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日本原子力研究所東海研究所の原子炉
の設置変更について(答申)




50原委第286号

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長


 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更について(答申)

 昭和50年3月18日付け50原第2137号(昭和50年6月14日付け50原第5507号で一部補正)で諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。



1 標記に係る許可の申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第26条第4項において準用する第24条第1項各号に掲げる許可の基準のうち第1号、第2号及び第3号については適合しているものと認める。

2 上記許可の基準第4号については,原子炉安全専門審査会による安全性に関する審査結果報告は別添のとおりであり、適合しているものと認める。


(別添)

昭和50年6月16日

原子力委員会
委員長 佐々木義武  殿

                               原子炉安全専門審査会
                                              会長 内田 秀雄

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更に係る安全性について
 当審査会は、昭和50年3月18日付け50原委第110号(昭和50年6月14日付け50原委第279号をもって一部補正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更に関し、同研究所が提出した「日本原子力研究所東海研究所の原子炉設置変更許可申請書」(昭和50年3月11日付け申請、昭和50年6月11日付け一部補正)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 変更の内容

 原子炉施設から放出する放射性気体廃棄物の放出量を少なくするため,JRR-2原子炉施設の気体廃棄物廃棄設備として41Ar減衰ダクトを追加設置する。


Ⅲ 審査内容

1  41Ar減衰ダクトの設置

 JRR-2で発生する主な気体廃棄物は、水平実験孔、気送管等に存在する空気が照射されて生成する41Arである。このうち、水平実験孔系は41Ar生成量の約90%を占めている。
 本変更は、水平実験孔をできる限り気密構造として被照射空気量を減少させるとともに、同系から排気筒へ導く配管の途中に41Ar減衰ダクト(以下「ダクト」という)を設置し、排気筒からの41Ar放出量を減少させるものである。
 ダクトは、耐食アルミニウム合金製の角管をブロック状に組み立てた構造であるため、保守が容易で、かつ故障の恐れも少ない。また、ダクトは十分な強度を有するように設計することはもちろん、耐震性も考慮して設置場所である重水ポンプ室の壁、床に金具で固定することになっている。ダクトは、定期的に漏洩試験を行ない、損傷のないことを確認することになっているが、万一、運転中にダクトが損傷した場合には、ダクトの風量増加、水平実験孔の負圧低下として検知できるので、その際は、原子炉を停止する等の措置を講ずることになっている。
 また、ダクトは遮蔽された重水ポンプ室に設けられるので、同室外側壁におけるダクトからの漏洩線量は無視できる。
 水平実験孔系から生成される41Arは、同系の排気量と41Ar生成率との関係を求めた実験式によると、排気風量を20l/minとした場合には、約1Ci/hとなる。さらに、この系統に実効容量約2.4m3のダクトを設けることにより、同ダクトにおける41Arの減衰時間は約2時間となり、排気筒放出率は、約0.5Ci/hとなる。この排気風量の制御はダクト出口の電動弁を操作して行なう。
 なお、ダクトにはバイパス・ラインが設けられるが、これは、原子炉停止期間中の排気やダクト系の異常時のみ使用することになっている。
 また、このようなダクトの設置を行なっても事故評価は従来と変らない。

2 平常運転時における被ばく線量評価

 本変更に伴なって、JRR-2原子炉施設から放出される放射性物質およびその他の東海研究所原子炉施設から放出される放射性物質による平常運転時の周辺監視区域外における一般公衆の被ばく線量評価を行なった。これら被ばく線量の評価に用いた条件は妥当であり、その結果は、周辺監視区域外の許容被ばく線量を十分下まわっている。

(1)被ばく線量計算の前提条件

1)原子炉施設から放出される気体廃棄物

(ロ)JRR-2
 JRR-2で発生する主な気体廃棄物は41Arであり、本変更により水平実験孔系の41Ar放出率は約0.5Ci/hとなる。その他の被照射空気系の寄与等を考慮すると1日平均放出率は0.8Ci/hである。
 被ばく線量評価に用いる年平均放比率は、原子炉の稼動率を考慮して0.4Ci/hとする。

(ロ)JRR-3
 JRR-3で発生する主な気体廃棄物は同様に41Arである。被ばく線量評価に用いる年平均放出率は0.4Ci/hとする。

(ハ) JRR-4
 JRR-4で発生する主な気体廃棄物も同様に41Arである。被ばく線量評価に用いる年平均放出率は0.003Ci/hとする。

(ニ)JPDR
 JPDRで発生する主な気体廃棄物は、燃料から冷却水中に漏洩する核分裂生成物のうちのクリプトン、キセノン等の希ガスとよう素であり、冷却水および冷却水中の空気が照射されて生ずる窒素、アルゴン等の放射化生成物は排気筒からの放出としては無視できる。
 希ガスおよびよう素の放出経路としては、主復水器系排ガス、タービングランドシール系排ガス、復水器真空ポンプ系排ガスおよびタービン建家、格納容器、廃棄物建家等の換気系排ガスがあり、これらは全て排気筒から放出される。
 被ばく線量評価に用いる放出条件は次のように想定した。

(a)破損燃料からの希ガスの漏洩率は6.7mCi/s(30分減衰値)とし、冷却材中の131Ⅰ濃度は0.029μCi/gとする。

(b)主復水器系排ガス、タービングランドシール系排ガスおよび換気系排ガスは連続的に排気筒から放出されるものとし、放出率は、各放出経路の設計条件、処理設備の性能等を考慮して解析した結果、希ガス1.2CiMeV/h、131I0.036mCi/hである。

(c)復水器真空ポンプ系排ガスは間けつ的に排気筒から放出されるものとし、原子炉の起動停止モードを考慮して希ガスおよび131Ⅰの放出量はそれぞれ1回あたり5.6CiMeV、0.24mCiである。

(ホ) NSRR
 NSRRから発生する主な気体廃棄物は、41Arと実験物解体時に放出される核分裂生成物である。
 被ばく線量評価に用いる年平均放出率は、希ガス35mCiMeV/h、131I0.015mCi/hとする。

(ヘ) その他
 原子炉施設与してTCA(出力200W)、FCA(同2KW)、SHE(同10W)の3基の臨界実験装置と廃棄物処理場があるが、環境への影響は無視できる。

2)原子炉施設から放出される液体廃棄物
 各原子炉施設の液体廃棄物は、各施設の廃液貯槽に集められ、濃度の高低に応じて廃棄物処理場へ送り処理される。
 被ばく線量評価に用いる年間放出量は500mCi(3Hを除く)3H700Ciとする。

(2)平常運転時の被ばく線量評価

1)気体廃棄物中の希ガスによる全身被ばく線量評価
 平常運転時に環境へ放出される希ガスのγ線による全身被ばく線量評価は次の条件を用いて行なった。

(イ) 評価の対象とする原子炉施設はJRR-2、JRR-3、JRR-4、JPDR及びNSRRとし、放出条件は各原子炉施設ごとに前述した年間平均放出率等を用いる。

(ロ)放出は全て排気筒放出であり、放出源高さは排気筒の地上高さ、吹き上げ効果及び排気筒高さと評価地点との高度差を考慮した実効放出高を用いる。

(ハ) 線量評価に用いる気象統計値は、東海研究所気象観測塔における昭和42年~46年の気象データの平均値を用いる。
 以上の条件を用いて計算した結果、周辺監視区域外で全身被ばく線量が最大となる地点はJRR-3排気筒から南西方向約460m(JRR-2排気筒から南西方向約600m)の周辺監視区域境界であり、希ガスのγ線による全身被ばく線量は、約2.3mrem/yである。

2)気体廃棄物中のよう素による甲状腺被ばく線量
 平常運転時に環境に放出されるよう素による甲状線被ばく線量評価は、次の条件を用いて行なった。

(イ)  評価の対象とする原子炉施設は、JPDR及びNSRRとし、放出率は前述した年間平均放出率等を用いる。

(ロ)排気筒高さおよび気象条件は、1)と同様とする。

(ハ) 被ばく経路は呼吸摂取および葉菜摂取とする。
 以上の条件を用いて計算した結果、周辺監視区域外でよう素による甲状腺の被ばく線量が最大となる地点はJPDR排気筒から南西方向約1090m(JRR-2排気筒から南西方向約630m)の周辺監視区域境界付近であり、被ばく線量は小児で約13mrem/yである。

3)液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量液体廃棄物中の放射性物質による被ばく線量評価は次の条件を用いて行なった。

(イ) 対象とする液体廃棄物は、原子炉施設から排出される廃棄物とし、放出量は前述した値を用いる。

(ロ) 放出は同一地点とし、放出率は一定とする。

(ハ)  放出された放射性物質は、放水口を中心に半経のあらゆる方向に均等に拡散するものと仮定し、濃度分布は拡散実験で得られた実験式で与える。

(ニ) 摂取する海産生物は海藻及び魚類、甲殻類、軟体動物と仮定する。海藻は放水口から1kmの地点に生棲するものとし、魚類、甲穀類、軟体動物は半経1km内を回遊するものと仮定する。

(ホ) 海産生物摂取率は海藻40g/d、魚類200g/d甲殻類及び軟体動物それぞれ10g/dと仮定する。濃縮係数は現在報告されているもののうち、妥当と認められる値を用いる。
 以上の条件を用いて計算した結果、東海研究所原子炉施設から放出される液体廃棄物による全身被ばく線量は約0.3mrem/yであると評価される。


Ⅳ 審査経過

 本審査会は昭和50年3月24日第135回審査会において次の委員よりなる第118部会を設置した。
 渡辺 博信(部会長)  放射線医学総合研究所
 竹内 清秀         気象研究所
 浜田 達二         理化学研究所

 当部会は、昭和50年4月16日第1回会合を開催して以来審査を行なってきたが、昭和50年6月16日の部会において部会報告書を決定し、本審査会はこれを受け、同年6月16日第138回審査会において本報告書を決定した。
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