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東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置に係る安全性について


昭和49年2月18日
原子炉安全専門審査会

昭和49年2月18日
原子力委員会
 委員長 森山 欽司 殿
原子炉安全専門審査会 
会長 内田 秀雄
東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置に係る安全性について

 当審査会は、昭和47年9月7日付47原委第348号(昭和48年8月11日付48原委第302号および昭和49年2月16日付49原委第49号で一部訂正)で審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 東京電力株式会社福島第二原子力発電所の原子炉の設置に関し同社が提出した「福島第二原子力発電所原子炉設置許可申請書」(昭和47年8月28日付申請、昭和48年7月21日付および昭和49年2月14日付一部訂正)等に基づき審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。

Ⅱ 審査方針

 当審査会は、次のような考え方および方針のもとに審査をすすめた。

1 審査にあたっては、平常時は勿論、地震、機器の故障およびその他の異常時においても、一般公衆および従事者に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも、一般公衆の安全が確保されるべきであることを基本方針とした。

2 審査を行なうに際しては、原子力委員会がこれによるべきであると指示した「原子炉立地審査指針」および「軽水炉についての安全設計に関する審査指針」への適合性を検討した。また、平常時の許容被ばく線量および放射性物質の放出管理については、「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被ばく線量等を定める件」(昭和35年科学技術庁告示第21号)に適合することのほか、国際放射線防護委員会の勧告に基づき実用可能な限り放射性物質の放出を低くすることを目標とすべきであることを方針とした。

3 審査を行なうに際しては、東京電力株式会社福島第二原子力発電所原子炉設置許可申請書および添付書類等に基づき、当該原子炉施設の設置許可段階における基本的計画が安全上から見て妥当であるかどうかを検討した。これらの審査の対象となった設置許可申請書およびその添付書類に記載されている基本的事項は、今後の詳細設計、施工、検査および運転の段階においても堅持されることが法令上前提となっているものである。
 なお、昭和48年9月18日および19日に福島県において、本原子炉設置に係る公聴会が開催されたが同公聴会で陳述された意見等のうち原子炉に係る安全性に関する意見についてはその趣旨を尊重し、審査に反映することとした。

Ⅲ 原子炉施設の立地および基本設計の概要

 本原子炉施設の設置に関する立地条件および安全の基本設計について、東京電力株式会社が提出した原子炉設置許可申請書、同添付書類等にもとづく内容は、次のとおりである。

1 立地条件

(1)敷地および周辺環境

① 原子炉施設を設置する敷地は、福島県双葉郡富岡町および櫓葉町にまたがり、福島県の太平洋岸のほぼ中央に位置する。
 敷地の地形は、標高40~50mの台地上に細かい谷が発達した起伏の多い丘陵であり、敷地面積は、約150万m2で、このうち約20万m2は海面埋立による造成敷地である。
 原子炉建家関係の敷地は、小名浜港工事基準面(基準面)から12mの高さである。
 原子炉から敷地境界までの距離は、北方約900m、西方約950m、南方約500mであり、海面埋立後の護岸までの最短距離は、約90mである。
 また、敷地前面海域には防波堤を構築して静穏な海域を設け、冷却用海水の取水口を保護するとともに発電所用資材の陸揚港とすることになっている。

② 敷地を含む臨海地帯は、標高約50m以下の低い丘陵と海岸段丘からなり、敷地の西方は、標高100~200mのなだらかな丘陵地帯で標高500~700mのおだやかな山容をもつ阿武隈山脈の東縁部へと続いている。
 敷地西方約5kmの阿武隈山脈の東縁部には、双葉断層がほぼ南北方向に走っている。

③ 敷地周辺の人口は、敷地中心より半径5km以内で約12,500人、10km以内で約25,700人、30km以内で約120,000人である。
 また、敷地付近のややまとまった集落としては、北方約1.2kmに毛萱(人口約190人)、南方約0.8kmに波倉(人口約300人)、西方約1.3kmに太田(人口約220人)などがあり、半径3km以内に7地区、半径5km以内に14地区がある。
 周辺の比較的大きな都市としては、南方約30kmにいわき市(人口約33万人)、北方約35kmに原町市(人口約4万人)および西方約60kmに郡山市(人口約24万人)がある。

④ 敷地付近の公共施設としては、半径約5km以内に保育園2、幼稚園2、小学校3、中学校2および高等学校1がある。最も近い病院は10km、養老院は8km離れている。

⑤ 敷地周辺の産業活動は、米、雑穀、野菜を主産物とする農業のほか、養鶏、養豚、乳牛飼育等の畜産も行なわれている。
 工業としては、弱電工場、製材業などの小規模工場がある。漁業は、沿岸漁業等が行なわれており、たこ類、いか類、かれい類などが水揚げされている。
 なお、敷地から北方約12kmに東京電力(株)福島原子力発電所がある。

⑥ 敷地近くを通る交通路としては、国鉄常磐線(日暮里一岩沼間)ならびに国道6号線がある。また、最寄りの港湾としては、南方約40kmに1万トン級の船舶が繋船可能な小名浜港がある。航空路は、敷地から3kmと10km離れた位置の上空に国際線航空路があるが、航空機は通常7,000~8,000mの高度を通過している。敷地付近には飛行場はなく、最も近い飛行場は、北方約100kmにある仙台飛行場である。

(2)地  盤

  敷地付近の地質は、新第三紀鮮新世の相馬層群(別名多賀層群ともいわれる)の上層である富岡層(層厚約400m)と、さらに富岡層を覆う洪積世の海岸段丘層および現世堆積層から構成されている。
原子炉施設の支持基盤となる富岡層は、全体に均質で良く固結した泥岩からなっており、試掘坑内で実施した載荷試験によれば700t/m2以上の極限支持力を有しており、また、この岩盤の弾性波伝播速度は縦波で約1.6km/s、横波で約0.5km/sである。
 原子炉建家、タービン建家等の建物は、基準面上12mの造成敷地に建設されるが、これらの重要施設は岩盤上に設置される。

(3)地  震

 敷地周辺の地震は、東京天文台編「理科年表」、東京大学震研彙報、武者金吉「日本地震史料」等の資料によると、強震以上は約150年に1度、烈震以上は約400年に1度の割合で発生しているが激震以上は起こっていない。
 また、地震被害の記録によると、福島県では、会津若松を中心とする猪苗代湖付近に顕著な地震被害の記録はあるが、敷地周辺では、大きな被害を経験した記録はみられない。
 敷地を中心に半径100km内外において発生した地震を分類すると、その震源が福島県東方沖の外洋にあるものと猪苗代湖付近の内陸にあるものとに分けられる。
 前者には、福島県東方沖地震(1938年11月5日、M=7.7、震央距離64km)、後者には慶長16年会津地震(1611年9月27日、M=6.9、震央距離115km)等がある。

(4)気  象

 敷地は、東北地方南部に位置し、西に阿武隈高地を控え、東は太平洋に接しているため、黒潮暖流の影響を受けて海洋性気候を示しており、内陸地域に比べて夏は涼しく冬は比較的温暖である。
 敷地付近にある気象庁小名浜測候所の記録によれば、気象極値は、日降水量最大227.2mm、最大瞬間風速29.4m/s、最高気温35.4℃、最低気温-10.7℃である。
 台風、集中豪雨などの異常気象は、比較的少なく、これによる顕著な被害は稀である。
 敷地周辺の風については、敷地内の気象観測塔(B観測点、地上高53m、標高約100m、排気筒からの距離約570m)における1年間の観測結果によると、風向は年間を通じて北北西の風が卓越し、その出現頻度は、約20%である。
 また、B観測点における風速は、3~6m/sの風が大半を占めている。
 なお、静穏状態(風速0.4m/s以下の時)の年間出現頻度は、B観測点で約2.2%であり、その継続時間は、1時間以内がほとんどで、最高継続時間は4時間、その出現頻度は約0.7%である。
 大気の安定状態については、B観測点において日射量、雲量を観測し、風速については、敷地外の平地の観測柱(A観測点、地上高10m、標高20m、排気筒からの距離約1.2km)において観測した結果、英国気象局方式によるF型、D型の出現頻度が年間それぞれ31%、27%と多い。F型の継続時間は1時間以内が最も多く、その出現頻度は、約31%であり、最高継続時間は10時間で、その出現頻度は、約0.3%である。また、この時の風は、ほとんど海の方向に吹いており、F型の気象条件で陸に風が吹く場合は、年間5%程度である。
 大気温度の鉛直分布については、前述のB観測点のほかに敷地外の気象観測塔(C観測点、地上高50m、標高150m、排気筒からの距離約2km)で観測を行なった結果、標高150mと120mの間および標高100mと58mの間での逆転層の出現頻度は、年間それぞれ約35%、約44%である。

(5)海  象

 敷地沖合の海流は、黒潮系、親潮系および沿岸系の3水系が複合しており、これら水系の勢力の消長によって海況変動がおこるので、海況は複雑である。敷地前面の海域の水温は、実測記録によると夏期最高約24℃、冬期最低約6℃である。
 潮位については、小名浜港における観測記録によれば、最高潮位は、基準面+約3.1m、最低潮位は基準面一約1.9m、いずれもチリ地震津波時(1960年)に観測されている。平均潮位は基準面+約0.9m、平常時における干満の差は、約1.3mである。
 波高については、福島原子力発電所における観測記録によれば、最大波高は、1965年の台風28号の来襲時に約8mと観測されている。

(6)水  利

 本原子炉施設で使用する淡水は、約1,000m3/dで、木戸川から取水する。木戸川の流量については、河口から上流約19kmの木戸第一測水所において最近10か年の最小流量1.25m3/sが観測されており、河口から上流6kmの夫太郎堰では、最小流量1.84m3/sと推定されている。
 復水器冷却用海水および補機冷却用海水の取水量は約65m3/sで、発電所前面海域の防波堤内側から取水され、コンクリート放水路を経て南側防波堤に設ける放水口より放水される。

2 原子炉施設

(1)概  要

 本原子炉施設は、熱出力約3,300MW(電気出力約1,100MW)の低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却型(沸騰水型)原子炉施設であり、GE社のいわゆる1969年型設計(BWR-5型)に属し、すでに建設中の福島原子力発電所6号炉と同じ設計である。
 福島原子力発電所2.3.4.5号炉等の1967年型設計(BWR-4型)と本原子炉施設の1969年型設計との主な相違点は、1次格納容器がフラスコ形から円錐フラスタム形に変更されたこと、再循環流量制御系が再循環M-G装置から流量制御弁に変更されたこと、非常用炉心冷却系(ECCS)に、高圧炉心注水系と炉心スプレイ系の両方の機能を兼ねた高圧炉心スプレイ系が備えられたこと等である。
 福島第二原子力発電所は、敷地の中央臨海地帯および海面埋立地を基準面上12mに整地造成して海岸線にほぼ平行にタービン建家が設置され、タービン建家の西側に原子炉建家が設置される。コントロール建家はタービン建家の西北隅に設けられ、さらに、コントロール建家の西側に発電所入口を含むサービス建家が配置される。原子炉建家、コントロール建家、タービン建家等の重要施設は岩盤に支持される。
 排気筒は、原子炉の北西約200mに地上高120mの鋼製または鉄筋コンクリート構造のものが設置される。
 発電所前面海域の南側および北側に防波堤が構築され、その他敷地内には、超高圧開閉所、固体廃棄物置場等が設けられる。
 原子炉施設は、原子炉、原子炉冷却系、タービン系および各種の安全防護施設からなる。原子炉冷却系は、給水系、再循環系および主蒸気系から構成される。給水系により原子炉圧力容器に供給される給水は、再循環系の水と合流して炉心を通過し燃料で発生する熱により加熱されて蒸気となる。炉心で発生した蒸気は、気水分離器および蒸気乾燥器を経て圧力70.7㎏/cm2g、温度286℃、流量6,430t/hで、外径約66cmの主蒸気管4本でタービンに送気される。
 高圧タービンおよび低圧タービンを駆動した蒸気は、主復水器で復水され、6段ある給水加熱器で加熱され、給水ポンプで昇圧されて再び原子炉圧力容器に戻る。タービンは、主発電機を駆動させ、約1,100MWの電力を発生させる。
 2ループからなる再循環系は、外径約61cmの再循環系配管で原子炉圧力容器から冷却材の一部を取り出し、再循環ポンプで昇圧してジェットポンプの駆動流体としてふたたび原子炉に戻し、炉心冷却材を強制的に循環させる役割をはたす。
 原子炉の出力制御は、制御棒系および再循環流量制御系によって行なわれるが、原子炉の核反応を停止させる系統としては、制御棒系およびほう酸水注入系がある。

(2)原子炉および炉心

① 燃  料
 炉心燃料は、7×7格子配列の燃料棒49本の燃料集合体を1単位として、764体の燃料集合体で構成される。初期炉心は、平均濃縮度約1.1w/oのタイプ1燃料集合体168体と平均濃縮度約2.5w/oのタイプⅡ燃料集合体596体で構成され、炉心平均の濃縮度は約2.2w/0である。
 炉心の超過反応度の抑制と軸方向出力分布を平担化するために、燃料集合体の一部に可燃性の中性子吸収物質であるガドリニア(Gd203)を含む燃料棒数本が使用される。
 取替燃料は、平均濃縮度約2.7w/oの燃料集合体が用いられる。
 燃料材は、上記の各濃縮度の二酸化ウランおよびガドリニアを含む二酸化ウランを理論密度の約95%に焼結したペレットが用いられる。直径約1.2cm、長さ1.2~1.8cmの焼結ペレットは、厚さ0.94㎜、外径1.43cmのジルカロイ-2製の被覆管に入れられる。燃料棒の有効長さは3.66mである。
 ペレットが入った被覆管は、その両端をジルカロイ-2製の端栓で溶接により密閉し、内部の雰囲気はヘリウムに置換される。1集合体を構成する49本の燃料棒のうちの8本は、燃料棒を支持する上下の燃料支持板を結びつける役割を果たし、別の1本は、7個のジルカロイ-4製のスペーサを支持する。燃料棒はすべて自由膨張ができる構造とされる。49本の燃料棒の周囲は、ジルヵロイ-4製のチャンネルボックスで囲まれる。チャンネルボックスは冷却材流路を定めているほか制御棒作動のガイドおよび制御棒作動による側圧を防ぐ役割をはたす。

② 制御棒および制御棒駆動機構
 制御棒は、中性子吸収物質であるボロンカーバ
イド(B4C)を充填したステンレス管を十字形に配列し、ステンレスシースをかぶせた有効長さ3.63m、ブレード幅2476cm、ブレード厚さ0.79cmのものである。
 制御棒185個は、炉心全体に一様に配置され、それぞれは4体の燃料集合体の中央に位置し、出力分布の調整および反応度制御の機能を果たす。
 それぞれの制御棒には、その底部に落下速度リミッタが設けられ、制御棒の自由落下速度を約95cm/s以下に制限している。
 制御棒は、制御棒下端のヵップリングによって原子炉圧力容器底部にとりつけられた水圧駆動ピストン形式の制御棒駆動機構に結合されて駆動される。
 制御棒の駆動は、24ノッチに分割され、1ノッチ毎の駆動のほか、約7.6cm/sの速度での連続引抜きも可能となっている。スクラム動作はアキュムレータの圧力によって行なわれるが、全ストロークの90%挿入までに要する平均時間は5.0秒以下に設計される。
 制御棒駆動機構は、ステップ毎に制御棒の位置固定を行なうためのラッチ機構および位置指示のための位置検出装置を備える。また、原子炉圧力容器の底部には、制御棒駆動機構ハウジングが破損しても制御棒が炉心から逸出しないようにハウジング支持機構が設けられる。

③ 原子炉内部構造物
 原子炉内部構造物は、シュラウド、気水分離器、蒸気乾燥器、ジェットポンプ等からなる。
 シュラウドは、炉心を取り囲むステンレス製の円筒で、炉心を上昇する流れとシュラウドと原子炉圧力容器との間の環状部を下降する再循環流とを隔離する。シュラウドの上部は、気水分離器のフランジと組み合わされて炉心出口のプレナムを構成し、下部はバッフルプレートによって支持される。
 バッフルプレートには、ジェットポンプディフューザーが据付けられるが、シュラウド、原子炉圧力容器底部およびジェットポンプは、炉心を包む容器を形成し、再循環回路破断の場合に非常用炉心冷却系などでふたたび水を満たし、炉心の露出を防止できるようになっている。
 気水分離器は、入口べーンにより炉心で発生した気水混合流に回転運動を与え遠心力効果によって水と蒸気を分離させる。蒸気乾燥器は、多層波形板からなり、蒸気の湿分をドレンとして分離する。
 ジェットポンプは、マルチノズルタイプのもので、外部の再循環系と連結し、冷却材を炉心に循環する系統を構成する。再循環ポンプで昇圧された再循環流は、駆動流としてジェットポンプのノズルから高速で噴出する。この高速噴出流によりノズル出口のサクシヨン・チェンパに生じた低圧部から、炉心シュラウド外側の環状部の冷却材がジェットポンプ内に吸引される。駆動および吸引の両流体は、ノズルに続く混合室で十分混合されディフューザで圧力を回復して炉心に送られる。
 ジェットポンプは、再循環系1ループにつき10台、合計20台設けられる。

④ 原子炉圧力容器
 原子炉圧力容器は、円筒部内径約6.4m、容器の全長約23mで、胴円筒部には、主蒸気出口、給水入口、再循環水出入口などのノズルが、下鏡板部には制御棒用ノズル、炉内核計測管用ノズル等が設けられる。
 原子炉圧力容器の母材は、原子力発電用マンガン、モリブデン、ニッケル鋼板2種相当品および原子力発電用鍛鋼品2種相当品の低合金鋼が用いられ、上蓋を除いた内面は、腐食防止のためステンレス鋼で内張される。原子炉圧力容器の設計圧力および設計温度は87.9kg/cm29および302℃である。原子炉圧力容器の下端は、円筒状スカートで支持され、容器の頂部は、構造物に取りつけられた横振動防止機構で支持されるが、軸方向および半径方向への容器の膨張ができるように設計される。
 なお、中性子照射による材料の機械的性質の変化を監視するため、原子炉圧力容器壁に照射試験片を取りつけることになっている。

(3)燃料取扱系

 燃料取扱系は、主に原子炉の燃料取り替えを行うためのもので、新燃料貯蔵設備、燃料取替設備および使用済燃料の貯蔵設備からなる。
 新燃料は、発電所に到着後外観検査を受け、新燃料貯蔵庫または燃料プールに貯蔵される。
 新燃料貯蔵庫は、鉄筋コンクリート造りで、炉心装荷量の約30%の燃料が収容される。燃料はラックに入れられ乾燥状態で保存されるが、ラックは、容量いっぱいに燃料を収容しても実効増倍率が0.90
以下に保たれ、万一、燃料貯蔵庫が水で満たされるような事態が生じたとしても、実効増倍率は0.95以下に押えられるような間隔をとって設計される。
 燃料取り替えは、ドライウェルヘッドおよび原子炉圧力容器蓋を取外し、蒸気乾燥器、気水分離器を気水分離器貯蔵プールに移した後、炉心上に水を張った状態で、燃料取り替え機の燃料つかみ器を用いて行う。このつかみ器は、駆動源喪失時においても燃料を落さないような構造に設計される。臨界防止のため、燃料取り替え作業中には、制御棒引抜き操作は行なえないようインターロックされる。
 燃料取り替え時には、燃料被覆管の破損を検査するための装置および破損の大きな燃料を燃料集合体ごとに密封して収容するための容器が用意される。
 使用済燃料貯蔵プールは、原子炉建家内に設けられ、炉心装荷量の約130%の燃料を収容する能力を有するように設計される。
 使用済燃料は、プール内のラックに収納されるが、ラックは、燃料プールの容量いっぱいに燃料が収容されても実効増倍率が0.90以下に保たれ、異常事態が生じても、実効増倍率は0.95以下となるように設計される。
 使用済燃料貯蔵プールには燃料の崩壊熱による水温上昇を防止し、プール水の浄化および水位調整を行なうため、燃料プール水冷却浄化系が設けられる。この系は、循環ポンプ、熱交換器、ろ過脱塩器から構成され、プール水温が52℃以下に保たれるように設計される。また、後備冷却装置として原子炉残留熱除去系が併用できるように設計される。
 なお、原子炉建家クレーンには、重量物を運搬する場合、使用済燃料プール上は通過できないようにインターロックが設けられる。

(4)再循環系および主蒸気系

 再循環系は、2回路からなり、原子炉圧力容器外の再循環回路配管、再循環ポンプ、再循環流量制御弁等から構成される。炉心を循環する冷却材の約1/3%は、外径約61cmのステンレス鋼製配管で原子炉圧力容器から取り出され、再循環ポンプに送られる。再循環ポンで昇圧された冷却材は、再循環流量制御弁、止め弁およびヘッダを通り1回路当り5本の外径約32cmのステンレス鋼製配管を経て原子炉圧力容器にもどり、ジェットポンプの駆動流体となる。
 再循環回路配管の設計圧力および設計温度は、ポンプ吸込側で87.9kg/cm29および302℃、ポンプ吐出側止め弁まで116kg/cm29、302℃、止め弁より原子炉まで109kg/cm2g、302℃である。主蒸気系は、原子炉圧力容器から高圧タービン入口まで4本の外径約66cmの炭素鋼製主蒸気管で原子炉で発生した蒸気をタービンに導く。各主蒸気管には、逃し安全弁、流量制限器、主蒸気隔離弁、タービン主蒸気加減弁、タービン主蒸気止め弁が設けられる。主蒸気管の設計圧力および設計温度は、87.9kg/cm2gおよび302℃である。

(5)原子炉補助系

① 原子炉冷却材浄化系
 原子炉冷却材浄化系は、原子炉冷却材中の核分裂生成物および腐食生成物を除去することにより、原子炉冷却材の純度を高く保つために設けられる。
 この系統は、再循環回路および原子炉圧力容器底部から冷却材の一部を取り出し、再生熱交換器及び非再生熱交換器で冷却し、フィルタ脱塩装置によって浄化脱塩する。浄化後の冷却材は、再生熱交換器で熱回収したのち、給水系に戻される。
 系統は定格給水流量の約2%を処理できる容量となっている。

② 原子炉隔離時冷却系
 原子炉隔離時冷却系は、原子炉への給水が停止し、かつ原子炉が主復水器から隔離されている時に、原子炉の水位を維持するために設けられる。
 この系は、崩壊熱による発生蒸気の一部によりタービンおよびポンプを駆動し、復水貯蔵タンク水または残留熱除去系熱交換器の凝縮水を原子炉圧力容器ヘッドのノズルから炉内に給水する。
 なお、サプレッション・プールの水も炉内に給水することができる。
 この系は、中央制御室からの遠隔手動起動あるいは原子炉水位異常低下信号によって自動起動される。
 この系の運転には、外部電源を必要としない。

③ 残留熱除去系
 残留熱除去系は、通常時および事故時に崩壊熱等の残留熱を除去するための系統である。
 この系は、3つの独立したループで、そのうち2ループは、ポンプ、熱交換器および冷却用海水ポンプからなり、残り1ループはポンプのみ設けられる。残留熱除去系は、弁切り替え操作により、使用モードを変え、蒸気凝縮系、停止時冷却系、低圧注水系もしくは格納容器スプレイ冷却系として使用される。
 蒸気凝縮系は、原子炉隔離時に炉心崩壊熱により発生する原子炉の蒸気を本系統の2ループの熱交換器を用いて冷却凝縮するもので、凝縮水は、原子炉隔離時冷却系の水源となる。
 原子炉停止時冷却系は、2ループの熱交換器を用いて原子炉停止後の炉心崩壊熱および原子炉圧力容器等の保有熱を除去するためのものである。
 低圧注水系および格納容器スプレイ冷却系として使用する際の使用方法は非常用炉心冷却系で述べる。

④ 非常用炉心冷却系
 非常用炉心冷却系は、原子炉冷却材の喪失を伴う原子炉冷却材圧力バウンダリ配管のいかなる破断を想定しても、燃料被覆管が炉心冷却を妨げる程破損するのを防止し、ジルコニウム-水反応を無視しうる程度に抑え、事故後長期間炉心を冷却するために設けられるものであり、高圧炉心スプレイ系1系統、自動減圧系1系統、低圧炉心スプレイ系1系統および低圧注水系1系統(3ループ)からなる。
 さらに、非常用ディーゼル発電機の単一動的機器の故障を仮定した場合にも各機能が喪失しないように、低圧注水系ポンプ2台が1台のディーゼル発電機に、残りの低圧注水系ポンプ1台と低圧炉心スプレイ系ポンプ1台がもう1台のディーゼル発電機に接続される。また、高圧炉心スプレイ系は専用のディーゼル発電機により、自動減圧系は蓄電池により作動する。

(イ)高圧炉心スプレイ系
 この系は、原子炉水位異常低下信号あるいはドライウェル圧力高信号により作動し、復水貯蔵タンク水あるいはサプレッション・プール水を炉心上にとりつけたスパージャヘッダのノズルから燃料集合体にスプレイすることにより配管の破断面積が小さい冷却材喪失事故に対しては水位の確保と減圧、配管の破断面積が大きい冷却材喪失事故に対しては、スプレイ冷却によってその機能をはたす。
 この系の系統設計流量は1441t/h、作動可能炉圧範囲は79.5~Okg/cm2dで、所内電源喪失の場合は専用のディーゼル発電機により作動する。
 また、復水貯蔵タンクの水を循環させることにより、平常運転中でも系統の試験が可能である。

(ロ)低圧炉心スプレイ系
 低圧炉心スプレイ系は、冷却材喪失事故時にサプレッション・プール水を炉心上にとりつけたスパージャヘッダのノズルから燃料集合体上にスプレイする系統で、原子炉水位異常低下信号あるいはドライウェル圧力高信号により起動する。
 この系の系統設計流量は1441t/h、作動可能炉圧範囲は、203~Okg/cm2dで非常用電源にも接続される。
 また、平常運転中でもサプレッション・プールの水を循環して系統の試験ができるようになっている。

(ハ)低圧注水系
 この系は、残留熱除去系の1つのモードとして使用される。
 この系は、3ループ(各ループ毎に1台のポンプ)からなり、原子炉水位異常低下信号あるいはドライウェル圧力高信号で作動し、サプレッション・プール水を直接シュラウド内に注入する。
 3ループのうち1ループは低圧注水系としてのみ使用するが、他の2ループは熱交換器をそなえており炉心再冠水後、格納容器スプレイ冷却系として利用できる。低圧注水系として利用する時は、熱交換器をバイパスさせて使用する。
 この系の系統設計流量は、1690t/h、作動可能炉圧範囲は、15.8~Okg/cm2dで非常用電源にも接続される。また、この系は、サプレッション・プールの水を循環させることにより平常運転中でも系統の試験が定期的にできるようになっている。

(二)自動減圧系
 自動減圧系は、逃がし安全弁7個からなり、このうち6個の逃がし安全弁が作動すれば、一次冷却材配管の中小破断による冷却材喪失事故を想定しても、原子炉蒸気をサプレッション・プールヘ逃がすことにより、原子炉圧力をすみやかに低下させて低圧炉心スプレイ系あるいは低圧注水系による注水を早期に行わせることが可能である。
 この系統は、原子炉水位異常低下信号およびドライウェル圧力高の同時信号により作動する。

⑤ ほう酸水注入系
 ほう酸水注入系は、制御棒のそう入不能によって原子炉の冷態停止ができない場合、中性子吸収材を炉心底部から注入して負の反応度を与え原子炉を徐々に冷態停止するためのものである。中性子吸収材としては、五ほう酸ナトリウム溶液を使用する。系統は、ほう酸水貯蔵タンク、プランジャ形ポンプ、テストタンク等から構成される。ほう酸水溶液は、貯蔵タンクにおいて溶液の飽和温度以上に保たれる。この系はテストタンクを利用して原子炉運転中でも系統を定期的に試験できるようになっている。ほう酸水注入系の作動は、中央制御室で行なわれる。

⑥ 原子炉補機冷却系
 原子炉補機冷却系は、閉回路を構成しており、この系統には、3台の熱交換器およびポンプ(うち各1台は予備)があり、原子炉定格出力運転中の補機冷却を行なうように設計される。補機冷却水は、熱交換器において海水により熱除去される。

⑦ 試料採取系
 発電所機器の運転状態を監視し、運転に必要な情報を得る目的で設けられるもので、原子炉系各部において以下の監視が行なわれることになっている。

(イ)再循環回路
 冷却材水質の監視

(ロ)冷却材浄化系
 冷却材水質の監視およびフィルタ脱塩装置の性能監視

(ハ)主蒸気管蒸気湿分および水素、酸素濃度の監視

(ニ)サプレッション・チェンバ
 サプレッション・プール水の水質および放射能の監視

(ホ)ほう酸水注入系
 ボロン濃度の監視

(へ)残留熱除去系
 熱交換器の海水漏洩検出

(6)タービン設備

 タービン設備は、タービン、復水器系、復水給水系、循環水系およびタービン補機冷却系からなる。
 タービンはくし形6流排気、1,500rpm発電機直結式で定格容量約1,100MWである。高圧タービンの出口には、湿分分離器が設けられる。
 また、低圧タービン翼には、最終段の湿り度を少くするように、湿分分離翼が採用される。
 タービンの回転数の制御は、電気油圧式タービン制御装置で蒸気加減弁、組合せインタセプト弁の開度を調整し、主蒸気流量を制御することにより行なわれ、全負荷をしゃ断しても、非常用調速機の作動には至らないように設計される。タービンの過速度を防止するため、定格回転数の1.10~1.11倍で作動する非常用調速機およびそのバックアップとしてバックアップトリップが設けられる。
 タービンには軸偏心、タービン速度、弁位置、振動、軸ケーシング伸び差、ケーシング温度等を監視する計器が設置される。
 タービンの軸封には、復水貯蔵タンクの復水を蒸発させた蒸気を使用することになっている。
 復水器系は、復水器、復水器空気抽出器等から構成される。復水器は、表面接触単流3区分式で管は管板に拡管して取り付けられる。
 復水器の空気抽出装置としては、運転時に用いる蒸気式空気抽出器および起動時に用いる真空ポンプが設けられる。
 復水給水系は、復水貯蔵タンク、復水ポンプ、復水脱塩装置、給水加熱器、給水ポンプ等から構成される。
 復水貯蔵タンクは、プラント補給水、非常用炉心冷却水、制御棒駆動水の用水を貯留するために設けられる。
 復水ポンプとして、低圧ポンプおよび高圧ポンプ各3台が設けられ、これらのうち各1台は予備とされる。
 復水脱塩装置は、復水全量を通して、復水中の核分裂生成物および腐食生成物を除去するために設けられる。
給水加熱器は、横形Uチューブ式で3系列からなり、1系列につきそれぞれ低圧5台、高圧1台計6台設けられる。
 給水ポンプは、常用として定格給水の50%容量の蒸気タービン駆動が2台、予備として定格給水の25%容量の電動機駆動が2台設置される。
 復水は、低圧復水ポンプにより、復水脱塩装置を経て高圧復水ポンプヘ導かれ、さらに高圧復水ポンプを出た復水は、低圧給水加熱器5台で加熱されて給水ポンプの吸込側に入り、高圧給水加熱器を経て原子炉圧力容器に送られる。
 循環水系は、3台のたて形斜流ポンプにより復水器に冷却用海水を供給する。
 タービン補機冷却系は、閉回路を構成しており、
各タービン補機の冷却を行う。この系統には熱交換器およびポンプ各3台(うち各1台は予備)が設けられる。補機冷却水は、熱交換器において海水により熱除去される。

(7)計測および制御系

 発電所を安定かつ安全に運転するために計測制御系が設けられ、主要な系統はすべて中央制御室において集中監視および制御が行なわれる。

① 原子炉出力制御系
 原子炉の出力制御は、手動による制御棒位置の調整および自動または手動による原子炉再循環流量の調整によって行なわれる。出力運転中、原子炉圧力は2台(うち1台は予備)の圧力調整装置でタービン蒸気加減弁を自動的に調整することにより、また、原子炉水位は、主蒸気流量、給水流量および炉水位の三要素制御方式により予め定められた値にそれぞれ保持される。
 制御棒位置の手動調整は、中央制御室の操作スイッチで水圧駆動系統の弁類を操作することによって行なわれる。この方式による出力制御は、通常は燃料の燃焼に伴なう反応度変化に対するシム制御および出力分布の調整の目的で使われる。
 再循環流量の調整は、再循環系統の流量制御弁の開度調節によって行なわれ、その出力制御範囲は、原子炉系の安全性と安定性を考慮して定められる。
 タービン系の運転状態により、原子炉圧力が過大になった場合には、約25%容量のタービンバイパス系によって主蒸気をバイパスさせる等の主蒸気バイパス制御系が設けられる。

② 核計測系
 核計測系には、炉内の中性子束レベルに応じて適確な検出感度を得るため、3種類の形式の検出器が設けられる。すなわち、中性子源領域では、可動型核分裂計数管、中間領域では、可動型核分裂電離箱および出力領域では固定型核分裂電離箱がそれぞれ使用される。また、超小型核分裂電離箱を検出器とする移動式炉心内計装によって検出器の較正が行なわれる。
 これらの検出器は炉心に適切に配置される。

③ 安全保護系
 安全保護系は、原子炉の安全性を損なうおそれのある過渡状態や誤動作が発生した場合、あるいはこのような事態の発生が予想される場合に原子炉の緊急停止、工学的安全施設の起動などの保護動作を行な、、原子炉および発電所を保護し、安全性を確保するための系である。安全保護系は、少なくとも2チャンネルの系統により構成される。すなわち、原子炉緊急停止系の検出器、トリップ論理回路およびトリップ系は基本的に(1アウトオブ2)×2方式、工学的安全施設の起動用検出器も同様に(1アウトオブ2)x2方式とし、これらに使用される盤、計装配管、電気配線は各系統ごとにそれぞれ分離、独立させる。また、これらは、単一機器の故障、保守等のための機器の取外し、および運転中に系の作動試験を行なっても安全保護系の機能が損なわれないように他の計測制御系からも独立させて設ける。
 原子炉緊急停止系は、次の条件の場合に制御棒を炉内に緊急挿入し原子炉を停止する。
 ドライウエル圧力高、原子炉水位低、原子炉圧力高、中性子束高(中間および出力領域)、中性子束指示低(出力領域)、中性子計装動作不能(中間および出力領域)、スクラム・ディスチャージ・ボリューム水位高、主蒸気管放射能高、EHC(タービン電気油圧式制御系)油圧低、主蒸気隔離弁閉、所内電源喪失(原子炉緊急停止系M-Gセット電源喪失)、地震、タービン主蒸気止め弁閉、タービン蒸気加減弁急速閉(タービンバイパス弁が0.1秒以内に動作開始しない場合)、手動、モードスイッチ「停止」位置。
 また、緊急停止系作動時、万一、スクラム・パイロット弁が不具合になった場合に備え制御棒駆動系に後備緊急停止弁が設けられる。
 工学的安全施設の起動などの保護動作は、次のように行なわれる。
 原子炉水位異常低下信号による主蒸気隔離弁の閉鎖と隔離時冷却系の起動。
 主蒸気管放射能高、主蒸気圧力低、主蒸気管破断のいずれかの信号による主蒸気隔離弁の閉鎖。
 ドライウェル圧力高、原子炉水位低、原子炉建家放射能高のいずれかの信号による常用換気系閉鎖と非常用ガス処理系の起動。
 原子炉水位異常低下あるいはドライウェル圧力高信号による高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系および低圧注水系の起動。
 原子炉水位異常低下およびドライウェル圧力高の同時信号による自動減圧系の作動。
 また、原子炉の運転状態によって必要な場合には、制御棒の引抜きを自動的に阻止するインターロックが設けられる。
 安全保護系の電源は、独立した2系統のはずみ車付きM-Gセットよりなる原子炉緊急停止系母線、バイタル母線および計測母線から構成される。
 安全保護系の駆動源としては、電気および空気圧を使用する。これらは故障しても安全側にむかうフェイル・セイフ、もしくは、故障と同時に現状維持となるフェイル・アズ・イズになるよう設計される。すなわち、フェイル・セイフについては、所内電源喪失の場合には原子炉緊急停止系作動、主蒸気隔離弁閉鎖、格納容器ベント弁閉鎖などが生じ、制御用空気圧喪失の場合には、緊急停止系の作動、格納容器ベント弁閉鎖などが生ずる。
 また、フェイル・アズ・イズについては、主蒸気隔離弁を除く工学的安全施設の起動系統の電源喪失の場合は、その系の現状は維持される。
 安全保護系は、原子炉運転中に手動アクチュエータ試験、自動アクチュエータ試験、単一制御棒スクラム試験、トリップチャンネル試験等を行なうことができるように設計される。これらによって、原子炉緊急停止系の健全性は確保されるとともに原子炉運転中にテスト信号を出して工学的安全施設の起動系統の健全性を確認することができる。

④ 反応度制御系
 原子炉停止系として、原子炉の反応度を制御するために独立した2つの反応度制御系、すなわち、制御棒系とほう酸水注入系が設けられる。
 制御棒系は、制御棒を水圧駆動機構で駆動し原子炉の出力分布の制御と反応度の制御を行なう。制御棒が万一落下しても炉心に急激な反応度付加を起さないように落下速度を約0.95m/s以下に制限する落下速度リミッタが設けられる。
 炉心の余剰増倍率は、第1炉心初期に約0.12△k、第1回燃料取替後に0.15△k以下に押えられるが、制御棒系による反応度制御能力は約0.17△kを有するように設計され、高温状態ではもちろん冷温状態においても原子炉を未臨界にし、かつそれを維持できるようになっている。また、最大反応度抑制効果をもつ制御棒1本が引き抜かれても炉心の実効増倍率が0.99以下になるように設計される。さらに、出力運転中に誤動作によって、万一、制御棒1本が連続引き抜きされる場合には、高出力運転時においては制御棒引き抜き阻止装置がその制御棒近傍の局部中性子束の異常を検知し、熱料が損傷限界に達する前に引き抜きを阻止する。また、零出力時および低出力時においては制御棒価値ミニマイザが引き抜かれる制御棒の反応度価値を炉心寿命初期で0.012△k、制御棒価値が最大となる炉心寿命中期で0.015△k以下になるように制御棒引抜き手順が定められ、手順外の制御棒の引き抜きは阻止される。制御棒系は、185本の制御棒個々にアキユムレータを含む水圧式駆動機構を有し、それぞれ独立した系となっている。原子炉の緊急停止は、個々のアキユムレータの水圧によって行われるが、万一、その圧力が低下した場合にも原子炉圧力によって緊急停止ができる。
 緊急停止に必要な制御棒系の弁は、空気圧作動式であり、空気圧の低下に対しフエイル・セイフな設計とされる。
 ほう酸水注入系は、後備の原子炉停止系として手動で起動され、停止時増倍率0.95以下として単独で定格出力運転中の原子炉を冷態停止できるように設計される。

⑤ 中央制御室
 原子炉施設の平常運転、事故処理および安全停止に必要なすべての計測制御装置は、中央制御室に設けられ、集中監視および制御が行なわれる。さらに、原子炉事故が発生した際にも、運転員が許容線量以上の放射線被ばくを受けることなく制御室内にとどまって所要の操作、措置がとれるように設計される。
 さらに制御室内の火災発生を防止するため制御室内の制御盤、計器類は不燃性、難燃性の材料を用いるほか消火設備も備えられる。また、何らかの原因で制御室に接近不能の場合にも2系統ある原子炉緊急停止電源を停止することにより制御室外から原子炉を停止することができる。

(8)電気系

 発電所で発生した電力は、500kV1回線の送電線で送り出され、約8㎞離れた新福島変電所で4回線の500kV送電系統に連系される。
 発電所の所内電気系統は、主発電機および励磁装置、主変圧器、所内変圧器、起動用変圧器および6.9kV高圧母線、480V低圧母線、120/240V安全保護系母線、直流電源ならびにディーゼル発電機から構成される。
 外部電力は、66kV送電線2回線で新福島変電所から供給される。発電所内には、非常用電源設備としてディーゼル発電機と蓄電池が設けられる。
 ディーゼル発電機は、高圧炉心スプレイ系専用1台のほか工学的安全施設や安全保護系等の非常用負荷の電源として2台が設けられる。それぞれは、分離独立した非常用母線に接続されて2系統の非常用負荷、すなわち、1台は、低圧炉心スプレイ系、低圧注水系A、残留熱除去系海水ポンプAおよびC、非常用ガス処理系A、ディーゼル発電設備冷却水系その他に、また、他の1台は、低圧注水系BおよびC、残留熱除去系海水ポンプBおよびD、デーゼル発電設備冷却水系その他に電力を供給する。
 各ディーゼル発電設備は配電盤、制御盤とも、原子炉建家付属棟内のそれぞれ独立した室に収納される。
 蓄電池は、高圧炉心スプレイ系専用1組のほかタービン非常用油ポンプ類と2系統の原子炉系非常用直流負荷に電力を供給するため、250V系1組、125V系2組が設けられ、それぞれ独立した室に収納される。

(9)放射性廃棄物廃棄施設

① 気体廃棄物処理設備
 気体廃棄物処理設備は、排ガス予熱器、再結合器、排ガス復水器、減衰管、活性炭式希ガスホールドアップ装置、排気筒等からなる。
 再結合器は、触媒を使用して排ガス中の水素と酸素を結合させるために設けられる。減衰管は平常運転時の排ガス流量40Nm3/hにおいて保留時間約30分の容量を持つように設計される。
 活性炭式希ガスホールドアップ装置は、活性炭による希ガスの可逆的吸着現象を利用し、排ガス量40Nm3/hにおいて、キセノンを27日以上、クリプトンを40時間以上保留させることができるように設計され、平常運転時にはその性能が維持されていることを確認するため、この装置の前後に放射能検出器が設けられる。
 なお、排気筒は標高約12mの地上に、高さ120mのものが設置される。

② 液体廃棄物処理設備
 液体廃棄物処理設備は処理する廃液の種類によって、機器ドレン処理系、床ドレン・化学廃液処理系、洗濯廃液処理系からなる。

(イ)機器ドレン処理系は、ポンプ等の機器のシール水、漏洩水などを処理する系統で収集タンク、ろ過装置、脱塩装置などから構成される。
 収集タンクとしては、炭素鋼製のもの3基が設置され、ろ過装置には耐久性のあるトラベリングベルト型が採用される。
 脱塩装置としては、陽イオンおよび陰イオン交換樹脂を混合した混床型が採用される。
 この系の処理設備は、放射能除染係数102以上の能力を持ち、平常運転時に発生する廃液約110m3/dを処理できるように設計される。また、この系の処理水は、復水貯蔵タンクに回収され、原子炉施設の補給水として再使用される。
 なお、機器ドレン廃液は、通常、化学的純度は高いが、化学的純度が低下した場合、床ドレン・化学廃液処理系の蒸発濃縮装置で処理するためバイパス配管が設けられる。このときの処理水も復水貯蔵タンクに回収される。

(ロ)床ドレン・化学廃液処理系は、原子炉建家の床に漏洩した廃液、復水脱塩系樹脂の再生廃液、分析用サンプル水などの廃液を処理する系統で、収集タンク、ろ過装置、蒸発濃縮装置、脱塩装置等から構成される。
 収集タンクは、ステンレス鋼製のもの3基が設置され、蒸発濃縮装置は、溶存固形分を25%まで濃縮できる性能のものが設けられる。
 この系の処理設備は、放射能除染係数103以上の能力を有し、平常運転時に発生する廃液約90m3/dを処理できるように設計される。
 また、この系の処理水は、原則として復水貯蔵タンクに回収され、再使用される。

(ハ)洗濯廃液処理系は、収集タンク、ろ過装置等からなり、収集タンクは、炭素鋼製のもの2基が設置される。
 ろ過装置は、交換が容易なカートリッジ式が採用される。
 この系の廃液は平常運転時に約15m3/d発生するが、処理後環境に放出される。
 なお、プラントの定期点検時のように、建家内で雑用水を多量に使用するとプラント内の保有水量が増加するので、床ドレン・化学廃液処理系の処理水の一部を環境に放出することがあるが、その量は約1000m3/yと見込まれている。

③ 固体廃棄物処理設備
 固体廃棄物処理設備は、貯蔵タンク類、減容機、固化装置等の設備と固体廃棄物置場から構成され、固体廃棄物の性状に応じて処理される。

(イ)原子炉水浄化系のフイルタスラッジは、発生量約15m3/yと見込まれているが、放射能濃度が高いのでスラッジ貯蔵タンクに約10年間貯蔵し、放射能を減衰させる。
 スラッジ貯蔵タンクは、ステンレス鋼製のもの2基が設けられる。

(ロ)液体廃棄物処理設備のうち機器ドレン系で発生するフイルタスラッジは、比較的放射能濃度が高いのでスラッジ貯蔵タンクで約2.5年間貯蔵し、放射能を減衰させたのち、固化材と混合してからドラム缶詰される。貯蔵タンクは、ステンレス鋼製のもの2基が設けられる。これらの発生量は約70m3/y、ドラム缶数で年間約2,400本と見込まれている。

(ハ)その他の系から発生するスラッジおよび使用済樹脂は比較的放射能濃度が低いので長期間貯蔵せずに固化材と混合してドラム缶詰される。これらの発生量は、約35m3/y、ドラム缶数で年間約600本と見込まれている。

(ニ)液体廃棄物処理系の蒸発濃縮装置で発生する濃縮廃液は、同様に処理されドラム缶詰される。これらの発生量は、約200m3/y、ドラム缶数で年間約2,000本と見込まれている。

(ホ)紙、布、使用済空気フィルタ等の雑固体廃棄物は、減容機により圧縮減容し、ドラム缶に詰められる。これらの発生量は約100m3/y、ドラム缶数で年間約600本と見込まれている。
以上のドラム缶詰された固体廃棄物は、固体廃棄物置場に保管される。
 固体廃棄物置場は、鉄筋コンクリート造、屋根鉄骨造で当面発生するドラム缶の約1年分を貯蔵保管する容量のものが設けられる。
 なお、使用済制御棒、チヤンネルボックスなどは、燃料プール内に貯蔵保管される。

(10)放射線管理施設

① 生体しやへい 原子炉圧力容器、原子炉冷却系、燃料取扱系、廃棄物処理系等からの放射線は、コンクリート等によりしゃへいされる。これらのしゃへいは、1次しゃへい、2次しゃへい、燃料取扱しゃへい、補助しゃへいからなり、従事者の作業時間に応じその被ばく線量が現行法令に定められた許容被ばく線量を十分下まわるように設計される。1次しゃへいは主として原子炉圧力容器を取り囲むコンクリート壁、ドライウエル・シェルの外側を取り囲む厚さ約1.9mのコンクリートで構成される。
 2次しゃへいは、原子炉建家側面のコンクリート壁でその高さは地上約55m、厚さは底部では約1.5m頭部では約0.3mである。
 燃料取扱しゃへいは、使用済燃料貯蔵プールコンクリート壁およびしゃへい水からなり、コンクリート壁の厚さは約2m、しゃへい水の水深は約11mである。
燃料取替時は、使用済燃料を原子炉ウエルまで取り出し、水中を移動させて燃料プールに入れ気水分離器、乾燥器等の機器は気水分離器等貯蔵プールに入れそれぞれ水でしやへいされる。補助しゃへいは、原子炉補助系、タービン発電機、廃棄物処理系などからの放射線をしゃへいするもので、主として機器まわりのコンクリート壁からなるが、ところにより保守時に取りはずし可能なコンクリートブロック、または鉄板が用いられる。

② 放射線管理設備
 放射線管理設備は、従事者の放射線防護を行なうため、出入管理室、汚染管理設備、試料分析設備、各種の放射線計測器等が設けられる。
 出入管理室は、管理区域の出入管理ならびに個人被ばく線量などの監視のため、管理区域の入口近くに設けられる。汚染管理設備は人および機器の汚染管理を行なうため、更衣室、シャワー室、洗濯室、機器除染室等が設けられる。
 試料分析設備は、原子炉施設の各系統の液体、気体の試料分析を行なうため、分析室、放射線測定室が設けられる。
 分析室には、分光光度計、原子吸光分析計等の分析機器が置かれ、放射線測定室には多重波高分析器、GM式自動放射能測定装置等が配置される。
 放射線計測器は、原子炉施設内の空間線量率の測定を行なうエリアモニタ、各系統の液体および気体中の放射性物質の監視を行なうプロセス・モニタが設けられるほか個人被ばく管理、汚染管理ならびに環境中の放射性物質の監視等のために設けられる。
 エリア・モニタ、プロセス・モニタ等は連続的に放射線を測定し、中央制御室内に自動記録され、また、放射線がある一定の値をこえたときは警報を発するようになっている。

(11)原子炉格納施設

 原子炉格納施設は、原子炉から放出される放射性
物質を外部に放散させない機能を有し、二重の防壁で構成される。第1の格納施設は、圧力抑制型格納容器で、原子炉および再循環回路を格納し、第2の格納施設は、原子炉建家で、上記格納容器を完全に収納する。

① 原子炉格納容器
 原子炉格納容器は、原子炉圧力容器、再循環回路等を完全に取り囲み、円錐フラスタム形のドライウエル、円筒形のサプレツシヨン・チエンバからなる圧力抑制型であり、再循環回路破断等の事故によつて炉心に蓄積された放射性物質が原子炉建家へ漏洩するのを抑制するようになっている。
 原子炉格納容器に用いられる材料は、原子力発電用炭素鋼圧延鋼板4種相当品等で、設計圧力は、2.85kg/cm29、設計温度は、ドライウエルが171℃、サプレツシヨン・チエンバが99℃である。
 原子炉格納容器は、一次冷却材圧力バウンダリにおけるもっとも苛酷な想定事故である再循環回路瞬時完全破断時の格納容器内圧力および温度が設計圧力および温度をこえないように設計される。
 また、格納容器の漏洩率は、核分裂生成物の大気中への放散の観点から問題となる比較的長期にわたって続く2次ピーク圧力においても設計漏洩率05%/dをこえることがないように設計される。
 格納容器の内部にはドライウエルとサプレッション・チェンバを仕切る鉄筋コンクリート製のダイヤフラムフロアおよびこれを貫通する鋼製ベント管が設けられる。冷却材喪失事故時にドライウエル内に放出された蒸気および水は、ベント管を通してサプレッション・チェンバ内の水中に導かれ、蒸気を凝縮することによってドライウエル内の圧力を抑制する。
 格納容器は、運転中は窒素ガスを充填し、事故に伴う水一ジルコニウム反応によって発生する水素の燃焼を防止することになっている。
 また、格納容器は、漏洩率が設計値をこえないことを確認するための試験ができるように設計される。全体漏洩試験以外にも、ベローズ使用の主要な配管貫通部、所員用エア・ロック、機器搬入用ハッチ等について個々の局部的漏洩試験を行うことができるように設計される。
 格納容器を貫通するプロセス配管には、事故時において格納容器自体と同等の気密性を持たせるため隔離弁が設けられる。原子炉圧力容器に接続されているか、あるいはドライウエル内の空間に開口している配管には、ドライウエルの内外で2個、また、その他の貫通管については、少くとも1個の隔離弁を設け、原子炉水位低、ドライウエル圧力高などの信号によって自動的に閉鎖し、格納容器から放射性物質が放出するのを防ぐように設計される。なお、主蒸気隔離弁は、十分短い時間(3~4.5秒)で閉鎖できるように設計される。
 また、冷却材喪失事故後、ドライウエル内蒸気の凝縮が進みドライウエル圧力がサプレッション・チエンバの圧力より下ると真空破壊装置が自動的に働き、サプレッション・プール水のドライウエルヘの逆流、あるいはドライウエルの破損を防止するように設計される。

② 格納容器スプレイ冷却系
 格納容器スプレイ冷却系は、冷却材喪失事故後サプレッション・チエンバの水を熱交換器で冷却しドライウエル内およびサプレッション・チエンバ内にスプレイすることによって、格納容器内の温度および圧力の上昇を防止するための系統である。
 この系は、独立した2系統からなり、各系統は残留熱除去系ポンプ1台、熱交換器1基および海水ポンプ2台で構成される。冷却材喪失事故時には、低圧注水系として自動起動し、次に遠隔手動操作により電動弁を切替えることによって格納容器スプレイ冷却系としての機能を有するように設計される。
 なお、この系は非常用電源にも接続される。

③ 原子炉建家
 原子炉建家は、格納容器を完全に取り囲む気密の建家である。
 格納容器内に放射性物質が放出されるような場合には、原子炉建家は非常用ガス処理系のフアンによって負圧に保たれ、一次格納施設から放射性物質の漏洩があっても、発電所周辺にフィルタを通らずに直接放出されることがないように設計される。
 原子炉建家への機器搬入用ロックおよび所員用エア・ロック、その他すべての貫通部も気密性を高くし、非常用ガス処理系の排気ファンで内部空気を引いた場合、原子炉建家内は水柱6.4mmの負圧に保たれ、建家外から内部への空気の洩れ込みは100%/d以下となるように設計される。

④ 非常用ガス処理系
 原子炉建家内は、常時負圧に保たれ事故時に格納容器から漏洩してくる放射性物質は、非常用ガス処理系により処理された後排気筒から放出され、直接周辺環境に放散するのを防止するように設計される。
 非常用ガス処理系は、ファン、湿分除去装置、高性能粒子フィルタおよびよう素用チャコール・フィルタにより構成される。よう素用チャコール・フィルタは、溶接シール式の深層チャコール・ベッドであり、原子炉建家から排気筒に放出される空気中のよう素の99%以上を除去するよう設計され、高性能粒子フィルタは、固体状核分裂生成物の99%以上を除去するように設計される。
 この系は、定期的に作動試験及び性能チェックができるように設計される。
 また、この系は、2系統からなり、それぞれ100%容量を処理できる能力を有し、各系は非常用電源にも接続される。

(12)発電所補助系

 発電所補助系には、給水処理系、換気系、消火装置、圧縮空気系、所内ボイラが含まれる。
 給水処理系は、ろ過水をイオン交換塔等を通して純水とし、原子炉冷却系、原子炉補助系、タービン系に補給水を供給する。
 換気系は、原子炉建家換気系、タービン建家換気系、中央制御室換気系および廃棄物処理室換気系に大別される。原子炉建家、タービン建家および原子炉建家附属棟内廃棄物処理室の各換気系は互いに他の換気系とは独立になっており、送風機および排風機により、それぞれの建家の換気を行なう。中央制御室換気系は、事故時に必要な運転操作を汚染の可能性なく継続できるように、事故時に他系統と分離し、高性能粒子フィルタおよびチャコール・フィルタを通して再循環できるような設計となっている。
 消火装置としては、建家の内外に敷設する消火水配管のほか、主要な建物内には炭酸ガス消火設備が設けられる。
 圧縮空気系は、計器用空気系および所内用空気系からなる。
 計器用空気系には、100%容量の圧縮機が2台あり、所内用圧縮機もバックアップとして使用できる設計となっている。
 所内ボイラは、廃棄物処理系の蒸発濃縮装置、屋外タンク、配管の保温および各種建物の暖房用に使用されるほかタービン軸封用蒸気源としても用いることができる。

(13)核、熱設計および動特性

① 核、熱設計
 核的制限値は、実効余剰増倍率として第1炉心の初期には、約012△k、第1回燃料取替以降の炉心では、0.15△k以下に保つことになっている。
 制御棒の反応度制御能力は、全炉心寿命を通じ約0.17△kであり、最大反応度価値を有する制御棒が完全に引抜かれ、その他のすべての制御棒がそう入された状態では、実効増倍率は、0.99以下になるように設計される。
 本原子炉の燃料の設計基準は、平常運転時および過渡状態でも燃料破損が生じないこととしており、このため、最大熱流束が限界熱流束(CHF)をこえないこと、また、ジルヵロイ被覆管の円周方向の平均の塑性歪みが1%をこえないこととしている。
 この基準にもとづき熱的制限値として、平常運転時の線出力密度を0.61kW/cmおよび最小限界熱流束比(MCHFR、限界熱流束と実際の熱流束との比)を1.9としている。
 また、過渡状態においても線出力密度0.92kW/cmおよびMCHFR1.0以上を守ることとしている。
 定格出力運転時における原子炉冷却材の温度および圧力は、炉心出口において約286℃および蒸気ドームで約72kg/cm2absであり、平常運転時の被覆管表面最高温度および燃料中心最高温度は、約400℃および約2,480℃である。

② 動特性
 本原子炉は、ドップラ効果、冷却材のボイド効果等により負の反応度出力係数をもち、制御棒の操作等に起因する反応度の外乱に対して自己制御性を有している。反応度帰還による原子炉の安定性は、再循環流量による出力制御範囲を制限する(たとえば100%再循環流量制御曲線上で出力の約65%~100%)ことによって、炉心寿命を通じて十分に維持される。
 また、キセノンに起因する中性子束の空間振動については、炉心寿命末期においても出力係数は負であり減衰効果があるように設計される。

(14)耐震設計

 原子炉施設は、原則として剛構造とし、原子炉建
家等の基礎は岩盤につけられる。発電所の全ての建物、構築物、機器、配管は安全性に対する重要度に応じA、BおよびCの3種のクラスに分類され、それらに応じて耐震設計が行なわれる。原子炉、原子炉建家等のように、その機能喪失が原子炉事故をひきおこすおそれのある施設および周辺公衆の災害を防止するための緊要な施設はAクラスに分類される。Aクラスの建物、構築物の耐震設計は、基礎岩盤における最大加速度が180Galである地震波により動的解析を行ない、これから求められる水平地震力ならびに建築基準法に示された水平震度の3倍から定まる水平地震力(この場合、地盤および構造種別による低減率は考慮されるが、地域による低減率は考慮されない)を下まわらない値によって行なわれる。
 垂直震度は、建家、構築物の高さ方向に一定とし、それらの基礎底面における水平震度の1/2から定まる値を下まわらない値が用いられる。この場合、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとしている。
 Aクラスの機器、配管系については、運転時の応力と地震力による応力を加え合わせて耐震設計が行なわれる。この場合の水平地震力は前記の地震波(180Gal)に対する動的解析によって求められる値で、かつ据付け位置における支持構造物の水平震度の1.2倍から定まる地震力を下まわらない値が用いられる。垂直震度は、建家、構築物に対する値をとり、水平および垂直方向の地震力は、同時に不利な方向に作用するものとしている。また、これらの地震力によって生ずる変位変形があっても、機能保持に支障をもたらさないように設計される。
 Aクラスのうち、原子炉格納容器、制御棒駆動機構等のように安全対策上特に緊要な施設は、基礎岩盤における最大加速度が270Gal(180Galの1.5倍)の地震波に対して全体としての機能が保持されることが確認される。
 タービン設備、廃棄物廃棄施設等のように高放射性物質に関連する施設は、Bクラスとし、これらの建家、構築物の水平地震力は、建築基準法に定められた水平震度の1.5倍から定まる値(この場合、地盤および構造種別による低減率は考慮されるが、地域による低減率は考慮されない)とし垂直地震力は考慮されない。
 Bクラスの機器、配管系の地震力は、据付け位置における支持構築物の水平震度の12倍から定まる値を下まわらないものとし、共振のおそれのあるものについては、動的に検討される。AクラスおよびBクラス以外の施設は、Cクラスとされ、これらの建家、構築物の水平地震力は、建築基準法に示される震度により定まる値が用いられる。
 Cクラスの機器、配管系の耐震設計は、必要なものについてのみ行なわれ、この場合の水平地震力は、据付け位置における支持構築物の水平震度の12倍から定まる値を下まわらない値が用いられる。
 また、強い地震の際に原子炉を自動的に停止させるため、50~250Galの加速度を検出可能な地震加速度検出計が設けられる。

(15)放射線管理および監視

 発電所内外の放射線レベルを常に監視して、原子炉施設、従業員の作業環境および周辺環境の安全を確認し、また、万一の放射線レベルの異常および事故を発見して、発電所従業員および周辺一般公衆の放射線障害を未然に防止するように放射線管理および監視が行なわれる。放射線管理および監視は、固定モニタ、半固定モニタ、携帯用モニタおよびサンプリング等によって行われる。

① 放射性廃棄物の放出管理

(イ)気体廃棄物
 気体廃棄物の主要なものとしては、復水器空気抽出器系排ガス、起動時に発生する復水器真空ポンプ系排ガス、原子炉建家、タービン建家等の換気系空気があり、これらはいずれも単独あるいは系統別に常時モニタにより管理されて、放出される。

(ロ)液体廃棄物
 液体廃棄物の放出に当っては、あらゆる場合、一旦サンプルタンクに貯え、その放射能濃度をモニタし、復水器冷却水路中における放射能濃度が原子炉等規制法に定められた水中許容濃度以下になることを確認し、さらに魚、貝、海藻等による放射性物質の濃縮および蓄積の効果も考慮して放出することとしている。

② 敷地内の放射線管理

(イ)管理区域内の管理
 原子炉施設、原子炉付属施設、タービン施設等のうち、空間放射線線量率、放射性物質の水中あるいは空気中濃度または表面汚染密度が原子炉等規制法によって定められた値をこえ、またはこえるおそれのある区域を管理区域とするが、実際には管理上の便宜を考慮して原子炉建家、タービン建家、サービスエリアの一部、廃棄物処理室および固体廃棄物置場をそれぞれ全体として管理区域に設定する計画である。管理区域内は、外部放射線に起因する放射線管理区域と空気、水および表面の放射能汚染に起因する汚染管理区域に分け、さらに各区域を放射線レベルの高低、放射能汚染度の高低により、2種類程度に区分して、段階的な出入管理が行なわれる。
 管理区域は、エリアモニタ、ダストモニタ等の固定モニタによって、原子炉の運転に伴なう空間線量率、空気中放射能濃度を連続監視するほか、携帯用モニタおよびサンプリング測定により、空間線量率、空気中および水中の放射性物質濃度、表面汚染密度等の定期的な監視が行なわれる。
 また、管理区域の入口には出入管理室を設け、立入者を管理し、ポケット線量計やフィルムバッチ等の個人モニタ器具の着用を確認するとともに、必要な保護具を着用させ、出口には更衣室、シャワー室、洗濯室等の設備ならびにハンド・フット・モニタ等の汚染検査設備を設けることにより、管理区域に立入る従業員の放射線被ばく線量が法令で定める許容値をこえないよう管理される。
 従業員の被ばく線量が法令で定められた許容量を十分下まわるように原子炉本体、原子炉冷却系、燃料取扱系、タービンおよび補機系、廃棄物処理系等の放射線を受けると予想される場所を従業員の最大滞在時間に応じて区分し、それに応じた放射線しゃへいが設けられる。
 また、換気系は、主要な場所毎に別系統となっており、吸気は清浄区域からとり入れ、汚染の可能性のある区域からフィルターを通して、排気筒から排気するとともに主要系統にはファン・フィルタが設けられ、通常運転時に汚染の可能性のある空気が清浄区域に流入するおそれをなくし、事故時等においても汚染を局所に封ずるように設計される。とくに原子炉建家の空気は換気系排気の固定モニタで連続監視し、規定値をこえた場合は直ちに常用換気系は非常用ガス処理系に切替えられる。
 中央制御室は、事故時においても運転員が制御室内にとどまって、各種の操作を行なえるようにしゃへいや換気系が設けられる。

(ロ)周辺監視区域内の管理
 原子炉等規制法にもとづき、周辺監視区域が設定されるが管理の便を考慮して、敷地の全域を周辺監視区域として設定する計画となっている。
 周辺監視区域の境界付近には、敷地外への放射性物質の放出を監視するため、ほぼ均等に7ケ所のモニタリングポストが設けられ、空間線量率および積算放射線量の測定を行ない中央制御室で常時監視される。また、人の居住を禁止するとともに柵等により区域境界を明示し、みだりに人が立入らぬように出入管理所が設けられ、周辺監視区域への出入を管理することとしている。

③ 敷地外の放射線監視
 発電所から排出された放射性の気体および液体は、固定モニタにより連続監視されるとともに、定期的に、また必要に応じサンプリングにより測定監視される。すなわち、気体廃棄物は、排気筒に設けた排気筒モニタにより連続監視が行なわれ、また、液体廃棄物は、所外に排出する場合には事前にタンク内の放射能をサンプリングにより測定し放出の可否を確認するとともに、排水にあたっては排水管に設けたモニタにより連続監視される。また、原子炉補機冷却用熱交換器ならびに残留熱除去系熱交換器を出た海水も固定モニタにより連続監視し、放水路においては定期的にサンプリングによる測定監視が行なわれる。
 敷地外においては、付近の集落数ケ所に常時サンプリング可能なダストサンプラーを設備したモニタリングステーションが設けられ、空間放射線線量率が測定記録される。
 このほか、発電所を中心とする数kmの範囲内について定期的にサーベイメータによる空間線量率の測定および熱螢光線量計による積算放射線量の測定が実施される。また、井戸水、海水、農水産物などの環境試料を定期的にサンプリングし、その放射能の測定監視も行なわれる。また、放射性物質の放出を伴う事故時には中央制御室と無線連絡をとりつつ敷地周辺の放射能測定を行なうために機動性のある放射能観測車が置かれる。

Ⅳ 審査内容

 本原子炉施設の設置に関する立地条件および安全の基本設計について検討した結果、Ⅰ審査方針で述べた
各項目を満足しており、本原子炉施設に関する安全性は十分確保されるものと設める。

1 立地条件の評価

(1)敷  地

 福島第二原子力発電所の敷地は、福島県双葉郡富岡町および楢葉町にまたがる位置にあり、その面積は、海面埋立地を含め約150万m2である。
 本原子炉から敷地境界までの最短距離は、敷地南側を流れる才練川に接する敷地境界で南方約500mであり、そのほか、原子炉から敷地境界までの距離は、北方約900m、西方約950mである。また、海面埋立後の護岸までの最短距離は約90mである。
 本敷地は、十分な広さを有しており、「原子炉立地審査指針」の重大事故および仮想事故についての災害評価における被ばく線量が、敷地境界においても非居住区域および低人口地帯に対するめやす線量を十分下回る結果が得られている。

(2)地  盤

 原子炉施設は、富岡層の泥岩からなる岩盤上に設置される。この岩盤の性状については、ボーリング、試掘坑等の調査が行なわれたが、これらの結果によると、岩盤には、原子炉施設の基礎として問題となるような規模の断層または破砕帯はみられない。
 また、この岩盤は、載荷試験の結果によると700t/m2以上の極限支持力がある。原子炉施設の荷重は、常時では約60t/m2、これに地震時の荷重を組み合わせた場合においても約100t/m2と推定されるので、岩盤は十分な支持力を有している。
 敷地および敷地周辺は、地形および地質構造上からみて、山津波、地すべりによる被害が発生する恐れはない。
 なお、敷地の西方約5kmの地点にほぼ南北方向に双葉断層が走っているが、この断層は、新第三紀鮮新世の相馬層群の堆積前から堆積後にかけて生成されたものである。相馬層群上には、段丘層が堆積しているが、この段丘層は、航空写真による調査および現地踏査の結果、ほとんど水平に成層しており断層運動の影響を受けていない。また、断層に沿った地表面では低断層崖等新規の活動を示唆する地形はもとより、地すべり、崩落の現象もみられていない。したがって双葉断層は、段丘層堆積以後、活動的ではないと判断される。

(3)地  震

 地震に関する現在までの資料によれば、敷地付近は、全国的にみて、地震活動度の低い地域のひとつにあたっており、顕著な地震被害も記録されていない。地震規模については、過去の地震の震源分布、震度階別の地震回数、最高震度期待値、地震動の最高速度振幅の期待値等に関する資料にもとづき検討を行なった結果、敷地付近の地震動は、たかだか烈震(地表加速度250~400Gal)が起きる度程であり、また、敷地付近に最も大きな地震動を与えた地震は、福島県東方沖地震(1938年11月5日、M=7.7、震央距離約64km)と堆定される。
 耐震設計に用いる基礎岩盤加速度については、前述した烈震の地表加速度を現地における地震観測結果にもとづいて基礎岩盤加速度に換算した値ならびに福島県東方沖地震について各種の計算式による基礎岩盤加速度の計算結果を総合検討した結果、最大加速度は180Galを上まわることはないと判断する。
 また、耐震設計の入力波形は、El Centro 1940年NS成分、Taft1952年EW成分の2波のほか、現地において観測された地震(1971年9月8日、M=4.3、震央距離約48km)の記録波を用いるが、これらの波形は、固有周期0.1~0.5秒の構造物に大きな応答を与えるものであり、主として固有周期0.5秒以下の短周期振動系からなる原子炉施設に対して適切な波形である。

(4)気  象

 1940年から1970年の間において、小名浜測候所で観測された記録によると、気象極値は最高気温35.4℃、最低気温-10.7℃、最大瞬間風速29.4m/sである。
 小名浜測候所は、当該敷地より南方約40㎞の地点にあるが、距離、地形条件等から当該敷地と類似の気象条件をもつものと考えられる。
 したがって、当該敷地の気象極値も上記の値と大差ないものと考えられるので、これらを参考として原子炉施設を設計することは妥当であると判断する。
 平常時の被ばく評価および災害評価に用いる気象条件は、敷地およびその周辺について、1年間(1971年4月~1972年3月)にわたる風向、属速、気温鉛直分布、日射量、雲量の観測結果を用いているが、気象観測方法、当該観測結果と小名浜測候所における長年の観測結果との比較などを考慮すると、これら
の観測結果を評価の基礎とすることは妥当である。
 地形による風の影響については、敷地および周辺の地形を模擬した風洞実験を実施し、その結果を考慮して排気筒有効高さを求め、被ばく評価を行なっていることは妥当である。

(5)海  象

 敷地前面海域の潮位については、小名浜港における潮位記録によれば、小名浜工事基準面(基準面)に比較して最高潮位はチリ地震津波時で約3.1mである。
 当該原子炉施設への潮位の影響について、満潮時に上記チリ津波が襲来した最悪の場合を想定しても、敷地の高さが基準面上12mであるので潮位の影響は受けない。また、波高については、福島原子力発電所の観測結果によると、最大波高は、1965年の台風28号の襲来時で約8mであるが、敷地前面に防波堤を構築するので高波浪の影響は防止される。

(6)淡  水

 本発電所の淡水はⅢ-1-(6)で述べた木戸川から取水し、原水タンク(約10,000m3)に貯留して使用する。淡水は、プラント補給水、樹脂再生用水、碍子水洗用水等に使用されるが、その量は、先行炉の使用状況からみて妥当である。
 木戸川の淡水は、福島県衛生研究所の水質調査の結果(昭和46年10月2日、186号)によると良質であり、またプラント補給水等は、脱塩装置により純水として使用されるので問題はない。

(7)社会環境

 敷地周辺の現在から将来にわたる人口、農業、工業等の動態については、福島県勢長期展望、双葉地方広域市町村圏計画等の各種資料をもとに調査されている。これらの調査によると、敷地周辺の産業および公共施設の状況は本原子炉施設の設置にあたってとくに支障はないと判断する。
 人口については、上記資料のほか、厚生省人口問題研究所および総理府統計局の資料を参考とし、2020年までの推定を行ない、災害評価時の全身被ばく線量の積算値を検討した結果、この線量の増加は、将来においてもわずかである。
 本原子炉施設に最も近い飛行場は、約100㎞離れた仙台飛行場である。この飛行場で離着陸する際の航空機の事故によって本原子炉施設が直接影響をこうむることについては考慮する必要はない。
 なお、敷地から約3㎞および約10㎞離れた位置の上空に、それぞれ国際線航空路があり、敷地上空は、前者の保護空域に含まれている。
 保護空域は計器誤差、風による影響等により航空機が指定のコースからずれることを考慮して、航空機を保護するため設けられる空域であり、また、航空機は通常7,000~8,000mの高度で水平飛行しているので、航空機が墜落し、かつ、それが原子炉施設に直接影響を与えることについては考慮する必要はない。

2 原子炉施設の安全評価

(1)準拠規格ならびに基準

 本原子炉施設の設計、製作ならびに検査に当たっては、次の法令、規格および基準にもとづくものとしている。

① 原子炉の設置、運転等に関する規則
② 核燃料物質の使用に関する規則
③ 原子炉の設置、運転等に関する規則にもとづき許容被ばく線量等を定める件
④ 電気工作物の溶接に関する技術基準を定める通産省令
⑤ 電気設備に関する技術基準を定める通産省令
⑥ 発電用原子力設備に関する技術基準を定める通産省令
⑦ 建築基準法
⑧ 労働安全衛生法
⑨ 日本工業規格
⑩ 日本建築学会各種構造設計および計算基準
⑪ 電気学会電気規格調査会標準規格
⑫ 電気協会電気技術規程および電気技術指針

 また、このほか、ASME、USASI、ASTMの規格に準拠するものとしている。これらの準拠基準ならびに規格等は、安全上適切と認められているものである。

(2)耐震設計

 Ⅲの耐震設計の項目で述べられている耐震設計の基本的考え方および設計に当たっての基礎岩盤における最大加速度の選定の考え方は妥当である。
 また、動的解析に用いる地震波形として、ElCentro、Taftおよび現地地震波を用いることとしているが、これらの波形を用いることは入力条件として妥当である。
 なお、建物、構築物および機器配管系の耐震設計に当たっての重要度による分類も適切であると判断する。

(3)炉心設計

 本原子炉の炉心設計条件としての燃料破損の限界の考え方は、従来のBWRの燃料設計方針と同じである
。 破損限界の一因としている燃料被覆管の円周方向の平均の塑性歪1%については、燃料材料の性質および寸法、計画燃焼度等を考慮して検討を行なったが、燃料の炉内滞在期間中にはこの破損限界には達しないことを確認した。
 また他の破損限界としているMCHFR1.0についても、過渡現象についての解析手法および炉心の熱水力設計手法の詳細な検討を行ない、MCHFR算出の根拠の妥当性を確認し、定常状態における炉心の熱的制限値(MCHFR1.9および最高線出力密度0.61kW/cm)等を守ることによって予想される過渡状態においても、この破損限界には達しないことを確認した。
 炉心の核熱設計および動特性についても運転中の先行炉の実績を参考とし検討を行ない、反応度外乱に対してはドップラ効果、冷却材のボイド効果等に基づく反応度出力係数による自己制御性を有していること、ワンロッド・スタック・マージンを含む停止余裕は適切であること、キセノンの空間振動を含むプラントの安定性が十分であること等から制御上問題はないと判断した。
 これらの観点から、本原子炉は、通常運転時における核的・熱的制限値を含む運転条件を遵守することによって安全性は十分確保されるものと判断する。

(4)計測制御設備

① 中央制御室
 中央制御室の設計に当たっての換気系設備の考え方およびいかなる事故時にも制御室内の被ばく線量率を遮廠によって、0.5rem/8h以下にするという考え方は妥当なものであると認める。

② 原子炉停止系
 原子炉停止系としては、制御棒系およびほう酸水注入系があり、これらはいずれも出力運転状態から燃料の損傷限界をこえることなく、炉心を未臨界にすることができる性能を有しているものと認める。このうち制御棒系の有する制御棒価値は、0.17△kであり、全炉心寿命中の最大過剰増倍率(015△lk以下)を上まわっており、過渡現象解析で示されるように過渡現象状態においても燃料の損傷限界をこえることなく原子炉を停止することができるものと認める。また、ワンロッド・スタック・マージンについても最大の反応度価値を有する制御棒が完全に引抜かれていても、その他の制御棒の全挿入によって炉心を未臨界とすることとしているので問題はない。

③ 安全保護系
 安全保護系は、重複性、独立性を有しかつ運転中にも試験が可能で、フェイル・セイフとなるように設計されることを確認した。

(5)原子炉冷却材圧力バウンダリ

① 原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系および機器は、平常運転状態の圧力および温度に安全余裕を見込んだ設計圧力および設計温度を用い、「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準を定める告示」(通商産業省)に従って設計されるほか、逃がし安全弁が設けられ、予想される過渡現象に起因する圧力変化による原子炉冷却材圧力バウンダリの破損を防止しているが、これらの設計方針は妥当である。
 また特に、原子炉圧力容器の詳細設計段階において用いられる応力評価方法については、種々の荷重の組合わせと許容応力のとり方について検討を行ない妥当であると判断した。

② 原子炉冷却材圧力バウンダリのうちフェライト系鋼材を用いる系および機器は、圧力を受ける場合には温度を脆性遷移温度+33deg以上にすることとし、かつ、原子炉圧力容器母材については、中性子照射による脆性遷移温度の変化を監視するために試験片を炉内に挿入することとしているが、これらは脆性破壊の防止の観点から適切である。

③ 原子炉冷却材圧力バウンダリとなる系および機器は、制作時および運転開始前の検査ならびに供用期間中の検査によってその健全性の維持についての確認が行なわれることとなっている。

(6)工学的安全施設

① 工学的安全施設全般
 非常用炉心冷却系、格納容器スプレイ系、非常用ガス処理系などの工学的安全施設は、単一動的機器の故障を仮定した場合でも、所定の安全機能を果たし得るよう以下に述べるように独立した2系統以上が設けられ、多重性を有するように設計される。また、これらの工学的安全施設は、定期的にその性能が検査できるよう設計上の配慮がなされるので、安全上妥当な設計であると判断する。

② 非常用炉心冷却系
 非常用炉心冷却系は、高圧炉心スプレイ系、低圧炉心スプレイ系、低圧注水系(3ループ)および自動減圧系からなる。
 これらの系統は、それぞれ常用電源のほか、高圧炉心スプレイ系は専用のディーゼル発電機により、低圧炉心スプレイ系および低圧注水系の1ループは1台のディーゼル発電機により、低圧注水系の2ループは他の1台のディーゼル発電機により、自動減圧系は蓄電池により給電されるように設計される。
 このような非常用炉心冷却系の構成により常用電源が喪失し、かつ非常用電源を含む非常用炉心冷却系にいかなる単一動的機器の故障を仮定しても、冷却材喪失事故時に炉心冷却を行なうための3台の注水ポンプが利用できるため、事故時の炉心の再冠水を早期に行なうことが可能である。
 また、事故後炉心が再冠水された後の長期間炉心冷却に関しては、5台のポンプによる5ループのうち1ループが作動すればよく、単一動的機器の故障を仮定しても支障のないようになっている。
 このような非常用炉心冷却系の性能は、4-(2)-③の冷却材喪失事故の解析結果に示されるように1972年10月原子炉安全専門審査会が定めた「軽水型動力炉の非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針」を満足しており、妥当なものであると判断する。
 なお、非常用炉心冷却系の性能の感度解析については燃料の焼きしまりの効果も含めて各種の条件を与えて行ない、本原子炉施設の非常用炉心冷却系の性能は十分余裕のあることを確認した。

③ 原子炉格納設備
(イ)原子炉格納容器であるドライウエルおよびサプレッション・チェンバの設計圧力は、2.85kg/cm2gである。格納容器の内圧を最も高くすると考えられる最大口径の再循環回路1本の瞬時破断の場合の圧力は、ドライウエルで約2.6kg/cm2g、サプレッション・チェンバで約2.0kg/cm2gであり、設計圧力をこえることはない。
 想定事故後の長期間にわたって格納容器の内圧を抑制する系統として格納容器スプレイ冷却系があるが、この系は独立した2系統からなりそれぞれ常用電源のほか非常用電源に接続されておりいかなる単一動的機器の故障を考えてもその所要の機能を果たす設計となっている。
 本格納容器の漏洩率0.5%/dの確保に関しては、据付後の漏洩率試験で確認されるほか、運転開始後も定期的な試験によって確認されることになっている。
(ロ)本格納容器に用いられるフェライト系鋼材は原子力発電用炭素鋼圧延鋼板4種相当品等を用いることとしているが脆性破壊防止の観点から平常運転時および試験状態での使用温度は各材料の脆性遷移温度より17deg以上高い温度とすることとしているのは妥当である。
 また、格納容器の詳細設計段階において用いられる応力評価方法については、種々の荷重の組合せと許容応力のとり方について検討を行ない妥当であると判断した。

④ 非常用ガス処理系
 非常用ガス処理系は、2系統からなり、それぞれ常用電源のほか非常用電源にも接続されているので、単一動的機器の故障を考えても所要の性能は維持できるものと判断する。
 本系統は、湿分除去装置、電気加熱器、高性能粒子除去フィルタ、よう素除去用チャコールフィルタ、排風機等から構成されており、チャコールフィルタを収納するチャコール・ベッド・アッセンブリは、溶接構造となっている。
 本系統の性能については、チャコール・ベッドが約20cmの厚さを有すること、ベッド枠がダクトに溶接シールされており、この系において汚染空気がバイパスするおそれがないことおよびチャコール・フィルタの除去効率に関する各種の実験データを検討した結果、事故時の被ばく評価に用いるよう素除去効率95%は妥当であると判断する。
 また、よう素除去効率の経年変化、チャコールに対するポイゾニング効果等についても検討を行なったが、毎年行なうことになっている試験によって、性能が確認されることになっており前述のよう素除去効率は確保されると判断する。

(7)非常用電源設備

 非常用電源設備としては、ディーゼル発電機3台と、蓄電池4組が設備される。これらディーゼル発電機および蓄電池は、それぞれ独立した室に収納されるほか、独立分離した非常用母線に接続されている。
 従って、非常用電源として単一動的機器の故障を想定しても安全上必要かつ必須の設備が所定の機能を果たすのに十分な能力をもっていると判断する。

(8)核燃料貯蔵施設

① 臨界事故対策
 新燃料貯蔵庫および燃料プールは、容量いっぱいに燃料を収容しても実効増倍率は0.90以下、異常事態を想定しても実効増倍率は0.95以下に保たれることになっている。また燃料プール上には重量物がこないよう建家クレーンにインターロックが設けられることになっている。
 したがって、臨界事故対策は十分であると判断する。

② 冷却能力
 燃料プールの水温は、燃料プール水冷却浄化系により52℃以下に保たれることになっており、後備設備として原子炉残留熱除去系が併用されることになっているので、燃料の崩壊熱による破損は十分防止し得るものと判断する。

(9)放射性廃棄物処理施設

 放射性廃棄物処理施設は、気体、液体、固体に対してそれぞれの設備が設けられ、平常運転時において敷地周辺への放射性物質の放出を実用可能な限り少なくするよう設計されており、かつ、必要期間貯蔵保管できる能力を有しているものと判断する。

① 気体廃棄物処理設備
 復水器空気抽出器系排ガスを処理する活性炭式希ガスホールドアップ装置等の性能については、先行炉の実績等を考慮すると、キセノンを約27日間、クリプトンを約40時間保持するに十分な能力を有するものと判断する。また、この系のガス予熱器、再結合器は、万一、不具合が生じた場合にも対処できるようそれぞれ予備器が設けられるので安全上十分である。
 なお、タービンの軸封には低放射能の復水貯蔵タンク水を用いる軸封蒸気発生器の蒸気を利用するので、タービン軸封系排ガス中の放射能は極めて少ない。

② 液体廃棄物処理設備
 機器ドレン系、床ドレン・化学廃液系、および洗濯廃液系の処理設備は、設備の放射能除染係数および設備容量からみて廃液発生量を十分処理する能力を有している。また、廃液発生量の想定値は先行炉等の実績からみて妥当である。

③ 固体廃棄物処理設備
 固体廃棄物の発生量および放射能レベルならびに貯蔵方法を考慮して、ドラム缶(200l容量)の発生量を年間約5,600本と推定しているのは妥当である。
 固体廃棄物置場の貯蔵保管能力は、当面1年間を対象としているが、この場合固体廃棄物置場の面積は、約2,000m2である。なお、固体廃棄物の処分に関する国の方針に従、、1年以上の貯蔵保管が必要な場合は、増設等の処置を適宜講ずるとともに、固体廃棄物を最終的に処分する場合には、関係官庁の承認を受けることになっている。この方針は妥当である。

(10)放射線監視施設

 放射線監視施設には、周辺監視区域境界付近にほぼ均等に配置される7か所のモニタリング・ポストおよび敷地外の集落数か所に設けられるモニタリング・ステーション、機動性のある放射能観測車、試料分析関係施設等があり、これらの設備によって、平常時および事故時の放射能を測定し、中央制御室で監視もしくは情報交換が行なわれるので、発電所周辺へ放出される放射性物質を適切に監視できるものと判断する。

3 平常運転時における被ばく評価

 平常運転時の被ばく評価は次のとおりで、前提に用いた仮定は妥当であり、その結果は敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

(1)被ばく線量計算の前提条件

① 燃料被損と希ガス放出率
 平常運転時に何らかの原因により燃料被覆管に破損が生ずると、核分裂生成物(F.P.)が冷却水中に漏洩する。
 冷却水中に漏洩するF.P.の組成は、燃料破損の程度により異なるが、二酸化ウランペレット内で生成されたF.P.がペレットの結晶格子のなかを拡散移動し、ペレット表面からそのまま冷却水中に漏洩するような場合の組成(拡散組成)を仮定する。
 冷却水中のF.P.のうち、被ばく計算に用いる希ガスの放出率は、制限値である30分減衰換算値1,000mCi/sとし、希ガス各核種の組成は、核分裂収率および崩壊定数を用いて定める。

② 放射性廃棄物の放出径路と発生量

(イ)気体廃棄物
 平常運転時に発生する放射性気体廃棄物は、原子炉冷却水およびその中に溶けている空気が放射化されて生ずる窒素、アルゴンなどの放射化生成物ならびに破損燃料から冷却水中に漏洩してくるF.P.である。
 気体廃棄物のうち、放射化生成物は発生量が少なく、かつ半減期が短いので排気筒から放出される量は、無視できるほど少ない。したがって、排気筒から放出される気体廃棄物は、主として、F.P.のうち希ガス(クリプトン、キセノン)およびよう素である。
 希ガスの放出径路としては、復水器空気抽出器系排ガス、タービン起動時に生ずる復水器真空ポンプ系排ガス、廃棄物処理室等の換気系排ガスなどがあり、これらの系統から放出される希ガスの排気筒放出率としては、制限値である1,000mCi/s(30分減衰換算値)に相当する燃料破損を仮定した場合には次のとおりである。

(a)復水器空気抽出器系排ガスは、活性炭式希ガスホールドアップ装置で、キセノンが約27日間、クリプトンが約40時間保持され、ろ過処理後排気筒から連続して放出される。
 この系の希ガスの放出率は、約1.7mCi/s(γ線実効エネルギーは0.057MeV)である。

(b)原子炉建家、タービン建家、廃棄物処理室等の換気系排ガスは、一部ろ過処理後、排気筒から連続して放出される。
 この系の希ガスの放出率については、一次系のポンプ、バルブ等からの漏洩水に含まれている希ガスの一部が建家内に放出されると仮定して計算すると約0.03mCi/s(γ線実効エネルギーは0.61MeV)である。

(c)運常、ターピン運転中復水器は、真空状態に保たれており、タービンが停止した場合、真空が破壊される。停止後比較的短時間でタービンを再起動するときは、復水器に内蔵する希ガスが真空ポンプの運転により排出される。真空ポンプ運転1回当たりの希ガス放出量は先行炉の実績を参考にして、2,500Ci(γ線実効エネルギーは0.2MeV)とする。

(d)放射性よう素が大気に放出される径路は、希ガスの場合とほぼ同じと考えられるが、先行炉の放出実績を参考にし、年平均排気筒放出率を約0.03μCi/sとする。

(ロ)液体廃棄物
 液体廃棄物は、機器ドレン系廃液、復水脱塩装置等の化学廃液、建家の床ドレン系廃液および衣服等の洗濯廃液である。
 液体廃棄物中には、原子炉冷却系で生じる放射化生成物と破損燃料から漏出したF.P.が含まれる。液体廃棄物の発生量および放射性物質濃度については次のとおりとする。

(a)機器ドレン系廃液
 機器ドレン系廃液の発生量は、約110m3/dその放射性物質濃度は、約0.1μCi/cm3である。ろ過装置および脱塩装置で処理された処理水は、放射性物質濃度が約10-3μci/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され、再使用される。

(b)化学廃液
 化学廃液の発生量は、約50m3/d、その放射性物質濃度は約0.1μCi/cm3である。蒸発濃縮装置および脱塩装置で処理された処理水は放射性物質濃度が、約10-4μCi/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され、再使用される。

(c)床ドレン系廃液
 床ドレン系廃液の発生量は、約40m3/d、その放射性物質濃度は、約0.01μCi/cm3である。蒸発濃縮装置および脱塩装置で処理された処理水は、放射性物質濃度が約10-5μCi/cm3となって復水貯蔵タンクに回収され、再使用される。なお、この系の処理水は、プラント内の保有水量が増加した場合、一部環境に放出されるが、その量は、約1,000m3/yである。

(d)洗濯廃液
 洗濯廃液の発生量は、約15m3/d、その放射性物質濃度は、約10-4μCi/cm3で、ろ過処理後環境に放出される。
 以上の前提にもとづき計算すると、環境に放出される液体廃棄物の量は、約6,500m3/yトリチウムを除く放射性物質の量は、560mCi/yとなる。
 なお、トリチウムについては、先行炉の実績等を参考にし、100Ci/yと仮定する。

(2)平常運転時の被ばく評価

① 気体廃棄物中の希ガスによる被ばく評価
 平常運転時に環境に放出される希ガスによる被
ばく評価は、次の条件を用いて行なった。

(イ)連続放出の場合

(a)復水器空気抽出器系排ガスおよび廃棄物処理室等の換気系排ガスについては、排気筒から連続して放出されるものとし、その希ガスの放出率を0.12mCi-MeV/sとする。

(b)排気筒(地上高120m、標高約132m)の実効高さについては、地形の影響を考慮して風洞実験の結果から求められた値(60m)に吹上げ高さを加算する。

(c)気象条件は、1年間の気象観測の毎時の実測値を用いる。

(d)原子炉の年間稼動率は80%とする。

(ロ)間けつ放出の場合

(a)復水器真空ポンプ使用時1回当たりに放出される希ガスの量は、500Ci-MeVとし、放出回数は年間5回あるものとする。

(b)排気筒実効高さの求め方は(イ)の(b)と同じとする。

(c)着目地点への影響回数は、風向出現頻度、年間総放出回数とから二項確率分布で評価する。(d)風速は着目方位の逆数平均風速を使用し、大気安定度はD型とする。
以上の条件を用いて計算した結果、周辺監視区域の境界である敷地境界の外で、γ線による全身被ばく線量が最大となる地点は、排気筒から南方約700mの敷地境界上であり、その線量は約1.3mrem/yである。
 なお、福島第二原子力発電所は、既設の福島原子力発電所の南方約12kmに位置するが、福島原子力発電所の1~6号炉の運転に伴って放出される希ガスの寄与は、前述の地点でγ線約03mrem/yであり、両者を合計すると約1.6mrem/yである。

② 気体廃棄物中のよう素による被ばく評価
 平常運転時に環境に放出されるよう素による被ばく評価は、次の条件を用いて行なった。

(a)よう素の放出率は、先行炉の実績を参考として年平均0.03μCi/s(I-131)とする。

(b)排気筒の実効高さの求め方は①-(イ)-(b)と同じとする。

(c)気象条件は、敷地における1年間の気象観測の毎時の実測値を用いる。

(d)被ばく評価には、最大濃度地点における呼吸による摂取ならびにその地点で生産される葉菜および牛乳の摂取を考慮する。
 この場合、呼吸量は成人で2×107cm3/dとする。また、牛乳の摂取量は、牛乳を飲む乳児で1,000ml/d、成人で200ml/dとし、葉菜の摂取量は、成人で100g/dとし、この量を毎日摂取するものとする。

(e)原子炉の年間稼動率は80%とする。
 以上の条件を用いて計算した結果、敷地境界外で、よう素の濃度が最大となる地点は、排気筒から南方約700mの敷地境界でその地点における年平均濃度は、約7.7×10-15μCi/cm3である。

 なお、福島原子力発電所の1~6号炉から放出されるよう素の寄与については、前述の最大濃度地点で年平均濃度が約3×10-15μCi/cm3であり、両者を合計すると、約1.1×10-14μCi/cm3である。
 最大濃度地点における甲状腺被ばく線量は、牛乳を飲む乳児が最大で、約12mrem/yである。

(3)液体廃棄物中の放射性物質による被ばく評価

 液体廃棄物中の放射性物質による被ば評価は次の条件を用いて行なった。

(a)放射性物質の放出量は、トリチウムを除き、1Ci/y、トリチウム100Ci/yとする。

(b)放射性核種と組成は、先行炉の実測値を参考とする。

(c)放出された放射性物質は、復水器冷却水のみによって希釈されるものとし、放出後の海水による混合希釈は考慮しない。
 また、循環水ポンプの年間稼動率は80%とする。

(d)海産物による濃縮係数は、現在報告されているもののうち厳しい値を用いる。

(e)住民の海産物摂取量は、魚類200g/d、海藻類40g/d、甲殻類10g/d、軟体動物10g/dとし、この量を毎日摂取するものとする。

(f)よう素の甲状腺被ばく線量の計算は、比放射能法による。
 以上の条件を用いて計算した結果、成人については、全身被ばく線量は、約0.3mrem/y、甲状腺被ばく線量は、約0.6mrem/yである。

4 過渡現象および事故解析

 本原子炉施設において発生する可能性のある過渡状態を想定し、原子炉の固有の性能および種々の安全防護施設との関連で検討した結果、過渡現象時の燃料および原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性および事故時の原子炉施設の安全性は確保されるものと判断する。

(1)過渡現象解析

 過渡現象とは、原子炉の種々の運転状態において、動的機器の故障、誤動作および運転員の誤操作によって原子炉に生ずる過渡変化をいい、この場合においても燃料の損傷限界をこえないことおよび原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損われないことが必要である。解析に当っては、単一動的機器の故障、誤動作および運転員の誤操作によって引き起される過度現象を、種々の面から想定した。
 以下、各系統ごとに分類し、想定した条件およびその結果を示すが、いずれの場合でも、上述の条件を満足していると判断した。

① 再循環系
 再循環系に生ずる過渡状態で炉心の冷却材流量が変化し、炉心の核および熱特性が変化する。過渡現象解析に当っては、再循環ポンプおよび再循環流量制御弁の故障および誤動作を想定した。

(イ)再循環ポンプの停止
 再循環ポンプの故障については、ポンプの1台の軸が瞬時に固着し、炉心冷却材流量が急速に低下する場合が最も厳しい条件となる。炉心流量は、完全に停止したポンプ回転部の大きな水力抵抗のために約1秒で約60%に減少し、MCHFRは約1.2秒で最少値1.05となるがその後すぐに回復する。燃料被覆管は、MCHFRが1.0を下まわることはないので、その表面で核沸騰は保たれており、被覆管の損傷には至らない。中性子束は、炉心におけるボイドの生成に伴う負のボイド反応度係数によって低下し、約100秒後に出力は定格値の約68%に落ち着き、原子炉スクラムにはいたらない。
 次に、再循環ポンプ2台が同時に停止する場合を想定した。この場合炉心流量は再循環ポンプの慣性による時定数をもって減少することとなり、同時に炉出力は負のボイド反応度効果によって低下する。MCHFRは、約2.5秒後に1.3程度まで下がり、その後回復するので、燃料被覆管の破損は生じない。また、炉出力は、約100秒後には自然循環冷却でほぼ一定の状態となり、定格値の48%に落ち着く。

(ロ)再循環流量制御系の誤動作
 再循環流量が増加すると、炉心内ボイドの消滅によって、中性子束は増加することになる。再循環流量は、制御系の故障によって急速に増加することが考えられ、この場合は、再循環流量制御系の中性子束制御器の故障によって、両再循環系の流量制御弁が同時に全開となる場合を想定した。過渡変化が最も厳しくなるのは再循環流量自動制御範囲の下限である定格出力の68%で運転している場合であって、原子炉は高中性子束信号によって120%でスクラムされるが中性子束は約1.2秒後に232%まで上昇したのち急速に低下する。燃料被覆管表面熱流束は、平常時の設計表面熱流束を上まわることはなく、炉心内流量は確保されているので、MCHFRは、2.0以上となり、燃料被覆管の破損は生じない。

(ハ)再循環系冷水ループの誤起動
 原子炉を、再循環系1回路で部分負荷運転中、他の再循系の冷去材を予熱しないで起動し、炉心流量を増加させる場合を想定した。
 この場合、冷水注入と炉心流量の増加によって中性子束が増加することとなるが、燃料被覆管に厳しい条件を与えるのは、原子炉がスクラムすることなく、燃料被覆管表面熱流束が増加することである。このため解析の初期条件として中性子束増加がスクラム設定点に至らない定格出力の40%で運転を行なっているものとした。
 また、予熱なしに注入される再循環系の水の温度は、原子炉圧力容器母材の設計上の初期脆性遷移温度+33degである38℃とした。
 解析の結果、中性子束の増加によって燃料被覆管表面熱流束も増加するが、その傾向はゆるやかであり、MCHFRは約35秒後に1.6になるにすぎず、燃料被覆管の破損には至らない。

② 給水系
 給水系に生ずる過渡状態によって、炉心の冷却水温度の減少および冷却材流量の減少が考えられ、このため炉心の核および熱特性が変化することとなる。過渡現象解析に当っては、給水流量制御器の故障、給水加熱源の喪失および給水制御系あるいは給水ポンプのトリップを想定した。

(イ)給水制御器の故障
 給水制御器が故障し、給水系の最大流量が炉心に入る場合を想定した。この場合、炉心冷却材流量の増加に伴い中性子束が増加する。解析に当っては、原子炉は再循環流量自動制御範囲の下限である定格出力の68%の運転が行なわれており、かつ、炉心に加わる給水が定格流量の115%の最大給水流量まで増加するものとした。原子炉水位の上昇によって約5秒後にタービントリップおよび原子炉スクラムが生ずる。この原子炉スクラムによって、中性子束および熱流束の増加は制限され、MCHFRは、2.0を下まわることはなく燃料被覆管の破損には至らない。タービントリップ後蒸気はタービンバイパス系によって直接主復水器に放出され、主蒸気圧力の調整が行なわれるので、原子炉の圧力は約10秒後に約76.4㎏/cm29に上昇するにとどまり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は維持される。

(ロ)給水加熱源の喪失
 給水加熱は、主蒸気から抽気された蒸気で行なわれるが、抽気弁の故障で給水加熱源は喪失し、原子炉に主復水器から戻される給水の温度は低下することとなる。解析に当っては、6段ある給水加熱器のうち、最終段の加熱器に供給される加熱用蒸気が入らないものとし、給水温度が55deg下るものとした。原子炉は再循環流量自動制御範囲の上限の定格出力の105%で運転を行なっているものとし、解析を行なった。
 給水温度の低下に伴い、原子炉出力は上昇することとなるが同時に再循環流量制御系によって炉心入口流量は減少し、出力上昇は抑えられる。MCHFRは炉心入口流量が低下し、表面熱流束が上昇するので、初期の1-9から徐々に減少するが、最小の値は1.2であり、燃料被覆管の破損には至らない。
 再循環流量が自動制御でない場合は、原子炉はスクラムし、MCHFRの減少は、上記の条件の場合よりも少ない。また、過渡現象解析の初期条件として低出力の場合は、初期のMCHFRが1.9よりも大きいことおよび出力上昇の割合が小さいことから炉心の変化も少なく、厳しい条件とはならない。

(ハ)給水流量喪失
 給水制御系の故障および給水ポンプのトリップは、給水流量の減少をもたらす。解析に当っては、定格出力の105%で運転中全給水ポンプが同時にトリップするものとし、原子炉圧力容器から出る蒸気流量と原子炉圧力容器に入ってくる冷却材流量との相関で燃料の健全性について検討した。
 給水ポンプがトリップしても、原子炉圧力容器に入る給水流量は慣性のため急減せず、給水流量が完全になくなるのは約5秒後である。給水流量が20%以下となるとインターロックによって約15秒の時間遅れをもって再循環流量制御弁が閉じられるので、炉心流量は減少する。給水流量の減少によって原子炉水位は減少し、約7秒後に原子炉は原子炉水位低信号によってスクラムする。原子炉水位は、その後も下りつづけるが、原子炉水位異常低下信号によって主蒸気隔離弁が閉じ、原子炉は主復水器から隔離される。残留熱は隔離時冷却系と残留熱除去系によって除去され、燃料の健全性は確保される。

③ 主蒸気系
 主蒸気系での過度現象の発生は、原子炉圧力の変化をもたらすため、原子炉冷却材圧力バウンダリに影響があるほか、炉心の熱および核特性も変化するので、燃料の健全性に影響する。

(イ)タービン発電機負荷喪失
 外乱によって発電機負荷が瞬時に喪失すると、タービン発電機は過速状態となるが、原子炉側には不具合がないので、原子炉を停止する必要はない。このような過渡状態を検討するために、定格出力の105%で運転中に例えば系統事故のような発電機負荷が瞬時に喪失する場合を想定した。
 発電機負荷遮断が起ると、出力負荷アンバランス検出回路からの信号によって、タービン蒸気加減弁は急速に絞りこまれ、タービン発電機の過速を防止すると同時に、タービンバイパス弁および逃がし安全弁が開き、タービン系に入る蒸気を主復水器およびサプレッション・チェンバに逃して、原子炉圧力の上昇を防ぐ。出力負荷アンバランス検出回路からの信号は、また、あらかじめ選択した制御棒の挿入および再循環流量制御弁の絞り動作を行ない、原子炉出力を低下させる。これらの動作により原子炉はスクラムにいたらず、原子炉圧力が復帰するに
伴って、逃し安全弁も自動的に閉鎖され、発電機出力も、しばらくの間、発電所内への電力を供給し得る程度に維持される。
 解析の結果では、中性子束は、負荷喪失後約2秒の間増加するが、制御棒の挿入および炉心冷却材流量の減少によってしだいに減少する。中性子束の最高値は、107%であり、約35秒後には約25%に落ち着く。原子炉の圧力上昇は約0.3kg/cm29であり、原子炉冷却材圧力バウンダリに悪影響を及ぼすことはない。
 出力負荷アンバランス検出回路からの信号発生後、タービンバイパス弁が0.1秒以内に動作開始しない場合には、原子炉はスクラムする。

(ロ)タービントリップ-高出力運転
 定格出力の105%で運転中に、タービントリップが生ずる場合を想定した。この場合タービントリップ信号によって主蒸気止め弁は急速に閉鎖され、主蒸気止め弁の開度検出によって原子炉はスクラムし、主蒸気系の圧力制御装置によってタービンバイパス弁が開く。タービンバイパス弁が動作しないという厳しい条件を与えると、発生蒸気は逃がし安全弁の作動のみによって低減されるが、逃がし安全弁の容量は、発生蒸気量の約80%であるため、一次系の圧力は上昇する。炉内の圧力上昇は、冷却材中のボイドの消減をもたらすため、中性子束も一時的に上昇し、それに伴なって燃料被覆管の表面熱流束も増加する。
 解析の結果、一次系の圧力は逃がし安全弁の動作によって、最大85.8kg/cm2gにとどまり、原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性は維持される。
 燃料被覆管表面熱流束は、最大113%まで上昇するが、MCHFRの最低値は、約1.3にとどまり、燃料被覆管の破損には至らない。

(ハ)タービントリップ-低出力運転
 定格出力の30%以下で運転される場合には、タービントリップによる原子炉スクラム信号は、自動的にバイパスされることになっている。定格出力の30%で運転中にタービントリップが生じ、かつ、タービンバイパス弁が動作しない場合を想定した。
 この場合、原子炉は約5秒後に原子炉圧力高信号によってスクラムされ、MCHFRは2.0以上が保たれ、原子炉冷却材圧力バウンダリの最大圧力も、79.8kg/cm29にとどまり、燃料および原子炉冷却材圧力バウンダリの健全性が損われることはない。

(ニ)全主蒸気隔離弁の閉鎖
 定格出力の105%で運転中に全主蒸気隔離弁が同時に閉鎖する場合を想定した。主蒸気隔離弁は、非直線性の弁閉鎖特性で3秒間で全閉することとした。主蒸気隔離弁の弁ストロークが10%閉鎖されると、原子炉スクラム信号が発生するが、この時点では、主蒸気管を通る蒸気流量には殆んど変化はない。したがって、中性子束、表面熱流束とも上昇することはなく、MCHFRは変化しない。
 また、スクラム後の原子炉圧力は、逃がし安全弁の動作により、約81.4kg/cm29にとどまる。

(ホ)圧力制御装置の故障
 圧力制御装置の故障は、タービンヘの蒸気流量の減少および原子炉圧力の上昇をもたらすが、この過渡変化の度合は、タービントリップ時のバイパス弁不作動の場合よりもゆるやかである。また、圧力制御装置がタービンヘの蒸気を多く流すような事態の故障が生じても、タービン流量制限装置で、流量は110%に制限されるので、原子炉の安全性が損われることはない。

(ヘ)逃がし安全弁の開放
 逃がし安全弁が何らかの原因で、原子炉が定格出力の105%で運転中に開放される場合を想定した。主蒸気管に取り付けられた逃がし安全弁1個が開放され、蒸気流量の10%がサプレッション・チェンバに流れるとすると、圧力制御装置はタービン蒸気加減弁を絞り、原子炉圧力を一定に保つように働き、また、再循環流量制御系は、原子炉出力を一定値に保つように働く。これらの結果、炉内過渡変化は、約15秒後には終息し、その間のMCHFRも殆んど変らない。

④ 制御棒系
 原子炉への反応度印加の原因として、制御棒引抜きの誤操作が考えられる。原子炉の運転状態によって、過渡変化の様相は異なるので、冷温未臨界時および出力運転時のおのおのについて検討を行なった。

(イ)制御棒の連続引抜冷温未臨界
 初期条件として、原子炉出力は、定格出力の10-8、燃料および減速材の温度は20℃とし、
制御棒価値ミニマイザの設計基準の最大値(炉心寿命中期)の制御棒価値0.015△kを有する制御棒が7.6cm/sの速度で連続的に引き抜かれるものとした。
 原子炉は、中間領域計装によるスクラムではなく、平均出力領域計装からの信号でスクラムするものと仮定しても、燃料棒中心温度の最高値および燃料被覆管温度は、通常運転時の値をこえることはなく、かつ、二酸化ウランのもつエンタルピも、約100cal/gであるので、二酸化ウランペレットからのエネルギー放出による燃料被覆管の破損には至らない。

(ロ)制御棒の連続引抜-出力運転

 出力運転中に誤って制御棒を連続的に引き抜くと、局部出力領域計装が、その近傍の中性子束を検出し、定格の107%になった時点で信号を発生し、制御棒は制御棒引抜監視装置によって引抜きが阻止される。
 燃料被覆管に厳しい条件を与えるものとして、最大反応度価値を有する制御棒が、中性子束の上昇と、燃料被覆管表面熱流束の上昇が平衡を保つ程度の遅い速度で引き抜かれるものとした。
 解析の結果では、制御棒を約30%引き抜いた時、局部中性子束は107%に達し、制御棒引き抜きが阻止される。
 この場合、MCHFRは、1.5程度にとどまり、燃料被覆管の破損には至らない。

⑤ 常用所内電源喪失
 発電所の運転に必要な電力は、主発電機から運転中供給されるが、起動停止時および事故時は、外部送電線から電力が供給される。これらの常用所内電源がいずれも喪失した場合を想定する。この場合、原子炉緊急停止系用M-Gセット電源が喪失するので、原子炉は、フェイル・セイフ機構によってスクラムされる。スクラム後の原子炉の崩壊熱の除去は、非常用電源としての非常用ディーゼル発電機および蓄電池を電源とする残留熱除去系、隔離時冷却系によって行なわれ、燃料の健全性を損うことはない。

(2)事故解析

 ここで想定した事故は、現実に起る確率は非常に低いが、万一発生した場合、発電所からの放射能の放出を制限する目的で設備されている各種の安全防護施設の設計ならびに事故発生の防止対策の妥当性を検討する目的で、選択したものである。
 事故想定に当っては、機器の破損あるいは原子炉一次冷却系配管およびその他の配管の破断を仮定した。

① 制御棒落下事故
 炉心の核分裂を制御している制御棒が何らかの原因で落下すると、原子炉には正の反応度が印加され、その結果原子炉出力が上昇し、燃料被覆管の破損の可能性がある。
 事故の想定としては、制御棒が何らかの原因で駆動軸と分離して炉心内に残り、運転員がこれに気付かず制御棒駆動軸を降下させた後、制御棒が急激に落下するものとした。
 事故解析に当っては、次の前提条件を用いた。

(イ)最大の反応度が印加されるように、制御棒価値ミニマイザで制限される最大反応度価値を有する制御棒1本が、制御棒落下速度リミツタで制限され、0.95m/sの速さで落下する。

(ロ)炉出力の上昇は、ドップラ効果のみで抑制される。

(ハ)原子炉は高中性子束信号でスクラムされる。

(ニ)燃料棒に170cal/g以上のエンタルピに達する部分がある場合は、その燃料被覆管は破損すると仮定する。

 解析の結果、中性子束の上昇によって、燃料の二酸化ウランの有するエンタルピは増大するが、170cal/g以上に達する燃料棒本数が最も多いのは、炉心寿命初期の高温待機状態であって、その数は全炉心燃料棒数の約1%に相当する400本である。
 また、この場合、最大二酸化ウランエンタルピは、230cal/gであって、一次冷却材圧力バウンダリの健全性を損うほどの、燃料の大破損に至ることはない。
 破損燃料から放出される核分裂生成物は、ほとんどは一次冷却系内にとどまるので、外部への影響は無視できる。
 この事故の発生を防止する対策としては、次のものがあり、事故発生の可能性は、極めて少ないものである。

(イ)制御棒と駆動軸は、通常分離することのないように接続部が設計されている。

(ロ)仮りに分離した場合でも、御御棒駆動軸の動きに追従し、急激な落下の原因となることはない。

(ハ)運転手順によって定期的に制御棒と制御棒駆動軸が分離されていないことが確認される。

② 制御棒逸出事故
(2)の①と同じ考え方に基づき、原子炉圧力容器下部に取付けられている制御棒駆動機構のフランジあるいはハウジングが破損し、ここから炉心内の制御棒が急激に飛び出すことによって炉心に反応度が印加される場合を想定した。
 この場合、最大の制御棒価値の制御棒駆動機構の破損を考慮しても、駆動機構下部の支持構造物によって制御棒の移動距離は極めて少なくすることになっているので、炉心に加わる反応度は小さく、(2)の①の事故を上まわることはない。
 この事故の発生を防止する対策としては、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(イ)制御棒駆動機構の設計、製作および検査の段階で、その健全性は確認されることになっている。

(ロ)駆動機構を含め原子炉圧力容器の健全性は試験検査によって確認されるほか、運転中に圧力が異常に上昇した場合の対策として多重性を有する安全保護装置が設備される。

(ハ)制御棒駆動機構ハウジングに破損が生じても、制御棒が炉心から逸出するほど大きくなる前にドライウエル温度および圧力の上昇ならびにドライウエルサンプ水位上昇によって検出できるので、早期に原子炉の停止処置ができる。

③ 燃料取扱事故
 燃料取替作業中に、取扱系の故障によって使用済燃料が落下すると、燃料被覆管が破損し、放射性物質が放散するおそれがある。
 事故の想定として取替作業中の使用済燃料集合体1体が落下し、そのすべての燃料棒が破損するとしても、燃料取替は原子炉停止後一週間程度冷却期間が経過してから行なわれること、原子炉圧力容器および燃料貯蔵プールには、冷却および放射線遮蔽のため水があることから、原子炉建家内に放出される放射性物質の量は少ない。
 また、このような事故発生と同時に、非帯用ガス処理系を起動し、原子炉建家外に放出される放射性物質を処理するので、敷地外での被ばくは極めて小さい。
 この事故の発生を防止する対策としては、次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(イ)燃料取替機器は、燃料集合体の重量を上まわる強度で設計される。

(ロ)燃料つかみ器、クレーン等は耐震設計を行なう。

(ハ)燃料つかみ器は、その駆動源の喪失に対して、フェイル・セイフな設計とされる。

④ 冷却材喪失事故
 何らかの原因で、一次系の配管の破損が生ずると冷却材が流出し炉心内の冷却材が喪失するので、対策をほどこさなければ炉心冷却は不可能となり、燃料の大破損を生ずることになる。このような事故に対処するため、原子炉には非帯用炉心冷却系が設けられているが、その機能を評価するため、冷却材喪失事故を以下のように想定した。
 事故として、原子炉圧力容器に接続されている小口径の配管破断から最大口径の再循環回路配管1本の破断に至るまで種々の破断面積の配管の完全破断を想定し、事故解析に当っては、次の前提条件を用いた。

(イ)事故前の原子炉は、定格出力の105%で運転しているものとし、炉心の保有エネルギーおよび崩壊熱を計算する。

(ロ)事故想定と同時に常用電源がすべて喪失し、非常用炉心冷却系の作動は、非常用ディーゼル発電機の電力が供給されるまでの間遅延するものとする。

(ハ)配管は瞬時に破断するものとし、破断した配管の両端から冷却材は相互干渉なく流出するものとする。

(ニ)以上の仮定に加え、事故想定と同時に非常用ディーゼル発電機を含む工学的安全施設についての単一動的機器の故障を仮定する。

 配管からの冷却材流出量の程度によって、原子炉水位および原子炉圧力の低下の割合も変化するため、配管の破断面積によって非常用炉心冷却系の作動状態が異なる。冷却材喪失事故想定時に燃料の健全性を確認するものとして、最高被覆管温度および炉内での水-ジルコニウム反応の割合をめやすとし、検討を行なった。その結果、原子炉圧力容器に接続されている最大口径の配管である再循環回路配管1本の瞬時完全破断を想定した場合が被覆管の温度上昇および水-ジルコニウム反応の割合が最大となるので、以下この場合について解析の具体的条件、経過および結果を示す。

(イ)再循環回路配管が完全破断し、その両端から冷却材が流出すると仮定すると、原子炉圧力が高いために破断口から冷却材は流出し、格納容器内の圧力に等しくなるまで、ブローダウンが生じ、炉心は約32秒で露出する。

(ロ)所内常用電源喪失を仮定し、炉心に冷却材を注入する非常用炉心冷却系は、ディーゼル起動によって事故発生約30秒後に作動開始するものとする。

(ハ)単一動的機器の故障の仮定として、3台あるディーゼル発電機のうち、低圧炉心スプレイ系につながるディーゼル発電機が作動しないという一番厳しい条件をとる。

(ニ)事故発生後約30秒で低圧注水系が炉心に注水を開始し、45秒で高圧炉心スプレイ系が定格流量に達する。114秒後に燃料集合体は冠水されて燃料被覆管の温度上昇はとまる。

(ホ)水-ジルコニウム反応は、被覆管の外面のみならず内面でも発生するものとし、内面の酸化量は、外面の値の0.25倍とする。

(ヘ)解析の結果、被覆管最高温度は1018℃、水-ジルコニウム反応の割合は、被覆材全量の0.12%以下であり、燃料被覆管の酸化によって影響されない部分の割合は、被覆管の厚さの98%以上であり、1972年10月原子炉安全専門審査会が定めた「軽水型動力炉の非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針」を満足しており、事故後の炉心冷却は維持できるものと判断する。

 なお、燃料棒内圧と被覆管温度から求めた燃料棒のパーフォレーションの割合は、約7%であり、この事故によって放出される放射性物質の量は少ない。
 冷却材喪失事故の発生を防止する対策としては次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(イ)主要な一次冷却系配管には、延性の高いステンレス系鋼管が用いられる。

(ロ)配管等の設計に当っては、原子炉の寿命中の各種の応力を十分に考慮した厳しい条件が適用される。

(ハ)材料の選択、加工および配管等の製作過程において十分な品質管理が行なわれる。

(ニ)原子炉供用期間中においても主要な個所の検査を行ない、健全性を確認する。

(ホ)運転が開始されてからは、脆性破壊を防止するように運転管理を行なう。

(へ)漏洩検出による監視によつて、大破断に進展する前に破損を検知し、原子炉を停止し、炉心で発生する熱を十分除去するようにする。

(ト)外部電力は2系統とするほか、非常用炉心冷却系およびディーゼル発電機は原子炉運転開始後定期的に試験が行なわれ、その信頼性が高められる。

⑤ 主蒸気管破断事故
何らかの原因で主蒸気管の破損が生じると、破断口から冷却材の流出が生じ、炉心の核および熱的特性の変化のため、燃料の挙動が変ることとなる。主蒸気管に設備されている冷却材流出のための防護施設の機能を評価するため、主蒸気管の破断を以下のように想定した。
事故解析に当っては、前提条件として、冷却材喪失事故において用いたものを同様に適用した。
解析の具体的条件、経過および結果を以下に示す。

(イ)主蒸気管1本がドライウエル外の主蒸気トンネル内で瞬時に完全破断するものとし、事故発生後5秒で主蒸気隔離弁が完全に閉鎖するまで、原子炉内の蒸気および冷却材が流出する。

(ロ)事故発生と同時に所内常用電源は喪失すると仮定し再循環系ポンプによる流量はコーストダウンするものとする。

(ハ)主蒸気管からの冷却材流出は、流量制限器で定格流量の200%に制限されるものとする。

(ニ)単一動的機器の故障として、8個の主蒸気隔離弁のうち、1個が閉じないものとする。

(ホ)解析の結果、主蒸気隔離弁の閉鎖までに破断口から流出する蒸気量は、13,170kg、水量は22,250kgである。

 この結果、想定事故の過程において炉心が露出することはなく、MCHFRは約1.5以上に保たれ、燃料の破損には至らない。事故後、炉心の冷却は、外部電源を必要としない、炉心の崩壊熱により発生した一次系蒸気を用いる蒸気タービン駆動の原子炉隔離時冷却系によって冷却される。
 主蒸気管破断事故の発生を防止する対策としては次のものがあり、事故発生の可能性は極めて少ないものである。

(イ)配管の設計に当っては、原子炉の寿命中の各種の応力を十分に考慮した厳しい条件が適用さ
れる。

(ロ)材料の選択、加工および配管等の製作過程において、十分な品質管理が行なわれる。

(ハ)主蒸気管トンネルでの放射能検出等によって、大破断に進展する前に破損を検出し、原子炉を停止する。

⑥ タービン破損事故
 タービン破損事故発生の可能性に関して検討を行なったが、これに対しては、次のような対策がなされており、この可能性は極めて少ないものである。タービンが破損して飛散物が発生する事故の原因としては、ロータ等回転部分の材料欠陥ならびに残留応力、応力集中等の製作上の欠陥による場合、または何らかの原因でタービン調速機構が動作しなくなり、過速状態になって破損回転数に至る場合の2つのケースが考えられる。
 前者については十分な品質管理、工程管理を行なって、製作することにより、この種事故の発生を防ぐことができる。
 後者については、タービン回転数の上昇に対し、主調速機の他非常調速機ならびにバックアップ調速機の3重の保護装置が設けられ、最悪の場合でも定格回転数の120%をこえることはなく、タービン破損に至る可能性はない。
 さらに万一タービン破損事故が生じたと仮定した場合についても検討を加え、ターニングギァ・カップング等が飛散した場合にも、原子炉建家および中央制御室への直接的影響のないことを確認した。
 従って、タービン破損事故を想定し、主蒸気止め弁がこわれたとしても、解析の結果は主蒸気管破断事故と同様になる。

5 災害評価

 本原子炉は、これまでに追べたように種々の安全対策が講じられており、各種の事故を想定した解析においても、燃料被覆管が大破損に至ることはなく、本原子炉施設の安全性は十分であると認められる。この章においては、本原子炉施設の各種の安全防護施設との関連において、立地条件の適否を判断するために、「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して解析を行なった結果を示すが、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に適合しているものと認める。
 なお、被ばく線量の評価は甲状腺に対しては放射性よう素の影響を、全身に対しては放射性雲による外部線量の影響をそれぞれ対象として行ない「原子炉立地審査指針」への適合性を判断した。

(1)重大事故

 重大事故として冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故の二つの場合を想定する。

① 冷却材喪失事故
 解析に当って、燃料被覆管のパーフオレーション割合は、100%とした。これは、4の(2)の③で解析が行なわれた冷却材喪失事故でのパーフォレーション割合7%という結果と比較すると、立地評価上の仮定としては十分巌しい条件であると判断される。以下解析に当っての前提条件を示す。

(イ)原子炉は定格出力の105%で運転を行なっているものとし、核分裂生成物の炉内内蔵量の計算に当っては、1核分裂当り200MeVのエネルギー発生があるとし、核分裂生成物の収率はORNL-2127によるものとする。

(ロ)炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%およびよう素1%が一次冷却材とともに格納容器内に放出される。

(ハ)よう素は90%を無機状、10%を有機状のものとし、無機状のよう素は壁面に吸着されるものの割合を50%、格納容器スプレイ等で水に保留される場合の液相一気相間の分配係数を100とする。

(ニ)格納容器内希ガスおよびよう素は、0.5%/dの漏洩率で原子炉建家に漏洩し、事故後格納容器内圧が大気圧にもどる33日間継続するものとする。

(ホ)原子炉建家に漏洩した希ガスおよびよう素は、換気率100%/dで非常用ガス処理系を通り排気筒から放出される。

(ヘ)格納容器および原子炉建家に滞留している核分裂生成物の壊変は考慮する。

( ト)非常用ガス処理系に設けられることになっているディープベッド溶接構造のチャコールフイルタのよう素に対する除去効率は95%とする。

(チ)大気中の拡散に用いる気象条件としては、事故発生後2日間は、ヒューミゲーションが続くものとし、排気筒高さ以下均一拡散、残りの31日間は大気安定度B型が続くものとする。いずれの場合も水平方向拡散幅は30。、有効拡散風速は4m/sとする。

 なお、現地の地形を模擬した風洞実験の結果から、敷地境界に対して排気筒実効高さは60mとする。
 上記の条件を用いて解析を行なった結果、大気中に放出される放射性物質は、希ガス1.36×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)およびよう素251Ci(I-131換算、以下同様)であり、敷地外において被ばく線量が最大となるのは、排気筒から南方約690mの敷地境界であって、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対して約3.7remおよび全身に対してγ線約0.016rem(β線約0.042rem)となる。

② 主蒸気管破断事故
 解析に当っては、主蒸気隔離弁閉鎖後も原子炉圧力の低下に伴い燃料棒から炉水中に放射性物質の追加放出があるものとする。以下解析に当っての前提条件を示す。

(イ)主蒸気隔離弁閉鎖前に大気中に放出される放射性物質の量は、4の(2)の⑤の主蒸気管破断事故の解析の結果、大気に放出される蒸気および水の量を基にし、水中のハロゲン濃度は、I-131、0.5μCi/cm3を含むものに相当するものとする。蒸気中のハロゲン濃度は水中の濃度の1/50とする。

(ロ)主蒸気管破断後の冷却材中へ追加放出される放射性物質の量は全よう素が約7.5×104Ci(うちI-131は約4×104Cⅰ)、よう素以外のハロゲン約8.09×104Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)、希ガス約9.85×105Ciであり、原子炉圧力の低下に伴なって放出されるものとし、隔離弁閉鎖前にその1%が破断口から大気中に放出されるものとする。

(ハ)主蒸気隔離弁閉鎖直後放射性物質は、原子炉圧力容器の蒸気相体積に対し、5%/hの割合で主蒸気隔離弁から漏洩するものとするが、この漏洩率は原子炉圧力の低下に依存して低下するものとする。

(ニ)主蒸気隔離弁閉鎖後、原子炉圧力容器中に放出されるよう素は、無機状90%、有機状10%とし、無機よう素についての液相一気相間の分配係数は100とする。また、漏洩するまでの間の壊変は考慮するものとする。

(ホ)主蒸気隔離弁閉鎖前に放出された放射性物質を含む冷却材は、大気中で完全蒸発して半球状の放射性雲を形成し、1m/sの速度で風下方向へ移動するものとする。

(ヘ)主蒸気隔離弁閉鎖後に、主蒸気隔離弁を通して大気中に漏洩する放射性物質の大気拡散条件としては、地上放散、大気安定度F型、水平方向拡散幅30。とし、有効拡散風速は事故想定時間が短時間であるため1.5m/sを用いるものとする。

 上記の条件を用いて解析した結果、大気中に放出される放射性物質は、よう素が233Ci、ハロゲン3.99x103Ci(γ線エネルギー0.5MeV相当、以下同様)および希ガス3.2×l03Ciであり、敷地外において被ばく線量が最大となるのは、タービン建家から南方約520mの敷地境界であって,その地点における線量は甲状腺(小児)に対して約83remおよび全身に対してγ線約0.049rem(β線約0.11rem)である。
 上記各重大事故時の被ばく線量は、原子炉立地審査指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。

(2)仮想事故

 仮想事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故の二つの場合を考える。

① 冷却材喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について解析するものとするが、燃料から放出される放射性物質の量は、炉内内蔵量に対して希ガスは100%およびよう素は50%とした。この放出仮定は冷却材喪失事故のこれまでの解析からは考えられない仮定であるが、「原子炉立地審査指針」の考え方に基づき、事故期間中は工学的安全施設の一部が効果をあらわさなかったと仮定し、炉心内の全燃料が溶融したと考えた場合に相当するものであって、各種の防護施設との関連において、立地条件の妥当性を評価するのには、厳しい仮定である。
 重大事故解析と異なる条件は次のとおりである。

(イ)炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%およびよう素50%が格納容器内に放出される。

(ロ)格納容器内から原子炉建家への漏洩は無限時間続くものとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、希ガス7.04×105Ciおよびよう素1.32×104Ciであり、敷地外において被ばく線量が最大となるのは、排気筒から南方約690mの敷地境界であって、その地点における線量は甲状腺(成人)に対して約48remおよび全身に対してγ線約0.79rem(β線約3.0rem)である。

② 主蒸気管破断事故
 重大事故の場合と同じ事故について解析するものとするが、重大事故解析と異なる条件は次のとおりである。

(イ)主蒸気隔離弁8個のうち1個の故障を仮定し、閉鎖した主蒸気隔離弁から原子炉圧力容器中の放射性物質の漏洩が無限時間続くものとする。漏洩は原子炉圧力容器の蒸気相体積に対して5%/hの漏洩率とするが、原子炉圧力および温度の低下には依存せず、無限時間一定であるとする厳しい条件を用いる。

(ロ)重大事故では主蒸気隔離弁閉鎖後追加放出される放射性物質は原子炉圧力の低下に伴って放出されると仮定したが、仮想事故の場合は、主蒸気隔離弁閉鎖と同時に追加放出される放射性物質の全量が瞬時に原子炉圧力容器中に放出されるとの仮定を行なう。

(ハ)主蒸気隔離弁閉鎖後の気象条件は、事故想定時間が長時間であるため、有効拡散風速を4m/sとする。
 解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、よう素665Ci、ハロゲン5.45×l03Ciおよび希ガス1.12×104Ciであり、敷地外において被ばく線量が最大となるのは、タービン建家から南方約520mの敷地境界であって、その地点における被ばく線量は、甲状腺(成人)に対して約32remおよび全身に対してγ線約0.079rem(β線約0.19rem)である。

 上記各仮想事故時の被ばく線量は、「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300remおよび全身25remより十分小さい。

(3)国民遺伝線量の評価

 仮想事故時における全身被ばく線量の積算値は、仮想事故として想定した冷却材喪失事故および主蒸気管破断事故について、次の条件を用い解析した結果、「原子炉立地審査指針」に国民遺伝線量の見地からめやすとして示されている参考値200万man-remを十分下まわっており、本敷地は「原子炉立地審査指針」でいう人口密集地帯から十分離されているものと判断する。

① 冷却材喪失事故

(イ)大気に放出される放射性物質の量については、(2)の①に示される値を用いる。

(ロ)拡散条件は、排気筒実効高さ60m、風速1.5m/s、大気安定度F型、水平方向拡散幅30。とする。

(ハ)拡散方向は、最も人口密度の高い方向とする。

(ニ)人口については、1970年の国勢調査の人口のほか、2020年における推定人口を用いる。

 以上の条件により解析した結果、希ガスによる全身被ばく線量の積算値は、1970年の人口に対し約23万man-rem、2020年の推定人口に対して約30万man-remである。

② 主蒸気管破断事故

(イ)大気に放出される放射性物質の量については、(2)の②に示される値を用いる。
(ロ)拡散条件として地上放散とする以外は、前述の冷却材喪失事故と同じとする。

 以上の条件により解析した結果、希ガスによる全身被ばく線量の積算値は、1970年の人口に対し約0.65万man-rem、2020年の推定人口に対して約0.85万man-remである。

6 技術的能力

 申請者はすでに福島原子力発電所1号炉の建設と運転の実績を有しており、さらに現在2、3、4、5、6号炉の建設を行なっている。
 本原子炉施設の運転にあたっては、運転開始時約110名の技術者を予定しているが、これらの技術者については、日本原子力研究所原子炉研修所による研修、(株)BWR運転訓練センタのシミュレータによる訓練、日本原子力発電(株)東海研修所による研修等国内および海外の諸機関を活用して養成訓練を行なうほか、先行炉の運転を通じ、また当該原子炉施設の試運転期間中に所要の教育訓練を実施することになっている。
 これらの点から、本原子炉施設を設置するために必要な技術的能力および的確に運転する技術的能力があるものと判断する。

V 審査経過

 本審査会は、昭和47年9月11日第105回審査会において、次の委員よりなる第92部会を設置した。

(審査委員)
青木成文(部会長)
飯田国広
江藤秀雄
大崎順彦
小平吉男
小堀鐸二
左合正男
武谷清昭
都甲泰正
望月恵一
渡辺博信
(調査委員)
秋山守
石田泰一
伊藤直次
海老塚佳衛
大久保忠恒
垣見俊弘
高嶺泰夫

東京工業大学
東京大学
放射線医学総合研究所
東京大学
日本気象協会
京都大学
東京都立大学
日本原子力研究所
東京大学
動力炉、核燃料開発事業団
放射線医学総合研究所

東京大学
動力炉、核燃料開発事業団
日本原子力研究所
東京工業大学
東京大学
地質調査所
日本原子力研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和47年9月16日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループと、主として環境を担当するBグループを設け審査を開始した。
 以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和49年2月14日の部会において、部会報告書を決定し、同年2月18日第123回審査会において本報告書を決定した。

 

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