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京都大学研究用原子炉施設の
変更に係る安全性について


原子炉安全専門審査会報告
昭和42年12月6日

 原子力委員会
  委員長 鍋島 直紹殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊 隆

京都大学研究用原子炉施設の変更に係る安全性について

 当審査会は、昭和42年9月20日付け42原委第207号(昭和42年12月5日付42原委第290号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果

 京都大学原子炉実験所原子炉施設の変更に関し同大学が提出した「原子炉設置変更承認申請書」(昭和42年9月11日付け申請および昭和42年12月2日付け訂正)に基づいて審査した結果、同施設の変更に係る安全性は十分確保し得るものと認める。

 Ⅱ 変更事項

1. 熱出力を5,000kW(従来1,000kW)に変更すること。

2. 炉心タンク出口における一次冷却水の最高温度を55℃(従来45.6℃)とすること。

3. 最大過剰反応度を5%△K/K(従来4.5%△K/K)とすること。

4. 一次冷却系および二次冷却系の設備、能力を変更すること。

5. 燃料のウラン濃縮度は93%以下(従来90%以下)とすること。

 Ⅲ 審査内容

1. 安全対策
 本原子炉は次のような種々の安全対策が講ぜられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

1-1 核、熱設計
 変更後の本原子炉は濃縮度93%以下の燃料を用い、過剰反応度は最大5%△K/Kに保つことにしている。

 平均熱流束は約1.2×105kcal/m2hrで、炉心冷却水の流量は約960m3/hrである。

 熱出力5,000kWでは炉心タンク入口、出口の温度差は約4.5℃で、燃料板の表面温度は冷却水温度50℃のとき58.2℃で水が沸とうすることはない。

1-2 燃料
 本原子炉の燃料はMTR型で標準燃料要素は18枚の燃料板からなる。

 燃料板はウラン・アルミ合金が耐蝕アルミで被覆されたものである。

 炉心の構成は1000kWのときと変更がなく、燃料要素の最大挿入本数は34本で、過剰反応度により制限される。

1-3 制御系
(1)反応度制御系
 反応度制御は制御棒により行なう。その反応度抑制効果は合計10%△K/K以上で常に5%△K/K以上の停止余裕がある。

 また制御棒1本当りの反応度抑制効果は2~4%△K/Kで1本が挿入不能の場合でも停止余裕は1%△K/K以上あり、原子炉を停止させる能力は十分である。

 非常用制御設備としては従来のカドミウム投入設備のほか硼素化合物の保管容器が設けられ、投入できるようになっている。

 この反応度抑制効果は合計で約0.5%△K/Kである。

(2)原子炉保護系
 緊急に原子炉を停止させなければならない場合の停止回路としてファーストおよびスロースクラムの回路を設ける。

 ファーストスクラムは電子管の動作により、スロースクラムは、リレーの動作により、それぞれ粗調整棒保持電磁石の電流をしゃ断する。

 スクラムにまで至らない異状に対しては一斉挿入回路を設けて4本の粗調整棒を挿入する。

 さらに小さな異状に対しては警報により検知し、安全な炉の運転が保持できるように配置している。

1-4 原子炉冷却系
(1)一次冷却設備
 一次冷却水循環ポンプは流量320m3/hr総揚程40mのもの3台に取り替えられる。

 一次冷却系は全体として一系列であるが途中で分岐し、3台のポンプと3台の熱交換器が並列に設けられ、並列運転を行なうので、一部故障の場合でも原子炉出力を感じて残りの機器により運転しうるような弁、配管が設けられる。

 炉心タンク出口管には水圧駆動弁、入口管には逆止弁がそれぞれ設けられているので、配管の破損の際にも一次冷却水の流出を最小限にとめることができる。

 冷却水浄化設備は2組設けられる。

 2組の浄化設備は並列運転もしうるように、ポンプ、配管弁フィルターが増設される。

(2)二次冷却設備
 二次冷却系は強制循環方式(従来は放流自然冷却)で循環ポンプ3台が新設される。

 その流量および総揚程は240m3/hr 50mである。

 二次冷却水の冷却には冷却塔が新設される。

 その能力は外気条件が湿球温度31℃の場合において720m3/hrの流量の2次冷却水温度を45.1℃から39.1℃に下げることができる。

 冷却塔による蒸発等の消耗分は、従来の供給用井戸水により補給し、十分余裕を有する。

 このほか冷却塔プール、および塵埃除却用ろ過器が新設される。

(3)熱交換器
 熱交換器は従来の1台から既設と同容量のもの2台増設し、合計3台となる。

 5,000kW運転の場合、熱交換器の一次側二次側との冷却水温度差は10.7℃であり、二次側冷却水の入口温度は39.1℃をこすことはないので、一次側冷却水の温度は制限値55℃以下に保つことができる。
1-5 廃棄物処理系
(1)気体廃棄物はフィルターを通して高さ35mの排気筒から大気中に放出される。

 又事故時においては給排気ダクトを水封してバイパス系統から放出される。

 バイパス系には活性炭フィルターが設けられている。
(2)液体廃棄物
 液体廃棄物は廃棄物処理設備で処理し、高レベルのものは貯蔵保管し、低レベルのものは希釈したのち放出する。

(3)固体廃棄物
 固体廃棄物は固体廃棄物倉庫に貯蔵保管され、必要により外部の処理機関に引き渡すことにしている。
1-6 放射線管理
(1)放射線遮蔽
 放射線遮蔽は、従業員の被曝線量が現行法規に規定された許容値を十分下まわるように設計されているが、比較的大量の被曝をうける可能性のある場所においては、従業員の立ち入り制限等を行うこととしている。

(2)廃棄物の放出管理
 気体廃棄物は、排気筒入口において放射能レベルが連続的に測定される。

 液体廃棄物は、監視貯溜槽の水を採集測定し、法令に定める許容濃度以下になっていることを確認して放出される。

 固体廃棄物は、必要に応じ、外部の廃棄物処理機関に引き渡すこととしている。

 なお、これを廃棄物貯蔵所に保管するときは、外部放射線量が法令に定める許容値以下にすることにしている。

(3)放射線監視
 屋内における放射線監視は、固定モニタによって原子炉制御室、保健物理管理室、および中央管理室で連続的に監視されるほか、移動モニタおよびサンプリング測定によって定期的に監視される。

 また、個人の被曝管理に必要な機器も備えられている。

 屋外における放射線監視については、敷地周辺に4ヶ所のモニタリングステーションが設けられており、さらに放射線観測車も備えられている。

 また必要に応じて、河川水、農作物、土壌等を採取して分析することによって、周辺一般公衆の被曝線量が、法令に定める許容値を越えないことを常に確認することとしている。
2. 平常運転時の被曝評価
 平常運転時の被曝評価は、次のとおりであり、敷地周辺の公衆に対して放射線障害を与えることはないものと認める。
(1)気体廃棄物
 放出濃度は、排気口において2×10-6μCi/cc(41Ar)をこえることはないが、いまかりに上記濃度で連続的放出するとして、年間の気象データを考慮し、γ線およびβ線による年間積算線量を計算すること、敷地外で線量が最大となる地点は、排気筒の比方約400mの敷地境界上であり、その値は1.5mremとなる。

 したがって、敷地外における被輝線量は、許容値をはるかに下まわるものと考える。

 なお、原子炉建屋内外において、所要の放射線監視が行なわれているので、もし許容値をこえるおそれがあれば、事前に察知して適切な措置を講ずることができると考える。

(2)液体および固体廃棄物
 安全対策の項で述べたように、液体廃棄物の放出および固体廃棄物の廃棄については、十分な安全対策で講ずることとなっている。
3. 各種事故の検討
 本原子炉において発生する可能性のある反応度事故および機械的事故について検討した結果、それぞれ次のように対策が講ぜられており、本原子炉は、十分安全性を確保し得るものであると認める。

3-1 反応度事故
(1)起動事故
 原子炉起動時に誤って制御棒2本を最大引抜き速度(0.03%△k/k/sec)で引き抜いた場合、ペリオドスクラムおよび各出力レンヂスクラムが動作しないとしても、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつ高中性子束スクラムで原子炉は停止する。

 この事政で燃料被覆の破損には至らない。

(2)燃料装荷事故
 燃料取替中に取扱系の誤動作と運転員の誤操作によって臨界直前の炉心に新燃料が落下または急激に挿入された場合、最大約2%△k/kの反応度が付加されるが、核的逸走は負の出力係数で抑えられ、かつスクラムで原子炉は停止する。

 この事故で燃料被覆の破損には至らない。

(3)照射実験に伴う事故
 炉心に近接した照射孔先端で照射実験を行なっているとき、試料はまた容器の爆発によって照射孔壁が破損することは考えられないが、万一孔内に一次冷却水が浸入しても、最大約0.15%△K/Kの反応度が付加されるにすぎず、かつ原子炉は高中性子束スクラムで停止する。
3-2 機械的事故
(1)冷却材流量喪失事故
 運転中に1次冷却系ポンプ3基が停止した場合、流量低下スクラムで原子炉は停止する。

 その後の原子炉の冷却は自然循環によって行なわれるので燃料被覆の破損には至らない。

(2)一次冷却系配管等破損事故
 運転中に、原子炉タンクに接続されている配管が破損すると、原子炉タンク水位低スクラムで原子炉は停止する。

 その後の原子炉の冷却水の補給は、非常用冷却設備によって行なわれ、水がなくなることはない。

(3)熱交換器被損事故
 運転中に熱交換器のチューブが破損すると、1次側に2次冷却水が漏れて、原子炉水位高で警報が発せられるので、原子炉の停止、緊急遮断弁の閉鎖等十分に対策がなされる。

(4)電源喪失事故
 停電によって電気の供給が停止した場合、制御棒の保持電磁石の電源も喪失するので、自動的にすべての制御棒が落下し、原子炉は停止する。

 安全上重要な機器の操作に必要な電力は、ディーゼル発電機から供給される。

(5)その他機器類の故障および誤操作による事故
 制御棒駆動系の故障、弁類の故障、給水系の故障および格子板プラグの誤操作等が考えられるが、いずれも大きな事故に至ることはない。
4. 災害評価
 本原子炉は、すでに述べたように、種々の安全対策が講ぜられており、かつ、各種事故に対しても検討の結果安全を確保しうるものと認めるが、さらに仮想事故を想定して行なった災害評価は次のとおりで、解析に用いた仮定は妥当であり、その結果は、一般公衆の安全を確保し得ると認める。

 すなわち、本評価における仮想事故としては、1枚の燃料板の片側全面的400cm2にわたり被覆が破損した場合を想定し、次の仮定を用い解析する。
(1)180MW day運転後の燃料板の被覆が破損することによって表面から平均飛程14μまでの深さの核分裂生成物だけが原子炉タンク水中に放出される。

(2)沃素については、壁面への吸着、冷却水中への保有等によりその1%が空気中へ放出すると考える。
 よって、原子炉室に放出される核種の総量は約1.6Ciである。

(3)非常用排気系統では、活性炭フィルターで濾過することになっているので、沃素全体に対する液過効率を90%とする。

(4)核分裂生成物は、原子炉格納施設から換気率3%/dayで、排気筒(高さ35m)を通して放出される。

(5)大気中の拡散については「原子炉安全解析のための気象手引」を参考にすることとし、風速については0.5m/secとする。

 現地の気象データによれば、大部分の方向について95%以上が0.5m/sec以上の風速になっている。
 以上の条件によって計算した結果、敷地外で空気中濃度が最大となるのは敷地境界(原子炉から300m)であって、その地点の濃度は全沃素(131I換算)約4.4×10-13μCi/cc,希ガス(0.5MeV換算)約1.64×10-11μCi/ccである。

 事故の継続時間を考慮すれば、これによる被曝線量は問題とならない。

 Ⅳ 審査経過

 本審査会は、昭和42年9月22日第50回審査会において次の委員よりなる第33部会を設置した。
   高島 洋一 (部会長) 東京工業大学
   小平 吉男 気象協会
   浜田 達二 理化学研究所
   弘田 実弥 日本原子力研究所

 同部会は、昭和42年10月7日第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、次表のように審査を行なってきたが、昭和42年11月29日の部会において、部会報告書を決定し、12月6日第53回審査会によって本報告書を決定した。

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