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日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更
(原子炉安全性研究炉の設置)に係る安全性について


昭和48年1月17日
原子炉安全専門審査会
 原子力委員会委員長
   前田佳都男殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更(原子炉安全性研究炉の設置)に係る安全性について当審査会は、昭和47年7月13日付け47原委第270号(昭和47年12月20日付け47原委第519号および昭和48年1月16日付け48原委第16号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

  Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉の設置変更 (原子炉安全性研究炉の設置)に関し、同研究所が提出した「日本原子力研究所東海研究所原子炉設置変更許可申請書(原子炉安全性研究炉の設置)」(昭和47年7月10日付け申請、昭和47年12月16日付けおよび昭和48年1月12日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  Ⅱ 審査方針

 当審査会は、次のような考え方および方針のもとに審査をすすめた。
1 審査に当っては、平常時は勿論、地震、機器の故障、その他の異常時においても、一般公衆および従業員に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも、一般公衆の安全が確保されるべきであることを基本方針とした。

2 審査を行なうに際しては、原子力委員会がこれによるべきであると指示した「原子炉立地審査指針」への適合性を検討した。

 また、平常時の許容被ばく線量および放射性物質の放出管理については、「原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき許容被曝線量等を定める件」(昭和35年科学技術庁告示第21号)に適合することのほか、国際放射線防護委員会の勧告に基づき実用可能な限り放射性物質の放出を低くすることを目標とすべきであることを方針とした。

3 審査を行なうに際しては、日本原子力研究所東海研究所の原子炉設置変更許可申請書(原子炉安全性研究炉の設置)および添付書類等に基づき、当該原子炉の設置許可段階における基本的計画が安全上からみて妥当であるかどうかを検討した。

 今後の詳細設計、施工、検査および運転の段階においてもこの基本的計画は堅持されるべきものである。

  Ⅲ 審査内容
1 立地条件

 本原子炉の設置変更(原子炉安全性研究炉の設置)に関する立地条件については、敷地の気象、地盤、水理、地震および敷地周辺の社会環境は次のとおりであり、また、「原子炉立地審査指針」にも適合しているので、本原子炉の増設を行なっても支障ないものと認められる。

 1.1 敷地および周辺環境

(1)原子炉を設置する地点は、茨城県那珂郡東海村にある日本原子力研究所東海研究所の敷地内にある。

  この敷地は、面積約350万m2で、東西の幅約300m~1,000m、南北約5,000m、標高10m~80mの海岸段丘の地形である。

 敷地内には既設の原子炉施設、一般研究施設およびサービス施設を有している。

 また、敷地の周囲は、北側は日本原子力発電株式会社(以下「原電」という。)東海発電所に接し、南側は一部民有地をはさみ動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という)東海事業所につながっている。西側は、国道245号線をへだてて民有地に接し、東側は太平洋に面している。

 本原子炉の設置予定地点は、海岸寄りにある動力試験炉(JPDR)の北方約250mであり、本原子炉から一般居住区域までの最短距離は北西側約800mである。

(2)付近の主な原子炉施設としては、敷地内に上記動力試験炉(JPDR)の他に西南方約800mの位置にJRR-2、JRR-3、JRR-4の研究炉がある。

 一方、敷地を隣接して北方約400mには原電東海発電炉があり、北西方約700mには東京大学の研究炉がある。なお、北方約680mには原電東海第二発電炉が設置される予定である。

(3)敷地周辺の人口は、設置予定地点から半径800m以内には人家はなく、東海研究所から半径5km以内で約37,400人である(昭和45年10月現在)。

 なお、東海村の人口は年間約4%の都合で増加をするとみられている。

 周辺の比較的大きな都市としては、日立市、常陸太田市、勝田市、水戸市、那珂湊市等があるが、いずれもその中心部まで敷地から10km~15km離れている。

(4)敷地付近の公共施設として、約1.7kmのところに保育所(園児数約20人)、約1.9kmには小学校(児童数約900人)があり、南方約2.3kmには療養所(ベッド数約780床)がある。

(5)敷地周辺の産業としては、工業は特にないが、原子力関係の事業所あるいは研究所が多い。農業としては、米、疎菜、園芸産品の耕作および養豚、肥育牛の音産等が行なわれている。

 また漁業については、敷地前面海域においてシラス、スズキ等が漁獲されている。

(6)敷地付近の主要道路としては、前記国道245号線の他に西方約5kmのところを国道6号線が通っており、この6号線から研究所までの進入道路がある。

 なお、敷地付近に飛行場はない。

 1.2 地   盤

 地盤は、おおむね第3紀層と第4紀洪積層を基盤にし、その上に不整合の段丘砂礫層が重なっている。

 地質は表面から表土砂層、砂礫層、砂質頁岩の順に深くなり、腐食土、粘土層等の不良地盤はない。

 原子炉建家の基礎を設ける砂質頁岩および砂礫層の長期地耐力はそれぞれ約100t/m2、約60t/m2であり十分な地耐力を有している。

 1.3 地   震

 茨城県の太平洋岸近辺の地震活動度は、中小地地震はかなり多いが、震害を伴うような地震はあまり起っていないという特色がある。

 過去の地震記録から敷地周辺に影響を与えたとみられる地震を摘出し調査すると、有史以来起った最大地震はマダニチェード7.7、震央距離約120kmであり強震程度であるといえる。これは著しい震害をもたらすような地震ではない。

 基盤は地震の影響が比較的小さい第3紀層の砂質頁岩層であるので、地震が原子炉施設に与える影響は小さいものと推定される。

 1.4 気   象

 敷地周辺の気象極値は、水戸地方気象台の記録によると、日降水量最大276.6mm、最大瞬間風速44.2m/sec、最低気温-12.7℃である。

 台風、集中豪雨等の異常気象は比較的少なく、顕著な被害は生じていない。

 同研究所では過去長年にわたり風向、風速、気温、日射量等の連続観測を行なってきているが、その記録によると年間風向頻度は北西風、北東風が最も多くそれぞれ15%程度である。

 月平均風速は、3m/sec~4m/secの風が大半を占め、静穏の月間の出現頻度は5%以下である(地上高40mにおいて)。

 また、1m/sec以下の風速出現頻度は、どの風向についても0.3%以下、2m/sec以下の風速の陸向きの風ではいずれの方向も1%以下である(放出継続時間1時間)。

 英国気象局方式による大気安定度は年間では不安定(A~C)が約30%、中立(D)が40%、安定(E~G)が30%程度である。

 なお、逆転層の発生については,寒候期には接地逆転が頻繁に発生するが、この時期は、主風向が西寄りで海に向って吹く場合がほとんどである。

 1.5 海   象

 津波による影響については、マグニチェード7以上の地震がないと大きな津波は起っていないが、茨城県沖はそういった地震のおこる可能性は少ないとみられる。

 最悪の場合として十勝沖地震の例からみて5mの水位上昇を仮定している。平均海面と潮位差の最大は1.5m程度であるので、満潮時と重ったとしても6.5m程度の水位上昇にとどまり、本原子炉は海抜約9mの台地上に建設されるので影響は受けない。

 なお、高潮については津波に比較しても水位上昇は低く問題ないとみられる。

 1.6 水   利

 本原子炉に使用する淡水は、現在久慈川から取水し 研究所全体に給水している水を用途に応じて浄化あるいはろ過して用いる。その量は最大約230m3/日である。

 排水については、放射性汚染排水は必要な処理を加えた後一般排水とともに既設の一般排水溝から外洋へ放出する。

2 原子炉施設

 本原子炉施設は、以下のような種々の安全設計および安全対策が講じられているので、十分な安全性を有するものと認められる。

 2.1 原子炉の概要

 原子炉安全性研究炉の使用目的は、動力炉の安全性に関する諸問題を解明することであり、具体的には、主として原子炉のパルス運転により炉心の異常を模擬し、実験孔内の未照射酸化ウラン燃料を試験的に破損させることによりその破損機構を解明することである。

 原子炉は、濃縮ウラン燃料を用いた水素化ジルコニウム減速非均質型でTR1GA-A CPR型といわれる原子炉である。

 この型の炉は、燃料および材料の中性子照射を主目的としており、炉心中央に大きな実験孔をもつ円環炉心であることとパルス運転が行なえる点が特徴である。

 原子炉の最大熱出力は、定常運転時300KWである。また、パレス運転の際には制御棒の一種であるトランジェント棒を低レベルから引き抜くことにより熱出力は瞬間的に最大28,000MWになるが、その後急速に低下するので出力積分値は130MWsec(トランジェソト棒再挿入時まで)をこえない。

 炉心は、プール水面下約7.5mの位置にあり、制御はプール上の制御棒駆動装置によって行なわれ、また冷却はプール水の自然対流によって行なわれる。

 実験孔設備は内径約22cmであり、炉心中央を貫通し、上部は垂直管と分岐管に分れてプール上に出、下部まプール底を貫通してサブパイル室に達している。燃料を封入した照射カプセルはこの実験孔設備内の炉心位置に固定される。

 原子炉容器は、深さ約12m(水深約9m)のコンクリート壁にアルミニウム板の内張りをした角型プールで、原子炉はコンクリート構造の円筒状原子炉格納建家内に設置される。

 2.2 核特性、熱特性および動特性

 (1)核 特 性
 本原子炉は、燃料体中に水素化ジルコニウムを加えているので、パルス運転時の反応度は、熱中性子スペクトル硬化現象およびドップラー効果等による大きな負の反応度効果により制御棒の効果を待たなくても十分安全に制御できる。

 制御棒は、原子炉運転時および停止時に予想される最大余剰反応度を適切に制御できるように設計されている。

 すなわち、炉心の余剰反応度0.073△K以下に対し、全制御棒反応度は0.126△K以上あり、最大反応度制御棒1本引き抜き時の未臨界度は0.01△K以上である。

 トランジェント捧による最大挿入反応度は、0.0343△Kで、また、実験孔内への挿入実験物による反応度変化は常に負で最大、0.0256△Kである。

 なお、この実験物は実験孔設備内に固定され、逸出のおそれはない。

 (2)熱 特 性
 300kW定出力運転時は以下のとおり冷却水の自然循環で十分除熱でき、また、パルス運転時でも、その発生熱量は僅かであり同様に除熱できる。

 本原子炉では、燃料最高温度が定出力運転時において800℃を、また、最大パルス運転時においても1,000℃を越えないことを基準に設計されている。

 従来のパルス実験の結果から水素化物の分解による内圧上昇で燃料温度が約1,150℃までは被覆の破損がおこらないことが実証されていることからこの基準は妥当である。

 燃料最高温度の計算では、燃料と被覆との間に大きな間隙を設けているのでギャップ・コンダクタンスの値が重要となるが、その値としては本原子炉と同種の原子炉による米国サンディア研究所の実験結果を評価して用いている。

 出力分布は、炉心中央の実験孔に挿入する実験物および制御棒配置によって異るが、出力分布のあらゆる場合を検討して燃料温度を最高にする場合の値を用いて計算している。

 その結果によると800kW定格出力運転時および最大挿入反応度0.0343△Kのパルス運転時の燃料最高温度はそれぞれ約580℃および約960℃被覆材表面最高温度はそれぞれ約143℃および約128℃冷却材炉心出口最高温度はそれぞれ約42℃および約67℃となる(入口温度25℃)。

 これらの値は燃料の破損に至る温度ではない。

 なお、本原子炉のパルス運転時の最大熱流束は定出力運転時の最大熱流束の約2倍である。また、定出力運転時の最大熱流束はDNB値の1/10以下である。

 (3)動特性
  核特性および熱特性で述べたように、パルス反応度投入に対して制御棒の効果を待たなくとも原子炉出力を十分安全なレベルまで低下しうる自己制御性を持ち、また冷却水の自然循環により十分除熱されるので、安定した運転が期待できる。

 2.3 計測および制御系

 (1)原子炉計装
 原子炉計装には、中性子計装、燃料計装およびプロセス計装がある。中性子計装には定出力運転とパルス運転の両モードがあり、前者は起動中間出力系(対数型/チャンネル)、中間出力系(線形型/チャンネル)、出力系(線形型/2チャンネル)からなり、後者は線形、積分出力系(2チャンネル)からなっている。

 燃料計装では、燃料温度系(2チャンネル)をもっている。

 これらの計装には、多重性をもたせ信頼性を確保しそのうえ信号を安全保護系に接続し、原則として1 out of2方式により原子炉スクラムおよびアラーム系を作動させることになっている。

 プロセス計装にはプール水位、水温系等がある。その他に燃料破損検出系も有する。

 (2)安全保護系
 本原子炉は、安全性を損うおそれのある過渡状態や誤動作が生じた場合あるいは異常な事態発生の予想される場合のための全制御棒の一斉挿入による炉停止スクラム系と、原子炉の異常を知らせるアラーム系を有している。

 特にパルス運転のためにはピーク出力高、積分出力高、燃料温度高等のスクラム条件を有している。

 また、運転上の安全性を確保するため各種のインターロックを設け、制御棒誤操作による引き抜きを防止している。

 これらの安全保護系は、電源喪失、回路の断線等に対し、フェイルセーフとなるように設計されている。

 (3)反応度制御系
 原子炉は安全棒2本、調整棒6本、調節用トランジェント棒1本、高速トランジェント棒2本の操作によって制御される。

 安全棒と調整棒はボロンカーバイドの中性子吸収体に燃料体のフォロアがつき、トランジェント棒はボロンカーバイドと空気フォロアからなる。安全棒は原子炉停止のための、スクラム装置として、また調整棒は臨界調整、出力調整反応度補償、原子炉停止装置としてどちらも定出力運転およびパルス運転の両モードに使用される。

 トランジェント棒はパルス出力発生とそれに続く原子炉停止に使用される。

 これら制御棒は、プール上に固定されたそれぞれの機能に応じた独立の制御棒駆動機構によって操作される。

 安全棒および調整棒は、電動モータ駆動によるラックピニオン駆動方式であり、駆動管下端の電磁石に電流が流れている間は炉心から引き抜くことが可能になっている。

 引き抜きに関しては、通常の操作手順では小刻みに引き抜くように定め、調整棒のバンク操作においては、1回の操作による反応度挿入量が2本の安全棒による反応度量を上廻らないようにインターロックが施されている。

 また、その連続引抜き速度は約8.6cm/min以下、調整棒のバンク操作時は約4.3cm/min以下に制限して挿入反応度割合をおさえている。

 スクラム時はこの磁石の電流がきれ、アーマチェア部分から下は自由落下する。この際の衝撃は、ハウジング下端の水のダッシュポット作用で和らげられるようになっている。

 調節用トランジェント棒の駆動は、電動モータにるラックピニオン方式により反応度量を加減する予備引抜きを行ない、次に圧縮空気によるピストン棒駆動方式により急速引抜きを行なうようになっている。

 一方、高速トランジェント棒の駆動は、圧縮空気によるピストン駆動方式のみで、圧縮空気により引き抜かれた後三方電磁弁による圧縮空気の放失により重力で炉心に再挿入される。

 なお、この駆動に使用する空気シリンダー空気だめおよび電磁パルプ等は、各制御棒ごとに独立して設け、トランジェント棒数本が同時に固着するのを防止している。

 これらの駆動方式は米国ですでに十分な使用経験により信頼性が確かめられており、原子炉の停止等は確実に行なわれるものと考えられる。

 (4)パルス運転制御
 パルス運転の制御はトランジェント棒によって投入される反応度をあらかじめ定めた量に限定しており、発生エネルギーはSPERT等による経験を安全側に見積って評価している。

 また本炉心が固有の負の反応度効果がすぐれているので、この運転方式は十分な信頼性を有するものと認められる。

 運転は、使用しない高速トランジェント棒を上限に、調節用トランジェント棒を所定の位置にセットし、1kw以下で臨界を維持した後パルスモードに切換え、トランジェント棒を上限まで急速に引き抜く。

 その後あらかじめ定めた遅れ時間を経た後全トランジェント棒を炉心内に挿入し、続いて安全棒および調整棒を手動で挿入する。

 トランジェント棒の急速引き抜きは、1kw以上または燃料温度がほぼその出力に見合う所定温度以上のときは行なえないようなインターロックになっている。

 また、調整棒等はパルスモードのとき引き抜けないようになっている。

 (5)制 御 室
 原子炉運転上の主要な操作および監視機器は、原子炉建家から隔離された制御棟内の中央制御室に集中的に配置される。

 2.4 燃   料
 燃料材は、濃縮度約20%の濃縮ウランと水素をジルコニウムに加えて合金としたもので、ウランは約1.2重量%、H/Zr原子数比は約1.60である。

 燃料体はこの合金の中空棒材の中にジルコニウムを芯材として入れたもので、上下に黒鉛反射体をつけ、ステンレス鋼被覆をほどこしてある。

 本原子炉には、この燃料体が最大約190本(235U約10.3Kg)装荷される。

 この燃料は、前に述べたように被覆と燃料体の間に約0.5mmの間隙を設け、被覆の温度を下げバーンアウトを防ぐとともに、燃料体の温度を高く保持してパルス後の出力を低く抑えるようにしている。

 間隙には空気を満たし、被覆管の上下端は端栓溶接をする。

 なお、被服には、燃料体の偏心をさけるために燃料体部分の全長にわたり千鳥状に配列したくぼみがほどこされている。

 トリガ型燃料の信頼性については十分な使用実績があり、本原子炉と同じH/Zr原子数比約1.6の燃料の使用実績としては、サンディア研究所のACPRで5ドル近くのパルス運転の例があり、これまでに約600回の最大パルスを含め2,300回以上のパルスの運転では何ら破損は見られなかったと報告されている。

 本原子炉における燃料の最高温度はパルス運転時でも1000℃をこえないので、発生する水素ガスによる被覆への著しい影響はないと考えられるが、運転後もある一定の積算出力または期間ごとに外観検査をすることにしている。

 また、運転開始までに衝撃試験ならびに熱衝撃試験を行ない、この型の燃料体の耐衝撃性を確認することになっている。

 水素化ジルコニウムと水との反応については、ジルコニウムと水との反応に比べおだやかである。この傾向は、このような合金の中に存在する場合もほとんど変らない。

 2.5 燃料取扱施設
 使用済み燃料は、燃料取扱器具で原子炉プール内貯蔵ラックに移して冷却させた後、または直接炉心からプール底においたキャスクに入れ、燃料貯留プールのラックへ運ばれる。

 原子炉プール内貯蔵ラックは燃料要素約20本燃料貯留プールは約200本の収容能力がある。

 また、燃料貯蔵庫は燃料初装荷以前は200本、以後は約30本の収容能力がある。いずれの施設も臨界防止および遮蔽には十分留意して設計される。

 2.6 原子炉冷却系
 原子炉はプール水の自然循環によって冷却されるが、長時間運転に備えてプール水温度を調節するための補助冷却設備が設けられる。

 2.7 原子炉プール
 原子炉プールは、アルミニューム板で内張りした約3.6mx4.5m、深さ約1.2m(水深約9m)の角型プールで水封に十分注意して施工される。

 また、プール下にあるサブパイル室を水密性にして 万一実験孔設備に破損が生じたりあるいはプールからサブパイル室に至る配管に破損がおこっても、満水量をサブパイル室の容積に限定することにより炉心が露出しない設計となっている。

 2.8 実験孔設備
 実験孔設備の炉心部は、円筒内径約22cmで正6角形状のアルミニウム管の中に内接するようなステンレス鋼製のスリープを挿入した構造になっている。

 実験孔設備の荷重はプール底面のフランジで受け、さらにプール上面のプラットフォームで支えられる。

 以下に述べる照射カプセルは、実験孔設備内で上端はホールドダウン支え棒により下端は下部遮蔽プラグに固定されたグリッビング装置により確実に固定され、試験燃料の破損により発生するエネルギーに対しても十分耐えられる設計となっている。

 照射カプセルは、標準内径約12cm、全長約120cmの円筒状容器で、試験燃料の破損に伴なう核分裂生成物等をカプセル内にとじこめるとともに、発生する破壊エネルギーに耐える構造に設計される。

 試験燃料は未照射酸化ウラン燃料であり、冷却材は水である。

 実験物の制限条件は、前述の核的制限値の他に熱的制限としてUo2量90gに対して最大400cal/gUo2(ステンレス綱製標準カプセルの場合)および最大600ceal/gUo2(インコネル標準カプセルの場合)、またUo2量90g以上の実験においては燃料破損による有効破壊エネルギーが上記条件相当量以下になるように発熱量をおさえることにしている。

 このカプセルの設計における圧力評価は、同種の水カプセル実験である米国のSPERT-CDC水カプセル実験結果に基づいて行なわれる。

 その実験によると、燃料破損直後に発生する一次圧力パルスとこの圧力パルスによって吹き上げられた水塊による水撃圧力が考慮すべき主要な圧力である。それらはUo2重量とその単位重量当りの熱負荷量から規定しうることが確かめられており、圧力評価にはその実験データの上限値に更に安全率を見込んで設計されている。

 従って、上記のような最大実験条件をきめたことは妥当と認められる。

 なお、カプセルの設計に当って各部の応力は安全を見込んで十分低くおさえられているまた、カプセルの実際の使用にあたっては、実験条 件内の低い値から実験を行ないデータを蓄積するとともに、その構造強度的な挙動を監視しながら漸次設計許容制限に至る手順をとり、安全性をさらに確認することとしている。

 2.9放射性廃棄物処理設備
 (1)気体廃棄物処理設備
 原子炉建家から排出される放射性気体廃棄物は、すべて空気浄化用フィルターを通して放射能をモニタした後地上高約50mの排気筒から排出される。

 この廃ガス系には、通常のフィルターの他事故時に備えて活性炭フィルターが設けられている。なお排気ファンは非常用電源にも接続される。

 (2)液体廃棄物処理設備
 液体廃棄物は、各建家内ピットから水処理室の廃液タンクに集められる。

 ここで規定濃度以上であれば既設の廃棄物処理場へ送り処理し、以下であれば一般排水溝へ放出される。

 当研究所の廃棄物処理場は、本原子炉が増設されても十分な処理能力をもっている。

 (3)固体廃棄物処理設備
 固体廃棄物は固体廃棄物一時保管室に集積された後、廃棄物処理場で処分される。

 2.10 耐震設計
 建物および構築物は、剛構造物として剛強な基礎を設け良質な地盤に支持される。

 機器および配管類は、それらを支持する建物および構築物と一体となるような剛あるいは強靭な構造に設計される。

 原子炉施設は重要度に応じ3クラスに分け、格納施設や原子炉停止系のような安全対策上特に緊要な施設、その機能喪失が原子炉事故をひきおこす可能性のある施設、および周辺公衆の災害を防止するために緊要な施設はAクラスとしている。

 Aクラスの建物、構築物のうち炉室の耐震設計はこの地点における過去の地震から推定された最大規模の地震の基盤における最大加速度を考慮し、0.18gを設計地震として動的解析を行ない、これから求められる水平地震力ならびに建築基準法に示された水平震度の3倍から定まる水平地震力を下まわらない値によって行なわれる。

 この場合、垂直震度は基礎底面における水平震度の1/2とし、水平および垂直方向の地震力は同時に不利な方向に作用するものとする。

 Aクラスの機器および配管類については、前記の地震波に対する動的解析によって求められる値を使用する。

 ただし当該施設が明らかに剛構造とみなせるものについては、据付位置の水平震度の1.2倍した値により水平地震力を定めることとしている。

 このうち原子炉建家については、上で定めた地震荷重をさらに1.5倍し運転時荷重と組み合わせたとき格納施設の機能が損われないことを確かめ、原子炉停止系についても地震荷重を1.5倍し、運転時荷重と組み合わせたとき当該施設の機能が保持されることを確かめることとしている。

 高放射性物質を含むAクラス以外の施設はBクラスとし、建物および構築物についての水平地震力は建築基準法で定める水平震度の1.5倍の機器および配管類については1.8倍の水平震度から定める。

 また、その他の施設はCクラスとし、建物および構築物についての水平地震力は建築基準法で定める水平震度の1倍から、機器および配管類については1.2倍から定める。

 なお、地震検出計を設け、大地震の際には原子炉を停止させる回路が設けられる。

 2.11 遮   蔽
 原子炉本体の遮蔽は、原子炉プール水とプールコンクリート壁によって行なわれる。

 プール水は、炉心上部約7.5m、側部および下部は1m前後あり、厚さ約1m~2.5mのコンクリート壁と合わせ原子炉運転中のプール周囲の線量率は十分低くおさえられる。

 また、実験孔設備の開口部についても、黒鉛、ボロン化合物、鉄等による複合遮蔽プラグや遮蔽コンクリートにより漏洩線量をできるだけ低くする設計としている。

3 放射線管理および平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における放射線管理および被ばく評価は次のとおりであり、従事者および周辺監視区域外の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認められる。

 3.1放射線管理の基本方針
 (1)従事者および周辺監視区域外の公衆が受けると予想される放射線被ばく線量は原子炉等規制法に規定された許容量を十分に下まわるように遮蔽設計が行なわれる。

 また、無用あるいは不測の被ばくを避けるため管理区域、周辺監視区域等を設定し、立入り制限、作業時間の制限等が行なわれる。

 なお、本変発による本研究所の周辺監視区域の変更はない。

 (2)原子炉施設の内外で放射能レベル、放射性物質濃度等を定常的に監視して環境放射能を把握し適切な管理を行なうこととしている。

 一方,職員について必要な教育訓練を実施し、個人被ばく線量の測定,定期健康診断等が行なわれる

 3.2 原子炉施設内外の放射線モニタリング
(1)原子炉施設内では、固定モニターによる連続監視、作業に応じた汚染空気モニタリング、定期パトロール等によるモニタリングが行なわれる。

(2)施設から排出する気体廃棄物の放射能は、排気モニターにより連続監視を行ない、液体廃棄物についてはタンク内の放射能を測定した後排出の可否がきめられる。

(3)原子炉施設周辺にある固定モニターにより、空間線量率の連続監視が行なわれる。

3.3 平常運転時の被ばく評価
 平常運転時の被ばく評価は次のとおりであり、敷地周辺の公衆に放射線障害を与えることはないと認められる。

(1)気体廃棄物
 平常運転時における気体廃棄物の発生源としては、実験孔設備内の空気が照射されて生ずる41Arおよび実験物解体時に放出される核分裂生成ガスが考えられる。以下の計算仮定により被ばく評価を行なう。

i)41Arからの影響
① 300KW連続運転時の実験孔設備内の空気を700cm3/secの割合で連続換気した場合、排気筒からの排出率は約0.023ci/hとなる。

② 最大パルス運転時(130MW.sec)に生成される41Arでは1.6mciとなる。

③ 本原子炉の運転頻度は6.9MWD/年以下(130MW.sec相当のパルスを1日3回および300KWの定出力運転を1週間に8時間行なった場合の合計に相当)とする。

④ 以上の仮定から1年間排出されたとすると41Arは11.3ciとなるが,ここでは2倍の22.6ciを計算に用いる。

⑤ 排気筒高さは地上高50mであり、着目方位の風向頻度、大気安定度および有効拡散風速には年間の気象データを用いる。

ii)実験物解体時に放出される核分裂生成物からの影響
① 実験物解体に伴なう希ガスの放出量は、1日間冷却し、フィルター効果なしとすると、1回あたり約0.53ci(γ線平均エネルギー0.25MeV)となる。またヨウ素のカプセルからの放出率を1%としフィルター効果を90%とすると約0.15mci(131Ⅰ当量)となる。

② 実験物解体の頻度は出力積分値130MW.sec相当で年間1,095回とする。

③ 以上の仮定から1年間放出されたとすると、希ガス約580ci、ヨウ素約0.16ciとなるが、ここでは2倍の1,160ciおよび0.32ciを計算に用いる。

④ 排気筒高さおよび気象条件は、41Arの場合と同様である。以上、両者の影響から一般公衆の年間積算被ばく線量を求めると、当研究所および隣接する原電の周辺監視区域外において被ばくが最大となるのは、原子炉から南西方約1,200mの周辺監視区域境界であって、その被ばく線量はγ線で約0.057ミリレム/年(β線で約0.093ミリレム/年)、甲状線(成人)に対して約0.15ミリレム/年となる。

 一方、JPDR、JRR-2、JRR-3等の既設の原子炉および、原電東海発電炉、同第二発電炉、動燃再処理工場等の平常時の被ばく線量の寄与を加え合わせた場合、最大地点は変らず、その被ばく線量はγ線で約12ミリレム/年(β線で約8ミリレム/年)となる。

 この値は、法令に定める許容被ばく線量を十分下まわるものと認められる。

(2)液体および固体廃棄物
 液体廃棄物の発生源は、プール水およびピット排水等であり、その濃度は低レベルである。海中への排出は、十分な量の一般排水で稀釈するかまたは処理場で処理して十分な管理のもとでなされるので、本原子炉の設置による被ばくは無視できる程度である。

 固体廃棄物としては、使用済みカプセルおよび実験燃料残さい等がある。これらは保安規定に従い、従事者の過度の被ばくがないよう十分管理される。

4 各種事故の検討

 本原子炉において発生する可能性のある事故については、設備の故障あるいは誤動作、または運転員の誤操作等により炉心に異常な反応が加えられることによって生ずる反応度事故と、設備の故障および破損等によって生ずる機械的事故に分けて検討した。

 その結果、これらの事故についてそれぞれ十分対策が講じられており、以下のように安全性は十分に確保しうるものであると認められる。

 4.1 反応度事故
(1)起動事故
 臨界未満の状態にある炉心に、調整棒の有する最大引抜速度でバンク操作を行ない最悪の反応度挿入速度0.00044△K/secで反応度が投入されたとする。

 このときの炉周期短によるスクラム効果を無視し、出力高によるスクラムによる安全棒2本の効果を考えると燃料中心温度は約67.5℃、被覆材の最高温度は58℃(冷却材入口温度は25℃以下同じ)となり、燃料の溶融はもちろん被覆の破損も起らない。

(2)定出力運転時制御棒引抜事故
 出力300kWで運転している炉心に起動事故と同じ反応度が投入されたとする。

 このときの原子炉は中性子高によりスクラムするが、炉心上部こある制御棒のうち1本が完全引抜の状態で固着して挿入されない場合を想定しても、燃料温度上昇は約0.2℃であり、燃料が破損することはない。

(3)燃料装荷事故
 燃料取替作業中に燃料棒1本が落下して炉心に挿入されたとしても、原子炉は臨界にならない。

 また、落下により燃料棒の一部に破損が生じても炉室へ放出される核分裂生成物はわずかである。

(4)トランジェント棒スタックアウト事故
 トランジェント棒による最大投入反応度0.0343△Kを投入した際に全制御棒の挿入がないとする。

 このとき炉出力は通常のパルス運転と同様に約90msec後に最大となり、その瞬間値は約19.800MWに達するが、その後にトランジェント棒の挿入がなくても炉出力は低下していく。

 15秒後の出力は、490kW、放出エネルギー量ま125MW.secとなるにすぎない。燃料の裏面温度および中心温度は、それぞれ最高約975℃および約893℃となり、また、被覆の表面最高温度は約128℃となるが燃料の破損には到らない。

(5)定出力運転時におけるトランジェント棒逸出事故
 原子炉を300kWで運転している時、トランジェント棒1本が抜け0.013△Kの反応度が投入されたとする。

 このとき原子炉は中性子束高でスクラムするが、制御棒1本が挿入されないとすると、出力は瞬間的に最高1,960MWに達し、2.6秒後には初期出力以下となる。

 このときの放出エネルギーは約39MW・secである。

 燃料の表面温度は約943℃となり被覆の表面温度上昇は約8℃であり、燃料が破損することはない。

(6)トランジェント棒フォロア滲水事故
 3本のトランジェント棒のうち1本のトランジェント棒フォロアの中に滲水がおこり、そのまま引抜きを行なったとする。

 フォロア中の空気が水におきかわるのでトランジェント棒の反応度価値は約10.3%増加するが、駆動速度は遅くなるので、炉心過度特性はほとんど変らない。

 しかし、この速度遅れを無視し0.0356△Kのパルス反応度が投入されたとしても、燃料最高温度は1,000℃をわずかにこえる程度で、燃料が破損することはない。

 4.2 機械的事故
 実験孔設備シース破損事故

 実験孔設備シースが破損し、プール水が短時間に実験孔設備内に流入したとする。この場合、実験孔設備の容積が小さいのでプールの水面低下は数cmである。

 さらに、実験孔設備が下部からサブパイルへの漏洩を考えても水位低下は約4.6mに止まり、炉止が露出することはなく、従って冷却が阻害されることはない。

5 災害評価

 本原子炉は、すでに述べているように種々の安全対策が講じられており、かつ各種事故に対しても十分に安全を確保しうるものと認めるがさらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりである。解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地審査指針に十分適合しているものと認める。

5.1重大事故
 燃料破覆が何らかの原因で破損し、核分裂生成物がプール水中に放出された事故を想定する。被ばく線量の計算には以下の仮定を用いる。

①炉心内において出力密度が最高となる燃料棒1本が破損し、ギャップ中の核分裂生成物がプール水中へ放出される。

②燃料中に生成される核分裂生成物は、300kw連続1年間運転時のものとし、燃料からの放出率は、従来のパルス実験の結果から水素化物の分解による内圧上昇で被覆の破損がおこらないことが実証されている燃料温度1,150℃に対応する希ガス40%、ハロゲン20%とする。

③プール水中のハロゲンのうち10%を有機ハロゲン、残りは無機ハロゲンとする。

④プール水から炉室への放出は希ガス、有機ハロゲンとも100%、無機ハロゲンは1%とする。

⑤建家内のプレートアウトはない。

⑥停電事故との重なりを考え、最初の3分間は100%/日で格納施設から地上放出したものとし、その後は換気設備により排気筒から放出したとする。3分間の減衰は考えない。

⑦フィルター効果はハロゲンについて90%、希ガスについては零とする。

⑧拡散式は英国気象局方式に従い、短時間放出を仮定する。

⑨大気安定度はA~F型のうち、一般居住区域で最大被ばく値をもたらすものをとる。

⑩排気筒は、地上高50mで、排出速度による効果等は考慮しない。

⑪風速は、地上放出の場合は1m/sec、排気筒放出の場合は2m/secとする。

⑫放出期間中の風向は、最悪風向が持続する。

 以上の仮定に基づく解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全ヨウ素が0.3Ci(131Ⅰ換算)、希ガスがγ線で約168Ci・MeV、(β線で約517Ci・MeV)となる。

 本研究所および隣接する原電の周辺監視区域外において被ばく線量が最大となるのは原子炉から北西方約800mの周辺監視区域境界であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(小児)に対して約0.015レムおよび全身に対してγ線で約0.0006レム(β線で約0.0031レム)となる。

 この被ばく線量は立地審査指針にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150レム、全身25レムより十分小さい。

 5.2仮想事故
 仮想事故として、パルス運転時の実験物逸出事故と定出力運転時のトランジェント棒逸出事故のふたつから炉心の全燃料が破損し、かつ照射カプセルからの漏れが生じたとして解析する。

(1)パルス運転時の実験物逸出
パルス運転を行なっている際に試験燃料の破損により発生したエネルギーがインパルスとしてカプセルに作用したカプセルが飛び上がる力が働く。本解析では、上下2つのカプセル固定装置が働かない場合を想定し、以下の仮定を用いる。

①パルス反応度を0.0343△kとする。有効仕事エネルギー量は、インコネル製カプセルに試験燃料90gを装荷し600cal/guo2のエネルギー量を付加したものとすると、920calになる。

②このエネルギーがカプセル内の水を吹き上げ、水がカプセル上端の下面に衝撃を与えカプセルが飛び上がるとすると、最高到達高さは約55cmとなる。

③カプセルが炉心部を抜けた際に生ずる正の反応度および炉心上部で反射体効果として寄与する正の反応度を考慮する。

④カプセルの炉心への再挿入およびスクラムは、考慮しない。

 以上の仮定に基づく解析の結果、出力は最初のパルス運転によるピークの後再び約1,200MWのピークになり、その後は急速に低下する。10秒後における全放出エネルギーは約218MW.secである。燃料最高温度は約1,320℃、被覆材表面の最高温度は約136℃となる。

(2)定出力運転時のトランジェント捧逸出
 3本のトランジェント捧駆動機構が同時に故障して3本とも炉心から逸出した場合を想定すると、0.0428△Kの反応度が付加される。

 このとき出力は、最高約17,700MWに達し、その後は急速に低下する。10秒後におけるエネルギーは約200MW.secとなる。

 燃料最高温度は約1,400℃、被覆材表面の最高温度は約160℃となる。

 よって両事故とも燃料最高温度が1,150℃を超えるので、燃料中の水素化物の分量により発生する水素ガスの圧力のため被覆の破損が生ずる可能性がある。このため、ここでは全燃料が破損したものとして災害評価を行なった。

 重大事故と以下の点を除き同じ仮定を考える。

①炉心全燃料が破損し、炉心に存在する核分裂生成物がプール水中へ放出されたとする。

②燃料体からプール水中への放出率は希ガス100%、ハロゲン50%とする。

③さらに、仮想事故時に何らかの原因により実験孔設備内に装填された照射カプセルから漏洩が生じ、カプセル内の核分裂生成物が炉室へ放出されたとする。

 試験燃料からカプセル中への放出率は希ガス100%、ハロゲン50%とし、またカプセルから炉室への放出率はどちらも100%とする。

 以上の仮定に基づく解析の結果、大気中に放出される放射性物質は、全ヨウ素約77ci(131Ⅰ換算)、希ガスγ線で約43,300ci・MeV(β線で約166,400ci・MeV)となる。

 本研究所および隣接する原電の周辺監視区域外において被ばく線量が最大となるのは原子炉から北西方約800mの周辺監視区域境界であって、その地点における被ばく線量は甲状腺(成人)に対して約1レム、および全身に対してγ線で約0.16レム(β線で約1レム)となる。

 また、全身被ばく線量の積算値は約5.8万人レムである。

 この被ばく線量は、立地審査指針にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300レムおよび全身25レムと比較すると十分小さい。

 また、全身被ばく線量の積算値は、国民遺伝線量の見地から定めためやす線量の200万人、レムよりは十分小さい。

6 技術的能力

 申請者は、すでにJRR-1以来JRR-2、JRR-3、JRR-4、JPDR、JMTR等多くの原子炉の建設ならびに運転の実績を有し、原子炉の基礎研究の分野では多くの人材を有する。本原子炉の設置にあたっては、原子炉工学部が中心となり所内の技術を結集しているので、設置に必要な技術的能力は十分あり、また、運転ならびに放射線管理を的確に遂行するに足る技術的能力があると認められる。
  Ⅳ 審査経過
 本審査会は、昭和47年7月19日の第103回審査会において、次の委員会からなる第91部会を設置した。

審査委員
 吹田 徳雄(部会長)             大阪大学
 飯田 国広 東京大学
 金井 清 日本大学
 木村 耕三 気象庁
 浜田 達二 理化学研究所
 三島 良績 束京大学
 望月 恵一 動力炉・核燃料開発事業団調査委員
調査委員
 秋山 守 東京大学
 海老塚 佳衛 東京工業大学
 小林 定喜 放射線医学総合研究所

  同部会は、昭和47年7月26日第1回会合を開き審査方針を検討するとともに、主として施設を担当するAグループと、主として環境を担当するBグループを設け審査を開始した。

  以後、部会および審査会において審査を行なってきたが、昭和48年1月16日の部会において部会報告書を決定し、同年1月17日第110回審査会において本報告書を決定した。
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