昭和38年度原子力年報の発表



 原子力委員会は、昭和31年発足以来、毎年わが国における原子力平和利用の進展状況とその成果を年報としてとりまとめてきたが、この度、昭和38年度(第8回)原子力年報を公表した。
 この年報は、8章から成り、第1章の総論では、昭和38年度における原子力開発の内外の動向を概観し、第2章においては原子炉の開発として原子力発電所、動力炉、研究炉、原子力船等にふれ、第3章は核燃料、材料および機器、第4章は放射線の利用について述べ、第5章は放射線安全として、原子炉の設置、運転ならびに核燃料物質、放射性同位元素の使用にともなう安全性について述べ、第6章では放射能対策、第7章では国際協力について、第8章では科学技術者の養成および原子力知識普及活動について述べている。
 その概要は、次のとおりである。

(1)海外の動向
 最近の著しい技術の進歩によって、原子力の平和利用が活発化してきた。特に原子力発電の経済性が一段と注目されるようになった。
 すなわち、米国においては原子力産業の健全な発展を図るため、特殊核物質の民有化のための法案が議会に提出され、英国においては、第2次原子力発電計画の発表がなされた。
 また、原子力発電所の建設は、米国、英国等において着実に進められているが、西ドイツ、インドにおいても新たな建設計画が具体化し、原子力発電の本格的実用化が進展した。
 他方、高速増殖炉等の原子炉の研究開発、原子力船の開発等も熱心に進められた。

(2)国内の動向
 日本原子力研究所をはじめ関係機関の諸施設が一応整備され、新しい計画も逐次具体化されるなど、38年度に至ってわが国の原子力の研究開発は新たな発展段階に移行する転機にさしかかったとみることができる。

 38年度における国内の主な動きは、次のとおりである。

(1)原子力発電については、日本原子力発電(株)の東海発電所(1号炉)の建設工事が着々と進められており、同社の2号炉および電力中央3社の原子力発電所の建設計画も一層具体化しつつある。
 これらの状況を背景として同発電所からとり出される使用済燃料の再処理工場の建設計画および再処理によって分離されるプルトニウムの政府買上げの措置が具体的に検討された。

(2)特殊法人日本原子力船開発事業団が38年8月発足し、同事業団は、原子力第1船(約6,000総トンの海洋観測および乗員訓練用船)の建設計画に着手した。

(3)日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)で、38年10月わが国ではじめて原子力発電が成功した。

(4)国産動力炉開発の大綱が決定され、その炉型式は天然ウランまたは微濃縮ウランを使用する重水減速型に決定された。

(5)高速増殖炉に関する調査と計画の検討が進められ、また、材料試験炉(熱出力約5万キロワット)を日本原子力研究所大洗地区に建設することが決定された。

(6)ラジオ・アイソトープの製造・頒布、廃棄物処理、技術者の養成訓練等の各種業務を総合的に実施する機関として、日本原子力研究所にアイソトープセンターを設立することが決定された。

(7)放射線化学の中間規模試験を実施するための機関として、日本原子力研究所高崎研究所が、39年3月開所された。

(8)日米原子力協定に基づく保障措置の実施を他国に先んじて、国際原子力機関に移管する等国際協力の面でも大きな進歩がみられた。

〔なお、原子力年報の総論は資料に掲げてある。〕