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原子炉施設安全問題懇談会報告


43.8.22

まえがき

 安全問題懇談会は、本年2月の発足以来、原子力委員会からの諮問に応じ、8回にわたり軽水炉に関する安全設計、高速炉等に関する安全審査などを含む原子炉施設の安全問題全般について、種々の意見交換を行なってきたが、今般、その結果を次のようにとりまとめたのでここに報告する。

構成委員
  座長  山田太三郎  原子力委員
  委員  内田 秀雄  東京大学工学部教授
 大山  彰     〃
 川崎 正之  日本原子力研究所調査役
 神原 豊三  日立製作所中央研究所長
 田島 英三  立教大学理学部教授
 田中 好雄  原子力局次長
 伏見 康治  名古屋大学プラズマ研究所長
 藤井  孝  通商産業省公益事業局技術長
 三島 良績  東京大学工学部教授
 向坊  隆  東京大学工学部教授
 吉岡 俊男  日本原子力発電株式会社常務取締役
  参加  伊沢 正実  放射線医学総合研究所
 竹越  尹  電気試験所
 板倉 哲郎  日本原子力発電株式会社
 川口  修  動力炉核燃料開発事業団
 沢井  定     〃
 島  史朗     〃
 富士原 智     〃
  事務局  原子力局原子炉規制課
 大町  朴
 高嶋  進
 尾藤  隆
 鈴木  実
(以上順不同敬称略)

1. 総説
 わが国の原子力平和利用の進展に伴って、将来、原子力発電を中心とした原子炉施設の顕著な増加が見込まれているが、これに対応し、今後とも原子炉施設の安全確保のために万全の配慮が必要であることはいうまでもない。

 従来、原子炉施設の安全審査に際しては、平常時の安全性と並んで、事故時における原子力関係従事者および周辺環境に対する影響を検討して、その安全性が確認されてきた。

 このような安全審査については、本格化する原子力発電施設の建設を反映して、将来一層の業務量の増大が予想される。

 したがって、これらの事態に対処して、今後における適切かつ合理的な安全審査の実施を確保し、あわせて申請者の便宜に資するためには、今後、原子炉施設を許可するための指標となる諸基準の整備、改善を積極的に進めて行かなければならない。

 一方、高速炉、新型転換炉等の新しい自主開発の動力炉もいまや建設の賭につこうとしており、その安全審査に関する所要の検討を早急に進める必要がある。

2. 諮問事項に対する結論
 本懇談会は、原子力委員会からの諮問に応じ、上述のような観点から、軽水炉に関する安全設計、新型動力炉に関する安全審査等を中心として、今後における安全審査上の諸問題について検討を進め、その結果、次のような結論を得た。

(1)軽水炉に関する安全設計について
(i)発電原子炉施設については、その実用化の進展に伴って、設計上の共通性が増大する傾向が見られる。

 したがって、安全審査に資するための基礎的な設計に関する審査指針については、今後の急速な技術的進歩を見込んでも、十分これに対応した指針を策定することが可能になってきたことに鑑み、原子力委員会における安全審査の一層の能率の向上を図るとともに、申請者における安全設計のめやすを与えるため、今後当分の間における発電炉の主流と考えられる軽水炉について、過去における原子炉の安全審査経験を活用するとともに、先般米国原子力委員会が発表した「原子力発電所建設認可のための一般設計指針案」等も参考にして、審査指針の策定について検討を進める必要がある。

(ii)一方、既に原子力委員会により定められた「原子炉立地審査指針(昭和39年5月策定)」および「原子炉安全解析のための気象手引き(昭和40年11月策定)」は、数多くの原子炉施設の設置または変更に際して、極めて重要な審査指針として、大きな役割りを果たしてきたし、また設置者にとっても、その立地選定上の指針として極めて有益なものであった。

 このうち、特に立地審査指針については、将来における原子炉の建設数の増大に対処し、同指針策定後得られた各種の知識、経験等を十分織り込んで、その具体的な適用がより適切かつ容易に行なわれ得るように、その適用上重要となる事項について、あらためて検討を加える必要がある。
(2)新型動力炉に関する安全審査について
(i)高速炉、新型転換炉等の新型動力炉については、未だ開発途上にある原子炉であるので、現段階で、軽水炉と同程度の審査指針を直ちに設定することは不可能であり、かつ、実際的でない。

 しかしながら現状においても、指針のあり方について検討を始めることが望ましく、この検討によって得られる知識が、それぞれの時点における安全審査にも有効に寄与するものであると考える。

(ii)特に、前項で述べた原子力委員会の「原子炉立地審査指針」は、ウラン炉にのみ適用されるものであるが、新型動力炉もいよいよ建設段階に入ろうとしていることに対処し、プルトニウム炉の更地評価をする上で必要となるプルトニウムに対するめやす線量の検討など、これらの新型動力炉に適用する指針の検討を早急に進める必要がある。

(iii)なお、これらの新型動力炉の安全性の確保のためには、今後における技術上の諸問題の解明の進展に応じて、適切な措置を講ずることが必要であるが、現行の審査制度自体に改変を加える必要はないと考える。
3. 今後における問題処理の進め方
 上述のような結論に基づき、今後、具体的に問題解決のための検討を進めて行く必要があるが、とりわけ、別記の事項については、早急な検討が必要であり、また、これらの審議には、関係各界の意見を徴しつつ、専門的に掘り下げた調査審議を進めるのが適当と考えられる。

 したがって、原子力委員会に「原子炉安全基準専門部会(仮称)」を設置することとし、同部会を審議の場とすることが望ましい。

 なお、本懇談会における審議の過程において、今後、安全審査を進める上で考慮すべき事項として、次の諸点があげられたが、これらについても、今後検討が進められることを期待する。
(i)原子炉施設の安全上重要な事項が変更された場合には、再度安全審査を行なう必要があることはいうまでもない。

 このため、このような場合には、必ず設置変更許可申請の手続が必要となるよう、前述の原子炉安全基準専門部会(仮称)等の場において、現行の原子炉設置許可申請書記載事項に再検討を加えること。

(ii)今夜の技術の進展に対応して、安全評価上重要な事項についての実証資料をさらに整備するための調査研究の実施について、今後とも鋭意検討を進めること。

(iii)原子炉安全専門審査会における審査能率の向上を図るため、今後における審査案件の増加傾向を勘案しつつ、事務局の強化、ワーキンググループの設置等、審査のためのデータの整理、分析、問題点の整理等をより効率的に進める体制を考慮すること。

(iv)原子炉施設周辺における放射線の監視のあり方等について、さらに検討を進めること。
別記
 原子炉安全基準専門部会(仮称)において、審議検討すべき事項
(i)安全設計審査指針の検討
 軽水炉について、原子炉施設を構成する各要素および要素相互間につき安全確保に必要な審査指針の策定について検討する。

(ii)立地審査指針の検討
 現行指針上定められた立地審査条件、立地選定上の原則等について、新型動力炉の場合をも含めて、より具体的に内容を掘り下げた検討を行なう。

 また、事故評価に際して審査上必要とされる重大事故、仮想事故について、事故の範囲、事故の推移過程、事故解析手段等安全評価上必要な指針について、検討を加える。

 さらに、ウラン炉について定めた沃素の場合と同様の手法により、プルトニウムに対する評価上の目やす線量について検討する。

(注)上記(i)の検討に当たっては、米国原子委員会発表の「原子力発電所建設認可のための一般設計指針案」が大いに参考になると考えられるが、別途民間機関が本指針案について調査しているのでこれを活用することが望ましい。

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