昭和40年度原子力予算


 原子力委員会は、昭和40年度原子力予算(原子力局および各省庁からの要求総額約234億円、国庫債務負担行為額、約41億円)について慎重に検討を重ねていたが、8月26日、以下のように調整額を決定した。

昭和40年度原子力関係予算見積方針

 I 基本方針

 わが国が原子力研究開発に着手して以来10年を経過したが、その間官民の努力によってその研究開発は、着実な進展を示し、今後における研究開発に必要な一応の基盤が確立され、今や研究開発の初期的段階からより進んだ開発段階に入ろうとしている。このような情勢にかんがみ、材料試験炉の建設、原子力第一船の建造、使用済燃料再処理施設の建設、アイソトープセンターの設置ならびに国産動力炉および高速増殖炉の開発等の諸事業の進展をはかってきた。昭和40年度においては、これら諸事業をそれぞれの計画または構想にしたがって引き続き進展せしめることが望ましいが、財政その他の諸事情をも考慮した場合、慎重な配慮と思い切った調整を図る必要があると考えた。

 そのため、40年度予算の見積りにあたっては、これらの事業のうち、材料試験炉の建設、原子力第一船の建造、使用済燃料再処理施設の建設、アイソトープセンターの整備等の事業については、今後の原子力開発の鍵ともなるべき重要なものであるので、既定計画どおり進展せしめるべく所要の予算措置を講ずるものとした。これら事業は、それぞれ既にその具体的計画の遂行に着手され、完成目標時期もさし迫っており、その遅延はわが国原子力開発利用計画全体に多大の悪影響を及ぼすこととなるからである。

 他方、国産動力炉および高速増殖炉の研究開発等については、将来におけるわが国の開発利用に大きな方向づけを与えるものであり、41年度以降の開発に備えて基本構想の策定、手順および実施について、財政事情をも考慮し、さらに慎重な検討を行なうこととし、40年度においては、大規模な施設の拡充を控え、前年度規模の予算額をもって調査研究および必要最少限の施設の整備を行なうことにとどめた。

 また、日本原子力研究所等における各種施設の整備、研究の本格化等に伴い必要な人員の充足を行なうことにより、研究開発の今後の円滑な発展を期するものとする。

 さらに、原子力開発における国際間の協力を緊密化するため日米研究協力等の一層の促進をはかるほか、国際原子力機関第9回総会の東京における開催、欧州原子力機関の事業への参加等国際協力の推進をはかることとした。

 なお、原子力開発利用の効果的発展のため、また、各地で原子力発電所の建設が行なわれようとしている状況にもかんがみ、国民一般の原子力に対する理解と認識を一層深めるための措置を講ずることとした。

 以上のほか、国立試験研究機関の研究施設の整備、民間に対する試験研究補助金、委託費の交付、原子力

 施設の安全対策等原子力開発利用を総合的に推進するのに必要な諸施策についても、その重要性にかんがみ慎重に配慮し、所要の予算額を計上した。

 なお、行政機関の人員、機構については、研究開発体制の整備の面からみて必要なものに限り、充足強化することとした。以上のように40年度原子力予算としては、例年になく厳しい調整を行なったので、各省庁行政費を含めて、約142.3億円および国庫債務負担行為額約36.5億円となった。また、行政機関の定員増を含め、原子力開発機関等に必要な人員増は313名である。これらの資金および人員は、今後、わが国における原子力開発利用を着実に進展させるために最少限必要なものであり、その確保を強く要請する。

 II 主要な継続事業

1.材料試験炉の建設

在来型動力炉の国産化技術の確立および国産動力炉、高速増殖炉等の開発に必要な材料試験炉については、40年度は前年度に引き続き原子炉本体および同建屋の建設を行なうほか、原子炉付属装置および二次冷却系等の建屋の建設に着手する。

(必要経費、約14.3億円、国庫債務負担行為額、約8.8億円)

2.原子力第一船の建造

実験目的の原子力船を実際に建造し、将来における原子力船の開発に資するための原子力第一船の建造については、前年度に実施した詳細設計に基づき40年度は、原子炉本体の製作および船体の建造に着手する。(必要経費、約8.6億円)

3.使用済燃料再処理施設の設計

使用済燃料再処理施設の設計については、前年度に実施した使用済燃料再処理施設の予備設計および濃縮系前処理部分の詳細設計に基づき、40年度は、再処理施設主工程の詳細設計を行なう。(必要経費、約2.6億円、国庫債務負担行為額、9億円)

4.アイソトープセンターの整備

アイソトープセンターの整備については、40年度は前年度に引き続き、機構の整備を行なうとともに、アイソトープ工場の内装工事、焼却炉、アイソトープ研究棟の建設等を行なう。(必要経費、約3億円)

5.研究開発の推進

(1)国産動力炉
 国産動力炉の開発については、40年度は、すでに実施した重水型動力炉の概念設計に基づき、原型炉の概要を決定するため引き続き調査研究を行なう。また、このために必要な基礎的実験を行なう。(必要経費、約0.8億円)

(2)高速増殖炉
 高速増殖炉の研究開発については、前年度に引き続き高速増殖炉の炉物理実験を行なうため、高速増殖炉臨界実験装置の製作および同建屋の建設等を進め、本格的研究開発の準備を行なう。(必要経費、約2.1億円および国庫債務負担行為額、約4.8億円)

(3)プルトニウム燃料
 プルトニウム燃料の研究開発については、建設中の原子燃料公社のプルトニウム燃料研究施設の完成をはかる。(必要経費、約4億円)

 III その他の主要な事項

1.原子炉の運転等
 わが国における原子炉および臨界実験装置は、日本原子力研究所、大学および民間企業のものをあわせ、40年度末には原子炉13基および臨界実験装置7基が稼働する見込みである。これら原子炉等の運転に必要な核燃料のうち濃縮ウラン燃料については、海外から調達するほか、JPDR燃料等の国産化研究に必要な濃縮ウランの確保をはかる。

 また、日本原子力研究所の原子炉による研究開発を円滑に行なうため機器等の整備をはかる。(必要経費、約6.9億円および国庫債務負担行為額、約4.1億円)

2.民間企業に対する研究補助および研究委託
 動力炉の国産化の実用化研究等民間企業に、その多くを期待する重要な研究については、わが国の原子力開発の推進および民間企業の発展のため、その試験研究補助を強力に推進する必要があるので、40年度は動力炉の製作技術および燃料、材料の照射に関する試験研究に重点をおいてこれを行なう。
 また、本来国の機関で行なうべき試験研究のうち民間で行なう方がより効果的なものについては、民間に試験研究委託費を交付してこれを積極的に行なう必要があるので、40年度は原子炉施設等の安全性に関する試験研究等を継続するほか、あらたに高速増殖炉の関連技術に関する研究を行なう。(必要経費、3.5億円)

3.安全対策の強化

(1)原子力施設の安全対策
 原子力施設の整備拡充に伴い、平常時における安全確保は勿論、緊急時における安全対策は、ますます重要な問題となっているので、これら安全対策の検討と普及を行なうほか、水戸原子力事務所による放射能監視業務の強化をはかる。
 また、原子力施設の安全性に関する研究および障害防止に関する研究についても引き続き国立試験研究機関、日本原子力研究所等において行なうほか、前記委託費の交付を通じて実施する。
 なお、アイソトープ等使用事業所の増加に対処し放射線障害防止業務の円滑化をはかるため、41年度からその業務の一部を一部都道府県知事に委譲することとし、40年度においては都道府県職員の訓練を行なう。(必要経費、約3.2億円)

(2)放射能調査の強化
 放射性降下物の人体に与える永続的影響にかんがみ、環境、食品、人体等の放射能の調査および研究を引き続き実施する。また、放射性廃棄物の海洋処分に関し、海洋汚染の調査研究を強化するとともに、原子力船の入港および原子力施設の設置にそなえて、バックグランドの調査を行なう。(必要経費、約1.2億円)

4.国際協力の推進
 国際協力を一層強力に推進するため米国等諸外国との研究協力をさらに拡大強化するとともに、科学者、技術者の交流、資料、情報の交換、各種国際会議への積極的参加を行なう。このほか、40年度には国際原子力機関第9回総会の東京における開催および欧州原子力機関の事業への参加をはかる。(必要経費、約3億円)

5.原子力に関する知識の普及
 40年度は、原子力委員会が発足して以来10周年を迎えるので、今後の原子力開発利用の効果的発展をはかるため、原子力開発10周年記念行事を実施することとし、国民一般の原子力に対する理解と認識を一層深めるものとする。また、日本原子力研究所等東海地区の原子力施設見学者に原子力の知識を普及するとともに見学者の便宜をはかり併せて研究が妨げられないよう東海村に「東海原子力見学センター」(仮称)を設置する。(必要経費、約0.3億円)

6.人材の養成
 原子力関係科学技術者の養成訓練は、引き続き国内では日本原子力研究所の原子炉研修所およびアイソトープ研修所ならびに放射線医学総合研究所養成訓練部等において行なうほか、専門技術を習得させるため、海外に留学生を派遣する。(必要経費、約1.3億円)

7.行政機構の整備
 わが国の原子力開発利用の進展に即応し、原子力局に「開発課」を新設することとした。そのほか水戸原子力事務所の事務の増大、原子力開発機関に対する指導業務の増加、防災業務の増加等に対応し、また、国際協力の実をあげるため所要の人員の充足をはかることとし、職員12名の増員を行なう。

IV原子力関係機関等に必要な経費

1.日本原子力研究所
 既に述べた事業のほか、東海研究所、高崎研究所および大洗地区の整備拡充等、研究部門の充実および研究サービス部門の整備等を含め、40年度において同研究所に必要な経費の総額は約82.9億円(うち政府出資、約79.3億円)および国庫債務負担行為額は約16.8億円である。また、人員については、高崎研究所における中間規模試験大洗地区の建設整備の本格化に伴う人員充足の必要をも考慮して203名の増員を行なう。

2.原子燃料公社
 既に述べた事業のほか、核原料物質の探鉱、製錬および関連研究開発等に要する40年度経過総額は約24.7億円(うち政府出資24億円)および国庫債務負担行為額は約9.4億円である。また、人員については、再処理およびプルトニウムの部門の整備に重点をおいて69名の増員を行なう。

3.日本原子力船開発事業団
 既にのべた原子力第一船の建造に必要な経費のほか運営管理費を含めて40年度に必要な経費の総額は、約10.1億円(うち政府出資、約7.6億円)である。また、業務の進展に伴い職員7名の増員を行なう。

4.放射線医学総合研究所
 研究施設の整備拡充、研究業務に必要な40年度の経費の総額は約6.5億円および国庫債務負担行為額は約1.2億円である。また、研究の充実のため22名の増員を行なう。

5.国立試験研究機関および理化学研究所
 国立試験研究機関における放射線の利用、原子炉材料、原子力船等の諸研究、核原料物質の探査等に必要な経費の総額は約6.9億円および国庫債務負担行為額は約3.8億円である。理化学研究所におけるサイクロトロンの建設等に必要な経費は約4.2億円および国庫債務負担行為額は約1.4億円である。

昭和40年度原子力関係予算概算要求事項別総表


昭和40年度日本原子力研究所予算概算要求総括表





昭和40年度原子力燃料公社予算概算要求総括表


昭和40年度原子力船開発事業団収入予算概算要求総括表

昭和40年度原子力船開発事業団支出予算概算要求総括表

昭和40年度放射線医学総合研究所予算概算総括表


国立機関の試験研究に必要な経費

   1.原子燃料に関する研究


   2.原子炉材料に関する研究


   3.原子力船に関する研究


   4.核融合に関する研究


   5.放射線測定等に関する研究


   6.安全対策および放射線障害防止に関する研究


   7.放射線利用に関する研究






   8.放射線化学に関する研究


試験研究の補助委託に必要な経費

核燃料物質の購入等に必要な経費

原子力技術者の海外派遣に必要な経費

放射性廃棄物処理事業の助成に必要な経費

放射能測定調査研究に必要な経費


原子力委員会に必要な経費


放射線審議会に必要な経費

原子力局の一般行政に必要な経費



理化学研究所に必要な経費

日本科学技術情報センターに必要な経費

原子力発電所立地調査に必要な経費



関係各省庁における行政費

    1.国際協力


    2.核原料物質の開発


    3.安全対策並びに障害防止


    4.原子炉の規制


    5.海外調査等


    6.技術国内研修


    7.図書の整備