原研東海研究所原子炉施設の変更に係る安全審査



 原子力委員会は、内閣総理大臣から日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更3件(軽水臨界実験装置の変更、気体状放射性廃棄物の変更、JRR-3の冷却系の温度条件の変更)に係る安全性について、昭和39年10月23日および12月3日、10月23日ならびに12月18日および12月21日付をもってそれぞれ意見を求められていたところ、次のように安全上支障ないものと認める旨答申した。

I 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性について(軽水臨界実験装置の変更)(答申)

(昭和39年12月23日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(軽水臨界実験装置の変更)に係る安全性に関し、同研究所が提出した「原子炉施設変更にともなう安全審査資料」(39原研05-84号、39原研05-111号)に基づいて審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

(別添)

原子炉安全専門審査会の報告

(昭和39年12月4日付)

(I)審査結果
 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更(軽水臨界実験装置の変更)に係る安全性に関し、同研究所が提出した原子炉施設変更にともなう安全審査資料(昭和39年9月18日付39原研05-84号および昭和39年12月1日付39原研05-111号)にもとづき審査した結果同施設の変更に関する安全性は十分確保し得るものと認める。

(II)主な変更内容
 濃縮度がそれぞれ3.2%および2.7%の二酸化ウランペレット(従来は濃縮度2.6%)をステンレス被覆管に収めたものを燃料として使用し、2領域炉心を構成する。実験に使用されるウラン235の量は3.2%のもの約27kg、2.7%のもの約41kg(従来は30kg)である。炉心には、従来からの安全性、実験制御棒の外に最大12本の固定吸収棒を挿入する。

(III)審査内容
1.障害対策
 新炉心における定常運転時の制御室内における線量率は、最大1.2×10-2mrem/watt hr程度であり、予定運転計画を考慮すると、従事者の年間被覆線量は3.5mrem程度と考えられる。これは法令に定める従事者および一般公衆に対する許容被曝線量をはるかに下回り、放射線障害のおそれはないものと考える。

2.安全対策
(1)安全装置
 警報、スクラム、イソターロックなどの安全装置は、新炉心による実験中も、従来どおり作動することとなっている。ただし、パルス中性子源を用いて実験を行なう時には、ピリオドスクラムをバイパスすることもあるとされているが、その際には十分確認された未臨界度において実験を行なうこととしているので安全上支障はないものと考える。

(2)実験上の安全対策
 固定吸収棒は、実験中は固定されており、それの移動による反応度の付加は考えられない。また、水対燃料体積比ならびに挿入される模擬ボイドおよびポイズンの量などは従来から適用されている範囲を出ず、さらに起動、臨界接近時などにおける実験および操作上の制限は、従来からのものがそのまま適用される。以上により実験上の安全は十分確保されるものと考える。

(3)事故解析
 重大事故としては、模擬ボイドあるいはポイズンの脱落により5×10-3△k/kの反応度が階段状に加わり、その後スクラムが作動せず出力500Wに達して始めて手動によりダンプ弁が開くという事故を想定して、その結果を解析している。
 また、仮想事故としては、燃料誤装荷時に水位の連続上昇により2×10-4△k/k/secのランプ状反応度が加わり、その後スクラムが作動せず、反応度が3×10-2△k/kに達して始めてオーバーフローにより反応度の付加が止むという事故を想定して解析を行なっている。これらは十分安全側にあるものと認める。
 解析の結果は、重大事故にあっては、放出エネルギーは10MWsec以下、そのときの制御室内の被曝線量は35mrem程度である。また最大燃料温度上昇は30℃程度で燃料は溶融には至らない。以上により重大事故時に一般公衆に放射線障害を与えるおそれはないと考える。
 また、仮想事故の解析結果は、最大出力12MW以下、そのときの制御室内の被曝線量は1.8rem程度である。また最大燃料温度上昇は190℃程度で燃料は溶融には至らない。以上により仮想事故時に一般公衆に放射線災害を与えるおそれはないと考える。

3.技術的能力
 変更後も、技術的能力は十分あるものと認める。

(IV) 審査経過


II 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設に係る安全性について(気体状放射性廃棄物の放出限度の変更)(答申)(昭和39年12月16日付)

日本原子力研究所東海研究所原子炉施設に係る安全性(気体状放射性廃棄物の放出限度の変更)に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉施設に係る安全性に関する審査のための書類」(昭和39年10月19日付39原研第11-7号)に基づき審査した結果、別添の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。

(別添)

原子炉安全専門審査会の報告

(昭和39年12月15日付)

(I)審査結果
 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設に係る安全性(気体状放射性廃棄物の放出限度の変更)に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉施設に係る安全性に関する審査のための書類」(昭和39年10月19日付39原研第11-7号)に基づき審査した結果、その安全性は十分確保し得るものと認める。

(II)変更事項
 JRR-2の煙突より放出される気体状放射性廃棄物の平均濃度の限度を「1.6×10-4μc/cm3」とする。

(III)審査内容

1.JRR-2からの気体状廃棄物濃度1.6×10-4μc/cm3は、放出量2mc/secに相当する。また、その核種はすべてA41と考えて十分である。

2.原研では、JRR-2の実験孔空隙にアルミニウム缶を挿入する等の措置を講じてアルゴン放出量の減少をはかっているが、放出限度2mc/secの放出が続いた場合について、周辺監視区域外の濃度および線量を次のように推定している。

(1)有風時
 特定の1年間の毎時気象観測データを用いて、年間平均濃度を計算している。また、拡散されたアルゴンの雲からの被曝による年間積算線量についても計算している。

(2)無風時
 JRR-2の5MW運転中、3週間に発生した無風時に特別観測を行ない、それによって得られたデータを換算して年間積算線量を計算している。

3.特別観測時における無風発生の継続時間の頻度分布曲線は、年間のものと類似している。このことから観測データを用いて計算した無風時の年間積算線量は、実際に近いものであると推定される。この年間積算線量は、最高地点で6mrであり、その地点は構内であるが、周辺監視区域外では同程度以下とみて差し支えない。また、有風時の年間積算線量の計算方法は、妥当なものである。その値は、周辺監視区域外の線量の最高地点において約40mrである。
 したがって、周辺監視区域外における両者の年間被曝線量の合計は50mrem以下と推定され、他の原子炉との重量を考えても許容値の約1/10であり、十分低い。なお、特別観測は夏期の3週間に実施したものであるが、無風時に特殊な気象状態が発生し線量率が増加する場合があっても、無風の発生時間は、年間を通じて3%以下であるので、全体の被曝線量の増加分に寄与する割合は少ない。

4.有風時の年間平均濃度は、周辺監視区域外の最高地点において3.5×10-9μc/cm3程度で、許容濃度の約1/10と認められる。無風時の濃度は推定してないが、その核種はA41であるので、線量についてのみ検討すれば十分であると判断した。

5.仮に、周辺監視区域外の3ヵ月の平均濃度が許容濃度をこえ、または年間被曝線量が許容線量をこえるおそれがあるとしても、原研は、構内および構外に放射線監視設備網を設置しており、事前に察知できるので、適切な措置を講ずることができる。

6.したがって、今回の変更は、一般公衆に対し放射線障害防止上支障がないものと認める。

(IV) 審査経過


III 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設の変更の安全性について(JRR-3の冷却系の温度条件の変更)(答申)

(昭和39年12月24日付)

 日本原子力研究所東海研究所原子炉施設に係る安全性(JRR-3の冷却系の温度条件の変更)に関し、同研究所が提出した「東海研究所原子炉施設の変更に係る安全性の審査のための書類」(昭和39年11月18日付および12月17日付)に基づき審査した結果、以下のとおり本施設の変更は安全上支障ないものと認める。

変更事項

 従来適用されてきた炉心タンク出口の重水温度「47.5℃」を「57.5℃」に改める。

審査内容

 炉心タンク出口の重水温度が従来に比し10℃上昇するのは、冷却塔の従来の設計基準値である大気の最高湿球温度を25℃から30℃に上げ、これに加えて、従来考慮していなかった冷却水管の汚れ、および冷却水管振動防止のための2次冷却水流量低下運転等による重水冷却器能力の低下を見込んだためである。
 このような重水温度の上昇に関して検討を要する最も重要な問題は、燃料棒表面最高温度点における重水の局部沸騰の有無である。
 この重水温度の10℃上昇後の燃料棒の最高表面温度を計算するに当っては、半径方向中性子束分布の不均一に基づく温度上昇分として6℃、流量分布の不均一に基づく温度上昇分として2℃、冷却重水が周辺の減速重水によって加熱されることによるもの7.5℃を加えた。
 6℃は、個々の燃料要素の冷却重水の最高上昇温度についての試験運転における実測値から求め、2℃は各燃料要素の冷却重水流量調整の許容範囲±5%に相当するとした分であり、7.5℃は理論計算による温度上昇が3.6℃であることから安全側の値として重水の炉心出入口の温度差7.5℃をとったものである。なお、これら以外の軸方向中性子束分布の不均一等に基づく温度上昇についてはJRR-3の場合無視して差し支えないと認められる。
 このように安全側に計算して得られた燃料棒の表面最高温度は重水の沸騰点に対し、約8℃の余裕がある。その他、温度上昇に基づく燃料要素および冷却系各部に与える工学的影響についても問題がない。