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九州電力株式会社玄海発電所の原子炉の設置変更
(原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和48年7月18日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
  委員長 前田佳都男 殿           
原子炉安全専門審査会
会長 内田秀雄

九州電力株式会社玄海発電所の原子炉の設置変更に係る安全性について

 昭和48年3月13日付け48原委第80号をもって審査を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

  Ⅰ 審査結果
 九州電力株式会社玄海発電所の原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「玄海発電所の原子炉設置変更許可申請書」(昭和48年3月6日付け総文第562号)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  Ⅱ 変更内容

1 主要な熱的制限値の燃料最高温度を約2640℃(112%出力時)とする。(変更前約2570℃)

2 安全保護回路の原子炉停止回路に中性子束変化率高(出力領域)の条件を追加、連動回路の制御棒クラスタ引抜阻止回路の作動条件のうち制御棒クラスタ落下の条件を削除し、連動回路のタービン負荷カットバック削除し、および警報回路に制御棒クラスタが落下した場合を追加する。

  Ⅲ 審査内容

   1 燃料最高温度の変更

 燃料最高温度が変る理由は、燃料最高温度を計算するのに用いる係数である熱水路係数が2.80から2.67に変ったためと、燃料被覆管の熱伝導率を約15Kcal/m・hr・℃から11Kcal/m・hr・℃に変更したためである。

 熱水路係数の変更は、先行炉の運転実績に基づき、熱水路係数中の核的不確定因子を1.10から1.05にするものであるが、この先行炉の運転実績について検討した結果、この因子を1.05としてもなお十分安全例の評価と考えられる。

 なお、熱水路係数が変るため、燃料棒線出力密度は定格熱出力(約1,650MW)において約542W/cmとなる。

 被覆管熱伝導率については、従来用いていた値よりも低い値を用いているが、これはより安全側の計算になるので差支えない。

 これらの係数の変更に伴い燃料最高温度の計算値は過出力時において約2,570℃から約2,640℃に、定格出力時において約2,360℃から約2,440℃に変るが、燃料心材の二酸化ウラン(融点約2,800℃)が融けないという判断には影響しない。

    2 安全保護回路の変更

1)原子炉停止回路に中性子東変化率高の条件を加えることについては、制御棒抜出し事故等反応度が異常に印加される場合に原子炉を停止するための中性子束高信号をバックアップするものとして加えられるものであって、異常時に原子炉を安全に停止することの信頼性はさらに向上することとなる。

 なお、この中性子束変化率高信号は、従来から設けられることになっている出力領域中性子束計測回路から取り出されるが、従来の中性子束高スクラム回路等の機能に悪影響を及ぼさないように設けられることになっている。

2)制御棒クラスタ落下時の制御棒クラスタ引抜阻止およびタービン負荷カットバック連動回路を削除することについては、詳細解析の結果、最大価値(2.5×10-3△k/K)を有する制御棒1本が初期炉心の出力運転状態で落下して、自動制御棒効果(7,874×10-5△k/K/cm)により出力が初期の値に回復し中性子束が歪むという最悪の状態を仮定しても最小DNB比は1.45を下廻らないことが示されたので、これらの連動回路を削除しても原子炉の安全性が損なわれることはないと考えられる。なお、この連動回路の削除に伴い、異常状態の検知を行なうために警報回路に制御棒クラスタ落下信号が加えられる。

   3 非常用炉心冷却設備の性能評価について

 本原子炉施設の冷却材喪失事故時の非常用炉心冷却設備による炉心冷却効果について、変更後の燃料最高温度、被覆管熱伝導率および熱水路係数を用い、昭和47年10月11日に原子炉安全専門審査会で決定した「軽水型動力炉の非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針」に従って検討した。

 冷却材喪失事故時の燃料被覆材の最高温度およびジルコニュウムー水反応の割合は、燃料被覆管の内外両面酸化を考慮してもそれぞれ約1,186℃、約0.04%に止まり、燃料被覆管の酸化は、それによる脆化により、炉心冷却が著しく損なわれるおそれのない程度である。

 以上の結果は、前記ECCS安全評価指針に示される被覆材最高温度約1,200℃以下、金属一水反応1%以下という基準を満足しており、非常用炉心冷却設備の機能は十分であると認められる。

 従って、本原子炉施設の冷却材喪失事故時の災害評価の前提条件は変らないと判断される。


  Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和48年3月20日第112回審査会において次の委員からなる第96部会を設置した。

 審査委員  三島 良績(部会長)  東京大学
 西脇 一郎  宇都宮大学
 望月 恵一  動力炉、核燃料開発事業団
 調査委員  秋山 守  東京大学
 木村啓造(第2回部会から)  金属材料技術研究所

 同部会は、通商産業省原子力技術顧問会と合同で審査を行なうこととし、昭和48年4月5日第1回会合を開き、以後審査会、非常用炉心冷却設備に関する検討会および部会において検討を行なってきたが昭和48年7月6日の部会において部会報告書を決定し、同年7月18日の第116回審査会において本報告書を決定した。
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