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動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(高レベル放射性物質研究施設の新設)に係る安全性について(答申)


53原委第143号
昭和53年3月28日

科学技術庁長官 殿
原子力委員会委員長

 昭和52年8月29日付け52安(核規)第1765号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 当該変更に係る安全性については、別添の核燃料安全専門審査会による審査結果報告書のとおり十分確保されるものと認める。


(別添)

昭和53年3月6日
原子力委員会
   委員長 熊谷 太三郎 殿
核燃料安全専門審査会
会長 山本 寛

動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(高レベル放射性物質研究施設の新設)に係る安全性について

 当審査会は、昭和52年8月30日付け52原委第517号(昭和53年2月22日付け53原委第111号で一部補正)をもって、審査を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査の結果

 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所における核燃料物質の使用の変更(高レベル放射性物質研究施設の新設)に関し、同事業団が提出した「核燃料物質使用変更許可申請書」(昭和52年8月19日付け申請、昭和53年2月17日付け一部補正)について審査した結果、「Ⅲ審査の内容」に示すとおり、本使用の変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更の内容

 本変更は、動力炉・核燃料開発事業団が、同事業団東海事業所に、高燃焼度、プルトニウム富化燃料の使用済燃料の再処理技術に関する研究(以下「再処理技術研究」と言う)及び使用済燃料の再処理に伴い生ずる高レベル放射性廃液のガラス固化処理研究(以下「廃液固化処理研究」と言う)を行うため、以下のとおり高レベル放射性物質研究施設を新設するものである。

 1 計画の概要

(1) 位置

 高レベル放射性物質研究施設は、東海事業所敷地約71万㎡のほぼ中央に設置する。

 設置位置の地盤は、標高7ないし9mの沖積層で、基盤は標高-6ないし-22mの砂質泥岩である。

(2) 研究計画

 再処理技術研究は、高速実験炉「常陽」の初期装荷炉心燃料であって最高燃焼度50,000MWD/T以下、冷却日数60日以上、内蔵放射能3,000ci/ピン以下のものを用い、ピューレックス法を基礎としてせん断、溶解、共除染、分離抽出、精製等の再処理研究を年間6回行う予定である。1回の試験においては、最大燃料ピン4本(約1.3㎏-UO2、PuO2)を使用する。

 廃液固化処理研究は、軽水炉の使用済燃料であって平均燃焼度28,000MWD/T以下、冷却日数180日以上のものを再処理することによって生ずる比放射能3,000Ci/l以下の高レベル放射性廃液を用い、ガラス固化及び固化体の貯蔵試験、物性試験等を行うものである。このため1体当り最高30,000Ciの廃液による固化体(固化後は、1,000cm3の容積となる。)を、年間10体作成する。

 2 施設の概要

(1) 建家

 建家は、地上3階、地下1階、延床面積約6,200㎡、長方形の研究棟と、地上2階、延床面積約1,200㎡、ほぼ正方形の管理棟からなり、両棟とも鉄筋コンクリート造りとする。

 研究棟は、1階に再処理技術研究及び廃液固化処理研究のためのコンクリートセルを2列設け、セル2列の間にサービスエリア、セルをとりまいて操作室A及びBを設けるほか、廃棄物貯蔵庫(地下1階から地上1階へ吹抜け)、放射線管理室、機器補修室、トラックロック等を設ける。

 2階には、グローブボックスを設置する分析室のほか、実験室A、B、コントロール室、給気室等を設ける。

 3階には、給気フィルタ室、空気圧縮機室等を設ける。

 地下1階には、セル直下に設けられる高レベル及び中レベルの廃液貯槽室のほか、蒸発缶室、排風機室、廃棄物倉庫等を設ける。

 管理棟は、1階に非常用電源設備を設置する発電機室、ユーティリティ用機器室等を設ける。

(2) 使用施設
 i) セル

 再処理技術研究に用いるセルは、5つに仕切られ、このうち使用済燃料ピンを切断するCA-2セル、燃料ピンの溶解及び共除染を行うCA-3セル、ウラン、プルトニウムを分離抽出するCA-4セル並びに分析を行うCA-5セルの4つのセルは、アルファ放射体を扱うセルとして気密性をもたせるほか、給排気設備により負圧を維持する。

 セル内には、ピンせん断機、溶解処理装置、共除染抽出試験装置、ウラン、プルトニウム精製抽出試験装置等を設置する。また、セルの主要付属設備として遮へい窓、遮へい扉、マニプレータ、天井ハッチ、天井ポート等を設ける。

 廃液固化処理研究に用いるセルは、5つに仕切られ、給排気設備により負圧を維持する。

 セル内には、ガラス固化試験装置、オフガス処理装置、固化体貯蔵試験装置、浸出試験装置、物性測定装置等を設置する。また、再処理技術研究用セルと同様の付属設備を付設する。

 ii) グローブボックス及びフード

 グローブボックスは、再処理技術研究に用いるものとして、分析室にウラン精製試験装置を収容する3つのボックスが連続したもの1台、プルトニウム精製試験装置及び分析装置を収容する4つのボックスが連続したもの2台を設置する。また、操作室Aに放射性ガス分析用装置を収容するためのものを2台設置する。

 廃液固化処理研究に用いるものとして、操作室Bにオフガス分析用放射線測定装置及びガラス固化溶融ポットからの漏洩試験用装置を収容するためのものを2台設置する。

 グローブボックスは、いずれも主要構造部をステンレス鋼(分析用グローブボックスについては、一部硬質塩化ビニル)、窓をアクリル樹脂で構成し、気密性をもたせるほか、給排気設備により負圧を維持する。

 フードは、再処理技術研究に用いるものとして、分析室にウラン回収装置を収容するためのもの1台、実験室Aに試薬の組成調整装置を収容するためのもの2台を設置する。また、廃液固化処理研究に用いるものとして、実験室Bに試薬の組成調整装置を収容するためのもの2台、放射線管理室に放射能測定用の試料調整装置を収容するためのもの2台をそれぞれ設置する。

(3) 貯蔵施設

 貯蔵施設は、ピン貯蔵ピット、固化体貯蔵ピット及び貯蔵室からなる。

 ピン貯蔵ピットは、燃料ピンを貯蔵するためのもので、再処理技術研究用のCA-2セル内に4基設置する。

 1基当りの貯蔵能力は、ピン54本である。

 固化体貯蔵ピットはガラス固化体を貯蔵するためのもので、廃液固化処理研究用のCB-3セル内に16基設置する。1基当りの貯蔵能力は、3体である。

 貯蔵室は、主として再処理技術研究で分離抽出したプルトニウム及びウランを貯蔵するもので、室内にプルトニウム貯蔵庫、ウラン貯蔵庫及び天然、劣化ウラン貯蔵庫を設置する。

 ピン貯蔵ピット、固化体貯蔵ピットには崩壊熱除去用の空冷設備を設ける。

(4) 廃棄施設

 i) 気体廃棄施設

 気体廃棄施設は、地上高さ57mの排気筒及び排気ダクト、フィルタユニット、排風機等から構成される。

 排気筒及び、排風機室は鉄筋コンクリート構造とし、排気ダクト、排風機等は、主として炭素鋼を用いる。

 ii) 液体廃棄施設

 液体廃棄施設は、高レベル廃液貯槽4基、中レベル廃液貯槽4基、低レベル廃液貯槽4基、極低レベル廃液貯槽4基、廃溶媒貯槽2基、蒸発缶2基、ポンプ等から構成される。

 各貯槽には、廃液の分析試料採取装置及び液面計を設ける。

 配管及び貯槽の主要部材はステンレス鋼とする。

 iii) 固体廃棄施設

 固体廃棄施設は、第一廃棄物倉庫、第二廃棄物倉庫及び地階と1階が吹抜け構造の廃棄物貯蔵庫から構成される。これらはすべて研究棟内に設置し、鉄筋コンクリート構造とする。

 廃棄物倉庫には、廃棄物缶を置くための鋼製の棚を設ける。

 廃棄物貯蔵庫には、貯蔵ピット、クレーン及び廃棄物缶を搬入するための天井ポートを設ける。

 3 研究の概要

(1) 再処理技術研究

 本研究では、高燃焼度、プルトニウム富化燃料の使用済燃料を溶媒抽出法によって再処理するための技術の開発を行う。

 使用済燃料は、セル内に輸送容器ごと搬入する。燃料ピンの収納缶は、遠隔操作により輸送容器から取出す。

 燃料ピンの切断は、せん断により行う。切断された燃料ピンの溶解は、硝酸を用いて行い、その反応温度は制御する。溶解槽には、異常反応時に加熱電源を切断するなどの安全装置を設置する。

 共除染、ウラン・プルトニウム分離抽出、ウラン精製、プルトニウム精製は、小型ミキサセトラを用いて行う。

 精製されたウラン、プルトニウムは、回収、焼成し、貯蔵室に貯蔵する。

 分析は、滴定装置、分光光度計、蛍光X線分析装置、放射能測定器を用いて、ウラン、プルトニウム、核分裂生成物の分析、測定を行う。

(2) 廃液固化処理研究

 本研究では、ポット溶融固化法による高レベル放射性廃液のガラス固化技術及び固化体の貯蔵に関する基礎研究を行う。

 廃液は、液体輸送容器接続口からCB-1セル内の貯槽に受入れる。

 脱硝濃縮は、ギ酸等の還元剤を用いて行い、その反応温度は制御する。脱硝濃縮槽には、異常反応時に加熱電源を切断するなどの安全装置を設置する。

 ガラス固化は、高周波加熱炉により行う。

 物性試験は、発熱量測定、示差熱分析、強度試験、浸出試験、顕微鏡による構造観察等である。

Ⅲ 審査の内容

 本変更にあたっては、以下のとおり適切な配慮がなされているので、変更に伴う安全性は確保されるものと判断する。

 1 施設の安全性

(1) 建家

 i) 耐震性

 研究棟は、鉄筋コンクリート造りであり、基礎は格子状の地中連続壁によって基盤の砂質泥岩に直接支持させることとしている。また、建家は水平震度0.3で設計することとしている。

 管理棟は、鉄筋コンクリート造りであり、棟内に発電機室及びユーティリティ用機器室が設置されるため水平震度0.3で設計することとしている。

 ii) 耐火性

 研究棟及び管理棟は、鉄筋コンクリート造りであり、その他の部材も不燃性または難燃性のものを用いることとしている。

 iii) 負圧管理

 研究棟には管理区域を設定し、各室の負圧値は、管理区域内の汚染の可能性の程度に応じて定められ、汚染の可能性の低い区域から高い区域へと空気が流れるように管理することとしている。

(2) 使用施設

 i) 耐震性

 セルは、鉄筋コンクリート造りであり、水平震度0.3で設計することとしている。

 セル内に設置する機器類、グローブボックス等の放射性物質を内包するものは原則として水平震度0.36、とくに高レベルの放射性物質を内包するものは水平震度0.6で設計することとしている。また、その他の機器については、水平震度0.24で設計することとしている。

 ii) 耐火性

 セルは、鉄筋コンクリート及びステンレス鋼板からなり、内部に設置する試験機器は、大部分をステンレス鋼で構成することとしている。また、セル付属設備は、鉛ガラスの遮へい窓を除き鋼板、コンクリート、鉛(遮へい用に鋼製枠内に鋳込む)等で構成することとしている。

 グローブボックスは、主要構造部をステンレス鋼、窓をアクリル樹脂板で構成することとしている。

 iii) 負圧管理

 セル及びグローブボックスは、それぞれが設置される室に対して20ないし50㎜水柱の負圧を常時維持することにより、放射性物質の漏えいを防止することとしている。とくに再処理技術研究に用いるセル及びグローブボックス並びにこれらの付属設備は気密構造とすることとしている。

 iv) 遮へい能力

 セルの遮へい材は、重コンクリート及び普通コンクリートを主体とし、このほか鉛ガラス、鉄等を用いて行うこととしており、各セルでそれぞれ最大取扱放射能を扱った場合でも、外部放射線量率がセル周辺の従事者等が常時立入る場所において1.25mrem/h、従事者等が一時的に立入る場所において20mrem/hを超えないよう設計することとしている。

 再処理技術研究において分離、抽出されたウランまたはプルトニウムを取扱うグローブボックス及びフードでは、試料の搬入にあたっては核分裂生成物が1mCi以下に除去されていることを確認することとし、それに応じた遮へいを試料容器等に設けることとしている。

(3) 貯蔵施設

 i) 耐震性

 ピン貯蔵ピット及び固化体貯蔵ピットはセルと一体構造となっているため、その耐震性についてはセルにおけるそれと同じである。

 貯蔵室内に設置されるプルトニウム貯蔵庫、ウラン貯蔵庫及び天然、劣化ウラン貯蔵庫は、アンカーボルトにより床面に固定する等により、水平震度0.36で設計することとしている。

 ii) 耐火性

 ピン貯蔵ピット及び固化体貯蔵ピットはセルの一部として設置されるため、その耐火性についてはセルにおけるそれと同じである。

 貯蔵室は、鉄筋コンクリート耐火構造で、建築基準法に定める甲種防火戸を設けることとしている。プルトニウム貯蔵庫、ウラン貯蔵庫及び天然、劣化ウラン貯蔵庫は鋼製とすることとしている。

 iii) 負圧管理

 ピン貯蔵ピット及び固化体貯蔵ピットは、貯蔵物の崩壊熱除去のため空冷することとしており、空冷に用いた空気はセル内に流出させることとなっている。

 貯蔵室の負圧管理は、研究棟内の管理区域の一部として行うこととしている。

 iv) 遮へい能力

 ピン貯蔵ピット及び固化体貯蔵ピットは、セルの床の一部に設置するため、遮へい材は普通コンクリートであり、それぞれの最大貯蔵量を貯蔵した場合でも外部放射線量率がピット周辺の従事者等が常時立入る場所において1.25mrem/h、従事者等が一時的に立入る場所において20mrem/hを超えないよう設計することとしている。また、プルトニウム貯蔵庫、ウラン貯蔵庫及び天然、劣化ウラン貯蔵庫においては、核分裂生成物をほとんど含まないプルトニウム及びウランが貯蔵されること並びに貯蔵室内での作業内容を考慮して、貯蔵室内での外部放射線量率が20mrem/hを超えないよう設計することとしている。

(4) 廃棄施設

 i) 耐震性

 気体廃棄施設のうち、給気室、排風機室は研究棟と同じく水平震度0.3、排気筒は水平震度0.45で設計することとしている。

 液体廃棄施設の廃液貯槽、配管等は原則として水平震度0.36、とくに高レベル廃液貯槽については水平震度0.6で設計することとしている。

 固体廃棄施設の廃棄物貯蔵庫及び廃棄物倉庫は水平震度0.3で設計することとしている。

 ii) 耐火性

 給気室、排風機室、廃棄物貯蔵庫、廃棄物倉庫等は研究棟と同じく鉄筋コンクリート造りとし、排気ダクト、排水用配管、貯槽等は、鋼材で構成される。

 iii) 負圧管理

 給気室、排風機室、廃棄物貯蔵庫、廃棄物倉庫等の負圧管理は、研究棟内の配理区域の一部として行うこととしている。

 iv) 遮へい能力

 廃棄物貯蔵庫においては、使用済燃料ピンの被覆材等の高レベル固体廃棄物が貯蔵されるが、最大量貯蔵された場合でも、外部放射線量率が、貯蔵庫周辺の従事者等が一時的に立入る場所において20mrem/hを超えないようコンクリート等で遮へいすることとしている。

 2 火災防止対策及び爆発防止対策

(1) 火災防止対策

 「1施設の安全性」に既述のとおり、健家及びセルは鉄筋コンクリート造りであり、内部の諸設備も不燃材、難燃材を用いており、一般火災のおそれは少ないと考えられるが、建家内には、消防法に基づき、サービスエリア、操作室、廃棄物倉庫等各所に屋内消火栓を設置し、消火器を配置するとともに、甲種防火戸により防火区画を設定することとしている。

 再処理技術研究用セル内においては、共除染、分離抽出等の工程で有機溶媒(ドデカンで希釈されたTBP)を用いるが、有機溶媒使用に伴う火災対策としては、有機溶媒を使用するセル及びグローブボックス内の機器類を接地することにより静電気の発生に対処するとともに、加熱ヒータはステンレス鋼被覆耐熱材で覆い、直接溶媒に接触することを防ぐこととしている。また、セル及びグローブボックス内は給排気設備で換気し、有機溶媒の蒸気が充満しないようにするとともに、温度上昇を防ぐこととしている。

 さらに、温度上昇警報装置を設置し、セル及びグローブボックス内の温度を60℃以下に保つとともに、炭酸ガス消火設備を設置することとしている。

(2) 爆発防止対策
 本施設においては、
 i) 溶解工程における水素発生
 ii) 高レベル廃液貯槽及び中レベル廃液貯槽での水素発生
 iii) 蒸発缶内での有機溶媒と硝酸の反応

 iv) セル内における有機溶媒蒸気の高濃度化により爆発事故が生じないよう以下の対策がなされている。

 i)及びii)については、各槽内の水素濃度が0.4Vol%以下(水素の爆発限界は4~75Vol%)に保つよう空気を吹込むとともに、槽及び付属装置を接地し静電気の発生に対処することとし、iii)については、蒸発缶において処理する廃液内のTBP濃度を制限するとともに、TBPと硝酸が反応しないよう蒸発缶加熱用蒸気の温度を130℃以下に制御することとし、iv)については、十分な換気を行い有機溶媒蒸気の濃度を低くし、セル内温度を60℃以下に制限するとともに、装置を接地することにより静電気の発生に対処することとしている。

 3 臨界管理

 本施設における臨界管理は、再処理技術研究に用いるセル、グローブボックス、フード、プルトニウム貯蔵庫及びウラン貯蔵庫について行われる。セル内には、大洗工学センター照射燃料集合体試験室において、高速実験炉「常陽」の初期装荷炉心燃料を解体し、ステンレス鋼製の収納缶に封入した使用済燃料ピン1体分91本が搬入される。

 収納缶から取り出された燃料ピンは試験に供するまでピン貯蔵ピットに貯蔵されるが、セン内への燃料ピン搬入量は最大91本に制限される。

 この場合は、新燃料ピン100本が最適格子配列にて水没した場合を想定し中性子実効増倍率を求め臨界に達しないことを確認しているので臨界管理上問題はない。

 燃料ピン溶解後のセル内の各工程及びプルトニウム試験用グローブボックスにおいては、プルトニウム及びウラン235の合計で220g、ウラン試験用グローブボックス及びフードにおいては、ウラン235で470gの取扱制限量を設けて質量管理を行うこととしているが、1回の試験においては燃料ピン最大4本(ウラン235約95g、プルトニウム約90g)しか取扱わないので十分臨界管理することができる。

 また、貯蔵室においては、プルトニウム貯蔵庫一区画当たりプルトニウム及びウラン235の合計で220g以下、ウラン貯蔵庫1区画当たりウラン235で470g以下の質量管理が厳密な計量管理に基づいてなされ、また、各区画の面間距離を31cm以上離すことにより中性子相互干渉を防止することとしている。

 4 放射線管理

(1) 作業環境管理

 施設内の全域にわたって空気中の放射性物質濃度を監視するために、アルファ線ダストモニタ、ベータ・ガンマ線ダストモニタ及びエアスニッファシステム等を設置することとしている。また、外部放射線量率の連続監視のため、ガンマ線エリアモニタ及び中性子線エリアモニタを要所に設置することとしている。上記各モニタ等の測定結果は、放射線管理室の放射線監視盤にて集中的に監視することとしている。そのほか可搬式の各種サーベイメータによって外部放射線量率及び表面汚染の程度を作業中随時測定することとしている。

 施設内は、外部放射線量率及び放射性物質による表面汚染の程度に応じて、グリーン、アンバー及びレッドに区分した管理区域を設けることとしている。

 管理区域からの退出にあたっては、手足衣服等の表面の放射性物質の密度を、物品の搬出にあたっては、その表面の放射性物質の密度及び放射線量率を、グリーン区域の出入口及びアンバー区域の出入口において管理することとしている。

(2) 個人被ばく管理

 従事者等の外部被ばく線量の測定は、熱螢光線量計、ポケット線量計等により行うこととしており、内部被ばく検査は、全身計測及び排泄物の分析測定により行うこととしている。

 5 廃棄物処理

(1) 気体廃棄物

 再処理技術研究から生ずる放射性ヨウ素については、オフガス処理装置及び高性能フィルタ3段、放射性じんあいについては後者により浄化し、また廃液固化処理研究により生ずるルテニウムについては、吸着塔、洗浄塔及び高性能フィルタ2段、放射性じんあいについては高性能フィルタ2段で浄化し、排気モニタにより放射性物質濃度を連続的に監視しながら排気筒から放出することとしている。

 排気系統は6系統に分けられている。各系統の排風機は常時運転することとしており、故障に備えて予備の排風機を設置することとしている。また、停電に備えて非常用電源設備に接続することとしている。

(2) 液体廃棄物

 本施設から発生する放射性液体廃棄物は、その放射性物質濃度により高レベル、中レベル、低レベル及び極低レベルの4種類に区分し、さらに、極低レベル以外の液体廃棄物については再処理技術研究によって発生するものと、廃液固化処理研究によって発生するものとに分けて管理することとしている。

 高レベル廃液は、セル内の試験や除染の際発生する放射性物質濃度103Ci/m3以上のものであり、高レベル廃液貯槽で貯蔵される。

 中レベル廃液は、セル内での試験や除染の際発生するもの及び蒸発缶の濃縮液で、放射性物質濃度が1Ci/m3以上103Ci/m3未満のものであり、中レベル廃液貯槽で貯蔵される。

 低レベル廃液は、セル内や除染室等から発生する放射性物質濃度が10-7Ci/m3以上1Ci/m3未満のものであり、低レベル廃液貯槽へ一時的に貯えたあと蒸発処理し、放射性物質濃度を10-7Ci/m3以下におとし、極低レベル廃液とする。極低レベル廃液は、極低レベル廃液貯槽に一時貯えられたあと、放射性物質濃度が周辺監視区域外の許容濃度10-7Ci/m3以下であることを確認したうえで事業所内再処理施設へ搬出することとしている。

 搬出量は、年間600m3以下に制限することとしている。

(3) 固体廃棄物

 本施設から発生する放射性固体廃棄物は、燃料ピンの被覆材や収納缶、分析試料容器、フィルタ等である。

 これらは放射性物質による汚染の程度により高レベル固体廃棄物(容器収納後の表面線量率が200mrem/h以上となるもの)及び低レベル固体廃棄物(容器収納後の表面線量率が200mrem/h未満となるもの)として管理することとしている。高レベル固体廃棄物は、廃棄物缶に封入した後、廃棄物貯蔵庫に貯蔵され、低レベル固体廃棄物は、廃棄物缶、ビニルパック、カートンボックス等に収納した後、廃棄物倉庫に貯蔵することとしている。

 6 周辺環境への影響評価

 再処理技術研究における燃料ピンの切断溶解時には、放射性じんあい及びクリプトン、キセノン、ヨウ素、トリチウム等の揮発性核種が空気中に放出される。

 また、廃液固化処理研究においては試験試料作成時に放射性じんあいが、また、工程を通じてヨウ素、ルテニウム、トリチウム等の揮発性核種が空気中に放出される。

 これらの放射性気体廃棄物は、「4廃棄物処理」で述べた処理を行った後、濃度を監視しながら排気筒から大気中に放出する。これによって周辺公衆の受ける被ばく線量を次の条件で評価している。

(1) 排気筒からの放射性物質の放出量については、希ガス、トリチウムの放出率をそれぞれの発生量の100%とする。また、再処理技術研究における粒径5μ以下のじんあいの発生割合はピン4本の全物質量の5%、廃液固化処理研究においては固化体1体の全物質量の6%とする。また、じんあいの排気系統への飛散率は全発生量の1%とする。

(2) 高性能フィルタのじんあいの透過率としては、再処理技術研究用設備については、高性能フィルタ3段を設置していることを考慮して10-5、また廃液固化処理研究用設備については、高性能フイルタ2段を設置してることを考慮して10-4とする。また、ヨウ素のプレートアウト率を45%、吸着装置の透過率を10-3とする。

(3) 気象条件は、茨城県東海地区の気象データを参考にして平均風速3m/sec、大気安定度D型、風向北東とし、放出高さは吹上げ高さを考慮して55mとする。

(4) 排気筒からの大気拡散の計算は、英国気象庁方式を用いる。

 以上の条件により計算した結果、大気拡散による風下軸上の最大濃度地点は、排気筒より南西方向1,200mである。

 最大濃度地点における濃度は、クリプトン85及びトリチウムについては、周辺監視区域外のそれぞれの許容濃度の約30,000分の1であり、その他の核種についても、さらにそれを下まわる。また、周辺公衆の被ばく線量を評価したところ、全身に対しガンマ線による外部被ばくは南西方向敷地境界で4.1×10-4mrem/yである。念のため最大濃度地点におけるベータ線による外部被ばく(実質は皮膚表面)は1.5×10-2mrem/y、甲状腺(成人)に対しては3.0×10-2mrem/y、甲状腺(小児)に対しては6.0×10-2mrem/yとなる。

 これらは、いずれも許容被ばく線量を十分に下まわっている。一方、固体廃棄物の全量並びに中レベル及び高レベル廃液は施設内に貯蔵する。

 極低レベル廃液については、周辺監視区域外の許容濃度以下であることを確認した後、再処理施設へ搬出される。

 7 事故評価

 本施設にはこれまでに述べたように十分な安全対策が講じられており、放射性物質の環境への放出を伴う事故が起ることは考えられないが、

(1) 再処理技術研究用のセル内におけるミキサセトラの有機溶媒火災事故
(2) 廃液固化処理研究用のセル内における脱硝槽爆発事故
(3) プルトニウム貯蔵庫での臨界事故

を想定し、周辺公衆の受ける被ばく線量を評価している。

その結果は次のとおりである。

 なお、評価にあたっては、大気中への拡散に用いる気象条件は、英国気象庁方式を用い、大気安定度をA型、風速を2m/sec、また、放出高さは、排気筒からの吹上げ効果を考慮せず評価するため35mとする。

(1) 有機溶媒のセル内火災

 (イ) 火災によりセル付属の高性能フィルタは破損し、放射性物質は排風機室の2段の高性能フィルタを通って排気筒から大気中へ放出されるものとする。

 (ロ) 放射性物質は燃料ピン4本に含まれていたもののうち希ガスを除いたものとする。

 上記条件により計算した結果、周辺公衆の被ばく線量は、全身に対し内部被ばく及びガンマ線による外部被ばく合せて4.4×10-1mrem、ベータ線による外部被ばく(実質は皮膚表面)2.0×10-2mrem、甲状腺(成人)に対し140mrem、甲状腺(小児)に対し280mrem、骨に対し2.4×10-1mremとなる。

(2) 脱硝槽の爆発

 (イ) 放射性物質は、排風機室の2段の高性能フィルタを通って排気筒から大気中へ放出されるものとする。

 (ロ) 放射性物質は、1回の試験で使用するガラス固化体1体を作成するに必要な高レベル放射性廃液に含まれているものとする。

 上記の条件により計算した結果、周辺公衆の被ばく線量は、全身に対し内部被ばく及びガンマ線による外部被ばく合せて3.2×10-2mrem、ベータ線による外部被ばく(実質は皮膚表面)2.8×10-4mrem、甲状腺(成人)に対し3.3×10-3mrem、甲状腺(小児)に対し、6.6×10-3mrem、骨に対し1mremとなる。

(3) プルトニウム貯蔵庫の臨界事故

 (イ) 放射性物質は、排風機室の2段の高性能フィルタを通って排気筒から大気中へ放出されるものとする。

 (ロ) 放射性物質は、核分裂で発生した核分裂生成物及び貯蔵庫にあるプルトニウムの未反応分とする。

 (ハ) 外部被ばくについては、即発放射線によるガンマ線及び中性子線によるものの両方について評価する。

 上記の条件により計算した結果、周辺公衆の被ばく線量は、全身に対し内部被ばく及び外部被ばくを合せて180mrem、ベータ線による外部被ばく(実質は皮膚表面)16mrem、甲状腺(成人)に対し270mrem、甲状腺(小児)に対し540mrem、骨に対し2.5×10-5mrem、肺に対し6.4×10-1mremとなる。

 以上のとおりいずれの場合も周辺公衆の受ける被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」に示されている目安線量及び「プルトニウムに関する目安線量」に示されている骨及び肺に対する目安線量を準用し、これと比べてみても十分低い。

Ⅳ 審査の経過

 本審査会は、昭和52年9月12日第7回審査会において審査を行い、引き続き加工・使用部分において、昭和52年9月21日、同10月25日、同12月7日、同12月21日、昭和53年2月1日、同2月14日、同2月28日及び同3月6日に審査を行った。さらに、部会報告書を受けて昭和53年3月6日第9回審査会において審査を行い、本報告書を決定した。

 なお、同部会の委員は、次のとおりである。

部会委員
(部会長) 三島 良績 東京大学
青地 哲男 日本原子力研究所
伊沢 正実 放射線医学総合研究所
今井 和彦 日本原子力研究所
(昭和52年11月1日から)
岡島 暢夫 中部工業大学
清瀬 量平 東京大学
筒井 天尊 京都大学
中田 正也 船舶技術研究所
松岡 理 放射線医学総合研究所
山本 寛 東京大学名誉教授
吉沢 康雄 東京大学

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