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放射性廃棄物対策に関する研究開発計画(中間報告)


昭和51年6月
放射性廃棄物対策技術専門部会

 第1章 緒論

 原子力発電の本格化に伴ない、放射性廃棄物対策の確立が不可欠の課題となっている。

 わが国においては、対策の確立の緊急性、重要性に鑑み、原子力委員会の専門部会等において、かなり以前からその検討がすすめられてきた。

 昭和47年に改訂された「原子力開発利用長期計画」において示された放射性廃棄物処理処分に関する計画を具体化するため、環境・安全専門部会(47年2月に設置、49年10月報告)に放射性固体廃棄物分科会をおき、検討が進められた。その結果、(1)試験的海洋処分について、昭和50年度から安全評価に着手し、昭和52年頃から実施することを目標におく。(2)陸地処分については、適切な地点を確保し、実施計画を作成する。(3)高レベル放射性廃液の固化処理について研究開発を強力に進める。(4)一元的な推進機関を設立する。(5)国際的な協力、協調を進める等の提言がなされた。

 これらをふまえて、昭和50年7月、原子力委員会に放射性廃棄物対策技術専門部会が設置され、同専門部会に安全評価分科会ならびに研究開発分科会をおき、それぞれ(1)試験的海洋処分の事前安全評価、(2)試験的海洋処分の結果の評価、(3)海洋処分及び陸地処分の実施基準の安全評価、ならびに(1)放射性廃棄物処理処分に関する研究開発計画の策定及び成果の評価、(2)海洋処分固化体及び陸地処分についての実施基準案の作成を分掌し、調査審議を行っている。ここでは、このうち研究開発分科会で作成された研究計画について報告することとする。

 海洋処分に関する研究開発計画については、今回は処分用パッケージについてのみ、検討を行ったのでその他の事項については今後更に検討することとした。

 廃棄物対策は、長期間にわたる計画のもとに進めるべきものであるので、本報告書では、10年間程度(一部高レベル対策についてはそれ以上)にわたる研究開発計画を作成したが、研究開発の進展に合わせて適宜見直す必要がある。

 試験的海洋処分については、これから安全性を評価するところであるので、その結果を十分踏まえて行うべきことを付記する。


 第2章 廃棄物対策の基本的考え方

 放射性廃棄物対策は、対象とする廃棄物の放射能レベル、形態、放出放射線の種類、エネルギー、半減期等によって採るべき方策を異にするが、本報告書作成に当っては、社会的な関心の高い再処理施設から発生する高レベル放射性廃液の対策及び原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物の対策を中心とし、併せてその他の廃棄物対策の一部について検討を行った。検討に際しての基本的な考え方は、次の通りである。


(1) 高レベル放射性廃液対策について

 再処理施設から発生する高レベル廃液は、極めて高い放射能と崩壊熱を有し、かつ長半減期の放射性同位元素を含むので、それらによる環境の汚染と公衆の放射線被曝を防止するためには、それらを当面半永久的に生活圏から隔離し、安全に管理すると共に究極的には安全な処分方策の確立をはからなければならない。

 しかし、最終的処分方法としては、現在各国においても安定な地層中への処分に重点をおきつつ、他の代替方式を含めて各種の調査研究が進められている状況にあり、わが国で実施しうる処分方式を確立するに到るには、今後なお相当期間を要すると考えられる。このため、当面高レベル廃液は、一定期間のタンク内貯蔵後安定な固化体とし、再処理施設の敷地内等に設ける「取出し可能な工学貯蔵施設」に保管するのが妥当と考えられる。研究開発計画の作成に当っては、最終処分の確立に要する期間と地層処分に影響をおよぼさない程度にまで減衰する期間を配慮し、長期間の保管に適した固化及び貯蔵技術輸送方法等について、わが国の技術水準を考慮しつつ早期にその実用化を図ることを配慮することとする。

 工学貯蔵に続く処分については、地層処分が有望と考えられるが、わが国においては調査研究が緒についたばかりであることを考慮すると、その調査研究を総合的に推進する必要があり、なおかつ処分法の確立が廃棄物対策の根幹であるので今後の対策の目標を示すべきであると考える。また、わが国における地層が処分に必ずしも適さない場合のことを考慮し、処分ではなく最終貯蔵せざるをえないことを想定し処分の代替方法についても調査研究を行う必要があると考える。なお、地層に頼らず、消滅処理等人工的に解決する可能性について調査研究する必要があると考える。わが国は、高レベル廃棄物対策の技術経験が浅いので国際的な協力を図りつつ研究開発を進める必要がある。


(2) 低レベル放射性廃棄物対策について

 低レベル放射性廃棄物の海洋処分については、試験的海洋処分の計画が検討されているので、輸送、投棄技術等の検討に合せて各種廃棄物パッケージの基準の整備を急ぐ必要がある。すでに、試験的海洋処分用セメント固化体に関する暫定指針が提示されているが、これを基礎に処分対象となる放射性廃棄物の種類に応じて広く適用できるよう基準を拡充、整備する必要があると考える。

 また、陸地処分については、先に、施設での保管に関する指針が提示されているが、地中処分については、従来、その進め方が必ずしも具体的でなかったので、目標及び調査研究の進め方を示す必要があると考える。

 さらに、放射性固体廃棄物の中でかなりの量を占めると考えられる極低レベル放射性固体廃棄物については一般放射性廃棄物と区別した処分方法を提言する必要があると考える。


(3) その他の廃棄物対策について

 アルファ廃棄物、及び発生の形態により特殊な処理を必要とする例えば廃原子力施設、動物性廃棄物、廃有機溶媒等については、必要に応じて検討する。


注) 今回の検討の対象としたものは、高レベル放射性廃棄物については、再処理第1サイクルからの廃液、低レベル放射性廃棄物については、原子力発電所、加工施設、RI取扱施設からの蒸発濃縮廃液、スラッジ、焼却灰、雑固体廃棄物等である。


 第3章 放射性廃棄物対策技術の現状

3.1 高レベル放射性廃液

 高レベル放射性廃液には、放射性物質として、U、Puの抽出回収残渣、核分裂生成物(FP)、アクチノイド元素(Am、Cm等)混入物として硝酸、アルカリ塩、腐食生成物(Fe、Cr等)を含んでいる。これらの種類と量は、燃料の種類、燃焼度、冷却期間、再処理方法等によって多少異なるが、放射能は他の原子力施設からの放射性廃棄物に比べて極端に高く潜在的危険性は非常に大きい。廃液に含まれる放射性核種の潜在的危険性は、時間と共にそれぞれの半減期に応じて変化し、発生後600~700年までは、F.Pが支配的であり、それ以降はアクチノイド元素が支配的となり、100万年程度その危険性が持続するといわれている。

 現在、種々の管理体系が提案されており、確定的なものはないが、なかでも最も有力なものとして、
タンク貯蔵→固化処理→工学貯蔵→処分

の体系が考えられている。

 高レベル廃液の固化処理技術の開発については、米国では、エネルギー研究開発庁(ERDA)が、仮焼を1979年、仮焼/ガラス化を1979年、直接ガラス化を1980年、金属媒質を1981年に開発を終え、それぞれ4年後に商業応用化を計画している。英国は、Harvest計画として1985年実証固化プラントの稼動を目標に現在、回分式ガラス化技術の開発を進めている。一方、フランスにおいても1982年には、連続式ガラス固化プラント(AVH)を実証運転する予定である。

 西独は、1984年頃建設予定の再処理工場に備え、VERA)(噴霧仮焼/ガラス化)計画を現在進めている。

 工学貯蔵に関して、米国では最終処分法が確立されるまで取出し可能な地表貯蔵施設に長期貯蔵するための研究開発の検討を行った。

 英国、フランスにおいても回収可能な長期貯蔵を計画しているほか、西独でも岩塩層に永久貯蔵する計画であるが、その安全性が最終的に立証されるまでは、回収可能な工学貯蔵施設に長期間(数十年間)保管する考えをもっている。

 処分法については、米国では、地質層への処分が考えられており、現在ニューメキシコ州南東部の岩塩層に実証用施設を1980年代半ば頃までに建設する予定で地質層評価計画を進めている。また西独でも岩塩層での貯蔵実証試験を1977年~1978年頃からASSE-Ⅱの岩塩廃坑で開始することを計画している。


(1) 固化処理

 高レベル放射性廃液のタンク貯蔵は、20~30年の短期的な観点では、技術的に確立しているとみなされるが、貯蔵時に保守経費がかかり、また、長期的には施設の老朽化による移し換えが必要となるので、安全性及び経済性の観点から不利であると言われている。このため、放射性核種の環境への拡散を難しくし、かつ、保守管理を容易にするため固形化し、輸送、貯蔵時の安全性を高める必要がある。

 固化処理技術としては、種々の方式が考えられる。一般的には、
① 減容比が大きく安全性の高い固化体の作成
② オフガスも含めた2次廃棄物の低減
③ 技術の信頼性

等が要求される。固化された高レベル放射性廃棄物は、耐食性の高い容器に入れられ、水冷却または、空気冷却で崩壊熱を除去しながら、放射線を遮蔽して貯蔵され、最終的には処分される。したがって固化処理技術の選定に当っては、固化後の管理体系、すなわち、貯蔵、輸送、処分への影響を考慮する必要がある。この場合、固化体に必要な性質は、

① 低浸出性
② 良好な熱的特性(高温安定性、熱伝導性、耐熱衝撃性)
③ 機械的強度
④ 耐放射線性
⑤ 化学的安定性
⑥ 容器との両立性

等である。

 固化処理技術の開発は、世界的には、1950年代から進められており、多種多様な方法が提案されているが、そのうち、流動床仮焼法、ロータリーキルン仮焼-ホウケイ酸系ガラス固化法は実用段階に近づいており、また、セラミック固化、金属媒質への埋込の技術が今後有望な方法として開発されつつある。

 わが国においては、固化体の安全性試験について日本原子力研究所(以下「原研」という。)が、また動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃事業団」という)が仮焼等について試験を行っている。ガラス固化の基礎的な試験が通商産業省大阪工業技術試験所において進められている。


(2) 貯蔵

 廃液のタンク貯蔵は、再処理プラントの運転とともにすでに20~30年の実績をもっている。米国では、初期において中和処理した廃液を炭素鋼製タンクに貯蔵する方法を多用してきたが、タンクからの漏洩等の経験に鑑み、酸性のまま、廃液をステンレス鋼製のタンクに貯蔵する方式に改められた。欧州では、当初からこの酸性廃液-ステンレス鋼製タンク貯蔵方式を採用しており、短寿命核種の減衰を待ち、熱除去を効率的に行うことができ、しかも安全性が高い方法であるとされている。わが国でも、当面この方式が採用される。

 一方、固化体の貯蔵は、固化処理の実施に伴なって、始めて必要となるものであり、また処分方法の開発とも密接な関係をもっている。米国では、流動床仮焼体が地下のステンレス鋼製容器(bin)中に入れられ、10年近く貯蔵されており、さらに安定な固化体に変換することも検討されている。さらに、廃液固化工学試験施設で作成された各種の固化体は、固化体貯蔵工学試験施設で貯蔵しながら固化体の評価及び貯蔵法の開発に役立てられている。フランスでは、ポット式ガラス化パイロット・プラント施設(PIVER)で作成された約12トンのガラス固化体が空気冷却方式のパイロット施設で貯蔵されているが、将来発熱率の高い固化体を収納する場合に備え水冷却方式も検討されている。このほか、英国、西独、ベルギー、ソ連など固化処理の開発を進めている各国とも、最終処分法が確立しない間は、取出し可能な貯蔵施設で長期貯蔵(数十年から百年)をする考え方にたち、技術開発が進められている。


(3) 処分

 高レベル放射性廃棄物管理の最終目標は、安全かつ確実に人間の監視下から隔離すること、すなわち、処分することにある。現在、次のような方法が検討、提唱されている。

① 廃液のままで処分する方法
廃液地中圧入法、地層内固化法等
② 固化体にして処分する方法
地層処分法、南極処分法、宇宙処分法等
③ 含有放射性核種の半減期等によって群分離後処分する方法
消滅処理法

 いずれにしても、高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、人間環境への影響、天災からの安全性、施工の難易等について、長期の技術開発、実証、安全評価を必要とする。また、この技術分野は、これまでの原子力開発にかかわりの薄かった広い分野の技術(例えば、地質、海洋、宇宙等)と密接な連携が必要である。

 高レベル放射性廃棄物の処分に対しては、各国とも慎重で、現在永久処分の方針を確定している国はない。現時点において多くの国がとっている姿勢は、①暫定的に取出し可能な貯蔵施設に貯蔵する、②十分な安全性が確保しうる処分法を確立し、これによって、処分する、の2段階の方式である。現在、多くの国で考えられている永久処分の方法としては、固化した廃棄物を陸または海洋底部分の地層中へ埋設しようとしているものが多い。


(4) 群分離

 高レベル放射性廃棄液中には、多種類の放射性核種が含まれており、それぞれ異なった化学的性質、放射線の種類、寿命をもっている。再処理後5~数百年間にわたって支配的となる核種は、90Srと137Csであるのに対し、それ以上の期間では、安全上問題となる放射性核種はアクチノイド元素である。しかも廃棄物全体の中には、放射能を持たないものが含まれており、上記の核種の全体に対する重量比は僅かである。したがって、90Srと137Cs、アクチノイド元素及びその他の元素の3群に分離できれば、厳重な管理を必要とする放射性核種量が限定でき、各群の寿命に応じた処理処分が可能となることから、廃棄物管理の自由度が増す利点が生じる。

 群分離にあたっては、当面、短寿命核種群中に長寿命核種群が残留しないよう留意すれば、充分であり、長寿命核種群の化学的純度は問題にする必要はない。

 群分離核種を単に貯蔵、処分といった概念から一歩進めて、積極的に、アクチノイド元素などの超長半減期核種を核反応による短半減期核種への変換すなわち、消滅処理を行うことができれば、長期管理の負担を軽減することができる。

 アクチノイド元素の分離、濃縮法として、溶媒抽出法とイオン交換法が有力でいくたの提案がなされているが、実用規模での経験はなく、今後なお多くの技術開発が必要である。

 調査研究の現状は、アクチノイド元素の核的性質については、未知な部分が多く、核データの微分及び積分測定から研究を開始している段階である。


3.2 海洋処分用パッケージ

 原子力委員会の環境・安全専門部会(49年)では、昭和52年頃からの試験的海洋投棄の実施を目標とすることが提言されるとともに「試験的海洋処分用セメント固化体に関する暫定指針」がとりまとめられた。

 一方、OECD/NEAにおいても、ほぼ同じ頃、「放射性廃棄物の海洋処分用パッケージに関する指針」がまとめられた。このOECD/NEAの指針には、わが国の暫定指針に記載のない多重構造パッケージ及びビチューメン・パッケージが盛り込まれている。

 その後、国内の原子力事業所でも、多重構造パッケージの特長及びビチューメン固化の減容性に注目し、これらの処理設備が設置され始めた。

 このため、全種類のパッケージについて特性を明確にし、製造、貯蔵、輸送、海洋処分時の各過程で安全性を保証するような基準化が必要となってきた。


(1) 廃棄物の処理及びパッケージ化の現状

 原子力発電所においては、現在、セメント固化の対象となっている廃棄物は、蒸発農縮廃液だけで使用済イオン交換樹脂、瀘過助剤は、施設内タンクに、また雑固体廃棄物は、ドラム缶に収納し貯蔵施設に保管されている。ビチューメン固化や焼却については一部の発電所で設置工事が進められているほか、数ケ所の発電所で、導入が計画されている。

 大型研究施設-特に原稿では一蒸発濃縮廃液や化学スラッジについてセメント、ビチューメン固化が行われているほか、放射性金属片、廃棄物圧縮体の多重構造パッケージ化が実施されている。また、可燃性廃棄物の焼却処理も長年にわたって行われており、その灰のセメント固化も実施されている。


(2) パッケージの開発及び安全評価試験
1) セメント・パッケージ

 電力中央研究所(以下電中研という)では、200lパッケージの高水圧試験、陸上及び海面落下衝撃試験等により、パッケージの健全性が確認された。

 原研では、セメント・供試片及び粉粒体からの137Cs、60Co等の浸出試験、耐浸出性の改善実験及び200lの暫定指針パッケージについて500㎏/㎝2下での高水圧挙動ならびに137Csの浸入試験が行われ良好な結果が得られている。

2) 多重構造パッケージ

 原研では、固体化キャッピンク部の貫通試験、胴部圧縮強度試験、高水圧下における安全性検討、常圧RI浸出試験、コンクリート・ブロックの落下試験等が、また、電中研においては、有限要素法による容器解析、コンクリート容器の高水圧試験等が実施され、それぞれ成果がえられている。

3) ビチューメン・パッケージ

 ビチューメン固化に関しては、動燃事業団において、薄膜蒸発缶を用いて作成した固化体について動性ならびに放射線分解試験、RI浸出試験、燃焼性等の試験が行われたほか、200lドラムの高水圧試験で力学的挙動等が調査された。また、原研では混和蒸発装置を用いて、スラッジ等の固化を定常的に行い、その固化体についてRIの浸出性、耐放射線性などの評価が進められている。

4) その他

 原研では、横積ドラムの耐震性、廃棄物保管場周辺のスカイ・シャイン効果について、また、電中研では、セメント・パッケージの超音波伝播速度測定装置を用いた非破壊検査法についてそれぞれ研究が行われ実用化の見通しがえられている。


3.3 低レベル放射性廃棄物の陸地処分

(1) 陸地処分の必要性

 低レベル放射性固体廃棄物については、海洋処分及び陸地処分を組合せ行う方針のもとに、まず海洋処分については、昭和52年頃から試験的処分を行う予定で準備が進められている。しかしながら海洋処分が本格化したとしても国際的に処分が禁止されているもの、或いは海洋処分に適さないものがある(固化体にした時に強度の出ないもの、比重が1.2以下のもの、船での運搬投棄が困難なもの等)ので、これらについては、極力発生量の低減や減容化を図りつつ、当面陸地における封じ込め、または、環境のもつ特性に期待した、陸地保管または地中処分方法の具体化を計ることが妥当である。

 なお、陸地処分では、対象となる廃棄物の放射能レベルの種類が多様なこと、生活環境にも近いこと、及び期間が長期にわたることなどから処分地の選定、処分法、安全評価、基準化等に当っては、充分な技術的基盤の上にたって慎重な配慮のもとに進める必要がある。


(2) 現状

 海外諸国においては、多くの陸地処分の実施例があり、実用化の段階に達している。この処分方法は、それぞれの国情及び立地条件によって異なり、全ての方法がわが国に適用しうるとは考えられないが、その技術経験の多くは今後の陸地処分法の確立に反映しうるものである。

 わが国においては、処分の実績はないが保管については現在、廃棄物は敷地内施設に一時保管されており、その技術及び経験は蓄積されている。

 これらを背景に、わが国でも、陸地処分について、すでに種々の検討が行われ、廃棄対象物の形態とその放射能レベルに応じた処分方法として①表層埋没 ②地中施設への廃棄 ③施設での短期又は長期的保管 ④地層圧入が提唱されてきている。

 処分に関する工学技術について、調査、設計、施工に必要な、地質、土木建築、工法等の技術は、地層への圧入を除きすでに原子力施設等である程度の経験が蓄積されている。

 環境評価法については、地中での核種の挙動、処分施設または土壌からの周辺環境への線量寄与の評価が重要となる。まず地中での核種の挙動については、すでに帯水層における核種の挙動を、実験規模ではある程度予測しうるまでに研究がなされており、通気層についても研究が進められている。しかし、周辺環境への線量評価については、必ずしもその手法が確立されるに至っていない。


3.4 放射性固体廃棄物についての下限値設定(裾切り)

 これまで放射性廃棄物の処理処分の研究開発が実施されてきたが、放射性固体廃棄物の定義の検討ならびにそれに関連する研究は、ほとんどなされていない。放射性廃棄物の増加に伴って、放射性固体廃棄物と一般産業廃棄物との区分について検討する必要が生じてきている。

 例えば、核燃料加工工場の管理区域から発生する固体廃棄物すべてを、放射性廃棄物として取扱っているのが現状であり、原子力発電所や放射性同位元素の使用事業所等においても事情は同じである。しかも放射性同位元素濃度の定義(天然放射能0.01μCi/g、人工放射能0.002μCi/g)以下の放射性固体廃棄物は全体の3割程度を占めるといわれている。したがって放射性廃棄物の放射性物質含有量に下限値を設けること、すなわちこれの「裾切り」の必要性は、放射性廃棄物管理を合理的および安全に実施する上で重要である。

 われわれの環境に存在する物質は多かれ少なかれ放射性物質を含んでいるので、すべての廃棄物を放射性廃棄物として取扱う意図がなく、また、必要もないことは国際的にも指摘されており、すでに、ソ連、チェコ等では放射性廃棄物として取扱う放射性物質含量の下限値が法令的に明確にされていると云われている。欧米諸国では、現在法令で明確にされている例はないようであるが、西独では、放射性物質として定義されている濃度よりも、3桁以上低いものは、軽易な取扱いとする方向で検討が進められている。フランスでは、個別審査により放射性廃棄物からはずすことのできるような運用が行われている。

 放射性廃棄物としての取扱い管理をする境界値を設ける「裾切り」の方法には、

① 環境或いは生物圏に存在する物質と同じ程度の放射能レベルであって、本質的に環境中のバックグランドを変えない境界値を定め、これ以下のものは放射性廃棄物として全く取扱う必要がないとする無条件裾切り、

② 特定の経路あるいは方式で取扱われることを前提に何らかの安全評価をして、その結果として影響が無視できる程度であるような放射能レベル等で区分する条件付裾切り(無条件裾切りよりは放射能レベルは高い)、の2方法が考えられる。

 無条件裾切りの指標としては、天然に広く存在する放射性物質のレベルが考えられる。例えば、ウランは、これまでの測定で環境及び生物圏に広く存在していることはよく知られている。花崗岩中のウラン含量は105μCi/g程度であり、また植物中にも高い含有量を示すものが多い。このことは、これまでの人間の生活から考えて経験的な安全評価がなされていて、あらためて評価する必要はないと考えられる。したがって無条件裾切りは、実施可能な方法であると考える。

 次に条件付裾切りは、含有される放射性核種、対象廃棄物の種類、形態等によって、放射性廃棄物としての管理から脱することを可能にするものである。例えば、フランスにおいて、原子炉に使用していた極微量の放射性コバルトを含む黒鉛を一般工業用電極に再生することが認められたように、経路が特定でき関与する人間の被曝が無視できることが明らかな場合、現行の放射性廃棄物としての取扱い方法から実質的に脱し、全体としての管理を大幅に改善することが可能と考えられる。


注1) Harvest;High Active Residue Vitrification Engineering Study
注2) VERA;Verfestigung Hoch Radioaktiver Spaltproduktlprosunger

注) パッケージとは、容器と内容物を含んだものを云う。


 第4章 放射性廃棄物対策の推進方策

4.1 対策の進め方

 再処理工場で発生する高レベル放射性廃棄物は、潜在的な危険性の強いこと、また原子力発電所等で発生する低レベル放射性固体廃棄物は、量が多いことから、これらの対策の確立は社会的な要請になっており、かつ長期にわたる施策が必要であるため、これをプロジェクトとして推進すべきであると考える。

 プロジェクトとしては、すでに低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分計画が具体的に進められているが、このほか、再処理工場からの高レベル放射性廃棄物の固化処理、工学貯蔵及び地層処分を中心とした高レベル対策プロジェクトならびに低レベル放射性固体廃棄物の長期保管及び地中処分を対象とした陸地処分についても同様にプロジェクトとして推進するのが適当であると考える。

 また、極低レベル放射性固体廃棄物について放射性廃棄物としての下限値設定(裾切り)及びRI関係施設からの特殊な廃棄物の処理については、早急に見通しをうるものとする。

 なお、アルファ廃棄物、廃原子力施設の解体等については、将来大きな課題となるので研究開発を積み重ねていく必要がある。

放射性廃棄物対策プロジェクトの目標(参考)

4.2 プロジェクトの目標及び推進体制

(1) 高レベル放射性廃棄物対策プロジェクト

 今後10年の間に固化処理及び工学貯蔵のパイロットプラントを完成させ運転を開始することとする。また処分については昭和75年(2000年)頃までに見通しをうることを努力目標として地層処分を中心に調査研究及び技術開発を図る。

 これらの推進体制としては、その中心となる動燃事業団がその体制を整備強化してこれに当り、原研、国立試験研究機関等がこれに協力するものとする。


(2) 海洋処分プロジェクト

 昭和52年度頃から開始を予定されている試験的海洋処分については、環境等への安全性を評価のうえ実施し、その結果を踏まえ、本格的海洋処分を実施することを目標とする。

 これに伴なう廃棄物パッケージの基準化等に関する研究開発を推進する。

 この推進体制としては、試験的海洋処分については国の責任のもとに、(財団法人)「原子力環境整備センター」(仮称)及び原研、電気事業者等が協力して実施する。基準化については、国が原研及び民間の協力を得て実施する。


(3) 陸地処分プロジェクト

 陸地保管については、昭和56年頃から本格化できるよう基準整備、立地選定等を行う。

 地中処分については、昭和54年頃から実証試験を開始し、今後10年後を目途に本格的処分を実施することを目標とする。

 この推進体制については、国の支援のもとに(財団法人)「原子力環境整備センター」(仮称)が中心となり、原研及び電気事業者等が協力して実施することとする。

 なお、これらのプロジェクトの推進に当っては、国際的な協力を図るものとし、併せて、大学等の協力を期待するものとする。


 第5章 研究開発課題

 放射性廃棄物対策について、当面、実施すべき研究開発計画は、(1)高レベル放射性廃棄物対策、(2)低レベル廃棄物の海洋処分、(3)低レベル廃棄物等の地中処分及び陸地保管、(4)放射性固体廃棄物の下限値設定、(5)特殊な廃棄物の処理が中心となる。概要は以下のとおりである。

 高レベル放射性廃棄物に関する研究としては、模擬廃液の仮焼、ガラス、セラミック固化試験とその固化体の評価試験を中心に高放射性物質処理開発施設における実廃液によるホット試験、固化パッケージの工学貯蔵、輸送、地層処分に関する調査研究、群分離・消滅処理に関する基礎研究を実施する。

 低レベル廃棄物の海洋処分に関する研究開発としては、海洋投棄用セメント、多重構造及びビチューメン・パッケージなどの基準化のための研究開発等の調査を実施する。

 低レベル廃棄物等の地中処分及び陸地保管に関する研究としては、陸地処分場に関する調査研究ならびに安全評価のための試験研究、処分、保管構造物の基準化のための調査研究、処分、保管パッケージの基準化のための調査研究、モニタリングシステムの研究、輸送に係わる調査研究を実施する。

 放射性固体廃棄物の下限値設定に関する調査研究として目標基準値の設定に伴なう調査検討、レベル区分試験と評価を実施する。

 特殊廃棄物としては、アルファ廃棄物の処理技術及び特殊な廃棄物としての廃原子力施設の解体方法及び廃棄物の処理方法、ならびにRI関係の動物屍体、有機溶媒廃棄物の処理方法についての試験研究を進める。


5.1 高レベル放射性廃棄物

 固化処理等の研究開発については、動燃事業団、原研、大阪工業技術試験所において各種固化処理技術、固化体の物性評価及び群分離試験を継続実施すると共に、動燃事業団の高放射性物質処理開発施設(ホット・セル)及び工学試験用モックアップ施設の建設、整備を進め、実廃液を取扱うホット試験ならびに工学試験(コールド)に移行し、ついで固化処理プラントの建設、実証運転を行う。また、工学貯蔵施設の技術的要件に関する調査研究及び地層等処分に関する調査研究を進め、高レベル放射性廃棄物管理の体系化を推進する。

(1) 模擬廃液の仮焼、ガラス、セラミック固化処理試験

 トレーサーレベルまでの合成模擬廃液を使用して固化処理試験を行い、液組成に対するプロセスの適合性、最適オフガス処理の可能性、有効性を小規模試験で検討する一方、実用規模の工学的諸問題を解明する研究開発を進める。プロセスの決定、安全審査、ホット試験等それぞれの時点の目標に応じた研究を実施する。

(2) 実廃液固化処理試験

 再処理プラントから発生する実際の高レベル放射性廃液やそれと同等の放射性レベルの合成廃液による固化処理試験は、固化処理技術の開発実証等には欠かすことができない。このためにはホットセルを速かに整備し、ホットに関する諸問題を解明する必要がある。これらによって実証固化プラントの運転や新プロセス開発等に役立てる。しかし、施設の整備までにはかなりの時間を要するので実廃液の取扱い経験を積むために、ユーロケミックにおける国際協力計画に参加することとする。

(3) 固化体物性試験

 必要な固化体に関して、模擬廃液固化体及び実廃液固化体を用いて、低浸出性、熱的安定性、耐放射線性、機械的強度、化学的安定性、容器との両立性等の関連諸性質を試験、評価し、わが国に適合した貯蔵、輸送、処分等の管理技術の確立と安全解析のための基礎情報をうる。

(4) 固化体のパッケージ化試験

 模擬廃液固化体及び実廃液固化体について容器材料、構造及び形状、パッケージ化技術、耐久性等について試験を行い特に貯蔵時の安全性について情報をうる。

(5) 固化処理プラントの実証試験

 実規模の固化処理プラントを再処理施設に併設し、プラントとしての信頼性等を総合的に実証する。

(6) 工学貯蔵に関する調査研究

 高レベル放射性廃棄物の最終処分が確立されるまで、相当長期間にわたって工学的に貯蔵するために、貯蔵施設に対する要件の調査及びこれに基づく実証試験を行う必要がある。

1) 貯蔵施設に対する要件

 工学貯蔵施設は、放射能レベルの極めて高い固化体をできるだけメンテナンス・フリーでかつ再処理及び固化プラントの寿命より長い耐用年数を見込まなければならない性格のものである。したがって、その安全性を担保するため固化体に関する詳細データ、除熱、遮蔽、保守点検、放射線モニタリング、事故時対策を含めた工学貯蔵施設の要件を明確にする。

2) 工学貯蔵プラントの実証試験

 工学貯蔵試験施設を設計、建設し、実証固化プラントから生ずる高レベル放射性固化パッケージを収容し、パッケージの貯蔵挙動、施設の耐久性、運転保守管理、放射線管理等の実証データを蓄積すると共に、その成果を以後の工学貯蔵施設の設計、建設ならびに固化法、パッケージ化等に反映させる。

(7) 輸送に係わる調査研究

 高レベル放射性廃棄物固化体の輸送は、発生源における工学貯蔵施設から処分場へまたはそれの代替としての地層内貯蔵所へ運搬の場合必要となる。輸送対象物が極めて高放射性であるので、国際原子力機関(IAEA)で定めるB型輸送物となる。これに関する調査研究は、当面高レベル放射性廃棄物管理システム調査の一部として容器設計方法、事故時を含む環境への影響評価方法等について進める。これらの調査研究結果をもとにして、実際の輸送容器製作にいたる前段で実物に近い模型を用いてB型パッケージとしての必要条件である事故時試験に合格するに必要な設計データを集積し、設計基準、安全輸送基準、容器の性能試験法を確立する。

(8) 地層等処分に関する調査研究

 各国で処分地層の対象となっている蒸発岩層(岩塩層、石膏層)等は、わが国では処分規模として存在しないが、これと同等の要件を満す可能性のある地層(海洋底を含む)について調査研究を実施する。

1) 可能性のある地層の調査

 先ず国内文献、資料の収集、検索及び解析を行ない、次いで国内各抽出地層別の分布、形態・岩質を調べ、地域別・地層別分布を調査する。一方、海外で地層処分の対象とされている地層の種類やそれらの地層が対象とされている理由等を検討し、地層処分要件の把握を行う。国内情報及び抽出地域の自然災害、人口密度、将来の産業活動の場となる可能性、輸送条件、地質変動の発生予測、地質構造の解明等を考慮して有効な地層と地域を選定する。

2) 候補地層の物理探査、試錐

 候補地層の物理探査、試錐等を実施し、岩層の分布、地質学的、鉱物学的性状等を調査すると共に採取コアーについて高放射性固化パッケージとの両立性に関し熱的、物理化学的諸性質等を検討する。

3) 模擬パッケージの現地試験

 模擬パッケージを収容するため掘削技術及び取扱い関連諸技術の開発を実施すると共に、長期間にわたる岩層との両立性、除熱特性等に着目し、安全評価法、モニタリング法等の調査研究を行う。

4) 実物パッケージの現地試験

 この試験では、実物パッケージを用い、岩層及びパッケージへの影響を調べ、また、これらの取扱い技術の検討等総合的実証試験を行う。

5) 海洋底処分等の調査

 海洋底処分については国際協力を図り、すすめるものとし、またこれ以外の処分方式について海外の進渉状況の把握に努める。

 なお、地層処分に代替として地層内貯蔵の可能性についても合せて検討する。

(9) 群分離・消滅処理に関する基礎研究

 高レベル放射性廃棄物中の放射性核種について処分量低減化のため半減期別の群分離を行い、さらに群分離された長寿命核種、特にアクチノイド元素を短寿命核種に変換する消滅処理概念の可能性を検討するための研究を進める。

1) 群分離試験

 アクチノイド元素及び90Sr、137Csを分離対象核種として容媒抽出法やイオン交換法等により分離試験を行う。なお、分離された各群について貯蔵及び処分のために必要な技術について研究を行う。

2) 消滅処理に関する予備試験

 消滅処理に関する予備試験は、速中性子による核反応を利用してアクチノイド元素の短寿命核種への変換に主点をおき、核反応に関する研究が進歩した段階で廃棄物処理システムとしての評価を行う。

(10) 高レベル放射性廃棄物管理システムの調査

 高レベル放射性廃棄物全般にわたる情報を調査集積し、解析検討を行って技術開発の選択、方向付け等に反映し、さらにその効果を予測するための調査研究を行う。このため、高レベル放射性廃棄物の諸性質に関しては、放射性核種の種類、濃度、放射線量、発熱量、潜在的危険性、混在物質、経時変化等を炉型、燃焼特性、再処理方式に対応させて調査する。また、貯蔵、輸送、処分等の管理方式に関しては、わが国の環境に適合し、国民的合意がえられる方式で実施するため、安全性に重点をおきつつ管理技術の長期的見通しを得るほか、管理制度についても検討する。


5.2 海洋投棄用パッケージ

 海洋処分の投棄体となるセメント・パッケージ、多重構造パッケージ、ビチューメン・パッケージ等については、その基本的特性ならびに機械的強度、耐久性等を明らかにすると共に、放射性廃棄物の形態、固化パッケージ法、設備が必ずしも同じでないそれぞれの原子力事業所においても十分適用が可能であってかつ安全性が確保できるパッケージの基本的、共通的な必要条件を明確化し、基準化を図る。

(1) セメント・パッケージの基準化のための研究開発

 「試験的海洋処分用セメント固化体に関する暫定指針」に示されている固化対象廃棄物(硫酸塩、ホウ酸系濃縮廃液、イオン交換樹脂、セルローズ系濾過助剤)以外の廃棄物(金属片、焼却灰、ガラス等)についてパッケージの製造技術、パッケージの高水圧下特性、耐衝撃特性、RI浸出特性、検査法等を検討し、パッケージの基準化に役立てる。

(2) 多重構造パッケージの基準化のための研究開発

 セメント・パッケージと同様の試験等を行うほか、パッケージの構造細目の検討ならびに均圧機構信頼性試験を実施して基準化に役立てる。

(3) ビチューメン・パッケージ

 ビチューメン特有の課題として廃棄物混入限度、耐候性、耐放射線性、燃焼性、水による膨潤性、増重剤添加による物性変化等の基本物性について調査を実施する。一方、実物大のビチューメン・パッケージを用い、静的動的負荷特性、耐衝撃特性、高水圧下特性、長期耐久世、燃焼及び消火特性、RI浸出特性等の検討を行い、安全性を実証するほか、各種試験検査法の確立を図り、基準化に反映させる。

(4) ドラム缶の基準化のための研究開発

 ドラム缶については、これまでのセメント・パッケージの衝撃試験等でリブ、ふたの締付等検討を要する諸点が指摘されており、また、JISの改訂が行われたので、これらを含め廃棄物容器としてのドラム缶の構造や耐食性向上等について再検討し、基準化に役立てる。


5.3 低レベル廃棄物の陸地処分

 わが国において放射性廃棄物を安全に陸地処分できることを明らかにし、かつ陸地処分法を実用化するために、以下のような調査研究開発を実施する。

(1) 立地に関する調査研究

 放射性廃棄物の陸地処分場を立地させるに適した場所を種々の立地条件に照らして選定する手法を開発すると共に同手法を適用して候補地を選定する。

① 立地調査

 現在までに得られている研究成果や資料(航空写真、地形図、地質図等)を用いて廃棄物の陸地処分場を立地させることが可能と思われる地域を予備的に調査する。必要に応じ現地踏査を行う。

 さらに、当該地域の地域特性を把握して処分場候補地を選定する。

② 有力候補地に対する事前安全評価

 選定した廃棄物処分候補地について、地くずれ、地震等の基礎的要件を調査するとともに、地質条件、地層条件、気象、地下水流、土壌の性状、土地利用形態及び食品流通形態等についての調査を実施する。これらの調査によって得られる資料に基づいて陸地処分場としての適性を評価する。

(2) 安全評価のための試験研究

 放射性廃棄物の陸地処分場として安全性を評価するためにその評価システムを確立する必要がある。このためには、処分した廃棄物中に含まれる放射性核種の環境中への移行、放射性核種の通気層、帯水層、畑地、水田等での移行・濃縮・希釈及び動植物による濃縮等をそれらの現象を支配する機構と共に明らかにすること、安全性を評価するために必要な諸因子を定量化するための技術を開発すること、環境中へ移行した放射性核種が人間に摂取されるに到る経路・処分場からの直接放射線の影響等を総合的に評価する手法を開発することが必要である。通気層と帯水層、帯水層と河川・湖沼或いは処分した廃棄物と通気層のように複数個の移行過程を経る核種の挙動を明らかにして安全評価システムをより精密にするためには、環境シミュレーション装置によるシミュレーション試験、小規模な野外設備によるフィールド試験等を実施する。これらの成果を用いて環境影響を総合的に評価する手法を開発する。

(3) 処分、保管構造物の基準化のための調査研究

 地中処分及び陸地保管の構造物については、地震等に対する強度、耐水性、耐火性、耐久性、遮蔽、モニタリング、収納方法等について検討し、基準化に反映させる。

(4) 処分、保管パッケージの基準化のための調査研究

 地中処分、陸地保管パッケージについては、パッケージ化及びパッケージの強度、長期安定性、放射性核種の浸出性、耐火性、品質検査法等を検討し、基準化に反映させる。

(5) モニタリングシステムの研究

 放射性廃棄物の陸地処分の開始後及び陸地処分作業の終了後に放射性核種の環境中での移行状況及び環境の異常等安全性を確認するために適切なモニタリングシステムを確立する必要がある。このため、モニタリング試料の採取位置、採取頻度、モニタリングの対象とする項目等を決定する他、当該モニタリングシンテムによって検知しうる異常の下限値を明らかにする。なお、モニタリングの際は放射性物質だけでなく、放射性物質の移動と密接な関係にある環境因子の異常をも検知することにする。また、環境中の放射能の連続自動測定法、システムの集中管理方式及びモニタリング結果の評価法についても検討する。

(6) 輸送に係る調査、研究

 一般に陸地保管、地中処分を対象とした廃棄物パッケージは、概して海洋処分用パッケージに比べ、包装が軽微になるものと考えられるが、輸送にあたっての安全性を十分確認するため事故時の放射性物質放出率等の検討、事故の大きさ、発生確率等の事故評価に係る調査及び事故時の処理法について調査、研究を行う。

(7) 地中処分実証試験

 低レベル固体廃棄物の地中への直接埋没または、地中の構造物等への処分の試験を行う。特定の試験地で試験結果の普遍的活用を期待して行う実証試験と本格的処分地について一定期間にわたり処分地としての適性を実証的に確認する試験的陸地処分の2つを考える。

 なお、地中処分で低レベル固体廃棄物でも特にレベルの低いものは環境への影響が少なく、安全評価で地中での放射性核種の保持等厳しい条件を仮定する必要がないので、別途既存の原子力施設等の周辺監視区域内で早期に実施することも可能と考えられる。

1) 実証試験

 大型原子炉施設等の周辺監視区域内に試験サイトを選定し、低レベルの各種固体廃棄物を対象にして、地中への処分試験を長期にわたって行う。

 代表的放射性核種、代表的移行経路等に着目する環境シミュレーション試験、フィールド試験等の安全性試験及び安全評価の結果を実廃棄物処分について実証的に確認するとともに、基準等への適合性の確認を行う。試験地周辺には観測井を多数配置し、地下水及び土壌を採取してモニタリングを継続的に行う。また、処分した固化体についても一部を取り出して経年変化を観測できるようにする。

2) 試験的陸地処分

 低レベル固体廃棄物を本格的に地中処分する処分地について、安全評価を行った後、本格的な処分に移行する前に試験的処分を実施し、先に行った安全評価の検討及び処分地としての適性を実証的に確認する。


5.4 放射性固体廃棄物についての下限値設定その他

(1) 放射性固体廃棄物の下限値設定に関する調査研究

 放射性固体廃棄物としての取扱いから除外するための暫定目標基準値を設け、根拠づけの調査を進めると共に、実廃棄物についてレベル区分試験を実施し、実現可能な方策の立案を役立てる。

(2) その他の廃棄物に関する調査研究
1) 動物性廃棄物

 動物の屍体等の処理処分に関しては、これまでの調査研究成果を踏え、発生元での保管管理、輸送性及び処理法の観点から、最も望ましい方式を選定するとともに、この方式に基づいた実証試験を実施する。

2) 廃有機溶媒

 廃有機溶媒の処理処分に関しては、廃有機溶媒、混入放射性核種及び発生元が多種にわたることから、性状等を体系的に把握し、適切な処理処分法について調査検討する。

3) α廃棄物

 α廃棄物の発生元及び量は、現在のところ限られているので、あまり処理を施さず、各施設内に特別の保管場所を設けて保管しているが、今後の発生量の増加を勘案して、可燃物の焼却による減容等の処理技術の確立を図るとともに長期保管に適したパッケージ化の研究開発ならびに他の放射性廃棄物とα廃棄物の区分の方法に関する検討をすすめる。

4) 廃原子力施設

 解体技術に関しては、通常の原子力施設における除染、修理、改造時の経験が役立つことから、実績データの収集、情報の交換を積極的に進めると共に、適当な事例について、それを研究対象として閉鎖方法とその管理法、大型装置ならびに構造物の除染、解体、撤去及び処分等について体系的検討を進める。また、施設の設計時において、閉鎖を前提に、作業の難易さ、発生廃棄物の処理法等について検討する。

5.5 研究開発年次計画(昭和51年~昭和60年)


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