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東京電力(株)福島原子力発電所の原子炉
(1号炉増出力)の設置変更について



 原子力委員会は、東京電力株式会社から申請のあった福島原子力発電所1号炉の設置変更に関する許可の基準の適合について、内閣総理大臣から昭和43年11月23日付けで諮問を受けた。
 以来安全性については、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、昭和44年2月25日に審査会長から安全性は確保し得る旨、原子力委員会に報告がなされた。
 さらに、原子力委員会としては、審査会から報告があった安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、経理的能力等についても、審査を行ない、設置の変更許可基準の適合する旨2月27日の定例会議で結論を得、同日付けで内閣総理大臣あてに答申した。
 主な変更点は、原子炉の熱光力を従来の1,220MW(電気出力40万KW)を1,380MW(電気出力46万KW)に変更しようとするものである。




東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉(1号炉)の
設置変更について(答申)

44原委第63号
昭和44年2月27日

内閣総理大臣殿
原子力委員会委員長

東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉(1号炉)の
設置変更について(答申)

昭和43年11月28日43原第5858号(昭和44年2月24日付け44原865号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 東京電力株式会社福島原子力発電所の原子炉の設置変更(1号炉増出力)に関し、同社が提出した変更の許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は次のとおりである。




東京電力株式会社福島原子力発電所原子炉の設置変更
(1号炉増出力)に係る安全性について

昭和44年2月25日   
原子炉安全専門審査会

昭和44年2月25日    

原子力委員会
委員長 木内 四郎殿

原子炉安全専門審員会
会長 内田 秀雄

東京電力株式会社福島原子力発電所原子炉の設置変更
(1号炉増出力)に係る安全性について

 当審査会は、昭和43年11月28日付け43原委第314号(昭和44年2月24日付け44原委第58号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 東京電力株式会社福島原子力発電所原子炉の設置変更に関し、同社が提出した「福島原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(1号炉増出力)」(昭和43年11月29日付け申請、昭和44年2月15日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 変更事項

 本変更は、福島原子力発電所の1号炉の施設を変更しようとするもので、変更事項は次のとおりである。

(1) 原子炉の熱出力を約1,380MW(従来:約1,220MW)に変更すること。

(2) 第1炉心の最大実効余剰増倍率を約0,24Δk(従来:最大過剰反応度約25%Δk/k)に変更すること。

(3) 炉心ボイド率を定格出力時で約32%(従来:29%)に変更すること。

(4) 限界熱流束比を定格出力時で1.9以上(従来:定格の120%出力で1.5以上)に変更すること。

(5) 燃料最高線出力密度を定格出力時で約0.57KW/cm(従来:定格の120%出力時で燃料最高温度約2,500℃)に変更すること。

(6) 炉心出口の平均蒸気重量率を定格出力時で約12%(従来:約10%)に変更すること。

(7) ポイズン・カーテンの個数を約200(従来:約170)に変更すること。

(8) 安全保護回路に次のものを追加すること。

(イ) 予知スクラム
(ロ) 制御棒引抜き監視装置
(ハ) 送択制御棒挿入機構

(9) 主蒸気隔離弁の閉止時間を3ないし5秒(従来:3ないし7秒)に変更すること。


Ⅲ 審査内容


1 安全設計および安全対策
 本変更に係る原子炉は、次のような安全設計および安全対策が講じられることとなっており、十分な安全性を有するものであると認める。

1.1 核、熱設計および動特性
 本変更に係る増出力は、従来の原子炉本体および冷却系統施設を変更することなく、線出力密度を増加させることにより、達成しようとするものである。
 本変更に係る原子炉にあっても、炉心の設計基準は過渡状態でも燃料破損が生じないこととしているが、その燃料破損の限界としては、限界熱流束(CHF)をこえず、また、ジルカロイ被覆の円周方向1%塑性歪み(この歪みを生ずるに必要な線出力密度は、約0.92KW/cm)をこえないことをめやすとしている。これは、一部燃料溶融(この溶融を生じるに必要な線出力密度は、約0.69KW/cm)が生じても燃料棒は破損しないという実験結果にもとづいたものである。
 すなわち、定格出力運転において、最小限界熱流束比(MCHFR)は1.9以上であり、最高線出力密度は0.57KW/cm以下である。
 この最高線出力密度は、燃料溶融が生ずる線出力密度に対して、約20%以上の余裕があり、仮に過渡的に120%出力になった場合でも、燃料溶融が生じないという従来の設計基準と等価である。
 なお、タービン発電機トリップ、再循環ポンプ電源喪失などの比較的起る可能性の大きい事故時にも、最小限界熱流束比は1.4を下まわらない。
 また、本変更により原子炉の動特性に変更はない。

1.2 燃料
 本変更に係る原子炉に使用する燃料は、組成および構造に変更ない。
 本燃料と類似の設計の燃料については、先行原子炉において、本原子炉に近い使用条件での使用実績が得られてきている。

1.3 計測および制御系
 安全保護系は原子炉停止回路、連動回路に若干の追加があるが、従来講じられているフェイルセイフの機能等の安全設計に変更を及ぼすものではない。予知スクラムは、タービンの故障時に主蒸気止め弁の閉鎖を検知することなどによって原子炉を早期にスクラムさせることができるようになっている。
 また、制御棒引抜き監視装置は、出力運転中の制御棒引抜き事故に対し、引抜きをブロックし、局部的な燃料損傷を起す出力上昇を防止しうるようになっている。
 選択制御棒挿入機構は、タービン負荷の脱落時に冷水流入による反応度付加によってひき起す可能性のある原子炉スクラムを防止しうるようになっている。

1.4 放射線管理

(1) 放射線遮蔽
 放射線遮蔽は、従業員の作業時間に応じ、その被ばく線量が現行法現に規定された許容値を十分下まわるよう設計することとしている。

(2) 廃棄物の放出管理
 気体廃棄物は、放出に先だって放射能レベルが連続的に測定される。測定の結果、放射能が高い場合には、排気筒からの放出は、一時中止され、ガス減衰タンクに貯留され、気象条件を考慮して放出される。最高放出率は、従来と同様、1日平均で50mCi/sec(γ線エネルギー0.17MeV相当)に抑えられるが放出される放射能の量はできる限り低く抑えることにしている。液体および固体廃棄物の廃棄についても従来と同様に管理することとしている。



2 平常運転時の被ばく評価
 平常運転時における被ばく評価には廃棄物の放出管理を従来と同様にすることとしており、本原子炉の設置および2号炉の増設に際し行なった審査における評価の内容と変わることはない。
 よって、敷地周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障はないものと認める。



3 災害評価
 変更に係る本原子炉においても、発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、十分な対策が講じられており安全性を確保し得るものと認めるが、さらに「原子炉立地審査指針」に基づいて重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は立地審査指針に十分適合しているものと認める。

3.1 重大事故
 重大事故として冷却材喪失事故、主蒸気管破断事故およびガス減衰タンク破損事故の三つの場合を想定する。

(1) 冷却材喪失事故
 圧力容器に接続している最大口径の配管である再循環回路(外径約60cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材が放出される事故を仮定する。解析の結果では、炉心スプレイ系が作動してその噴霧冷却により燃料の溶融は生じないが、燃料棒本数の約7%は過熱のため、被覆の一部に破損が起る。
 また事故後のドライウエル圧力は、十分低く抑えられ、約8月後には大気圧にもどる。
 そこで、核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて線量を計算する。

① 全部の燃料棒の被覆に破損があったとし、1,000日間全出力運転後の炉心に内蔵されている核分裂生成物中のよう素の0.5%、希ガスの1%がドライウエル内へ放出される。
 この場合、よう素については、壁面等に吸着される割合を50%、液相一気相の分配係数を100とするが、よう素のうち10%は有機状のものとしてこれによる低減を期待しない。
② ドライウエルから8日間にわたって、0.5%/dayの漏洩がある。
③ 非常用ガス処理系では湿分除去により相対湿度を30%以下に下げ、活性炭フィルタで濾過することになっているのでよう素全体に対する濾過効率を90%とする。
④ 核分裂生成物は、原子炉建家から換気率100%/dayで排気筒を通し放出される。
⑤ 大気中の拡散に用いる気象条件は、排気筒の高さ、現地の気象データ等をもとに「原子炉安全解析のための気象手引」(以下気象手引という)を参考にして最初の1日間は高さ100m以下均一分布拡散巾30°、風速1.5m/secとし、残りの7日間は英国気象局法を用い、B型、拡散幅30°、風速1.5m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、全よう素が約58Ci(Ⅰ-131換算、以下同様)希ガス約3,500Ci(0.5MeV換算以下同様)である。
 敷地外で線量が最大となる地点は、敷地境界(原子炉中心から約1km)であって、その地点における線量は、甲状線(小児)に対して約0.9rem全身に対して約6.1mremとなる。

(2) 主蒸気管破断事故
 ドライウエル外で主蒸気管(外径約40cm)1本が瞬時に完全破断し、冷却材の気水混合物が大気中に放出される事故を仮定する。隔離弁の閉止時間は5.5秒、放出量は流出制限器によって定格流量の約200%に制限されるものとして、冷却材の放出を解析すると、蒸気約4.5トン、飽和水約6.8トンが放出されることになるが、炉心は、冷却水面上に露出しない。
 そこで次の仮定を用いて線量を計算する。

① 事故前の1次冷却材中の核分裂生成物の濃度は、原子炉運転中の冷却材放射能濃度の最高限度である20μCi/ccとする。
② 原子炉外に放出される核分裂生成物は、事故前に1次却材中に保有されるものと、燃料棒本数の約1%の欠陥のある燃料から事故期間中に新たに放出されるものの和とする。
③ タービン建家内の壁面等へ吸着および凝縮により去されとる無機よう素の割合は50%とする。よう素のうち10%は有機状のものとして、これらによる低減を期待しない。
④ 放出された飽和水は、気温33℃、相対湿度40%の大気中に全部蒸発して半球状放射性雲となる。
⑤ 半球上放射性雲は、風速1m/secで風下に運ばれる。
 以上の解析から求めた放射性雲の大きさは、半径79mであり、その放射能は全よう素が約17Ci希ガス253Ciである。敷地境界における線量は甲状線(小児)に対して約5.3rem、全身に対し約3.3remとなる。

(3) ガス減衰タンク破損事故
 ガス減衰タンクが破損し、貯留されている放射性気体廃棄物が一時に放出される事故を仮定する。この評価は、本原子炉の設置の際行なった審査における評価の内容と変わることはない。
 すなわち敷地外で線量が最大となる地点は、敷地境界(原子炉中心から約1km)であって、その地点における線量は約0.3remとなる。

3.2 仮想事故
 仮想事故として、冷却材喪失事故と主蒸気管破断事故の場合を想定する。

(1) 冷却材喪失事故
 重大事故の場合と同じ事故について、炉心スプレイの効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと仮想する。この場合、炉心内にあるジルコニウムの約1/4が水と反応し、相当量の水素が発生するが、ドライウエルには不活性ガスが充填されているので、発生水素の燃焼は防げる。事故後のドライウエルの最高圧力は設計圧力より低いが、原子炉建家への核分裂生成物の漏洩時間は長く続く。
 そこで、重大事故の場合と同様の仮定を用いて線量を計算する。
 ただし、次の仮定は、重大事故の場合と異なっている。

① 炉心の100%溶融により、内蔵されている核分裂生成物中のよう素の50%、希ガスの100%がドライウエル内に放出される。
② 大気中への拡散に用いる気象条件は、気象手引を参考にして、英国気象局法を用い、排気筒有効高さ100m、B型、拡散幅30、風速1.5m/secとする。

 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は全よう素が約1.1×104Ci、希ガス約4.9×105Ciである。
 敷地外において線量が最大となる地点は敷地境界(原子炉中心から約1km)であってその地点における線量は甲状腺(成人)に対して約37rem全身に対して約0.8remまた、全身被ばく線量の積算値は約6、7万人レムである。

(2) 主蒸気管破断事故
 重大事故の場合と同じ事故について破断した蒸気管と直列にある2個の隔離弁のうち1個が動作しないと仮想し、他の1個の隔離弁が事故後5.5秒で閉止した後も圧力容器内の蒸気体積の0.5%/dayの漏洩が継続するものとする。
 この場合、非常用復水器、原子炉停止時冷却系で炉心の熱除去が行なわれ、隔離弁閉止後約30時間で炉内圧力が大気圧に低下すると漏洩は止む。
 そこで、重大事故の場合と同じ仮定を用いて線量を計算する。
 ただし、圧力容器内の液相一気相の無機よう素の分配係数を100とする。また、大気中への拡散に用いる気象条件は、隔離弁閉止までに放出される冷却材については重大事故と同じものを用い、閉止後に放出された蒸気については、気象手引を参考にして英国気象局法を用い地上放散F型、拡散巾30°、風速1m/secとする。
 以上の解析の結果大気中に放出される放射能は全よう素が約38Ci、希ガスは約747Ciである。敷地外で線量が最大となる地点は、敷地境界(原子炉中心から約1km)であって、その地点における線量は、甲状腺(成人)に対して約3.3remおよび全身に対して約2.8mremとなる。


Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和43年12月4日第65回審査会において、次の委員からなる第48部会を設置した。

川崎 正之(部会長)日本原子力研究所
大山 彰      東京大学
高島 洋一     東京工業大学
竹越 尹      電気試験所
牧野 直文     日本原子力研究所
三島 良績     東京大学

 同部会は、通商産業省原子力発電技術顧問会と合同で審査を行ない。昭和44年2月18日の部会において部会報告書を決定し、昭和44年2月25日第68回審査会において本報告書を決定した。


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