原研東海研究所原子炉施設の
変更に係る安全性について



 原子力委員会は、内閣総理大臣から日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更2件(高速炉臨界実験装置の設置、材料試験炉臨界実験装置の制御棒模擬要

素の追加等)に係る安全性について、それぞれ40年3月24日、6月29日付をもって、諮問され審査を行なったところ、以下次のように、いずれも安全上支障がない旨答申した。

〔1〕日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性について(高速炉臨界実験装置の設置)(答申)

(昭和40年9月20日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(高速炉臨界実験装置の設置)に係る安全性に関し、同研究所が提出した書類「高速炉臨界実験装置FCAの設置」(昭和40年1月20日付書類および6月29日付訂正書類)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

〔別添〕

原子炉安全専門審査会の報告

(昭和40年8月12日付)

I 審査結果
 日本原子力研究所が、高速炉に関するデータを求めるため、東海研究所に設置しようとする熱出力最大100Wの高速炉臨界実験装置に関し、同研究所が提出した書類「高速炉臨界実験装置FCAの設置」(昭和40年1月20日付書類および6月29日付訂正書類)に基づいて審査した結果、本装置の安全性は十分確保しうるものと認める。

II 審査内容
 1 設置計画の概要
 FCAは、東海研究所の軽水臨界実験装置(TCA)の南側約60mに設置することとし、次のように計画されている。

(1)装置
 FCA本体は、炉心を形成するための格子管集合体と、それを載せるテーブルで構成され、2重の格納容器に納められる。
 格子管集合体は、同じ大きさに2分割され、各1/2格子管集合体は4角の格子管(ステンレス鋼製、寸法は、およそ5cm×5cm、長さ132cm)を35行×35列に積重ね、テーブルに取付けた締付け枠で固定される。
 各格子管には、実験計画に従って、燃料板および模擬板(構造材、冷却材等)をつめた引出し(ステンレス鋼製、長さ約66cm)が挿入される。本装置に使用される核燃料は、20%濃縮ウラン最大約650kg(U−235)、天然ウラン最大約30tonである。なお、ブランケット部の天然ウランは、引出しにつめず、ブロックの まま使用されることがある。
 制御安全棒は、前述の引出しとほぼ同じものである。正・負の反応度は、吸収材の場合とは逆に、この引出しを炉心へ挿入し、または引抜くことによってえられる。制御安全棒は、各1/2格子管集合体に少なくとも4本ずつ設けられ、制御棒あるいは安全棒として使用される。駆動は、通常時がモータ、スクラム時が圧 縮空気によって行なわれる。
 テーブルは、固定テーブルと移動テーブルからなる。移動テーブルの送りは、ネジ、ラック方式で臨界接 近時の速度は、距離により3段切換(高速300mm/min、中速150mm/min、低速15mm/min)、後退時は単一速度(760mm/min)である。臨界は、原則としてテーブルを密着し、制御棒を挿入することによって行なわれ る。
 核計測装置としては、起動系、線型出力系、対数出力および炉周期系ならびに安全系が各2チャンネル設けられる。
 その他、所要の排気、排水系統、放射線管理施設が設けられる。しかし、FCAは、100W以下で運転されるため、冷却系統施設は設けられない。

(2)特性
 FCAでは、次の範囲で実験が行なわれる。

(i)制御安全棒効果

  全制御棒  0.5%  △k/k以上
  全安全棒   2%  △k/k以上
  これらは、何れも炉心から引抜いたときの反応度抑制効果である。

(ii)超過反応度
  両テーブルを密着して、制御安全棒を全部挿入したとき
      0.6%    △k/k以下
  ただし、間隙効果等を測定するため、両テーブルを密着せずに臨界とする実験を行なうときには両テーブルの間に鋼板をはさみ、鋼板を介して密着したときの超過反応度が上記の値をこえないようにする。
 この鋼板は、十分な強度を有する厚さ1cm以下のものとし、ねじ止めにより装着することとしている。

(iii)体系の未臨界度
  両テーブルを密着して、安全棒を全部挿入し、制御棒を全部引抜いたとき
    0.5%    △k/k以上

 未臨界度の制限を設けたのは、例えば、超過反応度が0.6% △k/k、全制御棒効果が0.5% △k/kのと き、安全棒を全部挿入してテーブルを密着すれば、臨界超過となるからである。

2 安全対策
  FCAの安全対策は、次のように計画されており、妥当なものと認める。

(1)障害対策

(i)放射線遮蔽
  FCA本体は、1次容器(厚さ約100cm)、2次容器(厚さ約40cm)の2重の鉄筋コンクリート構造物で遮蔽される。
 FCAの運転は、年間10kWhをこえることとはないと予想されるが、10kWhの場合、2次容器外表面における年間積算線量の試算値は、約4remとなっている。制御室は、2次容器から離れているので、この線量よりかなり低くなると推定される。運転に際しては、十分な広さの管理区域の設定ならびに他の施設におけると同様適切な従事者の放射線管理を行ない、必要あれば運転規制も行なうこととしている。

(ii)廃棄物処理
 排気系は、炉室と他の室でそれぞれ独立している。炉室は、運転中バタフライバルブで閉鎖し、排気を行なわない。運転停止後、必要があれば放射性気体の減衰をまつことにしている。
 FCAには、冷却水系統がないので、炉室からの排水はないが、研究室等からの放射性汚染排水は、廃液タンクに貯留し、モニタの上、廃棄物処理場または一般排水系へ送られる。
 また、FCAでの放射性固体廃棄物の発生は少ないが、発生した場合は廃棄物処理場へ送られる。

(2)安全設計
 FCAには、特に次のような安全設計を採用している。

(i)FCAの本体は、水平2分割型の集合体であるので、両集合体を分離することは、大きな負の反応度効果を与えることになる。

(ii)制御安全棒は、反応度効果の一番大きい炉心中央部から作動する。

(iii)燃料板は、引出しの中につめられ、万一高中性子束による温度上昇があったときには、燃料板の膨脹により核反応が抑えられるよう、ウランの異方性を考慮し、適当な方向に並べえられる。

(iv)格納容器の1次容器は、耐爆構造、2次容器は気密構造の設計となっている。これは、何れも水平0.6、垂直0.3震度の地震力が加っても安全であるように設計されている。また、機械構造物、機器類に対しても上記と同様の設計になっている。

3 事故評価
 前述のようにFCAの安全対策としては、妥当なものと認められるが、事故評価としては、次のように重大事故および仮想事故を想定し、解析している。この事故評価は妥当なものと認める。

(1)重大事故
 最小寸法の高速炉心系において、間隙効果測定を行なっている場合、1cm離れて臨界状態にあるとき、次のような事態が発生したと想定している。

(i)テーブルの近接を防止するための鋼板を装着していない。

(ii)後進のスイッチを押すべきところを誤って前進のスイッチを押す。

(iii)移動テーブルの中、低速切換のリミットスイッチが故障して、低速区間を中速前進する。

(iv)ピリオド・トリップは、作動しない。

(v)高レベル・トリップは、出力が10kWにならなければ、作動しない。
 以上の誤りの重なりによって、大きな割合で反応度が挿入され、系は即発臨界に達し、中性子束が急激に上昇しはじめる。しかし燃料板の膨脹による負の反応度係数によってある中性子束レベルに抑えられ、そのうち高レベル・トリップの作動によって、安全棒が抜け、移動テーブルが停止して、核的事故は終る。
 この場合、考えられる反応度挿入速度の2倍を想定しても、燃料板は、溶融、発火に至らない。、しかも2次容器外表面における外部被曝線量の試算値は約2remに過ぎず、従業者に対しても、障害をもたらすものではないと認める。

(2)仮想事故
 FCAは、高速炉系であるために未経過の要素が多少あることを考慮して、特に仮想事放についても解析している。
 最大寸法の高速炉心系において、何れの制御安全系統も作動せず、核的事故により炉心全体が溶融したと 最初から想定し、つづいて再臨界事故が起ると仮定している。
 以上の事故を、すべての条件が事放規模を大きくするように仮定した解析結果によると、再臨界事故の際が運動エネルギーは、TNT約10kgの爆発に相当する。また温度上昇にともなう圧力上昇は、溶融金属の酸化 を防ぐための不活性ガス注入にともなう圧力上昇を含めて、約1.2kg/cm2Gである。これに対し、1次容器は TNT約100kg相当の爆発に対する耐爆設計となっている。この設計のため昨年7月耐爆実験を行なっている。また、2次容器は、温度上昇を考慮しても、1.6kg/cm2Gの圧力に対して安全であるように設計されており、 1.6kg/cm2Gのときの漏洩率は、2%/day以下になるようにすることとしている。
 この場合の外部被曝線量の試算は、敷地境界で約2remとなっており、公衆に災害をもたらすものではないと認める。

4 技術的能力
 FCAの設置および運転は、東海研究所の高速炉物理研究室が中心となって進められる。室員は、東海研究所における既設の原子炉および臨界実験装置の建設に相当の経験を有するものが中心となって構成されている。また、室員には海外(米国ANL、フランスCadarache)における高速炉系の炉物理実験に経験のあるスタッフも含まれる。
 FCAで行なわれる実験については、日本原子力研究所内に設けられている原子炉等安全審査委員会を経て、東海研究所長が決定する操作基準および実験計画に従って行なわれる。
 以上により、FCAを設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術能力があるものと認める。

III 審査経過




〔II〕日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性について(材料試験炉臨界実験装置の制御棒模擬要素の追加等)(答申)

 (昭和40年8月27日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(材料試験炉臨界実験装置の制御棒模擬要素の追加等)に係る安全性に関し、同研究所が提出した安全審査のための書類(昭和40年6月5日付40原研51第23号)に基づき審査した結果、下記の通り本原子炉施設の変更は安全上支障ないものと認める。


I 変更事項
 1 JMTR本体の制御棒の最大数が5本から7本に設計変更になったので、制御棒模擬要素2本を炉心構成要素の一つとして追加する。
 2 粗調整棒(電動)を安全棒(手動)の位置と相互交換しても使用できるようにする。

II 審査内容
 1 制御棒模擬要素の追加
 当該制御棒模擬要素の炉心に挿入される部分は制御棒を模擬する吸収体で、かつ駆動機構のない固定要素なので、安全上支障ない。

 2 粗調整棒と安全棒の位置の変更
 粗調整棒と安全棒は全く同一の吸収体で、スクラム機構にも変更がないので、両者を相互交換して使用しても安全上支障ない。