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日本原子力研究所東海研究所原子炉
(JRR-3)の定常運転再開について



45原委第61号
昭和45年3月12日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所東海研究所原子炉(JRR-3)の定常運転再開について

 標記の件について、別添のとおり決定したので通知する。


日本原子力研究所東海研究所原子炉
(JRR-3)の定常運転再開について

昭和45年3月12日
原子力委員会

 原子力委員会は、昭和45年3月11日付けで、原子炉安全専門審査会から、JRR-3の定常運転再開の安全性について別紙の報告を受けた。
 同報告はJRR-3の定常運転の実施について安全上格別の支障はないとしているので、当委員会は、JRR-3の定常運転を再開させて差しつかえないものと考える。




日本原子力研究所東海研究所原子炉
(JRR-3)の定常運転再開の安全性について

昭和45年3月11日
原子炉安全専門審査会

原子力委員会委員長
西田 信一殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

 日本原子力研究所東海研究所原子炉
(JRR-3)の定常運転再開の安全性について

 昭和45年1月28日付け45原案第20号(昭和45年3月11日付け、45原委第60号をもって一部訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 昭和45年1月28日付け、45原委第20号をもって、指示のあった日本原子力研究所東海研究所原子炉施設(JRR-3)の定常運転再開の安全性について、同研究所が提出した「JRR-3の今後の運転等について」(昭和45年1月26日付け、45原研01第4号、昭和45年3月9日45原研01第8号で一部訂正)に基づき審査した結果、同施設の定常運転再開に係る安全性は十分確保しうるものと認める。


Ⅱ 審議内容

 本原子炉施設の定常運転再開に係る安全性の審議にあたっては、炉内に流出ウランを含む状態での運転、過去に破損した7本の燃料と同一製造履歴の燃料(以下S-H燃料という)の使用の可否および破損の防止対策ならびに今後本原子炉の燃料が破損した場合においてもウランが流出する以前にその位置決定が出来ることの確認等を主として検討した。


1 再開される定常運転の概要と破損燃料監視体制

 7本目の燃料の破損により約70gのウランが炉内に流出したと推測されるが、その後の重水精製作業の結果、現在、約10gのウランが残留している。
 そのかなりのものは燃料集合体表面等に附着していると考えられる。今後の定常運転では炉内にまだ約10gのウランが残留する状態で、一部にS-H燃料を使用するが、今回再整備された破損燃料検出装置を用いて次のような破損燃料監視体制および運転条件で運転を行なう。

① 破損燃料検出装置の遅発中性子モニタ(DNモニタ)により、燃料破損の監視業務を行なわせるため、「遅発中性子モニタ測定班」を設置して、1日1回測定する。

② 破損燃料検出装置のGMモニタおよびDNモニタ23チャンネルの平均計数値を原子炉出力の上昇直後(中間出力を含む)において1回読みとる。

③ GMモニタの23チャンネルの計数値は1直に2回読みとり、うち1回は平均値を計算し記録する。

④ GMモニタの23チャンネルの平均計数値が1.5倍になったときは、DNモニタにより破損燃料の位置決めを開始する。

⑤ DNモニタ計数値の最高2チャンネルの和が、この2チャンネルの運転中平均値の10倍をこえたとき、または、最高2チャンネルの計数値の和が1500cpmをこえたときは、原子炉を停止する。

⑥ DNモニタ23チャンネルの平均計数値が220cpmをこえたときは原子炉を停止する。

⑦ 起動時または出力上昇直後にGMモニタの平均計数値が前サイクル運転中の値の3倍をこえたときは、原子炉を停止する。

2 燃料破損の機構とその防止対策

 燃料要素は天然ウランの金属棒(直径25mm)をアルミニウム被覆(厚さ2mm)したもので、長さは約900mmである。
 燃料集合体は、この要素を3本継なぎにし、その外側を冷却管で包んだもので、これが246本炉内に装荷されている。
 破損燃料について調査した結果より見て、今回の燃料破損の機構は次のとおりであると考えられる。

① 燃焼が進むにつれて、ウラン棒に「シワ」が著しく発生する。

② この場合のアルミニウムの被覆は、特に延性が不十分であるため、この「シワ」により突き上げられて、亀裂を生じ、この亀裂を通って重水が侵入する。

③ 金属ウランが重水と反応し、ゆっくりと酸化ウランに変化し、体積が膨脹する。

④ 被覆管の亀裂が開口し、核分裂生成物の水中への放出量が増加する。

⑤ その後さらに運転を継続すると、酸化ウランは重水中へ流出する。

 これに対し、今後の運転に当っては、新たな燃料破損を防止するため、次のような対策を講ずることになっている。
 すなわち、過去に破損が発生した最低の燃焼度が約240MWD/t(1集合体平均)であったのに対し、200MWD/t以上では、S-H燃料を使用しないこととする。しかも取出された全燃料集合体を検査し、全ての要素に異常がない時のみ残りのS-H燃料について200MWD/tまでの使用を続けることとしている。
 したがって、今後新たにウランによる重水汚染のおこるような燃料破損はないと考えられる。


3 破損燃料の検出および位置決めの方法

 破損燃料検出装置は燃料集合体246本からサンプリングした重水を2分岐し23ヶのDNタンクに集め、重水中に含まれる核分裂生成物をGMモニタで測定して破損燃料の位置を決定するためのものであるが、補助的に遅発中性子をDNモニタで測定することによっても位置を決定出来るようになっていた。しかし過去の燃料破損発生の結果、現状ではGMモニタによる位置決定はほとんど不可能と考えられるので、当初補助的と考えられていたDMモニタにより位置決定を行うこととして、GMモニタでは主に破損の発生を監視することで今後の運転を行なう。

3.1 GMモニタ
 GMモニタのキャリアガスであるヘリウムガスのバックグラウンドを下げるために、通常は3週間に1回の精製を実施して、常に高純度を保っているが今後は純度が低下した場合には、その都度精製を行なうこととしている。
 また、炉内にウランが約10g残留する状態で10MW運転時にGMモニタの計測値は約2000cpsであったが、これでは新たな破損燃料の検出上好ましくないので検出部分のGM管に吸収板をそう入しGM管の計数率として好ましい値になるようにし、併せて、低エネルギー部分をカットして短半減期核種に特有の高エネルギーβ線に対する感度を相対的に高め、かつ、平均300cps程度に下げている。したがって新たな破損燃料が今後発生してもウラン流出前に検出可能なようになっている。

3.2 DNモニタ
 DNモニタ計測値が破損燃料がない状能でかなり変動したことが認められていたが、これを防止するためにDNタンク中に流入する重水量の変動をなくすため弁、配管等の交換、付け変えを行った結果、その変動は小さくなっている。
 現在の計数値は平均で約120cpmであり、これは重水中にウラン流出のなかった時点の値に近く下っているので、新たに破損燃料が今後発生してもウラン流出前にその位置決めは可能なようになっている。


4 平常運転時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は、次の通りであり、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

4.1 気体廃棄物
 過去最大の流出ウラン量約70gの時の運転結果によれば、その時の気体廃棄物は周辺監視区域外における年間被ばく線量が法規に定める値をこえないように定められた保安規定の放出基準以下であった。したがって今後の運転で最悪の場合に予想されるDNモニタの平均値220cpmに相当する流出ウラン量約20gで運転を行っても問題はないと考えられる。

4.2 従事者の被ばく
 原子炉運転中に従事者の立入る可能性のある場所について破損燃料の発生以前破損燃料発生時および試運転時に空間線量率を測定した結果によれば、その増加はほとんどなく、僅かにFFD室前において増加が認められる程度であった。しかしここは常時従事者の立入る場所ではないので、ウラン流出による従事者の被ばく線量の増加はほとんどなく問題はないと考えられる。


5 各種事故の検討

 本原子炉において今後発生する可能性のある事故について検討した結果、それぞれ次のような対策が講じられており、本原子炉は十分安全を確保し得るものと認める。

5.1 重水の漏洩事故
 今後予想される最大の流出ウラン量は約20gであるが、仮に70gが炉心内にある状態で、運転中に一次冷却系機器、配管等より重水が漏洩した場合でも重水漏洩検出器が作動して必要な措置がとられるが、その時10gの重水が漏洩したとしても重水中から放出される核分裂生成物およびトリチウムはごく僅かであり、かつフイルタを通して、高さ40mの排気筒より大気中に放出されるので周辺に対する影響は問題とならない。

5.2 ヘリウムガスの漏洩事故
 流出ウラン量70gが炉心内にある状態で運転中にヘリウムガス系機器配管等より約300l/hで5m3のヘリウムガスが漏洩したとしてもヘリウムガス中に含まれる核分裂生成物およびトリチウムはごく僅かであり、かつフイルターを通して、高さ40mの排気筒より大気中に放出されるので周辺に対する影響は問題とはならない。


6 災害評価

 本原子炉は平常時はもちろん、各種事故に対しても検討の結果安全を確保し得るものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地指針に十分適合しているものと認める。

6.1 重大事故
 破損燃料の検出が遅れ、ウラン1.5kg中の核分裂生成物量に相当する核分裂生成物が放出されるようなウラン露出の状態で一次冷却系機器、配管等の破損により、系外に重水全装荷量の約1/10(3m3)が漏洩する事故を想定し、次の仮定を用いて線量を計算する。
 なお、原子炉は直ちにスクラムされる。また燃料要素は露出しても溶融することはない。

① 核分裂生成物およびトリチウムは無限時間全出力運転後の重水中に内蔵されている生成量を考え、重水中に均一に分散しているとする。

② 漏洩した重水中に内蔵されている核分裂生成物およびトリチウムが炉室空気中に放出される割合は希ガスおよびトリチウム100%、ヨウ素50%、ストロンチウム1%とする。

③ 炉室空気中に放出された核分裂生成物およびトリチウムは、高性能エアーフイルタを通して、高さ40mの排気筒から大気中に放出される。
 なお、フイルタのストロンチウムに対する濾過効率は90%とする。

④ 大気中の拡散に用いる気象条件は、現地の気象データ等をもとに、「原子炉安全解折のための気象手引」を参考にして、大気安定度B型、風速2m/sec、拡散幅30°とし、高さ40mの排気筒放散とする。

 以上の仮定および条件に基づき解析した結果、敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から風下300m地点)であって、甲状腺(小児)に対して約350mrem、全身に対して約45mremとなる。
 これらの被ばく線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(小児)150rem、全身25remより十分小さい。

6.2 仮想事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について重水が全量(25m3)漏洩したと想定し、同様の仮定に基づいて解析する、解折の結果、敷地外で線量が最大となるのは敷地境界(原子炉中心から風下300m地点)であって、甲状腺(成人)に対して約720mrem、全身に対して約360mremとなる。
 これらの被ばく線量は「原子炉立地審査指針」にめやす線量として示されている甲状腺(成人)300rem、全身25remより十分小さい。



Ⅲ 審査経過

 本審査会は昭和45年1月30日第77回審査会において、次の委員よりなる第61部会を設置した。

三島 良績(部会長) 東京大学
江藤 秀雄 放射線医学総合研究所
竹越 尹 動力炉・核燃料開発事業団
都甲 泰正 東京大学
浜田 達二 理化学研究所

 以後、部会および審査会では、次表のように審査し、昭和45年3月6日の部会において部会報告書を決定し、昭和45年3月11日第78回審査会において本報告書を決定した。




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