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放射線障害防止対策要綱



 放射性同位元素等の放射線障害の防止に関する法律(以下「障害防止法」という。)が昭和32年6月に制定されて以来約17年を経過したが、近年我が国における放射線利用の進展はめざましく、障害防止法に基づく許可及び届出事業所は年平均14%の割合で増加しており、昭和49年3月31日現在では3,231事業所の多数に至っている。他面、放射線利用の拡大に伴い、これらの事業所における放射線管理上の諸々の不備が漸次指摘されはじめ、特に最近放射性同位元素等に係る紛失、過剰被曝等の事故が相次いで発生し、事業所における安全管理の不徹底が顕在化することとなった。
このような事態に対処するため、科学技術庁としては、先般実施した総点検結果等をふまえ、放射線障害防止に関する抜本的な対策を講じ、公共の安全確保に万全を期することとする。

1.法令遵守確保のための監督指導等の強化に関する対策

(1)障害防止法に基づく許可又は届出にあたっての厳正な審査

 審査の基準を整備して許可又は届出の受理にあたっての審査を厳正に行うとともに、書面による審査を原則としている現行の審査体系を補強して許可等の内容の遵守を確保するため、放射線検査官の増員を図る等により、原則として使用前又は許可後1年以内の検査を実施する。

(2)関係省庁の協力を通じての監督指導の強化

イ 昭和49年5月16日関係省庁との間に放射線障害防止関係省庁連絡会議を設置し、総点検の実施等の対策について協議を行ってきたが、今後、同連絡会議を通じ関係行政の運営等について情報意見の交換等を行い、関係省庁の密接な連携協力のもとに放射線障害の防止に関する監督指導を一層効果的かつ強力に推進する。

ロ 放射線障害の防止に関する関係省庁の監督指導の強化に資するため、関係省庁職員に対する放射線管理に関する専門的研修を拡充強化する。

(3)立入検査の効果的な運用

 放射線検査官による立入検査については、次のように対象事業所の選定、検査項目、検査方式等を改善し、計画的、効果的運用を図る。

イ 通常の立入検査の対象事業所については、業種別、問題別等に重点的に選定しこれら重点的対象事業所の放射線管理の改善について徹底を期する。

ロ 検査項目については、業種別等立入検査対象に即応して問題の多い項目を重点的に検査することにより、立入検査の効率化を図る。

ハ 立入検査の方式については、立入検査の目的、対象事業所の状況等に応じ抜打ち検査方式を活用することとし、平常時における法令の履行状況を的確に把握し、その実態に基づき適切な措置を講ずる。

ニ 立入検査結果を分析し、その後の立入検査、指導等に十分活用する。

(4)障害防止法違反の是正及び行政処分の厳正な運用

 事業所の障害防止法違反に対しては、警告付き是正勧告制度を採用するとともに、行政処分基準を整備して、障害防止法に基づく許可の取消し、一定期間の使用停止等の行政処分の厳正な運用を図る。

2.事業所等の自主的安全活動の促進に関する対策

(1)放射線障害防止のための中央及び地域別組織による自主的安全活動の促進

イ 放射線障害防止の徹底を期するためには、行政官庁の監督指導の強化のみならず、放射性同位元素等を取り扱う事業所における安全管理意識の高揚及び自主的な安全管理の励行に負うところが極めて大であることにかんがみ、各事業所(国の機関についてはロによる。)の所属する各業種別団体等を構成員とする放射線障害防止中央協議会(仮称)を設置し、中央で自主的安全活動の促進を図るとともに、各都道府県レベルで、各都道府県労働基準局が放射線関係事業所を構成員とする放射線障害防止協議会(仮称)を設置する等して自主的な障害防止活動を進めることとしているので、これとの連携をとることにより、自主的安全活動の一層の促進を図る。

ロ 国立の事業所については、本年7月人事院主催により関係17省庁をもって各省庁放射線障害防止対策連絡会議が発足し、同会議を通じて自主的安全活動の促進を図っていく。

(2)放射線取扱主任者の再教育及び効果的活動の確保

イ 各事業所において放射線管理の中核的活動を行うのは放射線取扱主任者であるので、これら放射線取扱主任者等に対して講習会等を開催し、その安全意識の高揚及び知識の向上等を図り、各事業所における安全管理の徹底を期する。

ロ 事業所における放射線取扱主任者の地位が低く、また、その権限も不明確な場合が多いため安全管理に関する効果的活動が妨げられていたきらいがあった。そこで、これらの点について実態を明確に把握し、事業者に対し地位の向上及び職制上、放射線障害予防規定上の権限の明確化について指導し、安全管理に関する効果的活動の確保を図るよう努める。なお、これら取扱主任者の権限と責任に見合う処遇がなされるようその改善策についてもあわせて検討していく。

(3)優良事業所等表彰制度の実施

 放射線障害防止に関する自主的安全活動を促進する施策の一環として、優良事業所等の表彰制度を実施する。

3.特別対策

(1)非破壊検査事業所に対する監督指導の強化

イ 障害防止法第10条第5項による一時的使用を専業とする非破壊検査業務においては、特に線源の管理、放射線作業の安全管理体制等に問題があると考えられるが、これらの検査業務は、請負形式により他事業所構内等で行われている実態にかんがみ、安全の確保については、当該検査の発注者側における認識、検査の発注者、受注者を通じての安全管理の協力体制の確立が極めて重要であるので、発注者側に対しても行政指導を強化する。

ロ また、これらの業務は、使用の場所が変動し、作業現場が多数個所に分れることにかんがみ、作業現場ごとに、放射線取扱主任者又は放射線取扱主任者免状取得者を配置する等の必要性が認められるので、その方向で関係省庁間で検討を行い、指導を行う。

ハ 先般相次いで明らかとなった非破壊検査業務に関連する被曝事故の直接的原因を究明した結果に基づき非破壊検査に使用する線源ホルダーに第三者が見分けやすいよう危険標識を付けるよう関係業者を指導してきたところ、一部に実現をみたところであるが、今後も引き続き障害防止に関し使用機器そのものの安全化につき研究、指導を行う。

(2)医療又は教育機関に対する監督指導の強化

 医療又は教育機関については、放射線管理の全般に多くの問題が見受けられるので、特に関係省庁と連携し、監督指導を強化する。

(3)安全意識向上のための広報活動の強化

 事業所における安全意識の向上等を図るため、各種の機会、方法を利用し、広報活動の強化を図る。
 なお、放射線に関する教育を行う大学、高校等の教員に対し、放射線の安全管理に関する教育の充実に資するための広報活動の強化を図る。

(4)放射線障害防止に関する調査研究の推進

 低線量放射線の人体に及ぼす遺伝的影響の解明等放射線障害防止に関する調査研究を推進し、障害防止の強化に資する。

4.障害防止法の施行体制等の基本的検討

 上記の当面の諸対策等の推進と併行して、先般開始した原子力関係法令制度全般の検討の中で、障害防止法の施行体制、技術的基準その他同法の規制内容等に関して基本的な検討を行うとともに、安全輸送対策、盗難防止対策等についての検討を進める。


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