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放射性固体廃棄物処理処分検討会報告書
(第1章、第5章)



第1章 緒論


1.1 放射性固体廃棄物処理処分の重要性と検討にあたっての考え方

 原子力利用は、わが国において広汎な分野にわたり実用化がすすめられておりなかんずく原子力発電は、技術進歩とそれに伴う経済性の向上とにより、将来におけるエネルギー供給の有力な担い手として大きく期待されるにいたっている。しかしながら原子力利用は、放射性廃棄物の発生を伴うものであり、これらの廃棄物が何ら制御されることなしに環境に逸散することは、人体と環境に重大な影響を与えるおそれがある。このため放射性廃棄物の処理・処分に関し、適切な措置を講ずることは原子力利用を推進するうえに必要かくべからざるものである。
 放射性廃棄物は、一般に、その放射能レベルと性状ならびに環境条件に応じて、希釈あるいは濃縮処理が施されるが、後者の目的は放射性物質を閉じこめ、放射性物質の環境における逸散を最少限にとどめることであり、この観点からして通常、最終的には固形化されているのが現状である。近時、わが国においては原子力発電所の相つぐ運転開始に伴い、これら放射性固体廃棄物の増加が著るしく、その処理処分方法を検討することは緊急な課題と考えられる。
 本問題を検討するにあたっては、対象としては原子力発電所からの固体廃棄物に重点を置き、安全を基本として国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の内容を厳守し、併せて経済性をも考慮している。加えて、社会心理的見地および国際的動向を配慮した。

1.2 放射性廃棄物処理処分検討の経緯

 昭和36年3月、原子力委員会は「廃棄物処理専門部会」を設置し、放射性廃棄物の処理処分についての基本方針等につき諮問したが、同専門部会は3年余にわたり審議を重ねたすえ、昭和39年6月、原子力委員長に報告書を提出した。
 同報告書は、以下のような「放射性廃棄物の処理処分に関する基本的考え方」を明らかにしたほか、「放射性廃棄物の処理、処分および管理」、「放射性廃棄物発生量の推算」、「放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発」について、意見をまとめている。

(1) 原子力の開発に伴って、放射性廃棄物が発生するが、その処理処分については、人体に及ぼす影響が許容レベル以下でなければならない。ここで人体に及ぼす影響とは、個人並びに集団に対する身体的並びに遺伝的影響をいうものとする。

(2) 放射性廃棄物の処理処分にあたっては、ICRP勧告を十分に尊重するものとする。

(3) 放射性廃棄物の処理処分については、安全の確保とともに、経済性についても十分な配慮を払うものとする。

(4) 放射性廃棄物の海洋処分については、わが国における海洋利用の特殊性を十分に考慮するものとする。

(5) 放射性廃棄物の海洋処分については、国際的に密接な関係があるので、国際的見地からの配慮を十分に払うものとする。

(6) 放射性廃棄物の処理処分については、なお、未解決の分野が多いので、今後更に研究開発を促進するものとする。

 上記報告書が出されてから数年を経過し、わが国における原子力開発利用は実用化の時期を迎え、かなりの量の放射性固体廃棄物の発生が見込まれる情勢となり、かつ、この間における内外のこれらに関する知識、経験の集積も豊富となった。
 このため、昭和44年9月、本検討会が設けられ、わが国における放射性固体廃棄物処理処分の具体的な方策を新たに検討することとなった。


第5章  わが国における放射性固体廃棄物処理処方に
関する今後のすすめ方


5.1 わが国における最終処分のあり方

 わが国における放射性固体廃棄物の発生量は、原子力発電所の相つぐ運転開始にともない、従来の研究施設や放射性同位元素等使用事業所などからのそれに比し、格段に増加することとなり、しかも、今後原子力発電計画は急速に拡大する趨勢にあるので、廃棄物の発生量もさらに増加するものと予測されている。
 このような情勢からわが国における放射性固体廃棄物の最終処分の方法を早急に確立し、安全かつ経済的な処分を実施することは、原子力開発利用の健全な発展をはかるうえで、緊要な課題と考える。
 最終処分の方法としては陸上処分および海洋処分があるが、わが国のおかれた環境をみると、国土が狭隘で人口密度が高く、しかも温潤な気候と豊かな地下水系のもとにおかれ、かつ、四面海に囲まれ、海洋資源の利用度も高いという諸条件を有しており、これらを考慮すると画一的に処分方法を決定することは困難である。むしろ廃棄物の種類と性状、その発生量に応じて陸上処分と海洋処分の両者を有効に組合わせてゆくべきである。諸外国においても、米国やソ連のごとき広大な国土を有する国を除き、ほとんどの国が両者を併行的に採用しようとしているのが現状である。
 現在、原子力発電所において発生する廃棄物のうち、濃縮廃液は固形化されているが、これら濃縮廃液固化体や雑固体を滅容したのち固形化したものなどのレベルの低い固化体は、試験的処分などを経て、海洋に処分しても安全を確保し得る見通しがあると考えられるので、試験的処分の実施をはかるべきである。雑固体については、このほか陸上において土中埋没の可能性もあるので、このための調査研究を推進することが望ましい。一方、レベルの高い使用済樹脂等については、適切な関連技術が確立されるまで貯蔵し、技術が確立した時点において、最終処分の方法をさらに検討することが必要である。なお、使用済燃料再処理施設などから発生するレベルのきわめて高い廃棄物については、とくに慎重な配慮のもとに、保管貯蔵すべきである。
 いずれにしても、放射性固体廃棄物の処理処分をすすめるにあたっては、安全の確保等、第1章に述べた本検討にあたっての考え方にもとづかなければならない。なかんずく、人体の安定は第一義的に重要視されなければならない命題であって、放射性固体廃棄物の最終処分は、究極的には処分環境の受容力に期待することとなるので、一般公衆に対して、十分な安全確保がはかられなければならない。さらに、これによりもたらされる環境への影響も同様にして、可能な限り抑制されるべきである。

5.2 試験的処分の実施

 海洋処分に関する現在までに得られている知識はとくにこの十数年来の蓄積により、かなり豊富かつ有用なものとなってきたが、なお深海については、その情報は限られたものである。しかし、処分キューリ数を十分低く制限するならば、海洋処分を安全に行なう方法を立案することは現在可能であると判断される。
 このため、適当と思われる海域について、キュリー数を十分低く抑えてその安全を保証し得る処分量に限定しつつ、これを満す規模と内容の海洋調査を実施し、安全評価により安全を確認したうえで、試験的に海洋処分を実施するものとする。
 この際、はじめから処分キュリー数の大きい場合を考えてそれに見合って、大規模な海洋調査を計画することは実際的でないし、また有効な方法とも考えられない。むしろ処分キュリー数を低く抑えて現在の知識に照らして評価してもその安全を保証し得る処分量に限定し、これに対応した環境調査を行なうべきであると考える。
 海洋処分の実施は、このような試験的処分において得られた知識と経験にもとづいて十分安全を確認しつつ、段階的に処分キュリー数を増加させて行くべきものと考える。

5.3 処理処分のシステム

 原子力発電所などから発生する放射性固体廃棄物の最終処分にいたるまでの前処理、固形化、輸送、投棄等の一連のシステムは、その発生量や最終処分の方法によって、その考え方や規模が当然異なってくる。
 本報告書では、前章において、原子力発電所を対象として、システムA、BおよびCを設定し、これらの問題点と必要な研究開発分野を検討した。
 わが国の原子力発電所の現状を考慮すると、主として現在開発されている技術をもとにして組みたてたシステムAを前述の試験的処分に関連した調査を行なったうえで具体化する必要がある。そして、このシステムの運用に伴って得られた経験と研究開発の成果にもとづき、放射性固体廃棄物の増加の程度に応じて研究開発を進め、次の段階のシステムB、Cへと発展をはかってゆくべきであろう。

5.4 研究開発

 放射性固体廃棄物に関する研究開発としては、安全の確保を第一とし、次いで、その処理処分に関する経済性の向上をはかる観点から、まず陸上および海岸処分に共通なものとして、放射性物質の浸出性および固体廃棄物発生量の低減ならびに取扱い上の安全確保と効率化とを目標とするものがあげられる。これらの目標は相互に密接な関連を有しているので、研究開発にあたっては総合的見地に立って、これをすすめなければならない。
 セメント固化体については、現在行なわれている実験室規模および実際的規模の試験研究を併せ推進するとともに、実際の廃棄物安全管理のうえで必要な固化体の性状に関する試験方法の確立をはかることが重要である。
 そのほか、有望なアスファルトによる固形化の実用化および新材料による固形化の開発があげられる。
 また、均一固化体よりも一層浸出の抑制が期待され、かつ、高いレベルの放射性廃棄物を収容し得る溶器型固化体の開発の推進が必要であり、このため当面、実用化が一層容易な均圧型固化体の開発をすすめ、さらに、将来の実用化を期して、耐圧型固化体の研究開発に着手することが望ましい。
 上記固形化方法の開発と関連して、その前処理についても、効率よく廃棄物を濃縮し得る技術を確立することが必要である。このため、濃縮廃棄の蒸発乾固やか焼などの新技術の開発をすすめるべきであると考える。
 さらに処分に際しての固体廃棄物の投棄や輸送技術については、作業従事者の被曝総量の低減、作業、安全等をはかるため、機械化、省力化およびしゃへい方式の開発を考慮するほか、固形化前廃棄物の輸送についても検討すべきであろう。
 陸上処分に関する研究開発としては、雑固体のような容量が大きく、かつ、ごく低いレベルの放射性廃棄物の処分を土中埋没によって行なう可能性も考えられるので、これに必要な研究を推進することが望ましい。
 放射性固体廃棄物の処理処分に関しては、以上に述べた研究開発のほか、処理処分の対象となる放射性廃棄物の発生量そのものを減少させることがきわめて重要であり、このための研究開発の重要性をここで指摘したい。

5.5 その他の問題点

 放射性固体廃棄物の最終処分の実施にあたっては、それが陸上処分であれ海洋処分であれ、一般の理解と協力を得ることはきわめて重要であるので、このため、格段の努力が要請されるところである。
 とくに、海洋処分については、海洋開発の可能性についても十分留意し、さらに、現在適当と思われる海域がいずれも公海にあるという事情も含めて考慮すると、十分な国際的配慮を施し、各国の理解を得るよう努力しなければならない。


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