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原子力第1船の安全性について


原子炉安全専門審査会報告
昭和42年11月15日

 原子力委員会
  委員長 二階堂 進殿

原子炉安全専門審査会
会長 向坊 隆

原子力第1船の安全性について

 当審査会は、昭和42年4月10日付42原委第96号(昭和42年9月21日付42原委第211号、昭和42年9月28日付42原委第223号および昭和42年10月16日付42原委第235号をもって訂正)をもって、審査の結果を求められた標記の件について、結論を得たので報告します。

 Ⅰ 審査結果

 日本原子力船開発事業団が、船舶推進用として、原子力第1船に設置しようとする低濃縮ウラン、軽水減速、軽水冷却の加圧水型原子炉に関し、同事業団が提出した「原子力第1船原子炉設置許可申請書」(昭和42年4月3日付け申請および昭和42年9月18日付け、9月26日付け、10月13日付け訂正)に基づいて審査した結果、本原子炉の設置に係る安全性は、次の条件(原子炉が冷態停止の状態で停泊または仮泊する場合を除く)が満たされるならば、十分確保しうるものと認める。
① 停泊場所から管理地帯の境界までの離隔距離が50m以上あること。
② 停泊場所から非居住地帯の境界までの離隔距離が250m以上あること。
③ 港内停泊時は、事故発生後6時間以内に船を遠隔びょう他に移動完了できるよう引船等の用意がしてあること。
④ 遠隔びょう地から非居住地帯の境界までの離隔距離が250m以上あること。
⑤ 遠隔びょう地から低人口地帯の境界までの離隔距離が750m以上あること。
⑥ 仮泊場所から陸岸までの離隔距離が250m以上あること。

 Ⅱ 審査内容

1. 設置計画の概要
 本船原子炉施設および附帯陸上施設の概要は、次の通りである。
1.1 本船
(1)船体
 本船は全長約130m、型巾約19m、型深約13.2m、総屯数的8,350トン、主機1軸10,000馬力、蒸気タービンの平甲板船であり、遠洋区域を航行区域とし国際航海に従事するものとし、日本海事協会のNS(Nnclear Ship)、MNSの船級を取得し、船舶安全法、海上人命安全条約(1960年)、日本海事協会鋼船規則原子力船の船級登録のための暫定指針等関係法令規則に適合するように設計される。

 原子炉施設は、船体のほぼ中央部に置かれ、原子炉本体および1次系の機器は鋼製格納容器に収容される。

 側部には、他船の衝突により、格納容器に損傷を及ぼさないよう耐衝突構造が設けられる。

 また、本船は10個の水密区画に分割され、隣接する2区画に浸水しても沈没しない構造となっており、さらに、原子炉区画の下部は二重底の高さを増し座礁に対する配慮がなされている。

(2)原子炉施設
 本原子炉は、熱出力約36MW(推進軸出力約10,000馬力)の加圧水型である。

 32個の燃料集合体からなる炉心部は、円筒形鋼製圧力容器に収められる。

 燃料集合体としては低濃縮二酸化ウランペレットをオーステナイト系ステンレス鋼被覆管に詰めた燃料要素およびジルカロイにボロンカーバイトを分散した固体ポイズンを燃料要素と同一仕様の被覆管に封入したバーナブルポイズン要素を組立てたものが使用される。

 その燃料装荷量はウラン量約2.5トンである。

 制御棒は、銀-インジウム-カドミウム合金をステンレン鋼被覆管に封入したものを十字形に配列固定したもので、燃料集合体の間に挿入されるその作動に際しては、原子炉の上部から、ラックアンド・ピニオン機構により駆動され、緊急時には、スクラム・スプリングの作用によって炉心内に挿入される。

 さらに、ほう酸水を原子炉容器内に注入することによって、制御棒が一部挿入不能の場合にも、温態停止している原子炉を冷態停止に導びくほう酸水注入装置が設けられる。

 冷却系としては、原子炉から蒸気発生器への1次系2回路および推進タービン、発電タービン等への2次系回路が設けられる。

 このほか、原子炉施設として必要な放射性廃棄物処理施設、放射線管理施設等が設けられる。

1.2 附帯陸上施設
(1)立地条件
(i)敷地および周辺環境
 敷地は、青森県むつ市下北ふ頭の南西端に位置し、その面積は約36,000m2である。

 下北ふ頭は延長約1,100m巾員約300m、3,000トン3バースを有しており、附帯陸上施設の係留岸壁として、最先端の1バースを改造して使用する計画である。

 本船の係留岸壁の中央から敷地境界までの最短距離は、約100mであり、250mまでの周辺区域については、非居住区域となるよう必要な措置が講じられる。

 西方約2kmにむつ市大揆地区の市街地が、また東北東約3.5kmに同市田名部地区の市街地があり、人口は1km以内で600人、2km以内で9,800人、3km以内で約2万人である。

(ii)地質
 附帯陸上施設の建設地は、基本水準面下の-10m位まで砂層-15m~-20m附近まで粘土、シルト、などの互層、それ以下は締った砂礫層、粘性土の互層が-30m附近まで続き-30m以下は浮石質疑灰岩である。

 燃料
 交換棟等の主な支柱は砂礫層によって支持される計画である。

(iii)海象
 周辺海域は冬季気温が氷点下に下るが、港内が凍結することはない。

 潮流は,概して城ケ沢海岸沿であり、流向は北東、流速は微弱である。

 また波高は、3.0mをこすことは殆んどない。

 現地における潮位はチリ地震時(昭和35年)最高1.9mであり、平常時における干満の差は約0.6mである。

 なお、敷地は基本水準面上3.Omとされるので、冠水の恐れはない。

(iv)気象
 附帯陸上施設における気象の観測は行なわれていないが、敷地から東北東約2.8kmにある田名部測候所等の観測結果によれば、年間を通じて、南西の風が卓越し、その出現頻度は14%である。

 また、静穏状態の出現煩度は約2%である。

 大気安定度は年間を通じてD型が多く、次にC型、B型、であり、F型の出現頻度は年間約21%となっている。

(v)地震
 附帯陸上施設の建設される下北半島は、地震生起回数の少ない地域に属している。

 また、地盤条件は耐震設計上問題はない。

(vi)水利
 附帯陸上施設の建設地には、豊富な地下水があり、水質は良好で施設の用水、本船の給水、飲料水等として、十分確保される。

(2)附帯陸上施設に設置される施設
 附帯陸上施設には、燃料装荷および燃料交換のため必要な岸壁クレーンおよび燃料取扱い設備、新燃料貯蔵施設、使用済燃料貯蔵施設が設けられる。

 このほか船内で発注する液体廃棄物
の処理施設、固体廃棄物の貯蔵設備、放射線管理設備等が設けられる。

2 安全対策
 本原子炉施設は、以下のような種々の安全対策が講ぜられることになっており、十分な安全性を有するものであると認める。

2.1 船体
(1)耐衝突構造
 本船には、万一の衝突事故の場合でも原子炉施設の主要な部分の安全を保つため原子炉区画の側部に耐衝突構造が設けられる。

 耐衝突構造は原子炉区画外側の増厚された甲板および甲板間に設けられた補給甲板からなっている。

 なお、本船が衝突船、被衝突船のいずれである場合にも、衝撃加速度は、1.0gをこえないことが模型実験および解析で確認されている。

(2)耐座礁構造
 本船には、万一の座礁の場合でも、原子炉格納容器および原子炉施設の損傷を防止するため耐座礁構造が設けられている。

 すなわち、原子炉区画下部の二重底の高さを増し、桁板、助板により格子構造を形成して耐座礁構造とし、分布荷重に対しては二重底全体の剛性を増すことにより、また局部荷重に対しては部分的な挫屈により、いずれの場合にも格納容器に損傷が及ばないように設計される。

(3)その他
 本船は、遠洋区域を航行区域とする旅客船として必要な静的および動的復原力を有する構造であり、さらに10個の水密区画に分割され、隣接する2区画に浸水しても必要な浮力および復原力を有する。

 また、本船は防火構造を採用し、火災探知および警報装置ならびに炭酸ガス消火装置が設けられる。

 操舵機は、独立した2系統の動力および油圧装置を有する。

 さらに本船には、原子炉事故時の推進のために2胴水管式重油専燃船用ボイラ1基が設けられており、その補助動力による計画速力は約10ノットである。

2.2 原子炉施設
(1)核、熱設計および動特性
 本原子炉は2領域炉心で、濃縮度の異なる燃料集合体で構成される。

 燃料集合体は、領域毎にノックピンの形状寸法あるいは位置を変え、他領域には装荷できない構造である。

 本原子炉は、減速材温度係数と燃料のドップラ効果にもとづき負の反応度係数をもつので、反応度外乱に対して自己制御性が高く、負荷応答性もよい。

 1次冷却水の圧力および温度は、定格出力運転時においてそれぞれ約110kg/cm2gおよび約285℃であり、燃料の最高被覆温度および最高中心温度はそれぞれ約322℃および約1,800℃でこの時の最小限界熱流束比(DNB比)は、約2.1である。

 仮りに過波的に設計退出力(130%)になった場合でも、燃料の最高中心温度は約2,100℃で溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比は1.3以上である。

(2)燃料
 本原子炉の燃料としては、112本の燃料要素と9本のバーナブルポイズン要素を11×11の正方格子状に配列した集合体が使用される。

 燃料要素およびバーナブルポイズン要素は4段に配置された板ばね格子で横方向に支持され、軸方向には自由に膨張を許し、横方向の変形を防止するよう考慮されている。

 燃料集合体は船体動揺衝撃等の横方向加速度に対して、わん曲等により、制御棒の動作に支障を与えることのないよう十分な剛性を有するとともに、船体振動に共鳴を生じないよう模型実験で確認を行ない設計を行なっている。

 被覆管は、燃料要素、バーナブルポイズン要素ともに同一の仕様であり、材料としては軽水型動力炉用燃料被覆管として多くの使用実績のある低コバルトステンレス鋼が使用される。

 その肉厚は燃料の使用寿命中の腐食に対して妥当と考えられ管内の自由体積も燃料集合体の最高燃焼度約14,000MWD/Tに応じ得るように配慮されている。

 本原子炉では定常運転時の燃料被覆管の破損率を0.1%以下におさえることとし、設計上の配慮に加えて、燃料集合体の製造工程中には厳重な品質管理を行なうことになっている。

 なお、燃料被覆管の破損を発見するため、1次冷却水中の放射性物質濃度を監視することとしている。

 バーナブルポイズン要素は制御棒との相互作用が少なく、炉心全体に一様な分布となるような位置に配置し、炉心の内外領域で、含有ボロニン量の異なるポイズンが採用される。

 ポイズン材料は中性子照射に対して、スエリングその他の変形がないとされているジルカロイ-2、ボロンカーバイトが使用される。

(3)計測および制御系
(i)核計測計
 中性子束は、原子炉容器の周囲をとり囲む1次遮蔽タンク内の計測孔に設けられた検出装置により測定される。

(ii)安全保護系
 安全保護系は、多重チャンネル構成で、中性子束、1次冷却水温度、1次冷却水圧力等の重要な測定に対して“2 out of 4”“1 out of”方式等の論理回路を形成し、信頼度を高め、さらに電源喪失、回路の断線等に対してフエイルセイフの機能をもたせ、安全性を高めるよう配慮されている。

(iii)反応度制御系
 本原子炉は、原子炉の出力変化および停止に必要な反応度制御を制御棒の位置調整により行ない、バーナブルポイズンは燃料の燃焼による反応度の減少を補う機能を有する。

 初装荷炉心の最大超過反応度は15%△K/K以下であり、制御棒の反応度抑制効果は18%△K/K以上で常に3%△K/K以上の停止余裕がある。

 また、常温で最も反応度効果の大きい制御棒1本が炉心に挿入できない場合でも、残りの制御棒によって炉を安全に停止できるように設計されている。

 さらにほう酸水注入装置は、制御棒、スタック等の非常時において、原子炉を温態停止から冷態停止に必要な反応度の抑制をするために使用される。

 制御棒の位置調整は、電動機によりラック・アンド・ピニオン機構を介して原子炉容器の上部から行なわれる。

 制御棒は、ラック・アンド・ピニオン機構およびミサイルプロテクタによって飛び出しが生じないような機構となっている。

 スクラム動作は、圧縮スプリングを開放して制御棒を炉心内に挿入することにより行なわれて船体動揺や傾斜によって機能が失なわれることのないよう配慮される。

 制御棒駆動装置の信頼性については十分検討されることになっている。

(iv)出力制御系
 本原子炉の出力は、定格出力の10%以上の場合は、負荷の変動に応じて原子炉1次冷却水平均温度が一定に保たれるように制御棒の位置を調整することにより自動制御される。

(v)加圧器
 加圧器は定常運転中、1次冷却水圧力を設定値に保ち、通常に過度的負荷変化に伴う1次冷却水の熱膨張および収縮による圧力変化を許容範囲内に制御する機能を有する。
 また、加圧器上部には、安全弁および逃がし弁を設けて、1次冷却系に発生する異常圧力上昇を制限する。

(vi)制御室およびその他の制御場所
 制御室には、原子炉施設の運転に重要なすべての計測制御装置が設置され、原子炉施設の集中監視および制御が行なわれる。

 なお、非常の場合に対しては操舵室にも手動のスクラム・スイッチが設けられるのでここで原子炉をスクラムさせることができる。

 また、補機室にも非常用崩壊熱除去に必要な操作器およびほう酸水注入設備作動スイッチが設けられて、そこで、崩壊熱除去およびほう酸水注入操作をすることができる。

(4)原子炉容器および1次冷却系配管
 原子炉容器および配管の設計、製作にあたっては、材料の疲労および応力集中などについて解析を行ないこれらに十分耐えることを確認することになっている。

 さらに原子炉容器は圧力を受けている間容器の温度をNDT温度+33℃以上に保つことになっている。

 なお、中性子照射によるNDT温度の上昇については原子炉容器内に照射試料を挿入し、定期的に監視することになっている。

(5)原子炉非常用冷却系
 事故時においても、原子炉の熱除去が完全に行なえるように、次のような配慮がなされている。
(i)非常用注水設備
 1次冷却水喪失事故時に、炉心に冷却水を注入し燃料温度の上昇をおさえ、燃料の破損、溶融を防止する機能を有する。ポンプおよび配管は多重性を持たせた設計とし、ポンプの電力は補助発電機または非常発電機から供給される。

(ii)非常用崩壊熱除去系
 機関部能力が喪失して、通常の崩壊熱除去設備が使用不能の場合、原子炉補機室に設けられた非常用崩壊熱除去ポンプによって非常用水槽の水を蒸気発生器2次側に給水し、蒸気を大気放出して崩壊熱を除去する。
(6)電源設備
 本船および原子炉施設に必要な通常の電力は、蒸気タービン駆動の主発電機2台から供給される。

 原子炉スクラムの場合あるいは主発電機が使用不能の場合に本船および原子炉施設の保全に必要な電力を確保するため、ディーゼルエンジン駆動の補助発電機2台が設けられる。

 これらの電源が喪失しても、原子炉施設の安全性の確保に最小限必要な電力は、上甲板部に設けられた非常発電機および制御計装用蓄電池から供給できるようになっている。

 なお、原子炉施設の重要な機器に対する配線は2重になっており、したがって、それぞれ異なった電路から必要な電気を供給することができるようになっている。

(7)廃棄物処理
(i)気体廃棄物
 本原子炉で発生する気体廃棄物は、漏洩水と共に格納容器へ排出されたガスについては、格納容器原子炉室換気系を経てフィルタを通してスタックから放出される。

 また、ドレンタンク液体廃棄物貯留タンクの気相部に溜ったものは廃ガスマニホールドを経て上記換気系へ入る。

 気体廃棄物の放出濃度は、スタック内に設けられた放射線モニタにより常時監視され、必要に応じて希釈することもできる。

(ii)液体廃棄物
 原子炉の運転中に発生する液体廃棄物は10-4μci/cm3を境に、中レベル廃液および低レベル廃液に分けられ、それぞれ中レベルタンクおよび低レベルタンクに一時貯蔵される。

 貯留タンクの総容量は約40m3であり、6ヶ月の航海中に発生する液体廃棄物をすべて貯蔵しうる十分な容量を有している。

 中レベルタンクおよび低レベルタンクはそれぞれ原子炉室および原子炉禰機室に設置され、衝突、座礁に対して十分保護される。

 液体廃棄物は、附帯陸上施設において処理処分が行なわれ、本船から海中への放出は行なわないことになっている。

(iii)固体廃棄物
 本船で発生する固体廃棄物は、使用済イオン交換樹指ならびに汚染された実験用および保守用の消耗品、紙片等である。

 前者は航海中は交換されず、樹指塔におさめられており、後者は、カートンボックスに収容し船内の汚染物倉庫に保管される。
 これらは、いずれも附帯陸上施設に搬出され保管または処理処分が行なわれる。
(8)放射線遮蔽
 本原子炉には、原子炉容器の周辺を囲む鋼板、水、コンクリートによる1次遮蔽、および原子炉室周辺はコンクリート等による。

 また、格納容器上部は鉛とポリエチレンによる2次遮蔽が設けられる。

 設計にあたっては、船内居住場所、放射線作業に直接従事しない乗組員の作業場所および放射線作業に直接従事する乗組員の作業場所のそれぞれについて、その被曝線量が法規に規定された許容値を十分下まわるように配置される。

(9)放射線監視
 船内における放射線監視は、固定式のエリヤモニタおよびプロセスモニタによる連続監視、移動モニタによる定期監視等によって行なわれる。

 また、個人の被曝管理に必要な機器も備えられる。

(10)放射性物質の放出防止
 事故当時においても、放射性物質の放散による乗組員および本船周辺の一般公衆の放射線被曝を極力抑制するため、原子炉施設の主要部分は耐圧性の密閉格納容器中に収容される。
(i)原子炉格納容器
 原子炉格納容器は事故時の内圧に耐えるように設計された鋼製耐圧密閉容器であり、沈没事故時に圧潰を防ぐため、下部鏡板には圧力平衡弁が設けられる。

 この圧力平衡弁は、本船の沈没機構の実験から推定される。

 沈降速度においで十分機能をはたすよう設計される。

 キュポラ取付部、人孔、圧力平衡弁の各開口閉鎖部、管、電線貫通部の設計および工事には気密性が保持されるよう十分配慮される。

(ii)原子炉格納施設換気系
 原子炉格納容器が設置される原子炉室は船内の他の区画の換気系と分離されており、常時排気通風機で負圧に保たれて放射性物質の船内他区画への漏洩を防止する。

 原子炉格納容器内に放射性物質が放出されるような事故時には、緊急用フィルタを通して濾過し、スタックから放出する。

(iii)隔離弁
 原子炉格納容器を貫通する主要な配管には隔離弁を設け、事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されている。

(iv)原子炉格納容器スプレ設備
 原子炉格納容器スプレ設備は、1次冷却水喪失事故時に、格納容器スプレポンプを自動的に作動させ、原子炉格納容器内圧の減少をはかる機能を有している。
(11)安全防護設備の機能確保
 原子炉安全保護回路、非常用注水設備および格納容器スプレ設備は、原子炉施設の耐用期間を通じてその機能を確認するため、運転中あるいは停止中に点検または試験ができるように設計される。

(12)船体条件に対する原子炉施設の設計上の考慮 原子炉施設は、船舶が通常遭遇するあらゆる船体条件で安全に運転できるよう十分配慮される。

 原子炉施設関係の機器の強度に関しては、船体運動に対する上下方向加速度1±0.82g、左右方向加速度±0.65g、前後方向加速度±0.20g、衝撃加速度、各方向に対して1.0g、振動加速度各方向に対して0.1gに耐えうるように設計される。

 原子炉施設の安全確保のために必要な機器の作動に関しては、横揺60°横定傾斜60°縦揺20°推定傾斜20°上下加速度1±1.0g、その他の各方向加速度1.0gに対して安全に作動し、安全確保の機能を確実にはたすように設計される。

 なお、検定傾斜60°をこえた状態では、原子炉施設の安全確保に必要な機器の機能保証がなくなるので、このような状態で原子炉の運転が続けられることのないよう自動スクラムが設定される。

 また、本原子炉は前後進切換等船舶の運航上必要な負荷変動に対してスクラムすることなく、運転できるように設計される。

2.3 附帯陸上施設
(1)燃料取扱系
 燃料装荷および燃料交換は附帯陸上施設に接岸して行なわれる。

 燃料交換作業は原子炉を十分に冷却した後、格納容器の蓋を取り、さらに原子炉圧力容器の上蓋をはずし、二重回転遮蔽台を設け、岸壁クレーンを用いて燃料交換キャスクを所定の位置に合せ、1燃料集合体毎に行なわれる。

 燃料交換キャスク等の燃料交換装置は、堅牢な構造とし岸壁クレーンには防脱装置が設けられる。

 陸上には、約1炉心分の貯蔵能力を有する新燃料貯蔵設備および、約2炉心分の貯蔵能力を有する使用済燃料貯蔵設備が設けられる。

 これらは耐火耐震構造で、燃料貯蔵時に臨界にならないような構造および配置とされる。

 なお、使用済燃料貯蔵設備には水槽水の浄化冷却装置が付属設備として設けられる。

(2)廃棄物処理施設
 附帯陸上施設において発生する気体廃棄物ならびに本船および本施設において発生する液体および固体廃棄物を処理および貯蔵するための廃棄処理施設が設けられる。

 液体廃棄物の処理施設は、貯留タンク、凝集沈澱槽、蒸発濃縮装置、イオン交換塔等からなっている。

 中、低レベルの廃液については、これを周辺監視区域外の許容濃度以下に処理する能力を有し、また、濃縮液は固化して固体廃棄物と同様、貯蔵される。

(3)放射線管理
 個人管理および環境管理に必要な機器は、放射線管理棟の保健物理室に備えられ、これらの機器により、従事者の被曝管理および施設内の空間線量のエリアモニタによる集中監視が行なわれる。

3. 平常時の被曝評価
 平常運転時における被曝評価は、次のとおりであり、本船の停泊場所周辺および附帯陸上施設周辺の公衆に対する放射線障害の防止上支障がないものと認める。

3.1 本船
(1)気体廃棄物
 平常運転時としての最悪条件として、燃料被覆の破損率を0.1%と仮定し、廃ガス管系を経てスタックから放出される放射性ガスは、スタックから甲板まであるいはスタックから本船周辺にいたるまでに期待される大気の拡散効果を考慮すれば十分許容濃度以下となる。

 なお、廃ガス管系に設けられた放射線監視モニタおよびスタック内のモニタによって十分な監視を行なうこととしている。

(2)液体および固体廃棄物
 安全対策の項で述べたように、液体廃棄物の船外放出および固体廃棄物の船外投棄は行なわないことになっている。

3.2 附帯陸上施設
(1)気体廃棄物
 附帯陸上施設における諸施設で発生する気体廃棄物はその量が少なく、周辺監視区域外で、その許容濃度を十分に下まわり、問題はない。

 なお、燃料交換作業に伴ない、原子炉の冷却系の諸タンク気相部に貯った気体廃棄物の放出にあたっては、希釈して周辺監視区域外の許容濃度以下として放出することになっている。

(2)液体および固体廃棄物
 附帯陸上施設において液体廃棄物は凝集沈澱、イオン交換、蒸発濃縮等で処理され周辺監視区域外の許容濃度以下のものはその濃度を確設したうえで所外へ放出される。濃縮液は原則として固化し、固体廃棄物と同様にすべて貯蔵される。

4. 各種事故の検討
 本原子炉施設に関して、発生する可能性のある船体事故、原子炉事故、および附帯陸上施設における事故について検討した結果、それぞれ次のように対策がなされており、本原子炉施設は、十分な安全性を確保し得るものであると認める。

4.1 船体事故
 本船は、安全対策で述べたとおり、衝突、座礁等の海難事故に対して十分対策がなされるとともに、このような海難事故による衝撃に対しても原子炉施設は必要な機能を失なうことなく、また一般公衆に放射線障害を与えるような原子炉事故は発生しないものと認められる。

(1)衝突
 本船には、原子炉区画の外側に耐衝突構造が設けられ全世界の船舶のほとんど全部に対して原子炉格納容器が安全なように防護している。

 したがって解析の結果によれば、他の船舶が衝突して原子炉室の側部に食い込み原子炉施設の主要な部分を破損し、一般公衆に対し、放射線障害を与える大きな原子炉事故を誘発する可能性はほとんどない。

 また、周辺の人口密度の比較的大きいと考えられる港内においては、すべての船舶は減速して航行しているので、危険な衝突により周辺公衆に災害を与えるようなことは全くないと認められる。

 なお、耐衝突構造の設けられていない部分に衝突された場合についても、原子炉の安全確保のために最小限必要な機器は多重化されており、適切な措置をとることができる。

(2)座礁
 本船には、原子炉区画の下部に、耐座礁構造が設けられているので、仮りに座礁しても、原子炉区画に影響を及ぼすことはない。

 座礁によって海水の取水が全く不能となることは考えられないが、万一不能の場合でも、非常用水槽の水を用いて原子炉の安全確保のために必要な措置が講じられる。

(3)その他
 本船は2区画可浸制になっているので沈没する可能性は殆んどないが、仮に沈没しても、格納容器は圧力平衡弁の作用で圧潰されず、したがって放射性物質が格納容器外へ放出されることはない。

 また、予想される火災事故についても十分な安全対策がなされている。

4.2 原子炉事故
4.2.1 反応度事故
(1)起動事故
 原子炉起動時に、運転員の誤操作または機器の誤動作により自動制御投入中の制御棒2本の連続的に引抜かれる事故について、冷態起動の場合と温態起動の場合について検討した。

 冷態起動事故の場合には、正の反応度の添加にともない、原子炉出力は増大し、30%出力で高中性子束スクラムによってスクラムが作動し、以降中性子束レベルは急速に減少する。

 一方、温態起動事故の場合も同様に正の反応度の添加にともない原子炉出力は増大するが、炉はスクラムせず最終的には約70%出力に落ち着く。

 いずれの場合にも、燃料被覆の破損することはない。

(2)出力時制御棒抜出し事故
 原子炉の出力運転中に運転員の誤操作または機器の誤動作により自動制御投入中の制御棒2本が抜け出す事故について、100%出力運転時および18%出力運転時について検討した。

 100%出力運転時の制御棒抜出し事故の場合には、制御棒が抜け出すと正の反応度が添加され原子炉出力は増大し、高中性子束スクラムまたは高温スクラムにより原子炉は停止される。

 また、18%出力運転時の制御棒抜出し事故の場合には、高温スクラムまたは低圧スクラムにより原子炉が停止する。

 したがって、出力時制御棒抜出し事故においては高中性子束スクラム、高温スクラムおよび低圧スクラムのいずれかによって原子炉は停止し、原子炉は何ら損傷をおこすことなく十分に保護される。

(3)ダンプ弁全開事故
 原子炉を全出力で運転している時に、運転員の誤操作または機器の誤動作によって蒸気ダンプ弁が全開されると、原子炉は過負荷状態となるが、高中性子束スクラムによって炉はスクラムされ、原子炉は何んら損傷をうけることなく十分保護される。

(4)給水弁全開事故 原子炉を全出力で運転している時に、運転員の誤操作または、給水制御系の誤動作によって、給水弁が全開され、給水流量が増大すると、原子炉は過出力状態となるが、1次系諸量の変動は小さく原子炉はスクラムされることなく、運転を継続できる。

4.2.2 機械的事故
(1)主蒸気管破断事故
 主蒸気管が破断すると、原子炉は過負荷状態となり、一時は原子炉出力を上昇させるように制御系が働くが、主発電機への蒸気の供給がなくなり、電源は喪失し、1次冷却水ポンプの流量低下にいたり、低流量スクラムによって原子炉は停止される。

 この間炉心内の燃料の損傷は起らない。

 なお、放出される蒸気には、放射性物質は含まれない。

(2)蒸気発生器細管破損事故
 蒸気発生器細管の破損により1次冷却水が2次系へ流入すると、ブロー・ダウン、サンプル、ラインに設けられた放射線モニタにより事故を検出できる。

 蒸気発生器細管1本の完全破断に仮定すると、1次冷却水の量が異常に減少し、加圧器の水位が低下し、さらに圧力が低下して、この同時信号で原子炉はスクラムされる。

 このとき2次系へ流出する放射性物質が、スタックから放出されても、その量は少いので支障がない。

(3)1次冷却水流量喪失事故
 原子炉運転中に電源喪失あるいは運転員の誤操作によって、1次冷却水ポンプが2台同時に停止した場合、1次冷却水低流量スクラムまたは1次冷却水ポンプ電源喪失スクラムにより原子炉は停止し、系の慣性により1次冷却水流量は急激には減少しないので、燃料被覆が破損することはない。

 1次冷却水ポンプ1台停止の場合には、スクラムする必要はなく、停止ループの流量低信号により原子炉出力は約50%出力に低下され、燃料被覆が破損することはない。

(4)1次冷却水喪失事故
 1次冷却系主配管が破断すると、1次冷却水圧力は急激に低下し、同時に加圧器水位も低下し、非常炉心注水信号により非常用注水設備が作動し、さらにスクラムにより原子炉は停止し、燃料の過熱をおさえる。

 また、1次冷却水の流出にともない格納容器内圧は上昇するが、設計圧力をこえることはない。

 なお、格納容器スプレ設備が作動し事故の内圧の上昇をおさえている。

 この事故により、焼料被覆の一部が破損しても燃料から放出される核分裂生成物は、その量が僅かで、まず格納容器内に保留される。

 格納容器から原子炉室へ漏洩したものは、スタックへ導かれる前に緊急用フィルタで濾過される。

(5)その他の事故
 制御棒駆動装置の故障、給水喪失、主復水器真空の喪失、電源喪失等があっても、いずれも十分な対策がなされている。

4.3 附帯陸上施設における事故
(1)燃料取扱い事故
 燃料交換キャスクは堅牢に設計されているので燃料交換作業中に万一鋼索の切断または脱落により落下した場合でも、キャスクが破壊することはない。

(2)その他の事故
 電源喪失事故、岸壁クレーンの故障、放射性廃棄物移送時の事故および火災に対しては、十分な対策がなされている。

5. 災害評価と離隔距離
 本船は、すでに述べたように、種々の安全対策が講ぜられており、かつ、各種事故についても検討の結果安全を確保しうるものと認めるが、さらに、「原子炉立地審査指針」に準じて、重大事故および仮想事故を想定して、種々の離隔距離について、停泊場所、遠隔びょう地仮泊場所ならびに沿岸航行および狭水路通過に関し検討した。

5.1 事故対策
 原子力船の事故対策としては、港の環境状況、原子炉事故の規模、船の引き出し時間等から判断して、合理的に容認される場所を停泊場所遠隔びょう地等として選定することが必要である。

 すなわち、仮りに停泊中に原子炉事故が発生した場合、一定時間内に船が引き出されるとしても停泊場所の周囲の公衆に放射線障害を与えないことが必要であるので、停泊場所の周囲のある範囲は管理可能な地帯(管理地帯)内に、また、その外例のある範囲は、原則として人の居住しない地帯(非居住地帯)内になければならない。

 事故を起した船を引き出し長時間係留される遠隔びょう地については、その周囲の公衆に放射線障害を与えないことが必要であるので、遠隔びょう地の周辺のある範囲は、原則として人の居住しない地帯(非居住地帯)内に、また、その外側のある範囲は、公衆に著しい放射線災害を与えないために適切な措置を講じうる環境にある地帯(低人口地帯)内になければならない。

5.2 事故想定
 陸上炉と異なり、原子力船は船を停泊場所から引き出すことにより被曝時間を限定することができる。

 この被曝時間に基づき被曝線量を計算するので、船の引き出しが確保されることは重要な条件である。

(1)重大事故
 重大事故としては、原子炉容器に接続している1次冷却系の種々の大きさの破断について検討したが、破断寸法最大のものが最大事故をもたらすことが明らかとなったので最大口径の配管1本が原子炉出口ノズル附近で瞬間に破断し破断口の両端から1次冷却水が放出される事故について解析した。

 なお、事故は原子炉を100%出力で、10,000時間運転後に発生するものと仮定する。

 解析の結果では、二酸化ウランの溶融点に達する燃料はない。また、燃料被覆材最高温度は1,370℃程度であって溶融点には達しないが、燃料被覆の破損が予想されるので、燃料の1%の溶融に相当する核分裂生成物が放出されるものと仮定する。

 なお、原子炉格納容器内の圧力は放出された1次冷却水により、急上昇するが、設計圧力をこえることはなく、事故後約2時間で、内圧は2気圧程度まで減少する。

 そこで、核分裂生成物の放散過程に従って次の仮定を用いて、必要な離隔距離を計算しているが、その仮定は妥当である。
①被覆管の破損した燃料要素からは、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス1%、よう素0.5%、固体核分裂成生物0.01%、相当分が格納容器内に放出されるものとする。

②格納容器内に放出されたよう素のうち50%は、格納容器壁面に吸着されるものとする。
 原子炉室に漏洩したものは、原子炉室内に付着あるいは沈着しないものとする。

③格納容器からの漏洩率は、事故の継続期間中1.2%/dayとする。

④格納容器内からの漏洩物は、緊急フィルタを通してスタックから大気中に放出される。 そのフィルタの除去効率はよう素に対して、90%をとる。
 希ガスに対しては、除去効果は考えない。

⑤大気中への拡散に用いる気象条件は、放出の高さ0、風速1m/sec気象安定度F型および拡散幅30°とする。

⑥事故直後における船の引き出しは、停泊場所については、必要に応じ引船あるいは補助動力によって2時間以内に行なわせることが十分可能であるが、異常な環境のもとで移動させることを考え被曝継続時間を6時間とする。
 遠隔びょう地については被曝継続時間を30日とする。
(2)仮想事故
 仮想事故としては、重大事放と同じ事故について、非常用注水設備の効果を無視して、炉心内の全燃料が溶融したと仮想する。

 なお、格納容器の圧力は、ほぼ重大事故の場合と同様の経過をたどり、事故後2時間で2気圧程度まで減少する。

 そこで、核分裂生成物の放散過程に従って、次の仮定を用いて、必要な離隔距離を計算しているが、その仮定は妥当である。
①燃料は100%溶融し、全炉心に内蔵されている核分裂生成物のうち、希ガス100%、よう素50%、固体核分裂生成物1%が格納容器内に放出される。

②格納容器内に放出されたよう素のうち50%は、格納容器壁面に吸着されるものとする。
 原子炉室に漏洩したものは、原子炉室内に付着あるいは沈着しないものとする。

③格納容器からの漏洩率は、事故秒継続期間中1.2%/dayとする。

④格納容器内からの漏洩物は、緊急用フィルタを通って、スタックから大気中に放出される。
 そのフィルタの除去効率は、よう素に対して90%をとる。
 希ガスに対しては、除去効果は考えない。

⑤大気中への拡散に用いる気象条件は、放出の高さ0、風速1m/sec気象安定度F型および拡散幅30°とする。

⑥停泊場所については、被曝継続期間を24時間とする。
 遠隔びょう地については、被曝継続時間を30日とする。
 なお、沿岸航行および狭水路通過については、通過時間を考慮して、有効な被曝継続時間をとることとする。
5.3 停泊場所に対する離隔距離
 停泊場所については、重大事故の被曝線量の推定値が、めやす線量、全身25レムまたは、甲状腺(小児)150レムとなるような地点は、管理可能な地帯(管理地帯)内になければならない。

 また、仮想事故時の被曝線量の推定値が、めやす線量、全身25レムまたは甲状腺(成人)300レムとなるような地点は、原則として人の居住していない地帯(非居住地帯)内になければならない。

 以上の考え方に基づき解析結果から判断すれば停泊場所から管理地帯の境界までに必要な離隔距離は、50mとなる。また、停泊場所から非居住地帯の境界までに必要な雑隔距離は250mとなる。

5.4 遠隔びょう地に対する離隔距離
 遠隔びょう地については、重大事故時の被曝線量の推定値がめやす線量全身25レムまたは甲状腺(小児)150レムとなるような地点は、非居住地帯内になければならない。

 また、仮想事故時の被曝線量の推定値がめやす線量全身25レムまたは甲状腺(成人)300レムとなるような地点は、低人口地帯内になければならない。

 以上の考え方に基づき、解析結果から判断すれば遠隔びょう地から非居住地帯の境界までに必要な離隔距離は、250mとなる。
 また、遠隔びょう地から低人口地帯の境界までに必要な離隔距離は750mとなる。

5.5 仮泊場所に対する離隔距離
 一般に仮泊場所には引船の用意はないが、補助動力で船を移動させることを考慮すれば、仮泊場所の要件は停泊場所の場合とほとんど同じであると考えられるので、仮泊場所から陸岸までに必要な離隔距離は250mとする。

 なお、仮泊する場合には、その近くには遠隔びょう地の要件を満たす場所のあることが必要である。

5.6 沿岸航行時および狭水路通過時の離隔距離
 沿岸航行中または狭水路通過中に仮想事故を起して、補助動力により移動している場合に、陸岸の公衆に放射線障害を与えないことが必要である。

 船が移動中、有効な被曝時間における被曝線量の推定値が、めやす線量全身25レムまたは甲状腺(小児)150レムとなるような地点は陸岸に含まれてはならない。

 気象に関する仮定は、5.2(2)⑤とし、風向については、常に陸岸上の1点に向うとして評価を行なった。

 以上の仮定によって計算された解析結果から判断して、陸岸から船までの離隔距離は特に考慮する必要はない。

5.7 事故時船員等の被曝
 仮想事故時に、原子力船を停泊場所から遠隔びょう地に移動させるために必要な作業中の本船乗組員および引船船員の被曝量の推定値は、異常環境の場合でも甲状腺被曝でそれぞれ最高27レム程度および13レム程度である。

 これらの値は緊急作業に特に支障を与える線量ではなく、したがって、十分、引き出し作業が期待できるので原子力船の停泊場所からの引き出しは確保できるものと認められる。

 航海中に仮想事故を起し、補助動力により航海を続ける場合の従事者およびその他の者の被曝線量の推定値は甲状腺被曝でそれぞれ12レム程度および5レム程度であり、支障のないものと認められる。

5.8 国民遺伝線量に対する影響
 上記の種々の離隔距離がとられるならば、管理地帯および非居住地帯以遠については、人口密度30,000人/km2という人口分布を仮定して停泊場所における24時間の被曝継続時間で考えた全身被曝線量の積算値の推定値は、5.5万人レムであ
る。

 次に遠隔びょう地における推定値は、7.8万人レムである。

 合計値13.3万人レムは立地審査指針に示された値200万人レムに比べて小さいので容認されるものと考えられる。

 なお、この計算に用いた人口分布は、日本の主要な港に当てはめてみて安全側にあるものと認めて差し支えない。

5.9 入渠
 本船の入渠は、原子炉が冷態停止の状態で行なわれるので、重大な原子炉事故が発生することは、全く考えられない。

 したがって、入渠に関しては、在来船と全く同じであり、特別な考慮を必要としないものと認める。

5.10 附帯陸上施設に関する災害評価
 燃料交換作業中に、燃料交換キャスクが落下した場合を想定して、次の仮定を用いて線量を計算しているが、その仮定は妥当である。
①燃料交換キャスクの落下は原子炉を100%出力にて
 10,000時間運転し、停止してから10日後に発生するものとする。

②燃料交換キャスクは破壊することはないが、気密性が悪くなり、燃料棒の自由空間中の気体状核分裂生成物の全量が大気中へ放出されるものとする。

③敷地外の一般公衆への影響については大気中への拡散に用いる気象条件を地上放散、風速0.5m/sec、気象安定度F型および拡散幅10°とする。
 以上の解析の結果、附帯陸上施設の境界約100mにおける線量は立地指針のめやす線量より十分小さく安全は確保される。

 また、緊急作業にかかわる従事者の被曝線量についても検討したが、緊急作業にかかわる計画線量より小さく作業に支障はないものと認められる。

6. 技術的能力
 申請者は各方面の長年にわたる原子力船に関する調査ならびに研究の結果を結集して、原子力船建造の準備を行なってきている。

 原子力第1船の建造および原子炉の運転には、約90名の技術者があたることになっており、これらの技術者については、日本原子力研究所または放射線医学総合研究所に派遣するなど、技術的能力の確保を計っている。

 原子力第1船の建造は、石川島播磨重工業(株)があたることになっており、同社は長年にわたり日本原子力船研究協会、日本造船研究協会等に参加して原子力船に関する調査、実験を行なって原子力船の設計および建造の技術的能力を高めており、また、原子力第1船を建造するのに十分な設備能力を有している。

 本船に搭載する原子炉の製造は、三菱原子力工業(株)があたることになっており、さらに、原子炉全般にわたる運転、保守、燃料取替計画等については、同社の指導訓練を受けることとなっている。

 これらの点から原子力船を建造するために必要な技術的能力および原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

 Ⅲ 審査経過

 本審査会は、昭和42年4月12日、第47回審査会において、次の委員よりなる第32部会を設置した。
 内田 秀雄 (部会長)  東京大学
 芥川 輝孝 42.7.24まで  運輸省
 佐藤 美津雄 42.7.25より    〃
 安藤 良夫  東京大学
 折原  洋  航海訓練所
 川崎 正之  日本原子力研究所
 川瀬 二郎  気象庁
 左合 正雄  東京都立大学
 都甲 泰正  東京大学
 浜田 達二  理化学研究所
 原  三郎  日本海事協会
 弘田 実弥  日本原子力研究所
 牧野 直文      〃
 元良 誠三  東京大学

 同部会は、昭和42年4月24日、第1回会合を開き、審査方針を検討するとともに、船体、運航グループ、原子炉、機関グループ、環境グループを設置して、審査を開始した。

 以後、部会および審査会においては、次表のように審査を行なってきたが、昭和42年10月23日の部会において部会報告書を決定し、11月15日、第52回審査会において、本報告を決定した。

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