前頁 | 目次 | 次頁

発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する被曝線量計算の基本的考え方について(答申)


放審議第41号
昭和51年9月2日

科学技術庁長官
 佐々木 義武 殿
放射線審議会会長 御園生 圭輔

 昭和51年5月24日付け51安第3858号をもって本審議会に諮問のあった標記の件については、放射線審議会総会及び線量目標値の線量計算に関する特別部会において慎重に審議した結果下記のとおり結論を得たのでその旨答申する。

Ⅰ 審議方針

 当審議会は、次のような考え方及び方針のもとに審議を行った。

1. 本諮問は、発電用軽水型原子炉施設に対する線量目標値が定められたことに伴い、線量目標値に対比させる施設周辺公衆の被曝線量を食物摂取等の現実的な被曝経路を考慮した線量計算によって求めるという基本的考え方を示したものであるので、この線にそって審議する。

2. 本諮問の考え方に基づく線量計算には、適切なパラメータが使用されるという前提にたち、主としてICRPが使用した計算方法との相違点について審議する。

3. 本諮問の考え方を発電用軽水型原子炉施設以外の原子力施設注)に準用する場合の問題点についても検討する。

注) ここでいう原子力施設とは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号)によって規制を受ける原子炉施設、並びに核燃料物質等の製練・加工・再処理及び使用施設である。


Ⅱ 審議結果

1. 基本的考え方について

 本諮問は、発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値である全身被曝線量及び甲状腺被曝線量に関し、線量計算の基本的考え方を示したものであり、その考え方は、外部被曝及び内部被曝に対応して、放出放射性核種のうち重要な放射性核種、人体の放射線被曝を引き起こすにいたる重要な被曝経路、施設周辺の人々のうち大きい線量を受けるグループに着目し、これらについて日本の生活習慣等の現実的要因を考慮して線量計算を行うこととしているので妥当である。

2. 気体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の算出について

2-1. 気体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量(生殖腺又は造血臓器の線量当量、以下同じ)の算出において、気体廃棄物中の放射性希ガスが放出するガンマ線の外部被曝に着目して生殖腺又は造血臓器の線量を算出するという考え方は、前提とした放出放射性物質の核種組成、放出状況、放射性希ガスの性状等を考慮すると他の被曝経路の寄与が小さいので妥当である。

2-2. 生殖腺又は造血臓器の線量を、空気中の放射性希ガスの濃度分布、ガンマ線に対する空気の吸収効果、人体組織のしゃへい効果等を考慮に入れて算出することは、1に述べた基本的考え方にそっているので妥当である。

2-3. 気体廃棄物中の放射性希ガスは、ガンマ線と同時にベータ線も放出するが、ベータ線に起因する制動放射線の生殖腺又は造血臓器への寄与は無視できる程度であるので、ガンマ線による生殖腺又は造血臓器の線量に着目すればよいと考える。

3. 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の算出について

3-1. 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の算出において、海産物を介して人体に摂取される放射性物質に着目し、生殖腺又は造血臓器の線量を算出するという考え方は、前提とした放出放射性物質の量及び核種組成を考慮すると、他の被曝経路の寄与が小さいので妥当である。

3-2. 人体に摂取された放射性物質による生殖腺又は造血臓器の線量は、放射性物質の体内一様分布を仮定して算出される全身の平均線量を使用することとしているが、これは生殖腺又は造血臓器に選択的に蓄積されるような放射性核種がないこと等を考慮すると、このような仮定に基づく方法で線量を求めても差し支えない。

4. 気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性よう素による甲状腺被曝線量の算出について

4-1. 気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性よう素による甲状腺被曝線量の算出において、呼吸・葉菜・牛乳及び海産物を介して人体に摂取される放射性よう素に着目し、甲状腺被曝線量を算出するという考え方は、前提とした放出放射性よう素の核種組成を考慮すると、他の被曝経路の寄与が小さいので妥当である。

 また、成人・幼児・幼児のグループに分けて、甲状腺被曝線量を算出するという考え方は、1に述べた基本的考え方にそっているので妥当である。

4-2. 経口摂取された放射性よう素が甲状腺に移行する割合(fw)は安定よう素の摂取量に応じて変化することが知られている。

 日本人の平均的な安定よう素の日摂取量は、国民栄養調査による食品摂取量から推定した値等について検討した結果、ICRPでいう標準人のそれに比べかなり多く、またfwに関する臨床的測定例等をも参考とする日本人のfwとしてICRPが最大許容濃度を算出する際に使用した値よりも、低い長を使用するという本諮問の考え方は妥当である。

4-3. 海産物をとくに多く摂取するようなグループの場合、これらのグループの安定よう素日摂取量はさらに多くなると推定されるが、これに対応する適切な移行割合の値が得られないときには、比放射能法(摂取時の比放射能と甲状腺の安定よう素量をもとに甲状腺被曝線量を算出するという方法)を用いることは妥当である。

5. 発電用軽水型原子炉施設以外の原子力施設に本諮問の考え方を準用することについて

 本諮問は、発電用軽水型原子炉施設の線量目標値に対比させる場合の線量計算の考え方を示したものであるが、その前提は発電用軽水型原子炉施設における放射性物質の放出量、放射性核種の組成、放出方法、周辺環境の状況等の実態に即したものである。

 発電用軽水型原子炉施設以外の原子力施設においては、線量目標値が定められていないが、ここでは、施設の設計及び放出管理を行うために、線量限度よりはるかに低い水準で、施設周辺公衆の被曝線量を計算する場合を考察することとした。

 その場合に、本諮問の考え方が準用できるかどうかは、当該施設の放射性物質の放出量、放射性核種の組成、放出方法、周辺環境の状況等を勘案して検討することが必要である。

5-1. 「基本的考え方」については、線量算定の基本的考え方を述べているので準用することができる。

5-2. 「気体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の算出」については、放射性希ガスが放出するガンマ線の外部被曝に関して、空気中の放射性希ガスの濃度分布、ガンマ線に対する空気の吸収効果、人体組織のしゃへい効果等を考慮に入れて生殖腺又は、造血臓器の線量を算出するという考え方は、一般的に準用することができる。

 ただし、放射性物質の核種組成等が著るしく異なる場合には、他の被曝経路の寄与があること、ガンマ線以外の放射線の寄与があること等により、一般的には、準用することはできない。

5-3. 「液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の算出」については、発電用軽水型原子炉施設以外の原子力施設では、放出放射性物質の量及び核種組成が著るしく異なることが考えられるので他の被曝経路の寄与があること、生殖腺又は造血臓器が平均線量を越えて被曝することがあること等により、一般的には、準用することはできない。

5-4. 「気体廃棄物及び液体廃棄物中の放射性よう素による甲状腺被曝線量の算出」については、呼吸、葉菜、牛乳及び海産物を介して人体に摂取される放射性よう素に着目し、安定よう素の日摂取量を考慮に入れて成人、幼児、乳児の甲状腺被曝線量を算出するという考え方は、一般的に準用することができる。

 ただし、放射性よう素の核種組成が異なる場合には、他の被曝経路の寄与が考えられるので、一般的には、準用することはできない。

6. 本諮問の考え方にもとずく線量計算については、放射性物質の環境及び人体における挙動の調査研究の成果を踏まえ、適切な計算モデルとパラメータを使用するよう努力することが大切である。


Ⅲ 審議経過


 本審議会は、昭和51年5月27日の第31回放射線審議会総会において次の委員からなる「線量目標値の線量計算に関する特別部会」を設置した。

(審議会委員)
 伊沢 正実(部長会)放射線医学総合研究所
 織田 暢夫東京工業大学
 左合 正雄東京都立大学
 高橋 信次浜松医科大学
 浜田 達二理化学研究所
 宮永 一郎日本原子力研究所
 吉沢 康雄東京大学


(専門委員)
 市川 竜資放射線医学総合研究所
 笠井 篤日本原子力研究所
 橋詰 雅放射線医学総合研究所
 藤田 順一東京国立第二病院


(参考人)
 飯嶋 敏哲日本原子力研究所
 金子 正人東京電力株式会社
 藤田 稔日本原子力研究所

 同部会は昭和51年6月8日第1回部会を開催し、審議方針を検討するとともに諮問内容について審議を開始した。

 以後同部会において5回にわたる審議を行った結果、昭和51年8月2日の部会において部会報告書を決定し、本審議会総会は、これを受けて審議した結果、昭和51年9月2日の第32回放射線審議会総会において、本答申書を決定した。


前頁 | 目次 | 次頁