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日本原子力研究所再処理試験施設の
ホット試験に係る安全性について(答申)


43原委第29号
昭和43年2月2日

   科学技術庁長官 殿

原子力委員会委員長

日本原子力研究所東海研究所の核燃料物質の使用施設等(再処理試験施設)に係る安全性について(答申)
 昭和42年10月21日付け42原第4899号(昭和43年1月29日付け43原第338号をもって一部訂正)をもって諮問のあった標記の件については、下記のとおり答申する。

 日本原子力研究所理事長丹羽周夫から昭和42年10月6日付け42原研11第447号(昭和43年1月20日付け43原研11第19号をもって一部訂正)をもって申請のあった核燃料物質の使用施設等の変更に係る安全性は、別添の再処理施設安全審査専門部会の審査結果のとおり、十分確保し得るものと認める。
日本原子力研究所東海研究所の再処理試験施設に係る安全性について

再処理施設安全審査専門部会報告書
昭和43年1月30日

原子力委員会委員長
  鍋島 直紹 殿

再処理施設安全審査
専門部会部会長
向坊  隆

日本原子力研究所東海研究所の核燃料物質の使用施設等(再処理試験施設)に係る安全性について
 当専門部会は、昭和42年10月24日付け42原委第244号(昭和43年1月30日付け43原委第28号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

  Ⅰ 審査結果

 日本原子力研究所が東海研究所内に設置し運転しようとする湿式再処理試験施設に関し、同研究所が提出した「核燃料物質の使用の変更の許可申請書の訂正(再処理試験施設のホット試験)」(昭和42年10月6日付け)および(昭和43年1月20日付け訂正)に基づいて審査した結果、本再処理試験施設のホット試験に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

  Ⅱ 審査内容

1. 計画の概要

 本施設のホット運転に係る計画の概要は、次のとおりである。

(1)目的
 本施設は、湿式再処理に関する試験及び湿式再処理工場要員の訓練を行なうことを目的とし、昭和46年3月31日まで使用する予定である。

(2)位置
 本施設は、茨城県那珂郡東海村の日本原子力研究所東海研究所敷地内にある。

(3)使用済燃料の特性
 本施設において用いられる核燃料物質は、本研究所のJRR3の使用核燃料であり、アルミニウム被覆天然金属ウラン、平均燃焼度700MWD/で以下、照射時間420日以下、冷却期間120日以上のものである。

(4)処理量
 使用済燃料の処理量は、1ランあたり最大400kg(U)で、その処理に2ヵ月を要し、本試験終了までの予定処理量は約3000kg(U)である。

(5)施設及び工程の概要

イ)施設
i)建家
 建家は、再処理試験の主要工程を行なう再処理特研、廃液の仕分けを行なう廃液操作室及び高レベル廃液の貯蔵を行なう廃液長期貯蔵施設からなり、いずれも鉄筋コンクリート、耐火、耐震構造である。

ii)ケーブ、セル、グローブボックス 再処理試験の主要工程は、ケーブ、セル、グローブボックス内で行なわれる。

 ケーブには、燃料搬入、溶解及び抽出分離のための装置がおかれ、セルにはプルトニウム精製・濃縮、試料分析及び溶媒回収のため装置が、また、グローブボックスには、プルトニウム精製用イオン交換塔及び試料分析装置が置かれている。

 このほか、ケーブ、セルには除染のための設備がある。

iii)燃料搬入関係施設
 燃料搬入のための施設としては、深さ5mのウオーターピット及び15トンクレーンがあり、装置としては、横型運搬容器、水平コンベア、垂直コンベア及びシュートがある。

 運搬容器は、鉛を主体として不銹鋼の外板をつけた全長約2m、直径約0.9mの円筒形(重量13トン)で、長さ1m、直径38mmの使用済燃料棒を6本収容できる。

iv)溶解関係装置
 本工程の装置としては、燃料溶解のための溶解槽、抽出分離工程への供給液に見合うよう酸濃度の調整を行なう調整槽、抽出分離工程へ供給する前に一時貯蔵を行なう受槽、反応生成ガス凝縮、脱硝、洗浄をそれぞれ行なう溶解槽凝縮器、硝酸回収塔、アルカリスクラバからなっている。

v)抽出分離関係装置
 本工程の装置は、抽出分離、蒸発濃縮及び溶媒回収の3主要装置からなっている。

 抽出分離装置としては、核分裂生成物の分離、ウラン、プルトニウムの分離及びウランの逆抽出をそれぞれ行なう3本の脈動抽出塔、分離されたプルトニウム溶液を一時貯蔵する受槽及び核分裂生成物を含む水溶液の受槽がある。

 蒸発濃縮装置としては、逆抽出されたウラン溶液を濃縮する蒸発缶がある。

 溶媒回収装置は上下動攪拌洗浄器3段からなる。

vi)プルトニウム精製・濃縮関係装置
 本工程の装置は、蒸発濃縮、抽出及びイオン交換の3主要装置からなっている。

 蒸発濃縮装置は、プルトニウム溶液を濃縮するための蒸発缶及び抽出工程に送る前の調整を行なうための受槽からなる。

 抽出装置はプルトニウムの抽出を行なうミキサセトラ2基、廃液受槽及びイオン交換塔へ送る前の調整を行なう受槽からなっている。

 イオン交換装置としてイオン交換塔1基とイオン交換塔からの廃液の受槽がある。

 そのほか精製プルトニウム溶液の一時貯蔵を行なう受槽(安全形状寸法のステンレス製容量6lの容器4基)がある。

vii)放射性物質廃棄施設
 放射性物質の廃棄施設は、廃液操作室、廃液長期貯蔵施設及び排気筒からなる。

 廃液操作室には、サンプリング装置、ポンプ、廃液1時貯留のための受槽がある。

 廃液長期貯蔵施設には、脱被覆廃液貯槽(12m31基)、ウラン溶液貯槽(8.5m32基)、極高レベル廃液貯槽(22m31基)及び高レベル廃液貯槽(15m32基)がある。

 排気筒は高さ30m及び12mのものがある。

viii)放射線管理施設
 施設管理室に放射線管理用モニタ盤がおかれ、エリアモニタ、ガスモニタ等の集中監視が行なわれる。

ix)一般設備
a)換気設備
 施設内の換気のため10系統の給気設備と17系統の排気設備で構成される換気設備がある。

 換気は、放射能汚染の低い領域から高い領域へ流通するよう配慮されており、また主要排気系には、予備排風機が設備され、故障等の場合自動的に起動するほか、停電時には非常用電源に接続し運転される。

b)電源設備
 施設内の電源は、運転に必要な商用電源及び非常用としてディーゼル発電機2台が設備され、非常用発電機は停電と同時に起動し約40秒で電圧が確立し、万一の場合に備えることができるようになっている。

c)警報装置
 施設内の装置、設備等の温度、圧力等の異常を監視するため、施設管理室に異常監視盤が設けられており、また、異常が発生した場合は直ちに施設内外に通報できるようになっている。

d)消火設備
 ケーブ、セル内の火災の場合に備えて炭酸ガスを放出できる配管が設けられている。

 また、施設内の要所に消火栓、各種消火器が配置されている。

e)その他
 以上のほか蒸気設備、給排水設備、圧縮空気設備等がある。
ロ)工程の概要

 再処理試験の工程は、燃料の搬入・溶解、抽出分離、プルトニウム精製・濃縮の主要3工程と廃液の区分け操作、高レベル廃液貯蔵の工程からなっており、8バッチ分(400kg(U))を1ランとして行なわれ、主要3工程は同時に運転されることはない。概要は次のとおりである。
i)燃料搬入・溶解工程
 使用済燃料は、JRR-3のポンドで3本に分断され、その6本が運搬容器に収められてトラックにより施設内のローディング室に運搬される。

 その量は約50kg(U)である。

 運搬容器は、15トンクレーンでウォーターピット内に下ろされ、使用済燃料棒をガイド板上に取出し、1本ずつ水中トングで水平コンベアに移されてケーブ内に送られ垂直コンベア、シュートを経て重力で溶解槽へ落される。

 溶解槽では、まず苛性ソーダでアルミ被覆を溶解し、溶液は脱被覆廃液として廃液長期貯蔵施設へ送られる。

 脱被覆された燃料は、硝酸により溶解され、調整槽へ送られ酸濃度の調整が行なわれたのち一時貯蔵される。

 このための受槽の容量は8バッチ分(約400kg(U))で、ここで核燃料物質受入量の最終的な計量を行なう。

 溶解槽内圧は、常時50mm水柱負圧に保たれる。

 本工程は、回分操作で行なわれ、約50kg(U)の燃料の搬入から溶解まで約24時間を要し、この操作が最大8回反復して行なわれ400kg(U)の抽出用原液が得られる。

ii)抽出分離工程
 本工程は、抽出、蒸発濃縮及び溶媒回収の3主要部からなり、ウラン、プルトニウム、核分裂生成物をそれぞれ分離する。

 抽出用原液は亜硝酸ソーダを加えてプルトニウムの原子価の調整が行なわれた後第1抽出塔中段に送られる。

 原液は、塔内を上昇してくる有機溶媒(30%TBP-ドデカン)と向流し、上部から供給される洗浄液と共に下降する。

 ウラン、プルトニウムは有機溶媒中に移り塔頂から第2抽出塔へ送られる。

 核分裂生成物は水相に残り塔底から排出され廃液受槽に入り、プルトニウム濃度が50mg/l以下であることを確認した後、廃液長期貯蔵施設へ送られる。

 ウラン、プルトニウムを含む有機相は、第2抽出塔中段に送られ塔頂に供給されるヒドラジン溶液、塔中段に供給される硝酸ウラナス溶液と向流し塔底に供給される有機相洗浄液(30%TBP-ドデカン)と共に塔頂から排出される。

 プルトニウムは3価に還元され、水相中に移って塔底から排出され、ウランは有機相中に残り塔頂から第3抽出塔へ送られる。

 プルトニウム水溶液は、プルトニウムセル内の受槽に送られて一時貯蔵され、プルトニウムの計量が行なわれたのち、精製濃縮工程へ送られる。

 ウランを含む有機相は、第3抽出塔塔底に供給され塔頂からの希硝酸水溶液と向流し、ウランは水相中に逆抽出される。

 水相は、蒸発缶へ送られ、約10倍に濃縮される。

 濃縮液は廃液長期貯蔵施設内のウラン溶液貯槽へ送られ貯蔵される。

 第3抽出塔から抽出される有機溶媒は、溶媒回収装置で洗浄回収された後再使用される。

 本工程は、連続操作で行なわれ、処理能力は最大1日80kg(U)程度である。

iii)プルトニウム精製濃縮工程
 本工程は蒸発濃縮、抽出及びイオン交換からなる。

 プルトニウム水溶液は、蒸発缶へ送られ、約20倍に濃縮され第1受槽に送られる。

 受槽でプルトニウムの原子価調整と酸濃度の調整を行なった後、第1ミキサセトラへ送られる。

 ここで核分裂生成物は水相に残り、第1廃液受槽へ送られ、プルトニウム濃度が50mg/lをこえる時は第1受槽へ、この値以下の場合は廃液操作室へ排出される。

 プルトニウム及び少量のウランを抽出した有機相は第2ミキサセトラに入り、逆抽出液と接触してプルトニウムと少量のウランは水相中に移り、第2受槽に一時貯蔵され調整後、イオン交換塔へ送られる。

 イオン交換塔においてプルトニウムは少量のウラン及び核分裂生成物と分離され、約15g/lの精製プルトニウム水溶液として第3受槽に入る。

 イオ ン交換塔からの廃液は、プルトニウム濃度が50mg/l以下であることを確認した後廃液操作室を経て廃液長期貯蔵施設へ送られる。

 本工程では、1ランで約15g/lのプルトニウム精製溶液約15lが得られ、1ランあたりの所要時間は約2週間である。

iv)製品貯蔵
 抽出分離工程で得られたウラン水溶液は、廃液長期貯蔵施設にある貯槽(8.5m32基)に貯蔵される。

 精製濃縮されたプルトニウム溶液は、プルトニウム特研に搬出されるまでの間プルトニウム精製濃縮工程の第3受槽(6l、4基)に一時貯蔵され1ラン終了後必らずプルトニウム特研に搬出される。

v)放射性廃棄物の処理

a)気体廃棄物
 施設内における気体廃棄物は、溶解工程で発生する反応生成ガス、塔又は槽等から出る放射性ミスト、揮発性核分裂生成物を伴うベントガスがその主なものである。

 特に溶解工程からの反応生成ガスはベント冷却器、アルカリスクラバー、AECフィルタ等により除染された後、高さ30mの排気筒から排出される。

b)液体廃棄物
 施設において生ずる液体廃棄物は、各工程からの廃液、試料分析後の廃液、保守作業に伴う洗浄廃液などであるが、溶解工程からの脱被覆溶液及び抽出分離工程からの核分裂生成物を含む水溶液は、直接廃液長期貯蔵施設に貯蔵され、他の廃液は一旦廃液操作室内の廃液一時貯留槽へ送られ、放射性濃度をチェックされた後、そのレベルに応じて廃液長期貯蔵施設、廃棄物処理場又は一般耕水溝へ送り出される。

c)固体廃棄物
 施設内で生じる固体廃棄物は、廃棄物処理場へ送られ処理される。
2 安全対策

 本施設では以下のような種々の安全対策が講ぜられており、ホット試験に関する安全性は確保できるものと認められる。
(1)耐震設計
 本施設の主建家は十分な地耐力を有する頁岩上に建造され、中央部に厚い遮蔽壁をもったケーブを有する剛な構造である。

 建家、ケーブ・セル、その他主要な装置については、重要度に応じて次のような設計基準をとることとしている。

 建家については、建築基準法による設計震度の1.4倍(水平震度0.2G、垂直震度0.1G)をとり、コンクリートセル、鉛セル、装置類については、各施設の相対変位を考慮して水平震度0.3G、垂直震度0.15Gをとっている。

 これらは本数地及び周辺における地震活動度、地盤状況等からみて、安全な設計震度であると考えられる。

(2)遮蔽設計
 従事者の作業時間に応じて、施設内の遮蔽を行なうこととしている。

 勤務時間中常時駐在する区域は1年間に1.5remをこえないように、またその他の区域については作業時間を考慮して1週間に60mremをこえないように設計されている。

(3)工程管理
 施設内の工程上の安全対策としては装置内圧力、温度、液面、ガス濃度、流量の測定及び試料の分析により、各装置での必要な管理を行なうこととしている。

 圧 力 本施設では特に高圧で運転される部分はないが、溶解槽ならびに抽出分離工程及びプルトニウム精製工程における蒸発缶の圧力上昇を防止するためその加熱蒸気系には圧力放出弁を設け所定以上に系の圧力が上昇するのを防ぐようになっている。

 又蒸発缶内には圧力警報計が設けられる。

 温 度 溶解工程及び蒸発濃縮工程を除いては、50℃以下で運転される。

 蒸発缶においては、缶内液温が一定値を越えないよう缶出液の流量が調節される。

 又缶内液温警報計が缶内上部、下部の2ヶ所に設けられる。

 液 面 抽出工程蒸発缶内液面は加熱蒸気流量で、プルトニウム溶液蒸発缶内液面はオーバーフローパイプでそれぞれ調節することとしている。

 ガス濃度 アルミ被覆溶解時に発生するアンモニヤ、微量の水素ガスを爆発下限濃度以下に保持するため、空気を吹込むようにしている。

 またアルカリスクラバー出口ベントラインに可燃性ガス警報装置を設けて、オフガス中の可燃性ガス濃度を監視することとしている。

 流 量 溶解、抽出、プルトニウム精製の各工程とも液体輸送にはほとんどエアーリフトを用いており、ポンプまたは、重力輸送によって生ずる支障をさけるようにしている。

 分 析 すべての工程を通じて工程管理のため必要個所から試料を採取して、管理分析を行なうこととしている。

 試料は、放射線レベルの高低にしたがい必要に応じて分析セルまたはグローブボックスで分析される。

(4)臨界管理
 本施設では、ウランによる臨界を考慮する必要はないが、プルトニウムによる臨界の可能性は考えられるので、臨界管理が必要とされる。

 臨界管理は、質量制限、濃縮制限、寸法形状制限などによって行なわれる。

 質量制限 1ランあたりの使用済燃料の最大量中のプルトニウム量が水系の最小臨界質量以下であるので、質量制限によりプルトニウム総量が350gをこえないように管理することとしている。

 このためプルトニウム精製系の第3受槽に一時貯蔵されたプルトニウム溶液が、プルトニウム特研へ搬出されたのちでなければ次のランに入らないこととしている。

 濃度制限 廃液施設においては、プルトニウム濃度が50mg/lをこえないように管理することとしている。

 形状制限 上記の2制限法の採用で臨界管理は十分と思われるが特にプルトニウム精製工程においてはさらに装置の寸法を円筒状の場合、直径10cm以下、平板状の場合厚さ8cm以下に制限している。

(5)放射性廃棄物管理
 気体廃棄物は使用済燃料溶解時に発生するオフガスが大部分であるが、これはベント冷却器でミストを除去後アルカリスクラバーで酸性ガスが除去され、AEC フィルターを通して30mの排気筒から放出される。

 施設内の排気の流れは、非管理区域、管理区域、ケーブ・セル・グローブボックス内、装置内の順に、負圧が大きくなるようになっており、差圧が一定値以下になると警報を発するようになっている。

 液体廃棄物は、一部を除いて廃液操作室に一時貯留され、放射能レベルに応じて廃液長期貯蔵施設、本研究所の廃棄物処理場または一般排水溝へ送られる。

 脱被覆廃液及び極高レベル廃液(103μCi/ml以上)は直接廃液長期貯蔵施設内のそれぞれ専用の貯槽に、硝酸ウランを含む回収ウラン溶液及び高レベル廃液は、廃液操作室を経て廃液長期貯蔵施設内の貯槽に各々送られ、貯蔵される。

 中、低レベルの廃液は、廃棄物処理場に送られ処理される。

 法規で定めた許容濃度以下の廃液のみ、放射能濃度を確かめたのち、一般排水溝に放出される。

 固体廃棄物はα汚染のあるものと、それ以外のものとに区分し、廃棄物容器に収めすべて廃棄物処理場に運搬し処理することとしている。

(6)放射線管理
 施設内の放射線監視は、各種の固定モニター(エリアモニター、ダストモニター、ガスモニター、ヨウ素モニター)による連続監視、移動モニターによる定期的監視、サンプリング等によって行なわれる。

 また個人の被ばく管理に必要な機器も備えつけられる。

 施設内の区域管理は管理区域と非常管理区域にわけ、管理区域をさらに汚染管理上赤区域と黄区域にわけて、出入管理を行なうこととしている。

 施設外の放射線監視については、本研究所の敷地の内外において、研究所全体としてのモニタリングシステムに従って行なわれる。

(7)異常監視警報網
 本施設の各工程における異常を報知するため異常監視警報網が設けられる。

 各装置計装からの温度、圧力等の異常警報は本施設管理室の異常監視盤で集中的に監視され、さらに放射線監視モニターも含めて、本試験施設玄関、本研究所正門の監視盤に伝達されることになっている。

 以上に述べた如く本施設のホット試験に際しては、十分な安全対策がとられている。

 このなかには、二次にわたるコールド試験の経験にもとづいた装置の大きな安全上の改良が含まれている。

 また施設の安全性とともにその運転・保守についての管理が安全性の重要な要因と考えられるが、コールド試験での十分な運転経験を有する従事者がこれにあたり、再処理試験施設本体、特定施設、放射線管理施設の各々の管理責任の分担を的確にして十分な管理体制をとることとしているので、本ホット運転の安全性は確保できると認められる。
3 平常運転時の被ばく評価
 平常運転時における被ばくの評価は、下記のとおりであり、従事者および周辺公衆に対して放射線障害を及ぼす恐れはないものと認められる。
(1)従事者の被ばく
 再処理試験施設の運転は最大8バッチ(使用済燃料約400kg(U))を単位として全再処理工程約2ヶ月を要して行なわれるので、この間における従事者の体外被はくを最大インベントリー量8.5バッチ(溶解槽残部0.5バッチを見込む)で放射能量全β1.56×105Ci,全γ7.56×104Ciとして、漏洩線量および作業時間から解析すると1人の従事者の全身被ばくは1週間当り25mrem以下におさえられる。

 また、局部(手)被ばくについては、特に問題になると思われる分析作業時について解析すると1週間当り350mremにおさえられる。

 以上の結果
は法令に定められた従事者の許容被ばく線量3ヵ月当り全身3rem、局部(手)20remを十分下回る。

 さらに有効な放射線管理を行なうことによってこれより低くおさえられると認められる。

 なお、体内被ばく及び汚染に関しての定量的評価は困難であるが、既に述べた放射線管理体制をとることによって十分低くおさえられると考えられる。

(2)周辺公衆の被ばく
 気体廃棄物からの被ばくは、ヨウ素による甲状腺被曝が最も問題になるので、全身被ばく、皮ふ被ばくはヨウ素を含めた気体廃棄物の全放出量から評価し、ヨウ素については、その他に特に甲状腺の被ばくを評価する。

 気体廃棄物の大気中への拡散計算には英国気象局法を用い、気象条件としては、敷地内外で最大濃度を与える安定度A型と、運転中のオフガス放出時間における現地の気象データからえられた有効拡散風速2m/sec、風向類度100%、拡散幅22.5°をそれぞれとる。

 また放出高さは排気筒の高さ30mとする。

 以上により解析したところ敷地境界である排気筒から風下160mにおける地点で被ばく線量は最大となる。

 その値は各々年間全身に対して0.01mrem、皮ふに対して6.5mrem、成人甲状腺に対して9.5mrem、小児甲状腺に対して38mremとなる。

 以上の結果は法令に定められた周辺監視区域外の許容被曝線量もしくは、国際的に認められた許容被曝線量を十分下回っている。

 液体廃棄物の放出、固体廃棄物の処理については、安全対策の項で述べたように、十分な安全対策が講じられており、公衆に被ばくを与えるおそれはない。
4 各種事故の検討
 本施設において発生する可能性のある各種の事故について検討した結果、それぞれ次のように十分な対策がとられていると認められる。
(1)臨界事故
 施設内で取扱われているプルトニウムの全量が水溶液系の最小臨界量より十分低い値に制限されている上に、各工程におけるプルトニウム濃度あるいは装置の形状寸法が制限されているので、この施設での臨界事故は十分防止できる。

(2)火災・爆発事故
 考えられる各種物質の火災・爆発については次のように対策がとられている。

イ)ドデカンの火災・爆発
 不飽和炭化水素、芳香族炭化水素などの含有率の低いドデカンが使用されるので、硝酸とのニトロ化反応による爆発は考えられない。

 引火による火災については、その防止のためドデカンの存在する工程における操作は、ドデカンの引火点以下で行なわれる。

 また予測されない温度の上昇、助燃材の存在、他の工程へのドデカンの混入などについても、温度計測、火気管理、可燃性ガス濃度検知などを行なって不測の事態の発生を防止することとしている。

ロ)ヒドラジンに起因する爆発
 ヒドラジン水溶液は濃硝酸または亜硝酸と反応して、ある液相中濃度範囲内で爆発するおそれのあるアジ化水素を発生する。

 このため、ヒドラジン濃度及び硝酸濃度を規定し、発生したアジ化水素濃度が気相中爆発限界濃度の1/5以下となるようにしている。

 また硝酸ヒドラジン水溶液の調整にあたっても、急激な加熱、衝撃などを与えないよう作業管理を行なうこととしている。

ハ)アルミ溶解時発生ガスの爆発
 アルミニウム被覆溶解時にアンモニヤと少量の水素が発生するが、溶解槽では常時エアパージを行なって、槽内のガス濃度が、爆発限界の1/2を超えないようにしている。

 このエアパージは停電、排気系の故障が生じても停止することがないようになっている。

 また、火気を伴なう機器を使用しないこととしている。

ニ)放射線分解による生成ガスの爆発
 水溶液および溶媒の放射線分解によって水素が発生するが、各装置において、エアパージを行なうことにより装置内部において爆発限界濃度の数分の一にすることとしている。

 このエアパージは停電、排気系の故障が生じても停止することがないようになっている。

ホ)イオン交換塔の破裂・火災
 プルトニウム精製濃縮工程のイオン交換塔の昇圧、破裂・火災については、室温で操作し、ベンド管を設けて発生ガスを放出するようにして事故を防止することとしている。

へ)T.B.P.(リン酸トリプチル)
a 蒸発缶の爆発
 蒸発缶内に誤ってT.B.P.が混入した場合、硝酸と反応して爆発する危険性が生ずる。

 蒸発缶への給液は、連続デカンターを通りあらにドデカン洗浄が行なわれるので、蒸発缶へのT.B.P.の混入は防止される。

 万一混入した微量のT.B.P.も、水蒸気にともなわれほとんど蒸発除去される。

 仮に有機物が蒸発缶内に残留し、蓄積したとしても135℃以下では爆発しないことが確かめられており、本施設では加熱スチーム圧力を調節することにより、缶内液温を120℃以下で操作することとしている。

 さらに缶内液温、圧力等を監視し異常時には、缶内外に設置されたシャワーにより、缶体の冷却が行なえるようになっている。

b 放射線誘起ニトロ化合物の爆発
 T.B.P.ドデカンの硝酸存在下におけるニトロ化は、放射線によって加熱されるので極高レベル廃液貯槽において、ニトロ化物が蓄積されると爆発の危険性が生ずる。

 同貯槽へのこれら溶媒の混入は連続デカンターで防止し、また槽内液温を冷却コイルにより60℃以下に保持し、液温の均一をはかるためエアースパージングにより槽内攪拌を行なうこととしている。

 ベントラインが設けられさらに内圧も常時監視され、異常上昇時には内圧昇圧防止器により内圧を貯蔵セル内に放出できるようになっている。

(3)機械的事故
イ)放射性気体の漏洩
 放射性物質を取扱う装置が何らかの理由で破損し、放射性気体が漏出した場合にも、これらの装置は、すべて周囲の部屋に対して負圧になっているケーブ、セル、グローブボックス内にあるので、放射性気体はこれらケーブ等の外に漏洩することはなく、排気系によりAECフィルターで濾過されたのち30mの排気筒から大気中に放出される。

ロ)放射性液体の漏洩
 放射性液体を扱う装置類が何らかの理由で破損した場合でも、これらが設置されているケーブ、セル、ダクト等の床面はすべてライニングが施された水密構造となっており、万一放射性液体の全量が装置類から漏出したとしても、ケーブ、セル等の外部に漏洩または溢出することがないようになっている。

 特に極高レベル廃液貯槽には冷却用ジャケットがありこれが二重の貯槽の役をなし漏洩を防止する。

ハ)配管等における逆流事故
 ケーブ内の装置内圧はケーブ外に対して75mm水柱以上の減圧にされているが、不測の装置内圧力上昇が生じた際にケーブ外への液体の逆流を防止するため、各系統の必要個所にチェック弁を設けている。

 また計装用配管にはトランスミッターを設けて、ケーブ内と制御室が直接配管でつながらないようにしている。

ニ)換気系統の故障
 換気系統のうち、ケーブ、セル、グローブボックス、装置内などの重要な排気系フアンは非常用電源に接続されている。

 またこれら排気系フアンは予備を有し、故障時には自動的に切換えられるようになっている。

 またケーブ、セル内の負圧が一定値以下に低下した際には、自動的に給気孔が閉鎖される。

 排気系の給排気ダクトには、手動または遠隔で操作できる操作弁が設置され、排気系故障時には閉鎖できるようになっている。

ホ)ポンプ類の故障
 本施設において使用される機械的ポンプは、非常に少ないのでそれらが故障したとしても、工程に多少影響を及ぼすことは考えられるが、施設の安全性を損なうことはない。

(4)断水
 給水タンクの貯水量は、同タンクの給水が停止したとしても溶解、蒸発等の単位操作の完了または応急措置の終了までに必要とされる水量を有しているので、事故たなることはない。

(5)地震
 本施設の設置される茨城県下における記録上最強の地震が発生したとしても、ケーブ類及び装置等は破損しないように設計されている。

(6)オフガス系の故障
 ウラン溶解時のオフガス中に含まれるヨウ素は、アルカリスクラバーで大部分除去されるが、スクラバーの故障または誤操作が起れば、ヨウ素の放出量が増加する。

 アルカリ溶液の循環ポンプには機械的部分がないので、故障が起ることはないと考えられる。

 誤操作についてもアルカリ溶液の代りに水を流した場合や、アルカリスクラバーを作動させないでウラン溶解を行なったため、ヨウ素の異常放出が生じた場合でも、オフガス系ラインのヨウ素モニタで検知し、ウラン溶解反応を停止させることができるようになっている。
5 災害評価

 施設外に影響を及ぼすおそれのある事故について想定し、以下のように災害評価を行なっているが、その仮定及び評価は妥当なものと認められる。
(1)最大想定事故
 オフガス系の故障、ウラン溶液蒸発缶の爆発プルトニウム溶液蒸発罐の爆発、イオン交換塔の火災を想定して事故解析を行なった結果、最大のものとしてオフガス系の故障を考える。

 オフガス系のアルカリスクラバーの故障または誤操作によって、1バッチ50kg(U)の燃料溶解時の内蔵放射性ガスの全量が30m排気筒を通じて大気中に放出されると仮定する。

 この時スクラバー及び粒子用高性能フィルターの効果はいずれも期待しない。1バッチ中の131Iの量は0.082Ci,129Iは0.034mCi,85Krは16.1Ci,131mXeは0.042Ci,133Xeは1.05mCiである。

(2)被ばく評価
 排気筒から大気中に放出された放射性ガスの拡散計算には、英国気象局法を用いる。

 気象条件としては、敷地内外で最大濃度を与える安定度A型と、現地の毎時観測データから、有効拡散風速が十分小さいと考えられる1m/secの風速をとり放出高さを30mとすると、敷地境界160mで最大濃度となる。

 その濃度では、放出された131Iによる内部被ばくは、最も近い敷地境界である本施設の南々東の境界において、小児に対して30mrem、希ガスによる外部被ばくは同地点で全身4×1U-4mrem、皮ふ2.7×10-1mremとなり、これらの値は、原子力施設の事故時のめやす線量、例えば「原子炉立地審査指針」における重大事故のめやす線量甲状腺被ばく小児150mrem、外部被ばく25remとくらべて十分小さい値である。
6 技術的能力

 本再処理試験施設を設置する日本原子力研究所は、原子力の研究においては、過去10年間に亘る経験を有しており、その研究施設およびこれに従事する研究者においても、わが国の原子力分野において最も進んでいる研究所の一つである。

 すでに原子炉をはじめとして、各種原子力研究施設の設置およびこれらの運転を経験しており、核燃料物質の取扱い、およびこれらの管理の能力が充分にあるものと考えられる。

 本試験施設は、昭和39年末に溶解および抽出工程の施設が完成し、同年12月から6ヶ月に亘る第1次コールド試験を実施し、これに基づく改造を続いて行ない、さらに昭和41年12月から6ヶ月に亘る第2次コールド試験を全系に亘って実施している。

 この結果施設の改造のみならず安全上の対策についても十分な経験が得られている。

 本試験施設は、東海研究所燃料工学部再処理開発試験室に所属し、本試験施設の保安管理は、再処理開発試験室長(試験施設管理者で本件施設の管理)工務第2課長(特定施設の管理)および放射線管理課長によって行なわれる。

 本施設の使用、保守の管理は再処理開発試験室に所属する者で、本試験施設の設計、試験およびこれらに伴う開発試験の計画の初頭から従事している者、ならびに第1次、第2次コールド試験およびこれの改造、整備作業に従事しかつ放射性物質取扱作業の経験を有している者が行なうことになっている。

 特定施設の管理要員についても、そのほとんどの者が前記第1次コールド試験以降の作業の経験者が行なうことになっている。

 以上により、本試験施設の運転および管理のための組織および従事者ならびに、これらの技術的経歴からみて、本試験施設の運転および管理に係る必要な技術的能力を有するものと認める。

  Ⅲ 審査経過

 本審査部会は、昭和42年10月24日第15回部会において、次の委員よりなる原研再処理試験施設審査グループ(Cグループ)を設置した。

  伊沢 正実 (座長) 放射線医学総合研究所
  坂上 治郎 お茶の水女子大学
  高島 洋一 東京工業大学
  清瀬 量平 東京大学

 同グループは、昭和42年11月17日第1回会合を開き審査を開始した。

 以後同じグループにおいては、次表のように審査を行なってきたが、昭和43年1月23日の会合においてグループ報告書を決定し、1月30日第17回審査部会において本報告書を決定した。

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