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環境・安全専門部会中間報告


48年7月30日
環境・安全専門部会

Ⅰ まえがき

 本専門部会は昭和47年2月17日に、原子力施設をめぐる環境の保全と安全の確保に関する諸問題を検討することを目的として設立された。

 本部会は昭和47年3月9日に第1回会合を開催して以来、わが国の原子力発電の実用化の進展に伴って提起されている環境の保全と安全の確保に関する諸問題ならびに、研究開発の進め方、規制および監視のあり方等所要の対策について慎重に審議検討を行なってきた。

 原子力施設をめぐる環境・安全問題は広範多岐にわたっており、部会の審議の過程において専門分野別に分科会を設けて調査検討を行なうことが必要であるとの結論に達した。

 このため47年5月16日第3回会合において、本専門部会の中に総合、安全研究、環境放射能、低線量、放射性固体廃棄物、温排水の6分科会を設け、それぞれ別表の所掌事項を分担し、調査審議を進めることとした。

 以来、各分科会では、それぞれの分担事項に関する審議検討を行なうとともに、総合分科会において各分科会間の総合調整を行ないつつ審議を進めてきた。

 各分科会の審議は、総合分科会の所掌の一部および環境放射能分科会の所掌事項を除き、終了した。

 残されたものについては10月を目途に審議を進めているところであるが、審議の終了したものについては、その内容に沿った施策を早急に講ずることが望ましいと考えるので、中間報告としてまとめることとしたものである。

 原子力委員会においては1から4までの報告内容に盛られた事項について適時適切なる施策を実施されることを望みたい。

環境・安全専門部会分科会の所掌事務


Ⅱ 要   約
  1 安全研究分科会
(1)安全研究については、冷却材喪失事故時の機械的、熱的挙動に関する研究および反応度事故に関する研究を進め、これらの安全解析コードを作成するとともに、原子炉燃料、材料および構造安全、供用期間中検査法、耐震、燃料輸送容器、気象等に関する研究を実施する必要がある。

 また、放射性廃棄物放出低減化の研究も実施し、これら研究成果を安全審査および安全基準の作成に反映させる必要がある。

(2)今後予想される原子力施設の大型化、集中化等に対処して従来より一層安全研究を強力に推進する必要がある。このため安全研究を原子力特定総合研究に指定して積極的に推進する必要がある。

(3)安全研究をより効果的に推進するために安全研究実施計画を立案し、推進し、評価するとともに、内外の動向、研究情報の把握を行なうことが肝要である。

 このためにれら諸問題を一元的に行なうための推進体制を確立する必要がある。

(4)安全研究に係る海外との情報交換、研究者の交換、共同研究等国際協力を促進する必要がある。

  2 低線量分科会
 放射線の影響研究については、高線量による急性および晩発障害に関する知見はかなり蓄積されているが、低線量による障害に関する研究については、哺乳類はもとより実験小生物に関する基本的データでさえ満足とはいいがたい。

 原子力施設から環境中に排出される放射性物質に由来する低線量域の放射線が、長期的にみてヒトにいかなる障害を与えるのか、人口が稠密であるわが国では、とくにこの問題に真剣にとり組み、緊急に解決をはかる必要がある。

 このためには、大規模な施設と多くの研究者の長期間にわたる地味な努力を要するが、問題の重要かつ緊急性にかんがみ、国はつぎの点に関し、特別の考慮をはらう必要がある。

(1)晩発障害、遺伝障害、内部被ばくによる影響等とくに緊要かつ応用的な研究については国立試験研究機関を中心とし、基礎研究等については大学を中心として組織的総合研究を重点的に実施することが望ましい。また、疫学的研究についても国家的見地から推進していく必要がある。

(2)本分野関係研究者のきわめて少ない現状にかんがみ、人材の養成にはとくに意をはらう必要がある。

 また、研究には放射線による障害の専門家のみならず、他の関連分野の研究者もすすんで参画できるような措置を講ずるとともに、現在大学で計画されつつある基礎研究施設の設置等についても格段の努力をはらうべきである。

(3)研究の効率化をはかるため、定期的に研究推進状況の検討を行なう組織を整備する必要がある。

(4)本研究には予算的、時間的にも相当の負担が予想されるので、予算措置については十分の考慮をはらう必要がある。

(5)本研究を推進するに当たっては大量の実験動物の飼育、観察が必要である。

 このため、実験動物の供給体制等を含め研究に必要な施設の整備をはかる必要がある。

(6)低線量放射線のヒトへの被ばくについては、わが国のみならず、世界的な問題であるので、研究課題によっては国際協力を推進することにより解決をはかるのが効果的である。このため、各国との間に研究協力のとりきめ等を締結し、積極的に情報の交換をはかることが望ましい。

  3 放射性固体廃棄物分科会
(1)低レベル固体廃棄物の海洋処分については、現在実施されているセメント固化体に関する試験研究、処分候補海域における海洋調査等の結果をもととして昭和50年度から安全評価に着手し、安全性の観点からみて十分可能であるとの判断が得られたならば、昭和52年頃から試験的海洋処分を実施するという目標を置くことが適当であると考える。

 安全評価に関して本分科会は「試験的海洋処分の安全評価の考え方」をとりまとめたが、処分に対して国民の正しい理解を得るため、安全評価を行なうにあたっては、国に各界の専門家によって構成される評価機関を設けて検討を行なうとともに、検討の内容および結果を公表する必要がある。

 本分科会は、「試験的海洋処分用セメント固化体に関する暫定指針」をとりまとめたので、今後の試験的海洋処分は、この暫定指針にそって遂行されるよう希望する。

(2)低レベル固体廃棄物の陸地保管および地中の施設への処分については、安全な施設を設計することは可能であると考えられるので、早急に適切な地点を確保し、その周辺地域の環境条件に応じた実施計画を立案することが適当であると考える。

 当分科会は、「放射性固体廃棄物保管施設に関する指針」をとりまとめたので国においては、これを参考として早急に基準の作成に着手するよう希望する。

(3)低・中レベルの可燃性廃棄物の焼却あるいは廃液の燃焼、高レベル廃液の回化処理等解明されるべき点が多々あると考えられるので、これらの研究開発を強力に推進すべきである。

 とくに、動燃事業団の再処理、プラントの操業計画を考慮し、再処理プラントから発生する高レベル廃液については昭和54年度から固化処理に着手することを目標に、動燃事業団にパイロットプラントの建設を行ない、研究開発を強力にすすめる必要がある。

 処理処分に関する研究開発は、関連分野が多岐にわたるため、総合的、計画的、かつ効率的にすすめる必要がある。このため、国は研究開発体制を整備強化するとともに専門家の養成等総合的に対処すべきである。

(4)放射性廃棄物の処分についてほ安全性を十分に確保しつつ計画的、経済的に実施するとともに、処分にともなう責任を明確にしておくため、一元的に行なうことが必要である。

 このため、これを専門に実施する機関を設立し、国が積極的な役割をはたす処分体制を確立する必要がある。

(5)放射性廃棄物の処理処分の問題は、原子力開発利用を推進している各国に共通する問題であるので、国際的な事業への参加、IAEA、NEAを通じた技術、情報の交換等の国際協力を推進して、処理処分の技術の確立をはかっていくことが必要である。

 また、わが国は広範に海洋資源を利用している海洋国であるという特殊性をふまえて国際社会にわが国の意向を反映させるよう努力すべきである。

  4 温排水分科会
 温排水の環境へ与える影響については、現在のところまだ十分には解明されていず、温排水の放出に伴う温度上昇や流れの変化などによる海洋生物に対する影響に不安が持たれている。

 そこで、今後強力に調査研究を進めるとともに、できる限り良好な水域環境を維持するという基本的な考え方に立って、温排水の環境への影響をできるだけ小さくしていかなければならない。

 このような観点から、調査研究体制を確立して国が中心となって鋭意調査研究を推進するとともに、計画地点の原子力発電所の設備計画が適当かどうかを既往の科学的知見および今後推進する調査研究の成果に基づいて評価検討を行なう必要がある。

 このため、生態学、海洋学、水産学などの関係分野の専門家からなる常設の専門委員会の設置について早急に検討する必要がある。
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