I 審査結果
日本原子力研究所が、材料の照射試験を目的として茨城県東茨城郡大洗町に設置しようとする熱出力最大50,000kWの高濃縮ウラン・軽水減速・軽水冷却タンク型原子炉に関し、同研究所が提出した「JMTR設置に関する書類」(昭和40年1月19日付書類および6月29日付訂正書類)に基づいて審査した結果、本原子炉の安全性は十分確保しうるものと認める。
II 審査内容
1.設置計画の概要
本原子炉の立地条件および施設の概要は次のとおりである。
(1)立地条件
(i)周辺環境
本原子炉施設は、水戸市から南東約12km、涸沼と鹿島灘とのほぼ中間に設置されるが、この付近一帯は、大部分、標高30〜40m程度の起伏ある山林地帯で、一部には若干の農耕地がある。
現在、原子炉設置予定地点から最も近い民有地までの距離は約200m、民家までの距離は約1,200mで、敷地周辺の人口は、半径1km以内0人、2km以内約1,600人、3km以内約4,000人、5km以内約13,000人である。
また、周辺の比較的大きな都市および集落としては、水戸市、那珂湊市、勝田市、大洗町などがある。
(ii)地質
敷地周辺一帯の地質は、おおむね第3紀層と洪積層を基盤として、その上に不整合な段丘砂礫層が重なり、地表はうすい関東ロームで覆われている。
原子炉建家の基礎部は、深さ23m付近の非常によく締った細砂礫層に設けられ、地耐力も50t/m2以上が期待できる。
(iii)水理
敷地内の深さ60〜90m程度の部分を南西部から北東部に向かって流れる地下水がある。また、深さ10〜13mのところの地下水は、敷地の窪地に集合し、涸沼に向かって流れている。
飲料水および原子炉などの用水としては、深さ60〜90m程度の地下水を揚水して使用する。
このほか、用水源としては、付近に大谷川、涸沼川、那珂川などがあり、涸沼、北浦も大量の取水源として期待できる。
(iv)地震
原子炉の敷地周辺は、関東地方およびその付近の中で比較的地震歴が少なく、過去において建物に被害を及ぼした地震は皆無に近い。また、統計的解析によってえられる今後100年間に予期される地震の最大震度の期待値は150gal(地表)程度である。
(v)気象
敷地周辺の気象は、緯度、標高、地勢などから推察して那珂湊市、東海村などと大差ないものと思われる。那珂湊市、東海村およびその周辺の観測記録から判断すると、年間の主風は、北東および北西風が卓越しており、風速は2〜6m/secのものが最も多い。主風のうち、北西風は陸風であり、また北東風(海風)の風下20km以内には主要都市はなく、人口密度も比較的少ない。このほか、静穏の継続時間、気温の逆転現象などについても気体廃棄物放出上とくに問題となる地域ではない。
(vi)海洋
本原子炉の液体廃棄物を排水することになっている大洗敷地沖の鹿島灘一帯は、黒潮本流と親潮との混合水域で、その消長も海底地形、潮汐、河川、季節風などの影響を受けて一様でないが、おおむね東海村沖と一致すると思われるので本原子炉の液体廃棄物の放出上とくに問題となることはない。
(2)原子炉施設
本原子炉の炉心部は、濃縮度約90%の改良ETR型燃料要素、ベリリウム、アルミニウム、水の各反射体要素などからなり、ステンレス鋼製の圧力容器中におさめられる。
照射実験装置は、ループ、カプセルホルダおよびラビット管からなり、高い中性子束照射を行ないうるよう炉心構成要素の一部として燃料または反射体領域に挿入される。なお、ループについては構造、性能が未定であるのでこれらが走ったときに別途安全審査されることになっている。
一次冷却水は炉心部を上方から流下し、その圧力、温度は約14kg/cm2(炉心入口)および約58℃(炉心出口)である。圧力容器の周囲にあるコンクリート製の炉プールとこれに連なるカナルは燃料要素、照射試料、使用済燃料要素などの取扱いおよび貯蔵の際の遮蔽に用いられる。一次冷却系統には、商用電源駆動の主循環ポンプのほか常時ディーゼル電源によって駆動される小容量の補助のポンプ(緊急ポンプ)、熱交換器などがある。二次冷却系統には、商用電源駆動の循環ポンプのほか、事故時にディーゼル電源によっ駆動される非常用ポンプ、冷却塔などがある。その他の冷却系統としては、プールカナル循環系統、純水補給系統などがある。
計測設備は、中性子計測設備、プロセス計測設備、放射線監視設備などからなり、原子炉の運転に必要な各種のデータの指示を行なうほか、警報、スクラムなどの安全操作を行なう。
制御棒は粗調整棒3本、安全棒4本からなっているが、炉心の大きさに応じ、4本の安全棒のうち、2本減らして5本で運転することもある。また、自動制御を行なうときは、安全棒のうち1本を微調整棒として用いる。これらの制御棒は、炉下室に設けた制御棒駆動装置によって上下に駆動される。
原子炉のスクラム機構は、ETRと同型で、信号によって電磁石の電流が断たれると桿が移動してボールが外れ、制御棒を自重および水流力で落下させるようになっている。このほか、制御棒のバックアップとして手動の液体ポイズン注入型の非常用炉停止装置がある。
原子炉を格納する原子炉建家は、鉄筋コンクリート造りの円筒形建物で、これに連なるカナル建物とともに半気密式のバリヤを形成し、内部は、放射性核分裂生成物の漏洩を防止するため、一般換気系によって常時負圧に保たれる。このほか、原子炉建家内に核分裂生成物が放出されるような事故に備えて非常用換気系がある。
2.障害対策
従事者および原子炉敷地周辺の一般公衆に対する放射線管理の基本方針は、下記のように計画されており妥当なものと認める。
(1)放射線遮蔽
管理区域における従事者の被曝管理は、作業場所、作業内容および作業時間に応じて甲、乙、丙の3段階に区分し、100mrem/weekを基準にして行なう。なお、施設の遮蔽設計に当っては、設計、製作上の精度を考慮し、目標値として10mrem/weekを採用する。
(2)気体廃棄物
気体廃棄物の廃棄は、高さ80mの排気塔を通じて行なう。
放射性気体廃棄物の定常的放出量は、燃料要素照射試料などの小破損による核分裂生成物の量を見込んでも小さく、敷地周辺における濃度は科学技術庁告示の許容濃度を十分下回る。
(3)液体廃棄物
本原子炉からの廃棄は、その放射性物質濃度や性状を考慮して廃棄物処理場、または一般排水路へ送る。しかし、当初は大洗地区に廃棄物処理場がないので、これが、完成するまで高レベルの液体廃棄物は東海研究所の廃棄物処理場で処理する。
平常時の廃液の排出は、排水中の放射性物質の3ヵ月間の平均濃度が科学技術庁告示で定められている「種類が明らかでない放射性物質の場合の水中濃度(226Raおよび228Raが含まれない場合)の値の1/10」を越えないようにする。
(4)固体廃棄物
固体廃棄物は、プラスチックで包装し、高レベルのものはさらに放射線の遮蔽を施し廃棄物処理場へ送るが、当初は大洗地区に廃棄物処理場がないので、これが完成するまで液体廃棄物と同様に東海研究所の廃棄物処理場で処理する。
なお、放射能が、著しく高いものあるいは大型の高レベル廃棄物で処理困難なものは地下格納庫に保管する。
(5)放射線管理施設
所要個所にエリアモニタ、水モニタ、ガスモニタ、ダストモニタおよびモニタリングポストを設置するとともに、個人管理用測定器としてフィルムバッジ、γ線用ポケット線量計、熱中性子用ポケット線量計を具備する。
なお、これらの施設を用いて野外の管理を行なう際は、気体廃棄物が停滞する恐れのある敷地内外の窪地のモニタおよび回流を生じやすい付近海域のモニタにとくに注意する。
3.安全対策
本原子炉は、下記のような種々の安全対策を講じることになっているので、平常時はもちろん、技術的に考えうる各種事故に対しても十分高い安全性を有しているものと認める。
(1)安全設計
(i)固有の安全性
本原子炉は、水型炉に共通な温度およびボイドに関する負の反応度係数を有し、自己制御性をもっている。また、一次冷却水の温度は、大気圧においてさえ、沸点以下で保有エネルギーも小さく、一次冷却系配管に破損事故が起こっても内部の冷却水が急激に気化噴出する恐れがない。
(ii)実証済技術の採用
本原子炉はフェイルセイフの原則のもとに実証済技術を採用して設計製作される。
(iii)熱設計
本原子炉の熱設計は、定常時において、炉心のいかなる点においても一次冷却水に沸騰を起こさないこと。また、事故の際の過渡時においても十分の余裕をもって炉心溶損を生じないことを基準に行なっている。すなわち、原子炉を定格出力の50,000kWで定常運転した場合の最高熱流束はバーンアウト熱流束の1/3程度で燃料板表面最高温度も約200℃なので十分に余裕をもっている。また、事故の際の最高熱流束の過渡的経過もバーンアウト熱流束に対して余裕がある。
(iv)核設計
炉心の超過反応度および制御棒の反応度を次のように設計している。
(a)超過反応度を最大15%△K/Kとする。
(b)すべての制御棒を挿入した状態での実効増倍率を0.9以下とする。
(c)最大の等価反応度を有する制御棒1本を完全に引き抜いた状態でも炉を停止状態に保つことができるようにする。
(d)制御棒の引き抜きによる反応度の増加率を0.5%△K/K/sec以下にする。
以上の核設計に対して行なった動特性の解析の結果0.56%△K/Kの反応度がステップ状に付加された場合、および0.5%△K/K/secの反応度がランプ状に付加された場合のいずれにおいても、最高熱流速は、バーンアウト熱流束より低く、燃料溶損の恐れがないことが明らかにされている。
(v)耐震設計
原子炉施設の耐震設計は、敷地の地盤、最大震度の期待値、原子炉建家の構造などを参酌して次のように行なっている。すなわち、施設の重要度に応じて重要機器(圧力容器、一次冷却系配管など)は水平0.6、垂直0.3、その他の機器は水平0.4、垂直0.2、原子炉建家は水平0.3、垂直0.15、一般建家は水平0.2の震度の地震力(等価静的荷重)が加わっても安全なように設計する。このほか、建物と機器との共振を避けるため動的検討に基づいて、共振点の変更、振動防止などを行なう。
(vi)燃料要素に対する配慮
本原子炉の燃料要素には、性質が十分に解明され、国内および外国における使用実績がある改良ETR型を採用する。なお、腐蝕については本原子炉の特質上燃料を短期間で交換するので問題にならない。
(vii)照射実験装置に対する配慮
ループ、カプセルホルダ、ラビット管などの照射実験装置は、破損事故や試料の流出事故が起こらないように細心の注意を払って設計するが、万一、これらのうちの1個が事故を起こしても、これによる反応度の付加量が下記の値を越えないようなものに制限する。
(a)ループおよびカプセルホルダの試料の流出によるもの:0.5%△K/K
ラビット管の試料の流出によるもの:0.1%△K/K
(b)実験装置の破損によるもの:0.5%△K/K
また、カプセルホルダ、ラビット管および試料は、万一、それらが破損を起こしても炉心に問題となる損傷を与えないようなものに制限する。ただし、ループの破損およびそれに基づく炉心の機械的損傷などについては別途安全審査される。
(viii)圧力容器および一次冷却系配管に対する配慮
放射性物質の放出に対する防壁とも考えられる圧力容器および一次冷却系配管は材料の疲労も考慮に入れて強度計算を行なう。このほか、1/3模型による応力測定試験などによっても強度を確認する。
(ix)計装回路に対する配慮
回路の設計にあたっては素子数を極力少なくし、かつ余裕をもたせる。また、回路の能動素子は、原則として可動部分、発熱部分がなく性能劣化の少ない半導体などを使用する。
(x)制御設備に対する配慮
本原子炉の制御設備は使用実績があるETRと同型であるが、さらに設計製作に当っては試作および予備試験を行ない、2本以上の制御棒が落下せず、原子炉スクラムが不能となることのないようにする。
(xi)炉心構成に対する配慮
本原子炉は、材料試験炉としての特質から炉心構成およびそれによって決まる核特性は各運転サイクルごとに変わることが多いので炉心構成に当っては常に次のような手順に従って行ない、安全性の確保に努める。すなわち、通常の炉心変更においては原則として安全上重要な量である超過反応度、停止余裕などを計算および本原子炉に付設するJMTRCで測定して十分安全を確認するが、実験データが十分集積された場合には既知の炉心の外挿または内挿をとって行なう。
このほか、炉心の配列はできるだけ対称性を持たせて中性子束の歪を小さくし、また、実験装置が少なくて標準炉心に至らない場合は、ダミー要素を入れ、標準炉心に近づけて運転するなどの配慮も行なう。
(2)安全設備
(i)原子炉停止装置および警報装置
原子炉の安全運転を期するため、原子炉の異常を検知し、警報および制御棒の挿入による出力低下、炉停止などの各種安全操作を行なう装置を設ける。原子炉の異常原因の検知は、核的なもののほか、冷却系(熱出力、原子炉入口圧力、原子炉出入口圧力差、炉心流量、原子炉出入口温度差、サージタンク圧力、サージタンク水位、炉プール水位など)計装および制御用電源、地震、照射実験装置などについて行なう。
(ii)非常用炉停止装置
3.(1)(x)で述べたように2本以上の制御棒が落下不能となることはないが、制御棒による原子炉停止後、ゼノンなどのポイズンの消滅によって再臨界となるような事態に備えて、念のため液体ポイズンによる手動の非常用炉停止装置を設ける。
(iii)インターロック回路
原子炉の運転の安全性を確保するためのインターロック回路を設けるとともに建家内の従事者の安全を図るため炉室その他にランセーフスイッチを設ける。
(iv)ディーゼル電源
いかなる場合も保安電力の供給が停止することのないようにする。
すなわち、商用電源(主循環ポンプ、プールカナルポンプなどの電源)の停止に備えてディーゼル発電機(緊急ポンプ、計装制御などの電源)を常時運転するほか、このディーゼル発電機が故障の場合には予備のディーゼル発電機が自動起動できるようにする。
(v)予備冷却ポンプ
一次冷却系統をはじめ、安全上重要な冷却系統のポンプなどには、同一容量または最低必要量の予備ポンプを付属させ、ディーゼル電源で常時駆動、または即時起動できるようにする。
(vi)炉プールおよびカナル炉プールおよびカナルに貯えられる大容量の水は、冷却水喪失に対するきわめて確実なバックアップとなる。また、炉下室に水密構造にし、炉プールおよびカナル水の漏水を防止する。
(vii)原子炉格納施設
原子炉格納施設(炉室)は事故時も内圧が異常上昇する恐れがないので半気密式とするが、内部は常に7〜10mm水柱程度の負圧に保ち、事故時に炉室内に充満した放射性核分裂生成物の漏洩を防ぐ構造にする。
(viii)非常用換気設備
モイスチャーセパレータ、アブソリュートフィルタおよびチャコールフィルタの3段からなる非常用換気設備を設け、これによって事故時に炉室内に放出される放射性ヨードおよび固体状核分裂生成物を濾過し、高さ80mの換気塔から放出する。これらのフィルタの濾過効率は定期的点検によって常時90%以上が確保されるようにする。
(3)考えうる各種事故の検討
(i)反応度事故
(a)制御棒引抜事故
制御棒の駆動機構上0.5%△K/K/secを越えるような引抜事故が発生することはないので、動特性の解析結果から判断して問題ない。
(b)燃料板、反射体の変形破損
仮に変形や破損があっても、原子炉の反応度に与える影響は非常に小さい。
(c)燃料装荷事故
制御棒の原子炉停止余裕は常に10%以上確保されており、また燃料要素1本当りの等価反応度は、これよりも十分小さいので、燃料要素の取落しなどによる反応度の付加があっても問題ない。
(d)冷水事故
ポンプの誤起動などによって冷水事故が起きても反応度付加量は0.06%△K/K/secおよび0.3%△K/Kを越えることはないので動特性の解析結果から判断して問題ない。
(e)照射実験装置の事故
ループカプセルホルダおよびラビット管は、破損事故や試料の流失事故が起こらないように設計されるが、万一、これらのうちの1個が事故を起こしても、これによる反応度の付加量は3.(1)(vii)で述べた値を越えないようにしてあるので、動特性の解析結果から判断して問題ない。
(ii)反応事故以外の事故
(a)停電事故
商用電源(主循環ポンプ)またはディーゼル電源(緊急ポンプ常時運転)が停電事故を起しても、原子炉は制御棒によってスクラムされ、燃料要素の最高熱流束はバーンアウト熱流束を十分下回るので問題ない。
(b)ポンプ事故
一次冷却系統のポンプが故障しても、流量低下に基づく原子炉スクラムが制御棒によって行なわれ、燃料要素の最高熱流束は、バーンアウト熱流束を十分下回るので問題ない。
(c)加圧系機器の故障
加圧系機器の故障で1次冷却水の圧力が、減少しても原子炉は制御棒によってスクラムされるので問題ない。
(d)1次冷却系配管の破損
一次冷却水は低温低圧なので、たとえ溶接部などの検出不可能な小さな欠陥あるいは応力腐蝕による亀裂が地震などによって拡大した場合にも、冷却水が急速に流出して、燃料要素を溶損するような事故が起こることは考えられない。
(e)スクラム事故
制御棒の挿入機構は実証済のものであり、運転中にも機能確認試験を行ないうるようにしている。また、各制御棒は機構的に独立しているので、2本以上の制御棒が同時に落下せず原子炉のスクラムが不能となるようなことはない。
(f)冷却チャンネルの水流閉塞事故
燃料操作などの管理は十分行なうが、作業者の過失などによって炉心に異物が混入して冷却水の流れが阻害され、炉心の一部が溶損する事故が考えられる。しかし、外国の材料試験炉の例から推定しても全炉心の5%以上が溶損することはありえない。
(4.(1)重大事故で述べるようにこの場合といえども周辺公衆に障害を与えることはない。)
(g)カプセルホルダおよびラビット管の破損事故カプセルホルダおよびラビット管および試料は、3.(1)(vii)で述べたような配慮がなされるので、万一、これが破損しても炉心を損傷するような事故が起るとは考えられない。
4.災害評価
本原子炉は、平常時はもちろん3.安全対策に述べたように、技術的に考えうる各種事故に対しても十分高い安全性を有しているが、さらに、重大事故および仮想事故時を想定して行なった災害評価は下記のとおりで「原子炉立地審査指針」に十分適合しているものと認める。
(1)重大事故
3.(3)考えうる各種事故の検討結果から重大事故としては、作業者の不注意などにより燃料要素の冷却チャンネルを異物が閉塞して炉心の5%の溶損(3.(3)(ii)(f)の事故)が出力50,000kW、120日間の運転後に起こり、脱ガス系で内蔵の放射性核分裂生成物のうち、希ガス(100%)のみが分離され、高さ80mの排気塔から大気中に放出される事故を想定する。
大気中への放射性核分裂生成物の拡散計算には英国気象庁方式を採用し、気象条件としては排気塔の高さ、敷地近傍の気象観測資料などから判断して安定度A、風速2m/secをとる。
以上の仮定および条件から計算した原子炉敷地周辺における一般公衆の被曝線量は、甲状腺(小児)0、全身1.3remを越えることはなく、「原子炉立地審査指針」のめやす線量にくらべて十分小さい。
(2)仮想事故
仮想事故としては、重大事故で想定した燃料要素の溶損と、一次冷却系配管の破損との重合事故を考える。
すなわち、燃料要素の冷却チャンネルの閉塞による炉心の10%の溶損と一次冷却系配管の破損が50,000kW、120日間の運転後に同時に起こり、内蔵の放射性核分裂生成物が炉室内に充満(希ガス100%、ハロゲン25%、固体1%)し、非常用換気系(濾過効率90%のフィルタ)を通して高さ80mの排気塔から大気中に放出される事故を想定する。
大気中への放射性核分裂生成物の拡散計算には、重大事故の場合と同様に英国気象庁方式を採用し、気象条件として安定度A、風速2m/secをとる。
以上の仮定および条件から計算した原子炉敷地周辺における一般公衆の被曝線量は甲状腺(成人)に対し最高25remで「原子炉立地審査指針」のめやす線量に比べて十分小さい。また、全身に対しては同指針のめやす線量を越える地点は原子炉から400m以内で、低人口地帯に入っている。また、集団被曝も7×104man rem程度である。(ただし安定度はF型)
5.技術的能力
本原子炉の設置は、日本原子力研究所東海研究所の材料試験炉部によって実施され、構成員としては、東海研究所の各原子炉などの建設、運転および実験について十分な知識と経験を有する者が中心に編成されている。また、原子炉の運転管理は、JMTR管理部が行ない、その構成員は現在の材料試験炉部の従業員の多くが有効適切に配置されるが、照射実験の実施に当っては、所内に設けられる実験安全審査委員会によって予め実験の安全性を確認することになっている。
以上により本原子炉の設置および運転管理に必要な技術的能力は十分あるものと認める。
III 審査経過