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日本原子力研究所の原子炉の設置変更
(JRR-4原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和49年4月26日
原子炉・安全専門審査会

昭和49年4月26日
原子力委員会
 委員長 森山 欽司 殿
原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄
日本原子力研究所東海研究所の原子炉設置変更(JRR-4原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和48年12月4日付け48原委第740号(昭和49年4月26日付原委第116号をもつて一部訂正)をもって審査を求められた、標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉設置変更(JRR-4原子炉施設の変更)に関し、同研究所が提出した「日本原子力研究所東海研究所原子炉設置変更許可申請書(JRR-4原子炉施設の変更)」(昭和48年11月20日付け申請、昭和49年4月24日付け一部訂正)にもとずき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 変更内容

1 使用の目的(従来は、「一般研究、開発研究、材料照射、教育訓練」)に「放射性同位元素の生産」を追加する。

2 原子炉の熱出力(従来は「2,500kW」)を「3,500kW」にし、これに伴ない、次の変更を行なう。

(1)原子炉容器の最高使用温度:60℃(従来は55℃)

(2)一次冷却機炉心出口温度最大値:60℃(従来は55℃)

(3)一次冷却系主循環ポンプ基数:3基(従来は2基)

3 最高燃焼度(従来は「燃焼要素平均の最大値:15%)を「燃料要素平均の最大値:20%」に変更する。

4 炉の起動条件のひとつとして、「後備安全棒(B1、B2)が上限にある」ことを追加し、この条件が満足されなければ起動できないようインターロック回路を設ける。

Ⅲ 審査内容

1 使用目的の変更に関する事項

 JRR-4にはすでに材料照射用の照射筒が設けられている。本変更は、これらの照射筒を放射性同位元素(以下「RI」という)生産のための照射にも使用しようとするものである。JRR-4で材料照射を行なう際には、照射試料の等価反応度最高値を0.5%△k/kに制限する等、安全上の制限条件が定められているが、RI生産のための照射を行なう場合にもこれらの制限条件を適用することとしている。
 また、東海研究所は、すでにJRR-2、JRR-3においてRI生産のための照射を行ない、RI製造、輸送等も含め十分な設備、組織および経験を有しており、JRR-4において照射したのちはこれらの設備および組織によってRIが生産されることになっている。
 したがって、JRR-4においてRI生産のための照射を行なっても安全上支障の生ずるおそれはないと判断する。

2 原子炉の熱出力を3,500kWに変更する事項

 JRR-4は、軽水減速、軽水冷却のスイミングプール型研究用原子炉である。燃料には、「ETR型」といわれている高濃縮ウラン(U-235濃縮度:90~93W/O)とアルミニウムの合金をアルミニウムで被覆した、板状のものが用いられている。

(1)最大熱出力の変更にともない中性子束最高値は従来の値の1.4倍に増加するが、炉心構成および核的制限値(最大過剰反応度:8%△k/k、粗調整安全棒全体の反応度抑制効果最小値:14%△k/k等)に変更はない。
 最大熱出力を3,500kWに上昇させるにあたり、炉心の冷却能力を増強させるため、一次系主循環ポンプを2基から3基に増加し、一次冷却材流量を5.4m3/minから7.0m3/minに増大させる。
 これらをもとにして燃料の熱的安全性を検討した。
熱計算にあたっては、最もきびしい条件である16体燃料炉心(新燃料のみによる最小炉心)および一次冷却水炉心出口温度60℃(原子炉スクラム設定温度)を用いた。
 その結果、燃料被覆表面最高温度は110℃で、JRR-4燃料板表面における冷却水の沸点である117%に達せず燃料の冷却に支障の生ずるおそれはない。

(2)一次冷却系冷却材流量の増加に伴なう振動の発生については、現在までの運転経験および流動試験から特に問題はないと考えられるが、3,500KW運転に先立ち流動試験を行ない異常のないことを確認することとしている。

(3)管理区域内の空間線量率が熱出力に比例して増加するものとした場合、運転時の人の立ち入りを禁止した場所を除いてエリアモニタによる空間線量率が最大となる個所はリド、タンク内であってその値は60mrem/h、程度と推定される。この値は十分管理し得る量である。
 また、具体的な従業員の放射線管理については、「東海研究所放射線管理規程」を定めて管理しており、放射線管理上特に問題となることはないと判断する。

(4)熱出力増加にともない配慮すべき事項として反応度事故評価を行なった。評価にあたっては、原子炉起動事故、高出力運転時の制御棒引抜き事故等における最大の反応度(ランプ状反応度外乱として1.5%△k/k/min、ステップ状反応度外乱として05%△k/k)を印加し、熱出力が4,400KWに達したときスクラムするものとして、解析を行ない安全性を検討した。
 その結果、燃料被覆表面の温度が最高となるのは熱出力3,500KW運転時に0.5%△k/kの反応度がステップ状に挿入された場合であって、このときの燃料被覆温度は最高の個所で135℃となる。この個所の熱流束は5.7×155Kca1/m2・hであって限界熱流束6.5×106Kcal/m2・hに対して十分低い値であり、燃料の破損を生ずるまでにはいたらない。

3 燃料要素の平均燃焼度最大値を20%とする事項

 本変更は、今回の最大熱出力増大にともない、JRR-4を効率よく運用するため最高燃焼度を15%から20%に増加しようとするものである。
 ETR型燃料およびこれとほぼ同様にウラン・アルミ合金板で構成されるMTR型燃料の照射実験によると燃焼度60~70%が使用限界とされており、これより低い燃焼度では、アルミニウム被覆に対し、クラツク発生、ブリスタ発生等の照射損傷は問題とならないとされている。
 JRR-4燃料と同様のこれらETR型、MTR型燃料は、いずれも国外および国内における研究炉または材料試験炉等の燃料に用いられており、最高燃焼度で30%~40%の使用実績を有している。
 したがって、JRR-4燃料の燃焼度を20%に増加しても燃料の健全性が損なわれることはないと判断する。

4 炉の起動条件の追加に関する事項

 後備安全棒は運転中常に動作可能なよう炉心の上限に引上げられているべきものであって、従来は起動前点検により上限にあることを確認していた。
 本変更は、さらに安全を期するため、この条件を起動インターロック回路に追加しようとするものであり、この変更によって炉の安全性が損なわれることはない。

5 平常時被ばく評価

(1)気体廃棄物
 JRR-4から排出される気体廃棄物としては、実験孔等で空気の照射により生ずる。41Arが大部分である。
 出力増加に伴い、気体廃棄物による周辺監視区域外における被ばく評価を行なった。
 その結果、過去の実績をもとに十分な安全余裕をもって解折しても、γ線による全身被ばく線量が最大となる地点は排気筒の南西300mであって、その地点における被ばく線量は約0.03m rem/yである。この値は、東海研究所の他の原子炉施設から放出される気体廃棄物によるγ線による最大全身被ばく線量約10mrem/yに対して無視し得る程度である。

(2)液体廃棄物
 液体廃棄物としては、プール排水、原子炉ドレン研究管理建家ドレンおよび実験による高放射性廃液がある。これらのうち高放射廃液は廃棄物処理場に送り処理し、その他の廃棄物は必要に応じて減衰、希釈または精製を行なったのち、一般排水溝出口における放射性物質の濃度が法令に定める基準値以下になるように管理することとしている。
 JRR-4における放出実績をもとに、出力増加に比例して放射性廃棄物の放出量が増加するとして
も、年間、2mCi程度の増加と推定される。この値は東海研究所の原子炉施設から放出される放射性廃棄物の総量200mci(トリチウムを除く)に対して無視し得る程度である。

6 災害評価

 本原子炉施設は、各種の安全対策が講じられており、昭和40年以降現在にいたるまで安全に運転されてきている。熱出力の増加にともなう事故評価では、2一(3)でのべたように燃料の健全性が損なわれないことを確認しているが、炉心の燃料板1枚が完全に破損して内蔵されている核分裂生成物の全量が炉心タンク水中に放出される事故を想定し災害評価を行なった。この評価にあたっては、次の条件のもとに解析を行ない安全性を検討した。

(1)核分裂生成物の内蔵量は、3,500KW長時間運転して飽和した状態のものとする。

(2)炉心タンク水に放出されたよう素の10%は、有機よう素になるものとし、炉心タンク水から炉室内空気中に放出される核分裂生成物の量は、希ガス100%、有機よう素100%のみとする。

(3)炉室空気中の希ガスおよび有機よう素は、排気系フイルターの捕集効果等を考慮せず、すべて排気筒(地上高20m)から大気中に放出されるものとする。

(4)事故時の被ばく線量の解析にあたって、有効拡散風速2m/sおよび非居住区域外で被ばく線量が最大となる大気安定度を設定した場合と放出高に逆転層が存在する場合を用いた。

(5)排気筒からの吹き出し効果は考慮しない。
 これらの条件をもとに解析した結果、非居住区域外において被ばく線量が最大となるのは原子炉から南方200mの地点であって、その地点における被ばく線量は、甲状線(成人)に対して約27.9remおよび全身に対してγ線約0.02rem(β線約0.23rem)である。
 全身被ばく線量の積算値を求めるにあたり、気象条件としては大気安定度をF型、有効拡散風速を2m/sおよび拡散方向を最も人口密度の高い方向とし、半径300kmの範囲で解析した。
 その結果は、昭和48年現在の人口に対して約1,900man-rem、昭和60年の推定人口に対して約2,400man-remでありいずれも「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量のめやすとしてしめされている200万man-remよりはるかに低い値である。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和48年12月5日第120回審査会において、次の委員よりなる第106部会を設置した。

審査委員
安藤良夫(部会長) 東京大学
吹田徳雄 大阪大学
浜田達二 理化学研究所

調査委員
秋山守 東京大学

 当部会は、昭和48年12月25日第1回会合を開催して以来審査を行なってきたが昭和49年4月26日の部会において部会報告書を決定し、昭和49年4月26日の第125回審査会において本報告書を決定した。


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