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東京大学の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について


昭和47年11月17日
原子炉安全専門審査会
原子力委員会
委員長 中曾根康弘 殿
                                  原子炉安全専門審査会
                                                会長 内田 秀雄

東京大学の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は昭和47年10月3日付け47原委第384号をもって、審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 東京大学工学部附属原子力工学研究施設の原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)に係る安全性に関し、同大学が提出した「東京大学原子炉設置変更承認申請書」(昭和47年9月22日付け申請)に基づき審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保しうるものと認める。

Ⅱ 変更内容

1 パイルオシレータ一装置を付属実験装置として運転する場合(以下「非定常運転時」という)の瞬時最高熱出力を0.2MWとする。

2 非定常運転時の印加反応度を+0.7%△k/k以下とする。

3 熱的制限値として燃料最高温度および被覆材表面最高温度をそれぞれ400℃および350℃とする(変更前はそれぞれ300℃および250℃)。

4 燃料最高温度が350℃を越える非定常運転は1,000回以内とする。

5 非定常運転時最大積算出力を1サイクルにつき0.6MW-Secとし、非定常運転時出力積算値の合計を1時間あたり7.2MW-Secとする。

6 安全棒2本のうち1本(反応度約0.9%△k/k)を挿入の途中位置でロックできるシム安全棒とする。

Ⅲ 審査内容

 本変更は、すでに設置承認ずみであるパイルオシレータ一装置を付属実験装置として運転する場合(非定常運転時)の運転制限を明確にするために行なうものであり、以下に示すように妥当なものと認められる。

(1)上記変更内容2、6について
 これらの変更は、非定常運転時の印加反応度を即発未臨界である0.7%△k/k以下に抑えるためのものである。

 非定常運転にあたっては、シム棒1が原子炉運転位置に対応した規定の位置にあることを確認した後パイルオシレーター装置のオシレーターを挿入可能な反応度の最大値が得られる位置に設定し、次に安全ブロックおよび安全棒の順に完全挿入して行き、シム安全棒(または安全棒を完全挿入した後、シム棒2)によって原子炉を臨界状態に到達させ、この位置でシム安全棒(またはシム棒2)を錠装置でロックした上でパイルオシレーター装置の運転を開始するとともに、徐々に調整棒を挿入して行き、炉出力を振動させる。

 本変更後においては上記運転シーケンスを確保するためのインターロック回路ならびにシム安全棒およびシム棒2を所定位置にロックするための錠装置が設けられ、また調整棒の有する反応度は測定結果によれば0・617%△k/kであるので、非定常運転時の印加反応度は確実に+0.7%△k/k以下に抑えられると認められる。

(2)上記変更内容1、5について
 変更内容1は非定常運転に伴ない熱出力が瞬時的に変更前の制限値、2KWを越えるので、あらためて、非定常運転時瞬時最高熱出力、0.2MWと定めるものであり、炉出力が0.2MWを越えると自動的に炉はスクラムする。

 また変更内容5により非定常運転を繰返した場合でも1時間あたりの平均熱出力は変更前の制限値2KW以下を確保することになっており炉心冷却能力を変更する必要はないものと認められる。

(3)上記変更内容3、4について
 1サイクルあたりの積算出力が最大(0.6MW-Sec)となる非定常運転に対して、燃料最高温度は210℃、被覆材表面最高温度は170℃となり、いずれも変更前の制限値、300℃および250℃を満足する。

 しかし1サイクルあたりの精算出力が0.6MW-Secより小さい非定常運転であっても出力積算値の合計の制限値内で多数回線返した場合を考慮して、あらたに400℃を制限値として定めるものである。燃料の最高温度が400℃となっても燃料(金属ウラン)はこの温度では相変化を起さない。

 またこの時被覆材表面最高温度は334℃となり、被覆材(SUS27)の許容応力はやや減少するが、発生応力は許容応力の範囲内であり、問題ないと考える。また、変更4により非定常運転に伴なう熱サイクルによる燃料の変形は低く抑えられ、燃料の健全性は損われないと考えられる。

 なお、燃料最高温度が400℃に達すると原子炉は自動的にスクラムされ安全に停止される。

(4)事故解析
 本変更に伴ない、発生する可能性のある事故を想定し、その中で最も規模の大きくなるものを最大想定事故として解析を行なった。

 非定常運転にあたってはすでに(1)で述べたように、運転シーケンスが定められ、これを確保するためのインターロック装置ならびに錠装置が設置されるので、十分安全に運転しうると認められる。

 しかしながら非定常運転時にパイルオンレーター装置の故障に気づかず、炉出力約10Wの臨界状態において、出力上昇用の調整棒が完全挿入され、調整棒のもつ反応度(0.7%△k/k)が制御されずにステップ状に挿入される場合を考える。

 上記(1)で示したように、スクラム系は、安全棒、シム安全棒、および安全ブロック(等価反応度合計3%△k/k以上)と異なる系統が並列に設けられており、機構自体もフェイルセーフになっているのでこの事故時にも作動しないとは考えられないが原子炉の安全性に対する余裕を確認するため、スクラム系が作動しないとして解析を行なう。

 この場合に、本原子炉には炉心の熱膨張による負の反応度フィードバックが存在するので、炉出力は事故発生後約19秒で最高値約290KWに達するが、その後次第に下って行く。燃料最高温度は約59秒後に最高値約810℃になるが長時間的には約640℃に落ちつく。

 以上の解析結果と変更前の最大想定事故の解析結果を比較すると、本変更後現象の進展の速度は早まるが炉出力の最高値および燃料最高温度は変更前と変らず、したがって本変更前の最大想定事故に関する被曝評価の前提条件および被曝評価の結果も変らない。

 なお、最大想定事故時の全身被曝線量の積算値については、施設周辺の最近の人口変化を考慮して再検討を行なったが、その値はきわめて小さく敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障はないものと認める。

Ⅳ 審査経過

 本審査会は昭和47年10月11日第106回審査会において次の委員からなる第95部会を設置した。
審査委員 弘田実弥(部会長)   日本原子力研究所
       西脇一郎           宇都宮大学
       浜田達二           理化学研究所

 その後、部会において審査を行なってきたが、昭和47年11月2日の部会で部会報告書を決定し、同年11月17日の第107回審査会において本報告書を決定した。
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