再処理安全調査団報告


 日本原子力研究所は、東海研究所に再処理試験施設の建設を行ない、ホット運転の準備を行なっている。
 一方、原子燃料公社は、昭和45年に再処理工場の運転を開始することを目標に、その建設準備を行なっている。原子力委員会は、これら再処理施設の安全性に係る審査を行なうため、昭和39年5月再処理施設安全審査専門部会を設置した。同専門部会は、昭和39年8月以来、両施設の設置者から提出された資料に基づき安全審査を行なっている。これらの安全審査に資するため、原子力委員会は昭和40年4月海外に調査団を派遣した。
 調査団は昭和40年4月末から1ヵ月間にわたって、ヨーロッパおよびアメリカにおける再処理施設ならびに監督機関13ヵ所を訪問し、40年8月各訪問先での視察または討議した事項をとりまとめて原子力委員会に報告した。本報告書は、第1部総論、第2部各論および第3部資料等からなっている。
 調査団の調査事項、調査団の構成、訪問先等および報告書総論は次のとおりである。

1.調査事項

(1)敷地選定にあたって考慮すべき安全上の因子と立地の実際

(2)試験放出の考え方、実施方法および試験結果の評価と対策

(3)安全管理の実際

2.調査団の構成

 左合 正雄  東京都立大学教授
   (団長)   再処理施設安全審査専門部会専門委員
 伊沢 正実  放射線医学総合研究所化学研究部長
          再処理施設安全審査専門部会専門委員
 丸山 正倫  原子燃料公社安全管理室長
 宮永 一郎  日本原子力研究所安全管理室長
 大沢 弘之  科学技術庁原子力局原子炉規制課長

3.訪問先等



再処理調査団報告書
総論

 この総論は、本調査団に与えられた(1)敷地の選定、(2)廃棄物の放出、および(3)安全管理に関する調査結果の総括である。訪問先の視察ならびに討議の具体的内容は第2部に譲る。

1.敷地の選定
 マルクール工場およびハンフォード工場はプルトニウム生産事業所内に、アイダホ工場は原子炉実験場内に設置されている。ウインズケール工場はコールダーホール発電所に隣接しており、ユーロケミック工場はベルギー原子力研究所に隣接して建設されている。オークリッジ再処理施設は同研究所敷地内に設置されており、カールスルーエの施設は同研究所に隣接して建設が予定されている。
 ラアーグ工場とニュークレア・フュエル・サービス社工場においては、再処理施設だけが単独に建設されている。
 以上のように再処理施設はその設置の目的によって、他の原子力施設と密接な関連をもって建設されているところもあり、また単独に建設されているところもある。これらの諸施設を種々の観点から調査して得られた結論は、大量の低レベル廃液を環境に放出する再処理施設の敷地選定について、特に原子炉施設の敷地選定と違った考え方や立地基準を見出すことはできなかったといえよう。
 低レベル廃液をウインズケール工場では海洋放出しており、ラアーグ工場においても、海洋放出が考えられている。マルクール工場およびオークリッジ再処理施設は河川放出しており、カールスルーエ研究所、ユーロケミック工場、ニュークレア・フュエル・サービス社工場も河川放出を考えている。またアイダホ、ハンフォード両工場においては地下浸透をおこなっている。その他地震・台風・洪水等についての知見は得られなかったが、気象条件、地下水位、敷地の広さ、人口分布、他の原子力施設の集中、使用済燃料の輸送、航空機の墜落等に対する考え方についても調査した。
 すなわち、現在のところでは、原子炉施設と同様、再処理施設も周辺の人口密度があまり高くないところに敷地を選定し、立地条件だけにその安全性を依存することなく施設の設計をしてはいる。
 再処理施設においては大量の廃棄物の処分に関し特に環境条件を十分考慮に入れてその運営管理の方法を決定し、平常時ならびに事故時に安全が確保できるように処置している。

2.廃棄物の放出
 再処理施設からの放射性廃棄物のうち、低レベルの廃気・廃液はいずれの施設においても環境に放出される。その廃棄方法は、特に廃液の場合、今回視察した施設によってそれぞれ異なっている。すなわち、その施設が海岸にある場合には海洋へ放出し、内陸で河川に近い場合にはこれに放出するが、敷地が広大でしかも地下水位の低い場合には地下浸透をおこなっている。敷地の環境の特殊性を十分調査検討した上で、施設ならびに敷地内外の人に対して国際的あるいは国内的に定められている最大許容線量を越えることのないように配慮されている。
 最大許容線量としては各国とも原則として国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の値を採用している。これに示されていないものについては各国の規則や勧告、例えばイギリスにおける英国医学研究協議会(MRC)報告とかアメリカにおける連邦放射線協議会(FRC)報告に準拠して各施設ごとに考慮が加えられている。
 最も重要な核種の1つであるI−131については、ICRPにおいては甲状腺に対する被曝の最大許容線量を30レム/年、すなわち一般の体内器官に対する値の2倍にしており、最大許容濃度もこの値に基づいて計算されているが、ユーラトムにおいてはこの2倍というファクターを廃止し、15レム/年を採用していることが注目された。
 廃気の処理について特に興味深かったのは、ユーロケミック工場およびハンフォード工場におけるヨウ素の除去とアイダホ工場における高レベル廃液の固化処理に伴うルテニウムの除去であった。
 低レベル廃液を海洋放出する場合には、施設の運転開始数年前から強力な総合的体制のもとに廃液の放出予定地点付近の海域における大規模な海洋調査、拡散実験を行なって廃液の放出点を決定するとともに、拡散係数、希釈度等を把握する。この拡散実験には、各国ともすべて染料を使用している。フランスにおいては、海岸模型による実験もおこなっている。これらの研究調査と並行して付近の漁業、住民の食生活等を広範にわたって詳細に調査するとともに、アイソトープを使用しての水槽実験によって水産物・泥土等への放射性物質の濃縮を研究している。これらの調査研究から付近住民の内部および外部被曝を推定し、放射性物質の放出限度を算出している。
 ウインズケールの再処理施設の運転開始に当っては、廃液の放出量が放出基準を十分に下回っている段階から既に組織的なモニタリングをおこない、安全を確かめながら逐次放出量を増加している。この放出量はその都度権威ある機関の許可を受けている河川放出についても海洋放出の場合とほぼ同じであるが、河川流量の変化も考慮に入れている。下流における河川の利用、例えばその河水が飲料水や濯漑用水に利用されている場合には特に慎重な処置が講ぜられている。
 なお、高レベル廃液は現在タンクに貯留されているが、これは潜在的な危険性もあり、不経済なので、各国ともその固化処理技術の開発に力を入れている。

3.安全管理
 安全管理については各施設において統一的な見地から質疑をかわす時間的な余裕がなく、また本調査団のために用意されたスタッフが必ずしも安全管理の専門家でない場合が多かったので、十分意がつくせなかった。 以下再処理施設だけでなく、短時間ではあったが見学のできた他の施設をもふくめた断片的な印象について述べる。
 管理区域の設定については、ウインズケールとアイダホの工場では施設間の道路をも含めた広大な区域を管理区域として柵でかこみ出入場所を一ヵ所にまとめて管理をおこなっている。放射線区域や汚染区域は4〜5種にそのレベルを分類し、それぞれ色分けした標識を用いているところが多かった。
 ハンフォードのPu燃料加工工場では空気の流れを天井から床へ流し、表面汚染の空気汚染への移行をおさえている。
 再処理施設における臨界防止については、アメリカ、イギリス、フランスにおいて多少形式の相違はあるが、これをあらかじめ設計段階で検討する組織をもっている。すなわち、各施設ごとに委員会をもち臨界一般を取扱っていることが多いが、フランスではCEAの下にある原子力施設安全委員会の1つが臨界に関する委員会であって、設計計算や実験による審査をおこなっているようである。また各施設における臨界監視の計測器の開発、事故の発見および対策も積極的に考慮されている。
 外部被曝、内部被曝の管理は原子炉など他の施設の場合と特にかわった点はなかったが、マルクール工場では線量率によって作業許可をあたえる責任者を定めたり、1回の作業による被曝限度(通常50mrem)を規定するなどして、高放射線量率下での作業の被曝管理に積極的な努力をしている。また内部被曝(身体汚染をふくむ)についても、マルクールの医務部は身体除染用として現在考えうるあらゆる設備や薬剤を用意しているのが印象的であった。
 廃棄物の処分にともなう環境のモニタリングについては各施設ともきわめて広範な区域を綿密に調査して安全を確かめている。例えば低レベル廃液を海洋放出しているウインズケールでは北はスコットランド沿岸から南はウェールズ沿岸まで東西100km、南北150km内の海水のサンプリングをおこなっている。また河川放出をおこなっているマルクール、ハンフォードにおいても下流100km程度までの河川水、泥土、魚、その他放射線障害に関係するあらゆる試料のモニタリングをおこなっている。地下処分をおこなっているアイダホ工場においては、敷地内はもちろん敷地外も東西300km、南北200kmの広大な区域のモニタリングを実施している。一方採取する試料や採取点の数はたえずモニタリングの結果を分析検討することによって最も効果的な監視がおこなえるように整理している。
 環境のモニタリングについては、施設の設置だけでなく、適当な第三者的機関、すなわちイギリスにおいては建設・内務省や農業・水産・食糧省、フランスにおいては厚生省、アメリカにおいては原子力委員会所属の出先機関が独立に試料の採取、または分析をおこない、環境の安全に関し責任をもってその掌にあたっている。
 放射線障害の研究については、マルクール、ハンフォードの関係研究室を見学するにとどまったが、放射線防護の基本問題である生物に対する放射線の影響に関する研究が、アメリカ、イギリス、フランスとも大規模な研究計画のもとに推進されている。