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福島第二原子力発電所原子炉の設置に係る公聴会陳述意見に対する検討結果説明書


昭和49年4月27日
原子力委員会


はじめに

 原子力委員会は、東京電力株式会社福島第二原子力発電所原子炉の設置に係る公聴会を昭和48年9月18日及び19日、福島市において開催した。
 この公聴会において陳述された意見のうち、原子炉に係る安全性に関するものは原子炉安全専門審査会に伝達しその審査に反映させるとともに、関係行政機関、福島県、東京電力株式会社に係るものは、それぞれに検討を依頼するなどの措置を講じた。
 原子力委員会が内閣総理大臣に対する答申を行うに際しては、これらの各機関の検討結果を踏まえつつ、慎重な検討を行った。
 この説明書はこれらの検討結果をとりまとめたものであり、あわせて、必要な事項につき原子力委員会の見解を示したものである。

昭和49年4月27日
原子力委員会

目次

Ⅰ 総論

1 原子力委員会と原子力行政

(1)原子力基本法と原子力委員会の役割
(2)原子炉の設置許可と原子力委員会
(3)原子力発電所の設置に係る国の審査と規制
(4)安全審査とそのあり方
(5)安全審査と資料公開

2 原子力発電に対する基本的考え方

(1)エネルギー供給に占める原子力発電の重要性
(2)原子力発電と安全性の確保

3 福島第二原子力発電所原子炉の設置に係る公聴会の開催

(1)公聴会の開催経緯
(2)公聴会の経過

Ⅱ 原子力発電の安全性

1 はじめに

2 放射線に対する配慮

(1)放射線と人間
(2)放射線管理に対する基本的考え方
(3)放射線管理の具体的措置
(4)原子力発電所周辺における放射能監視
(5)従事者の被曝管理

3 工学的安全性

(1)原子力発電所の仕組み
(2)非常用炉心冷却設備(ECCS)の信頼性
(3)燃料の安全性
(4)制御棒及び制御棒駆動設備の信頼性
(5)圧力バウンダリの健全性
(6)耐震性等

4 集中化及び大型化

(1)集中化
(2)大型化

5 安全研究

(1)安全研究の推進の基本的考え方
(2)安全研究の現状と今後の計画

Ⅲ 使用済燃料の再処理等

1 使用済燃料の再処理
2 固体廃棄物の最終処分
3 廃炉対策

Ⅳ 温排水の環境に対する影響

1 温排水問題について

2 温排水に関する調査研究

(1)我が国における調査研究状況
(2)当地点周辺海域に関する調査研究

3 当海域における温排水による影響

(1)温排水の拡散予測
(2)海産生物について

4 モニタリング計画

V 原子力発電所の建設と地域開発

1 地域開発との調和に対する配慮

2 地場産業に対する影響

3 地域開発への寄与

4 電源開発促進対策特別会計の創設等による電源開発促進対策

5 電気料金に格差を設けることについて

Ⅵ 公聴会、原子力に関する知識の普及

1 公聴会

(1)開催の時期
(2)意見陳述者の範囲
(3)意見陳述者の指定
(4)公聴会の運営

2 原子力に関する知識の普及

(1)国民に対する知識の普及
(2)原子力に関する学校教育

Ⅶ 地方公共団体への意見に対する福島県の見解

1 原子力発電所の設置に係る県の基本的な姿勢

2 地方公共団体としての安全確保体制

(1)原子力発電所の安全確保に関する協定
(2)県の原子力行政の強化
(3)環境放射能の監視

3 原子力発電所の設置と住民の福祉

(1)発電所の地元への寄与
(2)双葉地域開発基本構想

4 淡水取水による影響

(1)魚族及び河口ヘの影響
(2)生活用水、農業用水への影響

5 防波堤築造に伴う付近の海岸等への影響

6 原子力発電所についての知識の普及

Ⅷ 原子炉設置許可申請者への意見に対する東京電力株式会社の見解

1 原子力発電所の建設に対する考え方

2 安全の確保

(1)放射性物質の排出の抑制
(2)放射能の監視
(3)安全管理

3 地域への配慮

(1)地域の福祉
(2)地元出身者の雇用
(3)施設等の地元利用
(4)淡水取水による影響
(5)防波堤の築造による影響
(6)環境の保全及び交通の安全

4 原子力発電に関する正しい知識の普及

Ⅰ 総論

1 原子力委員会と原子力行政

(1)原子力基本法と原子力委員会の役割

ア 世界で初めて原子爆弾の被爆国となった我が国では原子力の研究、開発、利用の推進に本格的に着手するに先立って、昭和30年に原子力基本法が制定され、その後一貫して同法の精神に基づいて原子力の研究、開発、利用が進められてきた。
 すなわち、原子力基本法は、原子力の平和利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、人類社会の福祉と国民生活の水準向上に寄与することを目的とする(同法1条)とともに、原子力の研究、開発、利用が平和の目的に限る旨明言し、同時にこれを確保するためにも、原子力の研究、開発、利用が民主的な運営のもとに自主的に行われ、及びその成果が公開されるべきことを基本方針としてうたっており(同法2条)、原子力の研究、開発、利用に関する基本的な態度を明らかにしているのである。

イ ところで、原子力委員会は上述の基本方針にのっとり、原子力の研究、開発、利用に関する行政の民主的な運営を図るため、原子力委員会設置法に基づいて設置されている。
 このため、原子力委員会は、科学技術庁長官たる国務大臣をもって充てられる委員長及び両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命される委員6名から組織されており、原子力の研究、開発、利用に関する政策、関係行政機関の事務の総合調整、原子炉に関する規制、試験研究の助成、障害防止の基本的事項等原子力の研究、開発、利用に関する重要事項について企画し、審議し、及び決定することをその役割としている(同法2条、6~8条)。
 又、内閣総理大臣は、原子力委員会の決定を尊重しなければならないこととされており(同法3条)、更に、関係各省庁に対し、原子力の研究、開発、利用に関する重要事項について勧告したり、その協力を求めたりすることができることとされているのである(同法4,5条)。

(2)原子炉の設置許可と原子力委員会

ア 原子炉の設置に当たっては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)により内閣総理大臣の許可を受けなければならないが、これは、原子力の平和利用が具体的、計画的に推進されるよう、その前提となる安全性を確保するなどのために行われている。

イ ところで、内閣総理大臣は、許可に際しては、許可の基準の適用について、あらかじめ、原子力委員会に諮問し、その意見を尊重しなければならないこととされている(同法24条2項)。
 原子力委員会は、許可の基準の適用について諮問を受けた場合、原子炉に係る安全性に関する事項については、原子力委員会設置法14条の2に基づき原子力委員会のもとに設置されている原子炉安全専門審査会(以下「審査会」という。)に対し、調査審議をすべき旨を指示する。審査会は、原子力に関する専門的な分野はもちろん、地震、気象、その他広い範囲にわたる専門家によって構成される審査機関であり、原子炉施設の設計の安全性、平常運転時の被曝評価、事故時における周辺住民の安全性等原子炉に係る安全性について調査審議を行い、その審査の結果を原子力委員会に報告する。
 原子力委員会は、この報告を踏まえ、更に、平和の目的以外に利用されるおそれはないか、原子力の開発利用の計画的遂行に支障を及ぼすおそれがないかなどについて判断し、問題がないと認めた場合に初めて、当該原子炉の設置は原子炉等規制法24条1項各号に掲げる許可の基準に適合している旨の答申をする(なお、温排水等の環境問題は、原子炉等規制法23条に基づく許可に際しての審査事項ではないから、原子力委員会としては独自の調査審議を行ってはいないが、原子力委員会においては、答申等を行うに際して、これらの事項についても、適宜、関係行政機関の検討結果の報告がなされている。)
 このように、原子力利用に関する行政の民主的運営の確保という任務を持つ原子力委員会としては、この任務を深く認識し、十分な審議に基づいて答申を行ってきているのである。

(3)原子力発電所の設置に係る国の審査と規制

 以上のように、原子力発電所の原子炉の設置許可に際しては、原子力委員会によって、安全性のほか、平和利用の担保、開発利用の計画的遂行等幅広い視点から審査が行われるのであるが、審査の総合性に関する疑問に答えるため、原子力発電所についての国の審査、規制が全体としてどのようになされているかについて述べることとする。

ア 原子力発電所の設置について、国が最初に方針を決めるのは、電源開発促進法に基づいて行う電源開発基本計画の策定である。
 電源開発基本計画は、国土の総合的な開発、利用及び保全、電力の需給その他電源開発の円滑な実施を図るため必要な事項を考慮し、関係各大臣及び学識経験者から構成される電源開発調整審議会の議を経て、必要に応じて関係都道府県知事の意見を聞きながら、決定されるものである。原子力発電所の設置についても、まず、上記のような広い観点から検討された結果妥当なものと認められ、電源開発基本計画に組み入れられなければならないのである。

イ ところで、原子力発電所は、電源開発基本計画に組み入れられることによって直ちに設置が可能となるものではなく、次に述べるような各般の審査、規
制がなされることにより、初めて、具体的に設置が認められることになるのである。
 さて、原子力発電所の設置には、原子炉の設置という面と電気工作物の設置という面との両面があるため、その設置に当たっては、原子炉等規制法及び電気事業法に基づき、それぞれの厳重な審査を受ける必要がある。
 すなわち、原子力発電所の設置に当たっては、原子炉の設置に関し原子炉等規制法に基づき、先に述べたような原子力委員会の厳正な審査を受け、更に内閣総理大臣によって原子力委員会の意見が尊重される一方、淡水取水等も含め原子力発電所の建設の実現可能性についても審査が行われ、総合的な検討を経て具体的な判断がなされる。
 一方、電気事業法に基づき、公害の防止、公共の安全確保等の観点から環境に対する影響、電気工作物の安全性等が審査される。通商産業大臣は温排水の影響等環境問題については環境審査顧問の意見を十分に聞いて検討を行うこととしており、又、設備の安全性については、原子炉施設のほか、送電設備、変電設備についても、必要に応じ、諮問機関たる原子力発電技術顧問会の検討を経て、公共の安全確保上問題がないかどうかを審査することとしている。

ウ 更に、国の審査、規制は原子炉設置の許可の段階にとどまるのではなく、設置許可後も原子炉等規制法、電気事業法に基づき段階的に審査、規制等が行われる。
 すなわち、設置許可を受けた後、通商産業大臣の工事計画についての審査、認可を受けて初めて工事に着手できる。又、工事着手後においても、工事の工程ごとに検査を受け、認可どおり安全に製作又は建設がなされているかどうかの確認が行われる。
 又、運転開始に当たっては、原子炉設置者による運転計画の届出が義務づけられているとともに、安全運転上必要な事項を定めた保安規定を作成し、原子炉等規制法に基づき審査、認可を受けなげればならない。保安規定には、運転、点検の具体的方法、運転者の職務及び組織、放射能の監視方法、廃棄物の処理方法、非常時にとるベき措置等必要な事項が規定され、原子炉設置者は、この保安規定に従って運転をしなければならない。
 更に、運転開始後においても、定期検査や立入検査等によって、設備の安全性、安全運転体制等についてチエックがなされ、又、安全確保上特に必要がある場合には、施設の修理、改造、運転の停止を命ずることができるとともに設置の許可も取り消し得る。

エ 以上のように、原子力発電所については、原子力委員会における安全性の審査等のほか、関係行政機関によって環境に対する影響、原子力発電所全体の安全性淡水取水等を含めた発電所建設の実施の可能性等、各般にわたる審査が行われるのであるが、原子力委員会としては、原子力委員会が諮問を受けない事項についても積極的に関心を持ち、例えば温排水の影響等の環境問題については、関係行政機関の検討結果についての報告を受けるとともに、原子力委員会のもとにおかれている環境問題専門委員の意見をも徴することとしているのである。

(4)安全審査とそのあり方

 以上のように原子力発電所の設置に当たっては、各般にわたる審査が行われ、問題がない場合に初めてその設置が許可されるのであるが、その審査のかなめとなるのは審査会における安全審査である。
 これについては、自主性が欠如し、審査が形式化しているのではないかとの疑問が提起されたことにも鑑み、安全審査の状況等について述べることとする。

ア 審査会は原子炉の安全性の確保の重要性等に鑑み、原子炉に係る安全性に関する事項を専門的立場から調査審議するため、原子力委員会のもとに設置されている審査機関である。
 すなわち、審査会は、原子力に関する専門家のほか、機械、建築、地質、地震、気象等の広範な関係分野に関する専門家から構成されており、その運営は、外部からの指示等によって拘束されることなく審査会の自主性に委ねられており、そこにおける安全審査は、各委員の専門的知識に基づき自由闊達な討議のもとに慎重に行われる。

イ 審査の方法を具体的に述べると、審査会は原子力委員会委員長から調査審議の指示を受けると、当該案件について専門的に調査審議をするための部会を設置し審査を行うのであるが、適宜、審査会において総合的検討が行われる。このようにして各施設の設計の安全性、平常運転時の被曝評価、万一事故が起こった場合にも周辺住民の安全性が確保されるかなど、原子炉に係る安全性について、専門的立場から慎重な審査が行われる。

ウ このような安全審査について、安全審査に関連する諸基準、データ、情報等をアメリカや申請者に依存しており、自主性のない形骸化した審査になって
いるとの批判が一部にあったが、この批判は安全審査の実態からみれば的を射ていない。
 すなわち、周知のとおり現在我が国の原子力発電において最も多く用いられている軽水炉はアメリカで開発されたものであり、豊富な建設運転実績を有すること等から、アメリカに各種資料が豊富に存するのであるが、原子力委員会としては、これらの資料を広く採り入れ、安全審査に活用することは、何ら安全審査の自主性を損ったり、その形骸化をもたらしたりするものではないと考えており、実りある安全審査に大いに資するものとして積極的に推進している。
 もちろん、これらの資料の取扱いは無差別に行われているのではなく、審査委員の専門的知識や経験に基づいて価値判断がなされているのであり、又、アメリカの資料のみに依存しているわけでなく、我が国やアメリカ以外の国における経験や研究成果等による知見が安全審査に活用されていることはいうまでもない。
 一方、申請者から提出された資料についても、同様に、その価値判断が審査委員の専門的知識と経験とに基づいて行われていることはいうまでもなく、必要に応じ、審査委員の考え方に従って解析のやり直しを行うなどしており、審査会としての自主的判断に基づいて審査がなされている。
 更に、安全審査において、拠るべき基準とされている原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて(昭和39年5月27日原子力委員会決定)、軽水炉についての安全設計に関する審査指針(昭和45年4月23日原子力委員会決定)、原子炉安全解析のための気象の手引(昭和40年11月11日原子力委員会決定)は原子力委員会に設けられた動力炉安全基準専門部会等において広範囲な資料をもとに多数の専門家によって長期間にわたる審議を経て決定されたものなのである。

エ 以上のような安全審査の重要性に鑑み、原子力委員会としても、その体制の充実、強化のため鋭意努力してきたところであるが、昭和49年度からは、安全審査の事務局体制の強化、データ、情報の一層の充実化等が実現される運びとなった。
 原子力委員会としては、今後とも、安全審査の一層の充実強化に万全の努力を払う考えである。

(5)安全審査と資料公開

ア 原子力の利用に関する国民の理解と協力とを得ることの重要性に鑑み、これに資するため、昭和48年度から安全審査に関連する原子炉設置許可申請書、同添付書類、安全審査報告書等のほか、原子力委員会月報、原子力開発利用長期計画等の資料を科学技術庁の公開資料室に備え、一般の縦覧の用に供しているところであるが、今後ともその一層の充実強化に努める考えである。

イ ところで原子力基本法に規定する、いわゆる「公開の原則」について述べると、同法は、原子力の研究、開発及び利用の「成果を公開」することを原子力の研究、開発及び利用に関する基本方針の一つとしているが、同法がこのような基本方針をうたっているのは、研究開発利用の成果の公開が、研究開発利用の効率的促進、平和利用の担保、国際協力の推進に資するものであって、原子力の平和利用を通じての人類社会の福祉と国民生活の水準向上という同法の目的を達成するうえで重要な事柄であると考えているからなのである。
 従って、同法における「成果の公開」という基本方針は、具体的な個々の資料をすべて公開すべきことを要請しているものではない。
 いかなる資料等をも一切公開することは、場合によっては本来の目的たる研究開発の効率的促進、原子力行政の民主的運営の趣旨に沿わなくなることさえあり得ることに十分留意する必要がある。
 すなわち、例えば、審査過程における委員の発言の公表等は、むしろ自由な発言を妨げ、厳正な審査を阻害するおそれがあり、又、ノウ・ハウ等の保護に留意しない一切の資料の公開は、原子力の研究開発の推進を妨げる場合もあり得るのである。

ウ 以上のような事情にも十分配慮を払う必要があるが、原子力委員会としては、原子力基本法の精神に沿って、今後とも資料の公開に努めていくこととしているのである。

2 原子力発電に対する基本的考え方

(1)エネルギー供給に占める原子力発電の重要性

ア 原子力の研究、開発、利用の推進の目的は、原子力基本法にうたわれているように、将来におけるエネルギー資源を確保することによって、人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することにある。原子力発電はこの趣旨に沿うものとして世界の多くの科学者や技術者のたゆまぬ研究、開発の努力によって1954年(昭和29年)初めて実用化されて
以来、着々とその地歩を固めてきたのであるが、今後は、そのエネルギー供給に占める重要性がとみに増大するものと予想される。

イ 我が国がより充実した豊かな国民生活を実現し、又、着実な経済発展を達成するためには、それに必要なエネルギー供給、特にその中で重要な地位を占める電力の供給を確保することは、不可欠な前提条件である。
 すなわち、電力は、その利用方法の容易性、利用範囲の広範性、高い安全性等のため、産業用のみならず、照明用、暖冷房用、交通輸送用、医療用等日常生活に不可欠なものであり、今後国民生活のより一層の充実を図っていくためには、必要な電力を安定的に供給しなければならない。

ウ しかしながら、周知のとおり化石燃料の世界的な確保難と価格高騰により、化石燃料に大きく依存してきた我が国の電力供給は、大きな危機にさらされている。
 もちろん、電力源としては、化石燃料のほかに、水力、太陽熱等も考えられるが、水力は今後開発の余地があまりなく、又、太陽熱利用も本格的な実用化が可能となるのは、相当将来のことである。このような状況のもとでは、十分な安全性の確認のうえ実用化され、又、燃料の確保と供給とが比較的容易である原子力発電への依存を高めていかざるを得ない。

エ 今後の電力需要をみると、たとえ産業需要については、省資源・省エネルギー型産業構造への転換が進められていくにしても、国民生活の高度化に伴い将来ともますます増大していくものと考えられる。
 しかも、、この電力需要に対応するためには、前述のように原子力への依存を高める必要があり、原子力委員会は、昭和60年度においては、全発電設備容量の約4分の1を占める6,000万KWを原子力発電に依存するとの計画を立てているのである。

(2)原子力発電と安全性の確保

ア 以上のように、原子力発電の重要性はますます増大しているのであるが、これに関連して原子力委員会の安全性確保に対する基本的態度について触れることとする。
 原子力発電の推進に当たっては、原子力発電が、その原子炉の中において多量の放射性物質を発生させるという、いわば潜在的な危険性を持っているが故に、この潜在的危険性を顕在化させないため、発生する放射性物質を確実に管理することが絶対的な要請であるということを忘れてはならない。
 更に我が国の場合、最初の原爆の被爆国となった悲惨な経験があるため、国民感情として、原子力の平和利用に対する厳粛な祈願と放射能の不安の除去への希望とがひときわ強いということにも十分配慮する必要がある。
 原子力委員会は、このような原子力発電の潜在的危険性と、安全性に対する国民感情とを常に念頭におき、これまで一貫して安全確保を第一としてきたのであり、今後ともこの基本的方針は、何ら変わることがない。原子力委員会としては、原子力発電の必要性が強まり、その速やかな推進が望まれる今日においても、常に、先に述べた原子力利用の推進の原点に立って、より一層安全性の確保に努めていく考えなのである。

イ このような考え方に基づき、原子力委員会としては、原子力発電の推進の必要性が高まっている現時点においてこそ安全確保に一層力を入れる必要があるものと考え、かねて安全確保対策の重要性を関係当局に具申してきたところであるが、政府その他の積極的な協力と理解とを得、昭和49年度から安全審査体制の強化と安全研究の飛躍的増大が図られることとなった。
 今後とも、関係行政機関、原子炉設置者等によるより一層の積極的な努力を得て、安全性の確保について、更に万全を期していきたいと考えているのである。

3 福島第二原子力発電所原子炉の設置に係る公聴会の開催

(1)公聴会の開催経緯

ア 原子力発電推進の気運が高まるにつれて、昭和46年から47年にかけて各電力会社から相次いで発電用原子炉の設置許可の申請が出された。原子力委員会は、これらの申請に関する内閣総理大臣の諮問に対する答申を行うに当たっては、常に厳正中立な態度をもってのぞんできた。
 しかしながら、地元住民等から、原子炉の安全性、環境保全、地域開発等について地元住民の生の意見を聞きこれを反映させるべきであるとの要請がとみに高まってきた。
 原子力委員会としては、これまでも、原子炉設置について諮問を受けた場合、地元の意向に対してで
きる限りの配慮をしてきたのであるが、上記のような強い要請もあり、又、原子力利用の推進に当たっては、地元住民の理解と協力とを得ることが特に重要であることに鑑み、福島第二原子力発電所原子炉の設置に関連して公聴会を開催することとした。

イ 開催に先立って、原子力委員会は、昭和48年5月22日、原子炉の設置に係る公聴会開催要領を、同年7月24日、その実施細則を、それぞれ決定した。その主な内容は次のとおりである。

(ア)公聴会開催の場合
 原子力委員会は、原子炉等規制法24条2項に基づき原子炉設置の許可の基準の適用について諮問を受けた場合であって必要と認めるときは、当該諮問事項に関し公聴会を開催するものとする。
(イ)意見陳述者
 意見陳述者は、地元利害関係者とする。
 意見陳述者は、意見陳述希望者の中から陳述意見の内容が一方にかたよることのないよう原子力委員会が指定するものとする。
(ウ)公聴会の公開性及び公示
 公聴会は原則として公開とする。
 公聴会の開催を決定したときは、遅帯なく公聴会の件名、日時等を公示するものとする。
 事案に係る設置許可申請書等関係資料は広く縦覧の用に供するものとする。
(エ)公聴会開催後の措置
 公聴会で陳述された意見については、遅滞なく、安全性に関するものは審査会に伝達してその審査に反映させるとともに、その他の意見についても関係行政機関に検討を依頼するなど所要の措置を講じるものとし、更に、陳述された意見に対する原子力委員会としての検討結果説明書を作成して内閣総理大臣に答申を行うときに公表するものとする。

ウ ところで、福島第二原子力発電所原子炉については、昭和47年8月28日東京電力株式会社から内閣総理大臣に対して設置許可の申請がなされ、同年9月7日、原子力委員会は、内閣総理大臣から当該申請が許可基準に適合しているか否かについて諮問を受けた。
 原子力委員会は、同月7日、審査会に対して、当該申請の原子炉に係る安全性について調査審議するよう指示し、審査会は、当該事項を調査審議するため、同月16日、審査会の中に第92部会を設置し、以後その安全性について調査審議を行ってきた。

エ そして、本件原子炉の電気出力の大きさ等を勘案し、原子力委員会は、昭和48年8月1日、福島第二原子力発電所原子炉の設置について、昭和48年9日18月及び19日、福島市において公聴会を開催する、意見陳述希望者は、住所、氏名、利害関係の内容等を届け出るべき旨の告示を行ったのである。

(2)公聴会の経過

ア 今回の公聴会の経過は次のとおりである。
 まず、意見陳述者については、陳述希望者が1,404人に達したが、原子力委員会は厳正かつ慎重に検討した結果、地元の各界各層を代表すると考えられる者42人を意見陳述者として指定した。
 又、傍聴者は、希望者が15,985人に及んだが、会場の都合等もあって、18日及び19日について、それぞれ210人ずつ、合計420人に限定することとし、厳正な抽選によって選んだ。
 なお、関係行政機関、関係地方公共団体等の職員等も傍聴できるようにした。

イ 公聴会においては、各意見陳述者から、原子力の安全性、環境問題、地域開発、地元住民への知識の普及等について、卒直かつ熱心に意見が述べられたので、原子力委員会としては、地元住民の生の声を十分に聴取することができ、非常に有意義であったと考えている。今後とも今回の公聴会を契機に提起された意見、要望等を十分踏まえつつ、原子力利用に関する国民の理解と協力とを得るため、積極的に努力する考えである。

Ⅱ 原子力発電の安全性

1 はじめに

 原子力発電所の設置に当たっては、何よりも安全確保を優先する方針で進められてきており、その安全対策は、まず第一に、事故を起こさないで安全に原子炉の平常運転が継続できること、そして第二に、仮に事故が起こったとしても、その事故による影響を最小限にくい止め一般公衆には被害を及ぼさないことの二つを基本的な方針として、他の産業には例をみない入念な配慮のもとに行われてきている。
 このため、具体的には、原子炉に関する安全の問題を多面的に把え、いろいろな角度から安全を確認することによって、全体としての安全を確認するという多重防護の考え方がとられてきた。

 すなわち、まず第一に、安全上余裕のある設計を行うこと、製作において厳重な品質管理を行うこと、施設又は機器が設計どおりに製作されているか検査すること、及び運転に入ってから厳重に監視、点検、保守を行うことなどにより、原子炉や関連機器に故障が起こらないよう配慮されている。
 第二に、このような配慮にもかかわらず、運転中に何らかの故障や誤操作が発生するものと仮定し、そのような場合に対応して、多重的かつ独立的なバックアップ施設を設けたり、設備の損壊の防止や事故の影響を少なくするための安全防護施設を設けるなどにより、大きな事故に発展することがないよう対策が講じられている。
 そして第三に、例えば多重性を有する上記安全防護施設のうち、その一部が作動しないなど更に厳しい状況を想定し、このような場合でも周辺の公衆の安全が確保されるよう所要の対策がとられることとしているのである。
 以下、原子力発電所の安全性に関し、放射能に係る問題及び工学的安全性等について述べることとする。

2 放射線に対する配慮

(1)放射線と人間

 原子力発電所の安全問題は、そこで生成される放射性物質から放出される放射線の管理の問題であるということができる。
 従って、ここでは、この放射線の安全な管理について述べる前に、まず、放射線の一般的な性質について述べることとする。

ア 放射線、放射能、放射性物質
 放射線、放射能、放射性物質という用語がしばしば混同して用いられることがある。放射線とは一般に、直接又は間接に空気を電離する能力を持つ粒子線又は電磁波であって、例えば、アルファ線、陽子線、べータ線、中性子線、ガンマ線、エックス線がある。又、放射能とはこの放射線を放出する能力のことであり、放射性物質とはこの放射能を有する物質のことである。
 人体に対する影響は、この放射線が人体を組織している細胞に影響を与えることによって生ずるのである。
 なお、特に誤解を招くことがない場合には放射能、放射線、放射性物質という用語を厳密に区別することなく、便宜的に放射能と総称することもある。

イ 放射線と人間生活
 周知のとおり人類は、大昔から自然の放射線を絶えず受け続けて生活し、今日に至っている。すなわち、空から宇宙線と呼ばれる放射線を、又、地面から地殼を構成している花崗岩等の中に含まれる放射性物質からの放射線を、更に飲食物等とともに身体中に取り込まれる放射性物質からの放射線を、常に浴びている。
 これらの自然放射線の量は、地域等によってかなりの差がある。我が国の場合、宇宙線と大地からの放射線との合計量は、例えば、九州では比較的多く、年間0.08~0.1レムであり、関東では年間0.04~0.06レムと比較的少ない。又、大地からだけの放射線の量についても、例えば、アメリカでは平均年間0.03~0.1レムであるが、そのほか年間0.5レムとか3レムとかの更に多量の放射線量を常時記録している地域もある。
 一方、コンクリート造りの家の中で受ける放射線の量は、コンクリートの中に含まれる放射性物質からの放射線も加わって、木造の家の中の場合の約1.5倍にもなる場合も珍しくない。
 このように人が受ける放射線の量は、その人の居住地域、生活様式等によってかなりの差があるが、平均して、世界の人々が受ける自然放射線の量は、一人当たり年間0.09レム程度とされており、その内訳は、宇宙線から年間0.03レム程度、大地から年間0.04レム程度、飲食物等により体内に取り込まれる放射性物質から年間0.02レム程度とされているのである。

(2)放射線管理に対する基本的考え方

ア 放射線の影響
 一般的に放射線の被曝が人又はその集団に及ぼす影響については、放射線を被曝した個人に現われるものとして考えられる身体的影響と、その人の子孫に現われるものとして考えられる遺伝的影響とがある。身体的影響は、被曝後あまり長くない時期、すなわち通常2~3週間以内に現われる急性障害と、かなり長い潜在期間を経て現われる晩発性障害とがある。急性障害は急激に多量の放射線を浴びた場合に顕著に生ずるが、晩発性障害は比較的少量の放射線を長期間被曝することによっても発生し得るのではないかと考えられている。

イ 低線量の放射線の影響
 ところで、現在までのところ低線量の放射線の被曝による晩発性障害及び遺伝的障害についての詳しい知見は得られていないが、低線量の放射線の被曝と晩発性障害や遺伝的障害との関係について参考に
なるのは、自然放射線の被曝による影響の有無である。
 前述のように、我が国の場合、例えば、関東と九州とでは概ね年間0.02~0.06レム程度被曝線量が異なっているのであるが、それにもかかわらず、九州の人が関東の人に比較して、放射線被曝によっても生ずるとされている白血病等を初めとする、ガンその他の障害により多くかかっているという証拠は現在得られていないし、その他の自然放射線の量が大きく異なる地域を相互に比較しても、上記のような放射線障害の発生率について、統計学上の有意な差があるとの結果は認められていない。
 自然放射線程度の低線量の被曝と晩発性障害や遺伝的障害との関係について世界中で、広く研究が進められているが、人又はその集団に影響があるという積極的な証拠は得られていないのである。

ウ 許容被曝線量の考え方

(ア)しかしながら、現在、放射線被曝による影響については、人の安全を護るという立場から、あくまでも厳しい考え方に立つことを大前提としている。すなわち、国際放射線防護委員会(ICRP)においては、一方では「しきい値(ある量以下では生体に対する影響がないということが明らかな場合に、その量を「しきい値」という。)が存在しないという仮定は正しくないかもしれない」としながらも、どんなに少ない線量の場合でも、線量とそれによる効果とは、「しきい値」のない直線的な関係にあるという仮定を立てており、我が国はもちろんのこと世界中がこの考え方に従い、そのうえで安全問題を考えることにしているのである。人体に影響を及ぼす多くの事象の中で放射線の影響について初めてこのような厳しい考え方が採用されたのである。

(イ)我が国の原子力発電所の平常運転時における周辺監視区域(人の居住を禁止し、がつ、業務上立ち入る者以外の者の立入りを制限する区域)外の許容被曝線量は、一般住民で1年間につき0.5レムを超えないこととされている。これは、ICRPの公衆に対する線量限度に関する勧告を尊重し、我が国の放線射審議会の答申を受けて原子炉等規制法に基づき定められているものであり、アメリヵ、カナダ、ソ連等諸外国においても採用されている数値である。
 このICRPの考え方は、放射線による影響について前述のような考え方に立って、原子力の利用によって得られる利益らかみて社会が容認できる程度の放射線の量を線量限度とするものであり、具体的には、現在の知識に照らして、身体的な障害又は遺伝的な障害の発生する確率が社会的に容認できる線量として前記線量が勧告されたのである。

(ウ)ところで、ICRPは、前記許容線量の勧告と同時に、この線量を超えさえしなければよいというのではなく、「いかなる不必要な被曝も避けるべきであること、及び経済的、社会的な考慮を計算に入れたうえ、すべての線量を容易に達成できる限り低く保つべきであること」(いわゆる”as low as practicable”(実用可能な限り低く)の考え方)をも勧告している。
 安全審査においてもこの「実用可能な限り低く」の考え方に沿い、原子炉の運転に伴う公衆の被曝を許容線量よりも一層低く抑えるという考え方に立って審査を行っており、実際に、原子力発電所から出される放射線による周辺監視区域外における一般住民の全身被曝線量は、最大となる地点においても概ね年間0.005レム程度と、周辺公衆に対する許容被曝線量(年間0.5レム)を下まわることはもちろん、前記自然放射線からのもの(平均して年間0.09レム程度)に比べ十分低く抑えられている。
 福島第二原子力発電所の場合は、更に低く、年間0.002レム以下と評価されている。

(エ)なお、ゴフマン及びタンプリン両博士らが行ったガン死亡率の試算を引用して許容線量の引下げを要求する声もあるが、米国原子力委員会は、これらの試算は、米国民すべてが年間0.17レム(公衆の集団の被曝線量の平均値に対する連邦放射線会議の基準値)を受けるという、現実を無視した仮定に立っており、かつ低線量の影響を過大に評価している面があるので、この基準値の引下げは必要ないものとしている。又、ICRPは最近の公衆等に対する線量限度の見直しにおいても、これらの線量限度を引き下げる必要はないものとしているのである。

(オ)ところで個人の被曝の問題と併せて、ある集団が被曝した場合に、長期間にわたる世代の交代を通じて全集団の中に現われるかもしれない遺伝的な影響について考えることが必要である。我が国においてもICRPの国民遺伝線量に関する考え
方をもとに一人一人の被曝線量の総和(集団の延べ線量(人・レム))を、放射線被曝による集団の遺伝的な影響を評価する際のめやすとしており、仮定の事故を想定した場合の原子炉の立地評価に用いている。なお、原子力施設の平常運転に対して「人・レム」規制を設けるべきであるとの意見もあるが、集団における個人の被曝線量を低く抑えることにより、集団の「人・レム」の値も十分低く抑えられるため、我が国を初め、アメリカ及びヨーロッパ諸国においても一般に原子力施設の平常運転に対する「人・レム」の規制は行っていない(試算によれば、福島第二原子力発電所の場合、周辺100㎞以内の公衆が気体廃棄物により受ける全身被曝線量の総和は将来の人口増加を見込んでも年間約8.6人・レムである。ちなみに、この値は自然放射線によるこの地域の公衆の被曝線量の総和の2万分の1程度である)。

(カ)放射能に対しても、PCB等と同様、魚介類の許容基準を示せとの意見があったが、公衆の放射線被曝については、許容線量が明確に定められており、後で述べるように、食物連鎖を考慮しても、許容線量を十分に下まわる範囲でしか放射性物質を環境に放出しないよう、放出源で厳しい管理がなされるので、安全性は十分確保されるのである。

(3)放射線管理の具体的措置
 原子力発電所周辺の公衆の安全を確保するためには、平常時における放射能の発電所外部に対する放出を十分低い値に抑えるよう厳重な管理をする必要がある。このため、周辺公衆が安全審査において評価された平常時被曝線量の値以上を被曝することがないよう、運転に当たっては評価の前提となった放射性物質の放出率、濃度及び総放出量を厳重な管理のもとで遵守することとしている。すなわち、これらの数値は保安規定に明記され、設置者はこれを遵守する義務があるものであり、運転に当たっては、排気筒モニタ、排水モニタ等による常時監視等により規定値以上に放出しないよう管理するのである。一方、国は、必要に応じ現地調査等によって設置者が保安規定を遵守しているかどうかを確認しているのである。
 以下、福島第二原子力発電所において発生する気体廃棄物、液体廃棄物及び固体廃棄物の具体的な管理方法について述べることとする。

ア 気体廃棄物の管理

(ア)気体廃棄物の放出管理

a 気体廃棄物としては、第一に復水器内の真空を保つため、平常運転時に復水器空気抽出器によって連続的に抽出される復水器内の空気中に含まれる気体状の放射性物質がある。これは、減衰管で約30分間放射能を減衰させた後、後に述べる活性炭式希ガスホールドアップ装置に導き、’放射能を十分減衰させ、放射線モニタで監視しながら排気筒から排出される。
 第二のものは、タービンを停止した後、比較的短時間のうちにこれを再起動させる際に、復水器内を真空にするために行う真空ポンプの運転により、復水器内から排出される空気中に含まれる気体状の放射性物質である(排出の形態は間けつ的になる。)。又、このほか、原子炉建屋等の換気設備を通って連続的に外へ排出される気体状の放射性物質もあるが、これらはいずれも放射線モニタで監視しながら排気筒から排出される。

b これらの気体廃棄物の排出量は、連続的に排出されるものについては毎秒平均1.7ミリキュリー以下、間けつ的に排出されるものについては年間12,500キュリー以下となるよう管理されることとなっている。
 なお、希ガスホールドアップ装置を経て排気筒から連続的に排出される希ガスの放出率の計算過程が不明であるとの意見があったが、この計算過程は以下のとおりである。すなわち、本装置の入口における希ガスの流入量(被覆管から漏出後30分間の減衰を考慮した値)を毎秒1,000ミリキュリーとし、又、希ガスの核種構成を拡散組成(被覆管から漏出する各々の核種の量が核分裂収率に比例し、かつ、崩壊定数の0.5乗に比例するような組成)とし、各々の核分裂収率、崩壊定数及び本装置の設計保持時間(クリプトンについて40時間、キセノンについて27日間)を考慮して、本装置による放射能の減衰を計算した結果、本装置の出口においては毎秒1.7ミリキュリーとなるとされたのである。

(イ)気体廃棄物の被曝評価

a 気体廃棄物の被曝評価については、前記排出量を前提に、気象状況、放出高さ等の拡散条件を考慮して評価した結果、これらの気体廃棄物
による周辺監視区域外における全身被曝線量は、最大となる地点において年間約0.0.013レムである。なお、福島原子力発電所1~6号炉からの寄与を考慮すると周辺監視区域外における全身被曝線量は、最大となる地点において年間約0.0.016レムである(計算式その他の評価方法については添付書類に記載されている)。

b 食物連鎮による被曝についてみると、平常運転時に環境に放出される気体廃棄物は、クリプトン、キセノンという希ガスが主体であり、これらは植物等にほとんど沈着しないので、食物連鎖による被曝は無視し得る。
 食物連鎖を考慮する必要があるものは、放射性ヨウ素による甲状腺被曝であるが、これについては、福島原子力発電所1~6号炉からの寄与を含め、ヨウ素の地上空気中濃度が最大となる周辺監視区域境界における呼吸、当該地点で生産される葉菜の摂取、当該地点に生育する牧草で飼育された牛の乳の摂取を考慮して評価した結果、甲状腺被曝線量が最大となるのは、当該牛乳だけで育てられる乳児の場合であって、年間約0.012レムであり、十分小さいものである。

c なお、被曝評価の計算過程に恣意性が入るとの意見が述べられたが、例えば気体廃棄物による被曝評価の場合、

① 周辺環境への放射能放出量については、廃棄物処理系統の性能、先行炉の放出実績等

② 大気中における拡散については、現地における気象観測データ及び現在最も一般に認められている英国気象局方式の拡散式

③ 大気中濃度から被曝線量を計算する際には、一般に認められている計算式
など妥当な前提条件と計算手法とを用いて被曝評価を行っている。

d 連続的に排出される放射性物質による被曝の評価における静穏時の取扱いについては、有風時の値を用いず静穏時として評価すべきであるとの意見が述べられたが、福島第二原子力発電所の地点においては静穏の出現頻度が低く、かつ継続時間も短かいこと、日本原子力研究所JRR-2における実験結果から静穏時の線量率が有風時の線量率を大きく上まわることはないことが明らかになっていることから、静穏時を有風時に含めて計算しても年間の被曝線量の評価上差しつかえないと考える。

e 間けつ的に排出されるものについて、陸側の9方位に一様に分散すると計算しているのは過小評価ではないかとの疑問が述べられた。
 しかしながら、その計算に当たっては、連続放出の場合と区別しており、風向出現頻度、年間の排出回数から、着目方位に最大限何回放散されると考えるべきかを確率論的に評価している。すなわち、16方位に分けたうち、陸側の9方位についてそれぞれの方位への最大排出回数を二項確率分布で信頼度が97%となるように決定しており、その排出回数に相当する放射能については一方位にのみ放散され、その風向軸が着目地点と一致するとして被曝計算を行っているのである。

(ウ)希ガスホールドアップ装置等の性能
 希ガスホールドアップ装置及びフイルタの性能を示せとの意見が述べられたが、復水器空気抽出器系排ガスを処理する希ガスホールドアップ装置は、キセノンを約27日間、クリプトンを約40時間保持するのに十分な能力を有する。本装置は、活性炭による希ガスの可逆的吸着現象を利用したもので、希ガスは活性炭との吸着、離脱を繰り返しながら活性炭層を一定時間かかって通過するので、その間、希ガスの放射能を減衰させることができる。その使用実績としては、敦賀発電所及び福島原子力発電所1号炉において既に使用されており、いずれも仕様値を満足する良好な運転を行っている。
 又、本装置の出口に設けられるフイルタは、放射性粒子が外部へ排出されるのを防止するための極めて性能のすぐれた粒子用フイルタであって、0.3ミクロン以上の粒子を99.97%以上除去する能力を有するのである。

イ 液体廃棄物の管理

(ア)液体廃棄物の放出管理

 液体廃棄物は、機器ドレン系廃液、復水脱塩装置等の化学廃液、建屋の床ドレン系廃液及び衣服等の洗濯廃液である。

a 機器ドレン系廃液、床ドレン系廃液及び化学廃液は、液体廃棄物処理施設によって処理され、処理後復水貯蔵タンクに貯えられ、原子炉系統で再使用される。ただし、床ドレン系廃液については、定期点検時等復水貯蔵タンクの保有水量が増加するような場合には、濃緒処理に
よる蒸留脱塩水の一部が環境に排出されることがある。その排出量は、最大でも1日約40m3であり、年間での総排出量は約1,000m3と見込まれている。
 一方、洗濯廃液はろ過処理後環境に排出される。

b 液体廃棄物の環境への排出については、これを一旦タンクに貯えて放射能濃度を測定し、復水器冷却水で希釈した後の排水中の各核種の濃度が原子炉等規制法に定める許容濃度以下であることを確認し、しかも海産生物に濃縮されるおそれのある核種については、その濃縮効果を考慮して、許容濃度を更に下まわる濃度になることを確認したうえ、放出することとしている。この排水中の放射性物質の量は、廃液の発生量、放射能濃度、処理系の性能等を考慮して評価した結果、年間0.56キュリー(トリチウムを除く。)になるものと評価されている。又、トリチウムについては、先行炉の実績等を参考に年間100キュリー以下になるものと想定される。
 なお、福島第二原子力発電所の原子炉施設で使用される淡水は、原子炉への補給水のほか飲用水等の生活用水、碍子水洗用水等に使用されるのであるから、当然のことながら放射性液体廃棄物として放出される排水量と淡水取水量とは一致しないのである。

(イ)液体廃棄物の被曝評価

a 液体廃棄物の被曝評価については、年間の排出量(トリチウムを除き1キュリー、トリチウム100キュリー)を前提として、①魚類、海藻類が放射性物質濃度の高い放出口近辺に棲息し、かつ報告されているもののうち高い濃縮係数をもって放射性物質を蓄積する。②住民が当該海産物の相当量を毎日摂取するなどの厳しい条件のもとに評価した結果、全身被曝線量は年間約0.0003レム、甲状腺線量は年間約0.0006レムである(なお、トリチウムについてはその性質上、海産生物による濃縮効果はないものと考えた。)。

b なお、液体廃棄物による長期的な環境への影響については、海水による混合希釈をも考慮して広域的な考察がはらわれるべきであり、これまでの控えめな考察から判断しても、現在の時点では問題はないのである。

(ウ)液体廃棄物処理施設の性能

 液体廃棄物処理施設の性能については、その中の主な系統について述べると、機器ドレン処理系及び床ドレン・化学廃液処理系の放射能除染係数は、それぞれ100以上及び1,000以上である。


ウ 固体廃棄物の管理

(ア)固体廃棄物の種類
 固体廃棄物としては液体廃棄物の濃縮廃液をセメントで固化したもの、使用済みのイオン交換樹脂、フイルタスラッジ(液体廃棄物処理のためのろ過装置のろ材で使用済みのもの)、機器の点検、修理等に使用した布きれ、紙屑等の雑固体廃棄物及び使用済みの制御棒、燃料チャンネルボックス等がある。

(イ)固体廃棄物の保管管理

a フイルタスラッジ、原子炉冷却材浄化系以外の使用済イオン交換樹脂、濃縮廃液等は、ドラム缶にセメント固化してから固体廃棄物置場に保管されるので、放射性物質が漏洩して周辺の土壌、地下水等が汚染するおそれはない。又、雑固体廃棄物は必要に応じて圧縮減容のうえドラム缶詰めされ、上記固体廃棄物置場に厳重な管理のもとに保管される(なお、福島第二原子力発電所の場合、現在は可燃性雑固体廃棄物の焼却処理を行う計画はない。)。これらのドラム缶の貯蔵保管のためには敷地内のごく一部のスペースを充てることで足りる。

b 原子炉冷却材浄化系の使用済イオン交換樹脂は、厚い遮蔽壁で取り固まれた室内に設置されるステンレス製貯蔵減衰タンクに、長期間安全に保管される。

c 使用済制御棒及び燃料チャンネルボックスは燃料プール内に安全に貯蔵保管される。燃料プールは耐震設計Aクラスの原子炉建屋内に建屋と一体に作られるステンレス鋼内張りの鉄筋コンクリート槽である。又、燃料プールには、水位計のほか漏水検知装置が設けられ、万一漏洩が発生しても早急に検知できるようになっているほか、燃料プールのステンレス鋼内張りから万一漏洩したとしても、漏れ出た水は床ドレン系に導かれ処理される。

d 以上述べた固体廃棄物のほか、その他の廃棄物として現時点ではその発生量の予測が困難な特異な形状の放射化された損耗部品等がある。これらが発生した場合には、必要に応じて燃料
プール等で放射能を減衰させてから固体廃棄物置場に保管されるのである。

(4)原子力発電所周辺における放射能監視

ア 原子力発電所の運転に当たっては、前述したように、排気筒モニタ、排水モニタ等による放射性物質の放出源における常時監視等がなされており、放射性物質が、安全審査における被曝評価の前提となった放出量以上放出されることのないよう、厳重な管理がなされているのであるが、原子力発電所の周辺地域においても、モニタリングポスト等の周定の放射能監視施設が設置され、これらによって連続的に監視、記録がなされている。
 更に、国による施設者からの定期的な放出管理記録の徴取のほか、現地調査等によって放射線測定装置の機能及び測定記録等のチェックが行われている。
 このように、原子力発電所から放出される放射性物質による放射線については、放出源におけるモニタ及び施設周辺のモニタリングポスト等によって常時厳重に監視されているのであるから、放射性物質の放出量等が十分遵守され、周辺公衆の安全が確保されていることは、常に確認されているのである。

イ 以上のような措置に加えて、モニタリングポイントにおける空間線量率等の定期的な測定を行うとともに、陸水、土壌、農畜産物、海水、海産物、海底土等の環境試料を定期的に採取し、放射性物質の濃度を調査することとしている。これらの値は公表され、周辺住民の原子力発電に対する理解と協力とを得るための一助となっている。

ウ ところで、県等の地方自治体は、従来から施設者の実施するモニタリングを地域住民の立場に立って監視するという方法をとっている。福島地区の場合、県は施設者の行うモニタリング計画に関し、調査対象の種類、調査頻度等について事前に協議するほか、その調査結果を県と施設者で構成する技術連絡会において評価し、その結果を県から地域住民に報告している。
 又、最近では、施設者とは別に、自らモニタリングを行う地方自治体もあり、福島県でも昭和48年度から県のモニタリング計画を定め測定を開始している。
 このように地方自治体が地域住民の立場に立って監視を行うことにより十分地元住民の信頼を得る監視ができるものと考えられる。
 なお、県の行うモニタリングに対しては国としても積極的に支援することとしており、昭和49年度後半から、電源開発促進対策特別会計(V-4参照)からの交付金が交付されることになっているのである。

(5)従事者の被曝管理

 原子力発電所の従事者の被曝管理について、転々と渡り歩く請負業者の労働者の安全管理が問題である。ICRPのレポート「Publication 14」で示された提案についてどう考えるか、福島原子力発電所の従事者の被曝実績はどうか、美浜1号炉の蒸気発生器細管の点検、補修における従事者の被曝実績を明らかにされたいなどの意見があったので、以下これらについて述べることととする。

ア 原子力発電所の従事者についての被曝管理は、原子炉等規制法及び労働安全衛生法に基づき厳重に行うこととしている。すなわち、原子炉等規制法は、原子炉の安全確保の観点から原子炉設置者に対して、又、労働安全衛生法は、労働者の安全と健康の確保の観点から事業者に対して、それぞれ、原子炉の運転、補修等に従事する者の被曝管理を厳重に行うことを義務づけている。
 被曝管理の概要を述べると、従事者の許容線量については周辺公衆の許容線量と同様に、ICRPの勧告を尊重し、放射線審議会の答申を受けて定められており、原子炉設置者ないし事業者には、従事者が許容線量以上の被曝をすることがないよう被曝管理を行う義務があり、更に、「実用可能な限り低く」の考えのもとに、従事者の被曝をできるだけ少なくするよう努めなければならないこととされている。
 このため、一定量以上の放射線を被曝するおそれがある区域を管理区域として設定し、従事者の出入管理を行、、又作業に当たっては、保護具の着用等所要の措置を講じさせ、更に、従事者が作業によってどの程度被曝したかを測定するなど厳重な被曝管理を行うこととしているのである。

イ 請負業者に雇用されている従事者の被曝管理についても、原子炉等規制法に基づき、原子炉設置者は自ら雇用している従事者と同様に厳重に行うこととされており、又、労働安全衛生法に基づき、請負業者も事業者として従事者の被曝管理を行わなければならないとともに、元請け事業者は関係請負業者及びその従事者について適切な被曝管理を指導、指示しなければならないこととされている。
 なお、請負業者間を渡り歩く労働者の場合にその被曝歴の把握については、放射線業務従事者として雇い入れる際実施が義務づけられている健康診断において被曝歴を調査することとなっており、管理面の適正を期しているが、今後原子力関係の従事者の増大が予想されることからも、これら労働者の被曝線量を的確に把握する必要があるので、現在このための施策を含め、原子力委員会のもとに専門部会をおいて検討を行っているところである。

ウ ICRPのレポート「Publication 14」において、全身が均等に照射されるケースについての許容線量について議論がなされているが、これに関連して、ICRPは、その後現行の許容線量の妥当性について再検討を行った結果、1972年(昭和47年)11月、現行の許容線量に関する勧告を変える必要はないことを確認し、その旨を発表している。

エ なお、福島原子力発電所の従事者の被曝の実績については、1号炉における設置者の従事者及び請負業者の従事者の昭和47年度の年間被曝線量は、平均でそれぞれ約0.3レム及び約0.2レム、最大でそれぞれ約2.6レム及び約3.0レムである。
 又美浜1号炉の蒸気発生器細管の点検、補修作業の場合の作業員の被曝線量については、渦流探傷装置による探傷試験では平均で約0.5レム、最大で約2.8レム、盲栓工事では平均で約0.7レム、最大で約2.3レムである。

3 工学的安全性

(1)原子力発電所の仕組み

ア 原子力発電所における原子炉の役割は、火力発電のボイラーに相当するものであり、そこから蒸気を取り出して、その力でタービン発電機を回転させ発電するという点では火力発電と全く同じである。
 原子力による発電は周知のとおり、ウラン235等の原子核に中性子を当て、それによって起こる原子核の分裂反応の際に発生する大きなエネルギーを熱として取り出して行うものであって、原子炉は、この反応を制御することによって必要な熱エネルギーを得るための装置である。
 このため、原子炉は、核分裂を起こす核燃料、核分裂によって新たに発生する中性子を次の核分裂を起こさせやすい状態にするための減速材、発生した熱を取り出すための冷却材、核燃料の燃え方を加減するための制御棒等から成り立ったており、これらが一体となって、安全に核分裂が継続され、原子炉の運転が続けられるのである。

イ 福島第二原子力発電所の原子炉は沸騰軽水型原子炉と呼ばれるもので、上記の減速材及び冷却材の両方の役割を果たすものとして普通の水(いわゆる軽水)を用、、原子炉内で直接蒸気を発生させ、これをタービンに送り発電する型のものであるが、以下この原子炉の仕組みを具体的に述べることとする。
 まず、核燃料は、核分裂を起こすウラン235を約1~3%含む二酸化ウランの形でペレツトに焼き固められ、この燃料ペレットは、ジルコニウム合金からできている被覆管の中に密封されている。これを燃料棒といっている。この燃料棒は、49本がまとめられて一燃料集合体を形成しており、この燃料集合体764体で原子炉の炉心を形成している。
 次に、燃料の核反応-燃え方-を制御する制御棒はその内部に中性子吸収材(これをポイズンとも呼ぶ。)が詰められており、炉心の下部から炉心に挿入され、炉心の中で生じた中性子を吸収することで核反応を加減している。福島第二原子力発電所の原子炉に用いられる制御棒の数は、185本である。
 原子炉の中核をなす燃料集合体及び制御棒は厚い鋼製の圧力容器の中に収められており、圧力容器の中で核分裂が起こり熱が発生するのであるが、この熱は圧力容器とタービンとを結ぶ冷却系配管を通じて循環する冷却材によって伝えられ、タービンを駆動させる。
 圧力容器は格納容器の中に収められ、外部に通ずる冷却系配管は格納容器を貫通する部分で隔離弁によって遮断できるようにっている。なお、この圧力容器及び隔離弁の内側の冷却系配管をまとめて、冷却材圧力バウンダリといっている。
 更に、原子炉には、万一事故が発生したとしても周辺公衆の安全が確保できるよう、いくつかの安全防護施設が備え付けられているが、その一つとして冷却材喪失事故に対処するための非常用炉心冷却設備(ECCS)がある。

ウ 以上のように、原子炉は多くの機器から成り立っているのであるが、これらの機器については、初めに述べたように、安全余裕を持った設計がなされ、製造段階でも厳重な品質管理のもとに製作され、更に運転後も厳重な保守点検が行われることにより、
十分その機能、性能を維持できるようになつている。
 これら機器の工学的安全性に関し、特にECCS燃料、冷却材圧力バウンダリ等について多くの意見が出されたが、以下これらについて述べることとする。

(2)非常用炉心冷却設備(ECCS)の信頼性


 ECCSは、冷却材圧力バウンダリの配管の破断によって冷却水が炉心から喪失した場合に、崩壊熱の発生による炉心の温度上昇を安全性が損なわれない限度に抑制するよう、冷却水の注入によって炉心を冷却する機能を有する。
 このようなな重要な機能を持つECCSの構造は原子炉の型式によって異なるが、福島第二原子力発電所の原子炉では、高圧スプレイ系1系統、低圧スプレイ系1系統、低圧注水系1系統(3ループ)等から成り立っており、冷却材喪失事故が発生した場合、その直後のブローダウン(冷却水の流出による炉内の圧力減少)の過程に対応して、まず高圧スプレイ系から、続いて低圧スプレイ系及び低圧注水系から、それぞれ冷却水が注入されて炉心の冷却、再冠水が行われ、再冠水後も長時間にわたって注水が継続し、炉心が冷却されるのである。
 ECCSについては、その性能に問題がある。安全評価に問題があるなどの意見が述べられた。

ア ECCSの性能

(ア)このような機能を有するECCSは、配管のいかなる大破断が起こっても、これに対処して所要の冷却効果を発揮できるように作られている。
 すなわち、先に述べた各注水系統はポンプと配管等からなる極めて単純な構造であり、しかも余裕のある安全設計、厳重な品質管理等によって入念に製作され、かつ、運転後も定期的にその性能が確認されるものであり、更に一部が作動しない場合に備えて、十分な多重性を有しているので、万一最大口径の配管のギロチン破断が生じたとしても、ECCSの注水による冷却により、被覆管の健全性が大きく損なわれることはないのである。

(イ)ところで、このようなECCSの性能は、単に理論的な計算のみによっているものではなく、多くの実験、研究によって実証されている。
 すなわち、炉心頂部からの高圧スプレイ系統及び低圧スプレイ系統によるスプレイ冷却については我が国のSAFEプロジェクト及びアメリカのFLECHT計画において実物大の燃料集合体を用いた実験により、又、スプレイ水の炉心内での分布については、実規模の炉心を模擬した実験により、それぞれの有効性が実証されている。又、低圧注水系による炉心底部からの再冠水冷却についても、実物大の燃料集合体を用いた日立製作所による実験及びFLECHT計画における実験により、その有効性が確認されている。
 なお、福島第二原子力発電所については、低圧注水系の冷却水は圧力容器中に注入され、圧力容器の底部から浸水して最終的には燃料集合体を冠水することになるが、圧力容器内の上部と下部とはジェットポンプを通じて圧力が均一化されているので、冠水を妨げるような、圧力差による作用が生じることはない。

(ウ)ECCSは、後に述べるように、安全審査における厳重な検討によってその性能が確認され、妥当性が認められるものであるが、安全性の検討はこれにとどまらず、安全審査を経てなされる原子炉等規制法による原子炉設置許可の後においても更にポンプ、配管、弁等細部にわたる詳細設計の段階で、電気事業法に基づく厳重な審査がなされ、設置許可どおりの設計になっているかどうかの確認がなされるのである。

イ ECCSの安全評価指針と福島第二原子力発電所原子炉のECCSの評価

(ア)ECCSの安全評価は、災害評価を行う際の想定事故の評価との関連で行われるのであるが、これは審査会が定めた「軽水型動力炉の非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針」(以下「ECCS安全評価指針」という。)に基づいてなされている。
 ECCS安全評価指針は、重大事故の原因となる冷却材喪失事故を想定した場合に、①燃料被覆が著しく破損しないこと、②事故の全期間にわたり炉心の適切な冷却が確保されること、③著しい金属-水反応を起こさないことが保証されなければならないものとし、具体的には、信頼性の高い方法と余裕のある条件とを用いた解析によって総合的に評価し、①核分裂生成物流出に寄与する破損燃料被覆の全燃料被覆に占める割合が十分小さいこと、②炉心内の燃料体の被覆材の最高温度はいずれもある基準値(当分の間1,200℃とする。)を上まわらないこと、③金属-水反応が炉心の全燃料被覆の1%以下に止まることが確認されなければならないものとしている。

(イ)福島第二原子力発電所の原子炉のECCSの安全評価は、外部電源が喪失するとすること、3台の非常用ディーゼル発電機のうち1台が故障して起動せず、このため5つの注水系統のうち2系統が作動しないとすること、事故後の各段階での熱伝達係数を控え目にとること、事故後発生する崩壊熱を多めに設定することなどの厳しい条件のもとに、信頼性の高い解析方法によって行われた結果、被覆管の温度は1,018℃を超えることはなく、又、金属一水反応の割合は0.12%以下であり、更に酸化によって影響されない被覆管の部分の割合は被覆管の厚さの98%以上であると評価され、これらの評価の結果は、ECCS安全評価指針を十分満足しているので、事故後の炉心冷却は維持できるのである。
 なお、燃料棒内圧と上記解析結果に基づく被覆管温度とから求められたパーフォレーションが生ずる燃料棒の割合は約7%である。

(ウ)重大事故における災害評価においては、上記パーフォレーションが全部の被覆管に生ずるものとし、その結果すべての燃料棒から燃料棒内部の空間に蓄積されている気体状核分裂生成物の全量が放出されるものとし、しかもその量については先行炉における実測データ及び研究所等における実験データから得られた値に安全余裕を加味して求めたものである(この量は燃料棒に内蔵されている放射性希ガス及びヨウ素の全量に対してそれぞれ2%及び1%に相当する。)。
 この放出量について燃料棒内部の空間に蓄積されている核分裂生成物だけとするのは過少評価ではないとの意見があったが、重大事故の原因となる冷却材喪失事故時には核分裂反応の停止、ECCSによる崩壊熱の除去によって燃料ペレツトの温度が速やかに低下するため、新たに燃料ペレットから放出される気体状核分裂生成物の量は極めて少なく、無視し得るものであるので、この揚合の核分裂生成物の放出については、事故前に燃料棒内部の空間に蓄積されていた気体状核分裂生成物のすべてが放出されるとすることで十分妥当なものである。
 なお、添付書類に記載されている放出割合は、平常運転時の被覆管の健全性を確認するために行われる燃料棒内部圧力計算に用いるものであって、上記重大事故の災害評価に用いる値とは本質的に異なるものである。

ウ アイダホの実験とECCS

(ア)米国原子力委員会が一次冷却材喪失事故に関する研究計画(LOFT計画)の一つとしてアイダホにおいて行った小規模ブローダウン実験(いわゆる「アイダホ実験」)の例を引いて、福島第二原子力発電所の原子炉が信頼性に欠ける旨の意見が述べられたが、このアイダホ実験は、加圧水型原子炉に関する実験であって、加圧水型原子炉のECCSとは異なった構造のECCSを有する沸騰水型である福島第二原子力発電所の原子炉に適用されるものではないのである。

(イ)なお、このアイダホ実験の結果については、加圧水型の実用炉に適用すべきか否かについても議論のあるところであるが、加圧水型原子炉の安全審査における評価においては、この実験結果を織り込み、ブローダウン中に注入された水による冷却効果はないものとして解析を行つているのである。

(ウ)ちなみにアメリカにおいては、このアイダホ実験を含むECCS関連の実験の蓄積をもとに、1971年(昭和46年)6月ECCSに関する暫定基準が作られ、引き続き1972年(昭和47年)1月から約1年半にわたってFCCS基準に関する公聴会が開かれ、規制当局のほかECCS基準に関係のある研究所、メーカー、電力会社等のグループの意見が述べられた。これらの意見を検討した結果、米国原子力委員会は、1973年(昭和48年)12月、ECCSに関する新基準を発表している。

(3)燃料の安全性

 福島第二原子力発電所の原子炉に用いられる燃料は、低濃縮二酸化ウランを小型の円柱状(直径約12cm長さ約1.2~1.8cm)に焼き固めた燃料ペレツトを、肉厚約0.9㎜、外径約1.4cm、長さ約4mのジルコニウム合金の被覆管の中に密封したものである。被覆管は、放射性物質を閉じ込めるものであり、放射性物質が冷却水中に漏れることをほぼ完全に防いでいる。この燃料棒は、7行7列の正方格子状に一定の間隔をもって束ねられ、燃料集合体を形成している。
 このような燃料に関し、公聴会においては、7行7列型燃料を採用した理由、被覆管の損傷、燃料ペレツトの焼締り等について意見が述べられた。

ア 7行7列型燃料の安全性
 福島第二原子力発電所の原子炉で使用される7行7列型燃料は、既にその安全性が確認されており、標準型として多くの炉において採用され、使用実績が積まれているものである。
 ところで、燃料は厳重な品質管理のもとに製作されるのであるが、放射線や高温高圧の流体にさらされた場合、多数の被覆管(福島第二原子力発電所の原子炉の場合、49本/集合体×764集合体=37,436本)の中のごく一部のものが損傷に至ることがある。
 このような損傷に関連して、安全審査においては損傷の形態がピンホールであるかクラックであるかを問わず、これらの損傷によりある程度の放射性物質が燃料棒から漏洩することを前提とし、平常運転中に放出される放射能量として従来の先行炉の運転実績に比べてかなり高い値を仮定して、これによる周辺公衆の被曝線量を評価し、安全が確保されることを確認している。
 又、原子炉の運転に当たっては、この値を超えて放射性物質が放出されることがないよう監視することとしているのである。

イ 被覆管損傷の防止対策

(ア)過去における軽水炉でのピンホール等の被覆管損傷の原因の中で最も大きなものとしては、燃料棒内部に含まれる湿分が運転中に分解して水素となり、特に湿分量が多いときは被覆管のジルコニウム合金を侵食して水素化物を作り、遂にはその損傷に至らしめることがあげられている。このため、現在では、製作中における湿分管理を一層厳重にするとともに、湿分を集中的に吸収する物質を燃料棒内に装荷するなどの対策が講じられている。
 なお、このようなピンホール等の小さな損傷について、これが運転中に進行し、その進行の速さは熱流束が大きいほど大きくなる可能性を指摘している文献もあるが、それはもっぱら平常運転時の放射能放出量と、プラントの保守の観点から述べているものであって、これが直ちに危険な状態を惹起するものであると言っているわけではない。

(イ)又、最近、ノルウェーのハルデン炉等においてペレットと被覆管との相互作用により被覆管にクラック等の損傷が起きる要因についての実験がなされており、その成果は、このような相互作用による損傷の防止対策として、ペレットの形状の改良、被覆管の加工方法の改良、肉厚の増加等の形で逐次採り入れられている。
 福島第二原子力発電所の原子炉で使用される燃料については、このような問題を含め、十分な検討が加えられているのである。

(ウ)なお、燃料の製造に関して、国産技術に問題があるとの意見が述べられたが、我が国の核燃料メーカーは、アメリカその他の技術をも採り入れ、更に我が国独自の技術を生かして入念に製造しているので、燃料の製造技術水準において諸外国に劣っているとは考えられない。

ウ 燃料ペレットの焼締りと冷却材喪失事故解析

(ア)1972年(昭和47年)4月アメリカのギネー発電所(加圧水型原子炉)で、燃料ペレットの焼締りによって被覆管が変形するという現象が発見された。これは、比較的密度の小さい燃料ペレットが用いられ、かつ、被覆管内部の加圧が行われていない燃料において、燃料ペレットが運転中に大きく焼き締って収縮したため、燃料ペレットと燃料ペレットとの間に間隙が生じ、この部分が外部圧力(約160㎏/cm2g)を受けて、被覆管が変形したものである。
 しかしながら、最近の加圧水型原子炉の燃料については、初期密度をより高くして焼締りの程度を小さくした燃料ペレットを使用し、被覆管内部を約30㎏/cm2gのヘリウムガスにより加圧するなどの対策を講ずることにより、このような現象の発生が極めて少なくなるように改善されている。
 なお、福島第二原子力発電所の原子炉と同型の沸騰水型原子炉の燃料においては、もともとその外部圧力が、約70㎏/cm2gと、加圧水型原子炉のものに比べて格段に低く、又、燃料ペレットの初期密度が大きく焼締りの程度が小さいので、今までこのような変形現象は生じていない。

(イ)なお、冷却材喪失事故の解析において燃料焼締りが問題となるのは、燃料の焼締りによって生ずる燃料ペレット外径の縮小によりペレットと被覆管とのギャップが大きくなって熱伝達が悪くなりこのため、冷却材喪失事故の発生を想定した場合に、燃料ペレットの保有エネルギーの放出による被覆管温度の上昇の程度が、燃料の焼締りを考慮に入れないときよりも大きくなることである。
 このため米国原子力委会員は、沸騰水型原子炉を設置している各電力会社に対して、この影響を考慮した冷却材喪失事故の解析を指定した非常に厳しい計算手法により行うことを求め、その解析結果に基づいて事故後の被覆管の最高温度を検討し、必要なものについて、1973年(昭和48年)8月、新たに燃料の線出力密度に関する運転条件を付した。
 この運転条件を守るために、一部の発電所は出力低減を行う必要があると発表されたが、その後の検討結果によるとその必要はないことが認められ、1974年(昭和49年)1月4日までに、米国原子力委員会による上記の運転制限はすべて解除されたのである。
 なお、福島第二原子力発電所の原子炉の安全審査においては、冷却材喪失事故の解析において、これらの点についても十分検討がなされ、安全上問題がないことが確認されている。

(4)制御棒及び制御棒駆動設備の信頼性

 福島第二原子力発電所の原子炉の制御棒は、中性子吸収材であるボロンカーバイドをステンレス鋼管の中に詰めたもの(これをポイズン・チューブという。)84本を、断面が十字形のステンレスのさやに収めたものである。同原子炉では、この制御棒185本が炉心に等間隔で配置されており、圧力容器底部の制御棒駆動設備によって、その挿入・引抜きがなされる。
 制御棒駆動設備は、制御棒の駆動機構である水圧ビストン・シリンダ機構及びこれに駆動水圧を供給する駆動水圧系から構成されており、185本の制御棒にそれぞれ独立して設けられている。従って、たとえ駆動設備の一つに不都合が生じたとしても、十分な停止余裕をもつ他の制御棒の挿入により、原子炉を確実に停止できるようになっている。
 このような制御棒及びその駆動設備について、制御棒駆動設備は故障が多く問題がある。制御棒ポイズン・チューブの不揃いについて問題があるとの意見が述べられた。

ア 制御棒駆動設備の信頼性
 沸騰水型原子炉の制御棒駆動設備における支障としては、アメリカにおいて、1969年(昭和44年)8月から1972年(昭和47年)6月までの間に5基の炉について報告されているが、これらは駆動機構上部のインナーフイルタの目づまりによる制御棒挿入時間の増加、ピストン上部の水の排出不良による制御棒の完全挿入の不能及びごみのつまりによるラッチ機構の作動不良等である。
 福島第二原子力発電所の原子炉に設置される制御棒駆動設備については、これらの支障例を踏まえて、インナーフイルタの取付位置の変更、ピストンの改造等所要の改善策が講じられており、製作時の品質管理、運転前の検査及び運転開始後の保守管理を十分に行うことと相俟って、制御棒駆動設備の動作の信頼性は十分高い。

イ 制御棒ポイズン・チューブの不揃いについて
 制御棒の信頼性に関連して、試運転中の福島原子力発電所2号炉及び島根原子力発電所原子炉の制御棒ポイズン・チューブの不揃いについて問題の指摘があったが、この不揃いは、以下に述べるとおり安全上特に問題とならない性質のものであるが、念のため正常なものと取り替えられたのである。
 すなわち、最近アメリヵで製作された制御棒ポイズン・チューブのうちに、組立てにおいて一部逆になっているものが発見されて話題となったが、円柱炉心をもつ軽水炉にあっては、炉心の構造は、半径方向はもとより軸方向についても対称となるように設計されており、又、ポイズン・チューブ中のボロンヵーバイドは十分な密度で充填されているので、たとえこのような不揃いのものがあったとしても中性子を吸収するという制御棒の機能上特段の支障はないのである。
 アメリヵではこの不揃いのおそれのあるミルストン原子力発電所、ナインマイルポイント原子力発電所等について念のため原子炉の停止余裕の測定が行われただけで、現在のところ特に不揃いの確認は行われず、いずれもそのまま運転が続けられている。
 しかしながら、我が国の上記2基の原子炉については、全数の制御棒につき検査が行われ、不揃いのポイズン・チューブを持つことが分かった制御棒は全部正常なものと取り替えられ、万全が期されたのである。

(5)圧力バウンダリの健全性

 圧力バウンダリとは、起動、停止を含む原子炉の平常運転時に冷却材が存在する範囲であって、苛酷な事故を想定した場合、弁等により隔離されて圧力障壁を形成する範囲をいい、具体的には、圧力容器及び隔離弁以内の冷却系配管から構成される。
 この圧力バウンダリについて、これまでの欠陥例からみて、技術的に未解決な問題があり、又、脆性破壊の観点から他の事故と重なり合ったときに極めて危険であるとの意見が述べられた。

ア これまでの欠陥例と福島第二原子力発電所の原子炉
圧力バウンダリについてこれまでに発生した欠陥は、主として溶接技術の不適切さに起因しているものであるが、これらの欠陥は、運転前の検査及び運転中の監視又は停止時の点検によって発見されており、周辺公衆の安全に影響を及ぼしたことはない。
福島第二原子力発電所の原子炉の圧力バウンダリについては、このような過去の経験を踏まえて欠陥の発生を防ぐように設計されるほか、製作に当たっては材料の選定及び溶接方法の改善がなされているのであり、電気事業法に基づき、製作段階での検査、運転開始前の検査及び運転開始後における監視、点検によって、その健全性の確認が行われることとなっている。

イ 圧力バウンダリと脆性破壊
一般に金属材料の機械的性質は、引張り強さ、降伏点、伸び、硬さ、衝撃値等によって示されるが、これらの値は、温度、金属組織の状態等により変わるものである。
これらのうち衝撃値についてみると、炭素鋼については、一般に温度が低くなるにつれて少しずつ小さくなっていくが、ある一定の温度近くなると急速に小さくなり、靱性が失われ非常に脆くなるという性質がある。この温度が脆性遷移温度といわれるものであり、又、このような原因で急速に破壊することが脆性破壊といわれるものである。
ところで、金属材料は中性子照射を受けると組織に変化が起こり、脆性遷移温度はその照射量に応じて少しずつ上昇していく。圧力容器は、圧力バウンダリのうち最も炉心に近い部分であるので、原子炉の運転に当たっては、圧力容器における中性子照射による脆性遷移温度の上昇を炉内に挿入した試験片によって監視しつつ、圧力が加わる状態においては圧力容器の温度をこの脆性遷移温度よりも33degC以上高い状態に保つこととしているのであり、これによって脆性破壊の防止に万全が期される。
なお、原子炉の運転中は、圧力容器の温度は十分に高いので脆性遷移温度(圧力容器の製造時においては4℃以下、又、その寿命末期においては32℃以下と推定される。)が問題になることはなく、更に、使用前検査時等における耐圧試験の際には加温することによって脆性遷移温度に対して十分高い温度に保つこととしているので、脆性破壊の防止については、何ら問題がない。
 又、圧力バウンダリである冷却系配管が受ける中性子照射量は圧力容器のそれよりもはるかに低いので、中性子照射による機械的強度の劣化は問題とならないのである。

(6)耐震性等

ア 耐震性
 安全審査において、耐震性に係る地質調査も含めて検討すべきである。又、添付書類の図面によればタービン建屋基礎が完全に泥岩層に達していないとの意見が述べられた。
 耐震性に係る地質調査は、原子炉の安全上極めて重要な事項ており、安全審査において十分な審査が行われていることはいうまでもない。又、福島第二原子力発電所の原子炉施設は富岡層の泥岩からなる岩盤に直接支持されるのであり、この岩盤の性状については、試掘横杭等の各種の地盤調査によって良質な岩盤であることが確認されているのである。

イ 航空機墜落に対する対策
 福島第二原子力発電所の原子炉では、航空機の墜落に対してどのような対策がとられているかとの意見が述べられた。
 一般的に航空機の墜落は、離着陸時に集中しており、空港から離れて水平飛行している状態から墜落する可能性は非常に小さい。福島第二原子力発電所については、その地点が、最も近い空港からでも約100km離れていること、上空を通るいかなる航空機も2,000フイート以上の高度をもって水平飛行をするよう規制がされていることなどから航空機が墜落し、かつ、それが原子炉施設に直接影響を与えることについては考慮する必要はないものと考えられるのである。

4 集中化及び大型化

(1)集中化

 一地点あるいは比較的近距離の地点にいくつかの原子炉が設置される場合、いわゆる集中化に対する不安が大きく、又、安全性を確保するためにはこれら全体を一施設とみなして規制すべきである旨の意見が述べられた。

ア 原子力発電所の設置に当たっては、当該原子炉の安全性について審査を行うことはもちろんであるが、既設の原子炉施設との関連においても十分な検討を行ったうえ、設置の許可がなされる。
 すなわち、まず平常運転時における気体廃棄物による被曝については近隣に設置されている原子炉によるものとの重畳を考慮して評価を行、、周辺の一般公衆が受ける線量が自然放射線による被曝線量に比べて十分低く抑えられることを確認している。
 又、仮に一つの原子力施設において事故が発生したとしても、それが近接している他の原子力施設の事故を誘発することは考えられず、更に、地震等の自然災害に対する防護は十分なされているから、周辺の原子力発電所が同時に重大な損傷を受けるということもないのである。
 従って、一地点あるいは比較的近距離の地点にいくつかの原子炉が設置される場合であっても、安全上の心配はないのである。

イ 福島第二原子力発電所については、その北方約12㎞の地点に位置する福島原子力発電所1~6号炉からの気体廃棄物による被曝の重畳を考慮しても、平常運転時における気体廃棄物による被曝線量は、最も高い地点において全身に対して年間約0.0.016レムと評価され、安全上問題ないのである。

(2)大型化

 福島第二原子力発電所の原子炉は大型原子炉であって安全上問題があるとの意見が述べられたが、以下に述べるとおり、同原子炉は十分安全が確認されているものである。

ア 大型炉としての福島第二原子力発電所原子炉の安全性
 福島第二原子力発電所の原子炉は、既に建設に入っている福島原子力発電所6号炉及び東海第二発電所の原子炉と同型式同容量の原子炉であり、電気出力110万KWの沸騰水型原子炉としては我が国で3基目のものであるが、発電用原子炉の規模の拡大は、既に運転経験のある50万KW級及び80万KW級の原子炉の技術、実績等を踏まえて、安全性の確保を前提としつつ、着実かつ段階的に行われてきている。
 すなわち、福島第二原子力発電所の原子炉の燃料設計、安全防護系の設計、運転条件、制御方式等は、これまでの50万KW級ないし80万KW級の沸騰水型原子炉と何ら変わることはなく、110万KWへの出力増大は基本的には炉心に装填する燃料の量を増し、これによる蒸気発生量の増大により達成しているのであり、この程度の規模の増大による配管、機器等の設計及び製作は、過去の製作経験、現在の工業技術水準からみて十分安全なものの製作が可能である。
 なお、世界的にみても、たとえばアメリカでは、1973年(昭和48年)8月末において、既に、80万KW級の軽水炉が9基、110万KW級のもの3基が運転中であり、更に110万KW級のもの21基が建設段階にある。

イ 原子炉立地審査指針への適合性
 原子炉立地審査指針に適合しているか否かを判断するための災害評価において、敷地境界における被曝線量は、冷却材喪失事故の場合、重大事故のときは、小児甲状腺に対して約3.7レム及び全身に対してガンマ線約0.016レム(ベータ線約0.042レム)、仮想事故のときは、成人甲状腺に対して約48レム及び全身に対してガンマ線約0.79レム(ベータ線約3.0レム)と評価され、又、主蒸気管破断事故の場合、重大事故のときは、小児甲状腺に対して約83レム、全身に対してガンマ線約0.049レム(べ一タ線約0.11レム)、仮想事故のときは、成人甲状腺に対して約32レム及び全身に対してガンマ線約0.079レム(べータ線約0.19レム)と評価された。これらの値は、原子炉立地審査指針のめやす線量である重大事故のときの小児甲状腺150レム、全身25レム及び仮想事故のときの、成人甲状腺300レム、全身25レムを十分下まわっているのである。
 又、上記災害評価における被曝線量について、放射性ヨウ素の体内摂取によるベータ線生殖腺被曝をどのように評価したのかという意見が述べられたが、災害評価においては原子炉の立地条件の適否を判断するとの観点から、全身外部被曝線量及び放射性ヨウ素に対しての決定臓器である甲状腺の内部被曝線量を評価し、これらが原子炉立地審査指針のめやす線量より十分小さいことを確認しているのである。
 なお、放射性ヨウ素(Ⅰ-131)の体内摂取によるべータ線生殖腺被曝線量は、その値が最大となる冷却材喪失事故の仮想事故時においても、0.02レム程度と試算されている。

5 安全研究

(1)安全研究の推進の基本的考え方

ア 原子力の開発に必要とされる安全研究については従来から、日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等の政府関係研究機関における安全研究の推進の
ほか、原子力平和利用研究委託費を活用して民間研究機関による安全研究を推進するなど我が国独自の研究開発が進められるとともに、国際的な研究協力の推進が図られてきたところであり、その成果の中には内外で高く評価されているものが少なくない。

イ 更に、原子力の平和利用の推進を図っていくためには、今後一層の安全研究の促進を図る必要があることに鑑み、原子力委員会のもとに各分野の専門家からなる環境安全専門部会が設けられ、安全研究の推進策及び低レベル放射線の影響解明のための研究方策についての検討が進められ、昭和48年7月にそれぞれについて中間報告がなされているが、今後は、これらの報告をもとにして安全研究の企画、推進、評価を行う安全研究推進会議が設けられ、安全研究の推進が図られていくこととなっている。

(2)安全研究の現状と今後の計画


ア 原子炉設施の工学的安全性については、従来から一次冷却材喪失事故における諸現象解明のためのROSA計画、反応度事故解明に必要な諸現象を把握するための安全性研究炉(NSRR)の建設、核燃料に関する各種の照射計画等が日本原子力研究所を中心として推進されてきているが、昭和49年度には、日本原子力研究所における安全性に関する調査研究部門の拡大を図るとともに、新たに冷却材喪失事故に関する国際共同研究であるマルビッケン計画への参加、軽水炉用燃料を初めとする発電用燃料の照射後試験を行うための大型設施の建設、安全解析機能拡大のための大型電子計算機の導入等安全研究を大幅に拡大していくこととしている。

イ 又、放射線による影響に関しては、動力炉・核燃料開発事業団は、原子力設施から環境へ掛出される気体廃棄物及び液体廃棄物の排出低減化の研究開発として、アルゴンガスからのクリプトン-85の回収法、空気中及び重水中のトリチウムの除去、放射性廃液蒸発処理等に関する研究開発を行っている。

ウ なお、原子力発電所からの放射線のような低レベルの放射線による人体への影響については、現在、「しきい値」の有無についての知見が得られておらず、このため、どんなに低いレベルの放射線によっても影響があるものとあえて仮定して安全対策を講じているところであるが、更にこれに関するより詳しい知見を得るため、一層の研究がなされることが必要である。
 しかしながら、このような研究は、長期間かけて根気よく膨大な実験データを集めて統計的処理をしなければ有益な結果が得られないものであり、短期間に成果をあげることは難かしい。
 このため今後、環境安全専門部会低線量分科会の報告をもとに、放射線医学総合研究所を中心として,更に一層の努力を進めていくこととしているのである。

Ⅲ 使用済燃料の再処理等

1 使用済燃料の再処理

(1)政府は、原子力の平和利用と自主性確保との観点から、核燃料サイクルの確立とその基本方針としている。このため、原子炉設置の審査に際しては、原子力の開発利用の計画的な遂行に支障を及ぼすこととならないように、使用済燃料の再処理が適切に行われることの見通しがある場合に限って許可をすることとしている。

(2)又、使用済燃料の再処理は、国内においてこれを行うことを原則とすることとしており、昭和50年度からは、動力炉・核燃料開発事業団の再処理施設において再処理をさせるとともに、その後の再処理施設についても、動力炉・核燃料開発事業団の施設において得られた経験を生かして民間企業においてこれを建設させるとともに、国はこれに必要な措置を講ずることとしている。
 しかしながら、国内再処理施設の処理能力が過渡的には不足することもあるので、国内の処理能力を超えるものについては、ヨーロッパ等海外の再処理施設において再処理することとしている。
 なお、民間企業側において実施することとしている第二の再処理施設の建設については、電気事業者が中心となって、そのための具体的な準備が進められているところであるが、国としてもこれを積極的に指導、支援していくこととしている。

(3)ところで、使用済燃料の再処理は、原理的には極めて簡単な操作であり、技術的に特に注意を要するような高圧操作及び高温操作はなく、又、放射線の管理にも万全を期するよう十分な措置が講じられているから、その安全性は確保される。


ア すなわち、使用済燃料の再処理における主要な操作は、燃料集合体を機械的に解体及び切断し、それを薬液に溶解させ、更に、溶解液中に上記薬液以外の他の薬液を混入してウラン及びプルトニ
ウムを抽出するのであるが、上記操作は、機械的、物理化学的操作がほとんどであって、温度は常温から130℃程度、圧力は常圧程度のもとで行われるものであり、又、使用薬液も一般の化学工場において用いられる種類のもので、特に爆発性の高い薬品を使うこともなく、更に、いわゆる化学反応といえるのは薬液による燃料の溶解であって、これも特に爆発を起こすような化学反応ではない。
 一方、放射線の管理については、高レベルの放射性物質を扱う装置をすべて厚いコンクリートの壁で囲まれた室内に組み込むことによって放射線を遮蔽するとともに、たとえ放射性物質を含む溶解液の漏れ等があったとしても、当該室内から外部に出ないようにしているほか、放射線の常時監視、遠隔装置等により十分安全に運転操作が行われる。更に、環境への放射線の放出についても、これによる被曝線量が、国際放射線防護委員会の勧告等に基づいて年間0.5レムを十分下まわるよう管理されるのである。

イ なお、現在、日本を含め世界各国において、放出される放射線の低減化のための研究開発が進められている。我が国においては、動力炉・核燃料開発事業団において、昭和48年度から、低レベル廃液の蒸発濃縮技術の開発、クリプトン回収技術等の研究開発、中高レベル廃液の固化処理技術の開発が積極的に進められており、昭和49年度からは、トリチウムの回収技術の開発に着手することとしている。更に、日本原子力研究所においても、中高レベル廃液の固化技術の研究が進められている。
 今後、できるだけ早くこれらの研究開発を完成させ、再処理施設にその成果を反映させることによって、再処理施設から環境へ排出される放射性物質の量を更に減少させることが可能となるのである。

2 固体廃棄物の最終処分

 固体廃棄物の処分については、最終処分の方法が確立されていない、海洋投棄は問題であるなどの意見があったので、これらも含め固体廃棄物の処分に対する基本的な考え方を述べることとする。

(1)前述のように、原子力発電所で発生する放射性固体廃棄物については、現在、それぞれの発電所内に安全に貯蔵保管させることとしており、このことについての安全上の問題はない。
 しかしながら、いずれは、これらの固体廃棄物について適切な処理を行ったうえ最終的な処分を行うことが必要であり、又、今後原子力発電所の増加に伴って固体廃棄物の発生量も全体としてふえるものと予想されるので、人や生物の生活環境に影響を与えないような安全な固体廃棄物の処分方法を確立しなければならないものと考えている。

(2)固体廃棄物の処分については、世界各国で種々の方法が研究され、既に欧米においてはいくつかの方法で実際に処分が行われている。すなわち、イギリス、ベルギー、オランダ、フランス等の欧州諸国では、欧州原子力機関(現在のNEA)の指導のもとに、1967年(昭和42年)以降現在まで5回にわたり深海処分を行って、低レベル廃棄物の深海処分についての安全性について十分な実証を得たといわれている。
 しかしながら、固体廃棄物の処分、特に深海処分等は単に一国だけの問題ではないので、国際的な合意が得られるような方法で実施されるとこが必要である。このため、国際原子力機関(IAEA)においては、海洋処分に関する国際的な基準作成等の検討が進められている。

(3)我が国においては、原子力開発利用長期計画により、低放射能の固体廃棄物については陸上処分及び海洋処分を組み合わせて実施することとし、試験的海洋処分を経て、昭和50年代初め頃までにその見通しを得るという方針を打ち出している。
 低放射能の固体廃棄物の海洋処分に関する安全性については、既に、財団法人原子力安全研究協会の固体廃棄物処理処分専門委員会に委託して調査を行わせた結果、海洋処分は安全に実施し得るとの見通しが得られている。更に、その安全評価をより確実なものとするため、現在、容器の耐久性、放射性物質の浸出率、生物への移行・蓄積、海洋環境調査等についての調査研究が進められている。

(4)又、原子力委員会環境安全専門部会においては、この問題について検討が重ねられ、昭和48年7月固体廃棄物の処分の方法、安全評価の方法、処分体制等について中間答申がなされたが、この答申においても前記長期計画に沿って、陸上処分及び海洋処分を組み合わせて実施すべきことが強調されている。特に、海洋処分については、海洋処分に関する上記の各種の調査研究の結果が得られた段階で、総合的な安全評価を行うとともに,小規模で試験的な海洋処分を実施し、これによって得られた知識と経験とをもとにして、十分厳しい評価パラメータを得たうえで本格的な海洋処分の方法の確立を図るべきであるとしている。
 国としては、この答申の趣旨に沿って固体廃棄物の最終処分の方法を確立していくこととしており、そのための専門機関の設立に努力しているところなのである。

3 廃炉対策

 原子炉が廃止された後の処分の方針が明らかでない。又、廃炉に当たっては安全管理対策が必要であるとの意見が述べられたが、廃炉対策については次のとおりである。

(1)原子炉の解体については、原子炉等規制法に基づき、解体の手順、廃棄物の廃棄・保管等の措置について規制することとしており、解体後においても同法に基づき安全確保上所要の措置が講じられるのである。

(2)原子炉解体の技術的な可能性については、アメリカにおけるハラム及びピクリア両原子炉の解体の実例、日本原子力研究所のJRR-1の解体及びJPDRの改造の例等からみて、圧力容器及びその周辺部分を除く大部分の施設については、現在の技術で十分安全に解体することが可能であるし、圧力容器等の切断、解体も、今後の技術開発によって十分可能になるものと期待できる。
 もちろん、圧力容器等は、切断、解体するまでもなく、遮蔽、密封等所要の措置を講ずることによって、十分安全を確保することができるのであり、そのうえで新しい原子炉を隣接して建設するなど跡地の再活用は十分期待できるのである。

Ⅳ 温排水の環境に対する影響

 発電所から放出される温排水が環境に与える影響については、原子炉等規制法23条に基づく原子炉設置の許可に当たっての審査事項ではなく、電気事業法に基づき通商産業大臣によって規制されることとなっている。
 通商産業省においては、環境審査顧問の意見を聞いて、温排水が環境に与える影響を含め、福島第二原子力発電所の建設・運転が周辺環境に及ぼす影響について審査が行われた。
 原子力委員会は、福島第二原子力発電所原子炉の設置許可に関する答申を行うに当たり、上記環境審査の結果を聴取し、かつ、その内容について原子力委員会環境問題専門委員の意見を求めるなどにより検討したが、原子力委員会としては、福島第二原子力発電所の建設については特段の支障があるところは認められなかった。
 公聴会において述べられた温排水に関する意見については、これを、環境庁、農林省(水産庁)及び通商産業省に伝達したところ、環境庁及び農林省(水産庁)からは、各々の立場からの原子力発電所からの温排水の問題に対する一般的な見解が表明され、又、通商産業省からは、電気事業法に基づいて規制をする立場からの温排水に関する一般的な見解のほか、福島第二原子力発電所の設置に伴う温排水の影響についての見解が得られた。
 以下は、これらの見解を原子力委員会においてとりまとめたものである。

1 温排水問題について

(1)近年、環境問題の重要性は各界において強く指摘されるところであり、環境保全に対する社会の要請もますます厳しいものとなってきている。原子力発電所の設置に当たっても、周辺環境の保全の重要性は例外でなく、温排水の放出による環境に対する影響も、問題点の一つである。我が国では、長程な海岸線を持つという地理的条件から、主として内陸の河岸又は湖岸に立地し河川水又は湖水を使用している欧米諸国とは違って、復水器冷却水のほぼ全量を海水に依存し、しかも、沿岸のほぼ全域にわたって漁業権が設定されており、特に浅海漁業の盛んな地域等では、温排水の放出に伴う温度上昇や流れの変化等による海産生物に対する影響に不安がもたれているのである。

(2)原子力発電所から放出される温排水は、直接的には、人の健康や生活環境の悪化をもたらすような物質の蓄積を招来するものではないものの、上に述べたような影響が懸念されているところであるが、現在までのところ、温排水の放出によって漁業に予測されなかった大きな被害が発生したという報告は我が国では未だなされていない。
 ところで、温排水の環境への影響については、未だ必ずしも十分解明されているとはいえない現状にあるが、水産庁の見解によれば、同庁においては水産研究所等が福井県水産試験場等の協力を得てその調査研究を進めているところであるが、当該影響のうち現在までに得られている知見によれば、温度変
化の程度によっては卵稚仔の発生及び生物相の変化並びに冷却用海水の取水に伴う微小生物の減耗等漁業に対し影響を与えると認められるので、温排水と自然海水との温度の差をできる限り縮小するよう配慮する必要があると考えられるとしている。

(3)このような事情から、環境への十分な配慮なしに温排水が無制限に放出されることは好ましくないと考えられるのであるが、これまでは、温排水問題については、主に原子力発電所の建設に伴う漁業権の消滅や予想される経済的損失に対する補償の中で対処されてきた。
 しかしながら、環境保全に対する今日の強い国民的要請のもとでは、温排水の放出による周辺環境に対する影響の軽減について、自然との調和、自然の再生産力を維持するような対策を講じることが必要とされる。
 このため、環境庁においては、温排水に対して、排水基準の設定等による何らかの規制措置を可及的速やかに実施すべく、中央公害対策審議会に温排水分科会を設置して、目下検討が進められているところであり、一方、科学技術庁、水産庁は、海産生物に対する影響の調査及び温排水を利用した魚介類の養殖についての調査研究を行っている。

(4)又、環境庁の見解によれば、当面、個々の発電所の立地に当たっては、その計画が地元の地方公共団体、漁業組合等の了承が得られたものであり(福島第二原子力発電所の場合は、既に地元漁業組合等の了承も得られている。)、かつ、当該発電所から放出されることとなる温排水について、拡散範囲の予測、海産生物への影響等に関し、現状で可能な範囲において十分な検討が行われ、環境保全上特段の支障が認められないことが必要であるとしている。
 更に、発電所の運転開始後においては、温排水放出地先海域についての継続的な環境監視を実施することが必要であると考えられるので、環境庁は関係機関を通じて十分指導をしていくこととしている。

(5)一方、同様の観点から通商産業省においては、個々の発電所の温排水の環境への影響について環境審査顧問の意見を聞いて審査が行われており、これによれば、福島第二原子力発電所の温排水設備対策については、カーテンウォールにより夏期に底層の冷たい海水を取水すること、砕波帯の陸側に放水口を設け、温排水と自然海水との混合稀釈を促進することなど、現段階において当地点で実行可能な対策が採られているとされているのである。

2 温排水に関する調査研究


(1)我が国における調査研究状況

 温排水問題の重要性に鑑み、国は、環境庁が中心となって、科学技術庁、水産庁、通商産業省及び経済企画庁が連絡をとり、運転中の発電所について、温排水の拡散実態調査と拡散予測手法の研究及び温排水の環境に及ぼす影響調査を実施するとともに、温排水の影響低減化に関する研究を促進するなど、温排水問題究明のための総合的な調査研究を行っている。
 なお、これらと並行して、前述のとおり、環境庁では中央公害対策審議会の中に温排水分科会を設置し、国が実施する温排水の実態調査等の結果を分析、評価し、その知見を基礎として排水基準を策定する作業を進めている。又、科学技術庁では、原子力発電所の温排水利用の研究を財団法人温水養魚開発協会に委託して実施している。
 一方、発電所が立地している地域の水産試験場や地元漁業団体及び電力会社、民間研究機関、大学等による調査研究も行われている。
 今後ともこのような調査研究が積極的に進められる必要がある。

(2)当地点周辺海域に関する調査研究

ア 通商産業省においては、当地点北方約12㎞の地点に位置し、自然環境が類似している福島原子力発電所の前面海域で、航空機による赤外線写真撮影、水温実測により、温排水の実態調査を行っている。

イ 福島県においては、福島原子力発電所の設置に伴う事前調査及び影響調査の一環として、当地点周辺を含む沿岸域の海況と漁況に関する調査を実施しており、同発電所の2号炉が運転を開始する昭和49年度以後は、更に詳細な調査を計画している。

ウ 東京電力株式会社においては、当発電所設置予定地点における海象、気象調査を行うとともに、既存資料を調査し、検討を行っている。又、福島原子力発電所において、温排水拡散に関する調査研究及び温排水が海産生物(主としてプランクトン)に及ぼす影響調査を実施している。
 これら調査、研究のほか、福島県では、温排水利用についても、福島県温排水利用養魚事業推進連絡会議が設置され、調査研究に積極的に取り組んでいるのである。

3 当海域における温排水による影響

 福島第二原子力発電所の冷却水は、前面海域に築造される防波堤の内側から取水し、防波堤の外側へ放水されるが、その量は毎秒約65m3である。
 この放水による影響について通商産業者において行われた環境審査の結果に基づいて、温排水問題について出された意見について述べると、次のとおりである。

(1)温排水の拡散予測

ア 拡散予測計算は、現段階では有効な手段とされている数理モデルによるシミュレーション解析手法で行われた。
 採用したモデルは定常拡散モデルであり、これは、当海域における流れが、一定の周期性を持たず、ランダムな動きを示しているからである。
 なお、このモデルで用いた温排水の鉛直方向の分布は表層3mまでを考慮している。これは環境が類似している福島原子力発電所の実測結果において確認されており、又、国で実施した美浜原子力発電所等の地点についての実測によっても、ほぼ同様の結果が得られている。

イ 海象、気象に関する測定結果は、東京電力株式会社が既に公表した福島第二原子力発電所環境に関する調査資料に示されており、計算に用いた数値は、夏期においては8月の、冬期においては2月の観測値をもとにして定められている。なお、計算に用いた諸数値は、自然環境水温(夏期;22.0℃、冬期;6.5℃)、放水温度(夏期;29.4℃、冬期;14.9℃)、渦動粘性係数及び渦動拡散係数(夏期、冬期とも;沿岸に平行及び直角方向につき同一の値5×105cm2/秒)、恒流成分(夏期、冬期とも;沿岸に平行な南流5cm/秒及び0の2ケース)、気温(夏期;24℃、冬期;3℃)、風速(夏期;2.5m/秒、冬期;3.5m/秒)、雲量(夏期;7、冬期;6)並びに湿度(夏期;85%、冬期;65%)である。

ウ 温排水の拡散範囲の予測は、夏期及び冬期について恒流成分のある場合及びない場合の2ケースの拡散領域を包絡して定めており、これらは舌状になる場合も含めて、高い頻度で起こり得る水温上昇範囲とみなし得る。
 なお、拡散範囲の予測の検討に当たっては温排水による温度上昇値が3℃,2℃及び1℃の場合について行っているが、その結果は次表のとおりであ

(2)海産生物について

ア 魚類に対する影響
 当地点周辺海域の主要魚種は、漁獲統計、漁場図等からみると、イシカワシラウオ、スズキ、ヒラメ、カレイ類等である。
 これらの魚種に対する温排水の影響についての考察は、次のとおりである。

(ア)没岸に近い海域についての主要魚種であるイシカワシラウオ、スズキ、ヒラメ、カレイ類については、前記環境に関する調査資料に記載されているように、主漁場や生活史あるいは生育環境等の生態特性から判断すると、その分布域は温排水拡散範囲に比較し、相当広い範囲に広がっており、又、温排水による水温の上昇範囲は、温排水の拡散予測の項で述べたように、拡散範囲の表層3m程度までであるから、これら魚種の分布に与える影響はほとんどないものと考えられる。
 又、福島県の沖合は黒潮、親潮の衡合する海域で、一般に好漁場域とされているが、これは当地点の温排水拡散範囲に比較してはるか沖合の海域である。

(イ)福島県没岸域のこれらの魚種の主産卵場についてみると、イシカワシラウオは水深10m以浅の没岸で主に河口前面海域の砂質地帯といわれ、産卵場は温排水拡散範囲に比べ相当広い範囲にわたっているものと考えられる。又、温排水拡散範囲には産卵場に適する河口砂質地帯はほとんど見られない。
 スズキ、ヒラメ、カレイ類の産卵場は、温排水
拡散範囲にはほとんどないものと考えられる。

(ウ)漁業に与える影響に関しては、当地点とほぼ同じ状況にある福島原子力発電所の周辺海域における漁業について、発電所の運転開始前後において、魚種組成、漁獲量等が明らかに変化したという報告はない。
 従って、温排水の拡散により、これらの魚種の分布域、産卵場、漁場等に対して大きな影響を与えることはないものと考えられるのである。

イ プランクトンヘの影響

(ア)プランクトンの復水路通過による影響については、現時点では厳密に評価することはできないが、現在運転中の福島、敦賀及び美浜の三原子力発電所において行われている次の実験及び調査により検討が行われた。

a 福島原子力発電所における実験、調査
 東京電力株式会社による実験、調査によれば、次のとおりである。

(a)発電所の運転による放水口付近のプランクトンの分布、種類等の変化を調査するため、季節ごとに、温排水の拡散水域と温排水の影響がない水域とのプランクトンの種類別分布と沈澱量の比較が行われている。
 これによると、調査時における海況や季節によって変化しているが、温排水の拡散水域と温排水の影響がない水域とにおいて特に差があるとは認められていない。

(b)プランクトンの復水器通過時の影響を調べるため、年間を通じて発電所前面海域に多く出現する動物プランクトンの澆脚類に関して昇温接触実験が行われている。この実験は、採取したプランクトンを採取時の環境水温に一定時間保持し、そのうち健全なもの(光を当てると水表面に集まってくるもの)を選び所定の温度(環境水温+8℃)に保った値温槽に入れて1~10分間昇温させ、これを再び環境水温に戻し、24時間経過後顕微鏡下で生死の判定を行い、生残率を求めるものである。この実験結果からは昇温とプランクトン生残率との間には明らかな関係があるとは認められていない。

b 敦賀及び美浜両原子力発電所における実験、調査
 福井県水産試験場による実験、調査においては、発電所の運転によるプランクトンヘの影響を調査するため、取水口と放水口付近のプランクトンや魚卵の出現状況及びプランクトンの活性比較が行われているが、それによればプランクトンや魚卵の量には、取水口と放水口付近とで多少の違いはあっても、放水口付近で著しく減少するという傾向は見られない、又、プランクトンの活性比較についても、放水口において特に活性が低下するという傾向は認められないと報告されている。
 以上のような実験、調査に加え、当地点は外洋に直接面しているため海水の交換が頻繁に行われており、プランクトンの組成、分布等に対し、温排水による大きな影響は現れないものと考えられるのである。

(イ)次亜塩素酸ソーダについては補機冷却永系(冷却水量は復水器冷却水量の約1/50)にのみ注入(1ppm以下)することとしており、これは微量かつ化学的に分解されやすいことなどから放水口付近では検出できない程度となる。従って、前面海域のプランクトン等に対して影響を与えることはほとんどないものと考えられるのである。

(ウ)赤潮の発生については、これらの発生要因として栄養塩類の補給が重要な要素の一つであるが、当地点周辺にはこれらを補給する大きな河川、下水、工場廃水等が少ないこと、及び当発電所前面海域は海水の交換が頻繁に行われていること、又、温排水は栄養塩類を含むものでないことから、発電所設置が赤潮発生の原因になることはないものと考えられるのである。

ウ ワカメ、ホッキ貝への影響
 当地点前面海域は、低潮線以上の岩礁地帯がほとんどないこと、岩質が柔らかいことなどにより、海藻の繁殖条件が悪く、生産力の低い海域とされている。
 又、ワヵメはほとんど採取されていない現況にある。
 ホッキ貝はわずかに富岡川河口付近に棲息が推定されているが、この棲息水域は温排水の拡散域より北側で、距離的に遠く、影響はほとんどないものと考えられるのである。

4 モニタリング計画

 以上のように、温排水の放出により環境に大きな影響を与えることはないものと考えられるが、発電所の
運転による温排水の温度分布及び当海域の海産生物に対する影響を監視するため、東京電力株式会社は水温や有用魚介藻類を主とするモニタリングを行うこととしている。
 モニタリングの具体的な実施方法等については、東京電力株式会社が既に福島県との間に締結している原子力発電所の安全確保に関する協定(昭和44年4月締結、昭和48年2月改訂)に基づき、福島県とも十分協議をして行うこととしている。又、国としても、関係各省庁、地方公共団体及び地元漁業協同組合等の協力のもとに、必要に応じ、東京電力株式会社に対して、実施方法等につき、十分な指導・監督をしていくこととしているのである。

V 原子力発電所の建設と地域開発

 一般的に、原子力発電所の建設には、多額の投資を必要とし、これに伴って、用地取得費、現地における資材の調達、建設関係の雇用に伴う支出等が行われる結果、その地域の経済活動に対して大きな効果をもたらすものと考えられる。このため、原子力発電所の建設がその地域の経済、産業、財政等にどのような影響を与えるのか、原子力発電所の建設によって、どのように住民福祉の向上がもたらされるのかが重要な問題となる。
 ここでは、原子力発電所の建設と地域開発との関係についての考え方や、そのための政府の施策の内容について述べることとする。

1 地域開発との調和に対する配慮

 原子力発電の開発、推進は、いわゆるエネルギー危機が現実化している我が国にとって、今や、最大の国家的事業の一つである。しかしながら、原子力発電の開発、推進は、単にエネルギーを供給することによって国民全体の福祉の向上に役立つものであるだけではなく、原子力発電所の建設地域の振興や開発にも寄与し、これと両立するものでなければならない。
 このため、電源開発についての基本的な計画である電源開発基本計画の策定に当たっては、個々の電源立地計画が地域の自主的な開発計画に支障を与えないよう、関係地方公共団体の意見を反映することとしており、更に具体的な建設に入る段階では、単に地域開発の方向に支障を与えないというだけではなく、発電所の設置が自主的な地域開発と調和し、これに有効に働くよう、配慮するようにしているのである。

2 地場産業に対する影響

(1)地場産業-特に農業や漁業-との関連で、原子力発電所が建設されることによって、そこから排出される放射性物質による農産物や海産物に対する悪影響を懸念する声が聞かれるが、原子力発電所から排出される気体廃棄物又は液体廃棄物による周辺への影響については、既に前述したとおり(Ⅱ-2-(3)参照)、安全審査において厳重な審査がなされているところであり、又、運転開始後においては、常時、環境への放射能の放出が管理され、監視されているのであるから、放射性廃棄物によって、周辺の農産物や海産物が汚染されるというような事態は現実には考えられない。
 従って、原子力発電の仕組み、放射線から防護するための諸措置、事故を防ぐための諸装置等について正しい理解を持つことができれば、このような不安を解消することができるものと考えられる。
 政府が今まで行ってきた原子力発電についての啓蒙活動は必ずしも十分でなかったので、今後は、適切な啓蒙活動、適切な広報活動を積極的に展開し、原子力発電所の地元の産物が誤解のために不当な取扱いを受けるようなことがないようにすることがぜひとも必要であると考えている。それとともに、電気事業者に対しては、原子力発電所の保守運営上そのような誤解を招くようなことがないよう、厳重な指導、監督がなされることが必要である。

(2)又、温排水による影響については、前述のとおり許可に先立って、評価、検討されているが、地元漁業に与える影響を必ずしも回避することができない面もあるので、その点は事業者が補償を行うことによって、地元漁業関係者に対する経済的な打撃がないよう配慮される必要がある。
 更に、海面の埋立てによる漁場の消滅等も問題となり得るが、原子力発電所の建設に必要な最小限の範囲で行われる埋立て等はやむを得ないものである。もとより、これらに伴う漁業権の消滅等は、できるだけ地元漁業に影響を与えないような範囲で行われるべきことはもちろんであるが、これらに伴う漁業補償についても地元漁業関係者の納得を得て十分になされる必要がある。
 福島第二原子力発電所の場合においても、これらについて所要の補償が行われて、関係者との間に円満な解決をみているところである。

3 地域開発への寄与

(1)原子力発電所が建設される地域においては、公共施設や福祉施設の整備が十分行われていない場合も多い。
 このような場合においては、原子力発電所の建設を機会に、その町や村の開発が行われ、住民の福祉が向上するようになれば、原子力発電所の建設がその地域の振興に宿与することとなるものと考えられる。

(2)原子力発電所の建設に伴う地域開発の促進については、かねてから、関係地方公共団体からもいろいろな要望があり、政府においてもこのための措置の内容について検討が重ねられてきた。
 ところでこの場合、道路、港湾、漁港、水道、公園等の施設から公民館、体育館、保育所等に至るまで、公共用施設の整備の必要性は地域に応じてその優先度が異なるものと考えられ、又、地元産業との関係、周辺市町村との関係等についても各々事情は相違するものと思われる。
 このような状況のもとでは、その地域の住民の福祉の向上に資する整備計画の策定は、地元公共団体がイニシアティブを執り、国は、それに必要な指導助言を行うとともに、できるだけの資金的な助成を行うことが最も適切であると考えられる。

(3)このような住民の福祉の向上に資する地域開発を実現するため、政府においては、昭和48年の第71特別国会に発電用施設周辺地域整備法案を提出した。同法案は、原子力発電所建設地点の地元公共団体が策定する整備計画を国が承認し、これに基づいて行われる道路、公園等の公共施設、福祉施設の整備について、国が積極的、優先的にこれを取り上げ、しかも国の補助の割合を通常の場合に比べて嵩上げする、必要があれば電気事業者にその費用の一部を負担させることもできる、というのがその概要であった。
 しかしながら、同法案は財源的な裏打ちが必ずしも十分でなかったこともあり、衆議院において継続審議となっていた。

(4)しかるところ、エネルギー危機の到来といわれる昨今の状況のもとに、新しいエネルギー源である原子力発電の推進が特に重要な課題となり、地元の開発と両立させつつ原子力発電所の建設を推進していくことが焦眉の急となってきた。
 このような状況の中で、従来の発電用施設周辺地域整備法案の助成手段のみでは必ずしも所期の効果を収めることが容易ではないので、抜本的な対策を講じることとし、新たに次に述べる電源開発促進対策特別会計の創設等による電源立地の円滑化対策を講じることとしたのである。

4 電源開発促進対策特別会計の創設等による電源開発促進対策

(1)概要

 発電所の周辺地域の住民の福祉向上を図るための事業を実施するためには多額の資金が必要となるので、その財源に充てるため、目的税(国税)として電源開発促進税を創設するとともに、これらの事業に関する経理を明確にするため、電源開発促進対策特別会計を設置することとする。又、これに伴い発電用施設周辺地域整備法案に所要の修正を加えることとした。

(2)電源開発促進税の創設

 電源開発促進対策の財源に充てるため、一般電気事業者を納税義務者とする電源開発促進税を新設する。

(3)電源開発促進対策特別会計の設置

 電源開発促進税を財源とする発電用施設の周辺地域の整備促進対策等に関する政府の経理を明確にするため、新たに電源開発促進対策特別会計を設ける。主な支出の内容は次のとおりである。

ア 電源立地促進対策交付金

(ア)発電用施設(使用済燃料再処理施設等原子力発電と密接な関連を有する施設を含む。)の所在する市町村及び周辺市町村における道路、港湾、診療所、公民館、体育館等の公共用施設を設置する費用等に充てるため交付する。

(イ)発電所の所在市町村への交付金額は、キロワット当たりの単価を定め、これに基づき算出される額とするが、当該施設が設置された際の固定資産税収入等を勘案し、所要の上限を設ける。又、発電用施設の周辺市町村に係る交付金は、総額において当該発電用施設の所在市町村への交付金の額を限度として交付する。

イ 原子力発電安全対策等交付金
 原子力発電用施設の所在する都道府県に対し、
環境放射線監視施設の設置、温排水の調査、原子力の安全性に関する広報等の原子力発電安全対策等の事業を推進する費用に充てるため交付する。

(4)発電用施設周辺地域整備法案の修正

 前記の諸措置に関連して、現在衆議院において継続審議中の発電用施設周辺地域整備法案に所要の修正を加えた。

(5)このように、電源開発促進対策特別会計の創設等による電源開発促進対策によって、文字どおり、国、都道府県及び市町村が一体となり、自主的な開発計画に基づいて、十分な財政的基盤のもとにその地域の開発を行うことができることになるものと思われる。原子力委員会としても、このような制度が積極的に活用されることによって、原子力発電の推進と住民の福祉の向上とが両立していくようになることは極めて好ましいことと考えているところである。
 (なお、原子力発電所が完成すると、固定資産税が入り、地元市町村の財政を豊かにするのであるが、従来は、基幹産業としての電気事業の重要性及び電気料金の安定等を考慮して、課税標準の特例措置が講じられていたため、必ずしも地元に十分な収入を与えていなかった。このため、この際、地元地域の財政基盤をより一層強化し、地元の振興、開発に資するため、発電所に係る固定資産税の特例措置を廃止した。)

5 電気料金に格差を設けることについて

 原子力発電所が建設される地域の住民福祉の向上に寄与するための一方策として発電県と消費県とで電気料金に格差をつけるべきではないかとの意見が述べられたが、これについての通商産業省の見解は次のとおりである。

(1)電気料金については、従来から電気事業法19条の趣旨により、原価主義に基づいて算定することとしている。
 電力の発電県と消費県については、送電ロス率の相違等について、仮に詳細な原価計算を行うとした場合には、若干の料金格差が生ずることが考えられるが、最終的には、全面的な地域別料金制を採らざるを得ず、極めて繁雑な電気料金制度になるおそれがあり、又、需要密度によっては、必ずしも発電所立地地域の原価が低廉とならない可能性がある。

(2)又、原価を離れて政策的に料金格差を設けるという点については、電気料金も価格の一種であり、価格機構を通じての資源配分の適正化を前提とすべきであり、この前提を崩すことに問題があると考えられる。

(3)このような問題があることから、発電県と消費県について電気料金に格差をつけることについては、慎重な検討が必要である。

(4)発電県、特に電源立地周辺地域の住民の福祉向上のためには、税制面等から電源立地周辺地域の振興に寄与する施策を講じることが妥当であると考えられる。このような観点から、政府は、前述のとおり、電源開発促進対策特別会計の創設等による発電所周辺地域の整備の促進を図るとともに、昭和48年末、発電用施設の固定資産税の軽減措置撤廃の方針を決定し、発電所立地市町村の財政力の強化を図ることとしたのである。

Ⅵ 公聴会、原子力に関する知識の普及

1 公聴会

 先に述べたように、このたび開催された公聴会は、原子炉の設置について、広く地元利害関係者の声を聴取し、これを安全審査等に反映させることをその趣旨としているのであるが、公聴会の開催の時期、意見陳述者の範囲、意見陳述者の指定の方法、公聴会の運営等についていくつかの意見が出されたので、これについて述べることとする。

(1)開催の時期

ア 原子力委員会は、公聴会開催の時期については、審査会が、その調査審議に当たり公聴会で陳述された意見を参考とすることができるよう、安全審査開始後3ヶ月以内に開催することを原則としているのであるが、既に安全審査開始後1年近く経過していた福島第二原子力発電所の原子炉についても、公聴会を開催することが望ましいと考え、開催することとした。

イ 又、基礎工事が始まってから公聴会を開催することは問題であるとの意見も出されたが東京電力株式会社が行った諸工事は、地質調査のための工事、整地工事等であって基礎工事に該当するものではない。
 もとより、安全審査はこれらの工事等に全く左右されることはなく厳正に行われるものであり、安全審査の結果、安全性が確認されて初めて原子炉の設置が許可される。
 なお、発電用原子炉について設置許可を受けた者は許可を受けた後、原子炉の工事着手に当たっては、予め電気事業法に基づき、設計内容等を記載した工事計画について認可を受ける必要があり、電気事業者は、認可を受けた工事計画に従って工事を行わなければならないのである。

(2)意見陳述者の範囲

ア 公聴会が地元利害関係者の声を聴取することをその趣旨としていることに鑑み、公聴会における意見陣述者の範囲は地元利害関係者に限った。
 地元利害関係者としては、原則として地元に居住する者を考えていたのであるが、地元利害関係者の意見を代表すると認められる者、例えば、日頃地元利害関係者と接触しており、地元利害関係者の依頼を受けて調査等を行ったことのある科学者、専門家等も、その居住のいかんにかかわらず地元利害関係者として取り扱うこととした。

イ 又、本件について、別途、科学者等の専門家による公聴会を開催せよとの意見も出された。
 先に述べたように、個々の原子炉に係る安全性については、原子炉はもちろん、気象、地震その他幅広い分野の専門家はよって構成されている審査会の場で厳正な審査が行われているのであるが、更に、原子力委員会としては、安全問題に関して審査会にのみすべてを委ねているのではなく、従来から、特に必要がある事項について原子力委員会に専門の部会を設けて検討を依頼するなど、他の多くの専門家の参加と協力を得つつ、安全基準の検討、安全研究の推進等に関し努力を払ってきている。
 本件については、これまでの検討の実績、各方面の意見等を踏まえつつ安全審査が行われ安全性の確認が得られたものであり、改めて科学者レベルでの公聴会を開催する必要があるとは考えなかつたのである。
 なお、今後とも原子力の安全性に関し、必要に応じ、広く専門家の意見を聞くこととしている。

(3)意見陳述者の指定

ア 意見陳述者の指定については、地元利害関係者の意見を、一方に偏することなく、幅広く聴取するという観点から行うこととした。
 本件の場合、地元利害関係者の意見を幅広く聴取するという趣旨に鑑み、意見陳述者の指定を陳述意見の内容、項目のみの観点から行うことは、必ずしも、この趣旨に沿うものではなく、むしろ陳述意見の内容、項目等を勘案しつつ、各界各層の代表を中心にして指定した方が、陳述意見の内容が、それぞれの立場から具体的かつ鮮明に出され、又、幅広く地元民の意見を聴取できることになり、より望ましいと考えた。
 なお、陳述しようとする意見が同趣旨であるとみられるものが多数あったが、申込みの書面では意見の内容が必ずしも具体的でないものが多く、従ってこれらを同一意見と断定する根拠がなかったため、同一意見の調整の手続きは行わなかった。

イ 又、賛成側の人数が多いのは何故か、反対側の意見陳述者の数が少なく、十分意見を述べることができないとの意見があった。
 先に述べたように、意見陳述者の指定に当たっては幅広く地元の声を聴くという観点から、内容が偏することのないよう十分配慮しつつ、各界各層の意見を代表すると考えられる者を中心に陳述者を選定した。
 今回の場合、意見陳述希望者についてみると、いわゆる賛成意見の者が反対意見の者よりもはるかに多かったのであるが、その比率にとらわれず、なるべく多くの反対意見が述べられるよう配慮した。
 又、意見陳述者の数については、時間的にも公聴会の運営上おのずから限度があり、先に述べた42人の意見陳述者から意見を聴取することとしたのであるが、陳述時間が短いなどの理由により十分意見を陳述できない場合には、文書によって意見を述べることができるものとしており、今回も一部の陳述者から文書により意見が提出されている。

(4)公聴会の運営

ア 公聴会の運営について、質疑応答形式にすべきであるとの意見があったが、前述のように、今回の公聴会は、地元利害関係者の声を聞き、これを安全審査等に反映させることをその趣旨としている。従って原子力委員会としては、陳述された意見を審査会に伝達しその審査に反映させ、又は関係行政機関の検討に委ねるなどの措置を講じたうえで原子力委員会の見解を示すことが適当であると考え、原子力委員会による検討結果説明書という形にとりまとめて陳述された意見に答えることとしたのである。
イ 又、公聴会に係る資料の住民等に対する縦覧については、原子力委員会は、公聴会の開催に先立ち原子炉設置許可申請書及び同添付書類に加えて、東京電力株式会社の作成した環境に関する調査報告書を、科学技術庁、福島県庁、関係町役場に備えて縦覧の用に供した。原子力委員会としては、公聴会のための資料としては上記のものが十分役立ち得るものと考えているのであるが、今後、必要に応じ、できる限り縦覧資料の充実を図っていく考えである。

2 原子力に関する知識の普及

 原子力の研究、開発、利用を円滑に推進するためには、原子力に関する知識を普及することによって、広く国民の理解と協力を得ることが重要であることに鑑み、これまでも国等による広報、青少年に対する教育が行われてきているが、これに関して、国民、地域住民に対する広報活動の充実と広報内容における公正さの確保、原子力教育の充実強化、教育内容の是正等の意見があったので、原子力に関する知識の普及、教育についての考え方を述べることとする。

(1)国民に対する知識の普及

ア 我が国の原子力の開発利用は、先に述べたように、原子力発電を初めとして著しい進展をみせ、原子力の安全問題、環境問題等に対する国民の関心はとみに高まっている。
 このような状況に鑑み、科学技術庁を初めとする関係機関等の連係のもとに、専門家を対象とする研究開発成果の発表会、講演会の開催、新聞・テレビ等を通じての一般国民に対する知識の普及、教職員、関係行政機関の職員を対象とする原子力セミナーの開催、更に地元の要請等に応じた講演会等の開催等が行われてきた。

イ しかしながら、原子力発電所の建設が推進されるなどにより、原子力の利用が、国民、地元住民の生活と一層密接になってくるに従い、広報内容の充実、きめ細かい広報に対する要請がとみに高まってきているので、今後はこれらの要請を十分踏まえ、一層、知識の普及を積極的に進めることとしており、昭和49年度においては国の広報活動の飛躍的な拡大が図られることとなっているのである。

(2)原子力に関する学校教育

 原子力に関する学校教育についての意見に関しては文部省から次のような見解が示された。

ア 原子力についての国民の理解と協力とを得るための教育は学校教育のみならず、広く社会教育、家庭教育を通じて行わなければならないものと考える。
 学校教育においては、児童、生徒の心身の発達段階に応じ関係する教科等を通じて、原子力についての理解を深めさせることとしている。
 例えば、社会科においては、日本の経済や地理を指導する際、エネルギー資源の問題として原子力の平和利用について触れており、又、中学校の理科においては、物質の構造を指導する際、原子の構造等についての概要を理解させることとしている。高等学校の理科や工業科においては、原子の構造や原子核について理解させるとともに、放射性物質の働きとその工業的利用及び原子炉、原子力発電一般についての知識を習得させることとしている。
 更に、地域社会の問題についても、地域社会のあり方や、その地域の人々の生活への影響等に着目させ、より広い視野から解決することが必要であることを理解させることとしており、原子力発電所の問題にも触れられることになっている。なお、その際、必要に応じて、見学、調査、視聴覚教材の利用等を行い、具体的に理解させることとしている。

イ 原子力に関する教育に関連して教科書の検定のあり方について意見が述べられたが、教科書の検定は、適正な教科書を確保するため、教育の目的との一致、立場の公正、正確性、内容の程度、内容の選択、表記、表現等、教科用図書検定基準に定められたさまざまな観点から、教科書原稿の調査審議を行っているのであり、教科書原稿中の欠陥の指摘以上にわたって具体的な記述内容を指示するものではない。記述内容に問題があると指摘された教科書についてもそれぞれの著者が事実を客観的に記述しているだけであり、これを検定の基準に照らして欠陥として指摘する理由は見当たらない。
 なお、指摘に係る教科書には「それ(注:原子力発電所の建設)にともなつて、放射能の害に対する住民の心配がたかまっています」という記述もあり、住民の直接利害が欠落しているとか企業の利益誘導に組み込まれているとかいう批判は当たらないのである。

Ⅷ 地方公共団体への意見に対する福島県の見解

 公聴会において地元地方公共団体に対して出された意見を原子力委員会が福島県に伝達したところ、次の
ような見解が得られた。

1 原子力発電所の設置に係る県の基本的な姿勢

 原子力発電所の設置は、国のエネルギー政策に基づき進められているものであるが、県及び関係町村はその必要性と重要性とを十分に理解し、これに協力する立場をとっている。
 その県内設置に当たっては、周辺地域住民はもとより、県民の安全確保の徹底を第一条件として対処してきており、これまで県及び関係町村が緊密な連絡調整のもとに実施してきた施策は次のとおりであり、今後ともその充実強化を図っていく考えである。

① 県原子力行政連絡調整会議の設置
② 原子力発電所安全確保に関する協定の締結(県と企業)
③ 県原子力対策駐在員事務所の設置(将来は原子力センターを設置する。)
④ 原子力発電所周辺環境放射能等測定機器の整備と測定の実施

 原子力に関する啓蒙啓発事業の実施
 一方、原子力行政は、本来国の行政であることに鑑み国に対して、かねてから安全確保と不安解消とのための施策の強化を要請してきているが、原子力発電所の安全性、環境への影響等について一部住民の間に不安を訴える声があることも事実であるので、県としても国に対して安全審査、検査体制の強化、安全研究の充実、放射性廃棄物処理処分体制の確立、温排水の調査・研究の充実を特に強く要請していく考えである。

2 地方公共団体としての安全確保体制

(1)原子力発電所の安全確保に関する協定

 原子力発電所の安全確保に関する協定(以下「安全協定」という。)は、福島県と東京電力株式会社との間に昭和44年4月締結され、昭和48年2月改訂されたものであるが、県が安全協定を締結するに当たっては、地元住民の意向を代表する町当局の意見要望を十分に調整のうえ締結したものであり、締結後の原子力行政の運営に当たっては安全協定に基づき県と関係町とによって構成されている安全確保連絡会議等を通じ、地元の意見が十分反映できるようになっている。
 なお、原子力発電所に起因して発生した被害の補償については、関係法律により措置されるほか、安全協定12条にも補償の義務を明確化して対処している。
 又、立入調査については、原子力発電所敷地は、原子炉等規制法により特別な管理規制がなされている区域であり、一般住民が自由に立ち入ることは困難であるが、必要に応じ、協定に基づく県職員及び知事が任命した専門委員の立入りを実施し、安全確認に万全を期していく考えである。

(2)県の原子力行政の強化

 原子力発電所の安全性については、これまでの運転実績と国の厳しい安全審査と監督とにより十分確保されていると考えているが、更に原子力行政の重要性に鑑み、県民の安全確保の徹底と原子力行政の適正かつ円滑な運営とを図るため、昭和48年6月、福島県の庁内に副知事を議長とし、関係部局長を委員とする福島県原子力行政連絡調整会議を設置するとともに、原子力発電所に係る専門の事項を調査審議させるため原子炉、温排水、環境放射能等、各分野にわたる専門家を県の専門委員として委嘱したところであり、今後安全対策は一層強化されるものと考えている。

(3)環境放射能の監視

 原子力発電に伴う放射能の監視については、従来企業自身が、原子力発電所周辺における環境放射能の測定を実施し、その結果を県や国がチエックする方法で行われてきたが、地域住民の要望もあり、又、その重要性に鑑み、県としては、昭和48年度当初に、現地大熊町に福島県原子力対策駐在員事務所を設置するとともに,県自体で環境放射能の測定を行うため、測定機器を整備し、定期的な測定を実施している。
 更に昭和49年度早々には原発周辺南北30㎞にわたる地域にモニタリングポストを設置するとともに,原子力センターを建設してテレメーター化による常時監視体制を確立する考えであり、今後、原子力発電所周辺の安全対策は一層充実強化されると考えている。

3 原子力発電所の設置と住民の福祉

(1)発電所の地元への寄与

 電源の確保は、県内における産業構造の近代化、特に工業の振興が図られ、県民所得の向上や県民福祉の増進、更には地方財政の面に大きく寄与しているほか民生用電力の確保にも大きな役割を果たしている。中でも原子力発電所及び火力発電所の設置は地方財政や所得の向上に大きく寄与し、地域開発の促進にもつながっているところである。
 既に原子力発電所が昭和46年3月に運転開始している大熊町の例をみると、町税に占める原子力発電関係の税収については、昭和41年度に全町税の5.2%であったものが、昭和47年度には78.2%となり、町民分配所得の推移では、昭和40年度に県内市町村中で75位であったのが、昭和45、46年度には1位となっている。又、漸増ながら人口が増加しており、他地域の過疎化現象に比較しても流出が少なくなっている。
 なお、原子力発電所の設置は、単に第二次、第三次産業の発展を促すだけでなく、第一次産業の振興にも貢献するものと期待している。更に、原子力発電所の設置に伴い、今後も灌概排水施設、農道等土地基盤整備促進、温排水利用による養魚、システム農業等、農漁業振興が考えられる。
 又、県としては、次に述べるとおり、双葉地域開発基本構想により、住民福祉の向上のための施策を展開していきたいと考えている。

(2)双葉地域開発基本構想

 電源地帯である双葉地域の開発と公共施設の整備及び住民福祉の向上については、県及び地元町においても積極的にその促進を図ってきたところである。
 現在、県では、昭和47~48年度事業として、双葉地域開発計画調査を日本工業立地センターに委託し、開発の基本方向を検討するとともに,昭和48~49年度事業計画として、相双地域エコロジー調査を三菱総合研究所に委託し、自然環境と調和のとれた新しい開発手法を見出すべく検討を進めている。
 又、学識経験者や町村長、県関係部長を構成員とする相双地域振興計画策定協議会を昭和48年12月7日発足させた。この協議会では、現在国会において継続審議中の発電用施設周辺地域整備法案の趣旨を十分採り入れながら、

① 双葉地域の特性と開発可能性とを十分生かした優れた自然環境の保全を図りなら双葉地域の基幹産業である農林水産業の振興と地域に調和した無公害型の工業開発を図る。
② 商業の振興と海浜リゾートゾーンを形成する観光リクリエーションの開発を進める。
③ 地域振興の基盤となる交通網の整備や、生活環境施設、社会福祉施設、教育施設などの公共施設の整備を積極的に推進する。

 との基本方向に基づいて、地元の要望を反映した双葉地域の開発基本構想及び具体的な振興計画の策定を進めている。
 県としては、上記調査結果及び双葉地域開発基本構想に基づき、地域の総合的開発はもちろんその基軸となる工業開発に当たっては、計画的な工業の配置のため、工業団地の先行造成を図り付加価値の高い無公害型の企業を選別誘導し立地することにより、地域住民が真に望んでいる豊かで住みよい地域づくりをしていきたいと考えている。
 なお、公聴会において富岡町の都市化を促進してほしいとの意見があったが、町の振興計画については、上記の双葉地域開発基本構想に基づき地元町の要望を反映した将来計画としたい。
 ちなみに、富岡町は住宅団地を目的として昭和48年度から5ヵ年計画(4,000人、約800戸)の住宅団地造成のための区画整理事業を行っている。
 又、当地域には、核燃料再処理工場は設置しないようにとの要望があったが、県としては当地域はもとより県内の他の地域にも再処理工場を建設させる意図は持っていない。

4 淡水取水による影響

 東京電力株式会社は、木戸川から発電所用水(4,500m3/日≒0.052m3/秒)を、富岡川から工事用水(1日(10時間取水)最大1,800m3÷0.05m3/秒)を取水するが、次の理由によりいずれも環境への影響は心配ないものと思われる。なお、木戸川については、治水を目的とするダムの調査に着手しており、今後、関係地域の水需要量を検討し、必要に応じ多目的ダムとして水資源の確保を図る考えである。

(1)魚族及び河口ヘの影響

ア 木戸川について
 東北電力株式会社木戸川第一発電所の測水所の昭和37年から46年までの10年間の流量資料によれば、この間の最小流量は1.25m3/秒である。この流量は、上記測水所から木戸川を流下しながら渓流や沢からの流入水を加えて多くなる一方、既得水利権者及び町の上水道等の将来計画による最大取水量(1,332m3/秒)を引かれて、東京電力株式会社の取水地点に到達すると0.508m3/秒となる。
 この流量に対し、東京電力株式会社の最大取水量(0.052m3/秒)は約10%であり、残りの約90%に相当する流量が河口に流下するので魚族及び河口付近への影響は、それほど大きなものではないと思われる。
 又、サヶの漁獲期に当たる10、11月の最小流量
は上記流量資料によれば2.76m3/秒であり、上記最小流量よりも流量が多いので、サケの漁獲に対する影響は少ないものと思われる。

イ 富岡川について
 富岡川についても、木戸川と同様に、河口に流下する昭和46年6月から47年5月までの最小流量0.35m3/秒に対して、東京電力株式会社の最大取水量は0.05m3/秒で、約14%であり、残りの約86%の流量が河口に流下することから魚族及び河口付近への影響は少ないと思われる。

(2)生活用水、農業用水への影響

ア 木戸川からの取水について
 東京電力株式会社の取水予定地点は、木戸川最下流の既得水利権者の取水位置より、更に下流に予定しており、残流を取水するので他に影響は与えないものと思われる。

イ 富岡川からの取水について
 工事用水の取水予定地点の下流には1件の既得水利権があるが、取水予定地点の最小流量(昭和46年6月から47年5月までの1年間の資料によると0.35m3/秒)から、この既得水利権者の取水量(0.018m3/秒)を差し引いた流量に対して、東京電力株式会社の取水量は最大の場合でも約15%であるので取水による影響はないものと思われる。
 なお、工事用水は、建設期間中の暫定取水である。

5 防波堤築造に伴う付近の海岸等への影響

 原子力発電所の防波堤が設置された場合の海岸線への影響については、防波堤を築造することにより、砂の移動に与える影響及び海食崖の後退を助長するような要因は見当たらないものと思われる。
 なお、浚深工事等に伴う海域汚濁を防止するため、万全の措置を講じるよう指導してまいりたい。

6 原子力発電についての知識の普及

 原子力発電所の立地に当たっては、地元町村や議会の意向を十分尊重し、又、用地買収、漁業補償に当たっても、土地権利者、漁業権者の理解と協力とを得てきたとえろであるが、地域住民の方々の理解と協力を得るためのPRの重要性については、県及び関係町としても十分に認識しており、今後は定期的にPR誌の発行等も行い一層充実強化を図っていく考えである。
 又、県及び町のPR実施に当たっては、従来とも正確かつ公正な情報の提供に努めてきたとこころであるが、今後とも慎重な配慮のもとに取り組んでいく考えである。なお、原子力発電所設置に係る関係町当局の見解を求めた結果は次のとおりである。
(関係町当局の見解)
 町当局としても原子力発電所の設置に当たっては、地域住民の安全確保を第一条件として対処してきており、この方針は今後とも堅持していくが、住民の一部になお不安を訴える声があることも事実であるので、国及び県に対し、安全確保の一層の徹底と、地域住民の理解を得るためのPR等の実施を強く要請していく考えである。

Ⅷ 原子炉設置許可申請者への意見に対する東京電力株式会社の見解

 公聴会において原子炉設置許可申請者である東京電力株式会社に対して出された意見を原子力委員会が同社に伝達したところ、次のような見解が得られた。

1 原子力発電所の建設に対する考え方

 当社は、かねてから、原子力発電所の建設に際しては、安全の確保、環境の保全及び地域の福祉向上を最重点とし、これらに深い配慮を払っている。
 すなわち、安全の確保については、国の厳しい規制のもとに、設計、建設、運転の各段階において慎重な配慮を行っており、特に耐震設計、非常用炉心冷却設備の設計、放射線管理等については、厳しい条件を考慮して安全の確保に努めている。
 環境の保全については、地域に親しまれる美しい発電所を建設するために、自然美を保存することはもとより、地域固有の自然的条件を十分に活用してよりよい環境づくりに特段の努力を尽くしている。
 地域の福祉向上については、地域の特色を十分考慮するとともに、地元の意向及び指導を得て、できる限りの協力を行、、共存共栄に努めているところである。
 今回、福島第二原子力発電所原子炉の設置について、原子力委員会による公聴会が開催され、更に幅広く貴重な意見を拝聴する機会が得られたので、これらの意見も十分に採り入れていく考えである。

2 安全の確保

(1)放射性物質の排出の抑制

 当社は、従来から原子力発電所の設計、建設の段階
はもとより、運転開始以降においても、設備の改良、新技術の開発、導入等により、放射性廃棄物の処理方法の改善、強化を行、、放射性物質の排出の抑制に努めてきた。
ア すなわち、これを福島原子力発電所についてみると、気体廃棄物については、既に活性炭式希ガスホールドアップ装置を開発、導入するとともに、タービングランド蒸気封入システムの改良を行、、発電所から排出される放射性物質の減少を図ってきた。
 この結果、既に設置許可を受けている6基が全部運転開始した段階でも、敷地境界での全身被曝線量は、周辺監視区域外の許容被曝線量(年間0.5レム)よりはるかに少ない年間0.0042レム程度と評価されている。
イ 次に液体廃棄物については、蒸発濃縮器及び脱塩処理装置の増強を行、、この結果、昭和47年度の排水口における排水の3ヶ月間の平均濃度は、最大の場合でも1CC当たり約8×10-10マイクロキュリー(ただし、トリチウムを除く。)と、排水中の許容濃度(1CC当たり1×10-7マイクロキュリー)よりはるかに低い値になっている。
 なお、トリチウムについても、同期間における3ヶ月間の平均濃度は、最も厳しい条件を仮定して評価しても1CC当たり1×10-7マイクロキュリー以下であり、排水中の許容濃度(1CC当たり3×10-3マイクロキュリー)を十分下まわる値となっている。
ウ 福島第二原子力発電所においても、上記のような対策を全面的に採り入れることとしており、これにより、最終規模である4基の原子炉が設置された場合でも、気体廃棄物による敷地境界での全身被曝線量を、年間0・005レム程度に抑えることとしている。
 又、液体廃棄物についても、排出濃度は上記許容濃度をはるかに下まわることはもちろん、更に、排出する総量については、原子炉1基当たり年間1キュリー以下(ただし、トリチウムを除く。)を目標として抑制することとしている。

(2)放射能の監視

ア 放射能監視の基本的考え方
 当社は、原子力発電所から排出される放射性物質については、前述のとおり、設備面においてこれをできるだけ低く抑えるよう積極的な対策を講じることによって、周辺に影響を及ぼすことのないように配慮しているが、運転に当たっては、放出源において監視するとともに敷地境界付近においても空間線量を連続して監視することによって、周辺公衆の安全を常に確保することとしている。
 更にこれに加えて敷地周辺における放射能の状況も定期的に測定することとしている。

イ 福島第二原子力発電所の放射能監視
 福島第二原子力発電所においては、このような考え方に立って、以下に述べるように厳重な放射能監視を実施する計画である。

(ア)放出源における監視については、放射性物質の放出率、放出濃度等を設置許可の際の安全審査における被曝評価の前提となった値以下とするよう、排気筒モニタ、排水モニタによる常時監視及びサンプリングによる測定監視を行うこととしている。又、敷地境界付近における監視については、敷地境界付近7ヶ所にモニタリングポストを設け、中央制御室において、空間線量率を常時監視するとともに積算線量の測定を行うこととしている。

(イ)以上の措置に加えて、発電所を中心とする数キロメートルの範囲では、モニタリングステーション及びモニタリングポイントにおいて、空間線量率等を測定するとともに、陸水、土壌、海水、海底土、農産物、畜産物及び海産物の放射能を定期的に測定することとしている。
 なお、福島原子力発電所においては、農産物、海産物等について昭和48年度後半には測定対象の種類の増加等監視の強化を図っており、福島第二原子力発電所においてもこの趣旨に沿って適切な監視を行うこととしている。

ウ 監視結果の報告及び公表

(ア)放出源における監視結果については、原子炉等規制法に定めるところにより、定期的に国に報告している。

(イ)又、敷地境界付近における監視測定結果及び敷地周辺における放射能の測定結果は福島県との間に締結した原子力発電所の安全確保に関する協定(以下「安全協定」という。)に基づき、県と当社の職員及び必要に応じ学識経験者も参加して構成される福島県原子力発電所安全確保技術連絡会において評価検討されたうえ、地元の人々に公表されることとなっている。
 なお、安全協定では、放射線の測定結果に疑義が生じた場合等には、その原因を究明するため、
県は設施への立入調査を行うとともに、必要に応じて適切な措置を要求することができるようになっている。

エ 異常が生じた揚合の措置

(ア)当社としては、周辺地域に影響を及ぼすおそれがあるような事態が生じた場合には、直ちに原子炉の停止等、適切な措置を講じ、周辺の人々の安全の確保、環境の保全に万全を期することとしている。なお、この場合、安全協定に基づき、県は立入調査を行うことができ、又、県が行う対応措置の要求に対しては、誠意をもってこれに応ずることとしている。

(イ)なお、当社の原子力発電所が原因で農産物、畜産物及び海産物に影響を与えた場合には、安全協定に基づき、誠意をもって損失の補償をすることとしている。

(3)安全管理

ア 設備の安全性

(ア)福島第二原子力発電所の原子炉については、既に諸外国において運転実績のある80万KW級原子炉と燃料、設計、運転条件等の基本的事項が同じであることを考慮のうえ、110万KWのものを採用したのであり、炉心部分における出力密度も変わりなく、80万KW級原子炉と同様に安全な運転を行うことができる。
(イ)特に同原子炉の機種としては、ゼネラル・エレクトリック社が開発したBWR-5型のものを採用しているが、このBWR-5型の原子炉は既にジンマー発電所、ラサール発電所等アメリカにおいても多数が建設中である。
 なお、最近ゼネラル・エレクトリック社が基本設計として推奨しているBWR-6型の原子炉及び8行8列型の燃料については、今後当社としても十分検討を重ねたうえでその導入等についても考えていく方針である。
(ウ)原子炉に付属する諸設備の火災等の防止については、他の原子炉設施における過去の経験を生かし、火災等の原因となる水素ガス、油等の危険物の管理について、既に十分な対策を講じているところであり、今後も更に慎重な配慮を重ねていく所存である。

イ 安全運転管理

 福島第二原子力発電所の運転管理に当たっては、以下に述べる福島原子力発電所と同様に周辺地域に迷惑を及ぼす事故等を絶対に起こすことのないよう、管理体制の充実・強化、従業員教育の徹底等に万全を期することとしている。

(ア)発電所の管理体制
 福島原子力発電所においては、発電所における通常の業務組織のほかに、原子炉主任技術者、放射線取扱主任者はもとより、保安管理のための専門スタッフを置き、安全な運転のための厳重な管理体制をとっているが、更に、原子力発電保安委員会(本店)、原子力発電保安運営委員会(発電所)を設置し、運転・保守方法、設備の改善等について新方策の提言、実施を図り、管理体制の万全を期している。
 又、労使間には、労使公害安全協議会(本店)及び安全特別専門委員会(発電所)を設置して作業環境の改善、放射線管理に係る安全対策等について緊密な協議を定期的に行い、その結果を逐次実施に移している。

(イ)規定・基準類の整備
 設備の運転方法、点検・補修作業の方法、放射線管理等の基本的事項については、保安規定に定めるとともに、保安管理要項、運転操作基準、巡視点検基準等を制定し、安全運転管理の明確化、的確化を図っている。
 又、安全協定に基づき、福島原子力発電所に関する通報連絡要綱を定め、異常時の通報連絡はもとより発電所の定期点検の実施計画・実施結果、運転・保守状況等についても県及び関係町に通報する体制を整えている。

(ウ)従業員教育・訓練の徹底
 原子力発電所の運転に関係する従業員はもとより、請負業者についても、ウに詳述するように教育・訓練の徹底を図っている。

(エ)なお、前述のような安全確保対策を実施してきたにもかかわらず、過般放射性廃液漏洩事故を起こし、地元に心配をおかけしたことは誠に遺憾と考えている。当社としてはこの経験を踏まえ二度とこのような事故を繰り返すことのないよう安全管理に一層の努力を尽くす所存である。

ウ 従業員の教育・訓練
 原子力発電所の安全運転において従業員の果たす役割は大きく、これら従業員には原子力に関する高度の専門的知識・技能が要求されることから、当社はかねてから原子力に関する基礎知識を修得した者や発電所の運転経験を有する者を運転要員に充てることとし、これら従業員の教育・訓練については専任研修スタッフの設置、原子力関係研修機関の利用等により、特に深い配慮を払っている。

(ア)すなわち、原子力発電所においては、大学又は高校において工学的知識を修得した者、社内教育設施である東電学園において原子力教科を学習した者及び既設火力発電所等で十分運転経験を積んだ者を計画的に運転要員に充て、これらの従業員が運転業務に従事するに当たっては、所定の研修計画に基づき、原子力導入研修を行うとともに、建設業務及び試運転業務を通じて実際の機器による訓練を実施している。又、設備の特性に応じて所要の知識・技能を修得させるために、内外の原子力関係研修機関も適宜利用している。

(イ)上記従業員が運転業務に従事してから後においても専任の研修スタッフが日常業務を通じて運転、操作等に関する再研修、新設設備の特性等に関する特別研修等を適宜実施し、安全運転技術の向上に努めている。

(ウ)なお、今後の運転要員の教育・訓練については、昭和49年4月発足のBWR運転訓練センターの初期訓練コース、再訓練コースを活用し、従業員教育・訓練の一層の充実を図っていく考えである。

(エ)請負業者の従業員の教育については、各請負業者の作業管理責任者、放射線管理責任者に対して、定期的に研修を行っている。その他の従業員に対しては、これらの責任者が教育訓練を行うこととなっているが、更に当社でも安全管理や原子力安全に関する教育を実施し、請負業者の教育に万全を期することとしている。

エ 従業員の安全管理
 原子力発電所の従業員に対しては、特に放射線防護の徹底を期し、従来から放射線の被曝をできる限り低く抑えるよう努めており、福島第二原子力発電所においても、福島原子力発電所と同様この方針に基づいて以下の対策を講じ、従業員の安全管理に万全を期することとしている。

(ア)発電所の設計に当たっては、機器及び遮蔽設備の適正な配置、放射線監視設備の充実等従業員の被曝をできるだけ少なくするよう設備面での対策を講じ、又、運転に当たっては、管理区域への従業員の出入管理、作業に当たっての保護具の着用、作業に係る被曝線量の測定等を厳重に行う。

(イ)このような被曝管理に万全を期するため、先に述べたとおり、特別組織の設置、規定・基準の整備、従業員教育・訓練の徹底を通じて、作業管理の充実・強化を図る。
 更に、昭和48年11月、本店及び発電所に原子力保健安全センターを発足させ、きめ細かい健康管理、被曝管理を実施し、従業員の安全管理に万全を期することとしている。

(ウ)なお、従業員による汚染物品の管理区域外への持出しが行われないよう、日常、従業員に対して厳重に注意するとともに、管理区域における厳重な出入管理を行う。

3 地域への配慮

(1)地域の福祉

ア 当社は、福島原子力発電所建設の当初から、地域の特色を十分考慮し、道路、橋梁の建設等の公共投資はもとより、地域産業の振興、雇用の増大等幅広い分野にわたって、少しでも地元に役立ち得るような措置を、福島県及び地元町村の指導を得て積極的に講じてきたところであり、今後とも一層の努力を尽くしていきたいと考えている。

イ 又、現在当社の職員及びその家族約1,500名がこの地域に居住しており、これらの者が子弟教育、PTA活動、町内会活動等を通じて、極力地元との交流を図ってきており、更に一部の者は交通安全協会、公民館運営審議会等にも参加している。
 今後は、福島第二原子力発電所の職員が増加するので、なお一層積極的に地域の社会、経済、教育・文化活動等に協力していきたいと考えている。

ウ なお、地元への電力供給については、東北電力株式会社と当社との間には既に送電線の連係があって相互に電力融通を行っており、これを通して地元にも電力供給ができる仕組みとなっている。
 原子力発電所の設置を契機に、昭和49年には、浜通り地域でも新たに当社と東北電力株式会社との送電系統の連係が強化されることとなっている。

(2)地元出身者の雇用

ア 現在、福島原子力発電所の建設工事に携わっている地元出身者は、全従事者の概ね5割に当たる約2,000人に及んでいる。
 原子力発電所の建設工期は、1基につき約5年を要し、福島原子力発電所に引き続き福島第二原子力発電所の建設が始まることとなれば、これらがすべて完成するまでには相当長期間にわたって工事が行われることとなる。このため当社は、前述の方々に加え相当数の地元の方々が新たにこれらの仕事に携わることを期待している。

イ 又、運転が開始されても、年1回の定期点検が義務づけられているので、この地域における当社の原子力発電所の建設がすべて完了した後においては、年間を通じて、ほぼ1,600人程度がこの定期点検に伴う整備、補修作業に必要となる。当社はこのためにも極力地元の方々がこれらの仕事に携わることをお願いしたいと考えている。
 このように当社としては、原子力発電所の建設、運転を通じ、地元からの雇用について積極的に配慮しており、今後とも、土地提供者はもとより、中高年層を含めた採用について十分配慮していく考えである。

ウ 更に、原子力発電所の設置を契機として、社会資本が充実し、諸企業が進出することにより、地元の方々の就業の機会はいっそう拡大されていくものと考えられる。

(3)施設等の地元利用

 福島原子力発電所の港湾は、主として冷却水取水及び建設用資材、燃料等の搬出入のために設けたものであるが、漁船等の緊急避難時にもしばしば利用されている。
 又、防波堤に付着したワカメ等の採取については港湾の利用状況等を考慮のうえできる限り協力している。
 福島第二原子力発電所の港湾施設の地元利用についても極力要望に応えていく方針である。
 更に、原子力発電所の温排水を漁業に利用することについて、福島県では、福島県温排水利用養魚事業推進連絡会議を設置して体制を整備し、温排水利用を積極的に推進する方向がとられている。当社としても、その構成員として、この計画の実施に積極的に協力していくこととしている。

(4)淡水取水による影響

 福島第二原子力発電所に必要な淡水は建設工事用水と、建設工事後の運転用水に分けられる。

ア 建設工事用淡水の取水

(ア)建設工事用淡水は富岡川下流からの取水(最大1,800m3/日)と発電所敷地内に設けた3本の深井戸からの揚水(平均200~300m3/日、最大約500m3/日)により対処する計画である。
 取水期間はいずれも発電用水の取水開始までの短期間であり、建設終了後は富岡川からは取水を行わず、深井戸も予備水源とし、常時の揚水は行わない。

(イ)このうち富岡川からの取水については、取水地点下流の既得水利権者及び富岡川鮭繁殖漁業組合の同意を得て、既に福島県から水利使用許可を取得している。

(ウ)又、深井戸からの揚水については、海面下60m以下にある帯水層から揚水するため、敷地周辺の井戸への影響は少ないと考えられるが、深井戸を掘る約半年前から、地元が選定した12ヶ所の井戸について定期的(週1回)に水量の測定を行っており、これにより深井戸使用時に周辺の井戸に与える影響についての監視体制は万全であると考えている。

イ 発電所運転用淡水の取水

(ア)発電所運転用淡水(4,500m3/日≒0.052m3/秒)の確保については、福島県及び地元町の指導により木戸川最下流から取水することとしており、現在水利使用許可の申請中である。
 なお、この淡水は、発電用補給水、碍子水洗用水・飲料水、その他雑用水として使用することとしている。

(イ)又、取水に伴う漁業への影響については、木戸川漁業協同組合と協議を重ねた結果、適正な補償をもって取水に対する同意を得ている。

(ウ)今後の地域の長期的な生活用水の確保等については、当社は、地元の計画に対し、できる限り協力していく考えである。

(5)防波堤の築造による影響

 防波堤の築造に伴う付近の海岸への影響としては、一般に、漂砂の汀線方向移動阻害による砂浜海岸の侵食、堆積及び海底地形の変化、あるいは防波堤による反射波及び波浪の集中等による海岸侵食等が考えられるが、当地点においては、次の理由により、防波堤の築造が付近の海岸に及ぼす影響はほとんどないと思われる。

① 当地域の海岸における卓越波向は、ほぼ汀線に直角方向であることなどから、汀線に直角方向の砂の移動が大勢を占めていると考えられ、しかもこの付近では海底の砂の量も少ないので、海浜及び海底地形の変化は少ない。

② 防波堤の平面形及び構造の決定に当たっては、付近の海岸への影響を少なくするよう、防波堤の付け根部分を汀線にほぼ直角に出して波力を海岸に集中させないようにするとともに、防波堤の前面(外海側)を大量のテトラポッドによって被覆する構造とするので、波のエネルギーを吸収でき、反射波及び沿い波を弱めることになる。

③ 当地点北方約12Kmの福島原子力発電所防波堤周辺海底地形変動の調査結果によれば、福島地点は当地点に比して海底の砂の量が多いにもかかわらず、防波堤築造前後における海底地形の変動領域は防波堤のごく近傍に収まっている。
 なお、既に実施した諸調査に加えて、着工後も引き続き必要な諸調査を行い、防波堤の築造による付近の海岸への影響について十分配慮することとしている。

(6)環境の保全及び交通の安全

ア 環境の保全
 福島第二原子力発電所の建設に当たっては、環境の保全はもとより、よりよい環境づくりに十分留意していく考えである。

(ア)すなわち、発電所構内においては、自然環境の保全に重点を置き、樹木の伐採を必要最小限にとどめるとともに、やむを得ず伐採した箇所については、学識経験者の指導を得て、植物生態学的立場に立ったエコロジー手法を活用して、その土地固有の潜在自然植生を考慮した復元緑化を行うこととする。

(イ)原石山工事においては、関係官庁及び学識経験者の指導のもとに、発電所構内と同様の考え方に立って、表土法面部、土捨場等に植生を行い自然環境にマッチした跡地の保全対策を実施することとする。

(ウ)又、浚深工事等の実施に当たっては、海域汚濁を防止するために沈澱池等において高分子凝集剤を使用する計画であるが、その濃度は極めて稀薄であり、かつ使用期間も工事中のみであることから、海産物への影響はほとんどないと考えられる。

(エ)なお、送電線ルートの選定に当たっては、経過地及び周辺地域における土地利用の現況及び将来の開発計画と十分調整を図るなどして、地元に迷惑を及ぼすことのないよう慎重な配慮を払う考えである。

イ 交通の安全

 建設中の交通安全については、かねてから運転経路の整備、車両運転状況の管理、交通安全教育等の指導強化に十分留意してきたところであるが、今後ともきめ細かい配慮のもとに事故防止の万全を期していきたい。
 なお、一般の交通量の増大に加えて、当社の工事に伴う交通量の増大を考慮して、既に町の道路計画に協力し、夜の森桜通りと国道6号線との交差点の拡幅や、夜の森桜通りの歩道の新設を行っている。

4 原子力発電に関する正しい知識の普及

(1)当社は、原子力発電を正しく理解していただくため、かねてから原子力発電に関する正確な情報を積極的かつ卒直に提供することに努めてきた。

(2)特に、原子力発電所を建設、運転しているこの地域の方々に対しては、日常の交流を通じてはもとより、サービスホールの設置、現場案内、地域の各種学習会への参加、更には関係地方公共団体や地元報道機関への情報の提供等を通じて、直接、間接に幅広く理解活動を進めている。

(3)この理解活動を行うに当たっては、単に広報担当職員のみならず、発電所で働く全職員、更には工事関連業者についても日常の業務を通じあるいは教育・研修の場を通じて、原子力に関する正しい知識を修得させている。

(4)今後、福島第二原子力発電所の設置を契機として、これらの理解活動の一層の充実を図っていきたいと考えている。

 

 

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