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東京原子力産業研究所の原子炉設置変更
に係る安全性について(答申)


43原委第21号
43年1月25日

 内閣総理大臣あて

原子力委員会委員長

株式会社東京原子力産業研究所の原子炉設置変更に係る安全性について(答申)

 昭和42年10月19日付け42原第4915号(昭和43年1月19日付け43原第250号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 株式会社東京原子力産業研究所代表取締役社長浜田秀則から昭和42年6月26日付けで申請のあった原子炉の設置変更(使用目的の変更)及び昭和42年10月17日付け(昭和43年1月16日付けで一部訂正)で申請のあった原子炉の設置変更(原子炉施設の変更)は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の適合に関する意見は、別紙のとおりである。

 (別 紙)
○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可基準の適合に関する意見

(平和利用)
1 本変更により、原子炉の使用の目的は「原子力に関する諸研究及び技術者の養成訓練」から「一般研究、特殊試験、開発研究、教育訓練、放射性同位元素生産および材料照射。ただし、平和目的に限る。」に変更されるものであって、当該原子炉は従来どおり平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的遂行)
2 本変更は、パルス運転による反応度事故現象に関する試験研究を行ない、原子炉の安全性の向上に資するためのものであって、わが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)
3 本変更に必要な資金については、その調達の計画内容等からみて調達可能と考えられるので、原子炉の設置変更をするために必要な経理的基礎があると認める。

(技術的能力)
4 本変更の申請者は、原子炉の運転についてすでに約5年の経験を有し、かつ、十分な原子炉技術者を有しているので、この原子炉の設置変更を行ない、その運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

(災害防止)
5 別添の原子炉安全専門審査会の審査結果のとおり、本変更は、核燃料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害防止上支障がないものと認める。

株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設の変更に係る安全性について

原子炉安全専門審査会報告書

昭和43年1月19日

 原子力委員会委員長
  鍋島 直紹 殿

原子炉安全専門審査会会長
向坊  隆

株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設の変更に係る安全性について

 当審査会は、昭和42年10月19日付け42原委第242号(昭和43年1月19日付け43原委第15号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

1 審査結果

 株式会社東京原子力産業研究所原子炉施設の変更に係る安全性に関し、同社が提出した「原子炉設置許可に係る変更許可申請書」(昭和42年10月17日付け)および「原子炉設置許可に係る変更許可申請書の一部訂正について」(昭和43年1月16日付け)に基づいて審査した結果、本原子炉施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

2 変更事項

 原子炉のパルス実験をさらに進めるため、最大投入反応度を従来の1.20%△K/Kから1.30%△K/Kにする。

 また最大過剰反応度を1.35%△K/K(従来1.25%△K/K)に、パルス当りピーク時までの出力積分値を15MWsec(従来3.5MWsec)に、燃料中心最高温度を2200℃(従来700℃)に変更する。

 その他非常用制御設備、制御設備の変更などを行なう。

3 審査内容

(1)パルス運転
 パルス制御棒が加圧空気によって高速で引抜かれると、炉心に過剰反応度が付加され、炉出力は急増する。

 安全棒No.1とシム棒は炉出力110kWでスクラム信号により落下する。

 またパルス制御棒も引抜き後2秒で再び加圧空気で炉心に挿入される。

 しかし出力上昇に対する最初の制御要因は主として出力増加にともなうドップラー効果による負の反応度の付加で、上記制御棒が働くまでに、同効果で出力は減少する。

 解析によれば最大投入反応度1.3%△K/K投入時の瞬時最大出力は約270MW、放出エネルギーは約16MWsec、燃料温度の最高はホッテストスポットで約2,000℃となる。

 実験は、1時間に約1回に制限され、最大出力積分値を考えても1時間の平均出力は約8kWであるので現在の冷却能力で十分である。

(2)安全対策
 従来のパルス運転の安全対策に対し、今回の変更にともなって次のような対策の追加又は変更がなされるので本パルス運転の安全は確保できると考えられる。

イ パルス運転時には、スクラム用の安全棒No.1及び、シム棒の反応度制能力は、各々炉心に持つ最大超過反応度を上廻る1.4%△K/K以上を有するものとする。

ロ バルス制御棒は引抜き開始後2秒で再挿入が始まる機構になっている。

 その反応度制御能力は、1.3%△K/K以下として誤って1.3%△K/K以上の反応度が付加されることがないようになっており、又再挿入の際は、投入反応度の値以上の負の反応度が付加されるようにする。

ハ 非常用制御設備としては、炉心のホットスポットファクターを大きくする原因となっていた後備停止装置(ボロン球落下装置)が撤去されるが、これに代るものとして、安全棒No.2(反応度制御能力1.4%△K/K以上)を通常スクラム系とは独立した系統に改造したパルス反応度投入後2秒で落下させるようにする。

 外国の実験により、パルス実験中に燃料棒が曲って制御棒が挿入不可能となる事態は生じないことが確かめられている。

ニ 以上のいずれの制御棒も1本のみで投入された反応度を吸収できる制御能力を持っている。

ホ 炉心のホッテストチャンネルの1.05倍以上のホットスポットファクターの位置にモニター燃料を挿入して燃料最高温度を監視する。

ヘ パルス運転の核的、熱的制限値として、最大投入反応度1.30%△K/K、パルスのピーク時までの出力積分値15MWsec、燃料最高温度2200℃などが規制される。

ト 投入反応度の増加は、段階的に行ない、各段階の反応度増力は0.05%△K/K以下とする。

(3)平常運転時の被ばく評価
 パルス運転は1時間1回以下であるので、平均の炉出力は約8kW程度となり、パルス運転による被ばく線量は最も線量率の高い炉頂で、1時間当り0.15mremをこえることはない。

(4)事故評価
 パルス運転の各種事故の検討の結果では、運転特性、安全保護系などに関連する事故に対して安全を確保しうるものと認めるが、燃料被覆管の何らかの原因による破損事故を仮定しても周辺監視区域境界にいる人の被ばく線量は「原子炉立地審査指針」に示された値にくらべて十分小さい。

 仮想事故として、最大投入反応度の1.3%△K/Kのパルス運転時にスクラム用安全棒No.1とシム棒が不動作とし、非常用制御装置安全棒No.2の効果も期待せず、パルス制御棒が反応度投入後2秒経過して再挿入されて炉が停止する事故と、燃料要素の製作中のミスによる燃料被覆管の欠陥に起因する燃料破損が、同時に生じた場合を想定する。

 スクラム不動作事故時には燃料中心温度は約2400℃に達するが、ペレット及び被覆の溶融に至らない。

 被覆管の欠陥による燃料破損は外国におけるもっときびしい条件のパルス実験時でも1〜2本程度の実績であるが、ここは5本の破損を仮定する。

 この事故は100kWで長時間運転後発生すると仮定し、核分裂生成物の放出率を5%とすると希ガス68キュリー、ヨウ素30キュリー、その他15キュリーが冷却水中に放出されることになる。

 このうち希ガスは全量、ヨウ素は水と空気中に気液平衡を保って、それぞれ炉室に放出される。

 炉室の換気は、事故後停止されるので、ヨウ素の炉室等への沈着を50%、炉室空気の漏洩率を50%とすると、大気中への放出率は希ガス18キュリー、ヨウ素0.075キュリーとなる。

 大気中への拡散計算には英国気象局法を用い地上放散、F型、有効拡散風速を0.5m/secとすると、周辺監視区域境界における被ばく線量は、全身38mrem甲状腺108mremとなり、同区域外においては「原子炉立地審査指針」に示された値に比べ十分小さい。

4 審査経過

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