原子力委員会

原子炉立地審査指針


5月27日原子力委員会決定


 昭和38年11日2日に原子炉安全基準専門部会から原子炉立地審査指針の報告があったことは、先に掲載した通りである(Vol.8,No.11)。原子力委員会では、同報告書を検討中であったが、若干修正の上、5月27日に決定した。そして同日付をもって原子炉安全専門審査会に対し、審査会が安全審査を行なう際にはこれによるよう指示した。
 今回決定した指針が基準部会の報告書と変っている点は、まず体裁上、報告書では指針の本文、その解説および線量についての付録という3段階になっていたのが、最終的には、指針の本文と指針を適用する際に必要な線量等の判断のめやすという2段階にしたことである。したがって、報告書の解説において補足説明してあった主要な点、例えば、事故想定に関する事項は、指針本文に織り込み、また解説および付録中の線量に関する部分は、判断のめやすとした。主旨としては、指針本文においてはほとんど変っていない。判断のめやすは、指針を適用する際に必要な線量等を行政的見地から暫定的に定めたものである。重大事故に関連する非居住区域については、報告書通り甲状腺(小児)150レム、全身25レムとし、仮想事故に関連する低人口地帯については、甲状腺(成人)300レム、全身25レムという値を示した。また人口密集地帯については、外国の積算線量の例として、例えば200万人レムという値を新たに示した。これらの線量等を採用した経緯は、付記に述べてある。
 なお、委員会から審査会へ、今後この指針によるよう指示するとともに、基準部会からの報告書を提示し指針の主旨を補足することとした。

原子炉安全専門審査会会長殿

原子力委員会委員長

原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて

 本委員会は、昭和39年5月27日原子炉立地審査指針および同指針を適用する際に必要な放射線量等に関する暫定的な判断のめやすをそれぞれ別紙のとおり定めたから、今後貴審査会において安全審査を行なう際にはこれによられたい。
 なお、原子炉安全基準専門部会の原子炉立地審査指針に関する報告書を参考までに添付する。

原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて

 本委員会は、昭和33年4月原子炉安全基準専門部会を設け、原子炉施設の安全性について科学技術的基準の制定をはかってきたところ、昭和38年11月2日同部会から陸上に定置する原子炉に対する立地基準の前段階としての原子炉立地審査指針に関する報告書の提出を受けた。
 本委員会は、同報告書を検討の上、別紙1のとおり原子炉立地審査指針を定めるとともに、当該指針を適用する際に必要な放射線量等に関する暫定的な判断のめやすを別紙2のとおり定める。

〔別紙1〕

原子炉立地審査指針

 この指針は、原子炉安全専門審査会が、陸上に定置する原子炉の設置に先立って行なう安全審査の際、万一の事故に関連して、その立地条件の適否を判断するためのものである。

1.基本的考え方

 1.1 原則的立地条件

 原子炉は、どこに設置されるにしても、事故を起さないように設計、建設、運転および保守を行なわなければならないことは当然のことであるが、なお万一の事故に備えて、公衆の安全を確保するためには、原則的は次のような立地条件が必要である。

(1)大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと、また、災害を拡大するような事象も少ないこと。

(2)原子炉は、その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れていること。

(3)原子炉の敷地は、その周辺も含め、必要に応じ公衆に対して適切な措置を講じうる環境にあること。

 1.2 基本的目標

 万一の事故時にも、公衆の安全を確保し、かつ原子力開発の健全な発展をはかることを方針として、この指針によって達成しようとする基本的目標は次の三つである。

a 敷地周辺の事象、原子炉の特性、安全防護施設等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起るかもしれないと考えられる重大な事故(以下「重大事故」という。)の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。

b さらに、重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられない事故(以下「仮想事故」という。)(例えば、重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し、それに相当する放射性物質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。

c なお、仮想事故の場合にも、国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。

2.立地審査の指針

 立地条件の適否を判断する際には、上記の基本的目標を達成するため、少なくとも次の3条件が満されていることを確認しなければならない。

 2.1 原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。

 ここにいう「ある距離の範囲」としては、重大事故の場合、もし、その距離だけ離れた地点に人がいつづけるならば、その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし、「非居住区域」とは、公衆が原則として居住しない区域をいうものとする。

 2.2 原子炉からある距離の範囲内であって、非居住区域の外側の地帯は、低人口地帯であること。

 ここにいう「ある距離の範囲」としては、仮想事故の場合、何らの措置も講じなければ、その範囲内にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとし、「低人口地帯」とは、著しい放射線災害を与えないために、適切な措置を講じうる環境にある地帯(例えば、人口密度の低い地帯)をいうものとする。

 2.3 原子炉敷地は、人口密集地帯からある距離だけ離れていること。

 ここにいう「ある距離」としては、仮想事故の場合、全身被ばく線量の積算値が、国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に小さい値にたるような距離をとるものとする。

3.適用範囲

 この指針は、熱出力1万kW以上の原子炉の立地審査に適用するものとし、1万kW未満の場合においては、この指針を参考として立地審査を行なうものとする。

〔別紙2〕

原子炉立地審査指針を適用する際に必要な暫定的な判断のめやす

 この判断のめやすは、原子炉安全専門審査会が、陸上に定置する原子炉の安全審査を行なうに当り、別紙1の指針を適用する際に使用するためのものである。

1. 指針2.1にいう「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、次の線量を用いること。

甲状腺(小児)に対して150レム
全身に対して25レム

2. 指針2.2にいう「ある距離の範囲」を判断するためのおよそのめやすとして、次の線量を考えること。

甲状腺(成人)に対して300レム
全身に対して25レム

3. 指針2.3にいう「ある距離だけ離れていること」を判断するためのめやすとして、外国の例(例えば200万人レム)を参考とすること。

付記

(i)上記めやすは、現時点における放射線の影響に関する知識、事故時における原子炉からの放射性物質の放散の型と種類およびこの種の諸外国における例等を比較検討して、行政的見地から定めたものであるが、とくに放射線の生体効果、国民遺伝線量等については、まだ明確でない点もあるので、今後ともわが国におけるこの方面の研究の促進をはかり、世界のすう勢をも考慮して再検討を行なうこととする。

(ii)上記めやすは、実際に原子炉事故が生じた場合にとられる緊急時の措置に関連するめやす(例えば飲食物制限、退避措置等のための線量等)とは異なった考え方のもとに定めたものである。

(iii)上記めやすは、原子炉の設置に先立って行なう安全審査の際、万一の事故に関連して、その立地条件の適否を判断するためのものであって、原子炉の平常運転時における公衆に対する放射線障害の防止に関連しての判断の基準は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)および同法律に基づく総理府令ならびに科学技術庁告示に規定している。

(iv)上記めやすのうち1および2は、通常のウラン燃料の原子炉を対象として考えたものである。甲状腺および全身以外のものが障害の見地から重要となる場合には、別途考慮することが必要である。