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沸騰水型原子炉に用いられる8行8列型の燃料集合体について


昭和49年12月25日
原子炉安全専門審査会

 Ⅰ 目的

 本検討は、ゼネラル・エレクトリック社(以下GEという。)の設計である沸騰水型原子炉(以下BWRという。)用の8行8列型燃料集合体(以下8×8型燃料集合体という。)の基本設計を検討し、その安全性についての評価を行うことを目的とした。検討の範囲は、燃料集合体の構造強度設計、核・熱設計について行った。今後、GE型のBWRは、従来の7行7列型燃料集合体(以下7×7型燃料集合体という。)と混合炉心を構成し、漸次8×8型燃料集合体のみの炉心を構成して行く場合と、初期炉心から8×8型燃料集合体のみで炉心を構成する場合がある。これら8×8型燃料集合体が装荷される特定の炉心あるいは原子炉としての評価は、それぞれの原子炉の安全性に係る審査の際に行われるべきものである。


 Ⅱ 経緯

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所1号炉の設置変更許可申請があったのを機会として、8×8型燃料集合体の一般的な問題を検討するため、原子炉安全専門審査会は、昭和49年5月24日の第126回原子炉安全専門審査会において「BWR新型燃料検討会」を設置した。検討会は、同年6月4日第1回の検討会の開催以降、以下に述べる各項目について、GEの技術者との討論をも含め合計10回の会合を開催し検討を行い結論を得たものである。


 Ⅲ 8×8型燃料集合体

1. 概要

 本燃料集合体は、低濃縮二酸化ウランペレットをジルカロイー2製の被覆管に入れた燃料棒をスペーサによって8行8列の格子配列に保ち、その外側に上下が開いている正方直筒のチャンネルボックスを取り付けて集合体形状を形成しているものである。

 第1図(略)及び第2図(略)に示されるように8×8型燃料集合体は、従来の7×7型燃料集合体と形状は類似しており、主な変更点として次のものが挙げられる。

(1) 7行7列格子配列(49本燃料棒)から、63本の燃料棒と1本のスペーサ保持用の中空有孔の棒(ウォータロッド)からなる8行8列格子配列になったこと。

(2) 燃料棒の直径が減少したこと。

 本燃料集合体は、炉内支持構造物等を変ることなく、7×7型燃料集合体と代って炉心に装荷することができるようにチャンネルボックスの外寸法、燃料集合体の長さ等は7×7型燃料集合体と同一である。また、上部タイプレートにある取扱用ハンドルの方向、案内バネの位置等によって、向きが間違って炉内に挿入されることのないように配慮されている。

 燃料集合体の内部構造としては、63本の燃料棒のうち、8本の燃料棒が燃料集合体上下のタイプレートを結びつけるタイロッドとなっている。

 本燃料集合体の7個のスペーサは、ほぼ中央に位置する中空有孔のウォータロッドと呼ばれる棒によって保持されている。

 スペーサの構造は、基本的に従来のものと同じで、ウォータロッドには上部及び下部に穴があり、内部を冷却材が通過できるようになっている。

 燃料棒及びウォータロッドは、すべて軸方向に自由伸縮ができるように上下のタイプレートに保持されている。

 第1表(略)に福島第一原子力発電所1号炉に用いられる7×7型と8×8型の両燃料集合体の比較を示す。


2. 設計

 本燃料集合体の設計の考え方は従来の7×7型燃料集合体の場合と基本的に変更はない。

2.1 損傷限界

 本燃料集合体を用いる炉心及びプラントの各系統性能の評価に用いられる通常及び過渡時の燃料の損傷限界は次のものを考えている。

(1) 燃料ペレットと被覆管の変形差によりジルカロイー2製の被覆管に全周伸び平均として1%の周方向塑性歪が生じたとき。

(2) 燃料の冷却が十分でなくなったときで、熱伝達の形態が核沸騰から遷移沸騰への移行が始ったとき。(限界熱流束比(MCHFR)で1となったとき。)
2.2 構造強度設計

 本燃料集合体の構造強度設計は、使用材料、使用温度、圧力条件及び照射効果を考慮して、定常状態及び通常起こり得ると予想される出力変動状態においてもプラントの固有の性質とあいまって、燃料の損傷を起こさないことを条件として、具体的には次の配慮がなされている。

(1) 被覆管にかかる応力は、設計応力強さ限界を超えないこと。

(2) 累積疲労サイクル数は、設計疲労寿命を超えないこと。

(3) 使用中に燃料棒の変形等による過度の寸法変化を生じないこと。

上記のほかⅣ-2構造強度設計についてで述べるように、燃料被覆材の水素脆化、フレッティング腐食等による燃料破損の防止対策も講じられている。

2.3 核・熱設計

 本燃料集合体の核・熱設計は使用条件及び運転条件を考慮して、定常状態及び通常起こり得ると予想される出力変動状態においてもプラントの固有の性質とあいまって燃料の損傷を起こさないことを条件として具体的には次の配慮がなされている。

(1) 炉心が負の出力係数を有すること。

(2) 出力の発散振動及び大幅な持続振動が生じないような特性を有すること。

(3) 構成炉心は、定格出力運転条件下で、目標燃焼度が達成されるに必要な反応度を有すること。

(4) プラントの負荷変動の範囲内で、安定に出力調整ができること。


 Ⅳ 検討内容

1. 損傷限界について

1.1 塑性歪による損傷限界について

 この損傷限界は、GEがこれまで行ったひずみとり焼なまし材の照射後の高温内圧破裂試験の結果に基づいて定められたものである。

 この試験結果によれば、1%の全周平均塑性歪以下で破裂した試験片は実際にはないが、試験結果の統計的分布からは1%以下の全周平均塑性歪であっても破裂する可能性は小さいながらもあることが示されている。しかしながら、8×8型燃料集合体の被覆管に用いられることになっている再結晶焼なまし材の照射後試験結果では、現在のところひずみとり焼なまし材よりも高い内圧破裂伸びを示しており、さらにその伸びのバラツキは小さくなっている。

 これらのことから、燃料の損傷限界として、全周伸び平均として周方向塑性歪1%を選定することは、妥当であると判断する。

1.2 MCHFRによる損傷限界について

 本燃料集合体の限界熱流束を決定するためのヘンチ・レビイの相関式は、従来の7×7型燃料集合体についても用いられてきたものである。

 8×8型燃料集合体の水力直径などの熱水力学的パラメータは、ヘンチ・レビイの相関式の適用可能範囲内にあり、かつ、核沸騰からの遷移では、直ちに被覆管の焼損は生ずることはないと考えられるので、燃料の損傷限界としてMCHFR1.0を選定することは妥当であると判断する。


2. 構造強度設計について

2.1 被覆管にかかる応力について

 本燃料集合体の設計では、ASME Code Section Ⅲに準じて応力を分類した後、第2表に示すような許容応力を設定し、燃料被覆管のスペーサ間、スペーサ部、端栓溶接部等の軸方向及び円周方向にかかる各種の応力を、燃料の寿命の初、中及び末期について求め許容応力と比較して、その健全性を確認する方法をとっているが、この方法は妥当であると判断する。

第2表 許容応力分類表

 なお、燃料の寸法、形状等の限界値及び運転条件を仮定し、さらに若干の裕度を加えて試算した結果、許容応力に対する比率が最大となるのは定常時の寿命末期の内圧支配(被覆管内圧最大、冷却材圧力最小)のスペーサ部被覆管内面であるが、その場合でもその値が1を下まわっていることを確認した。

 なお、燃料の輸送、装荷および照射後の取出し等の燃料の取扱いの際にも十分な強度をもつことを確認した。

2.2 累積疲労サイクルについて

 燃料が原子炉に装荷されてから取り出されるまでの間の出力変動及び圧力変動によって被覆管にかかる繰返し応力は、累積されるものとし、ランガー・オドンネルの許容疲労曲線を用いて検討し、この曲線を上まわらないことによって、被覆管の損傷が生じないこととしている。

 この考え方及び第3表に示される検討に当って、このために特に仮定した運転モードは従来と変っていない。

第3表

 検討に当って、燃料の炉内滞在期間を7年間と仮定し、試算した結果、支配的な運転モードとなるのは第3表の「室温から100%出力」であるが、応力変動量から求めた許容サイクルは1,300回であり、7年間の予想変動数約30回に比して、十分余裕のあることを確認した。

2.3 寸法形状安定性について

 燃料集合体は、異常な寸法形状変化を生じさせないため、次の配慮がなされている。

(1) 燃料被覆管及びチャンネルボックスは製造時の残留応力を除去するための処理を行うこと。

(2) 燃料棒はスペーサによって適当な間隔寸法を保つこと。

(3) スペーサの接触圧は、燃料棒の軸方向の伸縮を拘束しない程度の強さにとどめること。

(4) 燃料棒の熱膨脹及び照射成長による軸方向の伸びは、上部タイプレートを通して自由に逃げられるようにすること。

(5) ウォータロッドと燃料棒の軸方向の熱膨脹と照射成長による伸びの差の問題に対して上記(3)及び(4)により処置する。

 以上のような点から、本燃料集合体の使用中の寸法形状の安定性は保たれるものと判断する。

2.4 被覆材ジルカロイの水素脆化について

 燃料製造時に介入する湿分などの不純物によって被覆管内面に燃焼初期の段階で水素化物が生成して燃料被覆管の損傷をもたらすことが、初期のGEのBWR燃料で発見されたが、その後、被覆管製造時の酸洗処理に注意すること、ペレット充填時の湿分管理を厳重に行うこと、水分と反応しやすいジルコニウム合金のゲッタを燃料棒上部プレナム中に封入すること及び端栓溶接時に真空脱気を行うなどの対策がとられているが、これらは妥当であると判断する。

2.5 フレッティング腐食について

 スペーサと被覆管の接触部に起こるフレッティング腐食は、スペーサの接触圧に関係するが、8×8型燃料集合体での接触圧は、フレッティング腐食が認められていない従来の7×7型燃料集合体と同じ値であり、また8×8型燃料集合体の炉外フレッティング試験の結果も良好なので問題はないものと判断する。

2.6 被覆管のコラプスについて

 従来からGEのBWR燃料の被覆管は、ペレットによる内部からの支持がなくても外圧によって挫屈し、コラプスを起こすことがないように寸法を決めており、これまでの実用燃料体でコラプスの生じた例はない。

 8×8型燃料集合体では、被覆管の挫屈に対する強度はむしろ従来のものより大きくなっており、使用圧力及び温度ともに変っていないので使用中にコラプスを起こすことはないと判断する。

2.7 ペレットの焼きしまりについて

 8×8型燃料集合体に用いられるペレットは、理論密度が約95%のもので製造上焼きしまりによる体積減少の生じにくいように配慮してあるので焼きしまりの対策として妥当であると判断する。

2.8 ペレット-被覆管力学的相互作用(PCMI)について

 過去の燃料破損例の主要な原因は、ジルカロイ被覆管の水素脆化及びPCMIとされている。水素脆化については前述のとおり対策が講じられている。PCMIは、ペレットの変形及び割れによって被覆管に局所的な歪を与え破損の原因となるものと考えられる。この破損を減少させる対策として次のような配慮がなされている。

(1) ペレットの長さ対直径比の減少
(2) チャンファ付きペレットの採用
(3) 延性の大きい再結晶焼なまし被覆管材の採用

 これらの対策は、すでに7×7型燃料集合体で実施されている。また、8×8型燃料集合体の線出力密度が7×7型燃料集合体よりも低下していることはPCMIの減少にも有利にはたらくものと判断する。


3. 核・熱設計について

3.1 反応度係数について

 原子炉固有の反応度係数は、ドップラ係数、減速材ボイド係数及び減速材温度係数に分類される。原子炉の固有の安全性及び自己制御性をもたせるために8×8型燃料集合体においてもこれらの反応度係数を総合した出力係数は常に負となり、プラントの運転特性、動特性等が7×7型燃料集合体で構成されているGEのBWRに比較して顕著な変化を生じさせないように設計されている。この結果得られる反応度係数、実効遅発中性子の割合などの7×7型燃料集合体の場合との若干の相違は、プラント特性に大きな相違を与えることはないと考えられるので出力の発散振動及び大幅な持続振動を与えることはないと判断する。

 8×8型燃料集合体を7×7型燃料集合体と混合使用する場合には、燃料濃縮度、ガドリニア混合比、ガドリニア入り燃料棒の配列が7×7型燃料集合体との共存性、互換性、原子炉の停止余裕等に問題を生じないように配慮することが必要である。

3.2 ウォータロッドの影響

 燃料集合体のほぼ中央に中空有孔のウォータロッドがあるため、ウォータロッドの近傍で若干熱中性子束が凸状となり、出力分布が平坦化され改善される。

 ウォータロッドの上下の孔は、燃料集合体の実効冷却材流量の変化及びウォータロッド内のボイドによる核・熱特性の変化が顕著とならないように配慮されている。


4. 使用実績について

 8×8型燃料集合体の評価に当って、類似の7×7型燃料集合体等のこれまでの実績及びGEが行った各種の開発燃料の照射実績を参考とした。実用燃料及び開発燃料は、第4表に掲げるような範囲で製造及び照射が行われている。

第4表 実用燃料及び開発燃料照射パラメータ

 これらの実績及び8×8型燃料集合体が、米国、スイス及びスウェーデンですでに実用に供されており、特に異常は報告されていないことから8×8型燃料集合体の設計は妥当であると判断する。

 ただし、高燃焼度までの照射実績がないので今後燃焼が遂次進行する先行炉の使用実績を確認し、得られたデータを参考に使用上の配慮がなされることが必要であると考える。


5. 製造時の品質管理について

 1974年春までにGEのウィルミントン工場で製造された8×8型燃料集合体の主要な製造仕様及び製造データを検討した。これらのデータから、従来7×7型燃料集合体の製造技術のある製造工場で8×8型燃料集合体を製造することは特に支障は生じないと判断される。しかし、前述の種々の燃料損傷の減少のための対策の成否は、製造に当っての品質管理に依存するところが大きいので、燃料製造時の品質管理には十分の配慮がなされることが必要であると考える。


 Ⅴ 結論

 BWR新型燃料検討会は、昭和49年末までに得られた知見をもとに、8×8型燃料集合体の検討を行った結果、8×8型燃料集合体の使用については問題はないと思うが、Ⅳ-3、4及び5に述べた留意事項については今後配慮することが必要であると考える。



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