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関西電力(株)美浜発電所の原子炉
(1号炉)の設置変更について



 原子力委員会は、関西電力株式会社から申請のあった美浜発電所1号炉の設置変更に関する許可の基準の適合について、内閣総理大臣から昭和43年11月28日付けで諮問を受けた。
 以来安全性については、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、昭和44年2月25日に審査会長から安全性は確保し得る旨、原子力委員会に報告がなされた。
 さらに、原子力委員会としては、同審査会から報告があった安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、物理的能力等についても、審査を行ない、設置の変更許可基準に適合する旨2月27日の定例会議で結論を得、同日付けで内閣総理大臣あてに答申した。
 主な変更点は、非常用冷却設備に蓄圧注入系を退加すること等である。




関西電力株式会社美浜発電所の原子炉(1号炉)の設置変更について(答申)

44原委第64号
昭和44年2月27日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

関西電力株式会社美浜発電所の原子炉(1号炉)の設置変更について(答申)

 昭和43年11月28日付43原第5890号をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 関西電力株式会社美浜発電所の原子炉の設置変更(1号原子炉施設の変更)に関し、同社が提出した変更の許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全審査会の報告は、次のとおりである。




関西電力株式会社美浜発電所原子炉の設置変更
(1号原子炉施設の変更)に係る安全性について

昭和44年2月25日   
原子炉安全専門審査会

昭和44年2月25日    

原子力委員会
委員長 木内 四郎殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

関西電力株式会社美浜発電所原子炉の設置変更
(1号原子炉施設の変更)に係る安全性について

 当審査会は,昭和43年11月28日付け43原委第316号をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。



Ⅰ 審査結果

 関西電力株式会社美浜発電所原子炉の設置変更に関し,同社が提出した「美浜発電所原子炉設置変更許可申請書(1号原子炉施設の変更)」(昭和43年11月20日付け申請)に基づいて審査した結果,本原子炉の設置変更に係る安全性は,十分確保し得るものと認める。



Ⅱ 変更事項

 本変更は,美浜発電所1号炉の施設を変更しようとするもので,変更事項は、次の通りである。


1 原子炉本体

(1) 燃料体の最大挿入量を初装荷炉心でU-235約11±(従来 〃 10±)に変更すること。

(2) 初装荷炉心の最大余剰増倍率を0.32Δk以下(従来過剰反応度28%Δk/k以下)に変更すること。

(3) 初装荷炉心燃料(3領域)のU-235濃縮度を約2.3W/O,3.0W/O、3.4W/O、平均2.9W/O(従来約2.4W/O、2.5W/O,2.8W/O、平均2.6W/O)に変更すること。

(4) 初荷炉心の燃料集合体最大燃焼度を約39,000MWD/T(従来:約35,000MWD/T)に変更すること。


2 核燃料物質の取扱および貯蔵施設

(1) 使用済燃料貯蔵設備の貯蔵能力を8/3炉心相当分以上(従来:4/3炉心相当分以上)に変更すること。


3 原子炉冷却系統施設

(1) 非常用冷却設備に蓄圧注入系(蓄圧タンク2基,容量約38m3/基)を追加すること。

(2) 化学,体積制御設備の充てんポンプ台数および容量をそれぞれ3台,約14m3/hr/台(従来:それぞれ2台約12m3/hr/台)に変更すること。

(3) 余熱除去設備のポンプ容量を約310m3/hr/台(従来:約270m3/hr/台)に変更すること。


4 計測制御系統施設

(1) 原子炉停止回路に次のものを追加すること。

 (イ) 中性子束高(中性子源領域および中間領域)

 (ロ) 1次冷却材可変温度高

 (ハ) 原子炉圧力低

 (ニ) 加圧器水位高

 (ホ) 蒸気発生器水位低

  また、次のものを廃止する。

 (イ) 起動率高

 (ロ) 原子炉可変圧力低

 (ハ) 1次冷却材ポンプ電源喪失

 (ニ) 蒸気発生器蒸気、給水流量差過大

(2) その他安全保障回路に次のものを追加する。
 2次系蒸気圧力低信号あるいは格納容器の圧力高信号による安全注入設備の作動回路
また、次のものを廃止する。
 起動率高信号による制御棒クラスタの自動および手動引抜き阻止の連動回路

(3) 制御棒クラスタの個数を約33(従来:約32)に変更すること。なお、このうち4個は、出力分布調整用制御棒とし、新たに追加する。

(4) 出力運転時ほう素濃度を初装荷炉心初期で約1,470ppm(従来:約2,560ppm)に変更すること。

(5) 制御設備にバーナブルポイズン棒(個数約688)を追加すること。

(6) 反応度制御能力を初装荷炉心で約0.33Δk(従来:約29%Δk/k)に変更すること。


5 原子炉格納施設

(1) 原子炉格納容器の設計圧力および設計温度をそれぞれ約24kg/cm2g、約133℃(従来:それぞれ約2.6kg/cm2g、約130℃)に変更すること。

(2) 原子炉格納容器空気再循環設備の循環送風機容量を約80,000m3/hr/台(従来:約73,000m3/hr/台)に変更すること。




Ⅲ 審査内容


1 安全設計および安全対策

 本変更に係る原子炉施設は、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

1.1 核設計および動特性
 本原子炉は、従来の設計において炉心寿命の初期でほう素濃度が大きいため、反応度の減速材温度係数は、正になることが予測されたが、本変更により、バーナブルポイズン棒が設けられるので、炉心寿命を通じ減速材温度係数は、常に負となり、安全制御上問題ないと考える。なお、バーナブルポイズン棒は、最初の燃料取替時に全部取り出される。
 また、本原子炉にあっては、炉内でのキセノンによる発散性の出力分布の空間振動が発生するとは考えられないが、さらに、中性子吸収材を一部に入れた出力分布調整用制御棒を設けることにより抑制されるので十分安全に対処しうる。

1.2 燃料
 本変更に係る原子炉に使用する燃料としては、初装荷炉心燃料の濃縮度を変更することを除いて、組成および構造に変更ないが、燃料集合体最高燃焼度が約39,000MWD/Tになることを期待している。これに対しては、従来講じられている設計上の配慮に加え、先行原子炉における使用実績に留意することになっている。

1.3 計測および制御系

(1) 安全保護系
 安全保護系は、原子炉停止回路、運動回路等に若干の変更があるが、従来講じられているフェイルセイフの機能等の安全設計に変更をおよぼすものではない。

(2)反応度制御系
 反応度制御系は、制御棒クラスタ(出力分布調整用制御棒クラスタを含む)、化学、体積制御系およびバーナブルポイズン棒よりなる。
 出力分布調整用制御棒クラスタは、ローラ、ナット式駆動装置により、上方から駆動される。この制御棒クラスタは、通常炉心内に挿入されている。
 バーナブルポイズン棒は、初装炉荷心における過制反応度を抑制するものである。構造は、ほうけい酸ガラス管をステンレスで被覆し、クラスタ状に成型したものであり、上端をスパイダで固定し、炉心内の制御棒クラスタの入っていない燃料集合体の制御棒案内シンブルに挿入され、炉心全体に一様に分布配置される。なお、ほうけい酸ガラス管の軟化温度等を配慮して設計することとしている。
 制御棒の反応度抑制効果は、最も反応度効果の大きい制御棒クラスタ1本が炉心に挿入できない場合でも、常に炉心の実効増倍率を0.99以下に抑えるだけの停止余裕があるように設計される。

1.4 原子炉冷却系
 圧力容器に接続している1次系配管の破断等の事故時においても、原子炉の熱除去が完全に行なえるよう従来の非常用冷却設備(高圧注入系および低圧注入系)に蓄圧注入系が追加される。
 すなわち、一次冷却材喪失事故時にほう酸水を圧力容器に注入し、燃料温度の過度の上昇を防止して、燃料の損傷、溶融、燃料被覆管のジルコニウム水反応を防止する機能を有する。なお、配管は多重性を持たせた設計とし、耐震設計はAクラスを適用する。


2 平常時の被ばく評価

 平常運転時における被ばく評価は、運転管理および廃棄物の放出管理を従来と同様にすることとしており、本原子炉の設置および2号炉の増設に際し行なった審査における評価の内容と変ることはない。
 よって敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障ないものと認める。


3 災害評価

 変更に係る本原子炉においても、発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、十分な対策が講じられており安全性を確保し得ると認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、立地審査指針に十分適合しているものと認める。

3.1 重大事故
 重大事故として、1次冷却材喪失事故および蒸気発生器細管破損事故の二つの場合を想定する。

(1) 1次冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である1次冷却系配管(内径約70cm)1本が原子炉出口ノズル付近で瞬時に破断し、破断口両端から1次冷却材が放出される事故を仮定する。
 解析の結果では、二酸化ウランおよび被覆の溶融点に達する燃料はない。
 しかし、燃料のうち一部は、被覆管破損を起すと予測される約600℃をこえる。さらに、炉心内のジルコニウムの数%は水と反応する。
 原子炉容器の圧力は、放出された1次冷却材により、急上昇するが、原子炉格納容器空気再循環設備および原子炉格納容器スプレイ設備により冷却され、設計圧力をこえることはなく、事故後約3時間以内に内圧は大気圧近くまで減少する。
 そこで核分裂生成物の放射過程に従って、次の仮定を用いて線量を計算する。

① 燃料被覆管の破損により、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス2%、ハロゲン1%、固体核分裂生成物、0.02%相当分が放出されるものとする。
 なお、燃料外に放出されたよう素の10%は有機よう素であり、無機よう素の50%は、壁面等に吸着されるものとする。

② 原子炉格納容器内に浮遊するよう素は、原子炉格納容器再循環設備のよう素フィルタにより大部分が除去されるが、その除去効率は、無機よう素に対して90%、有機よう素に対して70%とする。

③ 格納容器内からの漏洩率は、事故後24時間まで0.1%/day、それ以降、30日まで00.45%/dayとする。

④ 原子炉格納容器からの漏洩は、その90%が配管や配線の貫通するアニュラス部に生じ、また10%は原子炉格納容器ドーム部に生ずるものとする。
 なお、アニュラス部に漏洩したものは、アニュラス排気設備により、よう素フィルタを通して排気筒に導かれるが、このよう素フィルタの除去効率は90%とする。

⑤ 大気中への拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地のデータをもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下気象手引という)を参考にして、高さ55m以下均一分布、拡散巾30風速2m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能はよう素が約1.1Ci(Ⅰ-131換算、以下同様)希ガスが約1,820Ci(0.5MeV換算、以下同様)で ある。
 敷地外で線量が最大となる地点は敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は、甲状線(小児)に対して約0.05rem、全身に対して約0.13remである。

(2) 蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器細管の1本が瞬時に破断し、一次冷却材が2次側へ流出して、その中に含まれる核分裂生成物が空気エゼクタを経てタービン建家内に放出される事故を仮定する。
 事故発生から、原子炉圧力低信号により原子炉が停止し、1次側の除熱と減圧を行なうと同時に、1次側隔離弁を閉止する。それまでに約10分を要するが、1次冷却材の2次側への流出は、全保有量の約1/10である。
 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。

① 1次冷却材中のよう素-131濃度は、5Mud/cc(燃料被覆に5%相当の欠陥がある状態で定格出力運動を行なっている時の平衡濃度に相当)とする。

② 2次側へ流出した1次冷却材中に含まれる核分裂生成物のうち、希ガスは全部が、またよう素は一部が(液相-気相の分配係数を100とする)空気エゼクタを経て、タービン建家から放散されるものとする。

③ 大気への拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに、気象手引を参考にして、英国気象局法を用い、地上放散、安定度F型、拡散巾30°風速2m/secとする。
 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能はよう素が約1Ci、希ガスが約2,180Ciである。
 敷地外で線量が最大となる地点は、敷地境界(原子炉中心から約700m)であって、その地点における線量は、甲状腺(小児)に対して約0.44rem、全身に対して約0.16remとなる。

3.2 仮想事故
 仮想事故としても、重大事故と同様、二つの事故の場合を想定する。

(1) 1次冷却材喪失事故
 仮想事故としては、重大事故と同じ事故について安全注入設備の炉心冷却効果を無視して、炉心内の全燃料が溶触したと仮想する。
 この評価は、本原子炉の設置の際行なった審査における評価の内容と変ることはない。
 すなわち、敷地外で線量が最大となる地点は、敷地境界(原子炉中心から約700m)であってその地点における線量は、甲状腺(成人)に対して、約3rem、全身に対して約9remである。また、全身被ばく線量の積算値は、約1.4万人レムである。

(2) 蒸気発生器細管破損事故
 重大事故の場合と同じ事故について、1次側隔離弁が閉止されず、1次冷却材中の核分裂生成物の全量が、2次側へ流出すると仮想する。
 そこで重大事故と同じ仮定を用いて線量を計算する。
 解析の結果、大気中に放出される放射能は、よう素約10Ci、希ガスが約23,5000Ciである。
 敷地外で線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心から約700m)であってその地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約1.3rem、全身に対して約1.6remである。




Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和43年12月4日第65回審査会において、次の委員からなる第49部会を設置した。

吹田 徳雄(部会長) 大阪大学
植田 辰洋      東京大学
都甲 泰正      東京大学
渡辺 博信      放射線医学総合研究所

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行ない、昭和44年2月25日の部会において部会報告書を決定し、昭和44年2月25日第68回審査会において本報告書を決定した。


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