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日本原子力研究所東海研究所の原子炉
(JRR-2)の設置変更について



 昭和43年9月21日付けをもって日本原子力研究所から申請のあった。同研究所東海研究所の原子炉施設(JRR-2)の設置変更に関する原子炉等規制法に定める許可の基準の適合について、原子力委員会は、同年9月21日付け内閣総理大臣から諮問を受けた。本委員会の指示により、設置変更に係る安全性については、原子炉安全専門審査会で審査を行なってきたが、昭和44年1月29日付け、同審査会会長から、安全性は確保し得る旨の報告があり、更に、本委員会において審査を行なった結果、上記許可の基準に適合すると認められたので、同年1月30日付け内閣総理大臣あて答申した。
 設置変更の内容および答申は、次のとおりである。

〔変更の内容〕
 JRR-2B型燃料を使用すること。およびそれに伴い、最大過剰反応度と最高燃焼度を上げること。





日本原子力研究所東海研究所の原子炉(JRR-2)の設置変更について(答申)

44原委第29号  
昭和44年1月30日

内閣総理大臣 殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所東海研究所の原子炉(JRR-2)の設置変更について(答申)

 昭和43年9月21日付け43原第4869号(昭和43年12月19日付け43原第6146号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉(JRR-2)の設置変更に関し、同研究所が提出した設置変更許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
 なお、本設置変更に係る安全性に関する原子炉安全専門審査会の報告は、次のとおりである。





日本原子力研究所東海研究所の原子炉
(JRR-2)の設置変更に係る安全性について

昭和44年1月29日
原子炉安全専門審査会

昭和44年1月29日   

原子力委員会
委員長 木内 四郎殿

原子炉安全専門審査会
会長 内田 秀雄

日本原子力研究所東海研究所の原子炉(JRR-2)の設置変更に係る安全性について

 本審査会は昭和43年9月26日付け43原委第237号(昭和43年12月19日付け、43原委第342号をもって一部訂正)をもって審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所東海研究所の原子炉(JRR-2)の変更に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉設置変更許可申請書(JRR-2原子炉施設の変更)」(昭和43年9月20日付け申請および昭和43年12月16日付け一部訂正)に基づいて審査した結果、同施設の変更に係る安全性は十分確保しうるものと認める。


Ⅱ 変更の内容

 JRR-2において従来用いられている燃料は、JRR-2型、JRR-2S型および円筒型燃料であり、それら3種に付け加えて、JRR-2B型燃料を使用するのが今回の変更である。
 JRR-2B型燃料要素の型式と寸法は、JRR-2型燃料要素と同じであるが、一要素あたりのU-235量は175gから195gへ増量され、一炉心における最大U-235挿入量は4.2kgから4.68kgに変わる。この結果、最大過剰反応度は18%Δk/kから22.5%Δk/kへ、最高燃焼度は22%から30%へと増加することになる。


Ⅲ 審査内容

1 JRR-2B型燃料要素
 JRR-2B型燃料要素の型式はMTR型で、76.2mm角×92.4mm長の枠内に600mm長の燃料板17枚が、ピンまたはかしめにより固定されている。
 各燃料板は、半径140mmのわん曲をもった八ツ橋型でアルミニウム-ウラン合金(90W/O)濃縮ウラン)をアルミニウムでつつんでいる。1燃料要素に含まれるU-235量は195g、燃料要素の総重量は5kgで、上部遮蔽体の下段プラグの荷重により抑えられることにより支持位置へ固定される。従って、JRR-2B型燃料要素は従来の燃料に比べてU-235量が約1割多くなることの他は変更はなく、加えて国内の製作と使用の実績および海外の同種の燃料に関する使用実績、さらに、ウラン偏析や燃料欠陥がないよう製造上、一層の努力がなされること等からみて、耐照射損傷、耐食性、強度等における燃料要素自体の安全性は確保されている。

2 制御能力
 制御棒は従来通り6本で、うち1本は調整棒である。各制御棒は同じ等価反応度を持ち、全制御能力は37%Δk/kで、最大過剰反応度22.5%Δk/kに対し、4本の制御棒で制御できる能力を持つ。
 各制御棒は電磁石によって保持され、スクラム信号が入った後、約0.05秒の遅れをもって落下し、完全引抜の状態から完全挿入の位置まで落ちる全落下時間は0.6秒を越えない。また、定格出力の110%に対しスクラム信号が出される。
 今、上記条件のもとに、かつ、制御棒が完全引抜の状態にあるとして1.2%Δk/kの反応度外乱がある場合を想定してみると、全放出エネルギーは18MWsecであり、断熱状態時において燃料が溶触するに必要なエネルギー58MWsecに比べ十分小さい。
 以上のことから、本原子炉の制御能力はJRR-2B型燃料の使用に対しても十分確保されている。
 なおかつ、制御機構、各種計装等に関する変更は行なわず、今までの運転実績からみて、制御能力に対する信頼性は十分確保され得る。

3 熱特性
 JRR-2B型燃料要素は、最も厳しい使用条件のもとでも、燃料板の最高表面温度は約106℃であり、重水の沸点(112℃)以下である。

4 平常時の被曝評価
 熱出力の変更がなく、定格出力運転時における敷地境界での被曝線量は問題とならない。
 燃料交換時の被曝についても、キャスク遮蔽能力は充分あり、従業員の安全は確保されている。

5 事故評価
 変更に係る本原子炉において発生する可能性のある事故としては、実験孔の破壊による重水侵入、重水タンクの破損による軽水と重水の混合、誤った燃料挿入、冷水事故、起動時における制御棒引抜等による反応度事故、冷却水ポンプの故障、異物介入による冷却能力の低下、一次冷却系配管の破損等の冷却系事故、燃料交換時あるいは破損燃料の取り扱い時における事故等が考えられる。
 これらについて検討した結果、それぞれ適切な対策が講じられており、変更に係る本原子炉の安全性は十分確保されているものと認める。
 さらに、「原子炉立地審査指針」に基づき、重大事故および仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりであって、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、一般公衆の安全を十分確保しうるものと認める。

5.1 重大事故
 重大事故として一次冷却系配管破損事故のうち最も大きな事故となる重水入口部分の破損事故を考える。
 今、何らかの原因により配管の10分1断面積に相当する破断がおこり冷却材が流失することを想定する。その想定にもとずいて解析した結果は次のとおりである。
 冷却材の流失と共に原子炉はスクラムされ、続いて、サンプピット再循環ポンプの作動あるいは高架水槽からの軽水の注入により冷却材のレベルは燃料ミート部上端より下がることはなく燃料の溶融、被覆の破損はおこらない。
 一方、地下ポンプ室に落下した冷却材からのトリチウムを含む蒸気による被曝が考えられるので、次の条件にもとづき被曝線量を計算する。

(1) 地下重水ポンプ室に充満した重水飽和蒸気は事故後30分間排気筒から放出される。

(2) 事故の30分後、炉室の空調設備の給気、排気系を密閉し、トリチウム蒸気は1%1dayの漏洩率により大気中へ拡散してゆく。

(3) 地下重水ポンプ室の重水の処理に1日かかり、トリチウム蒸気の処理はさらに3日かかるとする。

(4) 排気筒(高さ40m)から放出される場合に被曝計算に用いる気象条件は、英国気象局法を用い、風速0.5m/sec風向き変動角30°、大気安定度はB型とする。

(5) 炉室から漏洩する場合に被曝計算に用いる気象条件は英国気象局法を用い、地上放散、風速2m/sec、風向き変動角30°、大気安定度はF型とする。

 解析の結果、周辺監視区域外で被曝線量が最大となる地点は炉心から300m離れた地点で、その地点における全身被曝線量は約4.7mremであり、一般公衆の安全は確保されている。


5.2 仮想事故
 仮想事故としては重大事故と同じく、一次冷却系配管重水入口部分の破損事故を考える。
 この場合、次の仮定を付け加え、事故の解析を行なった。
(1) 破損状態は全面破断である。
(2) 非常用冷却装置は、高架水槽からの軽水注入装置しか作動しない。

 高架水槽からの軽水注入装置の作動が事故後約20分以内におこなわれれば燃料の溶融はおこらないと考えられるが、軽水注入が著しく遅れ、燃料の一部が溶融して核分裂生成物が放出される場合を想定し、次の条件にもとづき被曝線量を計算する。

① 熱出力10MWで110日間連続運転した直後に事故が発生する。
② 放出される核分裂生成物の量は、全燃料に内蔵される核分裂生成物の5%とする。
③ 核種としては、希ガス 100%、ヨウ素  25%、セシウム 20%、固体1% が放出されるものとする。
④ 放出は、炉室からの漏洩のみで行なわれ、漏洩期間は1週間、漏洩率は、1%1dayとする。
⑤ 気象条件は英国気象局法を用い、地上放算風速2m/sec、風向き変動角30°,大気安定度はF型とする。

 その結果、周辺監視区域外で被曝線量が最大となる地点は炉心から300mの地点で、その地点における成人甲状腺被曝線量は約52rem全身被曝線量は約0.5remとなり、これは「原子炉立地審査指針」に定めるめやす線量に比べて十分小さく、一般公衆の安全は確保されている。


Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和43年10月2日第63審査会において、次の委員からなる第45部会を設置した。

植田 辰洋(部会長) 東京大学工学部
都甲 泰正
三島 良績

 同部会は、設置変更に係る本原子炉施設の安全性について、次表にあるよう調査審議を行なってきたが、昭和44年1月27日の部会において部会報告書を決定し、同年1月29日第67回審査会において本報告書を決定した。


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