I 基本方針
最近における海外諸国の原子力の開発利用状況をみると、原子力発電所の建設計画は、実用的な観点から積極的に進められ、著しい増加を示すに至り、また原子力船の開発も意欲的に行なわれているなど、原子力開発のテンポはとみに早まり、原子力開発の第2期ともいうべき新時代に入ったとの確信をますます深くさせるものがある。
ひるがえって、わが国の現状をみると、原子力発電を始めとする各分野で、原子力の開発利用はさらに促進される機運が高まりつつあり、特に原子力船の建造、国産動力炉の開発等多くの画期的事業が昭和38年度より開始され、それぞれ研究開発の進展に伴い、より高次の段階へと新たな展開を遂げようとしている。
以上の諸情勢にかんがみ、昭和39年度においては、前年度にその緒についた原子力第1船の建造、国産動力炉の開発、材料試験炉の建設、プルトニウム燃料の研究、使用済燃料再処理施設の設計等の諸事業について、それぞれ相応の進展を図らなければならない。このためには、いずれも少なからぬ国費を投ずる必要があるが、これらの事業がわが国における今後の原子力開発の鍵ともなるべき重大な意義を有することにかんがみ、その計画的な推進を図ることは不可欠であると考える。よって、39年度においては、これらの継続事業を計画どおり推進することに主眼を置くこととし、研究開発の効率的な促進を図ることに努めた。
また、アイソトープの利用については、その研究が進み、加えて実用段階に入った分野も増加してきたので、アイソトープの国産の本格化を契機として、生産、領布、廃棄物処理等につき一元的な体制を整備するため、「アイソトープセンター」を設けることとした。
以上のほか、国立試験研究機関等の研究施設の整備、研究課題の選択等についても総合的な見地から重要性を検討して研究開発の最も効率的な推進を図るとともに、民間企業の研究助成についても同様に十分な調整を加えた。さらに、国際協力の推進、原子力施設の安全対策等わが国の原子力の研究開発利用を総合的に推進することに必要な諸施策について十分に配慮した。
なお、人員、機構については、当面必要なものに限定した。
この結果、昭和39年度原子力予算として、各省庁行政費をも含め約142.9億円および国庫債務負担行為額約115.1億円を見積った。この額は、今後のわが国における原子力開発利用を効率的かつ着実に進展させるため必要なものであるので、その確保を強く要請する。
II 主な事業
1.継続事業の計画的推進
(1)原子力第1船の建造
実験目的の原子力船を実際に建造し、その過程において総合的な研究開発を推進する原子力第1船建造計画は、38年度発足した特殊法人日本原子力船開発事業団により実施することとしているが、39年度はその2年目にあたり、原子炉本体の詳細設計および製作、船体の詳細設計を行なう。(必要経費、約8.1億円および国庫債務負担行為額約34.5億円)
(2)材料試験炉の建設
37年度より日本原子力研究所において材料試験炉の概念設計およびこれに基づく仕様書の作成を行なってきたが、これをほぼ完了するに至った。ここにおいて原子力開発利用長期計画の後期10年における動力炉の国産化技術の確立と、国産動力炉、高速増殖炉等の開発に資するため、43年度完成を目標に39年度より出力5万キロワットの材料試験炉の建設に着手する。(必要経費、約2.9億円および国庫債務負担行為額約45.7億円)
(3)研究開発の推進
イ、国産動力炉
国産動力炉の開発計画は、原子力開発利用長期計画の後期10年の半ば頃に実用化の見込みの高い動力炉を、設計から建設まで一貫して自主的に開発することを目的とし、あわせてこの開発を遂行することにより国内技術水準の向上に資することを期待して日本原子力研究所を中心に進めることとしているが、39年度は38年度における概念設計の結果に基づき開発すべき炉型とその概要を決定し、原型炉の詳細設計を行なう。(必要経費約1.0億円および国庫債務負担行為額約0.5額円)
ロ、高速増殖炉
将来もっとも有望視されている高速増殖炉の研究推進の一環として、日本原子力研究所において高速臨界実験装置の製作を進め、本格的研究の準備を行なうとともに、ナトリウム取扱技術の開発を推進する。(必要経費、約1.9億円および国庫債務負担行為額約5.8億円)
ハ、プルトニウム燃料
日本原子力研究所および原子燃料公社の共同研究を引き続き推進するとともに、原子燃料公社のプルトニウム研究施設の建設、日本原子力研究所のプルトニウム特別研究室の整備を進める。さらに、日本原子力研究所において新たに照射済プルトニウムを将来取り扱うためα−γケーブの建設準備を行なう。(必要経費、日本原子力研究所関係約0.6億円および国庫債務負担行為額約0.3億円、原子燃料公社関係約5.7億円および国庫債務負担行為額約2.1億円)
(4)使用済燃料の再処理原子燃料公社の使用済燃料再処理施設に関しては38年度に予備設計および詳細設計の一部について技術導入を行なうが、39年度においては、それらをもとに検討を行なった上、さらに詳細設計を進める。
また、日本原子力研究所においては、再処理実験のためのホット・ケーブの整備を引き続き行なう。(必要経費、原子燃料公社関係約1.2億円および国庫債務負担行為額約4.9億円、日本原子力研究所関係約2.6億円および国庫債負担行為額1.0億円)
2.アイソトープセンターの設置
アイソトープ利用の本格化に対処するため、アイソトープに関する中心機関として日本原子力研究所にアイソトープセンターを設置する。本機関においては、アイソトープの生産、領布、養成訓練、廃棄物処理、開発試験、各種サービス等を所掌し、総合的にアイソトープの利用促進に関する事業を行なわしめる。なお、本整備計画は、39年度より3年をもって終了することとする。(必要経費、約4.7億円および国庫債務負担行為額約5.5億円)
3.その他の主な事項
(1)原子炉の運転等
わが国における原子炉および臨海実験装置は、日本原子力研究所をはじめ、大学、民間企業等のものをあわせ、39年度末には原子炉13基および臨界実験装置6基が稼動する見込みである。これら原子炉等の建設運転は、原子力平和利用推進の上に重要な意義を有するものであり、これに要する核燃料を海外から調達するほか、日本原子力研究所の原子炉等の建設、運転を円滑に行なうために必要な措置を講ずる。(必要経費、約6.7億円および国庫債務負担行為額約1.1億円)
(2)民間企業の研究助成等わが国の原子力開発の推進に際し、動力炉の国産化等の実用化研究は、民間企業にその多くを期待する重要な研究であり、原子力企業育成のためにもこれを強力に推進せしめる必要がある。このため海外技術の消化に必要な国内技術の進歩改良、照射試験等に量点をおいて研究補助金を交付する。
また、原子力施設の安全性に関する試験研究等、本来、国の機関で行なうべき試験研究のうち、民間で行なう方がより効果的であると考えられるものについては、これを民間に委託して行なう。(必要経費約5.0億円)
(3)安全対策の強化
イ 原子力施設の安全対策原子炉施設の本格的な運転の開始に伴い、平常時の安全確保および緊急時対策の重要性はますま高くなっているので、38年度に作成した緊急時における対策手引書の関係者への普及、水戸原子力事務所の拡充等必要な施策を行なう。原子力施設の安全性に関する研究および障害防止に関する研究も従来に引き続き、国立試験研究機関、日本原子力研究所等において行なう。(必要経費約3.0億円)
ロ 原子力施設地帯の整備
東海地区については、多数の原子力施設が集中しているのみならず、産業経済的にも近年急速に伸長しているので、この地区の計画的、調和的発展を図るとともに、万々一の事故に備えて十分な対応措置を講じておく必要がある。このためこの地区の地帯整備については、当委員会地帯整備専門部会で検討しているところであるが、その結論を地域の都市計画等に反映させるため、39年度にはこれに必要な調査を関係県に委託して行なう。(必要経費、約0.15億円)
ハ 放射能対策の強化
従来に引き続き、環境、食品、人体等に関する放射能の調査および研究の充実を図るものとするが、39年度は特に、90Srの動向および海洋汚染の調査等に重点をおき、放射能調査等の強化を図る。(必要経費、約1.4億円)
ニ 放射線障害防止業務の地方委譲
アイソトープを使用する事業所の増加に対処し、使用者の便宜と放射線障害防止業務の円滑化を図るため、40年度より許可事務および検査業務の一部を都道府県知事に委譲する方針のもとに、39年度においてはその準備として都道府県職員に対し必要な訓練を行なう。(必要経費、約0.2億円)
(4)国際協力の推進
国際協力をさらに強力に推進するため、わが国の経済協力開発機構(OECD)への加盟に歩調をあわせ、その下部機構である欧州原子力機関(ENEA)との接触を強化する。また、研究開発をより効果的に推進するため、外国との研究協力を拡大強化するとともに、科学者、技術者の交流、資料情報の交換、各種国際会議への積極的参加等を図る。以上のほか、東南アジアの原子力技術協力の一環として原子力留学生の受入れを従来どおり行なうほか、将来の核原料物質探鉱に協力するため、39年度は東南アジアの一国を選び、予備調査を目的として地質関係専門家を派遣する。(必要経費、約0.4億円)
(5)人材の養成
原子力関係科学技術者の養成訓練は、引き続き国内の原子炉研修所、アイソトープ研修所、放射線医学総合研究所養成訓練部等において行なうほか、高度の専門技術を習得せしめるため海外に留学生を派遣する。(必要経費約1.2億円)
(6)原子力開発機関等の充実
イ 日本原子力研究所
既に述べた事業のほか、高崎研究所の整備拡充、大洗地区用地の確保、基礎的研究および研究サービスの実施等すべての業務に必要な39年度の経費の総額は約82.7億円(うち政府出資約78.9億円)および国庫債務負担行為額約70.5億円である。また、研究者および研究補助者の不足に対処するため250名の増員を行なう。
ロ 原子燃料公社
既に述べた事業のほか、核原料物質の探鉱、採鉱、製錬および関連研究開発等に要する39年度経費の総額は約24.8億円(うち政府出資24.0億円)および国庫債務負担行為額約4.9億円である。また各部門の事業の進展に伴い64名の増員を行なう。
ハ 日本原子力船開発事業団
既に述べた原子力第1船の建造に必要な設計、製作費のほか運営管理費をあわせ39年度に必要な経費の総額は約9.3億円(うち政府出資7.0億円)および国庫債務負担行為額約34.5億円である。
また、業務の進展に伴い職員10名の増員を行なう。
ニ 放射線医学総合研究所
施設の整備拡充、研究業務の充実等に必要な39年度の経費の総額は約7.6億円および国庫債務負担行為額0.3億円である。また、研究所の充実に伴い58名の増員を行なう。
ホ 国立試験研究機関および理化学研究所
国立試験研究機関の原子力研究部門については放射線の利用、原子炉材料、原子力船等の諸研究、核原料物質の探査等に必要な経費として総額約8.4億円及び国庫債務負担行為額約2.0億円をまた理化学研究所の原子力研究部門についてはサイクロトロンの建設等に必要な経費として4.8億円及び国庫債務負担行為額約2.3億円を見積った。
(7)行政機構の整備
原子力局は発足以来8年を経、その業務は当初の研究の促進を図る段階から、いまや原子力の開発の推進を重視すべき段階に進みつつあり、現状の組織をもってしては円滑な行政を行なうことが困難となってきているほか、原子炉の設置、使用済燃料の再処理等に関する規制業務が最近著しく増大している。これらに対処するため、原子力局に「開発課」を新設するほか、水戸原子力事務所の充実等規制関係機構の整備を図る必要があり、職員14名の増員を行なう。