することもできる設計となっている。

 更に、放射性物質の放出径路である主排気筒、液体廃棄物排水ライン等にモニタを設置するほか、必要箇所においてサンプリング測定もできる設計となっている。

 野外監視用としては、発電所の周辺にモニタリング・ポスト及びモニタリング・ポイントを設置し、更に、放射性物質の異常放出等があった場合には、放射能観測車により放射線測定を行うことになっており、放出放射性物質の周辺環境に及ぼす影響を十分監視できるものと考える。

 以上のことから、放射線監視及び管理設備の設計は妥当であると判断する。

3 原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価

3.1 被曝線量評価の概要

 一般公衆の被曝線量評価は、原子炉施設の平常能転時に環境に放出される放射線物質の量を推定し、これらの放射性物質による一般公衆の被曝線量が現行法令に定める許容被曝線量を下回ること。更に「線量目標値に関する指針」に十分適合することを示すために行われている。

 放射性物質の環境への放出量については、先行炉における燃料損傷の程度等の実績を参考に放射性物質が、原子炉から排気口又は排水口に至るまでの過程について解析し、放出径路ごとに計算されている。

 大気中に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は、敷地における1年間の気象資料を用いて算出された空気中濃度をもとに計算され、また、海洋に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は、冷却水放水口濃度を基にして計算されている。

 放射性物質の環境への放出量及び一般公衆の被曝線量の計算は、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」(以下「評価指針」という。)に従って行われている。

3.2 大気中に放出される放射性物質の年間放出量

 気体廃棄物中の主な放射性物質は、冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち、放射性希ガス(以下「希ガス」という。)及び放射性よう素(以下「よう素」という。)であるので、これらの放射性物質に着目して年間放出量が計算されている。

 このほかにも、冷却材中の空気及び原子炉圧力容器外周部の空気が中性子照射を受けて生成するアルゴン-41等の放射化生成物が放出されるが、これらの放射化生成物は生成量が少ないこと、又は半減期が短いこと等により、環境への放出量は少ないことが示されている。

 希ガス及びよう素の年間放出量は、炉心燃料からの全希ガス漏洩率を想定し、この漏洩率に相当する希ガス及びよう素が炉心燃料から運転中連続して出てくるものとして計算されている。

 炉心燃料からの全希ガス漏洩率は、年間平均値として0.4Ci/s(30分減衰換算値)が用いられている。

 これまでの先行炉の運転実績によれば、全希ガス漏洩率の年間平均値は、たかだか0.3Ci/s程度であることを考慮すると、ここで用いられた値は、被曝線量評価に用いる値としては妥当であると判断する。

 冷却材中のよう素の濃度は、冷却材保有量、原子炉冷却材浄化系の性能等に関する設計条件と「評価指針」に示されたパラメータを用いて計算されている。

(1)復水器空気抽出器系から放出される希ガス及びよう素は、復水器から空気抽出器系に移行する希ガス及びよう素の割合を「評価指針」と同じく、それぞれ100%及び1%とし、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置の希ガスの保持時間については、キセノンについて27日間、クリプトンについて40時間という設計値を用いて計算されている。

 なお、よう素については希ガスと同様に活性炭式希ガス・ホールドアップ装置に導びかれるが、希ガス・ホールドアップ装置の活性炭層は極めて厚いため、よう素がほとんど除去されるので、放出量の計算に当たっては無視されている。

(2)復水器真空ポンプの運転による排ガス中の希ガス及びよう素の放出量は、「評価指針」に示されたパラメータと前述した燃料からの全希ガス漏洩率(0.4Ci/s以下同様)を用いて計算されている。

 放出回数は、年間5回とされており、また、放出希ガスの核種組成は、「評価指針」と同じく、減衰時間を12時間として計算されている。

 年間5回の放出回数は、先行炉の実績を考慮したものである。

 なお、原子炉が停止した場合、復水器空気抽出器に代って起動停止用空気抽出器が運転される。起動停止用空気抽出器の排ガスは、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置に導びかれるので、復水器に残留する希ガス及びよう素は少なくなる。したがって、真空ポンプを運転する場合には、放出される希ガス及びよう素の量は少なくなるものと期待される。しかし、ここでは、この効果がないものとして計算されている。

(3)タービン建屋、原子炉建屋、廃棄物処理建屋等の換気により放出される希ガス及びよう素は、冷却材の漏洩率、漏洩冷却材中に含まれる希ガス及びよう素が空気中に移行する割合等を考慮して計算されるが、ここでは、燃料からの全希ガス漏洩率と「評価指針」のパラメータを用いて計算されている。

(4)定期検査時に放出されるよう素

 定期検査時には、冷却材中に含まれているよう素のうちよう素-131が機器の保守点検等に伴って放出されるものとし、その量は、燃料からの全希ガス漏洩率と「評価指針」のパラメータを用いて計算される。

 以上の前提条件に基づいて、計算された本原子炉施設の希ガスの年間放出量は約5.0×104Ci(γ線実効エネルギ0.25MeV)、よう素の年間放出量は、よう素-131、約2.1Ci、よう素-133、約3.4Ciである。

3.3 海洋中に放出される放射性物質の年間放出量

 液体廃棄物は、各建屋の機器からのドレン、床ドレン、復水脱塩系樹脂の再生廃液、保護衣類等を除染する際に生ずる洗濯廃液等とされており、これらのなかに含まれる主な放射性物質は、冷却材中に漏洩した核分裂生成物と冷却材中に含まれる不純物が中性子照射を受けて生成した放射化生成物である。

 発生した液体廃棄物は、その性状に応じて分離回収された後、液体廃棄物処理設備でろ過、脱塩、蒸発濃縮等の処理を行うこととされ、処理によって生成した処理水は、放射性物質の濃度及び水質により再使用、再処理又は所外放出を行うこととされている。

 環境に放出される液体廃棄物の量は、処理モード、処理設備の性能、処理水の再使用の割合等を考慮して計算されるが、その計算に当たっては、先行炉の運転実績が参考にされている。

 この結果、液体廃棄物の年間放出量は、約8,500m3で、そのなかに含まれる放射性物質の量は、トリチウムを除き、約0.6Ciであり、これは復水器冷却水で希釈の上放出される。

 液体廃棄物中の放射性物質による被曝線量の計算に当たっては、処理水の再使用の条件等を考慮して、放射性物質の年間放出量は、トリチウムを除き、1Ci、トリチウムは、先行炉の実績を参考として100Ciという値が用いられている。

 線量評価のために用いる冷却水放水口の濃度は、上記の放射性物質年間放出量と「評価指針」に示された核種組成並びに復水器冷却水の年間放出量をもとに放射性核種ごとに算出している。

3.4 被曝線量の計算
3.4.1 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量

 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の計算は、主排気筒等から拡散移動する放射性雲からのγ線による外部全身被曝線量を対象に行われている。

 計算に当たっては、Ⅳ.3.2で述べた希ガスの年間放出量及びγ線の実効エネルギを基礎にⅣ.1で述べた大気拡散の解析結果を用い、かつ、連続放出、間けつ放出の放出モードを考慮して「評価指針」に示された方法により、希ガスのγ線による全身被曝線量が計算されている。

 この結果、希ガスからのγ線による全身被曝線量は、敷地境界外の最大となる場所において1、2号炉合せて年間約1.5mremである。

3.4.2 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量

 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の計算は、放射性物質が海産物を介して人体に摂取される場合の内部全身被曝線量を対象にして行われている。

 人体の放射性物質の摂取率は、海水中の放射性物質濃度、海産生物の濃縮係数、海産物摂取量等を考慮して、「評価指針」に示された方法により計算されている。

 この場合、海水中の放射性物質濃度はⅣ3.3で示した放水口濃度が用いられている。

 この結果、液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量は、年間約0.2mremである。

3.4.3 よう素に起因する甲状腺被曝線量

 甲状腺被曝線量の計算は、気体廃棄物中のよう素及び液体廃棄物中のよう素に着目し、これらが呼吸、葉菜、牛乳及び海産物を介して成人、幼児及び乳児にそれぞれ摂取される場合の内部甲状腺被曝線量を対象にして行われている。

 人体のよう素摂取率は、空気中又は海水中のよう素濃度、呼吸率、空気中のよう素が葉菜に移行する割合、海産生物の濃縮係数、食物摂取量等を考慮して、「評価指針」に示された方法により計算されている。

 この場合、よう素の地表空気中濃度はⅣ.3.2で示したよう素の年間放出量をもとにⅣ.1で示した大気拡散の解析結果を用いて求め、また海水中のよう素濃度はⅣ.3.3で示した放水口濃度が用いられている。

 甲状腺被曝線量の計算は、人体に摂取されたよう素の甲状腺に移行する割合が、摂取食物中に含まれる安定よう素の量によって変化することを考慮し、各被曝径路における安定よう素摂取量に応じて行われている。

 この結果、よう素に起因する甲状腺被曝線量は、敷地境界外の最大となる場所において1、2号炉合わせて年間約5.7mremである。この線量は幼児がよう素を呼吸、薬菜、牛乳及び海産物(海藻類を除く)を介して摂取するとした場合の値である。

3.5 評価

 前述の計算に用いられた方法は、「評価指針」に示されたものと同一のものであり、また、「評価指針」に定められていない条件も、原子炉施設の設計、運転実績よりみて厳しいものが使用されている傾向にあると考えられる。

 計算された被曝線量の値は、1、2号炉合わせて全身被曝線量については年間約1.7mrem、甲状腺被曝線量については年間約5.7mremであり、「線量目標値に関する指針」に定める全身被曝線量(年間5mrem)及び甲状腺被曝線量(年間15mrem)の線量目標値を下回っている。

 以上の評価において取り上げられていない被曝源として、固体廃棄物貯蔵庫等の直接放射線及びスカイシャインがある。これらの放射線は、建屋のコンクリート壁等によって十分遮蔽され、人の居住の可能性のある敷地境界において年間5mR以下となることを目標に抑えられ、かつ、また、この線量は、線源が固定されているため、距離が離れるに従って、急激に減衰するという性質を考慮すると、一般公衆の被曝線量に寄与する地点は、敷地境界近傍に限られる。

 他の被曝にはβ線による皮膚被曝、海水浴中に受ける被曝、大気中に放出された粒子状放射性物質に起因する被曝等があるが、これらの被曝線量については、「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」に示すように、一般に小さい寄与しか与えない。

 したがって、これらによる線量等を考慮しても周辺監視区域外における被曝線量は、現行法令に定める許容被曝線量(年間500mrem)をはるかに下回るものと判断する。

4 運転時の異常な過渡変化の解析

 運転時の異常な過渡変化とは、原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障又は誤動作あるいは運転員の単一誤操作によって、原子炉施設が通常運転状態から外れる場合をいう。

 これらの原因になるものとしては、
(イ)弁1個の誤開放又は誤閉止
(ロ)単一の機器の誤起動又は誤停止
(ハ)単一の制御機器の誤動作又は誤操作
(ニ)単一の電気系故障
(ホ)単一の運転員誤操作

が考えられるが、これらの原因により原子炉圧力、冷却材温度、冷却材流量、原子炉水位、原子炉出力及び炉心反応度に変動を生じる。

 このような運転時の異常な過渡変化時においても、原子炉の炉心及びそれに関連する原子炉冷却系、計測制御系及び安全保護系は、燃料の許容設計限界を超えることなく、また、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を確保できるよう、それぞれの機能を果たし得るような設計になっていることが必要である。

 これらプラント各系統の設計の妥当性を確認するため、以下に示す項目を具体的な判断基準として、運転時の異常な過渡変化の解析の評価を行った。

(1)燃料の健全性に対しては

(イ)MCPRが限界値(1.07)を下回らないこと。

(ロ)燃料被履管の円周方向平均塑性歪が1%に至らないこと。

(ハ)急激な反応度増加をもたらすような過渡現象に対しては、燃料ペレットの最大保有エンタルピが許容設計限界値(内圧が問題となる場合は110cal/g・UO2その他の場合は170cal/g・UO2)を超えないこと。

(2)原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性に対しては過渡最大圧力が最高使用圧力の1.1倍の圧力(96.7㎏/㎝2g)を超えないこと。

 以下に示す申請者の解析においては、運転時の異常な過渡変化が生じる可能性のある系を再循環系、給水系、主蒸気系、制御棒系及びその他の系に分類し、それぞれ過渡変化の結果が厳しくなる事象及び条件を選定しており、また、スクラム反応度曲線の適用期間に応じて炉心状態を早期炉心と平衡炉心末期に分けて解析を行っている。

 なお、機器の設計の妥当性を評価するために、運転時の異常な過渡変化時の定義を超えて想定されている事象もこの中に含まれている。

 これらの事象の選定は、炉心での種々の影響を生じる過渡変化を代表し、包含するものが選ばれていることから、妥当であると判断する。

4.1 早期炉心における過渡変化
4.1.1 再循環系の過渡変化

 再循環系の異常な過渡変化の原因は、再循環ループの流量、又は温度の急激な変化によるものであり、再循環ポンプの故障、再循環流量制御系の誤動作、再循環ループの誤起動が考えられる。

(1)再循環ポンプ1台軸固着

 再循環ポンプ軸が瞬時に固着するという可能性は非常に少ないが、再循環ポンプ軸固着が起こると炉心流量は急激し、ボイドが急増する。したがって、出力は減少するが、燃料の伝熱時定数があるため、初期のごく短時間の間、表面熱流束と流量の不整合が生じMCPRは減少する。

 過渡現象を通じてMCPRの変化量(以下「ΔMCPR」という)の最大値は0.08である。

 また、水位高によるタービン・トリップにより原子炉圧力は上昇するが、タービン・バイパス弁及び逃がし安全弁の動作により原子炉圧力は78.1㎏/㎝2gまでの上昇にとどまる。

(2)再循環ポンプ・トリップ

 現象的には、再循環ポンプ軸固着と同様であり、再循環ポンプがトリップすると炉心流量は急減し、ボイドは急増する。再循環ポンプ・駆動電動機及びM・Gセットの慣性定数の設計値は10.4秒であるが、本解析では、製作誤差を考慮し、結果が厳しくなるよう9.9秒としている。また、局内母娘の単一故障があっても2台の再循環系M・Gセット駆動電動機の電源が同時に失われることはないが、解析上2台の再循環系M・Gセット駆動電動機が同時に電源喪失するものと仮定している。

 再循環ポンプ2台トリップの過渡変化は、再循環ポンプ・駆動電動機及びM・Gセットの慣性のため、再循環ポンプ1台の軸固着の過渡変化よりも緩やかであり、限界値を超えることはない。また、再循環ポンプ1台トリップの場合は、更に緩やかな過渡変化となる。

(3)再循環流量制御系誤動作

 再循環流量制御系の誤動作により再循環流量が減少する場合の最も厳しい過渡変化として、片ループの速度制御器に零信号が発生した場合を仮定している。ポンプ速度最大減少率は、すくい管操作器の特性によって20%/sに抑えられる。

 過渡解析結果は、再循環流量の減少率が大きい程厳しいが、再循環流量の減少率は、すくい管操作器によって制限されるため、再循環ポンプ2台トリップより厳しくはない。

 次に、再循環流量が増加する場合の最も厳しい過渡変化として、片ループの速度制御器に増加要求信号が発生した場合を仮定している。ポンプ速度最大増加率は、すくい管操作器の特性によって20%/sに抑えられる。また、流量増加量を厳しく評価するため原子炉は、自動流量制御範囲の下限(68%出力、50%流量)で運転中と仮定している。

 この過渡変化においては、炉心流量の増加に伴い出力も増加するが、燃料の伝熱時定数によって、表面熱流束の増加はおさえられ、炉心流量の増加に比較して緩やかなものとなる。また、中性子束の増大により、原子炉はスクラムされ、原子炉出力の増加は抑えられる。

 原子炉の圧力上昇は約0.4㎏/㎝2に過ぎず、また、部分負荷であるため、MCPRの初期値は大きく、過渡時に限界値を下回ることはない。

(4)再循環ループ誤起動

 停止中の再循環ループを予熱なしに誤起動すると炉心入口サブクーリングが増加し、出力が急上昇する。

 再循環ループ中の冷却材温度は、圧力容器の脆性遷移温度を考慮して38℃以下にならないように管理されるが、解析上は38℃の冷水で満たされていると仮定している。

 また、原子炉出力は片ループ運転からの起動時に想定される最大出力である定格出力の60%で運転を行っている状態を仮定している。

 再循環ポンプを起動することにより、炉心流量が急激に増加する。このため、ボイドが減少し、中性子束は定格の120%に達する。

 表面熱流束は、徐々に上昇するが、定格値を超えることはなく、過渡時のMCPRは1.36以上を維持する。また原子炉の圧力上昇は約0.9㎏/㎝2程度である。

4.1.2 給水系の過渡変化

 給水系で生じる異常な過渡変化の原因としては、次の二つが考えられる。一つは、冷却材の温度の低下を来たすもので、これには、給水流量の増加によるサブクーリングの増加と給水加熱の喪失による原子炉給水温度の低下がある。もう一つは、原子炉圧力容器内の冷却材の減少を来たすもので、これは給水流量の喪失によって起こる。

(1)給水制御器故障

 給水制御器の誤動作等により、給水流量が急激に増加する。初期運転状態は、定格出力の68%の場合と、105%の場合を仮定する。解析結果を厳しく見積るため再循環系は手動運転モードとする。68%出力の場合、給水流量と主蒸気流量の不整合が最も大きくなり原子炉への給水流量が増加する。

 給水流量増加により炉心への影響は、サブクーリングの増加によってボイドが減少し、原子炉出力が増加することであるが、原子炉出力の増加率は小さく、いずれの場合でも過渡時に限界値を超えることはない。また、高水位タービン・トリップに至るものの、タービン・バイパス弁が動作するので、発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)よりも緩やかな過渡変化となる。

(2)給水加熱喪失

 給水加熱は、主蒸気から抽気された蒸気で行われるが抽気弁の故障により給水加熱源は喪失し、原子炉にもどされる給水の温度は低下することとなる。設計上は6段ある給水加熱機器のうち、どの1段が加熱機能を喪失しても、給水温度の変化を55℃以内にするようになっているが、解析上は給水温度が55℃低下するものとしている。

 給水加熱喪失の結果、炉心入口サブクーリングが増加し、原子炉出力は上昇する。中性子束は、入口サブクーリングの増加により定格の122%まで増加し、中性子束高(熱流束相当)により原子炉はスクラムされる。過渡現象を通じてΔMCPRの最大値は0.12となる。

 この過渡変化は、早期炉心用スクラム曲線の適用期間において熱的に最も厳しい過渡変化であり、これにより、この期間のMCPRの運転制限値が定められる。

(3)全給水流量喪失

 給水制御器の故障、又は、給水ポンプのトリップにより部分的な給水流量の減少、又は全給水流量の喪失が起こり原子炉水位が低下する。この解析では、給水ポンプの慣性を考慮して、5秒で給水流量が完全に喪失するものと仮定している。

 給水流量が喪失すると、流入量と原子炉圧力容器からの流出蒸気量との不整合により、原子炉水位は急速に低下する。このため原子炉は水位低(レベル3)によりスクラムされる。更に、原子炉水位低(レベル2)により再循環ポンプ・トリップが起こる。このとき原子炉は、既にスクラムされており、出力は十分減少しているので、再循環ポンプ2台トリップ時よりも緩やかな過渡現象となる。

 なお、原子炉水位低下に対しては、原子炉水位低(レベル2)で原子炉隔離時冷却系が起動し、原子炉水位の低下を防止するように設計される。

4.1.3 主蒸気系の過渡変化

 主蒸気系に生じる異常な過渡変化は、主蒸気系配管に設けられている弁が急速に閉鎖、又は開放することによるものであり、これらは、原子炉圧力の上昇、又は、冷却材の減少を引き起こす。

(1)発電機負荷遮断

 電力系統故障等により、発電機負荷遮断が生じると、タービン発電機の出力負荷アンバランス検出回路の信号でタービン蒸気加減弁が急速閉鎖し、原子炉はスクラムされる。

 発電機負荷遮断の中で最も厳しい過渡変化は、105%出力でタービン・バイパス弁不動作を仮定した場合である。解析上、タービン蒸気加減弁の閉鎖時間は、設計値よりも厳しく0.075秒としている。

 中性子束は定格の197%に達し、表面熱流束は109%に達する。逃がし安全弁の動作により圧力は約79.8㎏/㎝2gに抑えられる。また、ΔMCPRの最大値は0.11となる。

 この過渡変化は、主蒸気系の過渡変化の中で最も厳しいものである。

 タービン・バイパス弁が動作する場合には、更に、緩やかな過渡変化となる。

(2)タービン・トリップ

 タービン発電機の異常、又は原子炉系の誤動作等によりタービン・トリップが発生すると、タービン主蒸気止め弁が約0.1秒で閉鎖するので、原子炉圧力が上昇し、ボイドがつぶれて、原子炉出力が上昇することとなる。原子炉出力が定格の30%以上では、タービン・トリップ時に原子炉をスクラムするとともに、原子炉圧力が逃がし安全弁の設定圧力に至ると、逃がし安全弁が動作することにより圧力上昇が抑制される。タービン・トリップ時の応答は、運転出力レベル及びタービン・バイパス弁の動作状態に応じて、初期出力が定格の30%以上でタービン・バイパス弁が動作する場合と不動作の場合、並びに初期出力が定格の30%以下で、タービン・バイパス弁が動作する場合と、不動作の場合が考えられる。このうちで最も厳しい過渡変化は、105%出力で、タービン・バイパス弁不動作を仮定した場合である。

 これは、復水器真空度の急速な喪失、又はタービン・トリップ時のタービン・バイパス弁の信号伝達の失敗、又は駆動機構の故障を仮定した場合に発生する。

 タービン・バイパス弁の不動作を仮定しているため、原子炉圧力は高くなり、79.8㎏/㎝2gに達する。しかしながら、タービン主蒸気止め弁閉スクラムにより、中性子束の値は定格の191%に抑えられているので、燃料表面熱流束の最大値は、定格の109%に抑えられ、ΔMCPRの最大値は0.11となる。

(3)主蒸気隔離弁閉鎖

 原子炉水位低等原子炉系の異常、又は運転員の誤操作等により主蒸気隔離弁が閉鎖すると原子炉圧力が上昇するが、原子炉はスクラムされるとともに、逃がし安全弁が動作して圧力の上昇は抑えられる。

 主蒸気隔離弁の弁閉鎖速度は、設計上要求される設定範囲の最小値である3秒を用いても、タービン蒸気加減弁急速閉鎖に比べてかなり遅いので、過渡現象は発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)に比べ緩やかである。

(4)圧力制御装置の故障

 圧力制御装置の故障としては、何らかの原因で、圧力制御装置に主蒸気流量を零とするような零出力信号、又は主蒸気流量を最大とするような最大出力信号の誤信号が発生する場合、並びにタービン蒸気加減弁、又はタービン・バイパス弁1個が故障し、圧力制御系の信号に関係なく開閉する場合が考えられる。このなかで最も厳しい過渡変化は、圧力制御系から最大出力信号が発生した場合である。この場合、主蒸気隔離弁は閉鎖するとともに、原子炉はスクラムされるので、原子炉圧力は、77.5㎏/㎝2gに抑えられ、また、中性子束は初期値を超えることはない。

(5)逃がし安全弁の開放

 何らかの原因によって逃がし安全弁1個が故障し、開放すると、原子炉圧力が低下し、タービン入口圧力が低下するので、圧力制御装置により原子炉入口圧力を一定にするよう、タービン蒸気加減弁か絞られる。

 開放した逃がし安全弁から流出する蒸気の量は、原子炉定格蒸気流量の約5%程度であるが、ここでは過渡変化が大きくなるように10%と仮定している。初期の原子炉圧力の低下に伴い、ボイドが発生し、原子炉出力は、若干減少するが、圧力制御装置により原子炉圧力が落ちつくと、ほぼその初期出力に落ちつく。燃料表面熱流束は、初期値を超えることはなく、また、MCPRは初期値を下回ることはない。

4.1.4 制御棒系の過渡変化

 原子炉への反応度印加の原因としては、制御棒引抜きの誤操作が考えられる。原子炉の運転状態によって、過渡変化の様相は異なるので、起動時及び出力運転時の各々について検討を行った。

(1)起動時における制御棒引抜き

 制御棒引抜前の原子炉は、臨界状態にあり、出力は定格値の10-3で、燃料被覆表面及び減速材の温度は、286℃としている。この状態から制御棒引抜速度の上限値である9.1㎝/sで制御棒を引抜いた場合を想定し、引抜かれる制御棒は、制御棒価値ミニマイザで許容される最大の価値(0.015Δk)を持つものと仮定している。

 また、原子炉は中間領域モニタの中性子束高信号でスクラムされるものとしているが、この中間領域モニタは出力領域モニタと同等の信頼性を有する設計になっている。

 最高燃料棒中心温度は485℃、最高被覆表面温度は287℃にとどまり、それぞれの溶融温度より十分低く、ペレットの熱膨張もペレット-被覆の機械的相互作用を起こすほど大きくはならない。

 また、UO2の最高エンタルピは約29cal/g・UO2にとどまり、燃料被覆の損傷には至らない。

(2)出力運転中の制御棒引抜き

 出力運転時に最大制御棒価値をもった制御棒を連続的に引抜くと、引抜制御棒の近傍の出力は上昇するが、ある設定値になった時点で制御棒引抜監視装置により制御棒の引抜きを阻止し、出力の異常な上昇が未然に防止される。

 解析の初期条件として、引抜かれる制御棒が完全に挿入状態にあるとき、原子炉は熱的に設計限界の状態(MCPRは1.19、線出力密度は44.0kW/m)にあり、この状態になっている燃料が引抜制御棒の近傍にくるように、原子炉の状態と制御棒パターンを設定している。

 制御棒が連続的に引抜かれた場合、中性子束は通常、熱流束よりも速く上昇するが、この解析では結果が厳しくなるよう中性子束と熱流束は、時間遅れなしに変化しているものとしている。また、この解析はサイクル初期で行っているが、サイクル末期では制御棒がほとんど引抜かれているため問題とならない。制御棒を引抜いて行くと、引抜制御棒近傍の出力が上昇し、制御棒引抜監視装置がこれを検出して、定格時の105%のところで制御棒引抜阻止信号が出される。

 このため、MCPRは、1.07にとどまり限界値を下回ることはない。この時の燃料棒線出力密度は、約56kW/mであり、燃料被覆管に円周方向平均塑性歪1%を与えるまでには十分余裕がある。

4.1.5 その他の過渡変化
(1)高圧炉心スプレイ系の誤動作

 運転員の誤操作により、原子炉の運転中に高圧炉心スプレイ系が起動すると、上部プレナムへ冷水が注入され、炉心上部プレナム中の蒸気が凝縮し、原子炉圧力が低下する。このため、圧力制御系によってタービン蒸気加減弁が絞られ、これに伴って原子炉圧力は新たな定常状態に落ち着く。

 解析上、高圧炉心スプレイ系の誤起動によって、定格給水流量の約10%の流量の冷水(10℃)が、炉心上部に注入されるものと仮定している。

 この過渡変化は、冷水注入過渡現象の一種であるが、外乱が炉心上部に入るため炉心部への影響はほとんどない。原子炉圧力は、若干低下するが、炉心流量、熱流束はほとんど変化せず、したがって、燃料の熱的余裕には問題がない。

(2)外部電源喪失

 発電所の運転に必要な電力は、主発電機から運転中供給されるが、起動、停止時及び事故時は、外部送電線から電力が供給される。系統の単一故障によりすべての外部電源が同時に失われることはないが、ここでは、これらの外部電源がいずれも喪失した場合を想定している。この場合、原子炉緊急停止系用M・Gセット電源が喪失するので、原子炉は、フェイル・セイフ機構によってスクラムされる。スクラム後の原子炉の崩壊熱の除去は、非常用電源としての非常用ディーゼル発電機、高圧炉心スプレイ用ディーゼル発電機及び蓄電池を電源とする残留熱除去系・原子炉隔離時冷却系によって行われる。

 MCPRの低下は、再循環ポンプ2台トリップ時と同等であり、過渡時の限界値を下回ることはない。

 また、圧力上昇については、タービン・トリップ時点で原子炉出力が減少しており、105%定格出力時の発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)より緩やかである。

4.2 平衡炉心末期における過渡変化

 第4サイクル以降のサイクル末期においては、スクラム反応度の劣化により、早期炉心用スクラム曲線が全期間にわたって適用できなくなる期間がある。この期間において、運転上許容されるMCPR値を1.26以上に保つとともに、発電機負荷遮断時及びタービン・トリップ時に原子炉の出力上昇を軽減し、燃料の熱的余裕を確保するため、この期間に至る前に再循環ポンプ2台をトリップさせる機能が追加される。

 この変更により過渡変化に大きな影響が及ぶものとしては、主蒸気系の過変渡化と主蒸気系の過渡変化を伴う給水制御器故障による過渡変化が考えられる。

 これらの過渡変化については、平衡炉心末期用スクラム曲線を適用した場合についても解析している。

4.2.1 給水系の過渡変化

 給水制御器の誤動作等により、給水流量が急激に増加すると、水位上昇によるキャリ・オーバの増加に対してタービンを保護するため、水位高でタービンがトリップし、原子炉はスクラムされる。

 給水流量増加による炉心への影響は、サブクーリングの増加によってボイドが減少し、原子炉出力が増加することであるが、原子炉出力の増加率は小さく、この過渡変化においてMCPR及び原子炉圧力は限界値を超えることはない。また、高水位タービン・トリップに至るもののタービン・バイパス弁が動作するので、発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)よりも緩やかな過渡変化となる。

4.2.2 主蒸気系の過渡変化

 早期炉心において最も厳しい主蒸気系の過渡変化は、発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)であるが、平衡炉心末期においても、発電機負荷遮断、タービン・トリップ、主蒸気隔離弁閉鎖に対する解析結果から、発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)が最も厳しい過渡変化となることを確認した。

 電力系統故障等により、発電機負荷遮断が生じ、タービン蒸気加減弁が急速に閉鎖すると原子炉はスクラムされ、また、再循環ポンプが2台トリップする。

 本解析では、タービン・バイパス弁の不動作を仮定しているため、タービン・バイパス弁動作時に比べ過渡現象は厳しく、中性子束は定格の237%に達し、表面熱流束は114%に達する。原子炉圧力は約80.1㎏/㎝2gまで上昇するが、逃がし安全弁の動作により抑えられる。また、ΔMCRPの最大値は0.19となる。

4.3 評価

 以上の検討結果から、解析では種々の保守的な仮定をおいているにもかかわらず、本原子炉は、沸騰水型原子炉が持つ自己制御性と種々の安全保護機能の動作とがあいまって、運転中に起こる異常な過渡変化を安定に制御し、燃料及び原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を保持することが確認された。

 すなわち、MCPRは、通常運転時において早期炉心用スクラム曲線が適用される期間にあっては、1.19以上、平衡炉心末期用スクラム曲線が適用される期間にあっては、1.26以上に維持されるため、最も厳しい過渡現象である給水加熱喪失時及び発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)時でも、MCPRは限界値1.07を下回ることはない。また、燃料の線出力密度が最も厳しくなる出力運転中の制御棒引抜時においても、線出力密度は約56kW/m程度であり、燃料被覆管の円周方向平均塑性歪1%に対応する線出力密度を下回っている。更に、急激な反応度増加を伴う過渡現象として取り上げた起動時の制御棒引抜きの場合の燃料ペレット最大エンタルピは29cal/g・UO2であり、許容設計限界値を下回っている。

 したがって、いかなる運転時の異常な過渡変化時においても、燃料の許容設計限界を超えることはないものと判断する。

 また、早期炉心において原子炉圧力が最大となる発電機負荷遮断(タービン・バイパス弁不動作)時の最大圧力は79.8㎏/㎝2gであり、平衡炉心末期のスクラム特性の劣化を考慮しても、最大圧力は80.1㎏/㎝2gに抑えられている。これらの数値は、最高使用圧力の1.1倍の圧力(96.7㎏/㎝2g)を下回っており、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が保たれるものと判断する。

5 事故解析

 ここで想定する事故とは、運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であって、現実に起こる可能性は極めて少ないが、事故の拡大を防止し、放射性物質の放出を抑制する等の原子炉施設の安全性を評価する観点から各種の安全防護機能の妥当性を検討するためのものである。

 事故の想定に当たっては、原子炉施設に内在する放射性物質の量や周辺環境に漏洩する径路等を考慮して発生事象を系統的に分類し、代表的な事象を選定する必要がある。

 以下に示す申請者の解析においては、
(イ)反応度事故については、制御棒落下事故
(ロ)原子炉冷却材圧力バウンダリにある機器の破損、管管の破断等によって引き起こされる事故については、冷却材喪失事故
(ハ)原子炉冷却材圧力バウンダリ外にある機器の破損、配管の破断等によって引き起こされる事故については、主蒸気管破断事故
(ニ)機器取扱事故については、燃料取扱事故
(ホ)放射性廃棄物廃棄施設における事故については、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置破損事故

が取り上げられている。

 これら事故現象の分類、代表事故の選定は事故の発生原因、事故経過及び結果からみて妥当なものと判断する。

 なお、これらの事故は、以下の各項目でも述べるように、その発生の可能性が極めて小さくなるように十分な防止対策がとられることを確認した。

5.1 制御棒落下事故

 炉心の核分裂を制御している制御棒が何らかの原因で落下すると、原子炉には正の反応度が印加され、その結果、原子炉の出力が上昇し、燃料被覆管に影響を及ぼす可能性がある。

 このような事故に対しては、制御棒落下速度リミッタ、制御棒価値ミニマイザ等反応度抑制のための設計がなされており、これらの妥当性を評価するため事故の想定としては、制御棒が何らかの原因で駆動軸と分離して炉心内に残り、運転員がこれに気付かず制御棒駆動軸を降下させた後、制御棒が急速に落下する場合を考える。

 事故解析に当たっては、次の前提条件が用いられている。

(イ)原子炉は、サイクル初期、末期とも低温状態で臨界(定格出力の10-8、燃料ペレット温度20℃)にある場合と高温待機状態で臨界(定格出力の10-6、燃料ペレット温度286℃)にある場合を仮定する。

(ロ)制御棒の落下速度は、制御棒落下速度リミッタによって制限される0.95m/sとし、落下制御棒価値は、制御棒価値ミニマイザで制限される0.015Δkとする。

(ハ)中性子束高スクラムは、定格出力の120%で作動するとし、その動作遅れは、0.09秒とする。

(ニ)事故に伴う炉出力の急上昇は、自己制御性のうち、ドップラ効果のみで抑えられるとし、減速材の温度効果とボイド効果は期待しない。

 解析の結果によると、中性子束の上昇によって燃料ペレットのエンタルピは増大するが、断熱計算によるピーク出力部エンタルピの最大値は120cal/g・UO2、また、非断熱計算による燃料ペレット・エンタルピの最大値は184cal/g・UO2となり、圧力波発生の制限値としている230cal/g・UO2より低いため、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性を損うことはない。

 したがって、制御棒価値ミニマイザで制限される最大制御棒価値0.015Δk及び制御棒落下速度リミッタによって制限される制御棒落下速度0.95m/sは、妥当なものと判断する。

 この事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)制御棒が駆動軸から分離した場合でも、制御棒が炉心内にとどまり得ないように設計される。すなわち、制御棒ブレードとチャンネル・ボックスの間には十分な間隙を設け、かつ、ブレードにはローラを取り付けるので、ブレードとチャンネル・ボックスは、直接接触することはなく、その上下動は、極めて滑らかである。

(ロ)制御棒と駆動軸とは、必要時以外に分離することがないように、その接続部の設計が考慮される。

(ハ)原子炉が臨界若しくは臨界近傍にあるときは、原子炉核計装の応答によって制御棒の移動が確認できるようになっている。

(ニ)制御棒を全引抜きした場合は、全引抜き位置から、更に、制御棒を引抜くよう操作し、少し超過した位置(オーバトラベル・ポジション)まで引抜けないことを確かめることにより、制御棒と駆動軸が分離していないことを確認することになっている。

 なお、原子炉運転中、何らかの原因によって、制御棒駆動機構のフランジ又はハウジングが完全に破断すると仮定した場合には、そこにある制御棒は炉心外に逸出する可能性があり、何らかの対策を施さなければ反応度が印加されて原子炉出力が急上昇することとなる。

 このため、制御棒駆動機構ハウジングの下側には支持機構が設けられており、これによって、たとえ駆動機構ハウジングが完全に破断したとしても、制御棒の移動距離を非常に小さく(80㎜以下)抑えることができるので、原子炉に大きな反応度を加えることにはならない。

 駆動機構ハウジングの破断を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)設計に当たっては、原子炉の寿命中の各種の応力を十分に考慮した厳しい条件が適用される。

(ロ)材料の選定、加工、製作過程において、十分な品質管理が行われる。

(ハ)浸透試験、超音波試験等により溶接部の健全性が確認される。

(ニ)駆動機構を含め原子炉圧力容器の健全性は試験検査によって確認されるほか、運転中に圧力が異常に上昇した場合の対策として多重性を有する過圧保護設備が設けられる。

(ホ)脆性破壊を防止するよう運転管理がなされる。

 以上のような配慮が払われるので、制御棒駆動機構ハウジングやフランジが破断する可能性は極めて少ない。仮に、ハウジングやフランジが一部破断し、原子炉圧力容器からドライウエル内に蒸気が漏洩したとしても、ドライウエル・サンプの水位上昇、ドライウエル温度及び圧力の上昇等によって漏洩を検出することができ、手動で原子炉をスクラムさせることができる。

 また、漏洩が大きく、ドライウエル内への蒸気漏出が多くなると、ドライウエル圧力高の信号で原子炉はスクラムされ、適切な処置がとられる。

5.2 冷却材喪失事故

 冷却材喪失事故の解析は、非常用炉心冷却系、原子炉格納容器及び可燃性ガス濃度制御系等の設計の妥当性を検討するためのものである。

(1)非常用炉心冷却系の性能解析

 何らかの原因により、原子炉圧力容器に接続されている各種配管中の1本が原子炉運転中に破断すると仮定した場合には、原子炉圧力容器から冷却材が流出する。この場合、冷却水が十分補給できないと、炉心の冷却が行えなくなり、放置すれば崩壊熱による燃料の過度の温度上昇が起こり、核分裂生成物が燃料から放出される可能性がある。このような事故に対処するため、原子炉には、非常用炉心冷却系が設けられているが、その機能及び性能を評価するため、冷却材喪失事故を以下のように想定する。

 事故の想定としては、原子炉圧力容器に接続されている小口径の配管破断から最大口径の再循環配管1本の破断に至るまで種々の破断面積の配管の瞬時両端破断を考える。

 事故解析に当っては、「ECCS安全評価指針」に従い、次の前提条件が用いられている。

(イ)原子炉は事故発生直前まで定格の約105%の出力(3,440MWt)で運転していたものとする。

(ロ)事故発生と同時に外部電源が喪失し、再環循ポンプは、トリップする。

(ハ)非常用炉心冷却系を構成する機器の最悪の単一故障を仮定する。

 また、解析モデルについても「ECCS安全評価指針」を満足するものを使用している。

 配管からの冷却材流出量の程度によって、原子炉水位及び原子炉圧力の低下の割合も変化するため、配管の破断面積によって非常用炉心冷却系の動作状態が異なる。このため、中小破断から最大口径の配管破断まで、各種の破断面積について解析が行われている。冷却材喪失事故想定時に燃料の健全性を評価するものとして、燃料被覆管温度に着目し、また、炉内での水-ジルコニウム反応の割合及び長時間の炉心冷却能力についても検討を行った。

 その結果、原子炉圧力容器に接続されている最大口径の配管である再循環配管1本が原子炉圧力容器出口ノズル端で瞬時に両端破断を生ずると想定した場合が燃料被覆管の温度上昇及び水-ジルコニウム反応の割合が最大となるので、以下この場合について、申請者が行った解析の具体的条件、経過及び結果を示す。

(イ)再循環配管が完全に破断すると、原子炉圧力容器出口側の流れは、その破断口で臨界流を生じ、もう一方の破断口からの流れは、破断口に至るループのうちで合計断面積の最も小さい10個のジェット・ポンプのノズル及び原子炉冷却材浄化系配管において臨界流が生じる。

(ロ)事故と同時に外部電源が喪失し、再循環ポンプがトリップするものとするが、再循環ポンプ・駆動電動機には慣性があるので、他の健全なループによって下部プレナム内に冷却材が押し込まれ、かなりの炉心流量が得られる。

(ハ)機器の単一故障の仮定として、3台あるディーゼル発電機のうち、低圧炉心スプレイ系につながるディーゼル発電機が動作しないという最も厳しい条件をとる。

(ニ)事故発生後約8.7秒でシュラウド外の水位がジェット・ポンプのノズルに達すると、健全なジェット・ポンプでのダウンカマ部からの冷却水の吸込みがなくなり、再循環ポンプからの駆動水のみとなる。このため、炉心流量が急激に減少する。

 更に、シュラウド外水位が下がり、事故後約12秒で再循環ポンプ吸込口に達すると原子炉圧力は急激に低下し、下部プレナム水はフラッシングを開始する。

 シュラウド内の水位は、事故発生後約30秒まで燃料顕熱及び減圧によるスエリングにより平常水位に維持され、その後水位は急激に下がり、事故後約33秒で炉心は露出する。

(ホ)高圧炉心スプレイ系が事故後約30秒で注水を開始すると、下部プレナムの水位は、上昇し始める。更に、低圧注水系ポンプ2台が約48秒で注水を開始すると、炉心シュラウド内に注入された冷却水の多くは、燃料チャンネル外側の漏洩領域より炉心下部の漏洩径路を通って下部プレナムに注入され、残りの冷却水は、まず、燃料チャンネル外側の漏洩領域を満たし、漏洩領域の水位が燃料集合体頂部に達すると燃料集合体上部から下部プレナムに注入される。

 下部プレナムの水位が上昇し、燃料底部に水位が達した以降は燃料の発熱により水位はスエリングし、約114秒で炉心は再冠水される。

 解析の結果によれば、燃料被覆管最高温度は、約886℃であり、制限値1,200℃を下回るとともに、燃料被覆管の破裂に至るような周方向応力も生じない。

 また、燃料被覆管の局部的な水-ジルコニウム反応量の燃料破覆管厚みに対する割合の最大値は、約0.3%で、制限値15%を下回り、全炉心平均の水-ジルコニウム反応による酸化量は、約0.04%であり、十分小さい。

 したがって、燃料体は、冷却可能なように形状が保持されるので、長期にわたる炉心の冷却は非常用炉心冷却系のうちいずれか1台のポンプの動作によって確保できるものと判断する。

 なお、中小破断の解析として最も厳しい、破断面積が約93㎝2の場合についての解析結果によれば、燃料被覆管最高温度は約782℃であり、再循環配管の完全両端破断の場合よりも低い。

 以上により、「ECCS安全評価指針」の要求事項及び基準を満足しているので、事故後の炉心冷却は維持できるものと判断する。

(2)原子炉格納容器の性能解析

 冷却材喪失事故時の原子炉格納容器の健全性については、原子炉格納容器の圧力が最も高くなる再循環配管の完全破断を取り上げ、事故時の応答を解析している。

 原子炉格納容器内圧は、事故後約18秒で最高圧力の約2.5㎏/㎝2gに達するが、原子炉格納容器の設計内圧である2.85㎏/㎝2gより低い。原子炉格納容器スプレイ冷却系動作後は事故後約33日以内に大気圧に戻ることが示されている。

 また、ドライウェル温度、サプレッション・チェンバ内のプール水の温度は、それぞれ最高で約139℃、84℃であり、それぞれの設計値である171℃及び104℃より低い。

 更に、冷却材喪失事故時に発生する可燃性ガス(水素)の燃焼により、原子炉格納容器の温度、圧力を上昇させる可能性がないかについても検討を行った。

 原子炉格納容器内可燃性ガス濃度制御系の性能の評価のため、冷却材喪失事故による可燃性ガスの発生を仮定した場合でも、可燃性ガス濃度制御系を使用して、水素と酸素を再結合させることにより、ドライウェル及びサプレッション・チェンバ内の水素濃度を可燃限界(水素4vol%)以下に抑え得ることが示されており、本系統の性能は妥当であると判断する。

 冷却材喪失事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)配管等の設計に当たっては、原子炉の寿命中の各種の応力を十分に考慮した厳しい条件が適用される。

(ロ)材料の選定、加工及び配管等の製作過程において十分な品質管理が行われる。

(ハ)原子炉供用期間中に主要な箇所は定期的に検査が行われ、その健全性が確認される。

(ニ)脆性破壊を防止するよう運転管理がなされる。

(ホ)更に、漏洩検出系による監視によって、破断に進展する前に漏洩が検知され、適切な処置が講じられる。

5.3 主蒸気管破断事故

 何らかの原因で主蒸気管の破断が生じると、破断口から冷却材が流出し、炉心の核・熱水力特性の変化のため、燃料に影響を与える可能性がある。

 主蒸気管に設備されている冷却材流出のための防護機器の機能を評価するため、主蒸気管の完全破断を想定する。

 解析の具体的条件、経過及び結果を以下に示す。

(イ)主蒸気管1本が原子炉冷却材圧力バウンダリ外で瞬時に完全破断するものとし、事故発生後5秒で主蒸気隔離弁が完全に閉鎖するまで、原子炉内の冷却材が流出するものとする。

(ロ)事故発生と同時に外部電源は喪失すると仮定し、再循環ポンプによる流量はコーストダウンするものとする。

(ハ)主蒸気管からの冷却材流出は、流量制限器で定格流量の200%に制限されるものとする。

(ニ)機器の単一故障として、8個の主蒸気隔離弁のうち、1個が閉じないものとする。

 解析の結果によれば、隔離弁が閉じるまでに破断口を通して流出する蒸気及び水の量は、それぞれ約1.32×104㎏及び約2.22×104㎏となる。

 この結果、事故の過程においても炉心が露出することはなく、MCPRも初期値を下回らないので、燃料の健全性が損われることはない。

 主蒸気隔離弁閉鎖後は、炉心は原子炉隔離時冷却系等により冷却される。

 解析条件としての主蒸気隔離弁閉鎖時間は結果が厳しくなるよう、設計上要求される設定範囲の最大値である5秒が用いられており妥当である。また、流量制限器の構造についても検討し、主蒸気管破断事故時に機能を果たすよう設計し得ることを確認した。

 主蒸気管破断事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)配管等の設計に当っては、原子炉寿命中の各種の応力を十分に考慮した厳しい条件が適用される。

(ロ)材料の選定、加工及び配管等の製作過程において十分な品質管理がなされる。

(ハ)主蒸気管トンネル内での雰囲気温度の検出等によって、破断に進展する前に漏洩を検知して、適切な処置が講じられるよう設計される。

 なお、原子炉運転中、何らかの原因でタービンから飛散物が発生した場合(以下「タービン破損」という。)には、タービン内で復水器内に存在している放射性物質が大気に放出される可能性がある。

 タービン破損の原因としては、ロータ等回転部分の材料欠陥並びに残留応力、応力集中等の製作上の欠陥による場合、又は何らかの原因でタービン調速機構が動作しなくなり、過速状態になって破壊回転数に至る場合の2つのケースが考えられる。

 これらに対しては、次のような対策がなされており、発生の可能性は少ないと判断する。

(イ)タービンの設計に当たっては、タービンの速度が定格の120%を超えないように制御装置が設けられる。

(ロ)ロータの製作に際しては、材料分析、材料試験、各種検査等十分な品管質理と工程管理を行い、破壊の原因となる材料欠陥、残留応力、応力集中等が生じないよう留意されるとともに、据付に際しても、異常な振動等が生じないよう十分に配慮される。

(ハ)タービン回転数の異常な上昇に対しては、主調速装置、非常調速装置及びバックアップ過速度トリップ装置の三重の保護装置が設けられ、最悪の場合でも、定格の120%を超えないようになっているとともに、ロータ強度は120%の速度でも破壊しないようになっている。

 また、何らかの原因により、タービン・ロータに振動が発生した場合、そのまま放置して運転を継続するとタービン破損につながる可能性がある。そのため、各軸受には、振動計が取付けられており、記録計に常時振動を記録するとともに、制限値を超える振動が発生すると警報を発し、振動が更に大きくなる場合には自動的にタービンをトリップして、タービン破損に至ることを防止するようになっている。

5.4 燃料取扱事故

 燃料取替作業中、燃料つかみ機によって燃料集合体を運搬している際に、つかみ機が故障して、その燃料集合体が落下することを想定した場合、炉心内の燃料集合体上部に衝突して燃料棒の機械的破損が生じる可能性がある。

 事故の想定として、燃料取替作業中に燃料集合体1体が炉心上10mの高さから、燃料つかみ機より脱落し、炉心上に落下するものと考える。

 解析結果によれば、落下した燃料集合体が炉心内の燃料集合体と数度にわたって非弾性衝突を起こすとして、曲げ変形、圧縮変形によって被覆管が破損する燃料棒本数を計算すると135本となることが示されている。解析に用いられた条件は、いずれも被覆管が破損する本数が多くなるように選定されており、解析の結果は妥当であると判断する。

 破損した燃料棒から、原子炉建屋原子炉棟内に放出される核分裂生成物は、原子炉棟内放射能高の信号により起動する非常用ガス処理系により処理されるため、原子炉建屋原子炉棟外に放出される放射性物質はⅣ.6に示される放出量より小さい。

 この事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)燃料取扱機器は、燃料集合体の総重量を十分上回る強度に設計されており、燃料取替作業中の燃料集合体落下防止対策として、燃料つかみ機のワイヤの二重化が行われる。

(ロ)燃料つかみ機は、空気作動式であり、空気圧が供給されていない場合燃料集合体を外せない設計になっている。

5.5 活性炭式希ガス・ホールドアップ装置破損事故

 原子炉運転中、何らかの原因で活性炭式希ガス・ホールドアップ装置の配管が破損した場合には、活性炭に保持されていた希ガス及び空気抽出器排ガス系の希ガスが、希ガス・ホールドアップ塔室に放出される可能性がある。

 本事故は、放射性廃棄物廃棄施設における事故を代表するものとして選定されているが、活性炭式希ガス・ホールドアップ装置は、放射性希ガスが最も多く蓄積されているところであり、放射性液体廃棄物の場合よりも系外ヘ放出される可能性が高いと考えられることから、その選定は妥当であると判断する。

事故の想定として、18塔あるホールド・アップ塔の第1塔の入口配管に破断が生じるものと考える。解析の結果によれば、本事故時に放出される放射性物質はⅣ.6に示される放出量よりも少ない。

 この事故の発生を防止するため、以下のような対策がとられるので、事故発生の可能性は極めて少ないものと考える。

(イ)系統全体をほぼ大気圧(チャコール・ベッド付近は負圧)に設計し、ホールド・アップ装置に内圧がかからないようになっている。

(ロ)材料の選定、加工及び配管等の製作過程において十分な品質管理がなされる。

 活性炭式希ガス・ホールドアップ装置が静的機器があるうえ、以上のような設計上の配慮が払われるので、本装置の配管破断が生じることは、本質的に起こり難いと考えられるが、仮に破断が生じてホールド・アップされていた希ガスが、希ガス・ホールドアップ塔室に放出された場合には、建屋換気系モニタ等により検知し、空気抽出器排ガス系の隔離等の対策を講じることができる。

6 災害評価

6.1 災害評価の概要

 申請者が行った災害評価は、「原子炉立地審査指針」に基づき重大事故及び仮想事故を想定し、これらの事故による被曝線量が非居住区域、低人口地帯及び人口密集地帯に係るめやす線量を下回ることを示すために行われている。

 重大事故及び仮想事故の種類については、核分裂生成物の大気中への放出量が大きくなるような事故事象として、冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故が想定されている。

 これは、核分裂生成物の放出量が最大となる可能性のある事象で、核分裂生成物が原子炉格納容器内と原子炉格納容器外に放出される事象を代表して想定されたものである。

 重大事故の解析は、核分裂生成物が燃料から大気中に放出されるまでの過程について行われており、核分裂生成物の大気中への放出量は、厳しい評価となるような仮定を用いて解析されている。

 仮想事故の解析は、重大事故の解析と同様に行われているが、核分裂生成物の大気中への放出量については、炉心燃料から放出される核分裂生成物の割合等が重大事故の場合に比べ、より大きくなるような仮定を用いて解析されている。

 大気中に放出された核分裂生成物の大気拡散は、これらの事故が任意の時刻に起こること及び実効的な放出継続時間が短いことを考慮して、敷地における気象条件の出現頻度からみて、厳しい気象条件を用いて解析されている。

 解析の対象とした核分裂生成物は、全身被曝に対しては、希ガス及び放射性ハロゲン(以下「ハロゲン」という。)とし、甲状腺被曝に対しては、よう素としている。被曝線量は、よう素の吸入による甲状腺被曝線量、放射性曇からのγ線による外部全身被曝線量がそれぞれ計算されている。

 なお、そのほかの核分裂生成物は、被曝線量に与える寄与が小さいものとして計算上無視されている。

6.2 重大事故の解析
6.2.1 冷却材喪失事故

 冷却材喪失事故における希ガス及びよう素の大気中への放出量は、結果が最も厳しくなる冷却材再循環配管1本が瞬時に完全破断する場合を想定し、次の仮定を用いて解析されている。

(1)希ガス及びよう素の炉内蓄積量は、原子炉が定格出力の105%(3,440MWt)で1,000日間連続運転されているものとして算出する。これは燃料内の希ガス及びよう素の蓄積量がほぼ平衡に達しているものである。

(2)燃料から原子炉圧力容器中に放出される希ガス及びよう素は、全燃料内に内蔵されているもののうち、希ガスについては2%、よう素については1%とする。

 この放出割合は、燃料棒内のギャップ及びプレナム中に蓄積されている希ガス及びよう素が全量放出されるものと仮定した場合の値である。

 なお、よう素以外のハロゲンについては、希ガスに比べて小さい寄与しかもたらさないので、計算上は無視する。

(3)燃料から放出された希ガス及び有機よう素の全量が、原子炉格納容器からの漏洩に寄与するものとする。無機よう素については原子炉圧力容器、配管及び原子炉格納容器の壁面等に付着又は沈着する効果を考慮して50%が原子炉格納容器からの漏洩に寄与するものとする。

 有機よう素の生成割合は、冷却材喪失事故条件下の実験結果によれば、多くても3.2%とされているが、ここでは10%とする。

(4)原子炉格納容器中のよう素は、液相及び気相中に存在するものとし、気相中のよう素は、原子炉格納容器スプレイ冷却水の効果により液相中に移行する。一方、液相中のよう素も気相中に移行するものとする。

 気相-液相に含まれるよう素の割合は、気相-液相間の移行を考慮して、気液分配係数を用いて計算する。

 よう素の気液分配係数は、無機よう素に対しては100以上、有機よう素に対しては、4~5程度であるという実験結果があるが、計算に当たっては、無機よう素に対しては100、有機よう素に対しては希ガスと同様、液相に溶解しないものとする。

(5)原子炉格納容器から原子炉建屋原子炉棟への希ガス及びよう素の移行は、0.5%/dの漏洩率で33日間続くものとする。

 この漏洩率は、原子炉格納容器の内圧の減少に応じて低下するが、ここでは、大気圧にもどるまでの期間一定としたものである。

(6)原子炉格納容器から原子炉建屋原子炉棟に漏洩した希ガス及びよう素は、非常用ガス処理系から主排気筒に沿わせた排気管を通して主排気筒排気口から大気中に放出される。

 非常用ガス処理系による原子炉建屋原子炉棟内空気の換気率は、1回/dとする。

 また、非常用ガス処理系に備えられたチャコール・フィルタのよう素の除去効率は95%とする。

 この、除去効率は設計値の除去効率99%以上に対応して用いられた値である。

 以上の仮定に基づいて計算された希ガス及びよう素の大気中への放出量は、希ガス約1.49×104Ci(0.5MeV換算値、以下同様)、よう素約2.55×102Ci(I-131換算値、以下同様)である。

 視曝線量の計算は、上記の希ガス及びよう素の大気中への放出量をもとに、Ⅳ.1で示した相対濃度(x/q)及び相対線量(D/Q)を用いて行われている。

 よう素による甲状腺被曝線量は、よう素の放出量にx/Qの値を乗じた値を周辺監視区域境界(敷地境界付近)の地表空気中濃度として求め、その濃度の空気を人が呼吸した場合の被曝線量をICRP Publication 2の計算方法によって計算している。

 また、希ガスのγ線による外部全身被曝線量は、希ガスの放出量に周辺監視区域境界のD/Qの値を乗じて計算している。

 この結果、冷却材喪失事故時の被曝線量は、小児甲状腺に対して約0.63rem、全身に対して約0.0049remである。

6.2.2 主蒸気管破断事故

 主蒸気管破断事故における希ガス及びハロゲンの大気中への放出量は、冷却材の流出量が最大となる主蒸気管1本が瞬時に完全破断する場合を想定し、次の仮定を用いて解析されている。

(1)主蒸気管破断事故が起こる前の原子炉は、冷却材の希ガス及びハロゲンの濃度が原子炉の運転上許容される最大濃度で運転されているものとする。

 この濃度はI-131の場合、0.5μCi/㎝3である。

(2)主蒸気管が破断した場合、破断口からの冷却材の流出を阻止するために設けられている主蒸気隔離弁が短時間(5秒)で閉鎖するものとする。

 主蒸気隔離弁閉鎖前に放出されるハロゲンは、液相として放出されるものについては、液相中に含まれる濃度と液相の放出量から求め、また、気相として放出されるものは液相濃度の1/50を蒸気相の濃度としてこれと放出蒸気量から計算する。

 なお、希ガスについては、放出量が少ないので、計算に当たっては、無視する。

(3)主蒸気隔離弁閉鎖後、主蒸気系からの蒸気の漏洩が停止するのは事故後1日とする。

 これは、主蒸気管破断事故後、原子炉圧力は逃がし安全弁、原子炉隔離時冷却系、残留熱除去系により1日以内に大気圧まで減圧されることに対応して用いられたものである。

(4)主蒸気隔離弁閉鎖後に大気中に放出される希ガス及びハロゲンについては、運転中の冷却材中に含まれていた希ガス及びハロゲンのほかに、燃料から原子炉圧力容器中に追加放出されるものを考慮する。

 この原子炉圧力容器中への追加放出については、ピンホールを有する燃料から原子炉圧力の低下に伴い放出されるものとし、その量はI-131の場合、運転上の上限値の2倍である4.0×104Ciとする。

 追加放出される希ガス及びハロゲンは、主蒸気隔離弁閉鎖前に大気中に放出されることはないが、ここでは、主蒸気隔離弁閉鎖前に冷却材中に追加放出された希ガス及びハロゲンのうち1%が破断口から放出されるものとする。

(5)全主蒸気隔離弁が閉鎖した直後の漏洩率は、原子炉圧力容器内蒸気相体積の120%/dとし、その後漏洩率は、原子炉の圧力、温度に依存するものとする。

 この漏洩率は、各主蒸気隔離弁の漏洩率が逃がし安全弁の最低設定圧力(75.2㎏/㎝2g)において蒸気相体積に対して10%/d以下に設計されるが、劣化等を考慮して40%/dとし、更に、4本の主蒸気管に8個ある主蒸気隔離弁のうち1個が閉鎖しないという条件をもとに計算された値である。

(6)主蒸気隔離弁(以下原子炉格納容器内側を「第1弁」外側を第2弁」という。)の後方には、主蒸気第3弁が設けられており、また、第1弁と第2弁及び第2弁と主蒸気第3弁間には、主蒸気隔離弁漏洩抑制系が設けられている。

 申請者は、主蒸気第3弁以降の配管破断を仮定した場合この系により、第1弁又は第2弁から漏洩してきた蒸気は、サプレッション・プールに導くことができるので、主蒸気系全体の漏洩率は、十分小さくなるとしている。

 しかし、ここでは、第2弁と主蒸気第3弁の間で主蒸気管の破断が起こると仮定し、かつ、最悪の機器の単一故障を仮定した場合には、この系の有効性が十分期待できないことになるので、この系の効果はないものとして解析することが妥当であると判断した。

(7)燃料から追加放出される希ガスとハロゲンのうち、希ガスと有機よう素は、すべて気相に移行するものとし、無機よう素については、液相-気相間に分配係数100で分配されるものとする。

 なお、気相部に移行する有機よう素の割合は、原子炉圧力容器中での加水分解等の効果を見込んで1%とする。

(8)主蒸気隔離弁閉鎖後、残留熱除去系又は逃がし安全弁を通して崩壊熱相当の蒸気がサプレッション・プールへ移行するが、この蒸気に含まれる核分裂生成物の寄与は無視する。

 以上の仮定に基づいて、計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、希ガス約3.69×103Ci、よう素約2.56×102Ci、ハロゲン約5.93×103Ci(0.5MeV換算、以下同様)である。

 核分裂生成物の大気中への放出は、地上放散とし、被曝線量の計算は、冷却材喪失事故の場合と同様に行われている。ただし、主蒸気隔離弁閉鎖前に放出された核分裂生成物については、冷却材が大気中で完全に蒸発して半球状の放射性曇を形成し、1m/sの速度で風下方向に移動するものとして、被曝線量の計算が行われている。

 この結果、主蒸気管破断事故時の被曝線量は、小児甲状腺に対して、約33rem、全身に対して約0.027remである。

6.3 仮想事故の解析
6.3.1 冷却材喪失事故

 冷却材喪失事故における希ガス及びよう素の大気中への放出量の解析に当たっては、次に述べる仮定以外は、重大事故の解析に用いられた仮定と同一の仮定が用いられている。

(1)全燃料に内臓されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、よう素50%が原子炉圧力容器中に放出されるものとする。

(2)希ガス及びよう素の原子炉格納容器から原子炉建屋原子炉棟内への漏洩については、漏洩率が0.5%/dで無限時間続くものとする。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、希ガス約7.57×105Ci、よう素約1.34×104Ciであり、この放出量による被曝線量は、成人甲状腺に対して約8.3rem、全身に対して約0.25remである。

6.3.2 主蒸気管破断事故

 主蒸気管破断事故における核分裂生成物の大気中への放出量の解析に当たっては、次に述べる仮定以外は、重大事故の解析に用いられた仮定と同一の仮定が用いられている。

(1)主蒸気隔離弁閉鎖後、希ガス及びハロゲンの主蒸気隔離弁からの漏洩については、漏洩率が原子炉圧力容器内蒸気相体積の120%/dで無限時間続くものとする。

(2)主蒸気隔離弁閉鎖と同時に燃料から追加放出される希ガス及びハロゲンの量は、全量が瞬時に原子炉圧力容器の中に放出されるものとする。

 以上の仮定に基づいて計算された核分裂生成物の大気中への放出量は、希ガス約1.18×104Ci、よう素約7.49×102Ci、ハロゲン約7.71×103Ciであり、この放出量による被曝線量は、成人甲状腺に対して約21rem、全身に対して約0.045remである。

6.3.3 全身被曝線量の積算値

 国民遺伝線量の見地からみた全身被曝線量の積算値は、仮想事故としての冷却材喪失事故及び主蒸気管破断事故について、次の仮定を用いて解析されている。

(1)大気中に放出される核分裂生成物の量は、Ⅳ.6.3.1及びⅣ.6.3.2の解析結果の値を用いる。

(2)拡散条件は、風速1.5m/s、大気安定度F型、水平方向拡散幅30°とする。

(3)拡散方向は、積算値が最大となる方向とする。

(4)人口は、1975年の国勢調査の人口のほか、2020年における推定人口を用いる。

 以上の仮定に基づいて計算された全身被曝線量の積算値は、冷却材喪失事故においては、1975年の人口に対して約22万人rem、2020年の人口に対して約28万人rem、主蒸気管破断事故においては、1975年の人口に対して約0.74万人rem、2020年の人口に対して約0.97万人remである。

6.4 評価

 重大事故及び仮想事故の解析に当たっては、核分裂生成物の大気中への放出量が最大になる可能性をもつ事故事象として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故が選定されている。

 Ⅳ.5.2及びⅣ.5.3で述べた事故解析が各種の安全防護機能の妥当性を検討するためのものであったのに対し、重大事故及び仮想事故の解析は「原子炉立地審査指針」に基づき、立地条件の適否をみるため、核分裂生成物の大気中への放出に着目して行われたものである。

 核分裂生成物の大気中への放出量の解析は、炉心燃料から放出される核分裂生成物の割合等を重大事故及び仮想事故の趣旨に照らしてそれぞれ十分厳しくなるような仮定を用いて行われており、妥当なものと判断する。

 また、以上の仮定に基づいて解析された核分裂生成物の大気中への放出量と厳しい気象条件を用いて計算された甲状腺及び全身の被曝線量並びに全身被曝線量の積算値は、「原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす」に示されるめやす線量を十分下回っているので、本原子炉施設の立地条件は「原子炉立地審査指針」に十分適合しているものと判断する。

7 技術的能力

 申請者は、昭和41年12月福島第一原子力発電所1号炉を着工以来、2号炉、3号炉、4号炉、5号炉及び6号炉の建設実績を有し、1、2、3号炉については、運転実績を既に有している。

 更に、福島第二原子力発電所1号炉についても、現在建設中である。

(1)本原子炉施設を設置するに当たっては、法令に基づく諸手続、基本設計の実施、工事進捗の管理及びこれらに付随する対外連絡等の業務に従事する約70名の本店要員が、継続的にまたは一時的に関与する見込みであり、また、現地において、全工程を通じ実際の建設に従事する平均50名の現地要員を合わせ約120名の技術者を確保することとしているので、1原子炉当たりの建設に必要とされる技術者の数は妥当であると判断する。

 これら各部門に必要な組織、管理者及び技術者の確保並びに養成計画については、その概要が示されているが、これら各部門の管理者については、原子力、火力発電所の建設、運転等に10~20年の経験を有する者がそのほとんどを占め、原子力技術に限っても平均約10年の経験を有している。また、複島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の建設、運転経験並びに原子力専門機関への派遣等を通じ、技術能力の養成訓練を引続いて行うこととしており、必要な経験、技能を十分有しているものと判断する。

(2)本原子炉施設を運転するに当たっては、運転を安全かつ確実に遂行するため、発電所の運営管理、対外連絡等の本店業務を行う約10名の本店要員と、実際に発電所の運転管理を行い、安全確保を図るための現地要員として1号炉の運転管理要員約150名に加え、新たに2号炉運転開始時に約50名を確保し、合計約200名の技術者で1、2号炉の運転をすることとしているので、運転に必要とされる技術者の数は妥当であると判断する。

 運転を行うに当たっては、運転直等を管轄する部門、放射線管理部門、炉心及び燃料管理部門、保修部門及び技術総括部門が必要であり、それぞれ、保健物理系、炉物理系、電気・機械系及び計測制御系等の知識を有し、原子力経験も5~6年以上の者が管理職となることがよいとされているが、申請者の管理職名簿による経歴等をみると、このような人材をそれぞれの部門に配置することは十分可能であると判断する。

(3)法令上必要な主任技術者については、原子炉主任技術者有資格者17名及び放射線取扱主任者有資格者40名を有しており、十分確保されているものと判断する。

 以上のことから、本原子炉施設を設置するために必要な技術的能力、及び、運転を適確に遂行するための技術的能力が十分にあるものと判断する。

Ⅴ 審査経過

 本審査会は、昭和52年1月28日第155回審査会において、次の委員からなる第129部会を設置した。

(審査委員)
都甲 泰正 (部会長) 東京大学
秋山 守
 東京大学
小堀 鐸二
 京都大学
浜田 達二
 理化学研究所
三島 良績
 東京大学
(調査委員)
石川  (昭和52年3月より) 日本原子力研究所
伊藤 直次
 日本原子力研究所
垣見 俊弘
 地質調査所
丹羽 義次 (昭和52年7月より) 京都大学
藤家 洋一
 大阪大学
三神 尚
 東京工業大学
森島 淳好
 日本原子力研究所
吉田 芳和 (昭和52年7月まで) 日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査することとし、昭和52年2月18日に第1回会合を開催し、審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループ、主として環境、地質、地盤を担当するBグループを設け審査を開始した。

 以後、部会及び審査会において審査を行ってきたが、昭和53年5月22日の部会において、部会報告書を決定し、本審査会は、これを受け、昭和53年5月23日第170回審査会において本報告書を決定した。


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