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日本原子力研究所東海研究所の原子炉
(高速炉臨界実験装置)の設置変更について



 原子力委員会は、日本原子力研究所から申請のあった高速炉臨界実験装置の設置変更に関する許可の基準の適合について、内閣総理大臣から昭和43年9月25日付で諮問を受けた。
 以来安全性については、原子炉安全専門審査会に審査を指示し、昭和44年2月25日に審査会長から安全性は確保し得る旨、原子力委員会に報告がなされた。
 さらに、原子力委員会としては、審査会から報告があった安全性のほか、平和利用、計画的開発利用、経理的能力等についても、審査を行ない、設置の変更許可基準に適合する旨2月27日の定例会議で結論を得、同日付けで内閣総理大臣あてに答申した。
 主な変更点は、プルトニウム系高速炉心の研究を行なうために、プルトニウムアルミニウム合金燃料およびプルトニウム酸化物燃料を使用し、それにともない熱出力を2KW(従来100W)に変更しようとするものである。




日本原子力研究所東海研究所の原子炉(高速炉臨界実験装置)の
設置変更について(答申)

44原委第62号
昭和44年2月27日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所東海研究所の原子炉(高速炉臨界実験装置)の
設置変更について(答申)


 昭和43年9月25日付け43原第4877号(昭和44年2月24日付け44原第914号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉(高速炉臨界実験装置)の設置変更に関し、同研究所が提出した変更の許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全性専門審査会の報告は、次のとおりである。




日本原子力研究所東海研究所原子炉の設置変更
(高速炉臨界実験装置)に係る安全性について

昭和44年2月25日   
原子炉安全専門審査会

昭和44年2月25日    

原子力委員会
委員長 木内 四郎殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

日本原子炉研究所東海研究所原子炉の設置変更
(高速炉臨界実験装置の変更)に係る安全性について

 当審査会は、昭和43年9月26日付け43原委第241号(昭和44年2月24日付け44原委第59号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。


Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所原子炉の設置変更に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉設置変更許可申請書(高速炉臨界実験装置施設の変更)」(昭和43年9月21日付け申請、昭和44年2月15日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置変更に係る安全性は、十分確保し得るものと認める。


Ⅱ 変更事項

1 原子炉の型式を濃縮ウラン、プルトニウム、水平2分割型(従来、濃縮ウラン、水平2分割型)に変更すること。

2 原子炉の熱出力を2KW(従来:100W)に変更すること。

3 最大過剰反応度を0.8ドル(従来:0.6%Δk/k)に変更すること。

4 格子管集合体における炉心温度を40℃以下(従来:室温)とすること。


Ⅲ 審査内容

1 安全設計および安全対策

 本変更に係る原子炉施設は、次のような安全設計および安全対策が講じられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

(1)炉心構成
 炉心は、格子管集合体、燃料要素および模擬物質(構造材、冷却材等)をつめた炉心物質装填用引出し、制御安全要素、ブラケット等により構成され、実験目的によって、炉心の形状、組成、燃料装荷量が決定されるが、安全棒の追加を除いては、従来のものと炉心構造の変更はなく、燃料要素以外は、全て既設の施設、構造が使用される。
 燃料の炉内最大挿入量は、20%濃縮ウラン650kg(235U)、プルトニウム250kg(235Pu+241Pu)、天然ウラン30tonおよび劣化ウラン30tonである。

(2) 燃料
 本変更に係るプルトニウム燃料は、プルトニウムアルミニウム合金燃料要素および、プルトニウム酸化物燃料要素に大別される。
 プルトニウム、アルミニウム合金燃料要素は、プルトニウム(239Pu+241Puの同位体比最大約95%)とアルミニウム(合金中の含有量1.3w/o)の合金板を最大100×50×1.6mmのステンレス鋼製の被覆缶(肉厚約0.25mm)に入れたもので、外辺の一部を溶接封じとし、内外圧に対して気密にしている。
 プルトニウム酸化物燃料要素は、PuO2239Pu+241Puの同位体比最大約95%)の焼結板を最大約100×50×3.1mmのステンレス鋼製の被覆缶(肉厚約0.25mm)に入れたものである。
 これら燃料要素の製作に当っては、プルトニウムの漏洩を生ずる可能性がないように、設計、製作、検査等を行なうこととしている。

(3) 燃料の取扱いおよび管理
 燃料要素には、種類の異なる燃料が使用されるので、色別等により判別管理が十分行なわれるようになっている。本変更に係るプルトニウム燃料は、貯蔵時の臨界を防止するために少量づつを収納容器に収め従来のウラン燃料とは別の貯蔵庫に格納される。
 プルトニウム燃料の取扱いは、燃料装填用デスクに新たに設けられるフードで行なわれるので、汚染管理上十分な対策がなされることになっている。

(4) 核設計および動特性
 超過反応度は鋼板を装着し、それを介して両テーブルを密着して、制御安全棒を全部挿入したとき、0.8ドル以下に抑えられるようになっている。制御安全棒効果は、全制御棒0.5%Δk/k以上および全安全棒2%Δk/k以上である。また、スクラム時に完全引抜きされる安全棒(8本以下)が、新たに追加されるが、本変更によって、テーブル密着時に、全安全棒を挿入し、全制御棒を引抜いた場合であっても、体系の未臨界度は0.5%Δk/k以上に保たれることになっている。
 本変更に係るプルトニウム燃料を使用した本原子炉は、ドップラ効果、燃料膨張効果にもとづく負の反応度係数をもつので、制御棒の操作等に起因する反応度外乱に対して自己制御性を有している。

(5) 放射線管理

(ⅰ) 放射線遮蔽等
 炉心物質装填用引出しを炉心に装荷する際にプルトニウム高位同位元素の自発核分裂による放射線被曝を避けるために、炉心前面に移動可能な生体遮蔽板を設けることになっている。
 また排気系については、炉室と他の室で各々独立しており、プルトニウム燃料取扱フードおよびプルトニウム燃料貯蔵庫の排気は高性能フィルタを経て排気筒より放出される。

(ⅱ) 放射線監視
 放射線監視は、従来のモニタのほか、炉室、プルトニウム取扱いフード、燃料貯蔵庫および排気筒に新たに設けられるαモニタにより、制御室での連続監視、移動モニタによる定期監視、サンプリング測定等によって行なわれ、α放射能の異常のないことを確認することとしている。

(6) 原子炉冷却系
 本変更に係るプルトニウム燃料を使用する際に発生するα崩壊熱を除去し、炉心温度を一定に保つために送風機、フィルタ、冷却室等よりなる強制冷却設備が炉室内に設けられる。
 また本設備は、炉室内における空気除染のためにも使用される。



2. 平常時の被曝評価

 前項で述べた通り、本変更に係る燃料要素は、厳格な品質管理のもとに製作され、また、慎重な取扱いがなされるので、漏洩にともなう。内部被曝の生ずることはないと考える。
 原子炉の運転中および燃料の取扱い等に伴う外部被曝は、従来と変更ないと考えるが、従事者の年間最大被曝線量は、年間予定積算出力、燃料取扱い頻度、過去の運転実績等を勘案すれば約1.8remと推定される。
 また、一般公衆の被曝にあって、問題となる気体廃棄物の核種は、希ガスおよび41Arであるが、その量は、わずかであり、また運転中に排気筒より放出を行なわないことになっている。
 よって、一般公衆および従事者の受ける被曝線量は、許容値を十分下まわるものと認められる


3. 災害評価

 変更に係る本原子炉においても、発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、十分な対策が講じられており、安全性を確保し得るものと認められる。なお本原子炉が高速炉系であることを考慮し、次のように重大事故および仮想事故を想定し解析している。この解析に用いた仮定は妥当なものと認める。

(1) 重大事故
 最小寸法のプルトニウム炉心系において、間隙効果測定を行なっている場合、1cm離れて臨界状態にあるとき、次のような事態が発生したと仮定している。

(ⅰ) テーブルの近接を防止するための鋼板を装着していない。
(ⅱ) 後進のスイッチを押すべきところを誤って前進のスイッチを押す。この場合、反応度挿入速度は通常考えられる速度の2倍とする。
(ⅲ) ベリオド、トリップは、作動しない。
(ⅳ) 高レベル、トリップは出力が10KWにならなければ作動しない。
(ⅴ) 安全棒が作動しない。

 以上の誤りの重なりによって、大きな割合で反応度が挿入され、系は即発臨界に達し、中性子束が急激に上昇しはじめる。しかし、燃料板の膨脹にもとづく負の反応度係数によってある中性子束レベルに抑えられ、そのうち高レベル・トリップの作動によって移動テーブルが停止後退して、核的事故は終る。
 この結果、放出エネルギーは約4.1MWSとなり燃料温度の上昇は最高540deg程度となるが、燃料要素の溶融発火および被覆の破損には至らない。
 また、このような事故時において、線量が最大になるのは、制御室附近であって、その値は約0.5mremに過ぎず、従事者に対しても、障害をもたらすものでないと認める。

(2) 仮想事故
 最大寸法のプルトニウムウラン炉心系において、いずれの制御安全系も作動せず、核的事故により炉心全体が溶融し、続いて再臨界事故が起ると仮想している。
 解折の結果、放出エネルギーは、核的事故によって約6.4×103MWS、再臨界事故によって約1.6×1.03MWSであり、金属火災(アルミニウム、プルトニウム、ウラン)によって約2.0×103MWSである。これらのエネルギーの一部は、運動エネルギーとして、1次容器に衝撃を加えるが、その値はTNT約30kgの爆発に相当する。また、エネルギーの一部は、熱エネルギーとして、2次容器内の圧力を高めるが、その圧力上昇は、金属火災を防ぐための不活性ガス注入にともなう圧力上昇を含めて、約1.3kg/cm2gである。これに対し、1次容器は、TNT約100kg相当の爆発に対する耐爆設計となっている。また、2次容器は、1.6kg/cm2・gの圧力に対して安全であるように設計されている。
 そこで、次の仮定を用い線量を計算する。

① 運動エネルギーによって、1次容器は、破壊されるものとする。
② プルトニウムおよびウランについては、2次容器内のプレートアウトによる減衰半減期を10時間とする。
③ 2次容器の漏洩率は、事故後30分までを2%/dayそれ以降約1時間30分で0.2%/dayに減衰するものとする。
④ 大気中の拡散に用いる気象条件は、現地の気象データをもとに「原子炉安全解析のための気象手引」を参考にして、英国気象局法を用い、地上放散、F型、拡散幅30°、風速2m/secとする。


 以上の解析の結果、大気中に放出される放射能は、プルトニウム約8.2×10-3Ci(239PU換算)、β核種約1.16×104Ci(0.4Mev相当)、r核種約5.8×103Ci(0.7MeV相当)である。
 敷地外において線量が最大となるのは、敷地境界(原子炉中心より約900m)であって、その地点におけるプルトニウムの70年間積算線量は、たとえ、放出プルトニウムがすべて可溶性であったとしても骨に対して5.8rem(不溶性とした場合の50年間積算線量は肺に対して0.08rem)である。また、他の核種については、立地審査指針に示すめやす線量に比べて十分に小さい値である。
 したがって、敷地外の一般公衆に対して安全であると認められる。



Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和43年10月2日第63回審査会において次の委員よりなる第46部会を設置した。

吹田 徳雄 (部会長) 大阪大学
三島 良績       東京大学
渡辺 博信 放射線医学総合研究所

 審査会および部会においては、次表のような審査を行なってきたが、昭和44年2月12日の部会において部会報告書を決定し、昭和44年2月25日第68回審査会において本報告書を決定した。


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