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米国大統領エネルギー問題特別教書について



 ニクソン米大統領は、6月4日、エネルギー政策に関する特別教書を議会に送った。これは米国大統領としては初めてのもので、演説の席上には、モートン内務長官、シーボーグ原子力委員長が同席し、注目をあつめた。
 大統領は教書の中で、過去20年間に米国内におけるエネルギー消費量が倍増したことに言及し、将来予想される燃料の不足、燃料コストの増加、エネルギー生産のもたらす環境汚染を考慮して、公害のないきれいなエネルギーの安定確保を長期的展望にもとずいて指向している。以下は同特別教書のうち原子力関係を要約したものである。

1 きれいなエネルギーに関する研究開発

a 廃ガスの脱硫技術を開発するために、環境保護庁の追加予算1,500万ドルを1972会計年度に計上した。これにより、民間との協力で今後3~4年間に6つの異なった技術が開発される。

b 経済的できれいなエネルギーを生産する手段は高速増殖炉が最も優れている。原子力委員会は過去数年間にわたり液体金属冷却高速増殖炉を重点的に開発してきたが、30~50万kWクラスのデモンストレーション・プラントを建設するためには依然として、技術的経済的に大きな問題が残されている。
 このため、高速炉研究開発の推進に1972会計年度で2,700万ドルを追加計上した。
 高速炉の環境汚染については、放射能の放出防止設計や、熱効率の向上による熱汚染の低減を計かり、現在運転中の軽水炉プラントよりもさらに放射能放出量を少なくする研究開発をすすめる。また、高速炉の基礎設計にあたっては、安全性を最重要項目とする。
 さらに、高速炉の実用化(Commercial demonstration)を1980年までに達成することを目的として、5,000万ドルの連邦資金を計上するが、電力会社と原子炉メーカーに対しても、この新技術開発によってもたらされる多大の利益を考慮して、デモンストレーションプラントの総経費(total cost)の大半(major share)を分担することを期待する。これにより現在までの予算5,000万ドルと合わせて1億ドルが計上されたことになるが、開発費は4~5億ドルが必要とみられている。

c 天然ガスの埋蔵量は石炭のそれに較べると極めて少ない。現在、内務省では石炭業界と協力して、石炭のガス化に関する研究開発をすすめており、2~3の方法がパイロットプラントの段階に至っている。

d-1 核融合の研究開発では、1970年代に技術的可能性の見通しが得られることとして、1972会計年度に200万ドルを追加計上した。

d-2 今日の実用原子力プラントのための一般的な研究開発は、数年前に完成しているが、安全性に関しては、さらに研究努力を重ねるため、300万ドルを追加計上した。

2 濃縮ウランの確保

 ウラン濃縮については、核燃料サイクルにおける他の部門と同様に、将来は民間企業がこの事業を政府から引継ぐことを期待するが、当面は政府が責任をもってこれにあたる。
 現時点では、濃縮ウランあるいは濃縮能力に不足はない。実際、AECは将来の使用に備えて、実質的な量の濃縮ウランをストックしている。しかし、1970年代の後期に予想される、米国内外におけるぼう大な濃縮ウラン需要量に対処するには現有能力の拡大が望まれる。濃縮能力拡大の最も経済的な方法は、カスケード改良計画による現有3濃縮工場の近代化(modernization)であろう。この計画は完了するまでに数年を要するため、将来濃縮ウラン不足に追い込まれるよりは、現時点においてこれに着手することが賢明であると信ずる。1972会計年度中にCIPをスタートされるために、1,600万ドルを計上している。

3 発電所の立地

 将来の電力需要に備えて発電所を建設する際の環境への影響を考慮して、去る2月に提出した環境問題に関する特別教書の中で、発電所立地法案(Power Plant Siting Bill)を提出した。この法案では、①発電所建設の10年前に建設計画を策定すること、②建設の5年前に立地点を公表すること、③発電所と送電系統の詳細設計を建設の2年前までに決定することなどを提案している。この法案に対する議会の迅速な決議を要請する。

4 天然資源省(Department of Natural Resources)の設置

 以上述べたようなエネルギー政策を総合的、効率的に実施するために天然資源省の設置を提案した。天然資源省の総合エネルギー開発計画のうちの原子力開発計画を実施する機関として原子力委員会は従来通りとする。
 なお、大統領はこの他にもいくつかの省を新設する提案を行なっている。


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