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米国原子力潜水艦ソードフィッシュ号
佐世保港寄港に伴なう放射能調査結果について



 米国原子力潜水艦ソードフッシュ号は、5月2日(木)午前8時37分佐世保港の1号ブイに繋留中の工作艦エイジャックス号の右舷に接舷し、5月11日(土)午前8時エイジャックス号から離れ同港を出港した。

 ソードフィッシュ号のわが国への寄港回数は、今回を含め2回である。

 同潜水艦寄港に伴う佐世保港における放射能調査は、モニタリングポストによる連続測定ならびにモニタリングボートによる原子力潜水艦の入港前、入港直後、停泊中、出港直後に同潜水艦の周辺および港内の所定のコース等について行なわれた。

 その測定結果は、Ⅰのとおりであり、5月6日午前、モニタリングボートによる原潜周辺および港内所定のコースにおける数点で平常値の10~20倍の測定結果が得られたが、他はいずれも平常値を示していた。

 また、5月6日夕刻採取した海水を分析した結果は、Ⅱのとおりで、原子炉特有の核種は検出されなかった。
 なお、測定位置あるいは試料採取地点は、図1、図2に示すとおりである。

1. モニタリングボート及びモニタリングポストの測定値


  Ⅱ 海水の分析結果

1. 試料海水
   採取日時 5月6日夕刻
   採取場所 第1試料  (A)点
第2試料  (B)点
   採 取 量 各40l
   輸送容器 ポリエチレン容器

2. 化学分析結果

((財)日本分析化学研究所および理化学研究所


備考
1)試料は各30l使用
2)測定日時は5月15日~16日
3)Feフラクションは硬β線を約50%含む、
 144Ce+114Pr、90Y、106Ru+106Rh、等の共存が考えられる。
4)51Cr以外の核種は2πガスフローカウンターによりβ線測定を行なった。
5)Feフラクション以外の核種は数cpm以下であり、β線エネルギー,(半減期)の確認は困難である。
6)化学的収率はFe、Co、Ni、Znは90%以上、Iは45%,Crは約30%であった。

3 機器分析(理化学研究所)
 二酸化マンガンによる補集核種のr線測定を行なったが、No.1、No.2ともに10±10cpm程度で、核種の種類確認は困難である。

備考 試料は各々10l使用

図1 佐世保におけるモニタリングボート測定コース
およびモニタリングポストの位置


図2 5月6日午前原潜ソ号周辺
のモニタリングボート測定コース

専門家による放射能調査の経緯

 今回の異常値の原因について、原子力潜水艦から出た放射能とするには疑問があり、その原因を究明するため、5名の専門家を集めて詳細な検討を行なった。

 その結果、放射能汚染と結びつけることは困難であるので、現地に専門家を派遣して原因究明のため調査を行なうこととした(第1回検討会)

 調査団は 5月10日、海上保安部の原子力潜水艦出港前の放射能調査に立会ったが、測定器の作動は正常で、また海上保安部係員の測定器取扱方法も正しいことが確認された。

 11日、撃留中の米軍工作艦エイジャックス号で、5月6日に行なっていた条件で電気熔接を行なわせ記録をとったが、測定値に影響はなかった。

 12日、米軍掃海艇レーダの測定値に対する影響の調査を行なったが、影響はみられなかった。

 同1日、現地派遣調査団は帰京し、専門家検討会に報告を行なった。(第2回検討会)

 13日、専門家検討会は鍋島長官に報告を行なった。(現地において機器や外部要因の調査を行なったが、これらについての疑問はほとんど解消したこと、今後は放射能の諸ケースを中心に検討していくこととした。)(第3回検討会)

 15日、原子力委員会は、臨時会議を開いて本件について検討を行ない、内閣総理大臣に対し見解を述べた。

 15日、専門家5名を追加し、米国原子力委員会の専門家に質問する事項等について検討を行なった。(第4回検討会)

 16日、専門家検討会は、米側専門家を招いて検討を行なった。(第5回検討会)

 17日、日本側専門家による打合わせののち、米側専門家を招いて検討を行った。(第6回検討会)

 同日、海水分析結果が得られたが、特有な核種は検出されなかった。

 22日、専門家検討会は、米側専門家を招いて検討を行なった。(第7回検討会)

 25日、専門家検討会。(第8回検討会)

 米側専門家は今回の異常測定値について、つぎにのべると同様の結論を述べた。

 同日、米側専門家は駐日米国大使に報告書写を提出し、帰国した。

 三木外務大臣は駐日米国大使から米側専門家の報告書写しの送付をうけた。

 米側の報告書によれば、ソ号は、佐世保港寄港中および日本近海で一時冷却水その他いかなる放射性物質をも放出していないとのこと。

 27日、専門家検討会は、鍋島長官に最終報告書を提出した。(第9回検討会)

 27日、28日、29日、原子力委員会は、臨時会議を開き、「佐世保港における放射能調査について」について検討を行ない、同委員会の意見書を総理大臣に提出した。

 5月31日、鍋島長官は閣議において、「原子力軍艦の本邦寄港に伴う放射能調査の整備方針」について発言し、了承された。

米国原子力潜水艦ソードフィッシュ号寄港に伴う放射能調査の
専門家による検討会中間報告

昭和43年5月13日
専門家検討会報告

1 原潜ソードフィッシュ号の寄港に伴ない実施した放射能調査のうち、5月6日午前に測定された異常数値についての専門家による検討会は、下記により行なわれたが、その検討の要旨は2以下のとおりである。

専門家

 山崎 文男 (放射線審議会測定部会長)
 渡辺 博信 (放射線医学総合研究所環境衛生研究部長)
 庄司大太郎 (海上保安庁水路部海象課長)
 宮永 一郎 (日本原子力研究所保健物理安全管理部次長)
 岡野 真治 (理化学研究所放射線研究室)
 第1回検討会 43年5月9日
 佐世保現地調査 43年5月10日~12日
 第2回検討会 43年5月12日~13日
 第3回検討会 43年5月13日

2 第1回検討会要旨
 今回の調査においてえられた測定記録は、時間的・空間的にはなれた測定点において、船上におかれたGMカウンターおよび海中におかれたシンチレーションカウンターに対する計数値がほぼ同傾向の関係を示している。

 考えられる放射能分布について検討した結果、いずれの場合にも、上のような2つのカウンターが同傾向の測定記録を示していること、また海水中での拡散と計数値の現われ方に疑問がもたれた。

 原因を判断するには、なお詳細な調査を行なう必要があるので、放射能汚染の可能性をも含めて、十分に現地調査をすることとした。

3 現地調査
 現地調査においては、放射能の存在、外部よりの電波等による影響、測定器の動作等について実験、調査、検討を行ない、次のような結果が得られた。
イ 測定機器は正常に作動するとともに、その操作方法も正しいことが確認された。

ロ レーダーや電気溶接作業はこの測定機器に影響を与えなかった。
4 第2、3回検討会要旨
(1)まず、機器や外部要因など調べるべく、現地調査を行なったのであるが、これらについての疑問は、ほとんど解消したと思われる。

(2)つぎに、本件を放射能によるものと考えた場合には、記録の解釈には依然として困難が残るが、今後は、さらに測定結果から考えられる放射能の諸ケースを中心に検討していくこととした。

(3)なお、専門分野を拡大するために、2名増員することとしたい。

原子力潜水艦ソードフィッシュ号の寄港中に観測された
異常測定値についての検討結果(報告)

昭和43年5月27日
専門家検討会報告

 科学技術庁長官 鍋島 直紹 殿

専門家検討会 山崎 文男

 原子力潜水艦ソードフィッシュ号の佐世保寄港中に、5月6日午前モニタリングボートによって測定された異常値の発生原因について行なった検討の結果を別紙のとおり報告する。

 なお、検討作業は下記のとおり進められ、この間3名の専門家による現地調査、および米国から派遣された3名の専門家からの事情聴取を行なった。

(1)専門家
   山崎 文男
   岡野 真治
   渡辺 博信
   庄司大太郎
   宮永 一郎
   (以下第4回検討から)
   向坊  隆
   村主  進
   宇田 道隆
   浜口  博
   都甲 泰正
(2)現地調査団
   岡野 真治
   宮永 一郎
   渡辺 博信
(3)米国側専門家
   W.Wegner 米国原子力委員会海軍用原子炉部次長
   W.Givens 米国原子力委員会海軍用原子炉部員
   M.Miles            〃
(4)開催した検討会
 第1回検討会 昭和43年5月9日
 現地調査 昭和43年5月10日~昭和43年5月12日
 第2回倹討会 昭和43年5月12日
 第3回検討会 昭和43年5月13日
 第4回検討会 昭和43年5月15日
 第5回検討会 昭和43年5月16日(一部米側出席)
 第6回検討会 昭和43年5月17日(  〃  )
 第7回検討会 昭和43年5月22日(  〃  )
 第8回検討会 昭和43年5月25日(  〃  )
 第9回検討会 昭和43年5月27日

別 紙

原子力潜水艦ソードフィッシュ号の寄港中に観測された
異常測定値についての検討結果(報告)

 昭和43年5月6日、佐世保港においてモニタリングボートにより測定された異常値の原因として、放射能による原因と、放射能以外の要因による原因とについて検討した。

1 放射能以外の原因を究明するため5月10日より3日間現地において調査、実験を実施したが、放射能以外によるものとする疑問はほとんど解消した。

 したがって、今回の異常測定値は放射能によるものと考えるのが妥当である。

2 ソードフィッシュ号以外の放射線源については、常識的に考えられるいくつかの原因について検討したが、異常測定値の原因となるものは見あたらなかった。

 したがって、ソードフィッシュ号から何らの放射性物質の放出があったとの疑問を深めるに至った。
3 この疑問を解明するためには、海水中の放射性物質の核種を確認するとともに、5月6日の異常測定値を合理的に説明しうる科学的な根拠を見出す必要がある。

 放射性物質の核種については、異常測定値が得られた直後の海水が採集されていないため、その確認を行なうことができなかった。

 また、今回の異常測定値の原因を解明するために、ソードフィッシュ号からの放射性物質の放出とそれに関連する諸事項について米国側に多くの質問をしたが、軍機に触れる点が多かったため科学的な解明に役立つデータの提供を受けることができなかった。

4 したがって、今回の異常測定値は放射能によるものと考えるのが妥当であり、またその放射能の原因について種々検討したが、科学的にそれをソードフィッシュ号によるものと確認するには至らなかった。

追記 米国側からは自らの調査の結果として、ソードフィッシュ号は今回の佐世保港寄港中、放射性物質は一切放出しなかったことを確認したとの報告があり、特に、一次冷却水は工作艦の電源を用いて定格温度に保っていたとの説明がなされた。

 この報告を裏付ける科学的説明および資料については軍機に触れるものとして提供されなかった。
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