原研JMTRCに係る安全審査



 原子力委員会は、昭和39年3月17日および5月27日付をもって内閣総理大臣から諮問のあった標記の件について、6月26日付でつぎのとおり答申した。
 日本原子力研究所の材料試験炉臨界実験装置(JMTRC)の設置に伴う東海研究所原子炉施設の変更の安全性については、同研究所が提出した「JMTRC設置に関する書類」(昭和39年3月)に基づいて審査した結果、下記の原子炉安全専門審査会の安全性に関する報告書のとおり安全上支障がないものと認める。


原子炉安全専門審査会の報告

(昭和39年5月29日付)

I 審査結果

 日本原子力研究所が、材料試験炉を運転する上に必要な基礎データを実験的に求める目的で、東海研究所に設置しようとする最大熱出力100Wの濃縮ウラン軽水減速型臨界実験装置(材料試験炉臨界実験装置、以下「JMTRC」という。)に関し、同研究所が提出した「JMTRC設置に関する書類」(昭和39年3月)に基づいて審査した結果、JMTRCの設置にともなう原子炉施設の変更に関する安全性は十分確保しうるものと認める。
 なお、この施設は、将来大洗に移設される予定であるが、本報告は、東海研究所に設置し、運転する場合について審査したものである。

II 審査内容
1. 装置の概要
 JMTRCの装置および特性は、次のように計画されており、安全上妥当なものと考える。

(1)装置
 JMTRCは、JRR−4の炉心に対してはゲートで区切られたNo.2プールの一隅に設置される。水面下約4.9mのところに炉心を組み、それをささえる支持台と水面上のブリッジとで構成される。
 燃料要素は、実効高さ75cmのいわゆるETR改良型でU235の濃縮度は約90%である。
 制御棒は、安全棒4本、粗調整棒1本、測定棒1本で、安全棒および粗調整棒は燃料フォロア付完全吸収体、測定棒はベリリウムフォロア付不完全吸収体である。駆動機構はブリッジ上に設けられ、安全棒はブリッジ上に行って手動で操作し、また、粗調整棒および測定棒は制御盤から操作するもので、何れも上部へ引抜く方式である。安全棒4本のうち2本は上端まで引抜いた状態で使用し、残り2本は実験に応じてあらかじめ定められたストッパ位置まで引抜いて使用する。
 粗調整棒は、その駆動機構に引抜き制限開閉器を設け、引抜き途中20回順次に一旦停止させ、何れも、押しボタンを押さない限り、それ以上の引抜きはできないようにする。
 核計測装置は、起動系2チャンネル、対数出力系1チャンネル、線型出力系2チャンネルからなっている。
 安全保護設備としては、インターロック、警報系およびスクラム系がある。スクラム信号は、核計測系異常、停電、地震、手動等によって発せられる。スクラム時には、安全棒および粗調整棒が落下する。また全制御棒が落下不能となるというような万一の事故に備えて、バックアップスクラム装置を設けている。
 その他、放射線管理施設、廃棄物処理施設等はJRR−4と共用する。
 耐震設計として、その損傷により放射線障害をおよぼす恐れのある機械構造物、機器などは、原則として水平方向0.6、垂直方向0.3に、また、そのほかの機器については、水平方向0.4、垂直方向0.2の震度の地震が加わっても安全なように設計される。

(2)特性
 JMTRCは、炉心の格子配列をかえたり、ポイズン・ボイドなどを挿入して実験を行なうことになっているが、これらの実験は、次の範囲内で行なわれる。
 1)超過反応度約7%δk/k以下(制御盤から制御しうる可能性をもつ超過反応度)

2)ポイズン・ボイド

可動ポイズン:全部で0.2%δk/k以下

固定ポイズン:1個が0.3%δk/k以下(ただし、固定ポイズンは全部で Homogeneous poison としてボロン100gr相当以下)

模擬ボイド:1個が0.14%δk/k以下(ただし模擬ボイドは、全部で1%δk/k以下)

3)制御棒効果

 JMTRCの制御系には、標準炉心で、安全棒4本は約22%δk/k、粗調整棒は約6%δk/k、測定棒は約1%δk/kの等価反応度を持ち、また、非常の場合のバックアップスクラム装置として等価反応度約0.5%δk/kを持っている。これらの吸収反応度はJMTRCの停止に際して十分と認められる。

2. 平常時の安全対策
 JMTRCを運転しても、従事者および敷地外の一般公衆に対する被ばく線量および放射性物質の濃度が、許容値を十分下まわるように、次のような配慮をもって設計、計画されているので、平常時の安全性は確保しうるものと考える。

(1)放射線の遮蔽設計
 JMTRCの炉心から水面までの約4.9mの厚さの水層が十分な遮蔽となり、最も放射線量率の高い水面上においても、100W運転の際0.1mrem/h以下になる。

(2)廃棄物処理
 JMTRCからの廃棄物は、JRR−4の廃棄物処理系によって処理される。

3. 事故評価
 JMTCの事故の原因として考えられる主なものは、(1)制御棒の引抜き、(2)ポイズン・ボイドの脱落、(3)燃料の取落しにより反応度が加えられた場合である。

(1)安全棒は、4本のうち2本を炉心中に挿入した状態で運転することがあるが、反応度が追加されることはない。
 粗調整棒は、制限開閉器があるので、その全ストロークの1/20引抜かれるごとに一旦停止する。反応度付加速度は、最大のところで約0.05%δk/k/secであり、1/20ストロークでは約0.6%δk/kである。それが投入されたと仮定しても、(3)に述べる燃料取落しの場合に比べて問題とならない。
 測定棒の反応度付加速度は粗調整棒の約1/6であり、全ストロークでも約1%δk/kである。連続引抜きが生じても同じく問題とならない。

(2)ポイズンには、着脱可能な可動ポイズンと脱落しないように固定した固定ポイズンとがあるが、可動ポイズンは等価反応度が全部で0.2%δk/k以下また固定ポイズンは1個が0.3%δk/k以下に制限される。
 模擬ボイドは固定方式で、1個が0.14%δk/k以下、全部で1%δk/k以下に制限される。
 これらについて可動ポイズン全部、固定ポイズン1個、または模擬ボイド1個の脱落を考えても、次に述べる燃料棒取落しの場合に比べて問題とならない。

(3)燃料装荷作業中は、必らず粗調整棒を全挿入して、炉を停止させることになっており、また臨界に達した後にさらに燃料を追加することもないが、臨界近傍で燃料要素1本を取落すことを仮定すれば、付加反応度は約1.3%δk/kになる。
 提出書類において、2%δk/kの反応度がステップ状に加わった場合を、反応度が加わる最大のものとして解析しているのは妥当である。
 この場合、放出エネルギーは約21MWsecになるが、燃料ミート最高温度は約200℃で、燃料の溶融事故には至らない。このときのプール上面における線量は10mrem程度である。
 また、仮りにエネルギー放出が、IAEAが遮蔽設計のために提案している200MWsecとしても、その線量は上記の値の約10倍である。
 これらは十分小さい値と考える。

4. JRR−4との相互関係
 JMTRCは、JRR−4の建屋内に設置されるが、ゲートで区切られた別のプールに作られる。平常時、事故時とも安全上とくに問題にすべき相互の関係はないと考える。

5. 技術的能力
 JMTRCの設置は、東海研究所のJMTRC建設準備室が中心となって進められる。室員には、JRR−3、JRR−4等の建設に相当の経験を有するものが中心になって構成されている。
 また、運転にあたっては、JRR−4とJMTRC両者の保安の監督の責任を一元的に集約するために、JRR−4の原子炉主任技術者がJMTRCの主任技術者を兼ね、JMTRC関係者が主任技術者と密接な連絡をもって行なうことは妥当である。
 JMTRCで行なわれる実験については、日本原子力研究所内に設けられている原子炉等安全審査委員会を経て、東海研究所長が設定する操作基準の範囲内で行なわれる。
 以上により、JMTRCを設置するために必要な技術的能力および運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

II 審査経過