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日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更(原子炉安全性研究炉施設の変更)について(答申)


51原委第893号
昭和51年11月9日

  内閣総理大臣 殿
原子力委員会委員長

 昭和51年5月11日付け51安第3171号(昭和51年10月16日付け51安(原規)第121号で一部補正)で諮問のあった標記の件について、下記のとおり答申する。



① 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号及び第3号については適合しているものと認める。

② 上記許可の基準第4号については、原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。


(別添)

昭和51年10月18日

  原子力委員会
     委員長 前田 正男 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更(原子炉安全性研究炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和51年5月11日付け51原委第420号(昭和51年10月16日付け51原委第881号で一部補正)で審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。


 1 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更(原子炉安全性研究炉施設の変更)に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉設置変更許可申請書(原子炉安全性研究炉施設の変更)」(昭和51年4月30日付け申請、同年10月8日付けをもって一部補正)等に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。


2 変更内容

 原子炉安全性研究炉施設について以下の変更を行う。


(1) 照射カプセルの変更

 照射カプセルの種類の追加、強度設計の方法の変更及び試験燃料に対する発熱量の制限の変更等を行う。

1) 照射カプセルの種類の追加

 冷却材の温度、圧力及び流動が燃料破損挙動に与える影響を究明する目的のため、従来の大気圧水カプセルのみの使用に対し、高圧水カプセル及び流動水カプセルを追加する。

 高圧水カプセルの試験部容器の主要材料は、ステンレス鋼又は耐食性アルミニウム合金とし、初期の使用条件は、ステンレス鋼の場合は160㎏/㎝以下の圧力並びにその飽和温度以下であり、耐食性アルミニウム合金の場合は、30㎏/㎝以下の圧力200℃以下の温度である。また、流動水カプセルの場合は、試験部容器をステンレス鋼とし、初期の使用条件は160㎏/㎝以下の圧力並びにその飽和温度以下でカプセル内の水を循環できるようにする。

 なお、大気圧水カプセルについては、試験部容器の主要材料として耐食性アルミニウム合金製のものを追加する。

2) 強度設計の方法の変更

 全ての照射カプセルの試験部容器については、破損に対する安全余裕度が十分ある範囲で塑性変形を許容し得る設計とする。

(従来の大気圧水カプセルの試験部容器は弾性設計による)

3) 試験燃料による発熱量の変更

 照射カプセル内の試験燃料による発熱量の制限の方法を変更する。

 すなわち、試験燃料の発熱量は、キャプセルに与える有効破壊エネルギーの制限値920cal及びカプセル中の総発熱量の制限値3.1×105calのいずれをも満足する範囲とする。

(従来の発熱量は、照射カプセルがステンレス鋼製の場合はUO量90gに対して最大400cal/gUO、インコネル製の場合には同じく600cal/gUO2)

(2) 制御棒の反応度制御能力の変更

 トランジェント棒の反応度抑制効果を特性試験結果をもとに0.0087ΔK以上に変更する。これに伴い、全制御棒反応度抑制効果も0.110ΔK以上とする。

(従来は、反応度抑制効果が0.0118ΔK以上、全制御棒反応度抑制効果が0.124ΔK以上)

 3 審査内容

(1) 照射カプセルの変更

 以下に述べる点から変更後も安全性は確保されると判断する。

1) 照射カプセルの種類の追加

 高圧水カプセルは、試験部容器、ヒーター、加圧タンク、圧力抑制タンク及び安全弁、配管等から構成する。これら容器類は一体構造とし、実験孔内に抑え機構で固定する。配管部の周囲には、万一配管に破損が生じても実験孔に損傷を与えないよう保護外筒を設ける。また、照射カプセル内の温度、圧力等を制御するために必要な運転監視系を設ける。

 流動水カプセルは、試験部容器並びに循環部を構成するポンプ、膨張タンク、圧力抑制タンク、ヒーター及び安全弁、配管等からなる。実験孔内には試験部容器と配管を入れ、抑え機構で固定する。本射照カプセルも高圧水カプセルと同様に保護外筒及び運転監視系を設ける。また、循環部は原子炉建家内1階に設置する。

 高圧水カプセル及び流動水カプセル試験部容器は、従来から使用している大気圧水カフセルの形状に準じた単純な円筒形状の圧力容器であり、必要な強度設計を行い、また、試験部容器につながるタンク、配管等については動的荷重も考慮した設計とするので、安全性の確保上問題はないと判断する。

 試験部容器と接続配管の間には、放射性物質の不用意な漏洩を防止するため隔離弁を設け、また、圧力抑制タンク安全弁排気を換気系へ接続する等配慮しており、循環部周辺の放射線管理も必要により行うことにしている。

2) 強度設計の方法の変更

 照射カプセルの試験部容器の強度設計は、静的設計荷重に対しては通商産業省令第62号「発電用原子力設備に関する技術基準」の第1種容器の基準に準じて行う。一方、試験燃料破損時に生ずる衝撃圧力及び水撃力の動的荷重に対しては、弾塑性解析により許容変形量をこえないようにする。この許容変形量としては板厚平均歪及び表面歪で2%もしくは限界変形量の1/10局所歪で5%もしくは限界変形量の1/4のうちのいずれか小さい値としており、これらの値は、試験部容器の破損に対し十分余裕があるものと判断する。

 設計に使用する衝撃圧力及び水撃力は米国のSPERTCDC実験で得られた信頼性のあるデータの最大値を使用するが、設計にあたっては、炉内実験、耐爆実験の結果を評価しその妥当性を確認することとしている。

 耐爆実験では、試験燃料を模擬した低爆速型爆薬を用いて、実機と同等の試験部容器で行い、限界変形量を実測すると同時に最大実験条件相当の衝撃圧力、水撃力でも許容変形量をこえないことを確認する。

 なお、実際の照射実験では発熱量を段階的に上昇させ、各段階で衝撃圧力、水撃力及び試験部容器の塑性歪量を測定し、各段階で許容変形量を評価しつつ最大実験条件まで実験を進めることとしている。

 また、照射カプセルは材料疲労の許容できる範囲内で再使用するが、その際は再使用検査を行い、塑性変形量が板厚平均又は表面で1%をこえた場合は使用しない。1%以下の塑性変形が認められたが再使用する場合は、試験燃料の発熱量は塑性変形量が板厚平均および表面で1%もしくは限界変形量の1/20、局所で2.5%もしくは限界変形量の1/8のいずれか少い方をこえない範囲で最大実験条件を定めることにしている。

 なお、耐食性アルミニウム合金製照射カプセルの製作にあたっては高温時における材料の機械的性質等内外の規格を参考にし材料の選択には十分注意する。

 これらから安全性は確保されると判断する。

3) 試験燃料の発熱量の変更

 試験燃料の発熱量は、有効破壊エネルギーによる制限(920cal)と総発熱量による制限(3.1×105cal)を満たす範囲と規定したが、前者はSPERTCDCによる実験データを用い、後者は試験燃料が分担する最大パルス積分出力を用いており、これらは妥当である。また、発熱量は試験燃料の寸法及び濃縮度並びに照射カプセルの形状等が異ると変ってくるため、新体系の実験を行う場合には核計算又は実験結果に基づき発熱量を評価するとともに実測を行って確認する。

 また、照射実験は段階的に上昇させ安全性を確認しながら行うなど管理運営面の徹底を図ることとしている。

 以上のことから安全性は確保されると判断する。


(2) 制御棒の反応度制御能力の変更

 トランジェント棒の反応度制御能力の実際のパルス運転時の測定値を参考に再評価した結果その値を変更するものである。

 本変更に伴い全制御棒反応度抑制効果が若干低下するが、最大価値を有する制御棒1本が挿入不能と仮定しても停止余裕は0.01ΔK以上確保でき問題はないと判断する。

 また、従来パルス運転は臨界状態からトランジェント棒を引抜くことにより行ったが、今回投入反応度量を設定した後トランジェント棒を一度挿入し、未臨界状態から引抜く方法も採用できることとした。本方法によっても投入反応度量は臨界状態からの場合と同じであり、挿入速度の若干の違いによる出力、燃料最高温度もほとんど差がないので問題はないと判断する。


(3) 事故評価について

 本変更に伴い事故対策及び安全評価について再評価を行った、その結果、従来の事故に加え照射カプセルシール部の不完全もしくは、破損が起った場合あるいは高圧水カプセル及び流動水カプセルの安全弁の動作又は配管タンク、ポンプ等の付属設備が何らかの理由で破損した場合を想定した。

 この場合、原子炉建家中に希ガス100%、ハロゲン50%が放出され、排気系のフィルターを通り排気筒から環境へ放出されたとしたが、一般公衆の被曝線量は問題とならない。

 また、安全評価については、重大事故は従来と変らないが、仮想事故の仮定を変更した。すなわち、照射カプセルが炉心から飛び上ることを想定して正の印加反応度が投入されるとしてきたが、アルミニウム合金製カプセルのため飛び上り速度が早くより大きな投入反応度速度となるとしてもその被曝評価は従来と変らない。


 4 審査経過

 当審査会は、昭和51年5月17日第148回審査会において次の委員からなる第124部会を設置した。

(審査委員)
望月 恵一(部会長) 動力炉・核燃料開発事業団
安藤 良夫 東京大学
木村 啓造 金属材料技術研究所
西脇 一郎 宇都宮大学
(調査委員)
石田 泰一 動力炉・核燃料開発事業団
井上 晃次 動力炉・核燃料開発事業団

 同部会は、昭和51年5月26日第1回部会を開催した。以後、部会及び審査会は審査を行ってきたが、昭和51年10月16日の部会において部会報告書を決定し、同年10月18日第152回審査会において本報告書を決定した。


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